じいちゃんが体を張った渾身のギャグ「常識教えるの忘れとった!」で場の空気を完全に破壊した俺たちの誕生日会の翌日、昨日あの場にいた全員で魔法の練習場である荒野へとやって来た。
移動はシンの《ゲート》で行ったのだが、俺とじいちゃんを除く全員が口をあんぐりと開けて固まっていた。
ならば更に驚かせてやろうと思い、魔法の天才であるシンでさえ「怖くて使えない」と言っていた《瞬間移動》の魔法で現れたり消えたりして見せるとみんなは魂が抜けたような顔を披露してくれた。
ちなみになぜ全員でここに来たかというと、「これだけ世間知らずならこの爺さんが教えた魔法がどんなことになっているのか確かめたい」とばあちゃんが発言し、全員が同意したからである。
なんかもうシンの《ゲート》と俺の《瞬間移動》でみんなお腹いっぱいみたいだけど何を見せれば更に驚いてくれるかな?
「はぁ……2人ともが転移魔法を使える時点で驚きなのに魔法の練習をする為にこんな荒野まで来ているなんて……あぁ、もう何も見たくないね」
「そうは言いますがメリダ師、これは確認しておかないとルカくんとシンくんがどんなトラブルに巻き込まれるか分からないのですから……諦めて確認しましょう」
「そうだねぇ……ディセウムの言う通りだね」
なんかばあちゃんとディスおじさんが遠い目をしているな……
これから多分もっと驚くから今からそんなんじゃ体が持たないよ?
「それで……じいちゃん、どうしたらいい? 昨日みたくシンと模擬戦をすればいいの?」
「いや、あんなのを見せてしまうとこの婆さんの心臓が止まりかねんからの。まずはシンの魔法を見せてからその魔法をルカが剣で撃ち落とす姿を見せればいいじゃろう」
「「わかったー!」」
まぁ俺の攻撃魔法なんて見せてもしょうがないからね。
俺もじいちゃんやばあちゃんから魔法を教わった身なので一通りの魔法は使える。
使えるが、シンやじいちゃんと比べると出力が非常に低いのだ。制御出来る魔力量は変わらないはずなのに不思議だよね。
ちなみにどれくらい違うかというと……シンの魔法攻撃力を500とするならじいちゃんが300、そして俺は100に届くかどうかくらい。
なのでシンの魔法は当然としてじいちゃんの魔法も俺には防げない。
少なくとも15年は隠居しているじいちゃんに勝てないのだから俺が魔法使いとして生きていくのはかなり厳しくのだろう。そんなつもりも無いけども。
まぁでもシンでも使えない《錬金魔法》や使いたがらない《瞬間移動》なんかは使えるし、《身体強化》魔法の練度は2人よりもはるかに高いので武術家としては問題無いし、シンとは違う不思議系魔法使いとして生きていくのも可能かもしれない。
そんなことを考えているうちにシンの魔法演習が始まった。
シンはまず昨日俺に連射してきた小さくて蒼い火球を複数創り出した。
「なんだあれ……」
「蒼い……炎?」
「それよりもなんだあの数は……」
それを見た周囲の大人たちがざわめいている。
シンはそれを横目で確認してから魔法を放った。
ドグッとくぐもった音を出し、炎は地面に着弾した。
「「「……」」」
全員、言葉を失った。
それからシンは『水』を使って鞭のようにしならせてみたり、凍らせて氷弾として打ち出してみたり、津波を起こしたり……
それが終わると今度は『風』を使って突風、真空波、竜巻を起こしたり、なんだかすごいダウンバーストを起こしてみたり……
さらには『土』を使って弾幕を貼ってみたり超硬度の壁を作ってみたり、その壁から勢いよく棘を生やしたり……
オマケに空から雷やビームのようなものをを落としてみたり、魔法で姿を消してみたりとありとあらゆる魔法を披露した。
ちょっと待って、空からビームとか何がどうなってんの!?
あんなの防げる気がしないんだけど!?
まぁあのビームは発動までに時間掛かるし、集中してないと使えないっぽいから使われそうになったらダッシュで近付いてぶっ飛ばせば大丈夫か。撃たれたらしゃーない。あれは無理。いくら俺でもビームは斬れない。
「はは……あはは……」
俺がシンのビーム魔法の対応策を考えていると、大人たちの方から乾いた笑い声が聞こえてきた。
振り返って見てみると、大人たちの表情は死んでおり、口元だけがピクピクと動いていた。
ふむ、普段表情が全く変わらない『表情筋死んでる疑惑』のあるクリス姉ちゃんがあんな顔をしているのは初めて見たな。レアだ。激レアだ。
そんなことを思いながらみんなの表情を観察していると、突然ばあちゃんの顔が真っ赤に染まり、じいちゃんへと掴み掛った。
「マーリン! あんたは……あんたはなんでこの子に『自重』を教えなかったのさ!」
「確かに……」
「これはちょっと……いや、かなり酷いですな」
みんなも再起動したようで、口々に感想を述べ始めた。
「だってのぅ……教えたことはみぃんな吸収しよるんじゃ。どこまで出来るか見たくなっちゃったんじゃもん」
「なぁにが『じゃもん』だい! 気色悪いんだよ!」
おお……ばあちゃんめっちゃ怒ってる。
こんなに怒ってるのを見るのも初めてだ。
激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。
「これはちょっと……おいそれと世間に出せなくなったな。これだけの破壊力のある魔法に《ゲート》のような移動魔法……各国がシンくんを手に入れたら世界征服に乗り出す可能性が高い」
ディスおじさんがそんなことを言い出した。
え? シンの魔法ってそこまでヤバいの?
「ええ。加えてミッシェル様に鍛えられ近接戦闘能力も高い……いくらルカの方が近接戦闘が強いとはいえ、これが知れたら各国がシンを取り込もうと躍起になりますね」
そこまで? そこまでなの?
じゃあそのシンに勝てるであろう俺は既に世界最強なの? まだ見ぬ強者は存在しないの?
俺が混乱していると、黙って何かを考えていたディスおじさんが再び口を開いた。
「マーリン殿、少し話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ほっほ……その前に……この婆さん……何とかしてくれんか?」
「誰のせいだい! 誰の!!」
襟首を締めあげられているじいちゃんが息も絶え絶えに助けを求めてくる。
「ばあちゃん、そんなに興奮すると体に悪いよ!」
「そうだよ! 血管切れちゃうよ!」
「誰のせいだい! 誰の!!」
やべ、矛先こっち向いた!
でも今日俺は何もしてないよ! 冤罪だよ!
そうして矛先がこちらに向いたことで解放されたじいちゃんはディスおじさんと話を始めた。
「マーリン殿シンくんのこの力は正直言って異常です。各国の勢力分布を狂わせる程の力がある。加えてこの森以外を知らない世間知らず……このまま社会に放り出したら各国の思惑に踊らされる事になる。それはシンくんの為にも世界の為にもなりません」
「そうじゃのう……」
大丈夫だよディスおじさん! シンがアホなことしようとしたら俺がぶん殴って止めるから!
「そこで考えがあります。シンくんを高等魔法学院に入学させませんか?」
「それは……お主の国にシンを取り込もうという考えかの?」
一瞬、じいちゃんから険のある魔力が発せられた。普段温厚な好々爺然としたじいちゃんにしてはとても珍しい。
「シンくんを軍事利用しないことは今この場で誓いましょう。私だってシンくんを赤子の頃から見ています。いつも甥っ子のように感じていた彼を戦火の中に放り込むなど、私の感情が許しません」
「となると、どういう事かの?」
「ご存知の通り我が国には高等魔法学院があります。この学院は15歳までの中等教育が終わった者の中で特に優秀だった者をさらに鍛える為の高等教育機関です。魔法使いの中でも特に優秀な者が集う場所……そこならシンくんの魔法が如何に規格外か、一般に優秀とされる魔法使いがどの程度のレベルなのか知ることが出来るでしょう」
シンって規格外なのか……
「それに、高等魔法学院の入学は15歳からです。今までルカくん以外の同年代と付き合った事の無いシンくんにとって友人を得る丁度いい機会だと思いませんか? 歳の近いクリスとジークはその……こんなですし」
クリス姉ちゃんとジークが目を逸らした……先で目が合ってメンチ切り始めた。
まったく……いい大人なんだからいい加減自重しなさいよ。
「なるほどのぅ……」
「確かマーリン殿は王都に家をお持ちでしたでしょう? そちらに住めばお金の使い方など世間一般の常識も学べると思うのですが」
「ふむ……」
じいちゃんは顎に手を当て思案する。
「シン」
「何?」
「ワシはディセウムの言う事は尤もじゃと思うし、それが一番いいと思えたのじゃがシンはどうかの?」
「俺もそれでいいよ。学校って通ってみたいし、同い年の友達が出来るかもしれないんだろ? すげぇ楽しみ!」
シンは楽しそうに瞳を輝かせている。
可愛い弟が楽しそうなのを見るのは嬉しいね。
「なら学院には私から言っておこう。ただ、私としてはこのまま入学させてもいいのだが、形式上入学試験を受けてもらう事になる。いいかな?」
「別にいいよ」
「すまんな。入学後のクラス分けは試験の結果を元にしているから試験を行わない訳にはいかないんだ。我が国の高等魔法学院は貴族の権威を一切受け付けない完全実力主義でね……私が便宜を図ることも出来んのだ」
「そうなんだ……貴族の権威を振りかざしたらどうなるの?」
「厳罰に処する」
「こわっ!」
「優秀な魔法使いの芽を刈り取る行いだからな。国家への反逆と看做される場合もある。シンくんも気をつけろよ?」
ディスおじさんニヤニヤしてる……これ大袈裟に言ってシンを揶揄ってるだけじゃないの?
「そんなじいちゃんに迷惑掛けるような事する訳ないじゃん。それよりさっきから『我が国』とか権威があるっぽい話とかしてたけど、ディスおじさんって何者なの?」
そういえばディスおじさんが何してる人か知らないな……
まあトムおじさんが商人ってこと以外誰のことも知らないんだけどね。
「おお、そういえば言っていなかったか。私の名前は『ディセウム=フォン=アールスハイド』。アールスハイド王国の国王だ」
な、な、なんだってー!?
「まさかの王様……じ、じゃあクリスねーちゃんとジークにーちゃんは?」
「私は近衛騎士団所属の騎士で、陛下の護衛としてここにいるの」
「俺は宮廷魔法師団所属の魔法使いさ。俺も陛下の護衛だよ」
クリス姉ちゃんはわかるけどジーク、お前は嘘だろう?
「えー!? クリスねーちゃんはともかくジークにーちゃんは嘘だぁ!」
おっと、シンも俺と同じ考えだったか……
ジークってただのチャラい兄ちゃんにしか見えないもんな。
「待てコラ、嘘ってなんだ! それよりもクリスはともかくってなんだよ!」
「ふふ、やはりシンは見る目が有りますね」
「何だとコラ」
「なんですか? あぁん?」
再びメンチを切り始めた。
「まぁ2人は置いておいて……じゃあミッシェルさんは?」
「私は何年か前に騎士団を引退したよ。引退する前は騎士団総長をしていたな」
騎士団総長!? 冒険者じゃなかったの!?
「そ、そうなんだ……なんだこの王国重鎮勢揃いな状況……」
うむ。俺もそう思う。
「ほっほ、長くなりそうじゃし、まずは家に戻ろうかの」
「ちょっと待って!!」
じいちゃんがそう言ってシンにゲートを開かせようとしたので、ここしかないと思い俺は挙手をしながら声を張上げた。
「ルカ、どうしたんじゃ?」
「なんで全部終わったみたいな空気になってんの? 俺は? 俺、何も見せてないよ!」
シンの魔法見せたらその後俺の剣技を見せるって話だったじゃん!