王都にある屋敷に着くと、門番と使用人がたくさん居た。
屋敷の大きさや部屋数を聞いた時から「居るだろう」と思っていた俺は驚かなかったのだが、そういう想定を全くしていなかったらしいシンはとても驚きじいちゃんとばあちゃんに呆れられていた。
20部屋もあるような屋敷を俺たちだけで管理出来るわけが無いことくらい少し考えたらわかるだろうに……
ホントシンは賢いわりに色々抜けてるな。
そうしてシンが驚きから立ち直ったのを見計らい、玄関ホールに並んでいた使用人たちから何人かが一歩前へと歩み出てきた。
順番に執事長のスティーブ、女中頭のマリーカ、料理長のコレルと名乗り頭を下げた。
「えっ……料理人まで居るの? 何このVIP待遇……俺は一体何をすればいいの?」
お前は何もしなくていいよ。むしろするな。
使用人たちの仕事を取っちゃいけない。
「シン様は何もなさらなくて結構です。掃除、洗濯、料理と全てわたくしたちにお任せください」
「そう言われても……今まで全部自分たちでしてきたし……」
「やめとけシン。使用人には使用人の仕事と誇りがあるんだよ。主である俺たちがその仕事を奪い、誇りを汚すようなことを言っちゃダメだ」
「ルカ兄……」
シンは少し不服そうだが、使用人が家に居るとはそういうことだ。
俺の前世の実家でも使用人を雇っていて両親からそうやって教えられたような気がする。
「まさに、ルカ様の仰る通りにございます。我らは英雄様のご家族に仕えるために集まった者たち、どうぞそのように」
「だってさ」
「えっと……はい」
シンは微妙に納得のいってないような顔をしているが、最後には頷いた。
◇◆
翌朝、今までの習慣で早起きしてしまったが、狩りをする必要も朝食を作る必要も無い。なので同じく暇をしているシンを引っ張って一緒に朝練をする。
その後使用人たちに用意してもらったお風呂で汗を流し、コレルさんたちが作ってくれた朝食を頂く。
コレルさんは王都でも一番人気と言われるレストランで料理長を務めていたらしく、そんな人の料理をこれから毎食食べられるのはちょっと贅沢過ぎると思う。
朝食を終えるとやることが無い。
とりあえず4人でリビングへと移動してマリーカさんに淹れてもらったお茶を飲みながらまったりしていると、じいちゃんがいい暇つぶしになりそうなことを教えてくれた。
「ふむ、2人とも暇そうじゃの」
「「暇だねぇ……」」
「ほっほ、なら王都を見てくるといいじゃろう」
「「おお!」」
「見て回るならお金が必要じゃの。ほれ、小遣いをやろう」
「「おおお!!」」
じいちゃんは《異空間収納》から手の平に乗るくらいの袋を2つ取り出して俺とシンの前に置いた。
「銀貨と銅貨が2枚ずつ入っておる。まずはそれを使ってお金の使い方を学んで来なさい」
「「じいちゃんありがとう!」」
ところで銀貨と銅貨2枚ずつって日本円換算でいくらくらい?
まぁそれを調べるためにも実際に街に出て買い物をしてみるべきだろう。
「「じゃあ行ってくる!」」
「ちょいとお待ち!」
早速出掛けようとシンと2人で立ち上がった途端、ばあちゃんから制止の声が掛かった。
「何?」
「遊びに行くのはいいさね。でも、2人とも試験勉強は大丈夫なのかい?」
「試験……」
「勉強……?」
「何をポカンとした顔をしてるんだい? 魔法学院に入るためには試験がある。試験勉強をするのは当然だろう?」
「それは……」
思わずシンの方へと顔を向けると、シンも同じように俺の顔を見ていた。
「……その顔は何もしてないって顔だね……遊びに行くのはどれだけ出来てるか確認してからだよ」
「「はい……」」
それから俺とシンはばあちゃんの作った問題を解かされた。
「ふむ……」
「「ゴクリ」」
2時間程かけてテストを終え、じいちゃんとばあちゃんに採点してもらう。
「まずはシン」
「俺から!?」
少し待っていると、採点を終えたようで答案用紙を見ながらばあちゃんがシンに声を掛けた。
「シン、あんたはほぼ満点だ。これなら問題無いだろうね」
ばあちゃんが笑顔でそう言うと、シンは安心したように息を吐いた。
「良かった……でもばあちゃん、これは簡単過ぎない?」
「そんなことないさね。この問題は実際に試験にも出る問題だよ」
「そうなんだ」
「そうだよ。だからシンは自信を持ちな。で、問題はルカなんだけど……」
ばあちゃんはじいちゃんが採点していた俺の答案用紙を受け取り、その点数を見て般若のような形相を浮かべた。
「ルカ」
「はい……」
怖い。超怖いよばあちゃん……
「あんた、これはふざけているのかい?」
「ふざけてません!」
「だったらこの点数はなんだい!?」
ばあちゃんは俺が必死に書き上げた答案用紙をテーブルに叩きつける。
その答案用紙の右上にはでかでかと『28点』と書かれていた。
「ヤバいの?」
「ヤバいなんてもんじゃないよ! これじゃSクラスどころか入学すら不可能なレベルさね!」
「なんと……」
シンと一緒に学院に通うために王都に来たと言うのに、まさか入学すら危ういレベルとは……
「ほっほ、そういえばルカは魔法と武術以外の勉強の時間は逃げておったのぅ」
「笑い事じゃないんだよ! ルカ、あんたはこれからアタシが付きっきりで勉強を教えるから絶対に逃げるんじゃないよ!」
「い……イエッサー!」
「はぁ……ルカ、試験が終わるまで遊びに行けるなんて思わないことだね」
「嘘!?」
「嘘じゃない! そうと決まれば早速勉強を始めるよ!」
「ぎゃぁぁぁあああああ!!」
俺はばあちゃんに耳を掴まれ自室へと連行された。
◇◆
「はぁ……」
夕方、ようやく食事休憩を頂けるということでダイニングへ降りると黄昏ながらため息をついているシンの姿が目に入った。
お前……俺が勉強させられている間に遊びに行ってたのにため息をつくとはどういうことだ!? ため息をつきたいのは俺だよ!
「あ、ルカ兄……」
「おかえりシン。街は楽しかったかぁ?」
俺の背後にはばあちゃんが立っているのでシンの胸ぐらを掴んでやりたい気持ちをグッと堪えて睨みつけるだけにしておく。
「目が怖いよ……まぁ、うん。楽しかったよ?」
「そっかぁ、良かったなぁ……で、楽しかったのになんでため息ついてんの?」
俺がそう聞くと、シンは目を泳がせ始めた。
なに? どしたん? カツアゲでもされた?
「い、いや……別に……」
「カツアゲでもされた? だったら相手の特徴を言いなさい。お兄ちゃんが取り戻してきてあげるから」
「ちげーよ! 出会った女の子たちの連絡先を聞くのを忘れてたんだよ!」
「女の子ってお前……早速ナンパしてきたのか!?」
こいつ……俺が勉強させられている間に青春しやがって! 俺だって青春したい!
「元気だね。食後は勘弁してあげようかと思ってたけどそれだけ元気ならまだ勉強出来そうさね」
「ばあちゃん……勘弁してつかぁさい……」
「今のペースじゃギリギリなんだよ! さっさと食べて勉強するよ!」
「嫌だぁぁぁあああ!!」
そうしてその日は日付が変わる直前までばあちゃんは俺に勉強をさせ続けた。
鬼ババアめ。と思いました。そうしたらバレてハリセンで叩かれました。
そして翌朝、日課の鍛錬をしようと早起きすると既に起きていたばあちゃんが部屋の前に仁王立ちしており、強制的に早朝勉強会が開催された。
年寄りは朝が早い……そう思った瞬間やっぱりバレてハリセンで叩かれました。
◇◆
昼食後、再び街に出掛けようとするシンの足に俺は縋り付いて泣いていた、
「シン! 行かないで! お願い助けて!」
「やだよ! 今まで勉強して来なかったルカはの自業自得だろ!」
「頼むよ! 魔法の天才である可愛い弟に縋るしかない情けないお兄ちゃんを助けておくれよ!」
「気持ち悪っ!」
「よーし表出ろ。《瞬間移動》を使った楽しい楽しい空中散歩に連れて行ってやる」
「そんなこと言ってたら頼みなんて聞いてやんないよ?」
「ごめんなさい」
シンがジト目でこちらを見てきたので素直に謝る。
この状態でさらに弄ると話も聞いてくれなくなってしまうので仕方ない。
「ルカ兄が素直に謝るなんて珍しい……それで、頼みってなんだよ」
「カンニング魔法ってありませんかね?」
「お疲れ様でした。行ってきます」
「待って! シンきゅん待ってぇぇええ!」
俺の叫びも虚しく、シンは俺の縋る手を振り払って出かけていってしまった。
くそぅ、薄情な弟め!
「ルぅぅううカぁぁああ?」
「ヒエッ……」
閉じられた玄関を睨みつけていると、地獄の底から響いてくるような声が聞こえてきた。ばあちゃんだ。
「あんた、今シンと何を話してたんだい?」
「何って……お土産よろしくって……」
怖い……怖すぎる。なんとか誤魔化さないと俺の命が危険で危ない。
「ふーん……」
「ゴクリ……」
「アタシには『カンニング』って聞こえたんだけどねぇ……」
やっべ、バレてら。
「へ……へへ……」
「なぁに笑ってんだい?」
「べ、別に……」
笑って誤魔化そうとしてみるが、うちのばあちゃんはそんなことで誤魔化されてくれるような甘いばあちゃんではない。
「さ、勉強するよ! そんな甘ったれたこと言えなくなるくらいシゴいてやるさね!」
「ほぎゃぁぁぁあああ!!」
「ほっほ、賑やかじゃの」
じいちゃん! のほほんとしてないで助けてよ! 孫のピンチだよ!
それから俺は入学試験当日までみっちりばあちゃんから指導を受けた。
俺……この試験が終わったら運命の人と出会って恋愛するんだ!
高評価や感想、お気に入り、ここ好きなどなど沢山いただけましたらまた愛飢夫は自分の首を絞めると思います。
皆さんの力で愛飢夫の首をもっと締めましょう。
書き溜め……書き溜めが……消えてイクゥ