「ありがとうオーグ、助かった。もう少しでキレるところ……ルカ兄なにやってんの?」
俺が退場した後オーグが無事場を収めたようで、しばらくするとシンとオーグが連れ立って教室に戻ってきた。
俺? 俺は今リッテンハイムくんと手四つで組み合ってるよ。
「ぐぬぬ……中々やるなリッテンハイムくん!」
「ルカ殿こそ! 《身体強化》を使ってなお押し切れないのは初めてで御座るよ!」
「《身体強化》ありでもここまで俺とやり合えるんだから誇っていいよ。俺は《身体強化》してないけどね!」
「ぐぬぬ……」
「なにやってんの……」
何って……見たらわかるでしょ? 力比べだよ。
せっかくリッテンハイムくんと2人になれたから仲良くなろうと思って力比べを申し込んだんだよ。
「ぐ……しかし拙者はまだ半分も力を出していないで御座るよ!」
「それ言ったら俺は1割くらいだけど……」
「なぁッ!?」
俺は気も魔力も使ってない素の肉体能力だけで戦ってるからね。
どっちかを使って強化すればリッテンハイムくんの両腕へし折ることも出来ちゃうよ。
「はぁ……2人とも、いい加減にしろ」
オーグから注意が入ったので俺たちは力を抜き、組んでいた手を離した。
「リッテンハイムくん、いい勝負だった。ナイス筋肉」
「ルカ殿こそ素晴らしい腕力で御座った。拙者のことはユリウスと呼び捨てにしてもらって構わないで御座るよ」
「わかった。ユリウス、俺とシンと一緒に最強の魔法戦士を目指してみない?」
「是非に!」
俺とユリウスは頷き合い、互いの右手を強く握り合った。
「……まぁ、2人が仲良くなったのならそれでいい」
俺のユリウスが固い握手を交わしているのを見てオーグが呆れたように呟いた。
「それで、シンはなにを思い付いたのだ?」
「ああ、この制服ってさ、魔法が付与されてるよな?」
「そうだな」
「その付与を書き換えようかと思ってる」
ん? 付与の書き換え?
「ねぇシン、何の話?」
「ああ、ルカ兄は見てなかったんだっけ?」
「最初は見てたよ。途中でユリウスに引き摺られたけど」
「なんでそうなるんだよ……そしてなんでそれで友達になってるんだよ……意味わかんねぇ……」
だってユリウスはいい筋肉を持ってるんだよ?
いい筋肉を持つ奴に悪い奴はいないんだ。
「ユリウスは良い奴だよ。で、なんで付与魔法の書き換えの話? 制服の付与ならこの前書き換えてたじゃん」
えげつない付与をしてばあちゃんを絶叫させてたじゃん。
なんだっけ……《物理衝撃完全無効》だっけ?
とりあえずそれをぶち破るのが当面の目標だ。
制服には元々《魔法防御》、《衝撃緩和》、《防汚》の3つの魔法が付与されていたらしいのだが、シンはそれを全て削除して書き換えている。
確か《魔法完全無効》と《物理衝撃完全無効》と《防汚》と《自動治癒》だったかな?
俺の制服も書き換えようか聞かれたが、俺としてはそんな物は甘えでしかないと思うので全て削除してもらい新たな付与はしていない。
物理攻撃は躱すか受け流せばノーダメだし、魔法攻撃も躱すか斬るか打ち返せばノーダメなのだ。
そして制服が汚れるということは俺が未熟ということなので汚れたら甘んじて洗濯をするつもり。洗うのは使用人だけど。
「俺のじゃなくて、シシリーの制服にも付与しようかなって」
「なんで?」
「なんでって……カートがあのまま引き下がるとは思えないからだよ」
シンによると、リッツバーグくんはオーグが介入したことで一旦矛を収めたがまたすぐになにか仕掛けて来そうなのでその対策としてシシリーの制服の付与を書き換えたいのだそうだ。
ちなみに実習も実習服などではなく制服のままでやるらしい。
それなら女子の制服もスカートじゃなくてズボンにしろよと思わなくもないが、若い男の子としては否やは無いのでそれについては黙っておく。
「ふーん……まぁばあちゃんがいいって言えばいいんじゃない? 勝手にやったら怒られるよ」
「もちろん話すよ。さすがにばあちゃんも女の子を守るためだって言えば断らないと思うし……」
まぁ何だかんだ言って優しいからね。小言はたくさん貰うことになるだろうけど最終的には許可が出ると思うよ。
「ちょっと待て! 今聞き捨てならないことを言ったな?」
「ん? どの部分?」
「いや……付与を『書き換える』と聞こえたのだが……」
「そうそう、この制服ってすげぇいい生地使ってんのな。20文字も付与出来たよ」
「お前……常識を学びに来たのではなかったのか?」
「そうだよ?」
「はぁ……もういい。一々驚いていては身が持たん」
ふむ、オーグのこの反応を見る限り、付与の書き換えというのは普通はやらない行為なのだろう。
そりゃばあちゃんがおめめが飛び出すくらいに見開いて驚くわけだ。
「シン」
「なんだよルカ兄」
「この非常識め!」
「俺の作った防御系魔道具を腕力で突破してくるルカ兄にだけは言われたくない!」
「そんな褒めるなよ……まだ《物理衝撃完全無効》は突破出来てないし……」
「褒めてねえよ!」
そうしてシンの非常識を咎めていると、いつの間にかどこかへ行っていたマリアとシシリーが戻ってきた。ダッシュで。
「はぁはぁはぁ……んくっ……はぁ……お、お待たせ」
「はぁふぅはぁふぅ……お、お待たせ……しました……」
かなり息が切れている。おそらく全力で走ってきたのだろう。
薄らと汗をかいていて濡れたうなじと荒れた息遣いがなんとも……いや、これ以上はいけない。
これまで15年間ばあちゃんとクリス姉ちゃん以外の女性と関わってこなかったからといってそんな目で女性を見てはいけない。ばあちゃんとクリス姉ちゃんに殺されてしまう。
でも……女性に対する免疫がびっくりするくらい無くなってるな。
「そんなに必死にならなくても……」
そうやって内心俺がドキドキしている横でシンは普通に対応している。
すげぇなシン、お前だって俺とおなじだろうに。
「何言ってんの! 賢者様と導師様をお待たせする訳にはいかないじゃない!」
「そうですよ!」
まぁ、時既に結構待ってるとは思うけどね。
しかし急ぎたいという気持ちもわからなくもない。
そして急ぐにしても身嗜みくらいは整えないとね。女の子なんだから。
「そんなに気にすることないのに……それじゃあ行こうか?」
「ちょっと待って」
シン、お前はアホか。
女の子が大汗かいて息を切らせてるんだぞ? なんで「行こうか」とか言えちゃうんだよ。
「何?」
「『何?』じゃねーよ、息と身嗜みを整える時間くらいあるでしょうよ。こんな状態の女の子を連れて行くとかそれこそばあちゃんにしばかれるぞ」
「うっ……」
「お前にデリカシーは無いの?」
最近やけにシンが持ち上げられて俺が貶されてるけど、やっぱりシンの方が常識無いよね。
「それは……ごめん」
「俺にじゃなくてマリアとシシリーに謝りなさいよ」
「うん……マリア、シシリー、気付かなくてごめん」
俺がそう指摘をすると、シンは素直に謝った。えらい。
「べ、別に大丈夫よ! この位の汗ならすぐに引くから!」
「そ、そうですよ! これ以上皆さんをお待たせするわけには……」
マリアとシシリーは大丈夫だと言うが、2人にとって憧れの人に会うのだからその辺はしっかりしておかないとね。別に時間も掛からないし。
「大丈夫だよ。ほら、2人とも手を出して」
「手……」
「ですか?」
右手をマリア、左手をシシリーへと差し出すと2人は不思議そうな顔をしながらも俺の手に自分の手を重ねてくれた。
「おい、ルカ兄……」
「ほいほいっと」
シシリーが俺の手に触れた瞬間、鬼の形相を浮かべたシンが詰め寄ってきたがとりあえずやることを先にやってしまう。
「あれ……?」
「なんだか体が……」
触れた指先から気を流し込み、2人の体内の気を活性化させて失った体力を回復させた。
別に美少女の手に触れたかったとかじゃないよ。ホントだよ。
「はい終わり。後はシンに任せるよ」
「えっ?」
やることが終わったので2人の手を離してシンへと向き直ると、シンはポカンとした表情で俺を見ていた。
「いや『えっ?』じゃなくて……綺麗になる魔法使ってあげなさいよ」
「……ああ! あれか!」
俺がそう提案すると、シンは一瞬間を開けてから合点がいったように手を打った。
「おい、あれとは何だ?」
「シンが作った汚れを落とす魔法だよ。使ってもらったらめっちゃさっぱりする」
「汚れを落とす魔法……」
「汚れを防ぐ魔法があるんだから汚れを落とす魔法があってもいいじゃない。ちなみに一応俺も使えるよ」
なので気による体力回復と並行して汚れを落とす魔法を使っても良かったのだが、シンがすごい顔で睨んできていたのでシンに役目を譲った。
「はい、これで汗も引いたと思うけど、どう?」
「うん、なんだかすごくさっぱりした」
「すごいです! シンくんはこんな魔法も使えるんですね!」
「いやぁ……ルカ兄が毎日泥塗れになってたからさ」
「おい」
何シレッと『俺のために』みたいな雰囲気出してんだよ。
その魔法開発したのは《ジェットブーツ》の練習中でしょうよ。泥塗れになってたのはお前だよ。
「確かに汚れを防ぐ《防汚》の魔法は知られているが汚れを落とす魔法なんて聞いた事が……」
オーグが何やら呟いているが、今は時間が無いのでスルーさせてもらおう。
詳しい原理とかそういうのが聞きたいなら俺じゃなくてシンに聞くといいよ。
俺は『なんとなくこんな感じ』で使えるだけだから。
そうして身嗜みを整え体力の回復したマリアとシシリーたちを引き連れ俺たちじいちゃんとばあちゃんが待っている学院の貴賓室へと向けて歩き出した。
「ごめんな、入学式の後なんだから家族と居たかっただろうに」
「ううん、気にしないで。むしろシンとルカの家に行くって言ったら2人ともすごく羨ましがってたから。これは帰ったら質問攻めに合うわね」
「ウチもそうでした。決して賢者様と導師様に粗相が無いようにと」
「そ、そうなんだ……」
「別に粗相とか気にしなくていいよ。シンなんて毎日ばあちゃんにしばかれてるし」
「しばかれてるのはルカ兄だろ!」
「シンが《衝撃倍加》とか《衝撃5倍》とかを付与したハリセンを作ってばあちゃんに渡すんだけど、たまに自分がしばかれてるんだよね。自分が作った魔道具でしばかれるとかまじウケる」
「今度ルカ兄専用って約束で《衝撃100倍》のハリセン作ってばあちゃんに渡しとくよ」
「さすがにそれは死んじゃうと思うんだ」
じいちゃんとばあちゃんをリスペクトし過ぎて若干緊張しているメンバーたちを落ち着かせるために小粋なジョークを交えながら歩くことしばし、じいちゃんたちが待っている貴賓室へと到着した。
じいちゃんとばあちゃんを見た生徒や保護者が大騒ぎするのを警戒して学校側が貴賓室を用意したそうだ。もちろんディスおじさんも一緒。
「じいちゃん、ばあちゃん、お待たせ」
「ついでにディスおじさんもお待たせ」
「随分遅かったのぅ。何かあったかと心配しておった所じゃ」
「本当だよ。一体なにしてたんさね?」
「ルカくん、これでも私は一応一国の王だよ? ついで扱いは酷いんじゃないかな?」
「この前靴下片方だけ忘れて帰ったディスおじさんに威厳は無いよ」
「むぅ……」
ディスおじさんの苦言に反論すると、ディスおじさんは拗ねたように口を尖らせた。
うーむ、いい歳した中年がやるとキモイだけなはずなのにディスおじさんってば無駄にイケおじだからキモくはないんだよなぁ……
逆にそれが腹立つんだけど。
「ル、ルカ殿……」
「陛下を相手になんという口の利き方を……」
ユリウスとフレーゲルくんが俺を窘めようとしてくるが、俺が畏まった話し方をすればその陛下が悲しい顔しちゃうよ? それでもいいの?
「心配掛けてごめん。遅れたのにはちょっと事情があってさ」
ほら、シンなんて口の利き方どころか存在自体スルーしてるぞ?
俺らにとってディスおじさんは一国の王というより気のいい親戚のおじさんでしかないんだから気にしないのが一番だよ。
「なにやら訳アリのようだねぇ」
「うん。あ、まずは紹介するね。この2人はクラスメイトになった娘で、マリアとシシリーって言うんだ」
「はははは初めまして! シンくんと同じクラスのマリア=フォン=メッシーナです!」
「あの! その! は、初めまして! シシリー=フォン=クロードです!」
2人は緊張して噛み噛みだ。
というかシン、お前女の子2人は紹介しといてユリウスとフレーゲルくんのことはスルーすんの? 仕方ないやつだな。
「こっちの2人はユリウスとフレーゲルくんだよ。オーグの護衛なんだって」
「ユ、ユリウス=フォン=リッテンハイムで御座る! よろしくお頼み申す!」
「お初にお目にかかります。自分はトール=フォン=フレーゲルと申します」
俺が紹介するとユリウスはガチガチになりながら、対してフレーゲルくんは落ち着いて自己紹介をした。
「ふむ、マリアさんにシシリーさん、ユリウスくんにトールくんじゃな」
「紺色の髪の美少女……ほう、この子が以前シンくんの言っていた女の子だね」
「そうだよディスおじさん。王都に来ていきなりシンがナンパしてきたんだ」
「ナンパじゃねぇよ!」
街で出会ってシンから声掛けて一緒にお茶したならそれはもうナンパでしょうよ。
「はぁ……話が進まんさね。ルカ、ディセウム、静かにしな」
「「はい」」
ばあちゃんに睨まれ、俺とディスおじさんは閉口する。
「あー……ちょっとここでは話しづらいかな? 出来れば家で話したいんだけど」
「ほっほ、ということは皆を連れて帰るということかの?」
「うん。みんな……というよりシシリーについての話なんだ」
「そうかい。それじゃあ家でゆっくりじっくり聞かせてもらうとするさね」
こうして俺たちは一度家に帰ることになった。なったのだが――
「この馬車に6人はちと多いのぅ」
「そうさね……ルカ、あんたは歩いて帰んな」
「どうして!? 1人減っても変わんないじゃん!」
「それもそうか……マーリン、あんたも歩いて帰りな」
「ほ!?」
「当然さね。シンとシシリーは当事者、アタシはシシリーを見極めなきゃならない。そしてマリアは他所様の娘さん、歩いて帰らせる訳にはいかないさね」
「それは……」
「ほっほ……」
こうして俺とじいちゃんは2人で歩いて帰ることになってしまった。
てかばあちゃん、シシリーを見極めるってどういうことよ?
シシリーが蛇に睨まれた蛙みたいに縮こまってるよ?
皆様からのリアクションで生きてる愛飢夫です。
もっと皆様リアクションをください。高評価とかお気に入りとか感想とかここ好きとか待ってます。
恥ずかしがらずに……ほら!
愛飢夫は感想を貰えるとメールで通知されるようにしているので感想返信は早い方です。全レスしますので是非!