賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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真犯人ポイやつと対峙しました

 シンの様子を見てから魔人の追跡を再開する。

 気配と魔力で察知されないよう細心の注意を払いながらしばらく追い掛けていると、魔人は王都の外れにあるなんだか治安の良くなさそうな地区の辺りで高度を下げ今にも崩れそうなボロい建物の影に降り立った。

 

「あそこが拠点……なのか?」

 

 というか魔人が暴れ回ることもせずにひたすら逃げるなんてことがあるのだろうか?

 少し不思議に思いながらも気配と魔力を隠蔽しながらその建物へと近付き顔だけ出して様子を窺う。

 

「はぁ……はぁ……やってくれましたねウォルフォードくん……」

 

 魔人は建物に寄りかかりながらそう呟いた。

 

 魔人が……言葉を発している? もしかしてこいつは完全に理性を保ったままの魔人なのだろうか?

 

「あのままあの魔法を浴び続けたならこの体も消滅していたかもしれませんねぇ……」

 

 つまりこいつはシンのソーラービームを浴びて生き残ったということか……

 俺なら気と魔力を全力で高めて障壁を張っても数秒以内に死ぬ気しかしないのでこいつの耐久力は俺以上なのだろう。

 まぁ、俺は普通の人間なので魔人より耐久力が低いと言われても「そうですか」としか返せないのだけども。

 

「よもや、ここまでの深手を負わされるとは……彼は危険な存在ですね、私の目的に彼が手を出せないように万全の態勢を整えなければ……」

「させると思う?」

 

 こいつよく喋るしこのまましばらく聞いていればリッツバーグくんを魔人化させたと自白するかなと思ったが、体力が回復したのか立ち上がろうとしたので盗み聞きは諦めて直接聞いてみることにする。

 既に混合身体強化は掛けてあるし、竜裂も抜いてあるので戦いになっても大丈夫。

 

「なッ……!? シン=ウォルフォード!?」

「残念、俺はルカでした。さて魔人、一応確認だけしておくけど……諦めて捕まる気は無い? 大人しくするなら命だけは取らないでおいてやるよ」

 

 まぁ両手足は切断するし、魔法を使おうとしたらその瞬間に殺すけど。

 

「逆に提案なのですが……見逃しては頂けませんかね? 見逃して頂けるなら私は二度とアールスハイド王国に手は出さないとお約束しますので」

「却下」

 

 こいつの言い方的にアールスハイドには手を出さなくても他の国には手を出すつもりなんでしょう?

 魔人が暴れたら多くの力無き市民が命を落としてしまう。そんなことをさせるつもりは無いんだよね。

 

「そうですか……残念です」

 

 魔人はそう言うと魔力を集め始めた。

 

「仕方ない……せめてもの慈悲に一撃で楽にしてやるよ」

 

 魔力を集めるということは反抗するということ。

 なので魔人が魔法を使う前に確実に一撃で首を刎ねるため竜裂の柄を強く握る。

 

「くっ……」

「あの世でリッツバーグくんに詫びて来い」

 

 刀を振ろうとした瞬間、強烈な『死の気配』を感じた。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟にその場を飛び退いた瞬間、魔人が凭れ掛かっていた建物の壁を砕き剣を持った男が飛び出してきてつい先程まで俺が立っていた空間を斬り裂いた。

 

「ふむ、殺気は完全に抑えていたハズだが……これを躱すか」

「……何者だ?」

 

 男が飛び出して来るまで俺はこいつの気配を察知出来ていなかった。

 今の攻撃を躱せたのはほぼ偶然だ。

 

 男は革製の篭手と胸鎧、臑当てを身に付け刃渡り1m程のロングソードを持っている。

 ダークブラウンの髪と瞳の30代半ばくらいで、当然見た事は無い。

 

「名乗る程の者では無い。しかしこいつを殺させる訳にはいかんでな」

 

 そう言って男は剣を構え、殺気を放つ。

 

 この気迫……こいつはおそらくミッシェルさんよりも強い。

 

「そっか……つまりあんたはこの魔人の味方ってことでいいんだな?」

 

 俺も刀を中段に構え、気と魔力を練り上げる。

 

「そう言っている……行くぞ!」

 

 男はそう言ってから爆発的な踏み込みで斬りかかって来た。

 

「フッ!」

 

 振り下ろされる剣に対し刀を斜めに構え、剣が触れた瞬間に手首を使って相手の剣撃を滑らせ受け流す。

 

「くっ……!」

 

 攻撃を受け流された男が体勢を崩した隙に一撃で首を刎ねようと刀の角度を変えた瞬間、左から魔法が飛んでくるのを感知したので体を捻って回避する。

 

「はぁぁあああ!!」

「チッ!」

 

 俺が魔法を回避している間に体勢を立て直した男が逆袈裟に斬り上げてくる。

 

「逃がしませんよ!」

 

 その剣を受けようと刀を動かすが、再び魔法が飛んでくる。

 

 剣を防げば魔法で焼かれ、魔法を防げばこのまま斬られる。選べる選択肢は回避のみ。

 

 本当なら瞬間移動で男か魔人のどちらかの背後に移動して首を刎ねてやりたいのだが、俺に『魔法の複数同時起動』なんて器用な真似は出来ないので強く地面を蹴って後方宙返りをして2人の攻撃を回避する。

 ついでに近くに居た男にサマーソルトキックをカマそうと思ったのだが、さすがにそんな攻撃を食らってくれる訳もなく男は体を逸らして俺の蹴りを回避した。

 

「ちょこまかと!」

 

 俺が着地する瞬間を狙って男が連撃を放ってくる。

 

「遅い!」

 

 その攻撃全てを弾き、躱し、受け流す。

 そうして出来た隙に攻撃を滑り込ませようとするが、再び放たれた魔人の魔法により俺の攻撃は中断される。

 

 クソっ、剣士と魔法使いの連携がウザすぎる!

 

「まさかミッシェル=コーリングの他にここまでの使い手が居ようとは思わなかった」

「ルカ=ウォルフォードは魔人化したカートを一撃で屠った剣士です。油断しないで下さいね」

「無論!」

 

 今度は魔人が先に魔法で攻撃を仕掛け、俺がその魔法に対応しようとする隙をついて男が剣撃を放ってくる。

 

「うぜぇぇぇえええ!!」

 

 男の剣を回避しながら竜裂を魔力でコーティング。

 バットのようにして魔人の魔法を打ち返した。

 

「なッ!?」

 

 魔人はまさか打ち返されるとは思っていなかったのか、慌てて魔法障壁を展開して自分の放った魔法を防いだ。

 

 チャンス到来!

 

 これで魔人からの援護は数秒入らない。

 なのでこの数秒の間にこの男を討ち取ってやんよ!

 

「奥義『瞬迅剣』!」

 

 しっかりと『タメ』を作れなかったので最大攻撃回数である15回の連撃は放てず、9連撃になってしまったがまぁなんとかなるだろう。

 これで死ななくても多分行動不能にはなると思う。なって欲しい。

 

「ぬぅぅうう!!」

 

 男は目を見開き、体と剣を動かす。

 同時に男の体内を流れる気の量が一気に増え、活性化するのを感じた。

 

 これは……やっぱり防がれるかもしれん。

 

 唐竹……弾かれる。

 袈裟斬り……弾かれる。

 右薙……弾かれる。

 右斬上……入ったが、浅い。

 斬上……股間狙い故か男の本能で全力回避。

 左斬上……弾かれる。

 左薙……それなりに深く斬り付けたが、致命傷には至らず。

 逆袈裟……右肩から左腰に掛けてかなり深い傷を与える。

 突き……心臓を穿くつもりで放ったが、体をずらされたことで右肩を穿くに留まる。

 

 大ダメージを与えることには成功したが、しかし男は生きている。まだ、動く。

 

「イヴァンくん!」

 

 俺の予想よりも早く魔法を防ぎ切り、魔法障壁を解いた魔人が魔法を放つ。

 

「ぬぁぁぁぁあああああ!!」

 

 満身創痍でありながらも未だ闘志衰えぬ男が『瞬迅剣』を放った直後で硬直している俺目掛けて剣を振るう。

 

 回避は……間に合わない。2つの攻撃を同時に防ぐ以外に生き残る術は無い。

 

「おおおぉぉぉおおお!!!!」

 

 技後硬直で動かない体を無理やり動かし、左手を魔力で覆って飛んでくる魔法を魔人リッツバーグの魔法を弾いたのと同じように上空に向けて弾き飛ばす。

 右手だけで竜裂を握り、男の振るう剣の軌道に滑り込ませて男の剣を防ぐ――

 

「ここだ!」

 

 俺の刀と男の剣が接触した瞬間、男の剣が怪しく輝き竜裂の刃を粉砕した。

 

「がぁぁぁあああ!!」

 

 咄嗟に地面を蹴り、体を捻じることで首を刎ねられることは回避したがその代償として右腕を肘の辺りで切断されてしまった。

 

「好機!」

「んなわけ……あるかぁぁぁあああ!!」

 

 武器と片腕を失った俺にトドメを刺そうと大振りになった男の顔面に渾身の左ストレートを叩き込む。

 

「ぐっ……」

「させません!」

「そりゃこっちのセリフだよ!」

 

 左ストレートを放った直後、混合身体強化を解除して瞬間移動を発動。魔法を放とうとしていた魔人の背後に移動して首をへし折るつもりで回し蹴りを食らわせた。

 

「グガッ!?」

 

 俺の蹴りをまともに食らった魔人は吹き飛び、男が出てきた建物の壁に突き刺さる。

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

 その間に復活した男が振り下ろして来た剣を体をコマのように回転させながら回避、その勢いのまま飛び上がり男の側頭部目掛けて空中後ろ回し蹴りを放ったが、読まれていたようで逆に足を男に掴まれてしまった。

 

「やべっ……」

「ぬぅぅううん!」

「あぎッ!?」

 

 そのまま地面に背中から叩き付けられるが、背中を中心に気を集めて防御力を上げつつ風魔法でエアバッグのようなものを創って衝撃を緩和させなんとかダメージを最小限に抑える。

 

「はぁっ!!」

 

 地面に叩き付けられバウンドしている俺目掛けて放たれた魔人の爆発魔法を全力で張った魔法障壁で防ぎ、土煙に隠れて振り下ろされた剣を地面を転がって回避する。

 

 やべぇ、普通に死にそう!

 どっちか1人なら勝てる相手なのに2人同時だと勝てる気がしねぇ!

 

「中々しぶといですねぇ……」

「早いところ決めてしまわないと私もそろそろ限界だ……」

 

 魔人の方はまだ戦う余力が残っていそうだが、男の方は全身から血を流しておりそう長くはたたかえないだろう。

 

 かくいう俺も斬られた右腕からかなりの量の血を失っており、割とガチで意識が飛びそうだ。

 

「くそぅ……」

 

 男と魔人が話している隙に火魔法を使って火球を創り、右腕の切断面を焼いて止血をし、痛みで意識をハッキリさせる。

 

「武器を失い、腕を失い、それでもまだ立ちはだかるか」

「お前らを逃がしたら世界がえらいこっちゃになりそうだからね……」

「そうですか……しかし我々もこんな所で捕まる訳にはいきませんので、そろそろ逃げさせて頂きますね」

「させると思うか?」

 

 命にかえても……とまでは言わないけど、せめてどっちかだけは息の根を止めておきたい。

 

「ククク……その体でこの攻撃が止められますかねぇ?」

 

 魔人は大量の魔力を集め、巨大な火球を生み出した。

 

 アレは……シンの《蒼い炎》に匹敵する威力と熱量がありそうだ。

 

 しかしいくら強力で広範囲の魔法を撃たれても瞬間移動を使って回避すれば問題は――

 

「ルカ=ウォルフォードくん、貴方ならこの魔法も容易く回避出来るでしょうが……貴方が避けたら一体何人の王都の民が焼け死ぬでしょうね?」

「なっ……」

「では……死になさいッ!」

 

 魔人が放った火球は直径10mに迫るほどの巨大さを誇っている。

 

 回避は封じられた。ならば防ぐか弾くかしか無いのだが……俺の魔法障壁でこの火球は防げない。

 よしんば防げたとしても俺以外の周囲は完全に燃え尽きてしまうだろう。

 それでは多くの犠牲が出てしまう。なのでこの火球を被害が出ないよう上空へ向けて弾くしかない。

 

「マジかよ……」

 

 今、俺には右腕が無い。竜裂も無い。

 その両方、もしくはどちらかだけでもあればなんとか弾けるだろうが、利き腕ではない左腕一本で弾けるだろうか?

 

「出来るか出来ないかじゃない、やらなきゃ多くの犠牲者が出てしまう……」

 

 俺は覚悟を決めて制御出来る限界まで魔力を集め左腕に惑わせる。

 同時に焼け石に水かもしれないが体内の気を操作して全身の防御力を上昇させておく。

 

 そして拳を強く握りしめ、膝を曲げて腰を落とした。

 

「やれば出来る! いくぞー!!」

 

 ルカは ぜんしんを ふかく しずませ からだの バネを つかって じめん すれすれから こぶしを つきあげた!

 

 ――ウォルフォード流格闘術奥義『打上花火』!!

 

「うぉぉぉおおおらぁぁぁあああ!!」

 

 俺の全身全霊を込めたアッパーは火球を真上にはじき飛ばした。

 

 あっつい!! 今ので左手も使い物にならなくなった!!

 

 しかし炎の玉は弾く事が出来た。これで――

 

 そこで俺の目に入ってきたのは……2射目を構え、先程と同じサイズの火球を放とうとしている魔人の姿だった。

 

「ふはははは! 一撃だけで終わると思いましたか!?」

 

 今の武器と右腕を失い、左半身にはかなり酷めの火傷を負っている。

 気も使い果たし、集めていた魔力も使い切ってしまっている今、俺にあの大火球を防ぐ術は無い。

 

「これは……さすがに死んだかな」

 

 せめてどちらかだけでも道連れにしてやりたいが、今の俺では文字通りその手段が無い。なんせ文字通り手が無いもので。

 

「はは……」

 

 もうどうしようも無い状況に笑いしか出ない。俺が死ぬのは最早確定事項だろう。

 

 俺が死んだら……じいちゃんとばあちゃん、それにシンは泣くだろう。シンなんて体中の水分全部出るまで泣くんじゃないかな?

 ディスおじさんはどうだろう。ミッシェルさんは? トムおじさんは? クラスメイトたちは泣いてくれるかな?

 

「……泣かせるのは好きじゃないんだけどなぁ」

 

 人を驚かせるのは好きだ。人を笑わせるのはもっと好きだ。

 でも……泣かせるのだけは嫌なんだよなぁ。

 

 せめて……せめて『よく戦った』くらいは言ってもらえるようにもう少しだけ気張りますか。

 

 大火球が届くまでの僅かな間に集められるだけ魔力を集め、全てを魔力障壁に変換する。

 当然それだけでは周辺被害を抑えることは不可能なので、この身を盾とすべく体内を巡る微量の気を掻き集め、少しでも肉体強度を上げておく。

 気を完全に使い果たすと極度の疲労でぶっ倒れてしまうのだが、どうせ死ぬのだから後先は考えない。最後の一滴まで絞り尽くす。

 

「さて……」

 

 申し訳ないが、王都の民の何人かは巻き添えを食って死ぬだろう。

 それでも1人でも多くの民を救うため、覚悟を決める。

 

 ルカは つよく じめんを ふみしめ りょうてを おおきく ひろげて おうとの たみたちの まえに たちはだかった!

 

 迫り来る大火球を睨み付け、今後奴らと戦うことになるであろう最愛の弟に思いを馳せる。

 

「シン、ごめんな……後は任せた」

 

 自分を鼓舞するため雄叫びを上げようとした瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




12時9分に書き上がったぜ!
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