「太陽の光って一種類だけじゃないんですよ。色んな種類の光のうち熱を感じる光だけを集めるイメージを――」
シュトロームを退け、何故爆発が起きたのか不審に思いながらも魔法師団団長であるルーパーさんの質問を答えていると、王都の隅で凄まじい魔力の高まりを感知した。
この魔力は……シュトローム!? やはり生きていたか。
「ッ!?」
「ど、どうしたウォルフォードくん!?」
「話は後ほど! 少し失礼します!」
俺は駆け出し、練兵所を出てすぐにジェットブーツを起動して屋根の上に着地する。
「やっぱり……この魔力はルカ兄の魔力だ!」
でも……なんでルカ兄とシュトロームが戦ってるんだ?
もしかして俺が光線魔法を使ったのをたまたまどこかで見ていてたまたま光線魔法から逃れたシュトロームを見付けて追い掛けて戦闘を仕掛けたとか?
いや、そんな物語の登場人物みたいな……って俺もルカ兄も異世界転生という完全に物語な出来事を経験してるな。
さらに俺はともかくルカ兄の前世は世界でも最古の歴史を持つと言われる老舗大企業の創業者一族に生まれた武術の天才だかで……思いっきり物語の主要登場人物だわ。多分主人公の師匠とかライバルとか。
待てよ? そんなルカ兄に弟子扱いされてる俺はつまり……って今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「ルカ兄なら俺と戦って消耗したシュトロームくらい一撃で倒せるハズ……なのに戦闘が長引いてるってことは……」
もしかして、仲間が居たのか?
考えてみればシュトロームのあの容姿はとても目立つ。
なのに『人間を魔人化させる』なんてとんでもない研究を行い、完成させている。
王都内に協力者が居ても何もおかしくは無い?
「そいつがシュトローム級の手練だったら……」
シュトロームを俺と同じくらいの強さの魔法使いだと仮定して、ミッシェルさんクラスの近接戦闘能力を持つ剣士が前衛を務めたら……
ルカ兄が危ないかもしれない。
「いや、でもルカ兄なら……」
ルカ兄の戦闘能力はハッキリ言って異常なレベルに達している。
ありえないとは思うけど、仮に俺とルカ兄が本気で殺しあった場合勝つのは間違いなくルカ兄だ。
いくら俺の方が魔法の腕に優れていると言ったってルカ兄なら俺が魔法を使う前に殺せるのだから。
だから……そんなルカ兄が負けるなんて姿は想像出来ない。
想像出来ないハズなのに、胸騒ぎが止まらない。
「……考えてたって仕方ない。まずは様子を見に行こう」
様子を見に行って何事も無ければそれでよし、もしも万が一苦戦しているなら俺が加勢すればいい。
そうと決まれば今すぐに――
「シン! いきなりどうしたんだ!?」
「オーグ……悪い、俺ちょっと行ってくるわ!」
「行くってどこに……おい! ちょっと待て!」
オーグが練兵所から出て来て俺を止めようと声を掛けてくるが、それを振り切ってジェットブーツを全力で起動させる。
「おい!!」
叫ぶオーグの声を背に、屋根から屋根へと飛び移る。
しばらくそうして移動していると、俺の索敵魔法に異様な魔力の高まりが引っかかった。
場所は……あそこか!
俺は急いで魔力の高まりが感知された場所がよく見える建物の屋根にゲートを開いて飛び込んだ。
「うぉぉぉおおおらぁぁぁあああ!!」
そこで見たのは直径10mにも達しそうな巨大な火球を上空へと弾き飛ばしているルカ兄の姿。
「ルカ兄!?」
ルカ兄は右手を肘の先から失っており、左半身は先ほど火球を弾いた影響かかなり酷い火傷を負っている。
見るからに満身創痍だ。
そして――そんなルカ兄に向けて2射目を放とうとしているシュトローム。
ルカ兄は一瞬だけ背後を見てからその火球を受け止めるような姿勢を見せた。
まさか……王都を守るためにあの火球を受け止めるつもりなのか……?
あんな状態でシュトロームの魔法を受ければ……骨も残らず燃え尽きてしまうだろう。
「ルカ兄!!」
駄目だ、避けろ。そう伝えたいのに俺の声はルカ兄には届かない。
すぐにゲートを開いて……いや、それでは間に合わない。
ならば今、俺が使うべき魔法は――
自分の周囲とルカ兄の前方の空間を指定し、切り取る。
そして切り取った空間同士が入れ替わるよう強くイメージする。
「間に合えぇぇぇえええ!! 《瞬間移動》!!」
思わず叫んでしまったが、次の瞬間には俺の視界は全く違うものになっていた。
「うぉおおおおおお!!」
全力で魔力を集め目の前に巨大な魔力障壁を展開、同時に制服に魔力を流して《絶対魔法防御》も発動させる。
「……シン?」
背後からポカンとしたような声で俺の名前を呼ぶルカ兄の声が聞こえてくる。
ルカ兄は……ルカ兄のことは絶対に俺が守るんだ!
「はぁぁぁああああ!!」
さらに魔力を集め、その全てを魔法障壁に注ぎ込む。
俺が来たからにはたとえ火の粉一粒だってルカ兄には触れることは許容しない!
「おおおおおらぁぁあああ!!」
気合いと魔力を注ぎ込み、シュトロームが放った火球を打ち消した。
「はぁ……はぁ……」
全力で魔法を行使したため息が乱れるが、そんな事はお構い無しに周囲を見渡しシュトロームを探す。
しかしあの魔法を放った直後に撤退していたのか、周囲にシュトロームの姿は確認出来ない。
「くそっ……逃げられた……」
拳を握り、歯を強く食いしばる。
逆に考えろ……逃げられたことは不覚だが、これでルカ兄の治療に専念することが出来る。
下手に戦闘が長引くとその間にルカ兄が力尽きてしまう可能性だってあったのだから逃げられたことは悪い事ばかりではないハズだ。
「シン……」
「ルカ兄!」
俺は頭を振って無理やり切り替え、すぐにルカ兄の治療を開始した。
「いや、俺のことはいいからとりあえず追い掛けた方がよくね?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! ルカ兄右腕無いし左手も炭化しちゃってるじゃん!」
「右手……落としちゃった」
「普通落とさないから!」
なんでルカ兄普通に受け答えしてくんの!?
「ところでシン、あの魔人ってお前が戦ってた奴だよね?」
「あの魔人ってシュトロームのこと? だったらそうだけど……てかなんでルカ兄負けそうになってたの? ルカ兄ならシュトロームが逃げる前に倒せると思うんだけど……」
俺もそうだけど、シュトロームも戦士タイプじゃなくて魔法使いタイプだからルカ兄に間合いを詰められた時点でほぼ負けが確定すると思うんだけど。
「あの魔人シュトロームって言うの? なんか聞いた事あるような無いような……」
「オーグたちが言ってた中等学院の教師だよ。それで、なんで負けそうになってたの?」
「ま、負けてねーし!」
「両腕使い物にならなくなってあんな魔法撃たれたら負けも同然でしょ」
まぁ背後の王都を見捨てて瞬間移動を使えば両腕が無い状態でもルカ兄なら蹴りだけでシュトロームを倒せてたかもしれないけどね。
それに王都を見捨てるなら左手も失わなかったハズだしね。
まぁ『王都を見捨てれば勝てる』とわかっていても絶対にその選択肢を選ばないのがルカ兄だから仕方ない。
だからこそ俺がルカ兄の背中を守らなくちゃいけないんだ。
「ぐぬぬ……」
「はいはい。で、なんであんな状態になってたの?」
「ああ、シンの言う通りあの魔人……シュトロームだけなら問題無く討伐出来てだと思うよ。だけど助っ人が乱入して来てね」
「助っ人?」
ということはこの王都内にシュトロームの協力者が潜伏してたってことか。
でもいくら2対1だったとはいえそれだけでルカ兄が負けるとは思えない。その協力者も理性のある魔人だったのだろうか?
そう思ったのでその助っ人も魔人だったのかを聞いてみたのだが、ルカ兄は「違う」と言って首を横に振って否定した。
「見た目も魔力も人間だった。まさか人間が魔人に味方するとは思わなくて動揺しちゃったのは認めるけど、それを抜きにしてもかなり強い剣士だった。間違いなくミッシェルさんより強い」
「マジかよ……」
ミッシェルおじさんより強い剣士とシュトロームのコンビか……それならルカ兄がここまで追い詰められてたことも理解出来る。
「いやぁ、さすがに死ぬかと思ったわ。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「ちょっとシシリーの気持ちがわかったよ」
「それは気持ち悪いからやめろ! チラチラこっち見てくんな!」
そんなやり取りをしているうちに炭化しかけていた左手と左半身の火傷の治療が終わった。
「ルカ兄、斬られた右手は残ってる? 残ってるならくっつけるけど」
「あー……多分その辺で灰になってる」
ルカ兄が治ったばかりの左手で指し示した場所を見ると、そこには刀の柄だけが転がっていた。
刀は後で自分で直すだろうからとりあえず回収だけしておこう。
「なら右腕は再生させないとね……さすがに再生となると時間掛かるから帰ってからでも大丈夫?」
「血は止まってるから大丈夫だよ。今は右手より飯が欲しい」
「飯って……まぁあれだけ大怪我してたなら血も足りてないか」
一応止血はしてるみたいだけど、右腕を斬られた時に大量に出血したのだろう。
よく見たら顔色もかなり悪い。
「わかった。じゃあゲートを家に繋ぐからルカ兄は先に帰って着替えて何か食べててよ。皆のところに戻るにはちょっと不味そうだし」
現在ルカ兄は戦闘で服が燃えたのか上半身は裸でズボンもあちこちが破けていてかなり際どい格好になっている。
それでも下着が見えていないのは何らかの不思議な力が働いているのかもしれない。
「わかったー。よろしく」
「うん。じゃあ俺もオーグたちと合流したら一回帰るから」
「りょ」
こうして俺はゲートを開いてルカ兄を自宅に送り、改めて練兵所にゲートを開いてオーグたちのところに戻った。