賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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緊急事態……でした

 一体何が皆を困惑させているのかわからず理由を聞くと「全部」と言われ逆にこちらが困惑しているうちに昼休みが終わり、研究会の説明が行われる講堂へと移動することになった。

 

「無駄な時間よねぇ」

「そうだよねぇ、あたしたちもう『究極魔法研究会』を立ち上げるって決めてるもんね」

「カールトン殿、コーナー殿、そう仰られるな。我らだけ参加しなければ反感を持たれてしまうで御座るよ」

「面倒ねぇ……それとユーリでいいわよぅ」

「あたしもアリスでいいよ!」

「わかったで御座る。では拙者のことはユリウスと」

 

 後ろの方でなにやら話しているのが聞こえてくるが、俺としては楽しみにしている。

 だって説明会ってことは『肉体言語研究会』のメンバーたちを実際に見れるってことでしょう?

 

 いずれユリウスとトニーと共に殴り込む予定なのだから相手の実力を知っておくことは大切だ。

 己を知り、敵を知れば百千危うからずってね。

 

「そういえばルカ、ルカが武術を教えてくれるって話だったけど、それはどの流派なんだい?」

 

 俺が『肉体言語研究会』について思いを馳せていると、隣を歩いていたトニーからそんな質問が投げ掛けられた。

 

「流派……」

「うん。僕も一通りの剣術は父から教わってるから、もしかしたら知ってる流派なのかなって思ってさ」

 

 ふむ、全く考えていなかった。

 俺が前世で修めていたのは『鈴木流』だったか『木村流』だったかなんかそんな感じの苗字がそのまま流派の名前になっていたような気がする。

 

 とはいえこの世界で鈴木とか木村とか佐藤とか言っても通じないだろうし、どうしたもんか……

 

「流派の名前……」

「もしかして……無いのかい? まさかオリジナル?」

「うん。逆に聞くけど、『躁気術』みたいに魔力以外の力を使って肉体を強化する技のある流派ってある?」

「うーん……僕の知ってる限りでは無いかなぁ」

「だったら完全オリジナルだね」

 

 まぁミッシェルさんみたいに無意識に気を使って強化してる人はいるかもだけど。

 

「そうなんだ……じゃあとりあえず『ウォルフォード流』ってことでいいんじゃないかな」

「『ウォルフォード流』って……勝手に家名使ってじいちゃんに怒られないかな?」

「大丈夫だと思うよ。武術の新流派にしても商会にしても立ち上げた人の名前を付けるのが一般的なんだし」

「へー、じゃあとりあえず『ウォルフォード流』ってことにしておこう。帰ったらじいちゃんに聞いてみて駄目って言われなかったら決定ってことで」

「わかったよ」

「じゃあそういうことで……シン、お前もウォルフォード流の門下生だから。弟子1号だから」

「なんでだよ!」

 

 だってお前にも武術教えてるし。

 

「シンは未だ『躁気術』も扱えない残念な弟子だけど、お兄ちゃんはお前を見捨てないから!」

「いや、別に……」

「ところで究極魔法研究会って何やるの?」

「ルカ兄の話の飛び方がヤバい! えっと……『皆で魔法を極めましょう』って感じかな?」

「武術は?」

「究極『魔法』研究会なんだら武術はやんないよ。それはルカ兄とトニーとユリウスでやってよ」

「魔法使いだって敵に接近された時のために護身術を身に付けておいて――」

 

 ゾワリ。

 

 話している途中、強烈な悪意を向けられているのを感じた。

 

 どこだ? 方向は? 距離は?

 

「……ルカ兄?」

「シン! 14時方向に《魔力障壁》を張れ! なるべく大きく!」

「えっ?」

「呆けるな早くしろ! 全員《魔力障壁》を展開、オーグ、トール、シシリーは制服に魔力を流せ!」

 

 向けられている悪意を感じ取ることの出来ないクラスメイトたちに手短に指示を出すと同時に《瞬間移動》を発動させて皆の盾になるよう先頭に立つ。

 

「なっ……カート!? 何故奴がここに!?」

 

 俺が《瞬間移動》を使って移動したことで状況を察したのだろう、オーグが驚愕の声を上げるが叫ぶより先に魔力を纏え!

 

 そうこうしている間に詠唱を済ませたようで、リッツバーグくんは直径1m近くはありそうな真っ赤な火球を生み出し、こちらに向けて放ってきた。

 

 今から《異空間収納》を開いて中から『竜裂』を取り出し魔力を纏わせていたのでは間に合わない。

 ちょっと熱いだろうけど直接弾くしかなさそうだ。

 

 気を活性化させて身体能力を上昇させつつ右手に魔力を纏わせそれを風属性へと変換させる。

 

「この……クソガキがぁぁああ!!」

 

 飛んでくる火球に合わせて下から掬い上げるよう手を動かして火球を真上に弾き飛ばした。

 

 やっぱり熱……くないな! シンの火球と比べたら月とスッポンだ。

 

「なんでカートが……」

「自宅謹慎じゃなかったの!?」

 

 後ろでクラスメイトたちが騒いでいるが、とりあえず今は緊急事態だから黙って欲しい。

 

「オーグ! 今のはどう判断すればいい?」

「そうだな……今までは未遂ということで見逃してきたが、今回は未遂は未遂でも殺人未遂だ。到底見逃すことは出来ない」

「その言葉が聞きたかった! だったら正当防衛ってことで何やっても怒られないよね!」

「待て、何をする気だ? まさか殺すつもりなのか!?」

「殺さねぇよ! ちょっと骨の5、6本へし折ってわからせるだけだよ!」

 

 俺をなんだと思ってるんだ!

 

「5、6本ってお前……多くないか? そこは普通1、2本じゃないのか?」

「両手両足プラスアルファ」

「プラスアルファって……」

 

 捕まえたあとちゃんと治すから大丈夫だって。

 治すのはシンだけど!

 

 そうしてリッツバーグくんの処遇について話していると、リッツバーグくんの様子がどんどんおかしくなってきた。

 

「貴様……きさまきさまきさまきさまキサマキサマキサマキサマキサマァァァアアアアア!!」

 

 狂ったように叫び出し、尋常ではない量の魔力を纏い始めた。

 

「なぁシン、オーグ」

「なに?」

「なんだ?」

「あれ、制御出来てると思う?」

「俺は……思わないな」

「私も思わんな」

「やばくね?」

「やばいね」

「やばいな」

 

 あの規模の魔力が暴走したら周囲にかなりの被害が出てしまう。とりあえずさっさと散らせるためにもぶん殴ろう。

 

「シン、俺が行ってぶん殴って魔力を散らせてくる。お前はもしもの時のために障壁貼っといて」

「わかった」

「んじゃ――」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」

 

 俺が《瞬間移動》を発動させようとした瞬間、リッツバーグくんの纏っていた魔力が突如その性質を変え、どす黒く禍々しい魔力へと変貌した。

 

 これって……まさか……

 

「嘘……だろ……」

 

 禍々しい魔力を纏い立ち尽くすリッツバーグくんの目は真っ赤に染まっていた。

 その特徴は――

 

「魔人化……しやがった……」

 

 ――魔人。

 

 かつて一体でこのアールスハイド王国を滅亡の危機に追い込んだ最悪の存在。

 大国であるアールスハイド王国が軍の総力を挙げて魔人に立ち向かったが、討伐することは叶わず。

 これを討伐出来たのは後に『伝説の英雄』と呼ばれることになる賢者マーリンと導師メリダのパーティのみ。

 

 そんな伝説の存在が今、俺たちの目の前に顕現した。

 

「……シン」

 

 幸い魔人化したリッツバーグくんは虚空を見つめ、動き始める兆候は見えない。

 

 ならば今のうちに皆を……シンを逃がさなければ。

 

 かつて魔人を討伐したじいちゃんとばあちゃんよりも強い俺とシンなら魔人と化したリッツバーグくんを倒せるかもしれない。

 だけど……シンをそんな危険な目に合わせる訳にはいかない。危ないことをするのは俺だけで十分だ。

 

「……なんだよ、逃げろって言うなら聞かねーぞ」

「皆を巻き込むつもりか? 皆を守れるのはお前しかいねーんだから弁えろ」

「ぐっ……でも……」

「まずは学院の教師や生徒に伝えて避難させろ。それからじいちゃんとばあちゃん、それとディスおじさんにこのことを伝えて……お前が参戦するのはそれからだ。それまでは俺がなんとか食い止める」

「断る! 俺もルカ兄と一緒に戦うよ!」

「お前……!」

 

 シンは「絶対に引かない」という決意の籠った瞳でまっすぐ俺を見つめてくる。

 

 確かにシンは俺がこの世界で最も信頼を置いている魔法使いだ。俺とシンが組んで戦えば魔人と交戦しても勝てる確率は高いだろう。

 しかし、もしも万が一シンが死んでしまったら……

 それは自分が死ぬことよりも遥かに恐ろしいことだ。

 

「ルカ兄」

「……なんだよ」

 

 どうしたらいい? どう言えばシンは逃げてくれる?

 

 この瞬間にも魔人と化したリッツバーグが動き出すかもしれない。

 時間は無いのに、俺の頭は解決策を見い出せない。

 

「ルカ兄、俺だってじいちゃんとばあちゃんの孫なんだ。ルカ兄の弟なんだ。俺だって戦える!」

「けど……!」

 

 どうする? ぶん殴ってでも意識を奪うべきか?

 いや、それをしてしまうと他の奴らを守れない。そんなことをすればシンは一生俺を恨むことになるだろう。

 

「ルカ兄はいつだって俺を守ろうとしてくれるよね? それは嬉しいことだし、何よりも安心出来る。でも……俺だって守られるだけの存在じゃないんだよ!」

 

 確かにシンは強い。本当に何でもありの全力戦闘をすれば俺ではシンに勝てないかもしれない。

 

 だけど――

 

「……俺は、お兄ちゃんだから。お兄ちゃんには弟を守る義務があるから」

「そんなあのどうだっていいよ! 俺だって戦える! 俺だってルカ兄を守れるんだ!」

 

  そう言ってシンは周囲から魔力を集めて《身体強化》を発動させる。

 そして同時に体内の気を活性化させて身体能力を上昇させた。

 

「お前……それ……」

「ふぅ。まだ発動にちょっと時間が掛かるし練度も低いけど……《混合身体強化》だよ」

「なんで? お前は気を使えなかったはずなのに……」

「ずっと隠れて練習してたんだよ。本当はもっと完成度を高めてから披露したかったんだけどね」

 

 そう言ってシンは少し照れくさそうに笑った。

 

「なぁルカ兄、これなら一緒に戦ってもいいだろ?」

 

 シンの瞳は、とても力強かった。

 それは俺の心の中に『シンと共に戦いたい』という気持ちを芽生えさせるのに十分なものだった。

 

「……わかった。共に戦おう!」

「ルカ兄!」

 

 勿論、シンを守りたい気持ちも残っている。しかし『シンを守りたい気持ち』と『シンと共に戦いたい』という気持ちは両立させられるものだ。

 

「けど俺が前でお前は後衛だからそれだけは守れよ!」

「わかってるよ。もうあの時みたいに考え無しに突っ込んだりしない」

「わかってるならそれでいい。じゃあ、シンは俺が守る。んで……」

「俺がルカ兄を……いや、ルカを守る!」

 

 俺とシンは拳をぶつけ、頷き合った。

 

「シン、戦う前に《ゲート》開いて」

「《ゲート》? 何処に?」

「ひとつは城に、もうひとつは……家でいいかな? 城の方にはオーグと護衛のトールを行かせてディスおじさんに、家にはSクラスの女性陣を非難させつつじいちゃんたちにこのことを報告してもらおうかなと」

「他の男性陣は?」

「ダッシュで逃げつつ学院中にこのことを伝えて避難誘導をして欲しい」

 

 俺がそう言ってクラスメイトたちの顔を見渡すと、クラスメイトたちは硬い表情を浮かべながら頷いた。

 

「よし、ならアイツが動き出す前に――」

「ガァァァァアアアアァ!!!」

「――とりあえず俺が押さえとくからその間に行動を開始しろ!」

 

 俺は即座に気と魔力を操り《混合身体強化》を発動させながら《異空間収納》を開き愛刀『竜裂』を取り出し腰に帯びる。

 

「さて……」

 

 これから俺はシンと共に伝説に挑む。

 

 不謹慎かもしれないが俺の気持ちは昂り、身体の奥からどんどん力が湧いてくる。

 

「ゴァァアアアアア!!」

 

 俺の準備が整うのを待っていたかのようなタイミングで魔人リッツバーグがこちらを向き、再び咆哮する。

 

 しかし既に覚悟は出来ている。

 

 俺の後ろにはシンが……世界で一番頼りになる魔法使いが控えている。

 

 ならばあとはもう、前だけを向いて刀を振るうだけだ。

 

「かかって来いやぁぁああ!!」

 

 魔人リッツバーグに負けないよう、こちらも咆哮を上げて自分を鼓舞する。

 

「ガアッ!」

 

 魔人リッツバーグは纏っていた大量の魔力を炎の魔法に変換して放ってくる。

 

 これは……先程の火球よりかなり強そうだ。

 

「今度は弾くんじゃなくぶった斬ってやんよ!」

 

 足を前後に軽く開いて膝を曲げ、腰を落として前傾姿勢。

 左手で竜裂の鞘を握って鯉口を切り、右手を柄に軽く添える。

 

 昨日の授業で作った『ルカ像』と全く同じ構えを取った。

 

「ウォルフォード流抜刀術……」

 

 ルカは おおきくいきをすいこみ つよく あしを ふみこみ するどく かたなを ふるった!

 

「《風翔閃(極)》!」

 

 振り抜かれた刀から発生した飛翔する風の斬撃は魔人カートの放った魔法をぶった斬り――

 

「ウォル……フォォォオオオドォォオオオ」

 

 そのままの勢いで魔人リッツバーグを真っ二つに両断した。

 

「……えっ?」

「「「「「え……えええええええええ!?!?」」」」」

 

 なんか俺……またしてもやっちゃったみたいです……

 

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