ビーン工房を訪問し、石窯亭での食事を終えた俺たちは「ちょっと街ブラしようぜ!」となったので石窯亭を出てからどこに行くかを相談していた。
俺はクレープとか食べたいです。
「そういえばマークの店の2階と3階には何が売ってるんだ?」
とりあえず広場に行こうかと話が纏まりかけた所でシンがそんな質問をし始めた。
ビーン工房にはクレープは売ってないと思うんだ。
俺はチョコバナナがいいです。
「2階は主に生活用品で、3階はアクセサリー類ッスね。3階のアクセサリーコーナーには普通のアクセサリーと魔道具のアクセサリー両方売ってるッスよ」
「アクセサリー……」
マークの返答を聞いたシンは何かを考えるように顎に手を当てた。
「シンくん、どうかしたんですか?」
「いや、シシリーは何か欲しいアクセサリーはない?」
「アアアアクセサリーですか!? えっと……指輪とか? でもいきなりそんな! とりあえずネックレスとかの方が……ブレスレットも捨て難いし……あっ、ピアスもいいなぁ」
「そ、そんなに欲しいの?」
「いえ! そういう事じゃなくて! な、何が良いかなぁって……」
シンとシシリーが話しているのを聞いていると、何だか甘酸っぱい気持ちになってくる。
青春してるねぇ……
「ふーん。実はアクセサリーに防御魔法を付与した方が効果が高いんじゃないかって思ってて……皆がアクセサリーに付与するなら何が良いかなって考えてたんだ」
「あっ……そうですか……」
シーーーーーン!?!?!?
何言ってるの!? お前、何言っちゃってるの!?
それは絶対に言っちゃダメな事でしょうが!!
お兄ちゃんは許しませんよ!!
「シン……お前、それは無いだろう……」
「上げて落とす……鬼ですか」
「シシリー可哀想……」
「え? え?」
シンはオーグやトール、マリアに責められ困惑している。これはお兄ちゃんによる鉄拳制裁が必要かもしれない。
女性を落ち込ませるだなんて、お兄ちゃんはお前をそんな風に育てた覚えはありません!
そんなことを思いながらちょっと強めの……具体的にいえば奥歯がちょっと欠けるくらいのビンタをカマそうと指をポキポキ鳴らしていると、シンは何かに気付いたようにハッとしてシシリーに向き直った。
「シシリー」
「……何ですか?」
「あのさ……もう一回マークの店に行かない?」
「いいですけど……」
「皆はここで待ってて!」
シンはそう言ってシシリーの手を取り俺たちに背を向けてビーン工房へと向かって行った。
「まったくシンめ……乙女心のわからない奴だな!」
「乙女心……ルカ、お前にはわかるのか?」
「オーグは俺を何だと思ってるの?」
オーグが意地悪そうな笑みを浮かべながらそんな事を言ってくるが気にしない。
何故なら俺は乙女心がわかる男だから!
「つい最近まで森で暮らしていたルカに乙女心がわかるなんて驚きだな」
「それはまぁ……ね?」
それを言われると反論出来ない。
前世では国を代表するような老舗大企業の御曹司であり、あらゆる武術の大会で優勝しまくっていた俺は自分で言うのもなんだが学生時代大層モテていた。ラブレターとか週3で貰ってたし。
なので女性の扱いには慣れているつもりなのだが、ほれはあくまで前世の話。今世の俺は女性との関わりが少なすぎるのであまりこういうことは言わない方がいいのかもしれない。
というか関わった数少ない女性の1人であるクリス姉ちゃんには振られているのでこの世界の乙女心はわからないのかも……
やべ、自信無くなってきちゃった。
「ルカ殿もモテそうなんですけどね」
「そうで御座るな。メッシーナ殿はルカ殿のことはどう思うで御座るか?」
「私? 友達としては良い奴だけど、付き合うとなると何か違う感じかしら? 期待に添えなくてごめんなさい」
「「ああ……」」
「ねぇ、なんで俺が振られたみたいになってんの?」
ユリウスとトールがなんとも言えないような顔でこちらを見てくるが、俺はマリアのことは可愛らしいとは思うけど好みからは外れてるから別に何とも思ってないよ?
「まぁ聞いている限りメッシーナはルカの好みからは外れているようだしな……体を鍛えている女性がタイプだったか?」
「理想は腹筋
「何故私に言うんだ……そもそもそんな女性に心当たりは無い。そんな女性と出会いたいのなら騎士学院に行けば良かっただろうに」
「恋愛にも興味はあるけど、俺は俺やシン並に強い奴を育てようと思って魔法学院に来たからなぁ……マリア、ストーンさん。筋トレに興味無い?」
「無いわね」
「わ、私はその……」
「ルカさん……」
「ごめん、冗談だから。付き合ってる2人の仲をを引き裂こうなんて思ってないから」
「「な、なんで知って……」」
「見てたらわかるから。でも幼馴染恋愛かぁ……羨ましいな」
王都に出てくるまで俺には同年代の友達とか存在しなかったからね。
一番歳が近い知り合いはジークとクリス姉ちゃんだったけど、あの2人は友達って感じじゃないし。
まぁ色んな人が訪ねて来てたし、シンも居たから寂しいってことは無かったけど友達くらいは欲しかったかも。
「ごめん、お待たせ」
「お待たせしました」
そんなことを話しながら待っていると、30分程でシンとシシリーが戻って来た。
シシリーの右手の薬指には先程まで嵌っていなかった青い宝石の付いた指輪が嵌められている。
初めてのプレゼントで指輪を選ぶだなんて……シンって思ったより女性慣れしてるのかな?
「それにしてもあっさり指輪を買うか……シン、さすがだな」
「言っとくけど、お前らにも防御付与したアクセサリー渡すからな」
「……あの光景を見た後にそんなことを言われると……なんとも微妙な感じがするな……」
まぁ確かに。
「シン、お前から貰える物ならお兄ちゃんなんでも嬉しいけど、刀持つ時に滑るし殴った時に歪んだりするかもだから俺は指輪以外がいいです」
それにやっぱ指輪は特別な人以外に送っちゃダメだよ。
「まぁ……うん。男に指輪とか気持ち悪いからネックレスかブレスレットでやるわ……」
「それでいいと思う。あと俺は防御で腕使ったりするからネックレスがいいです」
「実際ぶった斬られてたしね」
「生えたからセーフ」
そもそもシンの防御魔法が付与されたアクセサリーを身に付けてたらぶった斬られなかっただろうけどね。
でも敵の攻撃って攻撃される前に斬るかちゃんと回避すればノーダメだからアクセサリー防御は最終手段にしておこう。
シンのアクセサリー防御に甘えてたら弱くなっちゃいそうだし。
「生えたからセーフ? いや、アウトだろう……」
「アウトですね……」
「アウトで御座る……」
「アウトッス……」
セーフだよ! 死ななければ大抵の事はセーフだよ!
「え……ウォルフォードくんのお兄さん、大丈夫なんですか?」
「オリビア、何故かルカは大丈夫なのよ」
「それだけシンくんの魔法が素晴らしいんだと思います」
「マリアさぁ……『何故か』は酷くない? シシリーの『シンの魔法が素晴らしい』は大正解だけど」
慣れてるだけだから。皆何回かぶった斬られて生やされたら大丈夫になるから。
そしてそれは全てシンのせいだから。
「いや、ルカ兄自分で生やせるじゃん」
「俺は生やせるのは自分だけだから。人のは生やせない」
「そもそも生やせるのがおかしいっつってんのよ……」
マリアが何か言っていたが、生えるものは生えるんだから細かいことは気にしてはいけないと思う。
それから特にアテもなく街をぶらつき、ウインドウショッピングをしたり買い食いをしたりと学生らしい休日を満喫した。
やっぱり同年代の友達と遊ぶって楽しいね。
そんな平和で楽しい時間を過ごして、まずはマークとストーンさんと別れてシシリーの家に向かった。
「じゃあ……早速指輪に付与を施そうか」
「お、お願いします」
シシリーが少し名残惜しそうに指輪を外してシンへと手渡す。
このまま見ていてもいいのだが、シンの付与は見慣れているので見ていても特に面白いとは思わない。
なのでユリウスに気の基本を教えることにしようと思う。
「ユリウス、ちょっといい?」
「む? なんで御座るか?」
「シンが付与してるの見てるのもつまんないから気の触りだけでも教えようかと思って」
俺がそう言ってユリウスを誘うと、オーグとトールも興味を示した。
「ふむ、ルカの言う『気』とやらは私も気になっていたところだ。私も聞いても構わないか?」
「自分も興味があります。殿下の護衛として強くなれるのであれば是非自分にもご教授頂けたらと」
「別にいいけど、今日は本当に触りだけだよ?」
「構わない」
「構いません」
俺たちはシンやシシリー、シシリーのご両親に許可を取って部屋の隅へと移動した。
「さて、じゃあまずは『気』とは何ぞやって話からだけど……ざっくり言うと体内を流れている生命エネルギー的なもののことを『気』と呼びます。流派によっては『闘気』って言ったり『覇気』って言ったり『オーラ』って呼ぶところもあるけど、ウォルフォード流的には『気』で統一しようと思います」
「ふむ、続けてくれ」
「『気』には種類がありまして、それぞれを『内気』、『外気』と呼びます。それぞれで何が出来るかと言うと……『内気』は主に体の中に影響を与えます。例えば筋力を強化したり、怪我の回復を早めたり、病気や毒に対する抵抗力を上げたり等です。反対に『外気』は体の外側に働きかける力で、肉体の強度を上げたり、持っている武器を強化したりすることが出来ます。飛ばして攻撃は出来ません」
刃に纏わせて『飛ぶ斬撃』とか拳に乗せて『遠隔パンチ』とか出来たら便利でかっこいいんだけどね。
「つまりお前やシンが使う『混合身体強化』とはその内気と魔法の合わせ技ということか」
「そういうこと。通常身体能力を100として、魔法による身体強化が150なら内気による身体強化も150、混合身体強化は300くらい(当社比)かな?」
「それは……凄まじいな」
「ちなみに気を鍛えて量を増やせば通常身体能力も120くらいまで引き上げられるよ」
入学式の日に俺が身体強化魔法を使っていたユリウスに素の身体能力で勝っていたのはこれが原因である。
「なるほど……どうすればその気の量は増やせるのだ?」
「ひたすら使い続けること。でもまずは気がどんなものか自覚することからかな?」
「気の自覚か……それはどうやって?」
「こうやって」
俺はオーグの肩に手を置いて気を流し込み、オーグの気を活性化させる。
「……む?」
「今オーグの内気は活性化している状態……つまり身体強化状態になってるんだけど、わかる?」
「あ、ああ……確かに身体能力強化の魔法を使っている時と体の感覚が似ているな……」
「自力でその状態になれるようになれば後はひたすらその状態を維持していれば自然と気の量は増えていくよ。それをウォルフォード流では『練気術』と呼ぶことにします。最初は俺が活性化してあげるからその感覚を掴むことに集中してね」
それから俺はユリウスとトールの気も活性化させていく。
「これが……拙者の気で御座るか……」
「確かにこれは身体強化の魔法とよく似ていますね……」
「む? 効果が切れたような……それに何だか倦怠感も……」
ユリウスとトールの気を活性化させたところでどうやらオーグの身体強化状態が解除されてしまったようだ。
やはり初心者、気の量が少ないので効果時間も短いのだろう。
「それが今のオーグの気の量ってことだね。これから毎日活性化させるから頑張って感覚掴んでみてよ。早ければ1週間くらいで掴めるんじゃないかな?」
気の習得で一番大変なのはこの気を活性化させる感覚を掴むことだからね。
俺のように他人の気を活性化させられる人間が居ればこうやってサポート出来るけど、近くにその技術を持った人が居なければ下手したら一生習得出来ないから。
「そうか……わかった。よろしく頼む」
「お任せあれ」
そうやって話しているうちにトールの活性化状態が解除され、30秒ほど遅れてユリウスの活性化状態も解除された。
やはり普段から鍛えていて体も大きいユリウスはそれなりの量の気を持っていたようだ。
うむ、やはりユリウスには才能がある。これからの成長が楽しみだ。