賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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石窯亭に行きました

「ルカ、シン。少し相談があるのだが」

「何?」

「ご飯の後じゃだめ?」

 

 ビーン工房を出てストーンさんの家である石窯亭へと向かって歩いている途中、オーグが俺たちに相談があると言い出した。

 別に友達の相談なら乗るけど、今はお腹がすいているので出来れば食後にして欲しい。

 

「すぐに終わる。先程の『ガンブレード』なのだが……アイデアを買い取らせて欲しい」

「ガンブレードの」

「アイデアを?」

 

 ガンブレードのアイデアなんて前世の創作物からパクって……じゃなくてインスパイアされた感じな雰囲気なやつだから多分きっとおそらくフリー素材だよ。違っても俺は責任取らないけど。

 

「ああ。売ってもらえるか?」

「うーん……ばあちゃんに許可とる必要もあるけど、その前に俺とルカ兄で考えたガンブレードは魔道具だから付与しないと意味無くない?」

「もちろんメリダ殿には確認するさ。刃を肉厚にすれば実用に耐えると判断した。射出する機構も強力なバネを内蔵すれば刃を飛ばすことが出来るだろう。一般兵用の武器としては十分だ」

 

 シンの付与をしないのであればばあちゃんも否定はしないと思う。

 ガンブレードを装備した部隊はかっこいいとも思うけど、それより前に気になることがあるんだよね。

 

「それはそうかもだけど……」

「それよりオーグ、ちょっと気になったんだけど」

「なんだ?」

 

 シンと話していたオーグがこちらを向いたので疑問をぶつけてみる。

 

「一般兵用って言ってたけどさ、この国の一般兵って剣を使うの?」

「む? 我が国だけではなく他国もそうだが……それがどうかしたのか?」

「どうかしたのかって……なんで槍じゃないの?」

「槍……?」

 

 あれ? なんでオーグだけじゃなく皆キョトンとした顔をしているの?

 

「ルカ殿、何故槍なので御座るか?」

「何故って……逆に聞くけど、この世界の戦争ってどんな感じなの?」

「まずは互いの魔法師団が魔法を撃ち合いその後突撃で御座る」

「突撃兵の武器は?」

「剣で御座るよ」

 

 だからなんで!?

 

「だからなんで剣なの」

「騎士とは華麗に剣を振ってナンボで御座る」

「いや……まぁ百歩譲ってそうだとしても戦場には騎士だけじゃなく兵士も居るだろ?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 いや……これ、俺がおかしいのか?

 

 俺の認識ではこの世界の普通の魔法使いが使う魔法は『弓以上銃火器未満』なイメージだから戦争となると魔法兵は弓兵のような動きをして、魔法を使えない兵士は槍を持って陣形を組んで戦うものだと思っていたのだけど……違うのかな?

 

 俺はあくまで警備会社の創業者一族の当主候補だっただけだからあまり軍事には詳しくないのだけど、銃火器が生まれる以前の戦争のメインウェポンが弓と槍だったことくらいは知っているのだ。

 あとは……魚鱗の陣とか鶴翼の陣とか方円陣とかかな。大まかな形はわかるけど、どの部隊をどこに配置するかまでは知らない。

 

 そんなことを俺のふわっとした語彙力で伝えてみると、オーグやユリウスたちは興味深そうに俺の話を聞いてくれた。

 

「なるほど……確かにそのようにした方が効率的に戦えるか……」

「まったくその通りに御座いまする」

「しかしルカ、お前はこんな知識を何処で覚えたのだ」

「えっと……」

 

 前世ですって言っても意味わかんないよね? なんて答えようか……

 

「殿下、ルカ殿は生粋の武人であり軍人ということなのではないのでしょうか? 無意識のうちに武人として効率的に敵を屠る手段を考え、それを軍人としての集団行動に当て嵌めた結果ではないかと」

「ふむ、確かにトールの言う通りかもしれんな……」

 

 良かった、勝手に納得してくれたみたいだ。

 

「まぁ思いつきみたいなものだから。で、槍の導入は?」

「効率的な戦術として父上に進言しておこう。それとは別に剣の間合いに入った時のためにガンブレードも配備したいがな」

「かっこいいから仕方ないよね」

「いや、普通に剣を配備するより安くなりそうだからなのだが……」

 

 まぁ西洋剣って『斬り裂く』より『叩き斬る』系の武器だから戦っているうちにすぐ刃がダメになるって聞いたことあるような無いような感じだから刃だけを交換出来る剣にした方が安上がり……なのかね? よくわかんない。

 でも槍がメインウェポンになるなら剣の消耗は減ると思うんだけど、その辺は頭のいい人が計算すればいいだけか。

 

「相談終わり?」

「ああ、以上だ」

「じゃあ早く石窯亭行こうぜ、お腹すいちゃった」

 

 こうして俺たちは改めて石窯亭へと向かって足を動かし始めた。

 

 今の気分はお腹がすいているのでガッツリ系なのだけど、パスタも食べたい……海鮮パスタのステーキ乗せとか注文出来ないかな?

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 オーグの相談を終え、改めて石窯亭へと足を進める。

 とはいえ本当にご近所さんだったようで、数分も歩かないうちに到着した。

 

 この石窯亭も人気店らしくとても大きい。

 高級店と言うほど敷居が高い感じはせず、店内はとても賑わっていた。

 

 そんな店内に入ると、すぐにウエイトレスのお姉さんが接客のために寄ってきた。

 

「いらっしゃいませーってマークくんじゃない。オリビアお嬢さんならお友達と一緒に部屋に行っちゃったよ?」

「知ってるッス。こっちの用事が終わったからその友達も含めて呼びに来たッス」

「こっちって、マークくんのおともだ……ち?」

 

 お姉さんの動きがだんだんぎこちないものへと変わっていく。

 

 これはアレか? 再び口上を述べるチャンスなのか?

 

「で……」

 

 で?

 

「ででで殿下!?」

 

 俺が口上を述べる前にお姉さんの声が店内に響き渡ってしまった。

 これじゃ俺が口上を述べる意味が無いじゃない!

 

「「「アウグスト殿下!?」」」

 

 店内で食事をしていたお客さんたちは椅子を倒す勢いで立ち上がり、一斉に跪いた。

 

 おお、やっぱオーグって偉いんだな……

 

「はぁ……皆、楽にして構わない。今日は友人たちと友人の店に食事に来ただけなのだ。そう畏まらないでほしい」

 

 オーグがそう言うが、お客さんたちは中々頭をあげようとはしない。

 

 これは……やっぱり口上を述べるチャンスなのではなかろうか?

 でも既に跪いちゃってる人たちに頭を上げさせる口上なんてあったっけかな……

 

「うわっ! 何この光景!?」

 

 俺が必死に述べるべき『かっこいい口上』を考えていると、店の奥から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 

 また口上チャンス逃しちゃった……

 

「ああ、殿下がいらっしゃっているからじゃありませんか?」

「あ、あの……奥に個室を用意していますので、そちらにお願いします」

「……迷惑を掛けてすまんな」

「い、いえ! そんな!」

 

 ストーンさんに案内されて個室に入り、扉を閉めると店内のお客さんたちが安心したように息をつきながら立ち上がる気配が伝わってきた。

 

 やっぱりオーグを前にすると緊張するんだな。さすが王族、遭遇すること自体がスーパーレアなのだろう。

 

「……何を考えているかは何となくわかるが、来週からはお前とシンもこんな感じだからな」

「来週から? なんで?」

「叙勲式か……」

 

 あー、そういえば週明けにあるって言ってたね。

 

「週明け早々だから明後日だな。私にはあまり近寄ってこないがお前たちは立場的には一般人だからな、囲まれるぞ?」

「そ、そうなの?」

「魔人を討伐するという事はそういう事だ。何十年も前の話なのに未だにマーリン殿とメリダ殿がどういう扱いを受けているか見ればわかるだろう?」

「た、確かに……」

 

 オーグは意地悪そうな笑みを浮かべているが、シンはいつも通りシシリーとイチャイチャしていれば誰にも話しかけられないと思うよ。

 俺もイチャイチャできる相手が欲しいなぁ……

 

「でも英雄の孫ってのはわかるけど、見目がいいってのはなぁ……」

 

 俺がまだ見ぬ運命の人に思いを馳せていると、シンがそんな事を呟いた。

 

 シンはイケメンだと思うよ。それを言ったら同じ顔の自分もイケメンって言ってるナルシストみたくなるから言わないけども。

 

「自覚してないんだ……」

「うう……ライバルが……」

「ん? ライバル?」

「な、なんでもありません!」

 

 ライバルって……シンはシシリーにベタ惚れだから奪われる心配は無いと思うよ。

 

「コホン……それよりも何を注文するか決めたのか?」

 

 シンとシシリーを中心にイチャイチャフィールドが形成されつつあったのだが、オーグの一言でイチャイチャフィールドは破られた。

 

「俺は……ストーンさん、パスタにステーキ乗せることって出来るのかな?」

「あの……出来るとは思いますけど、海鮮パスタとステーキ別々の方が味が混ざらなくて美味しいと思います」

「じゃあ海鮮パスタ大盛りとステーキで!」

「部位と焼き方ははどうされますか?」

「選べるの? ならヒレがいいな。焼き方はミディアムレアで」

「わかりました」

 

 ストーンさんはそう返事をしてオーダー票に俺の注文を書き込んだ。

 

「ルカ兄よく食べるね……お小遣い無くなっちゃうよ?」

「なんか魔物をシバいたらお金貰えるって聞いたから今度シバきに行くから大丈夫。シンも一緒に行こうぜ」

 

 虎や獅子の魔物を何体か狩れば今日のご飯代くらい余裕で賄えるだろ。

 

「久しぶりにルカ兄と一緒に狩りをするのも楽しいかもね。じゃあ俺はキノコパスタの並とサーロインステーキにしようかな。焼き方はレアで」

「いや、今日は私が出すつもりなのだが……ストーン、私はミートソースパスタの並と唐揚げを頼む」

「オーグ、いいのか?」

「ゴチっす。じゃあ追加で豚の角煮もお願いするっす」

「ルカ兄……」

「仕方ないじゃん、俺のお小遣いじゃ豚の角煮は予算オーバー」

「そうじゃなくて……」

「なんだよ、せっかく奢ってくれるって言うんだからここは全力甘えるのがマナーでしょうよ」

 

 出す方が気持ちよくなるくらい食べるのが出される側のマナーだよ。

 

「でも……」

「どうしても気になるなら今度はシンがオーグに奢ってあげればいいじゃん。その時はゴチになります」

「その時は自分で出せよ!?」

 

 その時お金持ってたら払いますね。

 

「まぁルカの言う通りだな。他の者はどうする?」

「では……拙者はルカ殿と同じものを」

「自分は……季節の野菜パスタの並を」

「あれ、トールも強くなりたいんじゃなかったっけ? 強くなりたいなら肉だよ?」

「……季節の野菜パスタの小とヒレステーキを――」

「小?」

「――並でお願いします」

「ルカ、お前……」

「食事もトレーニングなんだよ。まずはしっかり食わないと強い体は作れない。季節の野菜パスタだけじゃ筋肉は育たない。照り焼きチキンサンドも追加で」

「至言で御座る。拙者もチキンカツサンドを追加するで御座るよ」

「……自分はBLTサンドを」

「えっ?」

「やはりカツサンドを……」

「トールも真に受けるな。動けなくなるぞ」

「そうだよ。ルカ兄もいきなり食べさせずに食べる量を少しずつ増やすよう言えばいいのに……あ、俺は唐揚げサンド追加で」

「お前らな……」

 

 女性陣はそんな俺たちを呆れたような目で見ていたが、運ばれてきた料理はとても美味しかった。

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