賢者の孫のお兄ちゃん   作:愛飢夫

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渾身のギャグ

 15歳の誕生日の前日、俺とシンはじいちゃんから「卒業試験じゃ!」と言われ気持ち激しめの戦闘を繰り広げていた。

 

 俺たちが本気で模擬戦をすると腕がちょん切れたり足が消し飛んだりすることはザラにあるのだが、それをじいちゃんに見せると卒倒しそうなのである程度お互い手加減をしている。

 しているのだが……

 

「喰らえクソ兄貴! 日頃の恨みだ!」

 

 シンはそう叫びながら高速かつ高威力、広範囲の魔法を連続して放ってくる。

 

 かなりの魔力が込められている。これは割と本気なのではなかろうか?

 

「これはちょっときつい。俺の可愛い弟が鬼畜な件について」

 

 俺に向かって飛んでくる魔法を時に避け、時に斬り裂きながら降り注ぐ魔法の合間を縫ってシンへと接近していく。

 

 たまに魔法が掠って血が出るが、この程度は気にしない。腕はくっついているのだからかすり傷だ。

 

「気持ち悪い動きで避けんなよ! あと魔法を斬るとか意味わかんねぇよこの脳筋ゴリラ!」

「うるせえ頭でっかち! もう追い付くぞ、ぶっ飛ばされる覚悟はいいか!?」

「クソ……《ゲート》!」

「逃げんな腰抜けめ!」

 

 後一歩で間合いに入る所まで近付いたのだが、シンは背後に移動魔法《ゲート》を展開して扉を開き、倒れ込むように転がり込んだ。

 

 出口は……あっちか!

 

 俺は竜裂の刀身に魔力を集め、風の魔力へと変換して振り向きながらシンに向かって振り抜く。

 

 魔法と剣技の合わせ技、名付けて『風翔閃(弱)』! 

 

「ぶっ飛べ愚弟!」

「当たるかよ!」

 

 俺の『風翔閃(弱)』をシンは《魔法障壁》を展開して防御する。

 

「バカめ! それが狙いだ!」

 

 障壁を展開している間は動けないし、他の魔法を使うこともできない。

 シンが障壁を解除して別の魔法を使うまでの隙に接近してぶん殴るべく俺は気と魔力を高めてちょっと強めの《混合身体強化》をして踏み出した。

 

「バカはそっちだ! 俺は『魔法の並列起動』ができることを忘れたのか!」

 

 シンは障壁を貼ったまま蒼い火球を複数作り、俺に向かって放ってくる。

 

「何それズルい!」

「ここからは弾幕ゲーだ!」

「ぐぬぬ……!」

 

 連射される火球に対応するために仕方なく足を止め、刀を素早く振るって高速で飛んでくる火球を全て撃ち落とす。

 

「これで……どうだぁぁああ!」

 

 シンは俺が足を止めている間に障壁を解除したシンは火球を連射しながら巨大な火球を作り出し、放ってくる。

 

 これ……ガチのやつじゃん。 

 

「……避けられんね」

 

 今から横に飛んでもこの大きさは躱せない。

 俺が使える移動魔法である《瞬間移動》も既に《空間固定》の魔法を使われているので発動を封じられている。

 

 かと言ってぶった斬ってもこの大きさだと熱にやられてしまうだろう。

 

 お互い手加減をするという約束でやっているのに……ちょっと煽ったらこれなんだから。

 これだから賢いバカは困る。

 

 ほんのちょっとだけイラッとした俺は再び竜裂に大量の魔力を集め、纏わせる。

 

 イメージは『バット』。避けれず、斬ってもダメなら打ち返したらいいじゃない!

 

「4番……バッター、俺!」

 

 少しだけオープンスタンス気味に構え、竜裂を担ぐ。

 飛んでくる火球を見ながら左足を浮かせ、タイミングを見計らって踏み込みながらフルスイング。竜裂を火球に叩き付けた。

 

 弾き返した火球は狙い違わずシンへと向かう弾丸ライナー。まさか打ち返されるとは思っていなかったシンは慌てて水魔法を発動させて巨大な水壁を作って火球を防ごうとする。

 

 直後、巨大な火球と水壁が激突して凄まじい水蒸気が発生した。

 

 チャーンス!

 

 今、シンは俺を見失っている。ならば奴の次の行動は《索敵魔法》を使って俺の位置を特定すること。

 

 俺はシンの《索敵魔法》に引っかからないよう《魔力隠蔽》を行い、ついでに隠密術を使って気配を薄める。

 

 そのまま魔力を使わず気を高めて身体能力を上昇させ、一気にシンの背後へと回り込んだ。

 

「クソっ……どこだ!?」

「だーれだ?」

 

 俺を見付けようと周囲をキョロキョロと見渡しているシンの背後に立ち、首筋に竜裂の峰を当てた。

 

「い、いつの間に……」

「今来た所だよ。さて……アホほど魔法撃ち込んでくれたお礼をしたいんだけど覚悟はいい? 流石に何回か死にそうだったから強めにやるね?」

「それはちょっと……」

「フルボッコだドン☆」

「げふぅ!?」

 

 そう言ってから刀を納め、拳をシンの腹に叩き込む。

 

「そこまで! そこまでじゃあ!!」

 

 次はどこをぶん殴ろうかと指をポキポキ鳴らしていると、慌てたようにじいちゃんが声を上げながら俺たちの間に飛び込んできた。

 

「終わりなの? ここからが本番だよ?」

「やめんか! ルカが本気で殴ればシンの腹に風穴が開くぞ!」

「大丈夫だよじいちゃん。こいつ服に『物理衝撃無効』って付与してるもん」

 

 それに風穴が空いたとしてもこいつなら自力で治せるよ!

 

「その付与効果を腕力で突き破ったゴリラが何言ってんだよ……」

「シン、お代わり欲しいの?」

 

 シンが反論してきたが、俺が拳を握って見せると押し黙った。

 

「ふぅ……まったく、2人ともやりすぎじゃて。肝が冷えたぞい」

 

 じいちゃんが溜息をつきながら呟いた言葉を聞き、俺とシンは顔を見合わせる。

 

 やりすぎ? これで?

 四肢欠損が起こらないようにかなり手を抜いて……あ、シンは割とガチだった。

 

「えっと……」

「それで……」

 

 どう答えていいのかわからず、濁すように言葉を発すると、じいちゃんは呆れたような顔をして頷いた。

 

「無論、2人とも合格じゃ」

「「よっしゃ!」」

 

 俺はにこやかに右手を上げ、シンと笑顔でハイタッチを……せずにちょっと強めにシンの頬に平手打ちをした。

 

「ほっほ……ほんに立派になりよって……明日で15歳、成人となることじゃしこれで独り立ちかのぅ……」

 

 シンが驚いて涙目になっている隣でじいちゃんが嬉しそうな、しかし寂しそうな顔をして髭を撫でている。

 

 じいちゃん……

 

「じいちゃん! 俺、ずっとじいちゃんと暮らすよ! それでじいちゃんの介護は俺に任せろ!」

「まだそんな歳にはなっておらんわ!」

「痛い!」

 

 俺は本心からそう言ったのだが、お気に召さなかったようで割と強めにしばかれた。

 

「ルカ兄……もうちょい言い方考えろよ」

「回りくどい言い方は好きじゃない」

「にしてもだよ……」

 

 俺はじいちゃんの老後が心配なだけだよ? 

 

 それから俺たちはシンの《ゲート》で家へと帰り、2人で協力してじいちゃんの機嫌を取った。

 

「じいちゃん、今まで育ててくれてありがとう!」

「じいちゃんのお陰で俺たちこんなに立派に成長できたよ!」

 

 他にもいろいろとセリフを考えていたのだが、開始数秒でじいちゃんは号泣しながら俺たちを抱き締めた。

 

 じいちゃん、ちょろ過ぎない?

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 そして翌日。俺とシンが15歳となり成人を迎えたお祝いのパーティーが開催された。

 

 参加者はじいちゃん、ばあちゃん、ミッシェルさんは当然としてディスおじさん、クリス姉ちゃん、ジーク、トムおじさんだ。

 

 今まで名前だけ出てきた人とか名前すら出てなかった人もいるけど、細かいことはどうでもいい。

 とにかくこれだけの人が俺とシンの誕生日を祝うために駆けつけてくれたのだ。

 

「では……我らが英雄マーリン殿のお孫さんたちがこの度めでたく15歳になり成人した。それを祝って乾杯したいと思う。それでは皆、杯を持て」

 

 ディスおじさんが口火を切り、全員が目の前に置かれていたグラスを持つ。

 

「乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

「「皆さんありがとうございます!」」

 

 こうして、俺たちの誕生日を祝う宴が始まった。

 

「あのちっこかったルカとシンが成人するとはねぇ……」

 

 開始しばらくの間じいちゃんとばあちゃんによる孫自慢が続き、なんともこそばゆい気持ちになり若干肩身の狭い思いをしていたのだが、やがて話題は俺たちの今後についての話に移っていった。

 

「それで、ルカくんとシンくんはこれからどうするのかね?」

 

 そうディスおじさんが聞いてきたので、俺とシンはアイコンタクトを交わして代表して俺が答える。

 

「とりあえず街に行ってみます」

「うむ。それから?」

「強いやつと戦います!」

「おい!」

 

 シン……俺が話してるんだから割り込んで来るなよ!

 

「なんだよ」

「『なんだよ』はこっちのセリフだよ! なんで強いやつと戦うんだよ!」

「武者修行的な?」

「俺はやんねーからな!」

「やんないの? 2人で世界の頂点目指そうぜ?」

「ぜってーやだ!」

 

 なんだよ、わがままだな。

 

「う、うむ……やりたいことがあるのはいいこと……だな」

「ディスおじさん、それはルカ兄が勝手に言ってるだけだから! 納得しなくていいから!」

「そうか……では、シンくんはどうするのかね?」

「えっと……」

 

 場に静寂が訪れた。

 

「え? 何かあるだろ? ルカの『強いやつと戦いたい』は置いておいて、街や都に行けばシンなら魔物ハンターになれるだろうし、付与魔法で魔道具屋だって開けるだろうし、それだけ男前なんだから女の子と仲良くなって養ってもらえるかもしれないし」

「そんな考えを持っているのはアナタだけですね」

「なんだと?」

「なんですか?」

 

 クリス姉ちゃんとジークがメンチを切り合っている。

 2人ともいい大人なんだからそんなみっともないことは止めなさいよ。

 

「ハンター? 魔道具屋ってすぐできるの?」

 

 シンは不思議そうに首を傾げている。

 

 お前、そんなことも知らないの?

 これはほら、アレだよアレ……ごめん、俺も知らなかったわ。

 魔物ハンターって何? 冒険者じゃないの?

 

「まさかとは思いますがシンさん……ルカさんもですが、今まで買い物などをしたことは?」

「そういえば無いですねー」

「俺もありません」

 

 俺とシンが揃って頷くと、周囲の大人たちは驚愕に目を見開いて固まった。

 

「マーリン……あんた……」

「マーリン殿……これは……」

 

 ばあちゃんとミッシェルさんがじいちゃんを見る。

 

 見られたじいちゃんは一瞬「やべっ」と言いたげな顔をした後、手を後頭部に当てながら舌を出した。

 

「いっけね、常識教えるの忘れとった!」

「「「な、なにぃぃぃいいい!?」」」

 

 そういえば魔法ばっかりでその辺のことは何も教わってなかったわ。

 下手に前世で普通に生きてた分教わらなくてもできるもんだと思ってこっちから聞くこともしなかったな。

 

 それはそうとじいちゃん、てへぺろはねぇよ……

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