なんやかんや色々あって翌日、今日は週末で学院は休みなので改めてビーン工房に行こうぜということになったので朝からオーグとユリウス、トールがうちにやって来ていた。
「ルカ、腕を失ったと聞いたのだが……大丈夫なのか?」
「右腕のこと? もう生えたから大丈夫」
「生えたってお前……普通生えないだろ」
「うちのシンは優秀だから。とりあえず生きてさえいればシンが何とかしてくれる」
「いや……ルカ兄自分で治せるじゃん」
オーグが俺の右腕を見ながら尋ねてきたのでドヤ顔で返したのだが、シンはお気に召さなかったようだ。
確かに俺も腕や足を生やすことは可能だが、それは自分限定だからなぁ。シンのように他人の欠損は生やせない。
ちなみに昨日は血と気を失いすぎていたので魔法を使う集中力が無くて自己再生は出来なかったのでシンに治してもらったのだ。
「腕の欠損まで治してしまうとは……」
「魔法の常識知らずで御座るな……」
ソファに座っているオーグの背後で控えているユリウスとトールが小声で話しているけど、全部聞こえてるからね?
「ユリウスとトールも座りなよ」
「いえ、拙者たちは護衛中故座る訳にはいかないで御座る」
「ですので自分たちのことは空気とでも思ってお気になさらず」
だったら喋んなよ。
「コホン……無事でよかった……と言えばいいのだろうか?」
「生きてるしそれでいいんじゃない?」
「軽いな……しかしその状態で帰宅した時は大変だったんじゃないのか?」
「まぁ……大変だったよ」
昨日シンが開いてくれたゲートを抜けて帰宅してからは本当に大変だった。
右腕を失い半裸で帰宅した俺を見た女性使用人が悲鳴を上げ、卒倒した。
その悲鳴を聞き付けて使用人や警備兵が集まってきて玄関ホールは大騒ぎ。
その結果じいちゃんとばあちゃんも玄関ホールに現れてじいちゃんは「ルカをそんな姿にしたのはどこのどいつじゃ!」と犯人をチリひとつ残さず燃やし尽くそうと戦士の顔になったり、ばあちゃんは錯乱して俺に『あーん』して肉を食べさせようとしたり控えめに言って地獄絵図だったと思う。
「大変なんてもんじゃなかったよ。あれはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図」
「俺が帰ったらベッドに寝かされたルカ兄の口元にばあちゃんが肉を差し出してたのを見た時は驚いたよ」
「切り分けてさえもらえれば左手でフォーク持って食べれるって言ったんだけど……ばあちゃんが許してくれなかった」
断ろうとはしたんだけど、あんなに悲しそうな顔をしたばあちゃんは初めて見たから強くは言えなかったんだよね。
「それは……孫が腕を失って帰ってきたのだから仕方ないのではないか?」
「さすがに刺激が強すぎたみたい」
「これに懲りたらもうマーリン殿とメリダ殿にあまり心配を掛けないようにするんだな」
「……肝に銘じます」
烈火のごとく怒ったじいちゃんの顔も今にも泣き出しそうなばあちゃんの顔ももう二度と見たくは無い。
今後は2人に心配を掛けないように……どんな相手と戦っても無傷で勝てるようにならないと。
「それで……昨日はあまり詳しく聞けなかったが、お前がそこまで追い詰められるなんて相手の剣士はそこまでの手練だったのか?」
「そうだなぁ……」
昨日はオーグもシンと共にうちに来たので俺が戦った相手の話もしたのだが、話の途中で俺が寝落ちしてしまったので簡単な概要くらいしか伝えられていなかった。
「確かに強かったよ。わかりやすく言えば……ミッシェルさんが5分持たずに負けるくらいかな?」
「ミッシェル……まさか『剣聖』ミッシェル=コーリングか!?」
「うん、そのミッシェルさん。ミッシェルさんも気を使った身体強化術は使えるようになったけど、敵の剣士はさらに魔法の身体強化も使ってた」
「気と魔力って、まさか……」
大人しく話を聞いていたシンが大きく目を見開いた。
「間違いなく混合身体強化だったよ」
「マジか……」
「使いこなせてはいないみたいだったけどね」
「それって……ルカ兄なら勝てるだろうけど、俺が戦ったとして勝てるのかな」
シンが不安そうに聞いてくるが、こいつは何を言っているのだろうか?
確かに剣士イヴァンはミッシェルさんよりも強いけど、間違いなく俺より弱い。
俺より弱い剣士イヴァンに俺より強いシンが負けるわけ無いでしょうよ。
「1対1ならシンが負けることはまず無いだろうね。てかシンなら魔人シュトロームと剣士イヴァンを同時に相手しても普通に勝てるだろ」
「普通にって……ルカ兄が負けた相手に俺が勝てるの?」
「だってお前俺より強いじゃん」
「えっ?」
「えっ?」
こいつなんでキョトンとした顔しているの? 思わず俺も変な声が出ちゃったじゃんか。
「シン……お前、何言ってんの?」
「ルカ兄こそ何言ってんの? 俺よりルカ兄の方が強いだろ? 模擬戦だって圧倒的にルカ兄の方が勝ち越してるんだし」
「模擬戦はね。けどお前本気出してないじゃん。お前が本気で大規模魔法使ったら俺には防げないんだからなんでもありの殺し合いならお前の方が強いだろ」
「それを言ったらルカ兄は気配と魔力遮断出来るんだから夜中寝てる俺をあっさり殺せるだろ」
「それは戦闘じゃなくない?」
「なんでもありなんだからありなんじゃないの?」
「「うーん……」」
「お前たち、どんどん話が逸れていってるぞ」
俺とシンが揃って首を傾げていると、冷静な声でオーグがツッコミを入れてきた。
「ごめんごめん」
「何の話だっけ?」
「ルカが戦った剣士の話だ。その剣士の特徴などを教えてくれ」
オーグにそう問われたので見た目の特徴や名前などを伝えたが、オーグには心当たりは無いようだ。
それから魔人シュトロームの目的が何なのかと推測をしてみたり、潜伏していた真犯人を見付けた警備隊員凄いよねなんて話をしているうちにマリアとシシリーを迎えに行く時間になったのでシンの開いたゲートを通ってシシリーの家へと移動してマリアとシシリーと合流した。
俺は初めて来たのだが、どうやら空き部屋にゲートを開いて中から逆ノックをして外から開けてもらうシステムになっているようだ。
ぶっちゃけなんの意味も無いような気がしなくもないけど、これでも安心感はあるのかな?
2人と合流した後、この屋敷の主であるクロード子爵夫妻に挨拶をしてから改めてビーン工房へと向けて出発する。
「ルカ、シン。お前たちのことは政治利用も軍事利用もしないと約束しているが、シュトロームがお前たちを狙ってくる可能性もある。この際色々と装備についても相談しておけ」
「だからそれじゃ小遣いが……」
「名刀ってあるかな? いや、刀って無いんだっけ? なら名剣?」
「資金については私から父上に進言しておく。名剣に関しては……ビーン工房の工房主なら素晴らしい剣を打ってくれると思うぞ」
「資金をディスおじさんにっていいのかよ?」
「オーグがいいって言うならいいんじゃね? ディスおじさんなら普通に出してくれそうだし」
「いや、それはダメなんじゃ……」
「俺たち昔ミッシェルさんに剣もらったじゃん? それと一緒だろ。俺の剣はお前に斬られたけどさ」
「それはごめんって……」
「完全に逸れる前に話を戻すが、今回の件は我が国のことだけではなく人類の存亡に関わる可能性がある。今のところシュトロームとやり合えるのはお前たちだけ……マーリン殿とメリダ殿ならやり合える可能性はあるが、あくまで可能性の話だ。いざとなると……お前たちに頼ることになるやもしれん」
「人類の……」
「存亡……」
確かにその可能性は十分有り得る話なんだよね。
シシリーの家に2人を迎えに行く前にも話していたけど、魔人シュトロームはリッツバーグくんを魔人化させた真犯人。
シンたちの話によれば魔人シュトロームはリッツバーグくんを使って実験していたようだし、魔人軍団を結成して人類に戦争を仕掛けてくる可能性も低くはないと思う。
「本当にどこまでも迷惑を掛けてくれるな……」
「居場所がわかればサクッと暗殺してくるけど……何処に居るんだろうね」
「人類存亡の危機を迷惑って……」
「魔人の首魁を暗殺って……」
「拙者たちとは脅威の感じ方が違うので御座ろうなぁ……」
マリア、トール、ユリウスが何やら呟いているが結局魔人シュトロームさえアサシネイトすれば解決なんでしょ? なら俺やるよ。殺ってくるよ。
「お前たちは本当に……」
「まぁ、カートみたいな量産型の魔人に脅威を抱いてないのは事実だし……俺やルカ兄よりシュトロームに狙われる他の人の方が心配だわ」
「その事に関しては一応手を打ってある」
「どんな?」
「例の指名手配か?」
「ああ、さっき言ってたやつ!」
確か『国家反逆罪』で魔人シュトロームを指名手配してるんだっけ?
「そうだ。奴の容姿はわかりやすいからな。赤い目を隠さなければいけない以上あの眼帯は大きな目印になる」
「オーグ、見付けたら俺に教えてよ。俺が殺るから」
「殺るって……」
「俺は魔人シュトロームに半身火傷負わされたからね。お返しに黒焦げにしてやらないと気が済まない」
恩には恩を、仇には仇を倍返し。
なので魔人シュトロームは黒焦げに、剣士イヴァンは両腕を切断してやらなければならない。
「しかし……それは軍事利用になる恐れが……」
「俺もやるよ。ルカ兄を傷付けられたんだ。もう俺たちは当事者なんだから軍事利用にはならないだろ」
「シンきゅん……」
俺のために戦おうだなんて……なんて可愛い弟なんだ!
「そ、そうか……ま、まぁ相手は魔人だからな、油断は出来んが……」
「次は2人相手でも3人相手でもぶった斬ってやる」
「まぁとりあえずは撃退したんだししばらくは行動は起こさないだろ。その間に色々と準備を進めておけばいいさ」
シンはそう言ってニヤリと口角を上げた。
「……何かよからぬ事を企んでないか?」
「今一瞬寒気が……」
「シンくん、ちょっと悪そうな顔をしていましたよ?」
「これは……」
「嫌な予感がするで御座る」
オーグたちも何やら感じることがあったようで、怪訝な顔でそんなことを言っていた。
皆シンを理解し始めたみたいだね。とてもいい事だ。
「んー、別に変なことは企んでないよ?」
「……何かは企んでいるということか」
「い、嫌だなぁ、何も企んでないよ?」
「目が……」
「泳いでいるで御座る……」
シン、お前わかりやすいよ。わかりやすすぎる。
その何かを思いついた時ニヤッとする癖は何とかした方がいいと思う。可愛いけど。
「ほ、ほら! 早く行こうぜ! 喋ってると遅くなっちまう!」
そう言ってシンは話を強引に打ち切り、俺たちに背を向けて早足で歩き始めた。