賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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大騒ぎ

 学院が終わり俺、シン、マリア、シシリーの固定メンツwithオーグ一行の7人で帰宅すると、我が家で警備主任を務める門番リーダーのアレックスさんから王城から使者とディスおじさんが来ていると報告があった。

 

 使者の人はわかるけど……ディスおじさん?

 

 不思議に思いながらも俺とシンを先頭に玄関を開き中に入ると、まさかの玄関ホールで何やら話をしているじいちゃんばあちゃんとディスおじさん、そしてその隣で石像のように直立不動の姿勢で立っている使者の人が居た。

 

 なんで玄関ホールで話してるんだよ。応接室かせめて客間で話しなさいよ。

 

「ただいまー。ディスおじさんなにしてんの?」

「おお、おかえり。何、ちょっと事情があってな」

 

 俺が声を掛けると、ディスおじさんは使者の人に視線を向ける。

 

 すると使者の人は懐から何やら書状を取り出し、緊張の面持ちで内容を読み上げた。

 

 どうやら俺とシンの2人は魔人討伐のご褒美として『勲一等』というかつてじいちゃんとばあちゃんも魔人討伐の際に授与された大変に名誉ある勲章を授与されるらしい。

 

 それを聞いたシンは「俺、何もやってない……」と呟いていたが、じいちゃんとばあちゃんが背中に龍と虎を背負ってディスおじさんを詰め始めたので慌てて黙らせておいた。

 

 しかしそんなじいちゃんばあちゃんと対峙したディスおじさんは全身冷や汗ダラダラになりつつもじいちゃんとばあちゃんを説得し、「自分の為ではなく国民の為に」と深く頭を下げじいちゃんたちを納得させてしまった。

 

 ディスおじさんすげぇ、あの状態のじいちゃんとばあちゃんを納得させやがった……

 

 それから応接室へと移動して「詳しい話を聞きたい」と言われたので実際に戦った俺が主体となって話をしていたのだが、いつの間にか話の主導権をシンとオーグに奪われ俺は頷くだけの存在になっていた。

 

 いいもん。気にしないもん。俺よりシンとオーグの方が話が上手いからこれは適材適所なんだもん……

 

 その時にシンが「俺はその場に居ただけで何もしていない」と発言していたが、オーグが「ルカと共に戦う意思を示していたので戦っていたも同じ」という謎理論を展開してシンを無理矢理納得させていた。

 

 俺としてはあの場にシンが居たからこそ覚悟を決めて戦った部分が大きいので特に異論は無い。

 というか1人で叙勲とか緊張するから巻き込みたい気持ちでいっぱいだ。

 というかなんなら俺じゃなくてシンが1人で討伐したことにしてもいいくらい。

 

 双子で顔も遠目に見たら違いはわからないんだし、それでいけたりしないかな?

 

 そして「リッツバーグくんは人為的に魔人化させられた可能性がある」という話になった瞬間、ディスおじさんの顔が凍り付いた。

 

「人為的に魔人させた……だと!? そ、それは確かなのかい!?」

「いや、あくまで推測だよ。確証は何も無い」

「強いて言うなら俺の勘かな?」

「ふーむ……真の武人は本能で物事の本質を理解すると言うが……」

「父上、ルカは頭は悪いかもしれませんが馬鹿ではありません」

「ねぇオーグ、それは褒めてるの? 貶してるの?」

「最大限に褒めている」

 

 だったら頭悪いとか言わないでよ! 俺は勉強を避け続けただけでやれば出来る子……なのかもしれないんだ!

 

「わかった。皆、この事は箝口令を敷く。決して口外してはならない……いいね?」

 

 ディスおじさんは何かに納得したように頷き、そう言った。

 

「良いけど……クラスメイトと担任の先生には話しちゃったよ?」

「それはこちらで対応しよう。各人の家に使者を派遣し口外しないよう伝えておく」

 

 そう言ってディスおじさんは帰って行った。授与式の日程は決まり次第伝えてくれるそうだ。

 学院でオーグから聞くのかうちに遊びに来たディスおじさんから聞くのか……どっちなんだろうね?

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 そして翌日、リッツバーグくん問題が一先ずの解決を見たのでマリアとシシリーの送り迎えをどうするかという話になったが、当面このまま続けることになった。

 

 理由は俺とシンの為。

 

「ほらほら見て! ルカ様とシン様よ!」

「あれが新しい英雄様……」

「はぁ……かっこいいわぁ……」

 

 俺たちが通学のため街を歩いているとそうして色々な声が聞こえてくる。

 

「あ、見て! こっち見たわ!」

 

 そうしてたまたま目が合った女性に向けて微笑みながら手を振ってみる。

 

「あ……あ……私に……私に向けて手を……」

 

 俺が手を振った女性は顔を真っ赤に染め、その場にへたりこんでしまった。

 

 なにこれ面白い……

 

「はぁ、ルカ、あんたなにやってんの?」

「何って……ファンサービスだけど」

「ファンサービスって……」

 

 すぐ隣を歩いていたマリアが呆れているが、これは仕方の無いことなのだ。

 

 だって――

 

「シンくんと一緒に居るのは私の意思なんです。私の意志を否定しないでください」

「シシリー……」

「シンくん……」

 

 ほらね。

 

「シンとシシリーはイチャつくことに必死で周りが見えてないじゃん? だからシンの分までファンサしとこうかなって」

「そもそもファンサービスって必要あるの?」

「多分無いね」

 

 けどブスっとして歩いてるより気さくに手を振りながら歩いてる方が雰囲気良くなるでしょ?

 

 そんなことを話しながら学院に登校すると、校内でもやけに視線を感じる。

 

「ルカ兄、めっちゃ見られてる……」

「そりゃそうだろ。別に話し掛けてきたりするわけじゃないんだからほっとけほっとけ。でも挨拶されたら返しておかないと印象すげぇ悪くなるから注意な」

 

 街中とかなら笑顔で手を振っても直接話し掛けられることは少ないけど、学院内でそれをやったら秒で囲まれるので挨拶をされたら返すに留める。

 

 そうして教室へと入ると、クラスメイトたちはいつも通りに迎えてくれた。

 

「おはようお前たち」

「おはようございます殿下。聞いてくださいよ! ルカが通学中道行く女性に笑顔で手を振って大変だったんです!」

「落ち着けメッシーナ。しかしルカ、お前またそんなことをしていたのか? 囲まれるぞ?」

「まず女の人にだけ手を振ってた訳じゃないからね? それに外なら案外囲まれたりしないから大丈夫だよ」

「む……」

「学院内で愛想振りまいたら囲まれちゃうだろうからその辺はちゃんと考えて対応するよ」

「ルカ……お前そんなことを考えられるのか?」

「オーグは俺の事馬鹿にしすぎだと思う」

 

 活躍したら囲まれることくらいわかってるよ! 前世学生時代に経験したもん!

 

「ねぇ、昨日あたしの家に国の使いの人が来たんだけど……」

「私の家にも来た」

「僕のところもだねぇ」

「私もぉ」

 

 おや? 今日はアリスも既に来ているのか。感心感心。

 

「学院に来るまで街の様子を見てたんだけどね、みんな『新しい英雄の誕生だー!』って浮かれてたよ」

「それは僕も見たね。でも昨日のルカたちの話を聞いてしまうとねぇ……」

「うん。素直に喜べない」

「私も家族に聞かれたわぁ。話せる範囲で話したら皆興奮しちゃって……私は素直に喜べなかったから変な目で見られちゃったなぁ……」

 

 皆色々思うところはあるらしい。

 

 その後時間になり、マーカス先生が教室に入ってきて今日の連絡事項を告げてくれた。

 どうやら昨日中止になった研究会の説明が今日の午後に行われるそうだ。

 

「連絡は以上だが、昨日の騒ぎで学院中が浮ついている。特にウォルフォード兄弟は気を付けろよ? 出来れば他の生徒と一緒にいてなるべく1人や兄弟だけにならないようにしておけ。囲まれるぞ」

「はーい」

「うへぇ、めんどくさい……」

「お前はいつも通りシシリーとイチャついてればいいよ!」

「い、イチャついてなんか……」

「ないですけど……」

 

 既にそのセリフがイチャついてるんだよ。いい加減自覚しろ!

 

「ルカはわかっているようだが……シン、本当に1人になるなよ? 出来ればルカの言った通りクロードと一緒にいろ。そうでないと……」

「どうなるんだ?」

「女に囲まれるぞ……」

 

 オーグは俺に乗っかってシンを揶揄っているのかと思ったが、どうやら実体験のようだ。

 表情が本当に面倒くさそう。

 

「マジか……」

「わ、私がシンくんを守ります! 一緒にいます!」

「シシリー……」

「シンくん……」

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「ちょ……ルカ兄いきなり何を言い出すのさ!」

「ちゅーするんでしょ?」

「しねーよ!!」

「はうぅ……」

 

 シンもシシリーも真っ赤になっている。ホント早く付き合っちゃえばいいのにね。

 

 こうして教室内は明るい雰囲気に包まれ、いい感じに朝のホームルームは終了した。

 

 その後の授業は頑張って起きていたとは思うんだけど、授業内容はさっぱり覚えていなかった。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 そして午後、昨日中止された研究会の説明が改めて行われた。

 説明は特に問題無く終わったのだが、終わった直後に問題が発生していた。

 

 俺とシンが複数の上級生に囲まれたのだ。

 

「ウォルフォードくん! 是非とも……是非とも我ら『攻撃魔法研究会』へ!」

「俺、攻撃魔法苦手なんで……そういうのはシンに言ってください」

「ルカ兄やめろ!」

「メリダ様から直々に付与魔法を教えて貰ってるなら『生活向上研究会』に!」

「俺、付与文字1文字書くのに10分近く掛かる子なんで……そういうのはシンに言ってください」

「やめろって言ってるだろ!」

「ウォルフォードくん! 英雄のお孫さんである貴方たちこそ我ら『英雄研究会』が求めていた人材そのもの! 是非うちに!」

「外であんまりじいちゃんとばあちゃんの話をすると折檻されちゃうんで……そういうのはシンに言ってください」

「シレッと俺を生贄に捧げようとすんな!」

「お前たち馬鹿なことを言うな! ウォルフォードは魔人に剣でトドメを刺したんだぞ!? ならば『肉体言語研究会』しか有り得ないだろう!?」

「あ、『肉体言語研究会』にはそのうち顔出しますんで」

「おお! 何時でも大歓迎だ!」

「そこには行くんだ……」

 

 一番の目的は鍛えたトールとユリウスによる道場破りに変わりはないのだが、魔法学院に居るトレーニーたちと顔を繋ぐことも大切かと思ったのだから当然だ。

 

 昨日魔人リッツバーグと戦って思ったけど、やっぱり魔法使いも少しくらいは体を鍛える必要があると思う。

 だから筋トレについての情報交換がしたいのだ。

 

 しかしこうも囲まれて次々に声を掛けられるのもいい加減鬱陶しくなってきたな……

 

「俺たちは新たに研究会を立ち上げますので既存の研究会には所属しません! じゃ、そういうことで!」

 

 俺はシンの腕を掴んで《瞬間移動》を発動させて囲まれていた中心から脱出した。

 

「き、消えた!?」

「何だ!? 何が起こった!?」

「これが新たな英雄の実力か……」

 

 なんだかザワついていたがそれを無視して俺とシンは足早に講堂を後にした。

 

 これで安心、そう思ったのだが――

 

「あ、あの! ウォルフォードくんたちが研究会を立ち上げたって聞いたんですけど!」

「私も入れませんか!?」

「僕も入りたい!」

「俺も!」

 

 今度は同級生たちに囲まれてしまった。

 

「だああ! ちょっと待って! そんな一斉に言われてもわかんないから!」

「お客様! お触りはご遠慮ください! 当店はそのようなお店ではございません! お触りは……触んなっつってんだろうが!」

「うわっ!? いきなりキレるなよルカ兄!」

「だってあいつ俺のお尻触ろうとした!」

 

 俺は1人の男子生徒を指さして奴の罪を告発した。

 

 今回は避けるだけにしたけど、次触ろうとしたらその腕へし折ってやるからな! お前は出禁だ!

 

「ちょ……! 道開けて! ルカ殿がキレて暴れ出す前に道を開けて!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛めんどくせぇ! お前ら一列に並べ! 俺と勝負して勝ったやつだけ研究会に入れてやんよ! 喧嘩無礼講じゃぁぁああ!!」

「ああ……キレちゃった……」

 

 別にキレてないよ? 魔人討伐をした俺に挑む度胸のあるやつだけ残るようにふるいにかけただけだよ。

 俺をキレさせたら大したもんだよ。そいつは入会させていい。

 

「お前たち! 何をやっている!」

 

 研究会の入会希望者を一列に並ばせようと声を上げていると、マーカス先生が慌てたように駆け寄って来た。

 

「アルフレッド先生! ルカ兄が……ルカ兄がキレちゃった!」

「なんだと!? 一体なぜ……ってこいつらは研究会の入会希望者か?」

「そうみたいです。囲まれて揉みくちゃにされてたらルカ兄が『俺に勝てたなら入会を認める』なんて言い出して……」

「そうか……わかった、俺が入会審査をしてやる! 入会希望者は俺の前に並べ!」

「ルカ兄! ほら、今のうちに!」

「あ゛あ゛!?」

「ばあちゃんにチクるよ?」

「よし、シン! さっさとズラかるぞ!」

 

 こうして俺たちはマーカス先生に全てを押し付け逃げ出した。

 

 俺たちが去った後、マーカス先生による入会審査が行われAクラスから『マーク=ビーン』という男子生徒と『オリビア=ストーン』という女子生徒が我ら『究極魔法研究会』に入会することが決まったらしい。

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