合格発表を終え帰宅した俺は渾身のドヤ顔でじいちゃんたちに「合格したよ!」「Sクラスだよ!」と報告したのだが、ばあちゃんの「アタシの最終テストで平均70点も取れなかったルカがSクラス? 何やらかしたさね?」の一言で俺は陥落。
全ての罪を正座して告白した。
するとばあちゃんは案の定怒髪天を衝く勢いで激怒、シンのが新たに作成した対俺用最新兵器《衝撃5倍》が付与されたハリセンで往復ビンタをされてしまった。
そして俺は尻を突き出す体制でバレないよう気を使ってほっぺの腫れを引かせようとしていた。←イマココ。
「さて、このバカタレは放っておいて……シンはどうだったんさね?」
「あ、ああ……もちろん合格してたよ。首席だって」
「ほっほ、首席とは大したモンじゃのう」
「まぁシンはルカと違って真面目に勉強してたからねぇ」
「ルカもバカではないんじゃがのぅ……」
「じいちゃん、ばあちゃん。一応ルカ兄のフォローをしておくと、実技試験で《瞬間移動》と《錬金魔法》を使わなかったらルカ兄落ちてた可能性もあるからね?」
「それこそ実力不足さね。普段から勉強してないのがいけないんだよ」
ばあちゃんがいつもより辛口だ。
「父上、首席になれず申し訳ありません」
「ああ、うん。シンくんが相手なら仕方あるまい。あれは本当の規格外だからな。それよりもよく合格したな。しかもSクラスだったそうじゃないか。私も鼻が高いぞ」
「ありがとうございます」
少し離れた場所でディスおじさんがオーグを労っているのが聞こえてくる。
誰か……誰か俺を労って……
「ルカ様、僭越ながらルカ様の実力でしたら騎士養成士官学院なら間違いなく首席になれたと思うのですが……」
「そうなの? 俺勉強苦手だよ?」
「問題ありません。騎士学院は腕っ節と人柄が最重要視されますので学力はさほど必要ありませんので」
「そうなんだ……だったら騎士学院受ければよかったかな」
魔法使いの育成はシンに任せて俺は騎士学院で気を扱える戦士を育てたら良かったのかもしれない。
最強の魔法戦士は育てられないけど最強の魔法使いと最強の騎士のタッグと2対1で戦うのも楽しかったかも……
「しかしどのような過程であれ魔法学院のSクラスに合格するのは素晴らしいことです。自信を持ってください」
「アレックスさん……俺、頑張るよ!」
「はい。応援しております」
我らが屋敷の警備主任アレックスさんに労われたことで俺は復活を果たした。
鞭ばっかりじゃダメなんだよ。俺には飴が必要だ。
俺は褒められて伸びる子なんだ!
「そういえばシン、お前合格発表の場で知り合いを探すと言っていたが、どうなったのだ?」
「それが……代表挨拶のこととルカ兄がSクラスってことで頭がいっぱいになって忘れてたんだよ」
む、シンとオーグが面白そうな話を始めた!
ディスおじさんも興味津々だ。
「知り合い……もしかしてシンくん、女か?」
「父上もそう思われますか? 私もそう思います」
ディスおじさんとオーグがニヤニヤしながらシンを見つめる。
見つめられたシンは苦虫を噛み潰したような顔をしてオーグを睨み返している。
「ふむ、シンくん、どんな女の子なんだい?」
「ああ、長くて綺麗な紺色の髪をしてて、顔が小さくて、黒くて大きいちょっと垂れた目をしてて、身長は155cm位かな、スタイルも良くて超少女だったな」
「いや……そこまで聞いてないんだが……」
「チッ、普通に返しやがった。つまらんな」
オーグが面白くなさそうにしているけど、それってシシリーのことだよね。
シンの彼女はマリアじゃなくてシシリーの方だったか……
まぁ正直2人ともとても可愛くて魅力的な女の子だったけど、俺の好みからは外れてるんだよなぁ……
俺の好みはキリッとしてて凛々しくて……それでいて鍛えられて引き締まった体を持つ女性である。ちなみに初恋はクリス姉ちゃん。
13歳の時に告白したら「あと5年してから言ってください」と言われ玉砕した。
その事をクソほど揶揄われたので俺はジークのことを呼び捨てにするようになったのだ。
「ほっほ、王都に来た途端色々と経験しとるようじゃの。結構結構」
「シン、その娘はちゃんとウチに連れてくるんだよ。アタシがしっかり見極めてあげるからね!」
俺たちは社会勉強と人付き合いのために王都に来てるからね。シンが早速色々と経験している話を聞いてじいちゃんはとても嬉しそうだ。
ばあちゃんはいつも通りちゃんと怖い。
そしてその日からシンが「代表挨拶一緒に考えて!」と言ってきたので非常にめんどくさかった。
めんどくさかったのでシシリーのことを話題に出してやると初めは「なんで知ってるの!?」と驚いていたが俺が「可愛いよね」と答えるとすごい顔で睨まれた。
取らないからそんな顔すんなって!
◇◆
そんなこんなで合格発表の日からしばらく経ち、いよいよ入学式の日がやってきた。
試験や合格発表の時は歩いて学院に向かったが、今日は馬車で学院に向かうことになっている。
何故なら今日は俺たちの保護者としてじいちゃんとばあちゃんが入学式に参列するから。
歩いて行ったら大騒ぎになってしまう。
なので王宮から迎えの馬車がやってきた。
これは以前俺が「王族が乗る馬車に乗ってみたい」と言ったことが原因で、どうせ馬車を派遣するなら最上級のものをとディスおじさんが派遣してくれたのだ。
どんな小さな約束も守ってくれるディスおじさんはかっこいい。
「シン、制服よく似合ってるじゃん。かっこいいよ」
「ルカ兄も似合ってるよ」
「そりゃほぼ同じ顔だからなー」
俺とシンは互いの制服姿を褒め合いながら派遣されて来た馬車に乗り込む。
「ほっほ、では行こうかのぅ」
「まったく、こんな派手な馬車で向かうなんて無駄に注目されちまうじゃないか」
俺たちが馬車に乗り込むと、続いてじいちゃんとばあちゃんも乗り込んで来た。
今日のじいちゃんはなんか見た事ないとても豪華なマントを着用している。
これは国から贈られる『勲一等』の勲章と共に贈られたマントらしい。白地に金糸の縁どり、刺繍が施されたとても豪華でかっこいいマントだ。
それを白い軍服のような服の上に纏っているので今日のじいちゃんは過去一でかっこいい。
そしてばあちゃんも同じマントだ。それを薄い水色のドレスの上に纏っている。
普段掛けている銀縁のメガネではなくドレスに合わせた青い縁どりのメガネを掛けている。
とてもオシャレだ。
あと何十年か若ければ……と思った瞬間、ばあちゃんがこちらに鋭い視線を向けて《異空間収納》を開いたので俺は全力で目を逸らした。
ばあちゃんは今でも綺麗だよ! ほら、使用人たちも見惚れてる!
◇◆
そうしてばあちゃんから発せられるプレッシャーに耐えることおよそ5分、学院に到着したので馬車から降りると、降りてきた俺たち……というかじいちゃんとばあちゃんを見て周囲の人たちが騒ぎ始めた。
そして、その孫たちが学院に入学するという噂も広まっていたようで、徐々に俺たちにも好奇の目が寄せられるようになっていく。
どうにも居心地が悪いのでそろそろシンを連れて《瞬間移動》で逃げようかと考えていると、慌てたように学院の職員がやって来て俺たちを救出して式場に案内してくれた。
ふぅ……危うくまた《瞬間移動》を使ってばあちゃんに怒られるところだった。
「まったくどいつもこいつも! アタシは見せもんじゃないよ!」
怒ってた。けど矛先が俺に向いてないからどうでもいいや!
「すまんのぅ、せっかくのシンの晴れ舞台なのにとんだ騒ぎになってしもうて」
「じいちゃんじいちゃん、俺も入学する生徒だから。俺の晴れ舞台でもあるから」
「本当だよ! ルカは別に置いておいて、これでもしシンの気持ちが乱れて代表挨拶を失敗したらどするんだい!」
「置いとかないでよ」
最近俺の扱いが雑じゃない? グレちゃうよ? 盗んだ駿馬で走り出すよ?
そうして保護者2人は会場へ行き、俺とシンは新入生たちが集まる集合場所へと向かった。
「やぁシン。緊張していないかい?」
「ああオーグ。大丈夫だけど」
集合場所に着くと、既に来ていたオーグに声を掛けられた。
あれからちょくちょくディスおじさんと一緒に家に来るようになったからね、かなり気安くなった。
「今日は新入生、在校生、それに国王である父上に国の貴族や重鎮が揃っているけど、何も緊張しなくてもいいんだぞ?」
「いや……」
「新入生首席のシンはきっと素晴らしい挨拶をしてくれるのだろうな。今からとても楽しみだよ」
煽ってる。めっちゃオーグがシンを煽ってる。
オーグは初等部からずっと主席を維持していたのに入試では主席をシンに奪われたので根に持っているのかもしれない。
いいぞ。もっとやれ!
「オーグ! てめぇ!」
「おや? どうしたんだシン、そんなに興奮して」
「そーだそーだ!」
「わざとだろ! 絶対わざとだろ!? てかルカ兄シレッとそっちに行くな!」
「ははは! なんの事だ? ルカ、わかるか?」
「オーグにわかんないことが俺にわかるわけないじゃん」
「「HAHAHA!」」
「おーまーえーらー!!」
「コラ! もうすぐ式が始まるんだぞ! なにを騒いでいる!」
「「「すみません」」」
「まったく……ほら、もう始まるから整列しろ」
初っ端から先生に怒られてしまった。
「うう……オーグとルカ兄のせいで入学早々怒られたじゃねぇか」
「クックック、まぁそう言うな。お陰で緊張が解れただろう?」
「オーグ……」
「それとルカ、並びは成績順だからお前はSクラスの一番後ろだ。早く移動しろ」
「特例入学生だからあえて一番前でいいのでは?」
「……まぁ別に構わないか。だが先頭は代表挨拶をするシンだからお前は私の前に並んでいろ」
「いいんだ……」
移動するのが面倒くさかったので適当に言ってみただけなのだが、まさか許可が出るとは思わなかった。
「まぁ私やお前が近くにいた方がシンも緊張しなくて済むだろう」
「シン、お兄ちゃんが支えてあげるから!」
「いらねぇよ!」
「そこ! いい加減にしろ!」
「クックック……」
俺とシンが再び怒られたのを見てオーグは腹を抱え声を殺して笑っている。
こいつ王子のくせにめっちゃいい性格してるよね。
まぁ今まで同年代の友人がいなかったらしいので気安く接することの出来る俺たちとじゃれ合うのが楽しいのだろう。
「あの……シンくん、お久しぶりです」
そうしてオーグを生暖かい目で見ていると、紺色の髪の美少女が現れ俺とオーグを飛ばしてシンに声を掛けていた。
シシリーだ。
「やぁシシリー、キミも合格したんだね。あとマリアも」
え、何それキモイ。
なんでちょっと爽やかな感じで話しているの?
「私のことをついでみたいに言うな!」
「ごめんごめん。入試の時も合格発表の時も見なかったからさ、どうなったのか気になってたんだ」
俺は筆記試験同じ教室だったから見たよ。話もした。
その事を話した時シンが『ぐぬぬ……』って顔してたのがとても面白かった。
「私は見掛けましたけど、話し掛けられる雰囲気じゃなかったので」
「そうなんだ……それより、ここに並んでるってことは……」
「そ。私たちも『Sクラス』よ。よろしく主席さん」
「はい。同じクラスです」
マリアは普通だが、シシリーはとても嬉しそうにシンと話をしている。
「シン、お前の言っていた女性とはこの方か?」
「ちょ……オーグ!」
オーグがニヤニヤしながらシンに声を掛けると、マリアとシシリーは姿勢を正し、スカートの裾を摘んで片足を引き、軽く膝を曲げて礼をする。
「御無沙汰しておりますアウグスト殿下。メッシーナ伯爵家が次女マリアでございます」
「クロード子爵家が三女シシリーでございます」
ん? 伯爵に子爵? 2人って貴族だったの?
「ああ。楽にしてくれ」
オーグがそう声を掛けると、2人は揃って頭を上げた。
「え? シシリーはともかく、マリアも貴族だったの……?」
「ちょっと! その言い方は酷くない!?」
「ふふふ……」
「ねぇ、やっぱり様付けで呼んだ方がいい? それとも名前呼びより家名で呼んだ方がいいのかな?」
メッシーナ嬢とかクロード子爵令嬢とか。
「あ、ルカも居たんだ。居たなら声掛けてくれたら良かったのに」
「居たよ? 俺、最初から居たよ?」
後から来たのマリアたちだよ?
「ふーん……それより呼び方は今まで通りでいいわよ。敬語もいらない」
「『ふーん』て……」
「ルカ兄、どんまい。で、なんで言ってくれなかったのさ?」
シン……シンだけだよ、俺のことを見てくれてるのは……
「だって貴族の娘なんて言ったら急に態度が変わる人が多いんだもん」
「そうですね。他人行儀になるというか……距離を感じるようになることは結構あります」
「「ふーん、そんなもんなんだ」」
話を聞いた俺とシンの答えがハモった。
「お前たちが特殊なだけだ。2人とも、こいつらには権威や世間の常識は通用しないから気軽に接して大丈夫だぞ」
「え? 殿下、それってどういう――」
「ほらいい加減にしろ! 入場だ!」
マリアがオーグに何か問い掛けようとするが、時間切れのようで先生から声が掛かった。
そして俺たちはシンを先頭に来賓や保護者、在校生たちの拍手で迎えられながら会場へと入っていった。