賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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武器を作りました

 9歳の誕生日を目前に控えたある日、俺は一人で森の中を流れる川へとやって来ていた。

 

「はぁ……」

 

 河原に座り、ため息をつきながら《異空間収納》を開いて中から真っ二つになった剣を取り出した。

 

「ミッシェルさんからもらった剣なのに……」

 

 もらった日から毎日磨いて大切にしていたのに、どうしてこうなった?

 

「シンめ……」

 

 剣がこうなってしまった原因はシンである。いや、シンのせいにしようとしている俺のせいか。

 

 何故こうなったかというと、俺とシンがミッシェルさんからもらった剣で打ち合ったからである。

 

 練習で使うのは木剣だが、実戦となると当然ながら剣を使う。

 

 なので剣の重さに慣れるためにシンと軽く打ち合っていたのだが、あの野郎こともあろうに剣に魔力を流しやがった。

 

 その結果剣に付与されている『超音波振動』が発動してシンの剣を受けていた俺の剣を真っ二つにしやがったのだ。

 

 確かに木剣ではなく真剣での打ち合いを申し出たのは俺だけど、これはさすがにあんまりだと思う。あとでばあちゃんにチクってやろう。

 

 そう心に決め、再び真っ二つになった剣へと視線を戻す。

 

「これ……どうしよう」

 

 今度ミッシェルさんが来た時に謝ればまた新しい剣を用意してくれるとは思う。

 だけど初めてもらったこの剣には愛着もあるし、出来ればなんとか直したい。

 

「鍛治の知識はあるけど経験は無いしなぁ……そもそも剣と刀じゃ全然違うだろうし」

 

 俺が修めている流派には『自分の獲物は熟知しろ』という教えもあったので、刀術が最も得意だった俺は刀鍛治についても学んでいる。

 本当なら自分で自分の刀を打ちたかったのだが、刀を打てるようになるためには何年にも渡って修行しないといけないので泣く泣く断念したのだ。

 

「やっとけば良かった……」

 

 今更思っても後の祭りである。

 

「やっぱりごめんなさいするしかないかな」

 

 その時にはシンも一緒に謝らせよう……そう思った瞬間、俺の頭に天啓が舞い降りた。

 

「今からやればいいじゃない!」

 

 この世界では明確なイメージとしっかりした魔力制御が出来れば魔法が使える。

 

 その魔法に関して天才と言わざるを得ないシンも前に「イメージと魔力制御がしっかり出来ればアニメや漫画に出てくる魔法も使える」と言っていた。

 

 なら……出来るかもしれない。

 

「もう真っ二つになっちゃってるからこれ以上悪くなることもないだろ……男は度胸、なんでもやってみるもんさ!」

 

 右手に柄を、左手に剣先を掴み断面同士を合わせて魔力を集め、流し込む。

 

 イメージするのはかつてアニメで見た《鍛治魔法》。

 魔力を浸透させ、自在に形を変える姿を思い描く。

 

「くっつけくっつけくっつけくっつけ……」

 

 剣に魔力を流し込みながら呟くことしばし、集中力が切れてきたので集めていた魔力を霧散させて手を離す。

 

「出来た……!」

 

 そこには真っ二つにされたのが嘘であったかのように元通りの姿を取り戻した剣があった。

 

「割と冗談のつもりだったのにまさか出来るとは思わなかった……もしかして、俺って天才だったり?」

 

 俺は前世の知識と経験のある武術ではシンを圧倒しているが、同じスタートラインに立っていた魔法ではシンに全く歯が立たない。

 制御出来る魔力の量は俺もシンも大差は無いのだが、向かい合って火なら火、水なら水と同じ系統の魔法を全力でぶつけ合った場合俺は絶対にシンに勝てない。なんならシンが火、俺が水と相性がいいとされる魔法をぶつけ合っても押し負ける。

 付与魔法も苦手なので俺は魔法に関しては凡才なのだと思っていたのだが、こんな芸当が出来るのなら俺の才能も捨てたものではないのかも。

 

「しかもこれ極めたら刀作れそうだし……なら作るっきゃないよな!」

 

 幸いにしてここは河原。

 刀作りに欠かせない砂鉄を集めるのに適した場所だ。

 

「思い立ったが吉日! 即断即決即行動!」

 

 立ち上がり、砂が堆積している場所を見付け歩み寄る。

 

「今から俺のおてては磁石です! 集まれ砂鉄! 来い来い砂鉄!」

 

 刀を作れるかもしれないということで上がったテンションそのままに叫びながら魔力を集める。

 するとあっという間に俺の両手にはびっしりと砂鉄がくっついた。

 

「やっぱり俺は天才なのかもしれない……」

 

 集まった砂鉄を以前狩った獣の皮で作った皮袋に入れて場所を変えながら何度も繰り返す。

 十分な量が集まったので皮袋越しに魔力を流して砂鉄を玉鋼に錬成する。

 

 魔法ってすごい。本来ならたたら炉を作って砂鉄と木炭を交互に重ねふいごで空気を送りながら時間を掛けて作っていくものがあっという間に完成した。

 

「ふむ……」

 

 この玉鋼を《鍛治魔法》を使って刀に作り替えようかとも思ったが、先程直したい剣が目に入った。

 

 この剣には先程言った通り愛着があるのだが、今の俺の身長に合わせているので如何せん短い。数年もしないうちに身体に合わなくなってしまうだろう。

 もちろんそれでも予備武器として持っていてもいいのだが、どうせなら長く使いたい。

 

 それならば今錬成した玉鋼とこの剣を混ぜて刀に作り替えればいいのではなかろうか?

 そうすれば俺は念願の刀を手に入れることが出来るし、愛着のある剣も形を変えて使い続けることが出来る。

 一石二鳥とはこのことだろう。

 

「やれば出来る! いくぞー!」

 

 俺は剣と玉鋼を重ねそこに大量の魔力を集めて流し込む。

 

 鉄は炭素の量で硬度が変わる。なのでまずは炭素の量が多い部分と少ない部分を分離させる。

 そして炭素量の少ない『軟鉄』を心鉄に、炭素量を多く含む『硬鉄』を皮鉄になるように操作して、形を整えていく。

 長さは……とりあえず1尺2寸(大体36cm)くらいかな? これ以上長いと今の俺の身長では扱いづらい。

 

 かなりの金属素材が余ってしまったが、これは《異空間収納》に入れておけばいいだろう。

 俺の身体が成長して刀の長さが合わなくなってきたらこの素材を使ってまた作り直せばいい。

 それに……どうせシンも欲しがるだろう。

 シンだって日本で生まれ育った男の子なのだ。ならば刀に対して憧れを持っているはずだ。

 

 欲しがったらお兄ちゃんに絶対服従することを条件にシンの剣も刀に作り替えてやってもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに完成した刀に最後の仕上げとして『刃文』が浮かび上がるようイメージをくわえる。

 俺がイメージしたのは『湾れ刃』と呼ばれる波のような刃文。

 これは正宗で有名な相州伝風の刃文である。

 直刃も捨て難いのだがここは完全に俺の好みなので誰にも文句は言わせない。

 

 こうして浮かび上がった刃文を見て、しばらくうっとりしていたが俺の刀はまだ完成していないことを思い出し正気に戻る。

 

「いかんいかん……」

 

 このままでは晩御飯までに帰れなくなる。

 慌てて余った金属で鍔を作り、柄と鞘を作るために朴の木を探す。

 

 しかしここで俺は大変なことに気が付いた。

 

「柄と鞘には朴の木って聞いたけど、朴の木ってどんな木なんだろ」

 

 いくら知識があっても経験が無いとこういうことがあるからいけない。やはり経験は大切だ。

 

「うーん……」

 

 考えてみるが、知らないものは思い出せない。

 

「仕方ない。今日のところは余った金属素材で作って後日またどの木がいいかゆっくり調べてみよう」

 

 今は適当でもとりあえず完成させておきたい。

 完成した刀を帰ったらシンに自慢してやるのだ。

 

「錬金魔法錬金魔法……とりあえずいい感じの鞘と柄になぁれ!」

 

 こうして完成した刀を携え、家路に着いた。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 家に着くと、俺の剣を真っ二つにしてしまったことに責任を感じているのか、しょんぼりと肩を落としたシンが出迎えてくれた。

 

「ルカ兄おかえり……さっきはごめんなさい」

「ただいま。それはもういいよ。それより見せたい物があるんだけど」

 

 俯くシンの腕を取り、部屋の中へと誘導する。

 

「な、なんだよ!?」

「ほらコレ! コレ見て!」

 

 俺は《異空間収納》を開いて中から先程作った刀を取り出してシンに見せる。

 

「これどうしたの!?」

「ふっふっふ、俺が作りました!!」

 

 渾身のドヤ顔を浮かべながら鞘に入ったままの刀を見せつける。

 

「すげぇ……すげぇよルカ兄! どうやって作ったの!?」

「砂鉄を集めて折れた剣と合わせてこう……ちょいちょいっとね!」

 

 先程俺が編み出した《錬金魔法》の説明をしてやると、シンは目をキラキラ輝かせながら俺の説明を聞いていた。

 

 なんだよこいつ、可愛いところあるじゃん。

 

 そうして刀を見せ、作り方を教えてやっていると、シンが突然こんなことを言い出した。

 

「なぁルカ兄、刀って銘を付けるもんなんだろ? この刀の銘はなんて言うんだ?」

「銘……?」

 

 言われてみればその通りだ。

 刀が完成したことに夢中になっていて銘のことを完全に失念してしまっていた。

 

「なんだよ、決めてないのか?」

「今から決める! うーん……」

 

 さすがに日本に現存する刀の名前を使うのはダメだろう。

 俺みたいな素人が魔法でゴリ押しして作った刀なんて本物の刀匠からすればゴミに等しいかもしれないし。

 

 だったら完全にオリジナルな名前を付けるべきなんだけど……名前ねぇ……

 

「俺が考えてやろうか?」

「嫌だ! 俺が作ったんだから俺が決める!」

 

 なんで何もしてないシンに命名権をやらなきゃならないんだよ!

 

 俺は必死に頭を巡らせ、いい感じの名前を考える。

 

 俺の前世の名前……は思い出せないから却下。

 なら元の剣をくれたミッシェルさんに因んだ名前はと思ったが、日本刀に外国人的な名前は合わないので断念する。

 

 他に使えそうなのは……

 

「うーん……ここは剣と魔法の異世界だから……」

「何言ってんの?」

「ちょっと黙ってて! 異世界……異世界と言えばドラゴン……ドラゴンと言えば竜……一回戦ってみたい」

「見たいじゃなくて?」

「男なら戦う一択だろ常識考えろ」

 

 なんで見て満足するんだよ。戦おうよ。戦って負けて死んでもそれはそれで本望でしょうよ。

 

「ルカ兄にだけは常識がどうのこうの言われたくない……」

「お前も大概だからな? えっと……竜……」

 

 ドラゴンと戦って叩き斬ってみたいよね。

 ドラゴンを斬る……竜を斬る……斬り裂く……これだ!

 

「決めた!」

「うわっ! びっくりした……」

「この刀の銘は『竜裂(りゅうざき)』です! 竜をも斬り裂く刀です!」

「だせぇ……」

「なんか言ったか?」

「なんにも!」

 

 シンがなにやら呟いていたような気がしたが、鯉口を切る音を聞かせてやると「なんでもない」と言いながら慌てて首を横に振ったので多分きっと気のせいだろう。

 

「それで……お前の剣も刀にしてやろうか?」

「いいの!?」

「お代は今後お兄様に絶対服従です!」

「あ、やっぱいらないです」

 

 こうして俺の終生の相棒『竜裂』が完成したのであった。 

 

 ちなみにシンに《錬金魔法》を教えてみたが、どうも上手く魔力が金属に入っていかないらしい。

 

 ふむ……やはり兄より優れた弟なんて存在しないんだな!




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