賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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気分的に因縁の相手です

 俺とシンが10歳の誕生日を迎えてすぐ、俺たちはじいちゃんに誘われて森へとやって来ていた。

 

 8歳の頃と比べると身長もだいぶ伸び、140cmを超えてきた。

 シンも同じ遺伝子を持っているからか、身長は同じくらいだ。

 それに、双子だからか顔の作りもよく似ている。

 俺もシンも黒髪黒目で、前世の日本人の時と比べて彫りの深い顔になっている。

 ちなみに俺とシンの見分け方は髪型と目の大きさとなっている。

 俺とシンを比べると俺の方が少しだけ髪が短く、目が細い。

 まぁ俺たちの周りの人たちは俺とシンを間違えることはないので実はそこまで似てないのかも? と最近は思っている。

 

 ともあれ、そんな容姿がある程度固定されるほどに成長した俺たちに「そろそろ魔物でも狩ってみるか」と軽くじいちゃんが言い出したので今回初めての魔物狩りとなったのである。

 

 俺もシンも今まで魔物を狩ったことは無い。狩っていたのは動物だ。

 この世界の『全ての生き物』は魔力を持っているのでもちろん動物も魔力を持ちその恩恵を受けている。

 ところが魔力を過剰に取り込み、さらにその取り込んだ魔力の制御に失敗すると魔物化してしまうのだそうだ。

 

 動物が魔物化すると、その有り余る魔力を使って魔法を使い始めるらしい。

 そしてそれは……人間にも当て嵌る。

 

 幸い人間は自分の意思で魔力を制御出来るので魔物化することは無いと言われていた。

 

 そう、『言われていた』のだ。

 数十年前、一人の魔法使いが魔力の制御に失敗して魔物化する事件が起きるまでは。

 

 魔物化した魔法使い……一般的に『魔人』と呼ばれる魔物化した人間は自我を持たず、魔法を使って暴れ回りいくつかの街や村が地図から消え、国がひとつ滅びかけたそうだ。

 

 その魔人を討伐したのがじいちゃんらしく、今でもその国では『英雄』として扱われているのだとミッシェルさんが言ってた。

 じいちゃんが森で暮らしているのはそれが嫌だったかららしい。

 

 それで何故いきなり魔物狩りをするとじいちゃんが言い出したのかと言えば、これまでの俺たちの魔法の練習や武術の稽古、作ってきた魔道具に狩りの成果を見て「そろそろ魔物と戦っても勝てるじゃろう」とじいちゃんが判断したためだ。

 

 そんな訳でいつも狩りをしている場所よりも奥の方までやって来た。

 

「じいちゃん、魔物だけ見つけて狩るのってどうやるの? 動物もいっぱい居るよ?」

「見付けた動物を片っ端から狩り尽くせば魔物も死ぬ的な?」

「ほっほ、ではどうやって魔物を探すか教えるが……ルカはちょっと好戦的過ぎるのう。少し落ち着くんじゃぞ」

「はぁい」

 

 少し注意されたが、じいちゃんはヤレヤレといった様子で魔物の探し方を教えてくれた。

 

「まずは魔力を集め、薄く周囲に広げていく」

 

 そう言ってじいちゃんは魔力を集め、それを制御して広げていく。

 

「そうするとこの広げた魔力に魔力を持つ別の生き物が触れるとその存在を感じられるのじゃ」

 

 ふむふむ、ソナーみたいな感じなのかな?

 

「生きとし生けるものは全て魔力を持っておるからのう、何処におるのかすぐにわかるのじゃ。これを《索敵魔法》という」

 

 そう言って新しい魔法を教えてくれた。

 

「もっと早く教えてくれたら良かったのに! そうしたら狩りももっと簡単だったのに……」

「ほっほ、それも訓練じゃよ。それにある程度魔力を制御出来んと使えん魔法じゃしの」

 

 シンが今まで《索敵魔法》を教えてくれなかったことに対して文句を言っているけど、もしかしてシンって気配探知出来ないのかな? どうやって獲物見付けてたの?

 

「シン、別に《索敵魔法》使えなくても獲物かどの辺に居るのかくらいわかるだろ?」

「わかんないよ! ルカ兄何言ってんの!?」

 

 わかんないのか。わかんないのにあれだけ狩れてたのなら大したものだ。

 

「えっと……自然と一体化するように身を任せて耳をすませば獣の鳴き声とか移動する音とか聞こえるじゃん? それに風に乗って臭いも流れてくるんだからある程度の方向と距離くらいわかるでしょ?」

「マジで何言ってんの……」

 

 ふむ、どうやらシンに気配探知は難しいらしい。

 

「今度教えてやろうか?」

「いや、《索敵魔法》覚えるから大丈夫!」

 

 そう言ってシンは魔力を集め、周囲へと薄く広げ始めた。

 

「ほっほ、ルカはそんなことも出来るのか。すごいのう」

「でしょ? じいちゃんもやってみる?」

「ワシはもう歳じゃからのう……それよりホレ、ルカもやってみい」

「はぁい」

 

 じいちゃんに促されたので俺もシンの隣に並んで魔力を集める。

 集めた魔力を制御して周囲へ薄く円を描くように広げていくと、範囲内に入った動物たちの反応を感じ取ることが出来た。

 

 これは……俺の気配探知よりはるかに精度が高い……これを極めれば同時に複数人に襲われても対処出来そうだ。

 

 絶対に極めてやろう。

 

「……なんとなく予想はしておったが二人とも一回で成功しよるか。ほんに、とんでもない子らじゃのう」

 

 じいちゃんが何やら呟いていたが、俺としてはそれどころじゃない。

 

 これ、楽しい!

 

 そうしてどんどん範囲を広げていると、何だか禍々しい殺気のような魔力を捉えた。

 

「「!?」」

 

 シンもその魔力を捉えたようで、俺と同じタイミングで肩を揺らした。

 

「ふむ、見付けたかの」

 

 森の奥にある大きな魔力からは悪意や殺意のようなものが感じられる。

 隣に居るシンやじいちゃん、家に居るばあちゃんの魔力とは大違いだ。3人の魔力は森の奥の魔力よりも大きいが、なんだか安心出来るような暖かい魔力。

 対して森の奥から感じる魔力は「なんかやべぇ」と焦りを感じるような冷たい魔力だった。

 

「それが魔物の魔力じゃよ」

 

 じいちゃんは軽く言っているが、これはヤバイ。こんな魔力を持った魔物を放置していては大変なことになりそうだ。

 

「じいちゃん早く行こう! あんなの放っておいたら大変なことになる!」

「そうだよ! 早く行ってぶった斬らないとえらいこっちゃだよ!」

「そうじゃのう……これはちと不味いかもしれんの」

 

 そう言うや否や、3人でその魔力の下へと駆け出した。

 シンは《ジェットブーツ》という足の裏から空気を噴射して移動を補助する魔道具を使い、じいちゃんは《身体強化》の魔法を使って走っている。

 

 俺はといえば……《身体強化》を使って走ると2人を置いてきぼりにしてしまいそうだったので素の肉体能力だけで走っている。

 魔道具と魔法を使った移動に問題なく着いていけているのだから俺の脚力も大したものだ。成長を感じるね。

 

 そうして時たまに現れる動物たちを無視し、時に撥ね飛ばしながら進むことしばらく、ようやくその場所に辿り着いた。

 

 そこには……身長3mを超える赤毛の熊が同じくらいの大きさの猪を貪り食っている光景が広がっていた。

 

 熊! 

 

 此処で会ったが百年目! この『竜裂』のサビにしてやんよ! 今だけこの刀は『熊裂(くまざき)』だ!

 

「!?」

 

 その熊から発せられる禍々しい魔力を感じて恐怖したのか、隣を走っていたシンの動きが一瞬止まる。

 

 これは仕方が無い。いくら狩りをしているとはいえこれから始まるのはれっきとした命の奪い合い。

 一方的に命を奪うだけの狩りとは似て非なるものなのだ。

 

 まぁ、何にせよ俺とシンが組んで戦うなら前に出るのは俺の役目。

 シンの剣となり盾となり、シンが魔法を使う時間を稼ごうと一歩足を踏み出そうとした瞬間、シンが《ジェットブーツ》を起動して雄叫びを上げながら飛び出して行った。

 

「「シン!?」」

 

 俺とじいちゃんの声が重なる。

 

「GWOOOOOOOO!!」

 

 熊もこちらに気付いたようで、敵意を剥き出しにして咆哮を上げている。

 

「チッ!」

 

 このままでは、いけない。

 

 そう思った俺は瞬時に魔力を纏い《身体強化》の魔法を発動させ、思い切り地面を蹴って《ジェットブーツ》で移動しているシンに並んだ。

 

「ルカ! シン! 待つんじゃ!」

 

 後ろでじいちゃんが叫んでいるが、今は反応している場合では無い。

 飛び込んでくる俺たちを見据え、既に熊はその大きな右腕を振り下ろしてくる。

 

「!?」

「そのまま進め!」

 

 それを見たシンは一瞬方向転換を考えたようだが、その必要は無い。

 

 何故ならシンの前には俺が居るから。

 

「ルカ兄!」

「任せとけ!」

 

 膝を曲げ、腰を深く沈み込ませ、地面スレスレから全身のバネを使って飛び上がるように跳ねさせながら抜刀。

 振り下ろされる熊の腕に向けて鋭く振り上げた。

 

 俺の振るった刀は熊の右腕の肘の辺りを捉え、肘から先を斬り飛ばす。ついでに返す刀でもう一発斬撃を浴びせかけてからシンに指示を飛ばした。

 

「シン!」

「うぉぉぉぉおおお!!」

 

 シンは再び雄叫びを上げながら《ジェットブーツ》を起動させて熊の首目掛けて飛び上がる。

 

「GWAAAAAAA!!」

 

 熊は飛び上がるシン目掛けて今度は左腕を振るおうとするが、時すでに遅し。

 熊の左腕は既に俺が根元から切断している。

 

「やぁぁぁああああ!!」

 

 シンはバイブレーションソードを両手で強く握って横に一閃。

 熊の首は胴体から離れ地面へと転がった。

 

 続いて『ズドン!』と大きな音を立てて熊の胴体も倒れ伏す。

 

 よし、問題無く倒せたな。

 

 最初にシンが飛び出して行った時には焦ったが、最終的にはお互い無傷で終わったのだから今はヨシとしておこう。後でちょっと小言は言うけど。

 

「ルカ兄!」

 

 どうやってこのバカを反省させようかと考えていると、そのバカが満面の笑みを浮かべて両手を上げていた。

 

 まったくこいつは……

 

 どうしたもんかと苦笑しながらも、俺もシンに合わせて両手を上げ掌同士を打ち付けた。

 

「シン、よくやった! でも後で反省会な!」

「えー、上手くいったんだからいいじゃん」

 

 シンは唇を尖らせ文句を言うが、前衛である俺より後衛のお前が前に出たんじゃダメでしょうよ。

 

 まぁそれは帰ってからにしようと後ろで見ていたじいちゃんの方へと振り返ると、じいちゃんは目と口を大きく開け唖然とした様子で立っていた。

 

 ありゃ? 何か失敗しちゃったかな?

 

「じいちゃん?」

「お、おお……すまんすまん、ちょっとボーッとしておった」

「大丈夫? お腹空いたの?」

 

 孫の戦闘を眺めてボーッとするなんて……どうしたのだろう?

 

「いや、腹は減っておらんよ」

「そう? それで、俺たち上手くやれたかな? 俺は完璧だと思うけど、シンは失敗してなかった?」

「ルカ兄!」

「いきなりシンが飛び出した時は驚いて心臓が止まるかと思うたが、それ以外ら2人とも完璧じゃったよ」

 

 じいちゃん、驚いたならそれは完璧じゃないと思うんだ。

 しかし失敗したのはやっぱりシンか、どうしようも無いやつめ!

 

「やっぱりシンは帰ったら反省な!」

「えー……」

「ほっほ、とりあえず帰ろうかの」

 

 こうして俺たちは初めての魔物討伐を終えて家路についた。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 数日後、俺とシンはじいちゃんから「大切な話がある」と言われ森が一望できる丘の上へと呼び出された。

 

 そこで「実はお前たち2人とワシに血の繋がりは無い」とカミングアウトされた。

 

 俺とシンは当時から意識があったので当然知っていたが、さすがに当時1歳ということになっている俺たちがその事を覚えているとなるとそれは異常だという話になってしまうので俺とシンはアイコンタクトを交わして知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

 じいちゃんを騙しているようで心苦しいのだか、「実はじいちゃんの孫には両方とも割といい歳の中の人がいるんですよ」と伝える訳にもいかないのでこればっかりは仕方ない。

 

 全てを聞き終えた俺たちはじいちゃんに感謝の気持ちを伝え、じいちゃんの孫になれて幸せだと言いながら左右から抱き着いた。

 するとじいちゃんは泣き出してしまい、釣られて俺も泣き出すとシンまで声を上げて泣き始めるというカオスな空間になってしまった。

 

 じいちゃん、建前でもなんでもなく俺は本当に感謝してる。ありがとう。

 じいちゃんのことは俺とシンで支えるから。介護は任せてよ。

 

 こうして家族の絆を確かめあった俺たちは数年振りにじいちゃんを真ん中にして3人で手を繋いで家へと帰った。

 




何気なくランキングを見ていたら日刊ルーキー5位でした!

ひゃっほい!

次は総合ランキング入りたいので皆様評価してくださってもよろしくてよ?
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