賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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お引越しをしました

 じいちゃんとばあちゃんが『元夫婦』であったという空前絶後で驚天動地、超絶怒涛のびっくりマンボウな真実を知ってしまった日の翌日、俺たちはお引越しの準備をしていた。

 

「なぁルカ兄、じいちゃんとばあちゃんが元夫婦だって聞いてどう思った?」

 

 私物を《異空間収納》へぽいぽいと投げ入れていると、やって来たシンがそんなことを言い出した。

 

「どうって……驚きはしたけどさもありなんって感じじゃね?」

 

 だって2人とも気兼ねしない仲なんだもの。

 

「まぁそれは俺も思ったけど……なんで別れちゃったのかな?」

「さぁ? 俺たちに言わないってことは俺たちが知らなくてもいいことなんじゃねーの?」

 

 言えることなら言ってくれるだろうし。

 

「うーん……」

「シンは変なところで考え込むよな……そんな知りたいなら聞いてみるか?」

「いや、やめとくよ。話しづらいこともあるかもだし」

 

 まぁ今の2人の関係性を見てたら『ばあちゃんがじいちゃんの適当さに耐えられなかった』とかが離婚理由な気もしなくもないけどね。

 俗に言う『性格の不一致』だ。

 

「そっか。で、お前は引越しの準備は出来てるの?」

「……これから」

「早くやりなさいよ」

 

 まったく……頭でっかちはこれだからいけない。考える前にまず手を動かせよ。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 この世界はいいね。《異空間収納》に何も考えず部屋の中の物を放り込めばいいだけなのだからとても楽。

 

 ちなみに王都までの移動は馬車である。

 シンの《ゲート》は一度行ったことのある場所にしか開けないし、俺の《瞬間移動》に至っては『目視出来る範囲内』にしか移動出来ないからね。

 

 俺がシンを掴んで上空へと《瞬間移動》、その後王都方面に向けて何度か《瞬間移動》を繰り返して王都に到着してから改めてシンの《ゲート》でじいちゃんとばあちゃんを迎えに行くという案を出してみたのだが、シンに「怖すぎる。絶対ヤダ」と言われたので大人しく馬車で移動することにした。

 

 昔一回やって落としかけたのがトラウマになってるみたい。

 

 そういえば俺たちが住んでいた家はそのまま残しておくそうだ。

 ばあちゃんが『侵入防止』と『状態保存』の効果のある結界を貼ってくれたので劣化もしないらしい。

 ずっと住んでた家だから愛着も湧いてたから有難い。

 

 でもどうやって魔法を維持しているのだろう?

 ばあちゃんは「ばあちゃんの超絶技巧」と言って教えてくれなかったのだがいつかは知りたい。

 このやり方がわかればこっそりとシンの下着に付与してある『鉄』の効果を発揮させられそうだから。

 

 いつか絶対にシンに『漏れそうなのに鉄のパンツだから脱げない』という絶望を味あわせてやるぜ!

 

「じいちゃん、王都にある家ってどれくらいの大きさなの?」

 

 俺がシンを絶望の底に叩き落とす計画を練っていると、そんなことには一切気付かずのほほんとしていたシンが口を開いた。

 

「そうさのぅ……国から下賜されたモンじゃから大きくての……何部屋あったか覚えておらん」

 

 え? そんなでっかいの? 豪邸じゃん。

 

「はぁ、まったくこの爺さんは……部屋数は20、小さな夜会が開けるホールにでっかい応接室。大きな暖炉と10人は座れるソファのあるリビング。20人くらいで食事が出来るダイニングにあとお風呂もあるよ。あと、台所じゃなく厨房がある」

 

 え……前世の俺が住んでいたうちの実家よりでっかいじゃん。

 うちは弟子が住み込めるようにかなり大きな屋敷だったけど、部屋数は20も無かったと思う。

 

「ばあちゃん詳しいんだね」

「そりゃの爺さんとは一時期夫婦だったからね。その家もまだ一緒だった頃に貰ったものだからアタシも住んでたのさ」

「そっかぁ、ねぇばあちゃん」

「ん? 何さね?」

「ばあちゃんも一緒に住まない?」

「ブッフォン!」

「な、なな……シン! あんた何言ってんだい!」

 

 俺が前世の実家の部屋数を数えているうちに話は進んでいたようで、シンがばあちゃんも一緒に暮らそうと提案していた。

 

 それよりじいちゃん変な咳してたけど大丈夫?

 お茶が気管に入っちゃったの? 誤嚥は危ないよ、気をつけて!

 

「だってさ、そんなに詳しく間取りを覚えてるってことは一緒に住んでた時に家の事を取り仕切っていたのはばあちゃんなんじゃないの? そんな屋敷に詳しいばあちゃんが居てくれたら助かるんだけどなぁ」

 

 ふむ、王都に引っ越してばあちゃんも一緒に住もうって話か。

 よしわかった。援護は任せろ!

 

「そうだね。俺もばあちゃんが一緒に住んでくれたら安心出来るよ。ばあちゃんももう歳なんだし、孤独死なんてされたら――」

「お黙りッ!!」

 

 ばあちゃんは立ち上がって《異空間収納》からいつものハリセン取り出し、鋭いスイングで俺の顔面を撃ち抜いた。

 

 ホームラン!!

 

「あばばばば……」

「仕方ない子だね! 仕方ないからアタシが一緒に住んで常識を叩き込んであげるよ!」

「やったぁ! ありがとうばあちゃん!」

「フン、この爺さんだけじゃ心配しか無いから仕方なくだよ!」

 

 シン……めっちゃ喜んでるとこ悪いけど、そろそろ俺の心配してくんない?

 ほら見てよ。めっちゃ鼻血出ちゃってるから。

 

「ルカ」

「はい……」

「あんたは罰として王都に着くまでの間床に正座してな」

「……はい」

「いいかい? 二度とデリケートな話題を口にするんじゃないよ?」

「ワカリマシタ」

 

 それから数時間、俺は王都に着くまでの間揺れる馬車の中で正座させられ続けた。

 

 俺はばあちゃんの体調を心配しただけなのに……

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 それからしばらく、王都の門から続く長い列に並び、ようやく俺たちの番が回ってくる直前になってようやく俺は正座の刑を解かれ椅子に座ることを許された。

 

「身分証はありますか?」

 

 俺が着席してすぐ、入国(入都?)を管理している兵士さんが尋ねてくる。

 

 身分証……免許証も保険証も持ってないよ?

 

「ほっほ、これでいいかの」

「ハイよ」

 

 困惑する俺とシンをよそにじいちゃんとばあちゃんは免許証のようなものを取り出して兵士さんに見せていた。

 

 俺たちはいいの?

 

「ッ!?!?」

 

 じいちゃんとばあちゃんの身分証を確認した兵士さんが目を見開いて固まった。

 俺たちはどうすればいい?

 

「ど……『導師』メリダ殿と『賢者』マーリン殿でありますか!?」

 

 硬直から回復した兵士さんがいきなり叫んだ。

 

「じいちゃんが『賢者』で……」

「ばあちゃんが『導師』……?」

 

 シンと顔を見合せてから2人へ同時に視線を移す。

 

「「若気の至りじゃ(さね)」」

「「ハモってるハモってる」」

 

 あ、俺らもハモっちゃった。

 

 てか『賢者』と『導師』か、かっこいいな。

 俺も何か二つ名欲しい。

 

 そうして祖父母の二つ名を羨ましがっていると、周囲の空気が変わりなんだかザワついてきた。

 

「賢者様だって!?」「ホントかよ!」「導師様もいらっしゃるらしいわ!」「賢者様! 導師様!」

 

 周囲の人たちの視線が俺たちの乗る馬車へと集中する。

 中にはお近付きになろうとジリジリと近寄ってくる人の姿も見える。

 

「……スマンがこれ以上は騒ぎになってしまいそうじゃ。早いとこ済ませてもらっても構わんかのぅ」

「はっ! も、申し訳ございません! ところで……そちらの坊ちゃん方は?」

 

 坊ちゃん!?

 

「ほっほ。こちらの少し生意気そうな子がルカ、のほほんとしておるのがシン。ワシらの孫じゃ」

「お孫さんでしたか……ってお孫さん!?」

「もう通っても良いかのぅ?」

「し、失礼致しました! どうぞお通りください!」

「ああ、ありがとう。お勤めご苦労さんじゃの」

「勿体なきお言葉……ありがとうございます!」

 

 じいちゃんに労いの言葉をかけられた兵士さんは感動して泣きそうになっている。

 

 俺も何か言おうかと口を開こうとしたところ、正面に座っているばあちゃんにすごい目で睨まれたので慌てて開きかけた口を閉ざした。

 

 俺、怖くてばあちゃんには逆らえないよ……

 

 その後無事門を抜け、人々の注目を集めながら王都にある屋敷へと向かう。

 しかしさすが王都、めちゃくちゃ人が多い。ちょっと酔いそう。

 

「ルカ兄大丈夫? 顔色悪いよ」

「ちょっと気配が多すぎて……人に酔いそう」

 

 何時獣に襲われるかもわからない森の中で生活していたので周囲の気配を読むことが癖になってしまっている。

 そして常時気配察知をしていたからか前世よりはるかに感覚が研ぎ澄まされており、周囲の人々の『羨望』や『嫉妬』の感情まで感じ取ってしまい非常に居心地が悪い。

 

 いつの間にか俺は都会で生活するには不便過ぎる能力を得てしまっていたようだ。

 

「そっかー……それオンオフ出来ないの?」

「完全に癖になってるからなぁ……慣れたら大丈夫だと思うけどそれまでかなりキツそう」

 

 2、3日もすれば慣れると思うけど、それまでこの居心地の悪さを感じ続けないといけないのは大変に辛そうだ。

 

「はぁ、まったくこの子は……ルカ、ちょっと爺さんと席を変わりな」

「なんで?」

「さっさとしな!」

「ほっほ……」

 

 ばあちゃんに言われたので立ち上がり、斜め向かいに座っていたじいちゃんと席を変る。

 有無を言わせて貰えなかったじいちゃんがなんだかちょっと切なそうだが今は気にする余裕が無いのでごめんなさい。シンにでも慰めてもらってよ。

 

「ほら、家に着くまでまだ時間が掛かるから少しでも横になっておきな」

「横になれって言われても……」

 

 ばあちゃんは隣に移動してきた俺の顔を見ながら自分の太ももの当たりを叩いている。膝枕してやると言いたいのだろう。

 

 さすがにこの歳でばあちゃんに膝枕してもらうのはちょっと……

 

「遠慮なんてしなくていいんだよ」

 

 ばあちゃんは俺の耳を掴み、引っ張った。

 

「うわっ……」

 

 ばあちゃんの突然の行動に反応出来なかった俺はそのまま大人しくばあちゃんの膝の上へと倒れ込んでしまった。

 

「何を恥ずかしがってるんだい。いいから少しでも横になって落ち着きな」

「うん……」

 

 ばあちゃんは俺を膝に寝かせると、優しく頭を撫でてくれた。

 

 ばあちゃんが優しい……こんなに優しくされたのは5歳くらいの時以来な気がする。

 それ以降は怒られてばっかりだったような……

 

「あんたやシンがこんな風に育っちまったのは爺さんのせいだけど、アタシにも責任がある。これからビシバシ常識を叩き込んでやるから今はゆっくり休んでおきな」

「わかったよ。ばあちゃんありがとう」

 

 そうして俺はシンとじいちゃんがニヤニヤしながらこちらを見ている視線を感じつつ、ゆっくりと目を閉じた。

 

 ばあちゃんに撫でられているうちに不思議と周囲の気配は気にならなくなっていった。

 

 それから小一時間後、屋敷に到着したタイミングで俺は起こされ、寝起きでいきなり大勢の使用人から挨拶を受けることとなった。




お気に入りが……100を超えました……
なので宣言通り自分で自分の首を絞めたいと思います。

今日は19時10分にもう一回投稿しちゃうよー!
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