賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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覚醒しました

 寒い……痛い……苦しい……

 

 それが気が付いた時に最初に感じた感想だ。

 

 意識が覚醒する前の記憶を辿るが、どうもハッキリしない。

 某県の山奥で街に迷惑を掛けていた熊をしばき倒して山を降りて……

 

 ちょっと待て、街に着いた記憶が無い。

 

 呑んだ記憶もない。というか熊討伐のために着の身着のままで山に入ったのだから酒なんて持ってるわけが無い。

 なのにこの状況ということは事故にでも遭ったのか?

 

 猪にでも轢かれたか? 崖から滑り落ちたのか? それとも美味そうなキノコだと思って食べたらそれが毒キノコだったとか?

 

 色々と考えてみたが、今の状況がしんどすぎて上手く思考が纏まらない。

 

 とりあえず現状確認をしようと体を動かそうとするが、上手く動かない。

 目を開けようとするが、何故かそれも上手くいかない。

 喉をやられているのか、声も出せない。

 

 ふむ、これはかなり不味そうだ。

 

 そうなればまずは体を癒そうと体内へと意識を向け、肚の底から『気』を引き出す。

 

 それから引き出した気を全身に巡らせて傷付いている箇所を癒そうとするが、なんだかおかしい。

 

 なんか俺の体ちっちゃくない?

 

 一瞬何らかの要因で両手両足を失ってしまったのかとヒヤッとするが、俺の気は問題なく全身を巡っている。

 

 外傷は無し、内蔵にもダメージは入ってない。なのになんだか体がやけに小さく感じる。

 さらには体の表面を何か不思議な物で覆われているような感じもする。

 

 一体これは何なのだろうかと頭を悩ませていると、すぐ近くで何かが動く音と気配を捉えた。

 

 もしかしたら動けない俺を狙った獣かもしれない――

 

 そう思ったが、体が上手く動かないので隠れることは出来ない。

 

 最早これまでかと覚悟を決めた瞬間、俺の耳が有り得ない音を拾ってきた。

 

「ふぇぇ……」

 

 赤ん坊の鳴き声だ。

 

 俺の記憶が正しければここは山奥のはずであり、人里離れたこんな場所に赤ん坊が居るなんて有り得ない。

 

 もしかして捨て子だろうか……それにしてもこんな山奥に捨てるなんて殺意が高すぎるだろう。

 

 むぅ……

 

 目は開かないし、体も上手く動かせないが

 とにかくこの赤ん坊だけは助けなければならないだろう。

 

 体内を巡らせている気の量を一気に増やし、声のする方へと手を伸ばす。

 

「ふぇ?」

 

 限界まで腕を伸ばすと、なんとか泣いている赤ん坊へと手が届いた。

 触れた場所から赤ん坊へと気を送り、赤ん坊に怪我が無いかと体調に異常が無いかを調べていく。

 

 うむ。健康のようだ。

 

「あう? あー!」

 

 赤ん坊は一度不思議そうな声を上げ、その後何かに気付いたように大きな声を出した。

 

 止めなさい。ここは山奥、俺はともかく赤ん坊には過酷な環境だ。

 大きな声を出してしまえば外敵が寄ってきてしまうかもしれない。

 

「うえ……うわぁぁあああん!!」

 

 声が出せないながらなんとか頑張ってそれを伝えようと努力してみたがその甲斐虚しく、赤ん坊に伝わることはなく大きな声で元気よく泣き始めてしまった。

 

 ビチャ……

 

 そうして困惑していると、湿った地面の上を歩く足音が聞こえてきた。

 

 今の今まで気が付いていなかったが、どうやら雨が降っているらしい。

 どうりで寒いわけだ。

 

 何にせよ、今度こそ終わりだと思った。

 

 赤ん坊は元気よく泣いており、自分の存在をアピールし続けている。

 その隣に居る俺は未だ目が開かず、体も上手く動かせない。

 

 こんな状態では赤ん坊を守ることも出来やしない。

 俺に出来ることといえば先に食われてやって獣が満足することを願うことくらいだろう。

 

 そう思ったのも束の間、俺の耳に入ってきたのは獣の咆哮ではなく人間の話す声であった。

 

「☆※◇◎□○△▽」

 

 人間の声だとは判断できたが、全く理解出来なかった。

 

 その事によって更なる混乱に陥り掛けるが、突如抱き上げられ温かい布に包まれた。

 

 その事に安心した俺は、そのまま意識を無くしてしまった。 




『綺麗に使って下さい』より『いつも綺麗に使ってくれてありがとう』の方が効果的と何かで読みました。

なのでそれに倣います。

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