賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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初授業

 いよいよ高等魔法学院初めての授業の時間がやって来た。

 

 皆ちょっと緊張した表情で整列しているのだが、ユリウスとアリスだけはちょっと苦しそうな顔をしている。

 笑ってやりたいところだが、おそらく俺も同じ表情を浮かべているので人のことは笑えない。

 

「よし、皆揃ってるな。では高等魔法学院最初の授業を始めるぞ!」

「「「よろしくお願いします!」」」

「と言っても最初の授業の内容は決まっていてな、入学試験の時に見せた魔法をもう一度使ってもらうんだ」

 

 皆の顔から緊張が抜け……ユリウスだけはなんか厳しい表情に変化したな。

 そういえばユリウスは《身体強化》をして的に飛び掛ってパンチで粉砕していたからお腹がいっぱいの今それをやるのは厳しいのかもしれない。

 

「では早速始めようか。昨日の自己紹介では入試成績順で行ったから今回は逆から行くか……とはいえウォルフォード兄の魔法は特殊過ぎるので最後に回す。なのでまずはリッテンハイム、お前からだ」

「か、畏まりました!」

 

 ユリウス……どんまい!

 せめて順番が最後ならお腹もこなれて普段通りのパフォーマンスが出来るのだろうけど、お腹パンパンだと中々ね。

 でも食べ過ぎは完全に自己責任なんだから甘んじて受け入れなさい。

 

「ふぅーっ……よし、では、行くで御座る!」

 

 ユリウスはブレザーを脱ぎ捨てる。

 試験の時には上半身裸になっていたが、どうやら今日はシャツは脱がないらしい。

 ちょっと残念。

 

 

 滾れ筋肉! 燃えろ魂! 我が肉体を躍動させる力となれ! 《身! 体! 強! 化!》うぉぉぉおおお!!」

 

 ユリウスは実技試験の時に見せたのと同じようにその場で力強く踏み切り、的へと向かって飛び掛る。

 

「どぉぉおおりゃぁぁあああ!!」

 

 そしてそのまま雄叫びを上げ、魔力の籠った拳で的を粉砕した。

 

「「「……」」」

「素晴らしい!」

 

 クラスメイトたちが唖然としている中、俺だけが手を叩きユリウスの勇姿を褒め称えている。

 

「ああ……これはルカ兄が気に入るのも頷けるよ」

「だろ? 元の身体能力も高いし、魔力制御も下手じゃない。これは強くなる気しかしないだろ」

「それは……まぁ、うん。でも『魔法使い』としてはどうなんだ?」

「ユリウスは『魔法戦士』に育てるから」

「それならいい……のか?」

 

 いいんだよ。

 

 そうしてシンと話ながらクラスメイトたちの魔法を眺める。

 皆かっこいい詠唱をして魔法を放ち、的を破壊している。

 

 ふむ……全員的の破壊は出来ているけど思ったより威力は低いな。これならまだ俺の方が威力が高い。

 

「よし、では次はウォルフォード弟!」

「あ、はい!」

 

 そしていよいよ今年度入試成績首席であり俺の自慢の弟であるシンの順番がやって来た。

 

「んじゃルカ兄行ってくる」

「おう。シシリーにかっこいいところ見せたいからって張り切りすぎて練習場壊すなよ?」

「ばっ……やんねーよ!」

「ホントに大丈夫? なんならお兄ちゃんが的の後ろで待機しとくよ?」

「いらねーよ! 黙って見とけ!」

「うっす」

 

 シンは呆れたようにため息をつき、手のひらに青白い炎を浮かべる。

 

「む、無詠唱……」

「青白い炎なんて初めて見たわぁ……」

「綺麗……」

「すごい! すごいよシンくん!」

「さすがはシンくんです!」

 

 Sクラスの女性陣がシンが生み出した炎を見て感想を述べているが、ヒューズさんだけは無詠唱なことに触れている。

 やはり相当魔法好きのようだ。

 

 すると女性陣の……というかシシリーの声が聞こえたのか、シンの口元が僅かに持ち上がり、浮かべた炎が少しだけ大きくなった。

 

 ドガァァァアアアン!!

 

 シンが放った炎の弾丸は的を粉砕し、その奥の壁へと着弾。

 大音量を撒き散らして練習場を大きく揺らした。

 

「す、凄まじいな……」

「これが……英雄の孫……」

「圧巻で御座る……」

「凄いねぇ……」

 

 クラスメイトたちは唖然としているが、これ相当手を抜いてるよ? てかこのくらいの威力なら頑張ったら俺でも出せる。

 

「……よ、よし! では最後にウォルフォード兄!」

「任せろ! 皆の度肝を抜いてやんよ!」

 

 そう俺が大きな声で宣言すると、クラスメイトたちの視線が俺へと集まった。

 

「程々に……と言いたいがそれも無理か」

 

 まぁ使う魔法は決まってますし。

 

 全員からの注目を集めた俺は即座に《瞬間移動》を発動させて的の隣へと移動する。

 

 試験の時は残っていた新品の的の隣に移動したのだが、今回はすこし趣向を変えて既に壊れている的の隣へと移動した。

 まずは最初にユリウスが壊した的からだ。

 

「ほい回収。からの《錬金魔法》!」

 

 ユリウスが粉砕した的に向けて魔力を流して形を変えていく。

 試験の時には『サイドチェスト』にしたので今回は『モストマスキャラー』にしてみよう。

 

「ふむ、もう少し大胸筋を盛った方が見栄えがいいかな?」

 

 試験の時に見たユリウスの肉体は素晴らしかったのだが、像にするには少し筋肉を盛った方がかっこいい。

 ということで実物より多めの筋肉を備えた30cmスケールのユリウス像を作成し、それを持ってマーカス先生の前に《瞬間移動》をして像を置いた。

 

「次、いっきまーす!」

 

 硬直している先生とクラスメイトを横目に再び《瞬間移動》を使い今度はトニーが風の刃で両断した的の隣へ移動、魔力を流して形を変える。

 

「うーむ、かっこよくするなら剣を持たせるべきか……」

 

 トニーが魔法を放つ瞬間の姿をイメージして作ったのだが、何かが足りない。

 そう思い空いている右手に剣を持たせてみると魔法戦士っぽさが増してグッとかっこよくなった。

 

「これは普通に売れるんじゃないかな?」

 

 一通り完成した像を眺め、満足したので再度先生の前に置いて次はカールトンさんが土の弾丸で穴だらけにした的へと移動する。

 

 カールトンさんの特徴といえばその色気だから、少しお胸を強調するようなポーズにして、スカートをちょびっと短くして……

 これはネットオークションに出したら落札価格軽く10万は超えるんじゃないだろうか?

 

 そうして次々と《瞬間移動》と《錬金魔法》を繰り返してそれぞれが壊した的でそれぞれの像を作っていく。

 

 ヒューズさんは魔導書のような本を持ち、短い杖を構えている姿を。

 トールは右手を前に翳しながら左手中指でメガネをクイッと上げている姿を。

 アリスは元気いっぱいはしゃいでいるような姿を。

 シシリーは笑顔で何かに飛び付こうとしている姿を。

 マリアはそれを見て羨ましそうに指をくわえている姿を。

 オーグはそれらを見て腹を抱えて笑っている姿を。

 そしてシンは飛び付いてくるシシリーを満面の笑みで受け止めるような姿で像を作成し、その全てをマーカス先生の前に並べてみた。

 

 うむ! 我ながら完璧な出来だと思う!

 

「ウォルフォード兄……これは……」

「試験の時はユリウスの像だけを作ったんですけど、今日はそれじゃ不公平になるかなと思って全員分作ってみました!」

 

 愛刀『竜裂』のバージョンアップのために日々《錬金魔法》を使い続けてきた俺ならこの像一体を作るのに1分も掛からないからね。

 皆が驚いて固まっている間にチャチャッと全員分を作らせてもらった。

 

「凄まじい技術だな……これはこれで国の宝になりそうだ」

「今にも動き出しそう御座るな……」

「そうですね……ここまで魔法で造形が出来るなんて……」

「ななななんで私の像はシンくんの像に抱き着こうとしてるんですか!?」

「そそそそうだよ! なんで俺の像はシシリーを受け止めようとしてんの!?」

「いいじゃない2人とも……私なんてそれを羨ましそうに見てる姿よ……」

 

 あれ? お気に召さない感じ?

 

「あー、シシリーの像は片足立ちになってるからちょっとバランスが悪くて……だからドッシリ構えてバランスのいいシンの像で支えるようにすれば……」

「ふむ、抱き合っているように見えるな」

「ななな何やってんだよルカ兄!?」

「そそそそうですよ!!」

 

 いいじゃない。ばあちゃん公認だよ?

 

「ウォルフォード兄……」

「あ、試験の時と違うことしちゃマズかったですかね?」

「いや、そういうことでは無く……」

「もしかして先生の像が無いことですか? それならちょうどあそこに壊れてない的が1個あるからそれで……」

「いや、待て! 違う! そうじゃない!」

「えっ?」

「いや『えっ?』じゃなくてだな……そもそももう1つ像を作るのなら教師の俺じゃなく生徒のお前の分だろう!?」

「いや……自分の像を作るのはちょっと恥ずかしいっすね」

「俺はルカ兄が作った像で恥ずかしい思いしてるけどな!」

「わ……私も……」

「嫌なの? じゃあちょっと恥ずかしいけど、シンの像を改造して俺の像にするね?」

「それはダメだ!」

「そのままでいいです!」

 

 息ぴったりじゃん。そのまま付き合っちゃえよ。

 

「それでこの像だが……どうするんだ?」

「材料は学校の備品ですからねぇ……戻した方がいいなら的に戻しますよ?」

「いや、備品とはいえ壊れた的だからな……本来なら廃棄する物だから戻す必要は無いと思う」

「そうなんですか? ならあの的ぶっ壊して先生の像も作ります? それで教室に並べてみたり」

「流石に邪魔じゃないか? それとワザと壊すのはやめろ」

「ならこの像たちをちょっと小さくして余った素材で俺と先生を作るのは?」

「それなら……」

「じゃあそうしましょう! 皆、一回作り直すからポーズの変更がしたければ今言って!」

 

 そう言ってクラスメイトを見渡すが、ポーズの変更を願い出る人は居なかった。

 

「それじゃこのままで。どのくらいの大きさにします?」

「そうだな……この3分の1くらいなら邪魔にもならんだろう」

「わかりました。じゃあそれで」

 

 1つずつ像を手に取り、魔力を流してサイズを変える。

 作った像全てのサイズを変更し、余った素材で俺とマーカス先生の像を作る。

 

 マーカス先生は……そうだな、先生らしく堂々と腕を組んで頷いているようなポーズにしよう。

 俗に言う『後方師匠面』というやつだ。

 

「これは……」

「なんというか……」

「威厳があるで御座るな……」

 

 ふむ、完成したマーカス先生像は好評なようだ。

 

 さて、となると俺の像のポーズはどうしようか……

 個人的には傷だらけになりながらドラゴンと向かい合うような感じで作りたいのだけど、俺だけオプションでドラゴンを付けるのは不公平だよなぁ……

 

「先生、ルカが悩んでいる間に朝の話を進めませんか?」

「アウグスト殿下……そうですね。では午前中に話していた研究会の件だが……」

 

 自分で自分の像を作るというある意味罰ゲームを実行中になにやら後ろでマーカス先生にオーグが何かを言っているが、とりあえず今はそれどころでは無いので制作作業に集中する。

 

「うーん……」

「ルカ殿、研究会の話が始まったで御座るよ」

「ちょっと待って。今なんか思い付きそう」

「でもあっちの話に参加しないと僕たち以外のクラスメイトで研究会が立ち上がってしまいそうだよ?」

「でも俺には像を完成させるという使命が……」

 

 ユリウスとトニーが何やら話し掛けて来ているが、少し待って欲しい。

 

 これまで作ったクラスメイトたちの像はそれぞれの特徴を掴むように作ってきた。

 では俺自身の特徴といえば……

 

「やっぱりシンにも勝る強さだよね」

「「えっ?」」

「ごめん1分だけ黙ってて」

 

 何かを言いたそうな2人を黙らせ、さらに考えを巡らせる。

 

 俺の特徴はその強さ。そして俺の得意武器は刀で、必殺技は……

 

「閃いた!」

「わっ!」

「驚いたで御座る……」

 

 俺が急に大声を上げたせいで驚いている2人を放置して、目の前の金属素材に魔力を流す。

 

 俺の必殺技といえば一度刀を振っただけに見えるけど実際はめっちゃ斬りつけている『瞬迅剣』なのだが、実は得意技は別にある。

 

「もうちょっと足を開いて腰を落として……左手は鞘を持つより鯉口を切っているようにした方がかっこいいかな?」

 

 自分がその技を使うために構えているところを想像しながら魔力を流し、素材の形を変えていく。

 

 あ、ここもうちょっと皺があった方がリアリティありそう。

 

「完成!」

「これは……素晴らしいね」

「剣を抜く瞬間で御座るか」

「正確には剣じゃなくて刀って言うんだけどね。これは抜刀術の構えで、抜刀術というのは――」

「ルカ、その説明はとても興味があるんだけど、今はあっちを見た方がいいと思うよ」

「え?」

「拙者も聞きたいで御座るが……ほら、もうすぐ研究会の名前が決まりそうで御座る」

「マジで!?」

 

 トニーとユリウスにそう言われたので慌てて自分たちの傘下にシンを収めるための行動を開始しようとした瞬間、クラスメイトの1人が手を上げているのが見えた。

 

「今いいの思いついた。『究極魔法研究会』はどう?」

 

 それを聞いた瞬間、俺の動きは停止した。

 

「ルカ殿?」

「ルカ?」

 

 それを見て、ユリウスとトニーは訝しげな声を出したがそれどころでは無い。

 

 究極魔法研究会か……それ、いい!

 

「トニー、ユリウス」

「何?」

「なんで御座るか?」

「俺……究極魔法研究会に入会する!」

 

 そんな素敵な名前の研究会、入らないわけが無いじゃない!




皆様とりあえず『ここ好き』してみませんか?

感想や高評価もめちゃくちゃ嬉しいんですがここ好きがいっぱい入るとAI飢夫は「あ、皆こういうのが好きなんだ」と学習する可能性があります。

そうするとAI飢夫が賢くなるかもしれません。

画面上で好きなところをスイッとやるだけなのでお手軽に愛飢夫を喜ばせる事が出来ます。お得です。
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