「カートが自宅謹慎?」
「カートって誰だっけ?」
シンが研究会を立ち上げ、あまりの名前のかっこよさに即座に傘下に入ることを決断した日の翌日、昨日と同じようにシンとシシリー、マリアと共に登校したら開口一番オーグからカートが自宅謹慎になったことを告げられた。
とりあえずおはよう。
「そうらしい。今朝学院に『暫く自宅謹慎とし反省を促す』と連絡があったそうだ。あとルカ、カートとは入学式の日にシンと揉めていたカート=フォン=リッツバーグのことだ」
「ああ、リッツバーグくんね」
ファーストネームで言われても覚えてないよ。
なんてったって『やらかしリッツバーグ』で覚えてるんだもん。
そういえば夜にでもリッツバーグくんの屋敷に忍び込もうと思ってたけど忘れてたな。
夜はシンと『将来的にじいちゃんとばあちゃんを介護する場合どちらが主体的に行うか』の会議をしていたから忘れていたよ。
最終的に『家広いんだから俺たちが将来結婚してもここに住んで2人で協力して介護しようぜ』というとても玉虫色な結論に落ち着いた。
「なぁ、ちょっと疑問なんだけど……カートはなんであんな態度を取るんだ? 高等学院でああいう身分を笠に着た態度がダメなのは誰でも知ってることなんだろ? しかもオーグに直接注意されてそれでも尚改善しないのは違和感しかないんだけど」
シンが眉間に皺を寄せながらクラスメイトたちに尋ねているが、そんなの答えは決まってるでしょうよ。
性根が腐ってるか反抗期かのどっちかだろ。
「正直、自分たちも戸惑っているのですよ」
「拙者たちは貴族や富裕層が通う中等学院に通っていたので御座るが……」
「その学院に奴も居たんだ」
「え、そうなの?」
そんな話を始めたってことは中等学院時代は今みたいな言動は取ってなかったってことなのかな?
だとしたら反抗期ってことで話は終わりなんじゃないの?
「アイツは確かに自信家ではあったがあんな身分を笠に着たような態度は取っていなかったハズだ」
「そうですね。自分は男爵家ですから彼より身分は低いのですが、彼からあのような態度を取られたことはありません」
「ふーん……」
中等学院時代のリッツバーグくんは自信家で多少気位は高かったけど、そこまで他者を見下すようなことはしていなかったのか。
だったらやっぱり拗らせた反抗期なんじゃないの?
「そういえば殿下、確か中等学院3年の時に学院に来た先生に声を掛けられたことがありませんでしたか?」
「あぁ……あったな。確か魔法の教師だったか」
「えぇ。『キミたちには素晴らしい才能がある。私の研究会に参加しないか』とそれなりに魔法を使える生徒に片っ端から声を掛けていましたね」
「そうだったな。あまりにもあちこちに声をかけていたから胡散臭くてな。結局誘いには乗らなかった」
「拙者……声を掛けられていないで御座る……」
ユリウスに声を掛けないなんてその先生の目は節穴なんじゃないの?
確かにユリウスは「放出系は不得手」とは言っているけど、《身体強化》の練度は高いし魔力制御も上手だよ。
ホントにおめめついてるの?
「それで、そのポンコツ教師がどうしたって?」
「ポンコツってお前……」
ユリウスの才能を見抜けなかったんだからポンコツでしょうよ。
「確か……カートがその先生の研究室に通っていたと思うんです」
「ほーん、で?」
「その研究室に通うようになって魔法の実力が相当上がっていました。その頃はちょっと魔法の実力を鼻にかけるくらいだったのですが……」
だからそれで「自分は実力がある! 天才だ」って勘違いしてイキってる反抗期なんでしょ?
上には上がいるんだよ。武術の天才にして魔法も使える俺の上にもばあちゃんがいるんだから間違いない。
「へぇ、そんな凄い先生だったのか?」
「まぁ、確かに実力はあったな。しかも見た目もあって割と人気もあった。胡散臭かったがな」
「見た目?」
「ええ。目が見えないらしくて両目を覆うように眼帯をしていたんです。それでも普通に行動していたものですから……」
ありゃ……ユリウスの実力を見抜けないおめめはいらないよねとか思ってたらマジに見えてなかったパターンですか……
「それでなんで慕われるんだ?」
「何でって……魔力による周囲の感知は出来ますが、それは魔力を持った生物に限られるじゃないですか。無機物には効かないことは知っているでしょう? ということはあの先生はそれ以外の魔法を使っていたということです。正直、殿下が仰らなければ自分も研究室に通いたかったくらいです」
「胡散臭かったからな」
ふむ、ということは実はその先生目は見えているのに隠している可能性もあったりするのかな?
実は家系的に特徴的な目の色をしてるから隠してるとか、眼帯がかっこいいと思ってしてるとかの可能性は無いのかな?
まぁ本当に見えなくて俺やシンと同じく《魔力ソナー》で周囲の物体を感知している可能性もあるんだろうけど。
「正直それが関係あるのかはわかりませんが少々気になったもので……」
「そっか。その先生って何者なんだろうな?」
「確か帝国から来たとか言ってなかったか?」
「帝国……」
俺がそのポンコツ教師についての考察をしているうちにも話は進む。
帝国か……名前はかっこいいんだけど、なんだかすごくクソみたいな国だって聞いた事がある。
正直俺がこのアールスハイド王国ではなくそのブルースフィア帝国に生まれていたら
武術とは理不尽に搾取される弱者を救うためにあるからね。
かと言って今から帝国に俺が殴り込んじゃうと王国と帝国の戦争に発展しかねないから今は動けない。
将来学院を卒業したら身元を隠した上で武者修行と称して帝国に行ってみるのはアリかもしれない。
「しかしあれだけ魔法が――」
「だからこそ――」
その後もシンとオーグ、トールを中心として話は続いたが、どうやったら搾取され続けている帝国の平民を助けられるか考えているうちにマーカス先生がやって来て朝のホームルームが始まった。
「今日は午後から研究会の説明があるんだが……お前たちはもう決まっているが一応参加はしておけ」
研究会か……一応俺とトニー、ユリウスも『究極魔法研究会』に所属はしたが俺たち3人は『躁気術』を初めとした武術も鍛えるのである意味別枠だ。
トニーは魔法を優先したいと言っていたのでとりあえず気の操り方だけ教えて先にシンから魔法を学んでもらわなければ。
そしてホームルームが終わり、午前の授業が始まった。
とりあえず寝ないように頑張った。
◇◆
そうして午前中の授業を乗り越え、昼休み。
11人しかいないクラスで別行動するのもアレなので全員で一緒に食堂へと移動してテーブルを1つ占拠する。
「そういえばシン、朝は話せなかったが登下校の送り迎えはどうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、カートが自宅謹慎になっただろう? そうすると学院にも街中にも危険は無くなるじゃないか」
「まぁそうだな」
「ならばもう送り迎えの必要は無いのではないか?」
「そうだな。もう護衛は必要ないかもな」
俺が骨付き肉から肉を外す作業に没頭している間にシンとオーグがそんなことを話し始めた。
少し気になったのでチラリとシシリーの方へと視線だけを向けて確認すると、シシリーは表情を曇らせ俯いてしまっていた。
「そう……ですよね……護衛……ですもんね」
これはかなりショックを受けているようだ。
一緒に登下校をする必要が無い話でここまで落ち込むとか……シシリー絶対シンのこと好きじゃん。
「けど、護衛じゃなきゃ一緒に通学しちゃいけないのか?」
「えっ?」
「家は同じ方向なんだし……一緒に通学したっていいだろ。駄目か?」
シンも若干唇を尖らせている。
これはシンもシシリーと一緒に通学したいということなのだろう。
もうさっさと付き合っちゃえよ。
「だ、駄目じゃないです! そ、そうですよ、同じ方向ですもん、一緒に通学したっておかしくないです!」
シシリーは立ち上がり、そう叫んだ。
すると当然食堂に居る生徒たちからの視線が集まる。
「あっ……すみません……」
「もうシシリー、興奮し過ぎぃ」
「ち、ちがっ……」
「マリアも一緒に通学するんだろ?」
「勿論! 元々シシリーと一緒に通学する予定だったし。それともお邪魔かしら?」
「いや別に? それにどうせルカ兄も一緒だし」
「ついで扱いすんなし」
「そそそそそうよマリア! なな何を言ってるの!?」
「クロード、動揺しすぎだ」
というか今の一連の流れでシシリー一切俺の方見てないんだよね。
ナチュラルに存在消されてない?
「しかし……いや、さすがだなシン」
「ん?」
「皆の前で『俺と一緒にいろ』などと……いやはや私には真似出来んな」
「そんなこと言ってないよね!?」
「一緒に……」
「シシリーが変なところに引っ掛かってる!?」
いやいやオーグの言う通り言ったも同然じゃないか。
お兄ちゃんは応援してるよ。
「ルカ兄もなんか言って……ってなんでそんな優しげな目で見てくるんだよ!」
「お兄ちゃんは弟が青春してて嬉しい」
「青春って……」
シシリーがナチュラルに俺の存在を消しているのには多少思うところはあるが、裏を返せばシンしか見えていないということ。それはそれで弟が愛されているのだと思えるから俺としては嬉しくなってくる。
「まぁ冗談はさておき一緒に通学するのはいい事だろう。クロードもメッシーナも見目麗しい女性だしな。不埒な輩が寄ってくることもあるだろう」
「ルカ兄がノリノリで乗っかるんだから冗談で場を掻き乱すのはやめてくれ……」
「シンを弄れるチャンスを逃すわけが無いからね!」
「ほらぁ!」
俺とシンがじゃれ合っていると、場の雰囲気は和やかなものへと変わりクスクスと笑い声も聞こえてきた。
「そういえばシンって移動中も《索敵魔法》使ってるわよね? あれ、なんで?」
「ん? なんでって……こっちに害意を向けられたらわかるだろ?」
「害意?」
「シン殿、害意がわかるとはどういうことですか?」
「何ってそのままの意味だけど……王都って人口が多いからか互いに無関心な人が多いんだけど、その中からこっちに害意を向けられたらわかるんだよね」
「いや、わかりませんよ……」
「そう? 俺は《索敵魔法》使わないとわからないけど、ルカ兄は自然とそういう気配を察知して最初は気持ち悪くなってたよ?」
「その話はそこまでね?」
それ以上話すと俺がばあちゃんに膝枕してもらった話になっちゃうから。
「気持ち悪くなっちゃったルカ兄がばあちゃんに――」
「殴るよ? 割と強めのパンチするよ?」
「……コホン、トール、お前魔物狩った事ある?」
「あるわけ無いじゃないですか……この間まで中等学院の生徒だったんですよ?」
「魔物の魔力ってさ、禍々しいというか、気持ち悪いというか……普通じゃないんだ。そういう感じって普通の人間にもあるからわかるんだ」
「魔物の魔力ってことは……」
「ウォルフォードくんは魔物を狩った事があるの?」
「「あるよ」」
あ、ヒューズさんに『ウォルフォード』って呼ばれたからシンと一緒に答えちゃった。
「えっと……ちなみに初めて魔物を狩ったのは何歳の時なんだい?」
「「10歳」」
あ、またハモった。
「「「「10歳!?」」」」
皆もハモった。
「確か……熊だったかな?」
「「「「熊!?」」」」
「3mくらいあったけど、首落として倒したよ」
「あの時はシンがいきなり突っ込んで行くから焦ったなぁ……何で後衛のお前が前に出るんだっていう」
「あの時は『とにかく早く倒さなきゃ』って思って……でも俺よりルカ兄の方が速いんだし、簡単に追い付いてたじゃん」
「踏み込んだ地面抉れたけどね。それにお前、熊の魔物が腕振り上げてビビってたじゃん。ビビるなら突っ込むなよ」
「躱すか受けるか迷っちゃって……」
「戦いでは一瞬の迷いが命取りになるんだから突っ込む前に想定しとけ」
「うん。あの時は助けてくれてありがとう。あの時のルカ兄すげぇかっこよかった」
「兄貴が弟守るのは当たり前なんだから気にすんな」
「それでもだよ」
珍しくシンが素直に褒めてくれたのでなんだかくすぐったい気持ちになる。
「はいはい、恥ずかしいからこの話もう終わりな……って皆どうしたの?」
さっさと次の話題へ移そうとしたのだが、クラスメイトたちは目を見開いて固まっている。
「あれぇ……?」
「えっと……?」
「「俺たち、またなにかやっちゃいました?」」
昨日の魔法実習では確信犯的に驚かせに行ったけど……今回は特に何もしてないよ?