マークの家に向かうために校舎を出た瞬間、俺はとあることを思い出した。
「あ……」
「ルカ、どうしたのだ?」
「ちょっと忘れ物しちゃった。すぐ追いつくから皆は先に行ってて!」
「先にと言われてもな……別に少しくらいなら待つし、何なら一緒に行ってもいいぞ」
「ちょっと時間かかるかもだから大丈夫! 俺は気と魔力で追いかけられるから先行ってて!」
「お、おい!」
オーグに引き止められそうになったが、話を強引に打ち切って俺は校舎の中に戻る。
そしてそのまま少し待ち、シンたちの気配が離れて行ったことを確認してから改めて校舎を出て1人で講堂の裏へと向かった。
◇◆
俺が講堂裏にやって来ると、そこに居たのは赤、青、緑と様々な色のリボンを身に付けた複数の女子生徒たちだった。
彼女らは俺が授業の合間の休み時間にお花を摘むために単独行動している時に手紙を渡してきた女子生徒たちで、その手紙には示し合わせたかのように研究会が終わるこの時間を指定して講堂裏にある大きな木の下に来て欲しいと書いてあったのだ。
人数は……5人か。
全員が全員を警戒している様子から決して示し合わせたわけでは無さそうだ。
おそらく「講堂裏の大きな木の下で告白すれば成功する」みたいな都市伝説でもあるのだろう。
さて、指定された場所はあの木の下なのだが、そこには緑のリボンを身に付け俯いている女子生徒が1人……
まずはあの人に話し掛ければいいのかな?
「こんにちは」
「ウォルフォードくん……」
俺が声を掛けると、女子生徒は顔を上げて俺に視線を合わせてきた。
ふむ……とても可愛らしい人だけど、鍛え方が足りない。
あと2年くらいは筋トレして欲しい。
「ウォルフォードくん……私と付き合ってください!」
目の前の女子生徒の筋肉量を確認していると、前置きもなく突然告白されてしまった。
さて……どうやって断ろうかな?
「ありがとうございます。ところでまずお聞きしたいのですが……」
「……なんでしょうか?」
「俺たち初対面だと思うんですけど、何故俺なんですかね?」
「それは……」
まぁ手紙を受け取った時点で理由はわかってるんだけどね。
この人は……というよりここに集まっている女子生徒全員が『英雄と付き合いたい』という下心から俺に告白しようとしている。
別に『ルカ=ウォルフォード』という個人が好きなわけではなく俺の肩書きに告白してる感じ。
そういう感情はガッツリ気配に現れるから手紙を受け取った時点でお断りすることは確定しているのだ。
「ま、魔人と戦っている姿を見て……それで……」
「そうですか。ちなみに俺の名前はわかります? 兄のルカと弟のシン、どっちだと思いますか?」
「えっと……」
なぜ告白してきたのかという質問には答えてくれたので間髪入れずに次の質問をすると、女子生徒は困ったようにソワソワし始めた。
これ、完全に俺とシンの見分けが付いてないよね?
「えっと……シン、シン=ウォルフォードくんですよね?」
「残念、俺はルカです。申し訳ありませんが俺とシンを見分けられない人とお付き合いをするつもりはありませんので今回は縁が無かったということで」
「あっ……」
俺がそう答えると、女子生徒は大きく目を見開いた後、肩を落としてその場を去っていった。
自分から聞いといてアレだけど、まさかガチで間違われるとは思わなかった……2分の1なんだからせめてそれくらい当ててくれないと話にならない。
緑リボンの女子生徒が去った後、次に木の下にやって来たのは青のリボンの女子生徒だった。
先程の緑リボンの女子生徒に負けず劣らず綺麗な顔立ちをしているが、全体的にちょっと柔らかそう。
決して太っているわけではなく、むしろ日本人男性なら一番好きであろう体型なのだが、俺の好みからは外れている。
シンなら絶対「好き」って言うだろうなぁ……シシリーが居なければ。
「ルカ=ウォルフォード! 私わたくしと結婚を前提に付き合いなさい!」
「……えっ?」
けっ……こん?
「わたくしはトアール侯爵家の跡取り娘です。わたくしと結婚すれば貴方はその強さだけではなく地位や名誉、お金が手に入りますわ! だからわたくしの
「普通に嫌です」
「なんでですの!?」
むしろなんでこれで俺が頷くと思ったんだろ?
「別に地位とか興味無いですし、お金は災害級の魔物倒せばいっぱい稼げるって聞きましたし、名誉は……なんか魔人討伐したからって表彰されるらしいから既に手に入れてますし……俺にメリット無いですよね?」
「衣食住は最高の物を用意しますわ! 貴方は好きなだけトレーニングをしてくれて構いません」
「今の生活気に入ってるんで別にいらないです。それに……」
「なんですの?」
「『トレーニングしてもいい』と言われましても先輩は全くしてないでしょ? 説得力無いです」
「わたくしは……」
「それと俺の好みは『鍛えて引き締まってる女性』なんで先輩はちょっと好みじゃないですね。せめて腹筋を割ってから告白してください」
「なッ……!?」
割と失礼な事言ってる自覚はあるけど、めっちゃ上から目線で来られたんだからこれくらい言ってもいいだろう。
嘘はついてないし。
「そういう事で……お引取りを」
「……」
「お引取りを」
なんだか粘りそうな雰囲気だったが、にっこり微笑むと女子生徒は苦々しそうに顔を歪めて去って行った。
それから残り3人の告白を受け、その全てをお断りした。
「つ……疲れた……」
前世でも経験はあったと思うのだが、やはり告白されたのを断るというのは精神的に結構しんどい。
シンにはシシリーが居るのでこういうことは無さそうだが、その分が全部こちらに流れてくると考えるとゲンナリする。
かと言って好きでもない相手と付き合って壁にするのも憚られるし、どうしようかと考えていると遠くからなにやら爆発音のようなものが響いてきた。
キョロキョロと周囲を見渡してみるが、見える範囲で何かあったようには見えない。
「……何事?」
とりあえずここに居ても何もわかりそうにないので周辺で一番高い建物である学院の校舎の屋根の上へと《瞬間移動》を使って移動して改めて周囲を見渡してみる。
すると、少し離れた場所に屋根と壁に大きな穴が開いている建物を発見した。
「多分あの建物かな? 誰か魔力でも暴発させ――」
少しでも中の様子が見えないかと今度は目に気と魔力を集中させて見ていると、屋根に開いた穴の上空に巨大な魔法陣が展開された。
「あれは……」
見た事がある。あれはシンがばあちゃんたちに魔法のお披露目をした時に使った《ソーラービーム》の魔法陣だ。
確か太陽の光を束ねて強力な熱光線にして打ち落とす魔法だって言ってたけど、なんでそんな魔法を使おうとしているのか……
「って戦闘しかないよなぁ……」
あれはれっきとした攻撃魔法なので使うとすれば戦闘中しか有り得ないだろう。
誰かに見せるにしてもこんな街中で建物の屋根に穴を開けてまで見せるものではないのだから。
しかし、シンがあの魔法を使うほどの相手がこの王都に存在するのだろうか?
仮にシンが魔人リッツバーグと単身で戦ったとしてもおそらくあの魔法は使わない。使う必要が無い。
ということは……
「もしかして……リッツバーグくんを魔人化させた黒幕……もしくは別の魔人と対峙してんのか?」
それしか考えられない。
「クソッ! こうしちゃいられない」
即座に《瞬間移動》を使おうと魔力を集め始めた瞬間、空に浮かぶ魔法陣から光が落ちた。
「……」
急いで向かわなければと思っていたが、よく考えたらあの魔法は発動すれば俺でも避けられないある意味勝ち確みたいな魔法なのだから別に俺が焦って参戦する必要も無かったかもしれない。
むしろ俺が前に出て戦っていれば俺も巻き添えになっちゃうからシンはあの魔法を使えなくなるし。
「まぁ……とりあえず向かいますか」
あの魔法が発動したということは十中八九戦闘は終わっているだろう。
しかし世の中には絶対は無い。万が一敵が《ソーラービーム》を耐えたり避けたりして戦闘が続行された場合、俺がシンの前に立つべきだ。
そうして集めた魔力で《瞬間移動》を発動させようとした瞬間、屋根に開いた穴から何かが飛び出して来るのが見えた。
「あれは……」
即座に《瞬間移動》をキャンセルして気と魔力で視力を強化する。
見えたのは全身に傷を負った銀色の髪を長く伸ばした男。その目は赤く染まっていた。
「……魔人」
やはりシンが戦っていた相手は魔人だった。
魔人は忌々しそうに建物の中を睨み付けた後、そのまま王都の外へと向かって空を飛んで移動をし始めた。
「……空を飛ぶのは反則だと思う」
即座に追いかけてトドメを刺そうと思ったが、俺には空中を自在に移動できる敵に対して有効な攻撃手段があまり無い。
「でもまぁ……そのうちどこかで降りるだろ。降りたところを狙って飛ばれる前に倒せば問題無い」
そう判断した俺は隠密術で気配を消し、《魔力隠蔽》を使って魔力を察知されないようにしてから飛んで逃げる魔人の追跡を開始した。
途中、やっぱりシンの事が心配になったので戦いの舞台となった建物の屋根に寄って天井の穴から確認しておいた。
うむ、無傷のようだ。さすが俺の弟!
でも敵を逃がしちゃってるからお前のお尻はお兄ちゃんが拭いておくね!