「ビーン工房にようこそ! 歓迎するッス!」
「皆さんおはようございます」
なんやかんや色々あってようやくビーン工房にたどり着くと、マークとストーンさんが並んで俺たちを出迎えた。
この2人、休日まで一緒なのか……幼馴染と言っていたがこれはもしかして……?
「おはようマーク、オリビア――」
「おはよう2人とも。これは早速……」
「おはようございますオリビアさん、オマークさん。ええ、お話を伺わせて頂かなければ」
「うう……お手柔らかにお願いします……」
俺たちを代表してシンが挨拶をしていたのだが、途中でマリアとシシリーに話をインターセプトされてストーンさんが2人に連れて行かれていた。おそらくあの2人も俺と同じくラブの気配を感じとったのだろう。
「はぁ、女3人寄れば姦しいと言うが……まさにそれだな」
「ええ、あそこには割り込めないです」
「ルカ殿は興味津々のようで御座るが……」
「ルカは恋愛に興味津々らしいぞ。しかしSクラスの女性は好みでは無いらしい」
「そうなのですか? クロードさんは仕方ないとして、メッシーナさんやカールトンさんは美しい女性ですよ? コーナーさんやヒューズさんも可愛らしいと思うのですが……」
「トール、ルカの好みは鍛えられた肉体の女性だそうだ」
「それは……」
「何故ルカ殿は騎士学院ではなく魔法学院に来られたのか……」
騎士学院より魔法学院に来た方が強くなれそうな奴と出会えると思ったからだよ。
それにシンが魔法学院に行くのに俺が騎士学院に行っちゃったら別になるじゃん。そうなると誰も知り合いの居ない学院に通わなくちゃになるじゃん。心細いじゃん。
俺はぼっちにはなりたくない。
「はは……それでは皆さん、工房に案内するッスよ!」
「あ、うん。よろしく頼むよ」
「その事について話がある。工房主は居るか?」
「は、はい! とう……父は工房におります!」
「そうか、なら早速向かおうか」
マークに案内されて正面ではなく工房の裏手にある入口へと向かった。
ふむ、この喧騒や空気は嫌いじゃない。皆真摯に鉄と向き合っているのが感じられてとても心地いい。
「少しお待ちください。父ちゃん! とーちゃーん!!」
工房内に向けてマークが大きな声で父を呼ぶと、工房の奥からいかにも『The・職人』といった感じの親父さんが不機嫌そうに歩み出てきた。
「デケェ声で呼び付けやがってなんだ馬鹿野郎! それと工房ん中じゃ親方って呼べって言ってんだろうが!」
「それどころじゃないんだよ父ちゃん! ホラ!」
「あ゛あ゛!?」
親父さんはドスの効いた声でマークにそう返しながらこちらに視線を向けてくる。
中々の迫力なことは認めるけど、そのくらいじゃ俺はビビんないからな!
「ここにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くもこの国の第一王子、アウグスト殿下であらせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!」
「ルカ、五月蝿い。忙しいところすまんな。私はアウグスト。アウグスト=フォン=アールスハイドだ。マーク=ビーンとは高等魔法学院で同じ研究会に属している」
俺がせっかく『身分が高い人が自己紹介をしやすい雰囲気』を作ったのにオーグは「五月蝿い」の一言で片付けて自己紹介をしてしまった。
というか今の俺のセリフって本来ユリウスとトールが言うべきセリフなんだよね。2人……特にユリウスには武術だけではなくこういうことも教えていこう。
「ア、アウグスト殿下ぁ!?」
親父さんの叫びは工房中に響き、職人皆がこちらを向いて大きく目を見開いた。
そして作業の手を止め立ち上がり、こちらに駆け寄ってきて俺たちの前で跪いた。
頭が高いとは言ったけど誰もここまでしろなんて言ってない。
「ああ、手を止めさせてすまないな。私は工房主に話がある。お前たちは作業を続けてくれ」
「お、俺……じゃなくて私にでございますか?」
オーグは慣れているのか顔色ひとつ変えず対応して職人たちを作業に戻させた。
こういう姿を見ると『オーグって王子様なんだなぁ』と改めて思わされる。
なんて言うか、かっこよすぎて嫉妬する気も起きないよね。
「実はな、ここにいる2人の武器を開発するのを手伝って欲しいのだ」
なんでもシンは刃が簡単に交換出来る剣を作って欲しいらしい。
別に剣がダメになったらその都度予備も含めて俺が作ってもいいのだが、俺に借りを作り過ぎるのは良くないと思っているようで外注出来るようにしたいようだ。
錬金魔法で何かを作るのは最早俺の趣味のようなものなので気にしなくてもいいのにシン的には気になるみたい。
「この坊主……いえ、坊ちゃんの武器ですか?」
「ああ、紹介が遅れたな。こいつの名前はシン=ウォルフォード。賢者マーリン殿の孫だ」
「けけけ賢者様のお孫さん!? 新たに出現した魔人を討伐したというあの!?」
「そうだ。今回はそのシンの新たな武器を開発しようと思っていてな。資金は王家が負担する、手伝ってくれないか?」
「あ、俺のもお願いします!」
「えっと……マーリン様のお孫さんと同じ顔ってことは……」
「俺はルカ=ウォルフォードです。親っさん、俺の刀も作ってください!」
「か、かたな……?」
「刀っていうのは……」
俺は異空間収納を開いて今朝オーグたちが来る前に錬金魔法を使って新たに作ったばかりの刀を取り出して親父さんに差し出した。
竜裂は刀を打てるようになった親父さんやマークに打ち直して貰いたいので砕けたままの状態で異空間収納に入れたままである。
「これは……拝見しても?」
「もちろんです。作り方と材料は提供しますんで、親っさんとマークで再現してもらえれば、と」
俺の錬金魔法だと二流の刀は作れても一流や超一流の刀は作れない。
やはり職人が丹精込めて打った刀には及ばないのだ。
「なるほど……わかった! 時間はちと掛かるかもしれねぇが必ずカタナってやつの作り方を極めて一流のカタナを打ってみせるぜ!」
「おなしゃす」
「おう! で、弟くんの武器もカタナでいいのか?」
「えっと……」
こればかりは俺が勝手に答える訳にはいかないのでシンへと視線を向けると、シンは心得たように頷いて自分の希望を述べ始めた。
「ふむ、刃を簡単に交換出来る剣か……」
「出来ればワンタッチで交換出来るとありがたいです」
「例えば鍔をスライドさせたら刃が外れる……とかか?」
「そうですね、そんな感じです」
「だったら――」
「それなら――」
シンと親父さんが意見を交わしているのを聞いているのだけど、これって俺か親父さんが作った刀に『絶対切断』と『不壊』の付与をするんじゃダメなのかな? 『超音波振動』と文字数変わんないし、壊れないんだから買い換える予算も気にしなくて良くなるよね?
「ねぇシン」
「何?」
親父さんと話しているシンを呼び、今思い付いた内容をシンに説明する。
「どう?」
「うーん……『不壊』は何となくイメージ出来るんだけど、『絶対切断』は難しいかな?」
俺の説明を聞いたシンは難しそうな顔をして顎に手を当て考え込んでいる。
「『絶対切断』ってそんな難しい?」
「難しいよ。要は『絶対になんでも斬れる剣』ってことでしょ? さすがにそんなイメージは出来ないかな」
「そうなの? イケそうな気はするんだけどなぁ」
「俺には無理だよ」
大体シンは『原理』とかを気にしてるけど、魔法にそんなの必要無いじゃん。
例えば腕を生やす魔法にしてもシンは『万能細胞化させてそれを複製して~』とか小難しいこと言ってたけど、俺は『腕! 生えろ!』で生やしてるし。
ちゃんと腕が生えて五体満足な姿をイメージ出来れば魔法は発動するんだよ。
翻って今回の『絶対切断』も『とりあえずなんでも斬れそうな感じ』をイメージすれば出来ると思うんだけど、付与魔法が下手くそな俺は口を出さない方がいいのかもしれない。
もしもシンに「じゃあルカ兄がやってよ」なんて言われても困ってしまうのだから。
「無理かぁ」
「うん。だから簡単に刃を交換出来るようにしたいんだよ」
「そっかぁ……ならさ、引き金付けて引き金を引いたら剣身が射出される機構にしようぜ!」
「剣身が射出って……何のために」
「浪漫。ガンブレードってカッコよくない?」
「確かに……でもどうやって剣身を飛ばすんだ? 火薬でも仕込むの?」
「そこはお前付与魔法で解決でしょうよ。引き金を引けば射出されるように付与しなさいよ」
「なるほど……だったら――」
「いや、ここは――」
そうしてシンと2人、途中から親父さんを巻き込んででああでもないこうでもないと言いながら柄の形をどうするのか話し合い、しばらくしてようやく柄の形が決定した。
基本的にはゲームなどでよく見るガンブレードの形をそのまま流用する感じで、ちゃんと回転式弾倉も付いている。
引き金を引きながら斬りつけてもクリティカルにはならないのでまったく必要無いのだが、かっこいいのでそのまま搭載することにした。
武器とは使い勝手はもちろんだが見た目も重要なのだ。
かっこいいは正義である。
ちなみに俺の刀はシンのガンブレードが完成してから作ることになっている。
俺の刀とシンのガンブレードだとシンのガンブレードの方が早く完成するだろうから仕方ないね。
そうして試作に数日掛かるということになったので後は親父さんに任せて工房を出ると、オーグが何やら難しそうな顔をして何やら考え込んでいたが、話し合いに熱中したからかとてもお腹がすいたのであえてスルーして女性陣の待つ石窯亭へと足を進めた。
先週熱中症でぶっ倒れて人生初の救急搬送されてました。
まだまだ暑いので皆様熱中症には気を付けて。