賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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Sクラス

 入学式が終わり、教室へと移動した。

 

 教室にはそれなりに立派な机が整然と並んでおり、ひとりひとりのスペースも広い。

 多分だけど、学年上位10人のための特別な造りになっているのだろう。

 

 今年は俺がいるから11人だけどね!

 

「うわぁ、すごいよこの机。お父様の執務机みたい」

「ホントだ。すごいねコレ」

「あたしこんな立派な机見たことないよ。椅子もすごいし……うぅ、なんだかここにいるだけで緊張で疲れそう……」

 

 クラスメイトたちは教室内に配置された机を見て感想を零している。

 シンも周りに聞こえないように「社長室みたい」と呟いていたが、それは言い過ぎだと思う。

 だって前世で俺が会社で使っていた机とあまり変わらないんだもの。確か……主任だったかな?

 

「なんだ、みんな情けないな」

 

 クラスメイトたちが浮かれている中、冷静だったオーグが口を開いた。

 

「所詮ただの設備なんだ、そのうち慣れる。それよりそんなことに気を取られて本分を忘れるなよ?」

「オーグ……お前やっぱすげぇな」

 

 そうかな? 人間って適応する生き物だからすぐ慣れるよ。

 俺だって気と体を鍛えながらこういう机で仕事してたのにあっさり森暮らしに適応出来たんだから逆も簡単だって。

 

「ふっ、ウチの机には劣るからな」

「そりゃそうだろうよ!」

「ホラ! いつまでも設備に感動してないでさっさと座れ。黒板に各自の座席が張り出してあるからその席に着け」

 

 シンがオーグにツッコミを入れていると、いつまでも席に着こうとしない俺たちを見て先生が席に着くよう指示を出した。

 

 先生に促され、全員の目が黒板へと向く。

 

 えっと……俺の席は……窓際の一番後ろ! 特等席!

 

 ウキウキしながら移動して席に座る。ふむ、隣は俺の弟子候補のリッテンハイムくんか……これはベストポジション。

 

「さて、では改めて入学おめでとう。俺はこのクラスを担当する『アルフレッド=マーカス』だ。実技も担当しているのでよろしくな。今日はこの後お互いの自己紹介をして明日以降の予定を伝えて終了だ。では、早速俺から始めよう。さっき言ったように俺の名前はアルフレッド=マーカス。俺もこの高等魔法学院の卒業生で、教師になって5年になる。教師になる前は宮廷魔法師団に所属していた。5年程勤めた後、学院の教員に欠員が出たので教師になった。だから年齢は28歳だな。尊敬する人物はマーリン殿だ。なのでこのクラスの担任になれて大変嬉しく思っている。以上だ」

 

 マーカス先生はじいちゃんのこと尊敬してるのか。

 なんだか堂々と身内を尊敬していると聞かされるとおなんだか尻の辺りがムズムズするな。

 

「では次はお前たちだ。じゃあ入試順位順に行くか。シン=ウォルフォード」

「はい」

 

 呼ばれたシンは立ち上がり、クラスメイトたちの顔を見渡してから改めて口を開いた。

 

 どんな自己紹介をするのか楽しみだ。

 

「えーと、初めましての人もそうでない人もいますが、改めましてシン=ウォルフォードです。一番後ろに座っているルカとは双子で、俺の方が弟です。気軽にシンって呼んでください。代表挨拶でも言いましたが、俺とルカ兄は最近まで森の奥で暮らしていたので色々と世間知らずです。なので何か変なことをしても見捨てないでください。じいちゃんに教えて貰って一通りの魔法は使えます。ばあちゃんに付与魔法も教わっているので魔道具を創ることも出来ます。尊敬する人物はじいちゃんとばあちゃんです。よろしくお願いします」

 

 そう言ってシンはぺこりと頭を下げた。

 

 シン……お兄ちゃんはお前がどんなに変なことをしても見捨てないからな!

 

「マーリン様とメリダ様の個人レッスン……」

「なんて羨ましい……」

 

 シンの自己紹介を聞いたクラスメイトたちは羨望と嫉妬の入り交じったような瞳をシンに向けている。

 

 あのさ、みんなシンのことばっかり見てるけどじいちゃんとばあちゃんの個人レッスンを受けてる子はここにもいるよ?

 

「次はアウグスト殿下、お願い致します」

「はい」

 

 シンの自己紹介が終わったのでマーカス先生は次に次席のオーグを指名した。

 

「皆、既に知っているとは思うがルカやシンのような世間知らずが居るかもしれんからな。改めて『アウグスト=フォン=アールスハイド』、この国の第一王子だ。だが、知っての通りこの学院は王家すら身分の貴賎を問わないからな、皆もルカやシンのように遠慮なく接してくれ。ルカやシンほどでは無いがある程度は魔法を使えると自負している。2人に比べたら本当にある程度だがな……尊敬する人物は父上とやはり賢者マーリン殿だな。これからよろしく頼む」

 

 シンの代表挨拶に続いてちょいちょい引き合いに出されてるけど、俺の魔法はそんな大したことはないよ。シンと比べたらそれこそ月とスッポンだ。

 俺はちょっと変な魔法が使えるだけだよ。

 

「殿下とそれ程仲が良いのですか」

「羨ましいで御座るな」

 

 メガネを掛けた知的でクールな印象の男子生徒と俺の隣のリッテンハイムくんが小さく呟いた。

 メガネの方はわかんないけど、リッテンハイムくんは俺と仲良くしようぜ!

 

 その後オーグに続いて入試3位のマリア、4位のシシリーと知っている人が続く。

 

 5位の『アリス=コーナー』さんは溌剌とした平民出身の少女だった。

 金髪碧眼のショートカットで、なんというか細くて全体的に小さい女の子。何となく妹キャラっぽい。

 

 6位は先程呟いていたクール系メガネくんで、名前は『トール=フォン=フレーゲル』くんと言うらしい。

 男爵家の嫡男で、幼い頃にオーグの学友兼護衛として選ばれたらしい。

 なんだかすごく真面目そう。クラス委員とか似合うんじゃないかな? 小さいけど。

 あと女装させたらとても似合いそう。

 

 7位は黒髪ショートヘアでこれまたメガネを掛けた女の子で、名前は『リン=ヒューズ』さん。

 なんだかすごく淡々としていて、名前とじいちゃんを尊敬していることだけ言ってさっさと座ってしまった。

 ヒューズさんは魔法好き、これくらいしかわかんない。

 

 8位の『ユーリ=カールトン』さんはとてもエロい女の子だった。

 話は聞いていない。ダイナマイトボディと甘ったるい話し方に全てを持っていかれてしまった。

 

 9位の『トニー=フレイド』くんはなんでも騎士の家系の出だけど騎士学院は男ばかりで嫌だから魔法学院に来たそうだ。

 騎士の家系ということは剣も使えるのだろう、立ち姿はそれなりにしっかりしている。

 ふむ、剣も魔法も使えるということは見込みアリと言うことだな……要チェックや!

 

 そして10位の『ユリウス=フォン=リッテンハイム』くん。

 リッテンハイムくんも6位のフレーゲルくんと同じく幼少の頃からオーグの学友兼護衛として付き従っているそうだ。

 魔法はあまり得意ではないと言っていたが、試験の時の《身体強化》を見る限り決して魔力操作が下手なわけではない。

 

 俺と一緒に最強を目指そうぜ!

 

「では最後に……ルカ=ウォルフォード」

「はーい」

 

 クラスメイトたちの見た目と名前を覚えていると、ついに俺の名前が呼ばれた。

 

「初めましてこんにちは、ルカ=ウォルフォードです。シンも言ってたけど、ウォルフォードが2人いるから気軽にルカって呼んでください。俺も魔法はある程度使えますが、シンとは違って魔法より物理の方が自信あります。シンと一緒に『最強の魔法戦士育成計画』を立てているので我こそはという方は俺のところに来てください」

「俺はやらないって言ったじゃん!」

 

 一番前の席から何か聞こえてきたが無視をしてリッテンハイムくんとフレーゲルくんを見てみると、少し興味がありそうな瞳でこちらを見ていた。

 

 手応えアリ!

 

「えっと後は……尊敬しているのはじいちゃんとばあちゃん、あと小さい頃から俺とシンを鍛えてくれたミッシェルさんです。皆さん仲良くしてください」

 

 俺はそこで言葉を切り、ぺこりと頭を下げてそのまま着席した。

 

 その後、明日以降の予定を軽く説明してもらって今日は解散となった。

 クラスメイトたちは親が待っているのだろう、先生が終わりを宣言すると俺とシンに話しかけたいような雰囲気を出しながらもそのまま教室を出て行った。

 

 俺もシンと一緒に帰ろうかとシンの方を見ると、マリアとシシリーに話しかけられ廊下に出ていくシンの姿が目に入った。

 

 これは……もしかして修羅場!? だとしたらお兄ちゃんとしてキチンと確認しなければ!

 

 俺は速やかにドアの影へと移動して顔だけ出して3人の様子を観察し始めた。

 

「なにか困り事?」

「そう。困り事なのよ」

 

 マリアは本当に困ったような、シシリーは申し訳なさそうな顔をしている。

 

 もしかして……マリアとシシリー2人ともが自己紹介に惚れちゃって三角関係で困ってる的な?

 

「実は……シシリーに付き纏ってる男がいるの」

「な……!?」

 

 違ったようだ。

 

「シンに初めて会った時くらいからかな。ずっとシシリーに言い寄って来てて、シシリーは何度も断っているのに実家の権力を傘に来て脅しまで掛けてきているの」

 

 ふむ、実家の権力を使ってまで女性を手篭めにしようとは……悪徳貴族だな!

 

「シシリーが自分の思い通りにならなくて相当頭にキテるらしくて……そろそろ強引な手段に出てくるかもしれないの」

 

 ふむ、それはいけない。

 早速今夜にでもそいつの屋敷に忍び込んで悪事の証拠を集めよう。

 そしてディスおじさんの枕元に置いておこう。

 

「それでね……その言い寄って来る男ってのがこの学院にいるの」

「なんだと!?」

 

 おお、シンがブチギレてる……珍しい。

 

「ふむ、クロードに言い寄る男か」

「ん? オーグも気になるの?」

 

 俺が陰から3人の様子を伺っていると、隣にやってきたオーグもドアの陰に隠れながら様子を伺い始めた。

 

「ああ。もしも我が国の貴族とお前たちが揉めたとなると……考えたくもない。だから事が大きくなる前に仲裁しなければとと思ってな」

「ふーん……」

「何かあれば私が出る。だからルカは何もするなよ」

「えー……」

「するなよ! 絶対するな!」

「何それフリ?」

「フリじゃない。本気だ」

「まぁ……オーグが収めてくれるなら」

 

 でもオーグに任せちゃったらまた借りが増えるんだよねぇ……

 

「おいシシリー! 貴様、俺の婚約者でありながら他の男と話をするとは何事だ!」

 

 俺とオーグがドアの陰でヒソヒソしていると、場に新たな登場人物が現れた。

 

 入学式で俺とシンを睨みつけていた金髪碧眼イケメンくんだった。

 あれ? あいつどこかで見たことあるような……

 

「アイツよ。アイツがずっとシシリーに付き纏って勝手に自分の婚約者だって言いふらしてるの!」

 

 何それキモイ。ストーカーみたい。

 

「シシリー! 貴様、こっちに来い!」

 

 イケメンくんがシシリーに手を伸ばそうとした瞬間、隣のオーグが飛び出そうとしたので俺はオーグの肩を掴んで止めさせる。

 

「ルカ、何を……」

「心配無いよ。あそこにはシンが居るから。シンは俺やミッシェルさんの稽古に着いてきた男だよ?」

 

 あんなヒョロくて体幹の弱そうな奴に負けるわけが……って思い出した! 試験前に絡んできたリッツバーグくんだ!

 

 俺がイケメンくんの名前を思い出したと同時、シンがリッツバーグくんが伸ばした手を掴み、そのまま捻りあげた。

 

「ぐあっ!? 貴様、離せ! 無礼だぞ!」

「いきなり女性に向けて手を伸ばす方が無礼じゃない?」

 

 どうせ治癒魔法で治せるんだからそのまま肩を外すか肘を壊すかすればいいのに、シンはそうはせず手を離す。

 

 シンは甘いなぁ。俺なら掴んだ腕を握り潰した上肩と肘をぶっ壊すよ。

 すぐ治すけど。

 

 女性の敵に容赦はいらない。

 

「そ、そこのシシリーは俺の婚約者だ! 貴様なんぞが話をしていい相手ではない!」

「……って言ってるけど、本当なの?」

「えっと……あの……」

 

 リッツバーグくんの声が大きいからなのか、シシリーは萎縮してシンの背中に隠れている。

 

 うむ。女性を守るシン、かっこいいぞ!

 

「大丈夫だよ。何があっても俺が守ってやる。だから思ったことを言ってみな」

「シンくん……」

 

 シンきゅん……

 

 シンに「守ってやる」と言われたシシリーは意を決したようにシンの陰から出てリッツバーグくんの正面に立った。

 

「私は……私は貴方からの求婚はお断りしました! 勝手に婚約者と言われるのも迷惑です!」

「き、貴様! この俺に逆らうというのか!」

「さ、逆らいます! 私は貴方の言いなりになるつもりはありません!」

 

 おお! シシリーよく頑張った! かっこいいぞ! 足が震えてるけども!

 

「き、貴様……女が俺に逆らうだと? 貴様ら女は男の側で愛想を振り撒いていればいいんだ! しかもこの俺の側に侍らせてやろうと言うのに……ふざけるな!」

 

 おーけー把握した。こいつは痛い目見なきゃわからないタイプの奴だ。

 

「おいルカ、何をしようとしている?」

「リッツバーグくんは痛い目見なきゃわからないタイプ。だから痛い目に遭わせようかと」

「おいコラやめろ! ユリウス、ルカを抑えろ!」

「承知! さぁルカ殿、殿下の御命令ですゆえ……」

「ちょ……!?」

 

 こうして俺はクライマックスを見ること無くリッテンハイムくんに引き摺られてその場を後にした。

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