オーグが家に来た。ディスおじさんと一緒に。
じいちゃんとばあちゃんに初めて会ったオーグは感激して涙目になっていた。
実感は湧かないけど、やっぱりじいちゃんは凄いらしい。
家ではばあちゃんに押されて存在感消えてるけどね。
オーグの妹もうちに来たいと騒いだらしいが今日は遊びに来たわけではないので置いてきたらしい。
その絶望した顔が面白かったと言っていた。なので「妹は大事にしなさい」と言っておいた。
シンを大事にしている俺を見習いたまえよ。
ちなみに妹ちゃんは10歳で、ばあちゃんに憧れているらしい。
10歳か……俺たちが初めて魔物狩りをした歳だね。王女様はやんないだろうけど。
さて、オーグとディスおじさんが遊びに来たのではないなら何をしに来たかといえば――
「そろそろ行くか」
試験から数日経った今日、アールスハイド高等魔法学院の結果発表の日だからだ。
オーグから一緒に行こうと誘われていたので今日家に来ているのだ。
ちなみにメッセンジャーはディスおじさんだった。国王……
ディスおじさんも来ているが、結果を見に行くのは俺たち子供組の3人だけ。
じいちゃんやばあちゃん、ディスおじさんも一緒に行っちゃうと間違いなく騒ぎが起こるからね。
ディスおじさんホント何しに来たの? 暇なの?
「んじゃいってくるー」
「行ってきます」
「行って参ります」
上から俺、シン、オーグである。
「はいよ。人様に迷惑掛けるんじゃないよ!」
「ほっほ、行っておいで」
「結果を楽しみにしているよ」
じいちゃんたちに見送られ、俺たちは屋敷を出て魔法学院へと向かった。徒歩で。
俺はオーグが居るので王族が乗る馬車に乗れると思いワクワクしていたのだが、当のオーグが「街歩きをしてみたい」と言い出したので泣く泣く馬車を諦めた。
その事を伝えたら今度乗せてくれると約束してくれたのでとても楽しみだ。
ディスおじさん、俺との約束を破ったらどうなるかわかってるよね?
楽しい楽しい空中散歩にご招待しちゃうよ?
そうして屋敷を出て通りを歩く。今日はオーグの護衛はいない。なんでも俺たちが居れば護衛なんて必要無いだろうと言われてしまった。
その信頼に応えるために俺は他国が連合を組んで襲ってきてもオーグだけは守り抜く覚悟だ。
その際周囲が巻き添えになったとしてもそれは俺のせいでは無いものとする。巻き添えになるような攻撃するのは俺じゃなくてシンだし。
「そういえばシンは大丈夫だろうと父上が言っていたが、ルカの方はどうだったのだ?」
フラフラと屋台に寄っていき、現金を持っていないのに串焼きを買おうとしてシンに支払わせていたオーグが買ったばかりの串焼きを頬張りながら聞いてきた。
後ろからは両手に1本ずつ串焼きを持ったシンも歩いてきている。多分1本は俺のだろ。
「どうって何が?」
「何って……試験についてだ」
「なるほど。筆記試験は全部埋めたよ!」
「いや……目的は埋めることではなく正解することなのだが……自信はあるのか?」
「甘めに見積もって6割は取れたんじゃないかな……」
「厳しめに見積もると?」
「5割弱」
いやね、たった一週間頑張っただけでそんな取れるかっていうね。
最悪《魔力隠蔽》と隠密術を使い気で視力と聴力を強化してシンが答案用紙に答えを書き込む姿を見てトレースしようと思ってたんだけど、まさかの会場が別っていうね。
同じ会場の誰かの動きをトレースしようかとも思ったけど、誰が賢くて誰がバカなのかわからなかったからやらなかったのだ。
今考えたら多分あの会場に俺よりバカは居なかったから誰でもいいからトレースすべきだったかもしれない。
「ルカ……お前大丈夫なのか?」
「多分今日がルカ兄の命日だね。骨は拾ってやるよ」
「ぐぬぬ……ばあちゃんに殺される……」
鬼の形相でハリセンを素振りしているばあちゃんの姿が想像出来た。
あまりにもリアルだからやめて欲しい。
「まぁ……おそらくだが大丈夫だろう」
「なんで? なんでオーグはそう思うの? 責任取れるの?」
「必死だな……いや、私はルカが実技試験でどのような魔法を使ったのか知っているからな。おそらく大丈夫だろうとは思うのだが……私の予想より筆記が悪そうなので責任は取れない」
「うぐぅ……」
これは死んだかもしれん……いや、最悪落ちていてもオーグを盾にすればばあちゃんからの折檻を免れることが出来るかもしれない。最後まで希望は捨てないでおこう。
「実技試験でルカ兄は何の魔法を使ったんだ? 俺が教えた炎の魔法じゃないの?」
「シンは聞いていないのか?」
「聞いてないよ。なんか聞いてもはぐらかすから」
だってシンに言ったらばあちゃんにも伝わるじゃん。
俺が実技試験で《瞬間移動》を使ったことがバレたらどうなるか……って今オーグは知ってるって言ったよな? ってことはどの道手遅れでは?
「そうか。ルカ、私の口から言った方がいいか?」
「俺の口から懺悔します……俺は、俺は実技試験で《瞬間移動》を使いました……」
俺が告白すると、それを聞いたシンは呆れたように苦笑いを浮かべた。
「ルカ兄……」
「はい……」
「帰ったらばあちゃんに伝えるから。受かってても落ちててもルカ兄死んだね」
「ですよねー……」
「どんまい」
別に《瞬間移動》を秘匿しろとは言われてないけどさすがに大っぴらにするのはよろしくないくらいのことは俺でもわかる。
ああ、俺はなぜ実技試験で《瞬間移動》を使ってしまったのだろう。
「あのマッチョのせいだ……」
「ふむ? どういうことだ?」
「俺の前に試験を受けたマッチョがとんでもないパフォーマンスを見せてさ……シンに教わった《蒼い火球》じゃインパクトに欠けると思って」
俺程度の魔法攻撃力でもあの的を破壊することは十分に出来たと思う。
でも単に破壊するだけじゃあのマッチョのパフォーマンスの陰に隠れて採点が厳しくなると思ったんだ。
正直筆記がやべぇことには気付いてたからなんとか実技で挽回しようとしたらこうなった。
そのことを懇切丁寧に説明すると、シンとオーグはやれやれとでも言いたげな様子で顔を見合せ肩を竦めた。
「それで……ルカはそのマッチョとやらに興味があるのか?」
「あるよ。あの筋肉は素晴らしかった。あれだけの筋肉を育てられるのなら精神性は保証されたも同然だし、《身体強化》を見る限り俺と一緒に実技試験を受けた奴らと比べて魔力制御も上手い。あれなら期待出来る。弟子にしたい」
「弟子か……それは本人の意思に任せるがその男の名前はユリウス=フォン=リッテンハイムと言う。私の学友兼護衛を務める男だ」
「そうなんだ……まぁオーグの護衛ならクラスが違ったとしても接点はあるかな?」
王族の護衛なんだから休日や放課後は無理だとしても学院にいる間は鍛えることが出来るだろう。
その時に自宅で出来るトレーニングを教えておけば卒業までにはなんとかモノになるだろう。
「そうだな」
「てかルカ兄はまず受かってるかを気にした方がいいと思う」
「そうだった……!」
そうして話しているうちに学院へと到着した俺たちは合格者の受験番号が張り出されている掲示板の前に立った。
合格してますように!
「えっと……あ、あった!」
「シンもあったか。私も合格していたぞ」
シンとオーグが会話しているのが聞こえてくるが、気にしていられない。
俺の番号は315番、200番代の後半からひとつずつ数字を確認していく。
298、303、309、314……
頼む……受かっていてくれ!
せめて合格してないとガチでばあちゃんに殺される!
一度目を閉じ、心を落ち着かせる。
そして……
315。
「あった! 俺の挽回! 受かってた!」
「ルカ兄おめでとう!」
「うむ。ルカ、良かったな!」
「シン……オーグ……ありがとう!」
2人がそれぞれ片手を上げたので俺は両手を上げて2人の掌に自分の掌を打ち付けた。
とにかくこれで俺の死亡確率は大いに下がったことだろう。
3人で互いの合格を称え合いながら合格者受付へと移動して並ぶ。
ここで制服と教科書を受け取るらしい。どのクラスになるのかもここで教えてもらえるようだ。
列はスムーズに進み、まずはシンの番となった。
「次の方ー」
呼ばれたシンが受験票と市民証を受付のお姉さんに提示する。
「はい、確認しま……あら? 貴方がシン=ウォルフォードくんね」
「はい。そうですけど……」
「なるほど……キミがあの賢者様のお孫さんね。それでは……はい、これが教科書です。中にリストが入っているので抜けが無いか確認して何かあればすぐに連絡してください。それからこちらが制服です。市民証に記載されているデータを参照したのでサイズはピッタリな筈です。もし一部でも合わなければすぐに連絡してください。最後にこの制服には色々な防御魔法が付与されています。自分で直そうとかは思わないでくださいね」
すごいな、一気に言い切ったぞ。
「えっと……制服を直すのってうちのばあちゃんでもダメですか?」
「貴方のお祖母様というと……あぁ、メリダ様ですか。メリダ様ならば問題ありません」
「わかりました」
そう答えたシンの雰囲気が若干変わった。
これは自分で付与を書き換えて魔改造するつもりなのだろう。
「それと、貴方のクラスは『Sクラス』です。それと本年の首席入学者となりますので新入生代表挨拶をお願いします」
「……なんて?」
お姉さんは入学式の日時や必要な物が書かれたプリントを手渡しながらシンが首席であることを告げた。
「ですのでウォルフォードくんは首席ですので代表挨拶を考えておいてくださいね」
「いや……あの……今年の入学者の中にはオーグ……アウグスト殿下も居るんですよ? 今回はどう考えても挨拶するのは殿下でしょう!?」
シンがしどろもどろになりながらもそう主張しているが、おそらくその主張が通ることは無いだろう。
何故なら――
「何を言っているんだ入試首席くん! この伝統あるアールスハイド高等魔法学院において入試首席が代表挨拶をするのは学院始まって以来の伝統。それを私の我儘で代表挨拶を奪ったとなれば私にとって……いや、王家にとって末代まで消えぬ恥となるだろう!」
オーグが、シンのことをとても良い笑顔で見ていたからだ。
「お、お前ぇ……」
「アウグスト殿下の仰る通りです。この学院には身分の貴賎は無く、完全に実力主義となっています。それは王家の方とて例外ではありません。今上陛下御在籍の折も代表挨拶は陛下ではなかったと伺っております」
どんまいシン。逃げ道は無さそうだよ。
「まぁそういう訳だ。頑張って挨拶を考えてくれたまえ」
オーグは今までで一番の笑顔を浮かべてシンの肩を叩いている。
よし、俺も反対の肩を叩いてやろう!
「次の方ー」
「む、私だな」
シンが横に避けたので次はオーグの順番となった。
先程のシンと同じ説明を受け、オーグは『次席入学』だと伝えられていた。
「ふむ、次席か……」
「すげぇじゃん」
「お前の弟が首席なのだが……兄として思うところは無いのか?」
「無いね。頭と魔法で俺はシンには絶対勝てない」
勉強に関しては俺が逃げ続けてきたのもあるのでまだワンチャンあるのかもしれないが、魔法に関しては絶対だ。
俺には武術があるのでまだ体面は保てているがもし俺に武術の才能が無かったら嫉妬に狂っていた可能性も捨てきれない。
「そうなのか。さて、次はお前だ。お前がどのクラスになったのか見物だな」
オーグも掃けたのでいよいよ俺の番が回ってきた。
「ルカ=ウォルフォードくんですね。貴方のクラスは……」
ゴクリ……
「Sクラスです」
「マジで!?」
Sクラス? 俺が?
もしかして5割弱しか取れてないと思ってた筆記が8割くらい取れてたとか?
「はい。貴方が実技試験で使った魔法があまりにも特殊過ぎて特例でSクラスになったと聞いています。ですので、本来10人のSクラスが今年は11人となっております」
受付さんの説明によると、本来俺の結果だとCクラスとなっていたらしい。
しかし《瞬間移動》があまりにも衝撃的すぎてCクラスにするのもどうかという話になったそうだ。
特例を使うことで元々Sクラスに入れていた生徒をAクラスに落とす訳にもいかず、今年度の新入生はSクラスが11名となったらしい。その代わりCクラスが29名となるそうだ。
「そういうことですので……クラス落ちをしないよう頑張ってくださいね」
「はい」
よし、合格しただけでも命は助かりそうだったけどSクラスならもう生き延びたも同然じゃないかな?
むしろ《瞬間移動》を使ったからこそSクラスなんだから褒められてしかるべき!
こうして俺は『Sクラス合格』という切り札を得て意気揚々と自宅に帰ったのだった。
昨日は熱中症っぽい症状が出てマジで死にそうでした
皆様熱中症には気を付けて!思ってたよりしんどいよ!