賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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試験を受けました

 シンとは会場となる教室が別だったので廊下で別れて自分の試験会場へと入り、黒板に書かれている席に座った。

 

 そのまま《異空間収納》に入れてあるばあちゃんから貰った参考書をパラパラ捲っていると、先程シンの名前を口にしていた女子たちが会場に入ってきたのが気配でわかった。

 

 知り合いの気配はマーキングしてるからね。そちらを見ていなくてもわかるのだ。

 

 ばあちゃんだけは何故か察知出来ないんだけどね……

 

「「あっ」」

 

 2人が席に座って参考書を読む知的な俺を見て声を出したので、視線を上げてそちらを見る。

 

「シン!」

「待ってマリア! あの人シンくんじゃないよ!」

 

 ふむ、赤っぽい茶髪の美少女はマリアというのか。

 しかしマリアちゃん、シンの恋人ならちゃんと俺とシンを見分けられるようにならないとダメだよ?

 その点紺色の髪の娘の方が見込みがありそう。

 

「そうなの?」

「うん。シンくんはあの人より髪が長くて、目が大きいよ。あの人の目は少し鋭いけどシンくんの目はもっと優しそうな感じがするの」

「え……シシリーが言うならそうなんだろうけど……」

 

 マリアちゃんはドン引きしてるけど、シシリーちゃん大正解!

 

 俺とシンを並べると髪と瞳の色は同じで顔の作りも似通ってるけど、シンの方が少し髪が長くて目が大きい。

 並べて見比べるのではなく俺単体を見て『シンではない』と見分けられたシシリーちゃんには10ポイントあげちゃおう!

 

 そうして俺がうんうんと頷いていると、2人は俺の席へと近付いてきた。

 

「あの……貴方はシンではないのよね?」

 

 聞いてきたのは赤っぽい茶髪の美少女改めマリアちゃん。

 やはり彼氏のそっくりさんのことは気になるのだろう。

 

「そうだよ。キミたちはシンの友達かな? 俺はシンの双子の兄のルカだよ。よろしくね」

 

 一応弟の恋人相手なので出来る限り友好的に挨拶をする。

 具体的に言えば『目が怖い』とたまに言われるので怖くないよう気を付ける感じ。

 

「そうなんだ……コホン、自己紹介もせずにごめんなさい。私はマリア。こっちはシシリーよ」

「えっと……シシリーです。よろしくお願いします」

「マリアさんとシシリーさんね」

「呼び捨てでいいわよ。その代わり私たちもルカって呼び捨てにしてもいいかしら?」

「もちろん」

 

 それから試験が始まるまでの間3人でおしゃべりに興じた。

 勉強している諸君、すまないね。俺だって青春したいんだ。

 

「それで私たちがゴロツキたちに絡まれてる時にシンが助けに入ってくれたの」

「そうなんだ。あいつもやるねぇ」

「その時体術でゴロツキたちをあっという間に倒しちゃったんだけど……ルカもシンみたいに体術も使えるの?」

「使えるよ。というか体術なら俺はシンに負けたこと無いよ」

 

 魔法と武器無しで俺とシンが戦えば9割9部9厘9毛の確率で俺が勝つからね。

 その代わり魔法だけで勝負したら絶対に俺が負ける。

 

「すごい……」

「席に着けー」

 

 シンと2人が出会った話を聞いていると、試験官の先生が教室に入ってきたので2人は席に帰っていった。

 

 話していた感じシンのことをより聞きたがっていたのはシシリーの方。俺とシンの見分けも出来ていたし、もしかしたらシンの彼女はシシリーなのだろうか?

 

 わからない。もしかして……両方?

 

 だとすれば俺はシンを殴らなければならない。

 そんな不誠実なことお兄ちゃんは許しません!

 

 そんなことを考えている間に問題用紙と解答用紙が配られ、試験が開始された。

 

 俺は頑張った。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 筆記試験が終わったのであとは実技試験。

 実技は教室ではなく練習場で行われるそうなので受験番号ごとに割り振られた練習場へと移動する。

 

 移動中、マリアとシシリーが話しかけてきたのでどちらがシンの恋人なのか軽く探りを入れてみたのだが、どちらもハッキリしたことは答えてくれなかった。

 

 これは……両方もしくはマリアとシシリーでシンを取り合っている構図なのだろうか?

 やはり帰ったらシンとはゆっくりお話しなければならないようだ。

 

 ハッキリしないまま練習場へと到着したので2人と別れて自分の番号の場所へと移動する。

 どうやら5人1組で試験を行うようで、5人ずつ呼ばれて室内練習場へと入っていく。

 

 そうして待っていると、俺の周りに同じ受験者たちが集まってきた。なんだかすごいマッチョもいる。

 

 マッチョは一度俺の顔を見て、胸を見て、腕を見て、足を見て……そして再び顔を見る。

 俺もお返しとばかりにマッチョの体を見てから視線を合わせた。

 

「……」

「……」

 

 俺たちは無言で頷き合った。

 こいつとはいいトレーニング友達になれそうだ。

 

「お待たせしました。311番から315番までの方、中にお入りください」

 

 おっと、呼ばれたようだ。

 俺が練習場の方へと向き直り歩き始めると、マッチョも同じように移動し始めた。

 

 ふむ、同じ班か……このマッチョがどのような魔法を使うのかとても楽しみだ。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 実技試験は受験番号順に的に向かって魔法を放ち、その威力や精度を見て点数を付けるらしい。

 

 まずは俺たちの班で一番最初……受験番号311の男子生徒が受験票と市民証を試験官に見せている。

 

「それでは自分の一番得意な魔法を力の限り放ちなさい!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 おお、初めてのシン以外の同年代の魔法だ。どんな魔法を使うのかな?

 

「全てを凍てつかせる氷よ! 巨なる槍となりて我が敵を穿ち貫け!」

 

 ほぁ?

 

「アイスランス!!」

 

 311番の男子生徒が力強く詠唱し、魔法名を唱えると男子生徒の目の前に長さ30cmほどの氷の槍が出現し、的に向かって飛んでいく。

 

 カツン。

 

 氷の槍は悲しげな音を立て、的に突き刺さることも無く練習場の床に転がった。

 

 え? ナニソレ? 終わりなの?

 

 確か『巨なる槍』って言ってたけど、どうみてもただのツララだったよね?

 それに『穿ち貫け』ってめちゃくちゃ強そうなのに全く刺さらず床に転がったよ?

 

 なのになんでドヤ顔しているの!?

 

「「おお!」」

 

 そして周りはなんで関心しちゃってるの!?

 

「次!」

「はい!」

 

 俺が混乱している間にも試験は進み、2番目の男子生徒が一歩前へと踏み出した。

 

「我、終焉の魔法使い也! 我が命に従い大地よ、我が敵を喰らい尽くせ!」

 

 また大袈裟な……でも『終焉の魔法使い』ってなんかかっこいいな……覚えておこう。

 

「アースバイト!!」

 

 男子生徒が魔法を唱えると、的の前後の床がうにょうにょ動き、数本の土槍となって的に襲いかかった。

 

 ……うん。

 

 さっきの《アイスランス》よりは強いんじゃないかな?

 だって……先っぽが的に食い込んでるもの。

 

「……次!」

「はい!」

 

 3番目はこの班唯一の女子生徒だった。

 さてこの娘はどんな詠唱をしてどんな魔法を見せてくれるのかな?

 

「大いなる風の精霊シルフに願い奉る。我が魔力を糧にその御力の一端を顕現させよ!」

 

 ふむふむ……『顕現』ってかっこいいよね!

 

「ヴァイオレントストーム!」

 

 暴力的な嵐!

 

「きゃああああ!!」

 

 女子生徒から発生した風は術者である女子生徒のスカートを捲りあげながら的へと向かい、的を小さく揺らした。

 

 俺は即座に目を逸らした。逸らしたけど俺の超人的な動体視力はピンク色の布を見逃すことは無かった。

 

「……次」

 

 試験官は気まずそうに目を逸らしながら次の受験者を指名する。

 

「よろしくお頼み申す」

 

 ふむ、マッチョか……このマッチョはどんな魔法を見せてくれるのだろうか。

 現在シンの魔法と俺の武術を教えて最強の魔法戦士育成計画の被験者筆頭候補なので素晴らしい魔法を魅せて欲しい。

 

「行くでござる!」

 

 マッチョは上着を脱ぎ捨て、上半身裸になった。

 

 うむ、中々いい筋肉だ。

 

「滾れ筋肉! 燃えろ魂! 我が肉体を躍動させる力となれ! 《身! 体! 強! 化!》うぉぉぉおおお!! 参る!!」

 

 マッチョはさらに筋肉をビルドアップさせ、その場で踏み切って跳躍した。

 

 ただでさえ目を引くレベルだった筋肉が《身体強化》を使ったことでさらに肥大化。

 まさに彫刻のようだった筋肉をさらに超克させた肉体美が躍動し、練習場の奥に設置された的を巨大で強大な拳が粉砕した。

 

 

 Excellent!(素晴らしい!)

 

 決めた……俺、こいつ弟子にする!

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

「さて、次は……」

 

 俺の受験票と市民証を見て、試験官の先生は一瞬目を見開いた。

 

「キミが……ふむ。それでは自分の一番得意な魔法を力の限り……と言いたいところだが、キミの場合は注意しておこう」

「はぁ……」

 

 注意?

 

「キミはあの的を破壊する程度の威力の魔法でいい。くれぐれもこの練習場を破壊しないように」

「出来ねーよ」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、これは仕方ないと思うんだ。

 

 シンならそんな魔法も使えるけど、俺にはこの練習場を破壊し尽くす魔法なんて使えない。

 いや……竜裂に全力で魔力を纏わせた『風翔閃(極)』ならワンチャンぶった斬れる可能性も……

 でも『風翔閃』は気と魔力両方使うから完全に魔法ってわけでもないんだよなぁ……

 

「どうしました?」

「いや……使う魔法を考えてました」

 

 そもそも前のマッチョのインパクトが強すぎて俺がどんな魔法を使っても印象に残らない気しかしないんだよな。

 

 ふーむ、元々はシンから教わった《蒼い火球》で的を爆散させるつもりだったけど、それじゃインパクト的に弱いな。

 試験官の先生があっと驚くような魔法……なんか俺使えたっけ?

 

「ではどうぞ」

「……はい」

 

 もう何も思い付かなかったのでじいちゃんたちを一番驚かせた魔法を使うことにした。

 

「いっきまーす! 《瞬間移動》」

 

 俺はその場で《瞬間移動》を使って的の真横まで移動、そして的を持って元の場所へと《瞬間移動》で戻ってきた。

 

「「「「「えっ?」」」」」

「からのー!」

 

幸い的は金属製だったので《錬金魔法》が通る。

俺は大量の魔力を集めて的へと流し込み形を変えていく。

イメージは先程魔法を披露してくれたマッチョ。彼がいい笑顔でサイドチェストを決めている姿。

もちろん服装はブーメランバンツである。

 

「出来た!」

 

うむ、いい出来だ!

 

「攻撃魔法とは違いますけど……こんなもんでどうでしょう?」

「……今のは?」

「《瞬間移動》で移動して的を回収、それから《錬金魔法》で形を変えてみました」

 

ついさっき実物を見たからね。今にも動き出しそうな素晴らしい像に仕上がったよ。

 

「《瞬間移動》に《錬金魔法》……」

「はい。えっと……ダメでした?」

「い、いえ! 決してダメなわけではなくて……えっと……その像はお預かりしても?」

 

貰えるならお近付きの印にあのマッチョにプレゼントしようと思ってたんだけど、貰えないなら仕方ない。

まぁ学院の備品なんだしそりゃ貰えないよね。

 

「もちろんです。どうぞ」

「……お預かりします。ではこれで試験は終了となります。お疲れ様でした」

「は、はい。お疲れ様でした」

 

 こうして俺は無事試験を乗り越え帰宅した。

 実技試験で《瞬間移動》と《錬金魔法》を使ったことはばあちゃんには内緒にしておこう……

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 全ての試験が終わった後、今回試験官を務めた教師たちが集まっていた。

「それで……『賢者の孫』たちはどうだった?」

「弟の方は凄いなんてものではありませんでした。相当抑えて、本人は軽く撃ったつもりの魔法で練習場が壊れるかと思いました」

「そ、そんなに!?」

「ええ。しかも無詠唱で、撃ち出すまでも一瞬でしたね」

「なぁ、それワシら教えることあるのか? むしろワシが教わりたいんじゃが……」

「それは私も同じです。元々人間付き合いを覚える為に入学させると陛下も仰ってましたし、授業の時は皆のお手本となって貰って、後は研究室でも作ってそこに人を集めて人付き合いを教えれば良いんじゃないでしょうか?」

「おお! そりゃ良いな。研究室ならワシらが出入りしてても不自然じゃないしな」

「そうですね。その方向で行きましょうか」

 

 シンについての話は一端ここで終わりのようで、別の試験官が口を開いた。

 

「兄の方ですが……転移魔法を使っていました」

「「「……えっ?」」」

「開始と同時に的の側まで転移して、的を回収して開始位置まで再度転移で戻ってきましたね……」

「何を……言っておるんじゃ?」

「……何を言っているかわからないと思いますが私も何が起こったのかわかりませんでした。頭がおかしくなったのかとも……しかし、現実なのです。現実として賢者の孫、ルカ=ウォルフォードは転移魔法を行使しました」

「そんな……」

「まさか……」

「さらにその的に魔力を流して……こうなりました」

 

ルカの試験を担当した試験官は《異空間収納》を開いて中から筋骨隆々の男が何やら不思議なポーズをしている像を取り出し、テーブルに乗せた。

 

「なんだこれは……」

「金属を操ったのか!?」

「ふむ、この上腕二頭筋を強調するポーズ……素晴らしい」

 

 試験官たちは絶句している。

 まさか夢物語にしか登場しないと思っていた『転移魔法』の存在を知ってしまったのだからそれも仕方の無いことだろう。

 

「それで……入試順位はどうなったんですか?」

「筆記も見ました。まだ採点中ですが、弟の方はほぼ満点だった様ですね。兄の方は少々……」

「となるとこれは……」

「ええ、今年の『入試首席』は筆記、実技ともに優秀な弟、兄は……実技は文句無しの満点ですが筆記が……ですので特例としてSクラスが妥当かと。今年度のSクラスは11人というのは如何でしょう?」

「ちなみに実技を満点として筆記を合わせるとどのクラスに該当するのですか?」

「……Cクラスですね」

「ふむ、さすがにそれは……」

「では決を取ろう。今年度首席は弟の『シン=ウォルフォード』。兄の『ルカ=ウォルフォード』は特例として11人目のSクラスとする。異議のある者は?」

「「「「異議なし!」」」」

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