連邦の白い棺桶に乗ってしまった…(助けて) 作:デーデーデー
最後に新しいアンケートも用意しておいたので暇潰しがてらにでも、お楽しみ下さい。この話への感想については、内容がどちゃくそ長いんで、好きなだけ感想よこして下さって全然OKです。
毎日の朝は最悪の気分でいつも始まる。
激しい動機、全力疾走した直後のように荒い呼吸、全身に纏わりつく冷や汗、震える身体。そして目覚めの直前まで見ていた嫌な夢⸻ソア・キャノン攻略戦の最中、砲台に次々と撃破されるガンダム部隊の姿。次から次へと表れるドップの空襲。ジャブローでのシャアとの交戦⸻いや、嫌な夢なんて表現では生ぬるい。紛れもない悪夢だ。醒めた後も脳裏に焼き付いて離れない、腐った残り滓のような感覚が残る。
こんな調子だから、寝るのが嫌すぎて、もう自然に眠るなんて、よっぽど疲れるでもしなければ叶わない。最後に普通に眠ったのはもう何年前だろうか。今の俺は立派な不眠症患者だ。
とはいえ、人間、眠らなければ生きていけない。大変不本意な事実ではあるが……。
だから、俺は仕方なく、2日に1度のペースで無理やり眠る方法を取っている。これで最低限の眠りは確保できる。
睡眠薬を使えば、夢を見る間もなくノンレム睡眠に落ちることはできる。
だが、睡眠薬を頼り過ぎるのは危険だ。耐性がついて効かなくなる恐れもある。
だから睡眠薬は作戦前など、どうしても体を強制的に休める必要があるときに限定して使用している。
白い棺桶(ガンダム)に乗る身として、せっかく、ここまで生き残れたのに、いざという時に睡眠薬が効かず、睡眠不足で撃墜されましたなんて事態は願い下げだ。
代わりに、俺は糖分と酒の力を借りて眠る。
パイロットとしての仕事のない非番の日の夜は、強力な人工甘味料の原液とアルコール度数の高い酒を混ぜた甘ったるい強烈なカクテルを作って、強制的に酔い潰れて寝る。幸い、俺は酔っても情緒不安定になったり暴れたりするタイプではなく、ただ眠くなるだけの性質だから、これまでこの方法で大きな問題は起きていない。
だから冷蔵庫の中には、いつでも睡眠用のカクテルを作れるようの材料が常備されている。
とはいえ、この方法でもノンレム睡眠にたどり着けるのは10回に1度あるかどうか。
残りの9回はやっはり悪夢だ。それでも、悪夢の頻度が10割から9割に減っただけでも上出来だと思っている。だから続けている。
とはいえ、悪夢の多さには変わりない。だから、パイロットとしての任務に支障が出ない範囲で、眠る頻度を2日に1度にまで減らしているのだ。
そんなわけで、今日もまた朝は来る。
荒れた呼吸を整え、ベッドから起き上がると、悪夢を振り払うようにテレビを大音量でつけて、シャワールームに向かい、全身にまとわりついた汗を洗い流す。
俺の住まいはサイド7の居住区画にあるアブ・ル・ハウルPMC(うちの会社)が社員用に保有している居住棟内のワンルームだ。窓はひとつもなく、唯一の光源は天井の照明だけ。
10畳ほどの部屋で、家具らしい家具はベッドとテレビ台くらい。それ以外には私物が大量に散乱しているが、最低限の整頓はされている。だが、全体的には無造作な空間だろう。
そんな部屋でシャワーを終えると、使い古した連邦軍の制服に着替える。
朝食は味気ない穀物系エナジーバーを2本と、グレープフルーツジュースをコップ1杯。甘ったるいものばかり食ってると、たまには甘く無い物や酸っぱいものも摂りたくなる。朝食は大抵これだ。
朝食を終えると、シンクへと向かい水道の水でコップを軽く濯いで水を入れ、そのまま棚からブラックマーケット経由で定期購入している複数種類の抗精神薬の入った箱から十数粒を慣れた手つきで掌に取り出すと、それらを口に放り込み、水で一気に流し込む。
流石は正史において人間の人格を好き勝手に弄くりまくる一端を担っている宇宙世紀の精神薬。
これを飲んでいれば、普通を装う事ができる様になる位には、余裕で症状を抑え込む事が可能だ。
もっとも……既に俺が飲んでいる薬の量は一般の病院では絶対に処方されないレベルで多くなってしまっているが、まぁ、そこは何でも金さえあれば手に入るブラックマーケット。お陰で、安定的な購入が出来ている。
ちなみにこの薬。飲み忘れると大変だ。
前に一度だけ飲み忘れた事があったのだが、その時は色んな感情が溢れ出てきて、頭が爆発しそうになり*1、部屋の中でのたうち回った後に、飲食もトイレに行く事すらする気が全く起きない完全な無気力状態になった。
無断欠勤を怪しんだ同僚に発見されて病院に担ぎ込まれて、医者からは薬の効力が切れた事で抑えられていた感情が一気に押し寄せてしまったのだろうと診断された*2。その後は薬を飲んだら直ぐに、いつも通りに戻ったが、もう二度と同じ事は御免だ。
歯を磨き、顔を洗い、身支度を整えた後は、部屋に積まれた段ボールの山へと向かう。その中の開封済みの箱に手を突っ込むと、チョコ味のエナジーバーを5本、無造作に取り出し、制服のポケットへと突っ込む。エナジーバーは甘いものから甘くないものまで大量に買い置きしてある。俺が毎日食べている食事だ。
それから、枕元に置いておいたホルスターを手に取り、中の拳銃の弾倉を確認すると腰に下げ、テレビの電源を落とし、最後に自分のノートパソコンを手に取り俺は自室を後にした。
居住棟からエレカに乗って出た俺はその足で、ドック39に停泊しているホワイトベースへと向う。
ドック39へと到着し、ホワイトベースの中に入ると、そのまま真っ直ぐ格納庫へと直行。途中倉庫からPC用の延長通信ケーブルを借りてFAガンダムの下へと向かったのだった。
「テネス・A・ユング……実在したのか」
非番の日の昼下り、俺はホワイトベースの格納庫でFAガンダムのコックピットを開放し、その中に外部から通信ケーブルを引いて持ち込んだノートパソコンと操縦用のコンソール画面を接続し、コンソール画面をモニターとキーボードの代わりとして使用していた。
コンソール画面には、連邦軍情報局の使用している専用秘匿ネットワーク回線を通じて人事名簿の資料が表示されている。俺はその資料を興味深く閲覧していた。
シイコさんが現れた事で急に色んな情動に動かされた俺は、今まで、一切調べようと思っていなかった為に調べてこなかった、この世界において存在している正史のキャラについて調べていた。
「そりゃ……シイコさんが、ラテン語で "ユニカム" なんて言われる筈だ……」
俺の目の前の名簿帳には氏名と共に1年戦争中における撃墜スコアが書かれている。そこには "テネス・A・ユング、撃墜スコア52" と表記されていた。
テネス・A・ユング。正史において1年戦争中にMSの撃墜スコアでアムロの143を超える149で記録されている人物。
アムロを越える連邦軍のエースパイロットとして登録されているが、これだけの戦果を獲得しているにも関わらず、1年戦争後には丸っきり話が出て来ない為、ガノタの間では民間人のアムロが記録トップである事実を許せない連邦軍の上層部によって、でっち上げられた説や、そもそも存在しない説などが囁かれる何かと疑惑の絶えない人物である。
真相はともかくとして、そんな疑惑の絶えない人物の名前が連邦軍のこのリストに載っている事を俺は内心少し驚きを持って見ていた。
少なくとも、この世界においては、シイコさんが100キル越えと記録されている辺り、恐らくこの記録も本物だろう。撃墜スコアは低いが(テネスの)。
だが、俺はテネスが実在した事に驚くのと同時に、撃墜スコアの隣の欄に書かれた文字を神妙な面持ちで見ていた。
撃墜スコア表記の最後の欄には "KIA" つまりは戦死と記されていたのだった。テネス・A・ユング名前をクリックすると、彼の簡単な経歴が表示される。
内容はこうある。
彼は1年戦争以前から連邦軍に所属し、戦争が勃発すると宇宙戦闘機トリアーエズに搭乗して初の実戦を経験。その後もトリアエーズからセイバーフィッシュに乗り換えつつ様々な作戦に従事し、宇宙戦闘機ながら、MSの撃墜スコアを徐々に積み上げていった。
その後、ジムが量産されると、彼には特別仕様のジムが支給される予定だったが、彼は搭乗を拒否(十中八九ポンコツだったからだろう)。代わりにコア・ブースターに搭乗。搭乗したコア・ブースターは彼のパーソナルカラーである黒色に塗装された。
ソロモン戦時にはジオンから鹵獲したビームスナイパーライフルを転用し、ビームスナイパーライフルを機体上部右側に設置、大型高精度照準器を機体上部左側に設置した急造機体で挑む。
その後、ルナツー攻防戦へと至るが、その戦場にて、敵MSに撃墜され戦死……と記されている。
俺が知る限りテネスは疑惑はあれど戦死したという記録は正史において無い筈だ。だが、ここには間違いなく戦死と記されている。その上、記録の信憑性は高い。
だが、俺を驚かせたのは、それだけでは無かった。
リストの中には当然、テネス以外にも様々な人物の名前が表示されている。名簿帳なのだから、当然と言えば当然なのだが、俺はその名簿帳を確認する上で、徐々に戦慄していった。
俺が調べたのは正史において登場した登場人物達の名前だ。
この世界は正史の正しい歴史からは明らかに外れている。
さらには、存在する人物や存在しない人物までもが居る。セイラさんが存在せず、サラ・ホリンが存在するのはその筆頭例に挙げられるだろう。
俺は今まで、この世界と正史が何処まで差異があるのか明確には調べた事が無かった。
だから、調べている。検索機能の一切無い純粋な表である上に下手な百科事典よりも膨大な量である為、探すのに、かなり苦労したが、アルファベット順に並ばせる位には気が利いた作りをしていた為に半日であらかた調べる事ができた。
だが、その調べた結果は、大半のガノタが見たら発狂もの確実であろう恐るべきものだった。
一人々の名前を挙げてくのは大変である為、あえて挙げないが、凡そ、正史に登場した連邦軍関係者の名前は半分程度が確認出来た。
記載されていない者は恐らくは、この世界には存在しないか連邦軍に入っていない可能性が高いだろう。この点自体は驚くべき点ではない。予想できていた事だ。
問題は名簿に名前があった者達の内、パイロットだった者達の方の記録だった。
まず撃墜スコア。
連邦軍エースの撃墜スコアが軒並み個人差はあれど、俺の記憶している正史の記録と比較しても全体的に凡そ半分程度にまで落ち込んでしまっていた。
中には正史では準エース級だった筈なのに、全く戦果を挙げられていない者すら存在する。
そして俺が最も驚愕し戦慄した点……それは、戦死者や行方不明判定だった。
なんと、正史において1年戦争を生き延びた筈の人物達までもが、戦死や行方不明判定を受けている者が多数いたのだ。
その数、凡そ名簿にパイロットとして名前が載っている者の9割近く……生き残っているのは、ほんの3名程度(カイやリュウなど俺と関わりのある者を除いた上での人数)だけという有様だった。
俺はこれを見て正直、唖然とした。
目の前のこれは一体何だ?俺は何を見せられているんだ?と困惑したが、冷静に考えてみると、思い当たる節があり過ぎた。
十中八九、MSがポンコツ過ぎたせいだ。
スコアが全体的に半分程度に落ち込んでしまっているのも、戦死者や行方不明者が多いのも、これで全て説明がついてしまう。
MSがポンコツ過ぎるから搭乗を拒否して戦闘機や戦車で戦うという選択肢もこれで生まれてしまい、これも説明がついてしまう。
俺は頭が痛くなる気持ちに陥った。
この世界の連邦軍のポンコツMSに乗ったら例え正史で活躍したエースでも余裕でザク相手に カンカンカン!ボーン!デーデーデー♫ してしまう姿は嫌だが想像に難くなかった。
それはアムロでさえでもだ。正史において鬼神の如き働きをしたアムロだったが、覚醒前はガンダムの装甲に助けられる事が良くあった。だが、仮にこの世界にアムロが存在していてガンダムに乗って、正史と同じ成長速度で戦っていたら間違いなく序盤で、その他大勢の犠牲者達と同じ運命を辿っていたた事だろう。
ガンダムや陸戦型ガンダムの生存確率はもはや論外とまで断言できる程に致命的で、その後のジムはガンダムに比べれば装甲が大幅に強化され生還率が上がっているとはいえ、ポンコツなのには変わりない。
だからこそ、テネスの様にそんなポンコツMSに乗るのは御免だと搭乗を拒否するケースが生じ得る訳だが、それでも運命は残酷であり、ただでさえ連邦のMSがポンコツ過ぎて圧倒的にジオンが優勢な戦場で通常戦力では…………。
……恐らく実際、俺のこの最悪の想像通りだったのだろう。
テネスの正史に比べて低い戦績と戦死判定はまさに、この世界の連邦軍のMS技術の弱さが齎した厳しい現状の一旦を示していたのだ。
こうなってくると、ゲームで操縦に慣れていた事で序盤で生き残る事ができ、その間に変な直感に目覚めた俺は、ある種、カンニングの結果とも言えるから、ともかくとして、性能の低いMSを限界まで使いこなすシイコさんの異常性が際立ってくる。
シイコさんの撃墜スコアは連邦軍においてただ一人、100キル越えを達成して堂々の1位。
一方でテネスの撃墜スコアはランキング3位で、2位は全く聞き覚えのない女性の名前が記されていた。戦時中に戦死判定を受けている事から、俺はこれが、恐らくはジークアクスにおけるシイコさんのMAVに当たる人物だったのではないだろうかと予想する。
「やっぱシイコさんって連邦が弱体化した時に出てくるバグみたいな存在だったのか……?」
シイコさんはジークアクスの世界において "ユニカム" や "スーパーユニカム" "連邦の撃墜王" と呼ばれていた。そして、それは俺が調べた限り、この世界でも同じな様だ。
ユニカムはラテン語で "唯一" を意味する単語。それにスーパーが付けられたり、同時に連邦の撃墜王と呼ばれている。
この名簿を見るまでは単なるエースを意味する単語と認識していたが……。
名簿の内容を見た今では、この異名の意味合いが深みを増してくる。
シイコさんは連邦軍において唯一、100キル越えを達成したパイロット。つまり、伊達にラテン語で "唯一" なんて言う異名が付けられている訳ではないという事だ。
もしかしてジークアクスの世界でもシイコさんにユニカムなんていう異名が付いていたのは、連邦軍内で1位の撃墜スコアを持っていたからなんだろうか……。
でも、あの世界にはビグザムを堕とした白い軽キャノンのパイロット、セイラさんも居る訳だし、その辺、あの世界の連邦軍のスコアはどうだったんだろうか……とも夢想するが、それは考えても答えの出ない事だと考えるのを止める。
ガンダムが娯楽作品だった前世の世界なら、もしかしたら、その辺の答えを知る機会もあったのかもしれないが今、俺が生きているのは、この世界だ。
向こう側(前世)で何が語られようと、今の俺には、それを知る術は無い。
「それにしても……俺は何でこんな重要な事を今まで一度も調べなかったんだ……」
俺は猛烈に自分をぶん殴りたくなった。普通、こういう重要な事は最初に調べるべき事案だろう。だが俺は、前世の推しキャラだったシイコさんに出会うまで、こうした事柄について自分から調べようと思った事は一度もなく行動にも移さなかった。
1年戦争中はまだしょうがないと言い訳出来るだろう。1年戦争中はまだ色々と結果が出ていない訳だし。だが、戦後は5年もの時間があったのだ。調べようと思えば、いつでも出来た筈だ。これに関しては言い訳は全くできない。
どうして、こんな重要な事をシイコさんと会うまで調べようとしなかったのだろうか。俺は夢想する。
あの時、シイコさんに会った時、それまで全く浮き沈みがなかった俺の感情が驚きによって強く揺さぶられて今に至る。
何故、シイコさんに出会って感情が揺さぶられたかは明確だ。最初、気づかなかったとはいえ、それが唐突に向こうの方から正体が明かされ、それが前世で好きだったジークアクスのキャラだと言うのだから、驚かない筈がない。
しかも、それ以降もシイコさんはウチの部隊に配属という事で定期的に顔を合わせる関係となった。
思えば、これが大きなきっかけなのは間違いないだろう。ジークアクスで推してたキャラの一人に唐突に実際に会った衝撃で俺の感情に波風が立ったのだ。
…………。
深く考える必要は無かったかもしれない。
簡単な事だ。シイコさんという衝撃が無ければ、こうした重要な事柄すら調べようとしない程までに俺の頭はおかしくなっていたのだろう。
自分の頭が1年戦争とその後の戦乱を通じておかしくなっている事は分かっていた。でなければ、抗精神薬なんか飲んでないし、酒も糖分もこんなに摂取していない。
だが、自分がこんな基本的な事を調べる事すらしない程に、おかしくなっている自覚は全くなかった。
こういう外的要因で自分の異常者レベルの高さに気づかされるのは中々に来るものがある。
「はぁ……」
「なに、溜息ついてるの?」
「うおわっ!?」
俺が自分の頭のおかしさを再認識していると、唐突に件の人物の声が自分に向かってしてくる。
完全に油断しきっていた為に俺の口からは変な声が出てしまった。
見ると解放されたコックピットの中を覗き込むようにシイコさんの姿があった。
「シイコさん……どうしたんですか?」
「ちょっと社長に用があったから来てたの。で、帰る前にジムを少し見ていこうかと思ったら、ガンダムのコックピットが開いてて何かしてるみたいだから見にね」
「シイコさん非番ですよね?それなのにわざわざ会社にですか?」
「ジムの補給パーツの件でね。前に問題があったら、それを改善する様に伝えるのを思い出して来たの。それはそうと、あなたも人の事言えないんじゃないかしら?」
「そうですかね」
「そうよ。あなた、1週間は非番の筈でしょ?なのになんで会社に?」
「週一でガンダムのコックピットに少しは座らないと、乗れなくなっちゃうんですよ」
「乗れなくなっちゃう?ガンダム特有の調整とかそういう意味かしら」
「いえ、前に1週間以上ガンダムに乗らない時があったんですけどね。それで期間を置いてガンダムに乗ったら、恥ずかしながら、全身の震えと冷や汗が止まらなくなっちゃいまして。それ以来、そういう事が無いように週一はガンダムに乗って身体を馴らしてるんです。ははは」
「……そう」
自虐気味に苦笑いを浮かべて理由を説明する俺に対してシイコさんは、痛々しい物を見るかのように一瞬視線を落とす。あれ、そんなに変な事言っただろうか。
「そう言えば、さっきから何してるの?ケーブルを引き込んでいるという事は何か作業かしら」
そう話題を変えたシイコさんは、唐突にコックピットの中に侵入してくる。
俺は名簿を見ていた事がバレる(別にバレても問題ないのだが)と思い、咄嗟にボダンを押して名簿の表示されたウィンドウを閉じた。
名簿の下で開いていた作業用のウィンドウのみがコンソール画面に残る。
シイコさんは宙に浮きながら器用に狭いコックピット内を身体を捻りながら、俺の後ろへとまわる。そして座席越しにコンソール画面を覗き込んだ。
「これは……設計図?上から送られて来たの?」
「えーーあーー……いえ。自分で書いた奴です」
「あなたが?驚いたわ。この部隊って兵器の試験運用が主目的の部隊だと思ってた」
「一応、ここ宇宙兵器開発部隊ですから。名前通りの事は一通り。まぁ、もっとも、兵器の設計案作ってるのは俺しか居ないんじゃないですかね。経歴にプラスして技術将校の資格も持ってるんで、上から定期的に実戦経験を踏まえたMSの改善案や新型兵器の案を提出する様に言われてるんですよ」
「そういえば、FAガンダムはあなたの発案だと聞いていたわね……なるほど。あなたがガンダムで生き残って来たのもエンジニアとしての素養があったのも大きいのね……」
「工科大学出てなかったらと思うとゾッとしますよ。もし、別の進路に進んでいたら今頃、生きてはいなかったでしょう」
「その設計図、見ても良いかしら?」
「いいですよ」
背後にまわって覗いてから、それを聞くんかーい!と思いつつも、別に同じ部隊かつ同じ階級のパイロット同士である為、見られてもなんの問題もない為、了承する。
もっとも、シイコさんも見ても問題無いと思った、あるいはそう感じ取ったから、覗き込んで来たのだろう。
「仮名称はТип-133……これは……ボール?バズーカを3門も搭載するのは余り見ないわね」
「ええ、ボールです。上はFAガンダムに興味がある様で、FAガンダムの量産型の案を提出する様に求められたんであげたヤツです」
「ボールが……FAガンダムの量産型?」
シイコさんは怪訝な表情を浮かべる。
「……内容を聞いても?興味があるわ」
「シイコさんが怪訝に思うのは分かります。ガンダムとボールは全然違いますし。多分、シイコさんが怪訝に思っているのもそこですね?」
「ええ……」
「ですが、それはFAガンダムをMSとして見た時の視点の話だと思います。でも、FAガンダムはMSじゃない」
「それはMSよりもMAに近いという意味?」
「それもそうですけど、あくまで運用方法の話です。FAガンダムの戦闘方法は主に一撃離脱戦法で、近接戦闘は極力避ける様になっています。本体の防御力が皆無なのと、手持ちの射撃武器が事実上の固定方向しか撃てない為です。
これはもはや、MSと言うよりも、やろうと思えば一応は対MS戦も出来るAMBAC可能な宇宙戦闘攻撃機です。実際、対MS戦よりも対艦攻撃面の方がFAガンダムは適している。シイコさんは、ブラックバーン・バッカニアって知ってます?」
「ブラックバーン・バッカニア……?いえ、ごめんなさい。聞いたことないわ」
「知らなくても無理はないですよ。旧世紀のイギリスの攻撃機です。米ソ冷戦中に敵の艦隊に低空、高速で接近し核攻撃で殲滅する為に作られました」
「なんていうか……この世の終わりみたいな攻撃機ね」
「それには同意ですね。この攻撃機は核攻撃を運用の前提にしていたんで、固定機銃などの対空装備は搭載されていなかったんです。で、ここからは仮定の話になってしまうんですけど、この攻撃機に対空武装として固定機銃を取り付けて一応の航空戦が可能な戦闘攻撃機にしたとします。
ミノフスキー粒子が無く、まだレーダーとミサイルの時代にこの戦闘攻撃機で航空戦をしようと思いますか?」
「思わないわね」
「FAガンダムも同じです。FAガンダムにとっての核はビームライフルです。ビームライフルは上手く扱えば、戦艦を撃沈できる。FAガンダムにとっては固定機銃もビームライフルですが、この場合、ブラックバーン・バッカニアに対するミサイルやレーダー全盛期の時代の相手戦闘機はFAガンダムにとってはMSになります。MS戦で固定された一方向にしか撃てない武器なんて、不利以外の何物でもないです。FAガンダムには先回可能な大型メガ粒子砲もありますが、手持ち式の射撃武器に比べると取り回しが悪いのは否めない。
装甲も無く、接近戦闘も不得意なFAガンダムをMSとして扱う。つまり、FAガンダムをMSとして扱うと言う事は自殺行為に等しい訳です。
ですが、これは裏を返せば、FAガンダムで得られた知見を基に同様の機能を持った物を作ろうと思ったら、AMBACが可能ならば、FAガンダムの様な手も足も頭も要らないという事です」
「なるほどね……話が見えてきたわ。でも、そうだとすると、このボールは見た目通りの物じゃないんでしょ?従来のボールのままじゃ、FAガンダムの機能を補完出来ないし」
「流石シイコさんです。その通りで、このТип-133は外見こそMSに匹敵する12.8mのボールですが、1年戦争中におけるボールという文脈の中じゃ明確な違いがあります。
まず、動力はバッテリーではなくMS基準の熱核融合炉です。まぁ、これ自体は今じゃ珍しい事じゃありませんが……」
「宇宙海賊や犯罪組織のボールがビーム砲を撃ってきた時は驚いたものよ」
シイコさんは苦笑気味に言う。
そう、この世界ではガンダム、陸戦戦型ガンダム、ジムなど連邦製MSが軒並み産廃兵器過ぎた結果、その中でいて正史と同等の能力を持っていたボールは、連邦軍においてジム以上の高い評価を受ける事になり、その結果としてボールは、正史においてはMS扱いされておらず、モビルポットなどと言われていたが、この世界では列記としたMSとして扱われている*3。
その影響が如実に出たのが戦乱後だった。
降伏を拒否した誇り高き連邦軍の残党から犯罪組織にジョブチェンジした各勢力は、ボールを運用し続け、進化させ、ここ1年位の間には、ついに熱核融合炉を搭載したタイプまで登場。
このタイプはキャノン砲ではなく、ビーム砲(1年戦争中に大量に作られたビームスプレーガンやビームライフルをマウントした物も多い)を搭載し、1年戦争の水準を大きく超える進化を果たした。
シイコさんも、依頼遂行中にこのタイプのボールに遭遇した時には凄く驚愕していたのをよく覚えている。
確かシイコさんが、最初にビーム砲を搭載したボールと初めて会敵したのは2、3回前の依頼だった筈だ。ボールの中にはビーム砲を撃ってくる物が居る事はウチの会社内では半ば常識だった為、シイコさんに説明をするのを誰もが失念し、任務後にシイコさんにパイロット一同で謝ったのは苦い記憶だ。
「その度は説明せず、とんだご無礼を……」
「今度から、ちゃんと説明してくれれば、それで良いから大丈夫よ。怒ってないから気にしないで。驚いただけで特に何ともなかったしね」
流石シイコさん。普通、前提知識も無しにボールがビーム砲撃ってきたら不意打ちも良い所だが、実際、シイコさんは通信で "ボールがビームライフルを!?" と驚いた声を挙げてはいたが、神業的な回避で難無く亜光速のビームを躱して、次の瞬間にはビームライフルを撃ってきたボールはシイコさんのビームバズーカで粉微塵になった。
シイコさん的には驚きはしたが、そこまでの脅威ではないのだろう。実際、今も笑顔で笑い話の様に言う。ただ、俺的には事前に情報を伝えなかった事は反省案件だ。
と、そんな事を考えているとシイコさんは話を進める様に促した為、俺も話の軌道を修正する事にする。
「えっと、じゃあ話をТип-133に戻すと、まぁ、Тип-133には熱核融合炉を搭載している訳です。それで、Тип-133の主兵装は見ての通り、上部に搭載された3連装のバズーカです。でも、これは通常のバズーカじゃないです」
「…………なんとなく分かったわ」
シイコさんは何処かドン引きした様な表情を浮かべた。
「はい、お察しの通り、ビームバズーカです。ちなみに、シイコさんがここに来たばかりの時にジム用のビームバズーカを持ってきたのを見て取り入れました」
「ぼ、ボールにビームバズーカを3つも……?」
「ビームバズーカ自体はシイコさんのジムが使ってる低圧ビームバズーカと殆ど同じ物です。それが3連装で間隔射撃を行う事で射撃レートを大幅に短くし、高速で連射ができる様になってます。ビームバズーカのジェネレーターは投棄して機体の自動装填機構で新しいジェネレーターに装填する事も可能。また、ビーム砲は発射角の変更以外にも旋回できる様になっていて、これで、機体ごと動かさなくてもビーム砲を自由に動かせるようになってます」
「……あきれた。とんでもないわね……。でも、確かにFAガンダムで得られた知見が生かされてるのは分かるわ。FAガンダムの大型メガ粒子砲に通じた所があるもの。確かにこれなら、腕を使わないから安定した射撃が可能な上に一方向以外にも攻撃できる」
「そういう事です。ビーム砲以外の武装には2種類の有線ミサイルを積んでます」
俺はそう言うとコンソール画面を弄り、設計図の別のページを開く。Тип-133の正面から見た図が表示されそれを指で指し示しながらシイコさんに説明する。
「有線ミサイルは大きく分けて2ヵ所にあります。1ヵ所目はボールのここです」
「飛行翼か放熱板の類か何かかと思ったけど、そこはミサイルランチャーなのね」
「はい。ボールの左右に片側5連装のミサイルランチャーがあります。このミサイルはFAガンダムに搭載されている視線誘導式の有線ミサイルと同じ物で射程は5,500m。
そして、もう1種類の有線ミサイルは機体の正面、従来型のボールなら窓にあたる部分の左右に1門ずつの計2門が配置。装弾数は4発で、これも視線誘導式ですが有効射程は800m。これは近接戦用のミサイルで、弾頭には最新の指向性爆発エネルギー弾頭を採用していて弾頭の正面方向に対して爆発エネルギーが集中する特殊弾頭になってます。
MSとの近距離戦は自殺行為という事で、敵のMSに接近された場合には、この近接戦用のミサイルを使って敵を退け、速やかに退避する運用方法が想定されています。
そして、この近接でのミサイルの爆発に耐えられる様、ボール正面装甲に限って言えばジムと同等以上の装甲を採用してます。もっとも、本当はルナ・チタニウム合金を使いたかったんですが、上に却下されちゃって……あと軽量化の為に背面の装甲はアルミニウム合金を使用しています」
「腕のこれは?」
「30mm低反動速射砲です。ボールの両腕の肘関節部分から先が全てこれになってます。30mm低反動速射砲は連邦のMS技術でもギリギリ、反動を制御できる貴重な武器の一つ。とはいえ、30mmの豆鉄砲じゃジオンのMSは倒せないんで、あくまで牽制目的の武器です。可動域は機体水平に対して肩は180度、肘からは220度で動かす事が可能なんで後ろに撃つこともできます。腕はそれなりの重量と熱核融合炉由来の出力が出せるんでAMBACも可能です。
主だった武装は以上。それ以外の装備だとFAガンダムと同じ様にバックパックを背負ってVOBを装備する事も出来ます。ガンダムと同じタイプのバックパックを装備する場合は、ビームバズーカを装備している関係上、大型メガ粒子砲と6連装ミサイルランチャーは装備できないですけど、ロボットアームを取り付け盾2枚を装備しようと思えばできる様になってます。
ただ、VOBは高価な装備なんで、基本的には、これが装備される事になってます。シイコさん、これ、知ってます?」
「確かサイド6の軍警察やジオンのMSが戦後になって導入したブースターユニットね?」
「ええ、そうです。そのブースターを少々一回り程、大きくしたのがこのブースターです。VOB程の性能は無いですけど生産コストはこっちの方が優れてます」
「ふーん……最初は全然ピンと来なかったけど、聞いてみれば確かにFAガンダムの影響を強く感じるわ」
「正直、かなりの無茶振りでしたけどね。上の連中はFAガンダムをそのまま採用するのは嫌だったみたいで、でも機能はFAガンダムと同じ事が出来て、その上、FAガンダムよりも防御力も高くて、生産コストも出来るだけ下げて、出来ればFAガンダム以上の機能も欲しいなんて言ってきたんで」
「だからビームバズーカが3つもあるのね……ミサイルの弾数も増えてるし、一方でビームサーベルとか普通のMS用の腕や脚を搭載しないのはコストカットの意味ね。
そう言えば、さっき説明で30mm低反動砲は後ろを攻撃出来るって言ってたけど、ボールは窓から直接外を見て戦うんじゃなかったかしら。それだと後ろなんて攻撃出来ないと思うんだけど……」
「ああ、このТип-133は機体の全方位に光学センサーが設置されてるんですよ。コックピットには全天周囲モニターを採用。後方の攻撃時には座席が回転して後ろが見られる様になってます。ちなみにボールの窓に見える部分は高精度光学照準センサーです」
「全方位に光学センサー……球体形状のボールだから出来る事ね。それで、この……Тип-133は上にあげて、その後はどうなったの?」
「まさかの採用です。確か連邦軍が構想中の地上から液体燃料ロケットで衛星軌道上に戦力の投射を可能にする軌道防衛の計画の中で、肝心のロケットに載せて打ち上げるMSの中の一つに採用されました。今頃、生産し始めてるんじゃないですかね」
「まさかボールが採用されるなんてね……」
「まぁ、上が付けた名前は気に入りませんけど……」
俺はそう言うと何処か遠くを見る様に言う。
「Тип-133じゃないの?」
「違います。俺はせめて133式ボールとかそういう名前にして欲しかったんですが、上は全く別の名前を採用したみたいで……」
「それは……今が0085年で0133年じゃないからじゃないかしら」
「まぁ、そうなんですが……」
「なんで133式なんて名前にしたかったの?」
「それは…………なんと……なく?語感で」
「それじゃあ、通らないのはしょうがないわよ……それで、結局、このボールの名前は何になったの?」
「…………ハイ・ボール」
俺は白目な気分でそう答え、対してシイコさんは俺が何をそんなに嫌がっているのか分からない様子で首を傾げるのだった。
それから、しばらく俺とシイコさんは、これまでに俺が設計した幾つかの兵器に関しての談笑を続けた。シイコさんはかなり、そういった物に興味がある様子で結構、真剣に時には聞き入り、時には質問を行い、俺もそれに答えた。
とは言っても、俺が設計して採用された兵器はFAガンダムと、Тип-133もといハイ・ボールを含めても、そもそも15にも満たない程の僅かな数しかなく、FAガンダムとハイ・ボールを除外すると、それ以外にまともに採用された兵器は2、3しかないのだが。
だが、二人共かなり熱中してしまっていた様で、気づけばコンソール画面に表示されたデジタル時計はシイコさんと話し始めてから、2時間半が経過した事を示していた。
「いけない……つい話に熱中し過ぎたわ。大丈夫?予定とか無かった?」
「大丈夫ですよ。丸一日非番なので」
「それなら良かったわ。ねぇ、お昼はどうする?もう食べたの?」
「いえ、まだです。でも、持ってきてはいますよ」
俺はポケットからチョコバーを取り出して見せる。
「……あなた、薄々感づいてはいたけど、もしかして毎日、そんな食事とってるの?」
「ん?ええ、いつもですけど」
「はぁ…………呆れた。そんな生活続けてたら幾ら予防薬飲んだ所で早死するわよ?て、言っても、これ位でやめる様ならこんな生活習慣にはなってないわね。
…………あなた、この後の予定は無いって言ったわよね?なら、ちょっと私に付き合わない?コックピットに乗る習慣は今日はもう大丈夫でしょう?」
「……?良いですけど」
「なら決まりね。それじゃあ行きましょうか」
「え?行くって何処へ……」
俺の問いかけとほぼ同時にシイコさんはコックピットから無重力を滑空して器用に出ていく。そして出て行きざまに俺の方を振り向いた。
「私の部屋に。今日はご馳走するわ」
「……へ?」
今、シイコさんなんて言った!?
私の部屋……つまり、シイコさんの部屋ってコト!?!?!?!?!?。
しかも、それに加えてそのあとシイコさんはなんて言った?ご馳走すると言わなかったか?ご馳走……つまりは馳走……話し込んで時間的には遅くなったけど、話の流れ的にはお昼の話……シイコさんの部屋に行って、それでご馳走するって事は、つ、つ、つまりは……シイコさんの手料理が食べられる……ってコト!?!?!?!?!?!?!?。
俺はシイコさんの発言に対する脳の処理が追い付かず、時間が停まったかのようにフリーズする。
「ちょっと。行くの?行かないの?どっちなの?はっきりして」
「い、い、行きます!もちろん!」
俺は慌てて返事をするとコックピットから出ていく。
だが、片づけを思い出して、シイコさんに片づけるまで待って欲しいと懇願すると、俺は超特急の速度でガンダムのOSやコンソール画面をOFFにし、ケーブルを引き抜き倉庫に片づけ、ノートパソコンを取り外し、5分も経たぬ間に全ての片づけ作業を完了させる。
ガンダムの脇で俺の片づけ作業の様子を見ながら心優しく待っててくれたシイコさんと合流を果たすと、俺はシイコさんに連れられてホワイトベースの格納庫を後にしたのだった。
シイコさんを先頭に移動する様子は、まるで、数カ月前、シイコさんがウチの部隊に来たばかりの頃に、俺がホワイトベースを案内していた時と全く逆の立場になったかのような感覚を俺に抱かせる。
道中、世間話をしつつ、俺とシイコさんはホワイトベースから降り、そのままエレカの乗り場まで行くと、シイコさんの運転でドック39を後にし、シイコさんが住んでいる部屋のある居住棟へと向かう。もっとも、シイコさんの住んでいる居住棟は俺の住んでいる居住棟と連絡通路を挟んで隣の棟だから、俺が運転してもよかったのだが、場の空気は完全にシイコさんが俺をエスコートしていた。
グリーンノア1の居住区画内の各棟を縦横無尽に繋ぎ張り巡らせている連絡通路内の無骨なトンネルをシイコさんの運転するエレカは走る。俺は窓の外に見えるトンネルの外壁を見ながら、内心、心臓ばっくばくで、なんだこの状況!?と思いながらも、シイコさんと世間話を続ける。
そして、やがてシイコさんの運転するエレカは目的地へと到着する。
エレカを降りると俺は周囲をついキョロキョロと見てしまう。隣の居住棟は存在こそ知っているものの、会社内で殆ど交友関係を持たない俺は、自分の部屋のある棟にしか基本的に行かない為、実際にこの居住棟に来るのは初めてだ。
もっとも、基本的な構造は大して変わらない為にエレカの乗り場や入口も含めてその様相は殆ど、俺の住んでいる棟と変わらず、唯一、壁などに書かれているこの棟の番地名を除けば、誰かに俺の住んでいる棟ですと言われても信じてしまいそうになる位にはそっくりな構造である為に、キョロキョロと周囲を見回す必要など一切ありはしないのだが。
強いて言えば、そっくり故に見回す位か。だが、俺が周囲を見回したのは、完全に意味などなく緊張からだろう。
居住棟に入ると、エレベーターでシイコさんの部屋のある階まで上がる。居住棟内には様々な人々が住んでいる。俺の住んでいる居住棟はウチの会社が棟を丸ごと所有している為に、中で暮らしているのは社員だけだが、シイコさんの住んでいる居住棟は一部を会社が所有しているだけに過ぎない為、社外の住民も住んでいる。この為、俺の住んでいる居住棟とはまた違う特色が出ていた。
人が二人すれ違える程の幅の通路には住民が置いたであろう洗濯機、プランターの植物、箱、連提灯、タイ仏教的仏像の祭壇、謎のカラフルイルミネーション、プラスチック製のガーデンチェア、壺、壁に乱雑に張られたポスターやステッカー、壁のカラフルな落書き等々etcが彩る(こんな狭い所に物置くなよ……)。
俺の住んでいる居住棟は薄汚れてはいるが、こうも生活感が通路にまで溢れ出してはいない。
エレカから降りた時やエレベーターを降りるまでは、俺の住んでいる居住棟と大差ない印象だったが、前言撤回。俺の住んでいる居住棟よりも遥かにカオスだ。
俺が住んでいる居住棟よりも悪い意味で実にサイド7らしい。
「驚いた?結構、すごいでしょ?」
「あーえっと……はい」
「私も初めは驚いたんだけど、慣れればエキセントリックで良い所よ」
そんな通路を障害物を避けながら進んで行く。
俺の住んでいる居住棟なら直ぐに辿り着けるであろう距離を障害物が多い為に倍近くの時間をかける。
そうして、やがて俺はシイコさんに連れられ、シイコさんの部屋へと辿り着いたのだった。
シイコさんの部屋は、質素ながら、如何にもごく普通の一般の一人暮らしの女性の部屋という感じだった。
部屋の構造自体は俺の住んでいる部屋と一切寸法の違いもない同じワンルームの筈なのだが、内装が違うだけなのに、全くの別物かの様に感じる。
そうこうしていると、シイコさんは、俺にはリビングの座布団の上で座って待っている様に言い、自分は台所の方へと向かった。
俺は何か手伝いますよと声をかけるもシイコさんにお客様なんだから座ってテレビでも見て待ってるようにと言われてしまった為、大人しくそれに従った。冷静に考えれば、まともな料理など、この人生でも転生前でも一度も自分で作った事の無い俺に手伝える事なんてありはしないのだから、むしろ手伝ってと言われなくて良かったかもしれない。
まさかの推しキャラの部屋に居るという事実に俺はついキョロキョロと部屋を見回してしまうが、こればっかりは仕方がないだろう。
そうして、緊張してテレビの内容なんか全然、頭に入らない中、しばらくが経ち、シイコさんが台所から出てきた。その手には作った料理の盛った皿が持たれており、シイコさんはそれを小型テーブルの上に並べていく。
そしてそれを見て俺は、小さくおぉ……と声を漏らしたのだった。
小型テーブルの上には、大根おろしが添えられた合成鮭の塩焼き、漬物、厚焼き卵、和風ドレッシングのかかったサラダ、味噌汁、白いご飯、麦茶というTHE・日本の朝食みたいな極めて健康的な品々が並んでいた。
ここまで健康的なメニューを見るのは一体いつ振りだろうか。しかも誰かの手作りなんて、もう最後に食べたのがいつかだなんて思い出せもしない。
しかもメニューの内容も転生前に日本人であった俺からして、すごく馴染み深いというか、懐かしい。鮭の塩焼きの形状が合成食品の特徴である綺麗な長方形である事を除けば、極めて懐かしい光景だ。俺は日系どころかアジア人ですらなく、アメリカ系の人間に転生した為、必然的に日本食に触れる機会はこれまで殆ど無かった。生まれたサイド7が弩田舎だった事も、その後、軍に入ってからも、周囲には日本人が一切居なかった事も影響している。
記憶に残る日本食は唯一、ジャブローの食堂で寿司と味噌汁を食した事くらいだ。本物を知る俺からすれば、ジャブローで提供されていた日本食は、なんというかアメリカナイズされた物だった。だが、そんな寿司と味噌汁でも、当時は久しぶりの日本食という事で実に感動したものだが、今、目の前にある品々は、ジャブローの物とは一線を画す間違いなく本物の日本食だ。
小型テーブルの上には2人分の皿が置かれている。一人分は俺の。もう一人分はシイコさんの分だった。シイコさんは向かいの座布団に座る。
「はい、お待ちどう様。日本食だけど大丈夫?別のメニューにしようかとも考えたんだけど、普段、日本食しか作ってないから冷蔵庫の材料的にこれ位しか作れる物がなくて」
「だ、大丈夫!全然、大丈夫です!ここまで本格的な日本食、久し振りに見ました」
「ふふ、あら。あなた、日本食も行ける口?」
「ええ、まぁ。最近は食べる機会が全く無かったですけど」
「ここ、日本食のレストランとか無いの?」
「一応、ありますよ。合成食品を使った蛍光色の寿司屋が」
「えぇ……この鮭も合成鮭だけどそこまで酷く無いわよ……。それじゃあ、冷めない内に頂きましょうか」
[ありがたく頂きます]
そうして何でか始まったシイコさん主催の食事会は始まった。料理を一品、一品、口に入れ、見た目通りの日本食だと半ば感動しつつ、それに加えて、これシイコさんの手作り料理!こんなの食べる機会なんて、そうそうない!と噛みしめながら、味わって箸を進める。
ただ、黙々と食べ進めるのではなく、俺とシイコさんは、会話を交えつつ食事を進めたのだった。
「シイコさんは何でこの部屋にしたんです?俺が住んでる棟は空いてなかったんですか?ここは、その、カオスなので」
「会社からは最初あなたと同じ棟を進められたけど、私が断ったの」
「なんでまた?」
「部屋は空いてたんだけど、倉庫に使ってるみたいで片づけるまで待つように言われたから、なんだか申し訳なく思っちゃって、直ぐに入居できるなら、その棟でなくても良いって私の方から言ったの」
「それでここに?」
「ええ、会社が持ってる棟とも近いから」
「なるほど……」
なんとも謙虚な理由だと俺は思った。俺なら、倉庫の掃除が終わるまでホテルの部屋でも借りて待ってただろう。申し訳なく思う事すらない。
そんな感じで和やかなムードで食事ち会話が進む中、俺はふと思った。
シイコさんと同じ職場の同僚となり、話す機会もそれなりにあり、色んな事をこれまでに話したが、ここまでの長時間に渡ってシイコさんと一緒に行動を共にした上で、ずっと話をしている事はこれが初めてだった。
今なら、今まで中々、聞くに聞けなかった事も聞けるのでは?と思い、意を決して口にする事を決める。
「あ、あの……シイコさん」
「ふふ、どうしたの?そんなに改まって」
「答えたくなかったら答えなくても全然良いんですけど、前から気になってた事があって……」
「気になってた事?」
「えっと……その、シイコさんは何で、ジオン……いえ、赤い彗星と戦おうと?」
「…………」
赤い彗星という単語を出した途端、シイコさんの目が冷たくなる。口元はそれまでと変わらない笑みを浮かべてはいるが、明らかに笑ってはいなかった。緊張から、俺は生唾を呑み込む。
「あ、あの……答えたくないんだったら答えなくても全然良いんで……食事の席でなんか、すいません」
無言で黙り込むシイコさんに俺はなんかヤバい地雷でも踏み抜いてしまったのではないかと内心冷や冷やで釈明する。
「…………何かを手に入れる為に何かを諦めなきゃいけないなんて、そんなの理不尽じゃない?望む物すべてを手にする事ができたら、どんなに幸せか……ニュータイプとかいう選ばれた人達ならそれが出来るのかしら……」
「……シイコさん?」
突然、シイコさんは呟く様にそう口にする。俺は一瞬、どういう意味なのか図りかねたが、直ぐに脳裏に前世の記憶が過る。そうだ、確かこのセリフって確かジークアクスでもシイコさんが言っていた⸻。
「…………私のパートナーは、あの戦争で死んだの」
「1年戦争ですか」
「ええ。私のパートナーはニュータイプかもしれない……そう期待していた位、私は彼女に信頼を置いて戦っていたの。でも……そんな私のパートナーを赤い彗星は奪った」
シイコさんは何処か遠い目をして答える。笑みを消して。
シイコさんの言うパートナーとはジークアクスにおけるMAVの事だろう。この世界ではジオンが勝利したとはいえ、連邦軍のMSがクソ雑魚過ぎた結果、MAV戦術は生まれなかった。
だから、シイコさんは、自分の相棒に当てはまる単語としてパートナーという単語を選んだのだろう。
この世界の連邦製MSにジオン製MS、2機一組による攻撃なんてやろうものなら、ハッキリ言って過剰戦力で効率が悪くなる。
「……もしも、赤い彗星があの戦争で居なくなってくれてたら、私も、この世界は結局、理不尽で、望む物すべてを手に入れる選ばれた人なんて居ない……って納得して軍を辞めてたかもしれない。そしたら今頃、サイド6辺りに移住して結婚して優しい夫と子供も居て……幸せな普通の生き方も受け入れられていたかもしれない……」
「…………」
「でも……ヤツは……赤い彗星は」
「死ななかった……」
「そう……あのケツアゴ⸻赤い彗星は全てを手に入れた。戦争にも生き残って、それどころか、どんどん力を手に入れて今では宇宙を独占したジオンの半分も支配している……。
ねぇ……知ってる?ギレン・ザビって居たでしょ?あの独裁者はサイド3からア・バオア・クーへの視察に行く途中で通り抜けようとした誘導機雷群が誤動作で作動して、殺到してきた機雷で艦が破壊されて死んだらしいけど、あの事故は赤い彗星が仕組んだって言われているわ。
そしてギレン・ザビを始末して自分がそれに成り代わって権力を手に入れた……そして今、残る最後のキシリア・ザビを倒して本当の意味で全てを手に入れようとしている……」
「…………」
「こんなの理不尽じゃない?私はあの戦争から奪われっぱなし……パートナーも奪われて、連邦もめちゃめちゃになって……幸せな生活も送れない……執念が私を引き留める」
シイコさんはそう言うと再び笑みを浮かべ、でも、それと同時につい先ほどまでの何処か遠い目から変わって、決意の満ちた目を俺へと向ける。
「でも、あの赤い彗星を倒せば、きっと何かが変わる気がするの。そうすれば私は……」
この日、俺は久しぶりの本物の日本食と、それがシイコさんの手作りであるというダブルの感動を感じつつ、シイコさんの手料理を堪能し、シイコさんとの会話に花を咲かせた。
俺は、この世界で生まれてから、もう久しく感じていなかった暖かい物に包まれたかの様なそんな感じを覚えた。それがどの様に言い表す事ができる感情なのかは今の俺には、もう分からない。
だが、間違いなく言える事は、普段の酒と甘い物に溺れる食事よりも遥かに満たされた満足感を感じたのだった。
また、それと同時に俺はシイコさんの赤い彗星に対する強い執着を改めて認識したのだ⸻。
●VOB (Vanguard Overd Boost)
主人公がガンダムの生還率を上げる為に考案した熱核融合炉を搭載したバックパック装備の外装ブースター。バックパックに接続された15門のブースターによって構成される。
しかし、非常に重い為、本体重量が10.6tしかないガンダムに装着した場合、AMBACに深刻な支障をきたす。この為、VOBのブースターはそれぞれが角度を大きく変更できる様に設計されており、出力も相まって、これによってAMBACを可能としている。
VOBは1年戦争後に開発され、現在までに実はプロトタイプと強化型の2種が開発されている。
プロトタイプは一番最初に開発されたVOB。
純粋にガンダムに搭載する事だけを目的に開発された。しかし、1年戦争後の戦乱中、ガンダムタンク Mk-Ⅱに急遽、搭載して運用する事になったが、この際、本来の想定された用途が10.6tのガンダムを前提とした物であった為、推進力が足りず速力低下や故障の頻発等を招いた。しかし、それでも戦場において、その有用性は示された為、この反省を生かして、強化型の開発が行われる事になった。
強化型はプロトタイプの反省を生かして次に開発されたVOB。
具体的にはVOBの基本的なブースターの外観はプロトタイプと同じ様相だが、バックパックの熱核融合炉が強化されており、より大出力を出せる物が採用されている。これによってガンダムタンク Mk-Ⅱの様な重量の重い機体でも、安定した飛行が可能な程の大出力を実現した。しかし、その代償としてバックパックの厚さはプロトタイプの物よりも倍近くも厚くなり、機体の奥行きの長さは、ブースターまで含めてガンダムの身長18mと同等にまで達してしまっている。
バックパックにはオプション装備で大型メガ粒子砲、6連装ミサイルランチャーも搭載可能。また、ロボットアームも搭載可能でロボットアームには盾を2枚装備させる事が出来る。ロボットアームに搭載した盾は、ガンダム本体を守る為に使われる他、バックパックやVOBのブースターを守る為にも使われる。
地球連邦軍の正式装備であり、主に高機動性を重視した特殊な任務を担当する者達の機体に支給されている。ただし、通常の外装ブースターよりも、お値段が高額な為、生産数は控えめ。
元ネタは完全にアーマードコアに出てきたVOBで、これを参考に主人公は設計を行った。ただし、アーマードコアのVOBとは違いブースターの数が2本だけ多い。
●ハイ・ボール
元ネタはクロスボーンガンダムに登場した133式ボール。このボールに強いインスピレーションを受けて、どうせボールのサイズがMS大のサイズなら、悦核融合炉とか全周囲モニターだとか、搭載しちゃって、武装もビームバズーカを搭載すりゃ良いやんの精神で主人公が設計した。外見は肘の先に30mm低圧反動速射砲がある以外は、ほぼ133式ボールと変わらない。中身は全くの別物。
種別はボールではあるが、事実上のFAガンダムの量産機に位置付けられる。なお、ガンダムよりも装甲は分厚い……。
連邦軍においては既に量産が開始されており、主人公は知る良しも無いが、実はさらなる発展形として単座タイプだけでなく、2人乗りの複座タイプなども生産されている。複座タイプはパイロットの役割を分担し、メインパイロットが操縦と機体正面方向への攻撃*4を担当し、サブパイロットは5連装ミサイルランチャーの運用に専念しつつ、状況によってビームバズーカや30mm低圧速射砲を使った機体後方方向への攻撃を担当する事となっている。
この役割分担によって視線誘導式ミサイルの命中精度は全部を1人のパイロットにやらせるよりは遥かにマシになった他、1人乗りでは後方への攻撃時に正面方向に死角が産まれるが、それを無くす事に成功している。
元ネタが133式ボールだから設計図の計画名もТип-133にしていたが、上には採用されず、それどころか、上が決定したネーミングはハイ・ボールだった。主人公は何としてもハイ・ボールは回避したかったが、出来なかった模様。なんで回避したかったのかは、主人公と同じ前世の世界の住民なら分かる人も多いだろう……。
●誘導機雷群誤動作事故
ギレン・ザビを含む複数のジオン将兵が死亡した誘導機雷群の誤動作事故。
0082年1月2日、ギレン派はア・バオア・クー要塞にて翌日にジオン独立戦争の戦勝式典を控えていた。この式典でギレンは演説を行う予定であり、この日、サイド3からグワジン級に搭乗し護衛のムサイ2隻を伴って出発した。この際、艦隊が1年戦争後にア・バオア・クーの近傍に敷設された誘導機雷群内の安全航路を単縦陣形で通過していた際に、周囲の誘導機雷が作動し、通過していた3隻に殺到。3隻は全方位から殺到した機雷によって成すすべもなく轟沈。ギレンもグワジン級と共に運命を共にし生存者は0だった。
この事件はジオンに衝撃を与え、徹底した捜査が行われた。それによると、この誘導機雷は付近に艦艇やMSが接近したのを検知すると、スラスターを噴射して自分から体当たりをしにいく方式の機雷であったが、実は数日前にシステムメンテナンスがあり、この際に敵味方識別機能に重大なチェックミスがあり、これが原因で機雷が誤動作を起こした事故であると結論付けられた。
しかし、もっぱらこの事故は仕組まれた物であり、ギレン亡き後に急速に台頭したシャア・アズナブルの仕組んだ謀殺であるとの噂は絶えない。なお、ギレンの居たグワジンの指揮所のブラックボックスを解析した所、グワジンは轟沈する寸前に、外部からの通信を受けていた事が分かっている。しかし、秘匿通信であった事や、データの損傷も激しかった事などから、誰から通信を受けていたのかは定かではない……*5。
「諸君、急な招集をかけてすまない」
ブリーフィングルームへと急遽、集められた俺達、パイロットを前に現れたブライトさんの言葉はその一言から始まった。
その日は特に依頼も無く、会社は平穏だった。
ホワイトベースの一般乗組員は艦や搭載機の保守点検作業をしたり、会社の事務作業をしたり、掃除をしたりなどをし、俺達の様なパイロットは非番であったり、またはシミュレーターで戦闘シミュレーションに勤しんだり、機体の定期チェック作業などを行っていた。
だが、その平穏は突然、会社内に鳴ったアナウンスと一斉に鳴ったスマホの通知音でガラリと変わる事となった。
非常呼集の知らせだった。それも滅多に見る事のない、最大レベルの招集。
そしてパイロットだけを集めた緊急ミーティング。
妙な緊張感が場を包む中、ブライトさんは言葉を進める。その場の誰もが、その言葉の先を待っていた。
「悪い知らせが入った。ジオンの内部の協力者からの情報提供により、再来週、ジオンの臨時の議会が開催され、その場でサイド1の暗礁宙域の犯罪シンジケートの大規模掃討作戦を軍主導により行う事が採決される事が明らかになった。情報提供者によれば、議案は賛成多数で可決される見込みだ」
大規模掃討作戦という単語に場が騒めく。俺の隣の席に座るシイコさんはパイロット達の反応を横目に見つつ、手を上げ、ブライトさんはそれを指す。
「可決されると何か問題が?ただの治安作戦なのでは?それに、ジオンの情報なんて信用できるんでしょうか?」
「情報の信頼性の方からまず、話させてもらうと、かなり信頼出来る筋からの情報だ。何処の誰までは言えないが、信じて問題は無いだろう。
そして、可決された場合の問題についてだが、これはただの犯罪シンジケートの掃討という枠組みの話に収まらない。噂で知っている者も多いだろうが、あの噂は概ね事実だ。
かつてのサイド1、サイド2、サイド4、サイド5のあった宙域に存在している暗礁宙域は宇宙最大の犯罪宙域。これらの宙域には様々な無法者が巣い、地球圏全体にあらゆる犯罪を齎している訳だが、それと同時に、これら犯罪シンジケートは今や地球とジオンとの間の重要な緩衝勢力としても役立っている。
犯罪シンジケートが地球圏の治安を脅かす事により、ジオンは犯罪対策に注力せざるをえず、地球への軍事的圧力を軽減している。もちろん、意図してこの状況が作り出された訳ではないが、結果として現在の状況はその様になっている。だが、その犯罪シンジケートの掃討にジオンが本腰を入れようとしている。これは連邦にとって重大な脅威だ」
「分かりました」
シイコさんはブライトさんから答えを得ると質問を取り下げる。疑問は解決した様だ。そして小さく小声で "やっぱり、犯罪組織がこんなに力を持っているのは、そういう意図があったからなのね……" と呟いた。どうやら、シイコさんも薄々と勘づいてはいた様だ。
ちなみに、この手の話*6は結構、会社内では割と知られた話だ。ただ、公言する者は少なく精々が噂話止まりだ。何故ならば、基本的にこの話を例えば、ブライトさん等に持ちかけても、明確な答えは帰ってこない。ウチの部隊は一応、秘密部隊。機密度の高いと思われる情報を上司に聞くのは暗黙の了解で避けられている。
だが、それと同時にウチの部隊は雰囲気がかなり緩い雰囲気である為、あくまで噂話としては、この手の話を部隊内に限っては話す事は許されている。
まぁ、大基を辿れば、全員が連邦軍から追い出された組だから、皆、最低限以上の事を守る気がさらさら無い。秘密部隊の有り方としてはアウトだろうが。
もっとも、本当に重大過ぎる機密情報はウチみたいな、爪弾き者の集まりには降りて来てはいないだろう。
そして、今の状況はブライトさんが、全員の前で公言した事により、噂話が事実である事が公に部隊内に周知されたという状況だった。
「事の重大性は理解してくれたと思う。今回の事態を受けて、暗礁宙域で活動している犯罪シンジケート、PMC、運送業者の各代表者による評議会が開催される事が決定した。
これは知っての通り、以前、暗礁宙域で最大規模の2つの犯罪シンジケートが起こした大規模抗争をきっかけに、暗礁宙域で活動する全ての当事者が参加できる調停会議として各勢力間の取り決めによって制度化された会議だ。制度化されてから、今まで一度も開催される事は無かったが、今回は遂に開催される運びとなった。
この評議会に我々も中堅PMCの一角として出席が求められている。上からは今回のジオンの動きを武力行使も含めて可能な限り妨害する様に言われている為、我々も評議会に出席する予定だ。評議会に参加する為、ホワイトベースは、これよりサイド1へと向う。皆、すまないが急いで準備してくれ。私からは以上だ」
「……大変な事になりましたね」
「そうね……」
ブリーフィングが終わりブライトさんが急ぎ足で部屋を後にすると、俺とシイコさんは静かにそう言葉を交わす。ホワイトベース内にはいつにも増して不穏な空気が漂い、ベタ付いた様な嫌な空気感が全体を包み込んでいた。
そうして、それまで平穏な雰囲気だったウチの会社⸻いや、宇宙兵器開発部隊は空気を一変させ、ピリついた空気の中、その日の内にホワイトベースは速やかに出港準備が整えられ、サイド7を離れ、一同、サイド1へと向かったのだった。
サイド7からサイド1への旅の所要時間は、まぁ、ギリギリ丸一日かからない程度だ。
正規のルートで向かえば、もっと早くたどり着けるだろうが、真当な凌ぎをやっていない犯罪シンジゲートやPMCや運送業者が正規のルートで堂々と移動出来る筈もない。
これらの日陰者共が使う航路は当局の知らない秘密の航路だ。この秘密の航路を使う事によって、犯罪シンジケートは地球圏全体に犯罪を振り撒いている。
こう言うと秘密の航路とは何とも仰々しく聞こえるが、実態としては秘密の航路とは正規ルートから外れた当局の監視網から外れたルートの事であり、遠回りの事だ。そして、正規ルートよりも移動に時間が掛かるのは単純な話で、ようは回り道をするから到着までの時間が伸びる傾向にあるという事だ。
さらに言えば、この秘密の航路は時と状況次第で到着予定時刻が大幅に変わる事もしばしば。ジオンやサイド6の当局はこの航路の存在を知らないが、それでも、治安活動を通じて何処かに秘密の航路がある事自体には感づいている。
この為、怪しいポイントに哨戒艦などを派遣して警戒に当たっている場合もあるのだ。そういった場合には、この航路を利用する船はさらに大回りの航路を取ったり、全動力を停止してやり過ごしたり、場合によっては全動力停止からのミノフスキー粒子まで散布して発見されない様に務めている。
そんな秘密の航路をホワイトベースは進み、今回は哨戒艦などの不測の事態に遭遇する事も無く、スムーズにサイド1へと辿り着く事に成功した。
ちなみにその間、俺やシイコさんがやっていた事と言えば、機体のチェックに加えて、食事や自室での仮眠が主で、依頼を受けた時の戦闘準備態勢その物だ。
今回は直ぐに戦闘になるとかいう話ではないから、パイロットとして、ここまで準備する必要があるのかと問われれば人によっては無いやろと言われてしまいそうだが、何が起きるか分からない以上、休める時に休んでおくというのが俺の考えだ。シイコさんも聞いてはいないが、恐らくは同じだろう。
ホワイトベースがサイド1の暗礁宙域へと侵入していく。
いつもなら、暗礁宙域に入る際には戦闘状態を万全に整えパイロットはいつでも出撃できる状態を維持する。宇宙一治安の終わってる宙域に入るのだから当然と言えば当然だ。
だが、今日はそうではなかった。警戒はしてはいるが、その警戒レベルは普段に比べれば格段に落とされていた。具体的にはパイロットが交代制で非番の時間を与えられる位には。
というのも、評議会が開催されるに当たって犯罪シンジケート、PMC、運送業者は協定によりサイド1宙域において戦闘禁止が告知されているからだ。
もちろん、馬鹿正直に全く戦闘が起きないと信じ込む事はせず、ホワイトベースの観測班や武装を扱う人員はいつも通り、フルスペックの警戒を続けていたが、パイロット全員を臨戦状態にする程までにはならない程度にまでは警戒レベルは下げられていた。
実際、協定は機能していた。暗礁宙域に入ると、ホワイトベースは他組織の宇宙船か艦艇に遭遇する頻度は増えていったが、そのどれもが互いを確認するとレーザー通信や発光信号で戦闘の意志が無い事を示していた。ホワイトベースもそれに返答する。
遭遇する宇宙船や艦艇の頻度は暗礁宙域を進むにつれて、どんどん増加する。いずれも恐らくは評議会に参加する為に集まって来た者達だ。そのどれもが、一発の銃弾もビームも発砲しない。
普段であれば、絶対に誰かが構わず発砲して戦闘に発展していただろう。こんな平和な光景は普通なら決して見られない光景だ。
そんな奇妙な光景の中、俺とシイコさんは、ホワイトベース中央、先端に位置する展望室の窓から、滅多にお目にかかれない外の光景を眺めていたのだった。
「あっちに居るのが麻薬王ディオニリオの艦隊旗艦フィリペ3世。あそこに居るのが大宇宙海賊マッドウィングの艦隊旗艦スウィフトシェア。向こうに居るのが複合犯罪シンジケートM31」
「私はまだその辺の所、まだ覚えきれていないけど、聞く限り碌でもない連中だという事は分かるわ」
シイコさんは俺の解説に窓の外を心底、軽蔑した目で見ながら、げんなりした様子で答えた。
「まぁ、禄でもない連中なのは間違いないんじゃないですかね」
「さながら、大物犯罪組織大集合と言ったところね……今ここで、まとめて始末すれば世のため人の為になりそう」
「ははは、全くその通りですね。……でもやっちゃダメですからね?」
「やらないわ。私も一人で戦争を始めるつもりはないから」
暗礁宙域を進むにつれて遭遇する船数は徐々に多くなる。展望室の窓の外には数隻の艦艇の姿が見えていた。
悪趣味な金の装飾が至る処に施されたマゼラン級。大気圏離脱用ブースターを明らかに常用ブースターとして使用している魔改造された黒いサラミス。主砲が一切無く甲板上に大型貨物ブロックが増設されたサラミス。主砲塔が1基もなく、その代わりと言わんばかりにMS用のビームライフルやビームスプレーガンを装備した緑のマゼラン。サラミスの主砲に換装されたグレーのムサイ。全体がオレンジ色に塗装されたサラミス。全体が黄色いムサイ。全体がカオスなグラフィティアート塗れのムサイ。アフリカの民族調の絵が全体に描かれたコロンブス級……。
そのどれもが、敵対的な行動はとらずに皆一様に暗礁宙域の最深部の方向へと針路を取る。
そうして、最深部へと針路を進めれば進める程に、遭遇する船舶は増加していく。一隻、また一隻と見える艦艇の数は徐々に増加していく。大型艦や大型船だけではない。パブリクなどの姿もある。
次第に窓の向こうの光景は、とてもカラフルで中には奇天烈な外観をしたり、悪趣味であったり、継ぎ接ぎだらけでオンボロだったり、千差万別な、まさに魑魅魍魎が集まる百鬼夜行を形成していた。
「こんなに沢山……」
「俺もこんなに集まってるのは初めて見ます」
「社会のゴミも、ここまで集まれば流石に壮観ね」
「確かに」
なお、その社会のゴミ屑に任務が理由とはいえ、自分達も含まれる事は言わないのがご愛嬌だ。
俺はふと、艦内モニターが設置されている方を見る。
そこには現在位置と航路図が映し出されているのだが、その指し示す位置はホワイトベースがもう直に目的地へと辿り着く事を示していた。
「そろそろ、目的地に到着……もう直、見えてくると思いますよ」
俺は既に数度、 "それ" を目撃しているが、シイコさんがウチの部隊に配属されてからは、確かホワイトベースはまだ一度も訪れた事は無い。故にシイコがそれを見るのはこれが初めての筈だ。
そして、凡そ十数分以上が経った後、遂にホワイトベースは目的地へと到着する。
暗礁宙域の最深部に鎮座する、その物体をシイコさんは少し驚いた様子で眺めていた。
「驚いたわ……こんな物まで作ってたなんて。サイド7に初めて訪れた時以来の衝撃よ。これは……」
シイコさんは窓の外を凝視したまま、そう感想を零す。その反応を見て、俺はそうだろうなと思いつつ、窓の外の物体を見て内心で "前見た時よりも大きくなってる……" と感想を漏らしたのだった。
サイド1。
月と同じ軌道で月より後方のラグランジュ5付近に存在したザーンとも呼ばれたサイド。人類が最初にスペースコロニーを建設した正に宇宙世紀の始まりと言っても過言は無い場所。一年戦争開戦時に行われた一週間戦争と呼ばれる一連の戦闘にて、ジオンによる核攻撃と毒ガス攻撃により壊滅した場所。
それでも1年戦争終結時にはまだ僅かなコロニーが生き残っていたが、それすらも戦乱期に連邦軍の残党同士によって引き起こされた内輪揉めの戦闘で壊滅し今では完全に無数の残骸のみが漂う死の宙域。
だが、ここにある全てが死者であるという訳でもない。かつて数千万人の人口でひしめき合っていた跡には、今や荒くれ者共が寄生虫の如く巣食っている。
そんな、サイド1の暗礁宙域。その奥深くに、それはある。
宇宙戦艦、宇宙巡洋艦、輸送艦、宇宙ステーションやコロニーの残骸……様々な物がまるで、ごった煮かの様に巨大な塊を成している。
塊魂というゲームをやった事のある者が見れば、建物で作った塊をきっと思い出すだろう。あれをもっとかなり歪な造形にした様な、そんな巨大な塊が、暗礁宙域の最奥に鎮座している。
難破船入り江。
その場所はそう言われていた。犯罪シンジケート、PMC、運送業者がこつこつと宇宙を漂う廃材をかき集めて違法建築が如く増改築を繰り返して作られた無名の巨大宇宙ステーション。
名前は決まっていない。名前を決めようとしても、ただでさえ纏まりの無い荒くれ者共では意見がまとまらなかったからだ。故に無名の宇宙ステーションなのが正しいが、何時しかその形容しがたい外見から難破船入り江と呼ばれる様になった。ここはそういう場所だ。
恐らくは非政府組織が一切、政府組織の関与なしで主導して宇宙に建造したものの中では、最大規模の宇宙ステーションだろう。
居住性は人工重力もない重力靴に依存した物で長期滞在を考えればクソ仕様。
内部構造も廃材を利用して無理矢理組み立てられた物だから、まるで迷宮だ。噂だが、余りの迷宮具合に迷って餓死した人も居るとか居ないとか。
だが、裏を返せば迷う程、大きい事を意味している。実際、難破船入り江にはサイド7の様な犯罪者の町が形成されている。人口は難民を中心に十数万人はくだらない程だ。
それだけではない。やはり、犯罪組織が結託して、コツコツ建設していった宇宙ステーション。ただ、人が住めるだけな訳がなく、そこかしろにメガ粒子砲、機関砲等々、武装がてんこ盛りで事実上の宇宙要塞となっている。
言うなれば、要塞化した九龍城砦みたいな代物。
この宇宙ステーションは最初、1年戦争終結後にこの宙域に隠れ潜んだ連邦軍の残党が居住用だか宇宙ドックだかの施設として建造したのが始まりで、最初は艦艇が2、3隻停泊できる位のサイズだったらしいが、犯罪シンジケートの間で艦艇を停泊できるドックや居住施設の需要がその後も高まり続けた結果、その後も違法建築に違法建築を重ねていき、現在の巨大宇宙ステーションを形成したのだという。
今では数十隻の大型艦艇と数百隻の小型から中型艇を繋留でき、数隻の艦艇を同時にオーバーホール級のメンテナンスが可能なドックと、いつの間にか居着いた難民を含めた人口十数万の犯罪者街を備える。
地球にも帰れず、コロニーにも行く宛のない漂流者共にとって宇宙線や真空、物資の不足に怯える事が無い宇宙港は必需だったのだ。だからこそサイド7(復旧)や難破船入り江は造られた。
サイド7は重要だし疑似重力も完備する正に理想郷。だが、犯罪シンジケート、宇宙海賊、PMCが活動を中心とする旧サイド群の暗礁宙域からはサイド7は距離が離れ過ぎている。
故に暗礁宙域においても安定的に使える宇宙港が求められ、難破船入り江は造られた。なお、暗礁宙域にはこれ以外にも各々の組織によって宇宙ステーションは作られているが、ここまでの巨大宇宙ステーションは他に存在していない(だからこそジオンは難破船入り江のある旧サイド1宙域を狙ったのだろうが……)。
前にシイコさんがウチの部隊に来る前に立ち寄った時には中の犯罪者街まで仕事で行ったが、はっきり言ってサイド7が天国と思える位にまで治安は終わっていた。
サイド7で行われている犯罪についてはここも一通りは網羅しているが、どれくらい終わってるかというと、酔っ払いの喧嘩で気軽に銃をぶっ放して相手をぶっ殺そうとする位には終わってる。
そして、街の雰囲気も同じ犯罪者街でもサイド7とでは全然違う。
難破船入り江の街は迷路の様な通路を抜けた先にあり、狭い通路を抜けたと思ったら、幅十数mから数十m程、高さ十mから25m未満の広さが均等ではない歪な空間が現れ、そこは長い回廊状になっており、その壁にへばり付く様に街が形成されている。そんな回廊が難破船入り江内に幾つか存在し、そこに人々が集まっている。
造りからしてサイド7とは全然違うのが良く分かるが、それ以上にサイド7はサイバーパンクっぽい雰囲気だが、難破船入り江の街は、何というか……18世紀カリブのThe夜の海賊の街!という感じだ。
厳密には建築資材は木材や石材等は一切使っていない極普通のバラック小屋だし、街の至る所で見る事の出来るランプっぽい灯りも本物のランプではなくて電気(オレンジ色の)だし、暮らしてる人々も連邦軍やジオンの制服着たり一般服だったりで全然、18世紀のカリブとは違うのだが。雰囲気は大体そんな感じだ。
さらに街中の薄暗い路上では虫達や蛙の鳴き声が聞こえ雰囲気を増している。実際に虫や蛙がいる訳でなく、居住性を高める為にストレス軽減策として地球の環境を可能な限り再現しようと各所に設置されたスピーカーから鳴っているだけなのだが、薄暗い街の雰囲気と、また、街の天井の曇った星空(天井には地球の夜空を模した絵が描かれ小さく光量の低い電球が星空を再現している)も合わさって、何処か雰囲気がある。
おまけに場所によっては街中でカリブっぽい陽気な音楽まで流れてるときた。これをThe夜の海賊の街と表現せずになんとするか。それが難破船入り江の中に作られた、決して明ける事のない夜の犯罪者街だった*7。
街の雰囲気自体は悪くない。治安が終わっている事を除けば……。
「おっ、ここに居たか」
すると、唐突に背後から聞き覚えのある声がした。
俺とシイコさんは同時に振り向く。そこに居たのはブライトさんだ。
「偶然を装っても、偶然じゃないのが丸分かりですよ?誰かに聞いて来たんですね」
「流石はシイコだ。良く分かったな。ここに居るとサラに聞いてな。それで来たという訳だ」
「それなら呼び出せば良かったのに、ブリッジに居なくて良いんですか?」
「少し身体を動かしたかったんだ。それにこの状況だ。私の指揮が必要になる程の事は起こらないさ」
シイコさんはブライトさんと話を進める。
「それで、何の用なんですか?まさか、用が無いのに来た訳でも無いでしょう?」
「話が速いな。まぁ、その通りだ。
もう直、ホワイトベースは難破船入り江に接岸する。接岸後、私は評議会の会場に行くが、ライスとシイコには護衛として付いて着てもらいたい。良いか?」
「ええ、良いですよ。難破船入り江の中も気になりますし」
「ライスもそれで良いか?」
「ええ、俺も別に」
「よし、話は決まったな。ならライス、お前は難破船入り江に行った事があるだろう?シイコと一緒に上陸の準備をしてくれ」
「了解です」
「評議会には3時間後に向う。それまでに、よろしく頼むぞ。用はそれだけだ。後で搭乗口で落ち合おう」
そう言うと、ブライトさんは満足げな笑みを浮かべ、去り際、片手を軽く振りつつ、クールにその場を後にした。
その場に残された俺とシイコさんは顔を見合わせた。
「上陸の準備?」
「まぁ……着いてくれば分かりますよ」
そう言う俺の目はきっと遠い目をしていただろう……。
そして、場所は変わり、ホワイトベースの更衣室に至る。
「これと……これと……これ。あと、これも」
「ね、ねぇ……」
「あっ、それは着方が少し面倒なんで、この説明書読みながら着てください。ヘルメットは……むしろあると不自然か……?迷う所だが……」
「ちょっとー!」
「あっ、すいません。熱中しちゃって」
「ねぇ、本当にこれ着て行くって事……?」
「ええ、絶対着たほうが良いです」
「サイド7じゃこんなの着なくても出歩けたのに……もしかして難破船入り江ってそんなに危険なの……?」
そう言うシイコさんの手の中には、俺から渡された装備一式があった。
一見するとゴテゴテしたウエットスーツ、あるいはパイロットスーツの類の様にも見える類の物。
だが、それはウエットスーツでもパイロットスーツでも無く、実際には1着で、驚異の軍用装甲車が一台買える程の超超超超超超高価なお値段の超軽量防弾スーツなのであった。
これ一着でライフル弾、レーザー銃、手榴弾も防げる超一品だ。
そんな高価な物が何故、ホワイトベースの試着室なんかに、あるのかと言えば、以前、依頼で麻薬カルテル関連の抗争に参加した時に、制圧した相手の拠点で見つけてゴッソリとお持ち帰りできた事があったからだ。
どうやら、お相手の麻薬カルテルは相当、荒稼ぎをしていた様で、どう考えても富裕層向けのこの超軽量防弾スーツを何着も持っていた。
そのお陰で現在、ホワイトベースには普通の軍ですら値段が高すぎて、まずは導入される事の無い、この超超超超超超高価、超軽量防弾スーツが何着もストックされている。
着て良し、売って良しの一級品。会社の経営が厳しくない間はホワイトベースの備品であり続けられるだろう。ちなみに、製造元はアナハイム・エレクトロニクス。
そんな超軽量防弾スーツを渡され、シイコさんは困惑の表情を浮かべる。
シイコさん的には恐らく難破船入り江に行く事について、そこまで深い意味は無かったのだろう。精々、あの珍妙不可思議摩訶不思議な難破船入り江の中が気になって半ば観光気分といった所か。
実際、俺も最初、難破船入り江も見た時は内部がどうなっているか気になった為、恐らくシイコさんも、そうなのだろうと思った。
治安が悪いのは想像していただろうが、自身は宇宙一治安が悪いと言われるサイド7から来ているのだ。それ以上の危険地帯など無いと思ったに違いない。
だが、渡された超軽量防弾スーツによってシイコさんは今から自分の行く所がサイド7以上に終わってる場所なのかと疑念を深める。
「まぁ、サイド7は、あくまで "宇宙一危険なサイド" ですからね……」
俺は何処か遠い目をしつつ、シイコさんにこれから行く難破船入り江の終わってる治安について説明したのだった。
そう、確かにサイド7は "宇宙一危険なサイド" だが、それはあくまで、サイドという枠組みの範疇での話であって、難破船入り江みたいな一般的な地図には載っておらず、その存在も一般には殆ど知られていない様な宇宙ステーションは世間の話には含まれていないのだ。
「時間通りだな。その様子だと準備は万端の様だな」
3時間後、ホワイトベースの搭乗口にて。
時間ピッタリにやって来たブライトさんは、満足げな笑みを浮かべ、そう言いながら、先に搭乗口前で待っていた俺とシイコさんの所へとやって来た。
サラの姿もある。ブライトさんの少し後ろに着いて来ている。
「ええ、ブライトさん。準備出来てますよ。ブライトさんの方こそ、その格好で平気なんです?」
「大丈夫だライス。こう見えて、この制服の下は、防弾チョッキだ。シイコの方はどうどうだ?」
「……問題ありません」
「そうか」
「そう言えば、サラさんも一緒に来るんです?サラさんまで、艦を離れて良いんですか?」
「いや、彼女はただの見送りだ。サラには艦に残ってもらい私がいない間の指揮を任せる」
「なるほど」
「ブライト艦長、お気をつけて行って下さい」
「ああ、それじゃあ言ってくるよサラ。
よし、それでは向かうとしよう。難破船入り江へ」
搭乗口のハッチが開放される。
サラの見送りを受けて俺、ブライトさん、シイコさんの三人は難破船入り江へと足を踏み入れる。
その三人の姿は見た目では、評議会に参加する必要のあるブライトさんは、それなりの服装をしていく必要がある為、外見上はいつも通りのブカブカ連邦軍制服だが、その下には防弾チョッキを着込み。
一方の俺とシイコさんは、単なる護衛である為、結局、フル防御で行く事にし、頭から爪先まで、その姿は完全に対魔忍RPGに出て来るレア度ノーマルの "米連特殊部隊兵(女)" の姿そっくりとなっていた。
俺は別に何とも思って居なかったが、シイコさんは、これから、こんな物を着て行く必要のある程、治安が終わった場所に行かねばならぬのかとヘルメットの黄色いバイザーに隠れた下で、死んだ魚の様な目をしていたのは言うまでもない。
ホワイトベースを降りた俺達、3人はその足で難破船入り江の奥深くへと進んで行った。
継ぎ接ぎだらけな複雑怪奇な通路を進み、やがて犯罪者街へと至った。
久しぶりに訪れた難破船入り江の犯罪者街は以前と変わらずのTheカリブの海賊!な雰囲気の街だった。
ただ、以前と違う点は、以前訪れた時は街の何処かしらで銃声が鳴り響いていたが、今回は銃声が殆ど聞こえなかった事だ*8。恐らくは、評議会がある為、抑制しているのだろう。
あとは犯罪者街に居る人間の数が以前よりも大幅に居て街が盛り上がってるくらいか。これも恐らく、評議会がある為、宇宙中から集まって来た結果だろう。
「うわぁ⸻」
「シイコさーん?逸れますよ」
「ご、ごめんなさい。なんというか……色々と凄い所ね……」
シイコさんはそう言うと慌てて小走りで追い付く。
犯罪者街をシイコさんは、かなり警戒しつつも、辺りをキョロキョロと見回していたのは、傍から見ていて印象的だった。
まぁ、宇宙広しとはいえ、こんな摩訶不思議な場所も早々ない。
危険な所とはいえ、好奇心が勝るのは当然と言えるだろう。
初めてではない俺とブライトさんは、特に周囲をキョロキョロと見る様な事はしなかったが。
ここ以外でここと同等レベル位にまで摩訶不思議な場所は、真っ先に思い付く限りにおいては原始的な生活に回帰したムーンムーン位か。
…………いや、この世界じゃムーンムーンはここら一帯が正史と違って犯罪者の無法地帯になった影響で犯罪者組織に見つかってしまい今は確かに密輸業者の一大拠点になってたんだったか。となると、ここまで変な所も他にはもうこの宇宙には残念ながら無いのかもしれない。
そんなこんだで俺達3人は、犯罪者街が形成された区画と、そうではない区画を何度も通過し、やがて最終的に難破船入り江の最深部へと辿り着いた。
難破船入り江の最深部。
厳重に防護されたその場所にある評議会の議場。
議場は他のどの場所よりも一際、豪華な場所であった。完全な木造の議場、シャンデリア、ペルシャ絨毯、よく分からない彫像や絵画等々、豪華絢爛な調度品の数々で着飾られていた。
宇宙かつ、しかも正規の交易ルートからも外れている暗礁宙域において、木材など天然素材を使った品々は非常に高価な代物だ。それが、余す事なく隅々にいっそ下品に思える位、そこかしろに使われている。
だが、優雅に見えるかは、それはまた別の話で、ただでさえ統率のなってない犯罪者集団が作り上げた議場。豪華絢爛な調度品の数々は無秩序に配置され、まるでバイオハザードに出てくる洋館の一室の内装を適当にめちゃめちゃに配置したかの様だった。
そんな議場に大勢の人間が居た。
普段は滅多に使われる事の無い議場。そこに難破船入り江史はじまって以来、未だかつて無い規模の人間が集結していた。
そのどれもが、こいつ等まともな凌ぎやってないなと見た目だけで判別出来る様相を呈していた。
見慣れた連邦軍やジオン軍の制服の他、まるで旧世紀の禁酒法時代のマフィアみたいな姿*9、何処かの民族衣装、ラテン系ギャング風のファッション、ヤクザ風ファッション、ストリートギャングチックなサイバーパンクファッション、ピチピチボディースーツなサイバーパンクファッション、旧世紀の何処かの軍隊の制服、北斗の拳に出てくるゴロツキみたいな姿、何故か古代の中華甲冑姿、果ては髭ボーボーに加えてカリブの海賊みたいな恰好から、何故か雑面を付けた日本の巫女装束っぽい恰好まで等々etc……*10
そしてまだ評議会が始まっていない事をいいことに議場に、あちらこちらでは仲の悪い組織同士が顔を合わせて互いに因縁をつけ合ったり、口喧嘩をしていたり、一部は殴り合いの喧嘩をしている。これが普段であれば、銃声までもが聞こえるであろうが、流石に評議会の場で争いはご法度である為、そのルールは最低限、誰もが犯さなかった。
一方で仲の良い組織同士で意気投合して何故か酒盛りを始めていたり、かと思えば、深刻そうな様子で何やら小声で話している連中も居る。
まさに魔境だ。魔境が広がっていた。そんな妖怪の様な連中が一堂に会していた。
「………………」
シイコさんからは、この余りの魔境っぷりに今まで感じた事が無い程、ドン引きしているのが犇々と伝わってくる。言うて、俺やブライトさんもそうだ。俺たち3人はこの魔境の喧騒には出来るだけ加わらない様に席から離れなかった*11。
この業界で活動して、それなりに長いとはいえ、こんな前代未聞の有名組織大集合な会議なんて評議会は今回が初めて開催されるのだから経験がある筈もない。こんな魔境を見るのはこれが当然、初めての事であり、それに他の組織と比べてウチの部隊は間違いなく常識枠の人間の集まりだ、気おされて当然だ。
だが、いずれにせよ、この目の前に広がる魔境こそが、これから犯罪者による犯罪者の為の犯罪者の会議が始まる事を示している。
俺達3人は目の前の喧騒を見ながら、静かに評議会が始まるその時が来るのを、ただドン引きしながら待ったのだった。
評議会は唐突に3度叩かれた木槌に音で始まった。裁判官がよく静粛に静粛にと叩きながら使っているイメージのある、あの木槌だ。
実際、その音が鳴ると議場の喧騒はパタリと静かになった。
「黙れ!黙れ!この屑共ォ!これより第1回!!評議会を開催する!!進行は僭越ながら、この俺、バルバロッサが務める!異論のあるヤツは挙手しろ!今ここで眉間をぶち抜いてやる!」
木槌を鳴らした評議会の進行役らしき男が荒っぽく叫ぶ。片手には木槌。もう片手には拳銃が握られ高く掲げられ、3発を天井に向けて連続で発砲する。
髭を蓄え三角帽子をかぶったカリブの海賊みたいな姿の小汚くも、如何にも歴戦の犯罪者といった感じの風貌の男だ。どうやらこの男が今回の評議会司会役らしい。
挙手をする者はいない。どうやら異論はない様だ。
「あー、この度は紳士淑女諸君、お忙しい中、サイド1のこんな掃き溜めまでご足労頂き大変痛み入る。そんな諸君を無駄な前話で待たせるのは大変、申し訳なく思うので、挨拶は省略して早速だが本題に入ろうと思うが、異論のある者はいるか?」
「「「異議なし」」」
進行の男の問いにまるで、あらかじめ決められていた流れかの様に出席者からは異議なしの声が同時に飛び出した。さっきまで喧嘩したり好き勝手やっていたのに急に一致団結みたいな事をして本当に摩訶不思議な光景だ*12。
「ごほん。それでは本題に移ろう」
進行の男がわざとらしく咳をすると、ついにこの評議会が開催された理由である議題が述べられる。
「耳の早い諸君らの聞き及んでの通り、再来週、ジオンの議会で、ここサイド1の暗礁宙域の我々を掃討する為の派兵法案が提出され可決される事が、親愛なるジオン内の同業により明らかとなった。
本日の評議会の議題は単純かつ明快だ。
ジオンの派兵に対して、どう対応するかだ。立ち向かうか!それとも、とっとと逃げ出すか!」
進行の男の大げさな身振り手振りで評議会は進行する。すると、列席者の中から手が挙がる。進行の男は挙手した男を指す。
「ジオンはどれ位の数をこちらに差し向けてくる気だ?事前の情報では大規模掃討作戦という事だったが、戦うにしても相手の規模が分からなければ何とも言えん」
「いい質問だ。流石は麻薬カルテル・ジョアンカパニのリーダー。ジオン内の同業からの情報によると現時点で派兵されるジオンの予想される規模は⸻ざっと戦闘艦艇40隻以上50隻未満と数百機のMSだそうだ」
「戦闘艦艇40隻以上にMS数百機!?」
「ジオンの一個宇宙軍の規模じゃないか!?」
初出の情報に議場がどよめき不規則発言が増加する。とはいえ動揺の反応は当然だろう。俺ですら内心驚いている。大規模な派兵とは聞いていたが、まさか犯罪組織相手にそこまでの規模の戦力を投入してくるとは予想以上の規模だ。
「ああ、どうやらジオンは本気で我々を潰しにかかってきたらしい」
「呑気に言ってる場合か!」
「その情報は確かなのか?」
「確かな情報だ。情報源は言えんが間違いないと言って良い。もし、間違っていたら俺の首を差し出しても良いぞ?」
「どうする!?ジオンの1個宇宙軍と戦うのか?」
「戦うべきだ!1年戦争の頃とは違う!今の我々ならばやれる筈だ!ザクもボールもある!」
「そうだ!サイド1、サイド2、サイド4の連中だけでもかき集めれば船もMSも対等に渡り合える筈だ!」
「対等!?それ輸送船と民間船を改造した船も計算に入れてるだろ!戦闘艦もオンボロだらけで、何が対等だ!」
「そもそも、それ以前にザクとボールでどうする気だよ!?」
「ここは俺達の庭だ!勝算は十分にある!」
「ジオンに住む場所を追われ折角、流れ着いたこの場所も奪われるなんて御免だ!」
「そうだー!」
「軍から追放された挙句、この掃き溜めすら追い出す気なのは許せないねぇ」
「この難破船入り江は要塞なんだよ?ここに入り込もう物なら、例えジオンの1個宇宙軍と言えど、ただでは済まないさね」
この場に集まる様々な立場の者から意思表示が飛び交う。
この状況に正しく焦る者。勇ましい者。怨念を込める者。冷静に考えている者。様々な意思が交錯する。ただ、ここまでの意見を見ている限りは抵抗を示す意見の方が強いみたいだ。
そんなもはや、発言者が多すぎて誰がどの発言をしているのか、全く分からない状況の中、俺とシイコさんはマスクの短波通信機能で話していた。
「見るに堪えない会議だけど、肝の座った人間が多いみたいね」
「まぁ、1年戦争後、暗礁宙域にずっと立て籠ってる連中達ばかりですからね。犯罪者集団とはいえ犯罪者集団なりの意地みたいなのがりますから、それなのでは?」
「そうかもしれないわね」
「ここに居るのは、1年戦争後に降伏を拒否した連邦の敗残兵の出発点とした連中から、ジオンからリストラされて、ここに流れ着いた連中、コロニー難民まで様々ですから……ところでシイコさん、なんだか嬉しそうですね」
「ふふ、そう見える?」
「ええ、声が弾んで聞こえます」
「この暗礁宙域で活動してずっと、見るに堪えない犯罪者と化して醜態をさらし続ける奴らばかり見てきたから、ようやく降伏を拒否した連邦兵らしい姿が見れて嬉しいのよ。この調子なら、ジオンと戦う事で決まりそうね。ふふふ」
なにやら、シイコさんから言い知れぬ闘志というか執念の様なものが、滲み出ている感じがしたが、それ以上は踏み込むのをやめた。怖い怖い。
と、評議会の雰囲気としては、ジオンの艦隊と戦う路線の声が多く、それで意見が纏まりそうな雰囲気であったが、そんな時、唐突に議場の閉ざされた扉が勢いとよくバン!と開かれた。
進行役の男と同じ様な系統の服装を着た男が駆け足で入ってくる。明らかに下っ端であるが、その下っ端は、評議会の喧騒を無視して一直線に進行役の男の元へと向かい何やら耳打ちをする。
しばらく、進行役の男が下っ端の男から何かを聞いている様子を見せ、やがて耳打ちが終わり、下っ端が下がると、進行役の男は木槌を振り上げ勢いよく3回叩いた。
その音に喧騒に包まれていた議場は瞬く間に静かになり、進行役の男の方へと皆が視線を向ける。
「あー紳士淑女諸君、ご活発な議論中の所、申し訳ないが、たった今、俺の部下より新しい情報が入った」
「新しい情報?」
「たった今入ったジオンの同業からの追加の情報だ!この度の、ここサイド1の暗礁宙域で行われるジオンの大規模掃討作戦で部隊を率いるヤツの名前が判明した!」
「おー!どこのどいつだ!」
「返り討ちにしてやるッ!」
進行役の男はどこか芝居がかった動きをしながら、そして言葉を貯める。その間に威勢の良いヤジがどこからか聞こえてくる。その直後に進行役の男は貯めていた言葉を吐き出した。
「大規模掃討作戦でジオンの部隊を率いるヤツの名は1人はジオン軍の名少将ドレン。そして部隊を率いる最大のトップは⸻ジオン軍中将にして1年戦争中にてグラナダの英雄、赤い彗星と呼ばれた⸻シャア・アズナブルだ」
「「………………」」
シャア・アズナブル。
その名が出た瞬間。議場はさっきまでの喧騒が嘘かの様に静まり返った。
それは、俺とシイコさんも同じ。
いや、俺は唖然としただけだったが、だが、シイコさんからは……無言の中に数瞬後に強烈なプレッシャーを俺は感じた。
ニュータイプ云々ではなく、シイコさんの身の上話を聞いていれば、誰であろうとも感じ取れるだろう……。
俺の脳裏には直接、見えはしないがシイコさんが黄色いバイザーの下で口角を大きく釣り上げている姿が容易に想像つき、背筋に冷たい物が走るのを感じたのだった。
一方の議場。
シャアの名前によって静まり返った議場は、シイコさんが望む展開とは恐らくは真逆の展開になっていった。
「シャア・アズナブル……だと」
「シャア・アズナブルとドレンと言えばジオンの名将中の名将コンビじゃないか」
「名将どころじゃない!キシリアと並んで宇宙権益を二分するジオン2頭政治の一角だぞ!?」
「そんなヤツがなんでこんな所に!?」
「赤い彗星と戦うのか……?」
「赤い彗星と言えど、この戦力!突破できる訳が無い!」
「馬鹿な!赤い彗星のシャアと言えば、グラナダへのソロモン落としの時に連邦軍の数十隻の艦隊とMS部隊を、たった4隻の艦隊とたった一組のMSとMAで突破した化物だぞ!?勝てる訳が無い!」
「じゃあ何か!?逃げると言うのか!?」
「グラナダの英雄と戦う!?冗談もよしてくれ!勝ち目なんてない!」
「そうだ!ここは戦いを避けるべきだ!」
「難破船入り江を失うのは痛いが、心中するよりは遥かにマシだ」
「そうだな。赤い彗星と真正面からやり合うなんて愚の骨頂。ここは撤退するのが吉でしょう」
「ここを失っても拠点は他にも幾つもある。問題は無い」
「今回は運が悪かっただけだ。戦力を温存していれば、どうとでもできる」
「せっかくここまで規模を拡大出来たんだ。それをみすみす失うリスクを犯すのは馬鹿のすることだ」
「ですな。ここはジオンに花を持たせて我々は悠々と潜めば良い」
「そうとなればジオンの作戦が始まる前に資金や物資を移送する準備を始めなければ」
「サイド4、いや、宙域図を考慮すればサイド5、サイド2に退避するのが安全か?サイド4はサイド1と近すぎる」
「この際、一時的にアステロイドベルトまで退避出来る連中は退避した方が良いのでは?」
「おい、運送屋。アステロイドベルトは使えそうか?」
「誰に物を言っている?アステロイドベルトは俺達の庭だぞ?中小採掘業者が使ってる小惑星小都市を幾つか程度なら直ぐに準備出来る。金さえ払ってくれるならな」
「運送屋が儲かりそうな話だ」
「1年戦争が終わっても俺達はこの宇宙に潜み続けたんだ。俺たち以上に宇宙に詳しいヤツは居ない」
「サイドだろうが何処だろうが逃げお失せて見せますよ」
つい先程まで、ジオンを返り討ちにすると息巻いていた議場の雰囲気は完全に逆転していた。
ジオンを返り討ちにすると息巻いていたその口で今や大半の者が逃げ出す算段の話をしてる。
戦わないという主張に対して反発した者も居たがそれは圧倒的な少数派で、その意見も最初の方では聞こえて来たが、やがてその少数派も戦わないという主張を聞くうちに心変わりした様だった。
「まずいな……」
その議場の様子を聞きながら、ブライトさんはそう漏らす。まぁ、当然だろう。うちの部隊は今回、ジオンの掃討作戦を可能な限り妨害する様に求められている。このままでは、ジオンを妨害する以前の問題だ。
ブライトさんがどうしたものかと悩む。ただ、議場の空気的に今からどうにかなるとは思えなかった。
「……どうします?ブライトさん」
「どうしますと言われてもな……この空気を今から、どうにか出来るとは……」
「一か八か発言してみます?」
「それでどうなる空気か?見てみろ。皆一様に逃亡の算段を話し合ってるんだぞ?」
俺はブライトさんに顔を近付け耳打ちをする。だが、ブライトさんからも答えは出ない。
俺的にはジオンと戦うのは御免被る為、この展開は願ったり叶ったりだが。
「これはもうお手上げ⸻ッ!!」
「ん?どうしたライス?」
これはもう打つ手なしとそうブライトさんに言いかけたその時、俺は背筋に強烈な悪寒を感じた。
ブライトさんは気づいていない。だが、俺には一番、近くにいる為か、その悪寒の正体がひしひしと伝わってきた。悪寒の正体は⸻背後のシイコさんだ。
今までにシイコさんから感じた事のない強烈なプレッシャー。強い怒りの感情を感じた。
あまりのプレッシャーに後ろを振り向くのも恐ろしい。だが、意を決して後ろを振り向くと、そこには当然シイコさんが居る。
表情はマスクのバイザーで覗い知る事は出来ない。だが、その垂れ下がった腕の拳は固く握りしめられ、ふるふると微かに震えていた。
あまりの気圧に何と声をかけるべきか言葉を選んでいると、俺が話しかけるよりも早くシイコさんは動き出す。
『……呆れた。これだけの荒くれ者が揃っておきながら逃げ出す算段なんて』
議場内にマスクの機能で増幅されたシイコさんの酷く軽蔑した声が響き渡る。
ほんの一瞬、静寂が議場を支配するが、それは本当に一瞬。挑発を売られて沸点の低いこの場の連中が反応しない訳もない。
「誰だ!我らを愚弄するのは!?」
列席者から続々と怒りの声が挙がる。いつ銃が抜かれてもおかしくは無い空気感が場を支配する。
シイコさんの雰囲気にビビっていた俺ですら、この状況が非常に不味いと感じる。
それはシイコさんの豹変に気づいていなかったブライトさんも同じ。流石にマスクの拡声機能で議場に声を轟けさせれば嫌でもブライトさんでも分かる。
「お、おい、シイコやめろ……!」
『私よ』
ブライトさんは小声でシイコさんを制するが、シイコさんはそれに応じる事なく一歩前へと踏み出し、堂々と名乗り出る。
「アブ・ル・ハウルPMCの所のヤツか」
「ただの護衛じゃないか」
「護衛ごときが、誰の許しで発言している!」
「ブライト!それがアブ・ル・ハウルPMCの意志か!?」
注目を浴びたシイコさんに対して、罵声が飛ぶ。シイコさんだけではない。ブライトさん⸻というか俺達3人に対して。
「い、いや、これは……おい、シイコ!」
ブライトさんは周囲からの非難の目と声にたじたじとなり、シイコさんを止めようとする。だが、シイコさんは止まらない。
『何度でも言うわ。これだけの荒くれ者が揃っておきながら逃げ出す算段なんて。本当に呆れる』
「言わせておけば!」
「そんな防護スーツ着てるから安全だと思ってるんだろ!?」
「素顔も出さずに口だけはよく回る!」
……本当に不味い。
罵詈雑言が次々と列席者から吐かれる中、俺は冷や汗を物理的にダラダラにかいていた。
いつ銃が向けられてもおかしくない。仮に1発発射されたら続々と後に続くだろう。超軽量防弾スーツは弾を防ぐだろうが、この議場の大勢を相手になんかされれば、なぶり殺しにされるのは確定だ。
そしてその攻撃の対象はシイコさんだけでなく、ブライトさんも含めて俺も当然、含まれるだろう。
超軽量防弾スーツを着てるのに加えて護身用の銃も持ってはきている為、ある程度の抵抗は出来る可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれないが、それでも、この人数を相手にして生き残れる可能性は限りなくゼロに近いだろう。
そんな感じで俺とブライトさんは焦る一方で、そんな俺とブライトさんを知ってか知らずか、シイコさんは続ける。いや、それ以上に過激な行動に。
『そんなに顔が見たいのなら見せるわ』
シイコさんは何の躊躇いもなくヘルメットを脱ぎ捨て素顔をさらす。流石にその行動に危険すぎると止めに入ろうと俺も一瞬、体を動かしたがそれは遅かった。
「私はシイコ。シイコ・スガイ!逃げも隠れもしない!」
「シイコ……シイコ・スガイ……?」
「なんか何処かで聞いたような……」
「シイコ……シイコ……シイコ……!思い出した!シイコ・スガイって連邦のスーパーユニカム!」
「連邦のスーパーユニカムって……1年戦争中に100キル超えした連邦の魔女か!?」
シイコの姿を見た列席者の中の一部からざわめき声が上がる。特に1年戦争を戦った元連邦組や元ジオン組からひときは大きな驚きの反応があった。
流石は連邦の魔女の異名を持つシイコさんと言った所か。シイコ・スガイの名が出た途端、つい先程の殺伐とした一触即発の雰囲気は驚愕の声に途端に掻き消された。
「こんなに荒くれ者が揃っておいて、あなた達、恥ずかしいとは思わないの?」
シイコさんは一切周囲の人間に臆する事無く続ける。
「ここに居るのは連邦からもジオンからも爪弾きにされた宇宙の屑共!
連邦の敗残兵!あなた達はジオンに戦争に負けて連邦もめちゃくちゃにされて、今度は自分達の住処まで、めちゃくちゃにされるのをただ指をくわえて待つつもり?
元ジオン兵!戦争に勝ったのに軍を辞めさせられ、こんな掃き溜めに追いやったジオンはあなた達の働きに報いないばかりか、今、あなた達を討伐しようとしている!それで良いの?
戦争でコロニーを追われた難民たち!戦争に勝ったジオンは戦後復興もしないまま、あなた達を放置している!ここはそんな、あなた達がようやく落ち着いて暮らせる場所でしょう!ようやく新たな住処を得たのに、それをみすみす失って本当に良いと思ってるの?」
議場にシイコさんの声が響き渡る。シイコさんの言葉に指摘された者達は先程の喧騒が嘘の様に重苦しそうに沈黙する。
当然だ。シイコさんの言った事はこの場に居る多くの者達に刺さる言葉なのだから。
「このサイド1から逃げ出せば、確かに今回はジオンとの衝突を避けられるかもしれない。でも、その先は?その先に未来はあるの?
今ここで逃げだしてもジオンは絶対にここでは止まらないわ。何故なら、ジオンにとって私達は宇宙の秩序を乱す邪魔者なんですもの。ここを堕としたら、ジオンは次の目標を定めるわ。サイド2、サイド4、サイド5……あなた達はジオンの艦隊がサイド7や小惑星帯の最後の拠点の眼前にまでやってくるまで何もしない気?
むしろ抵抗するなら、今が絶好のチャンスよ!このサイド1にはこの要塞もある!戦力もある!でも、ここで逃げだしたら、ジオンの討伐で各個撃破されていくのは目に見えているわ!そして、最後は要塞も無く、今より大きく目減りした戦力しかない状態でジオンの艦隊と戦う事になる!あの赤い彗星と戦う事になる!その状況で生き残れる組織は極僅かなものでしょう。
つまり、私達に選択肢なんて、はなから残ってないの!ここで戦うか、壊滅するかよ!私達が未来を掴み取るには、ここで戦ってジオンが私達に手を出せば痛い目を見るという事を連中に分からせる必要がある!」
シイコさんは厳しい視線で沈黙する議場を一瞥する。
「これだけ荒くれ者が揃っておいてジオンと戦おうという気概のある人間は居ないの?
あなた達も内心では分かってるんじゃないの?このままではダメだって。
それでも、あなた達が本当に逃げるという選択をするのなら、もう私から言う事は無いわ。精々、短い安寧を過ごせば良い!さぁ!どうなの!?」
議場は静寂に包まれる。
皆、やはり痛いところを突かれたのは同じ。重苦しい空気だった。
「ど、どうって言われてもなぁ……」
「赤い彗星と戦うなんて……」
「グラナダの英雄だぞ……?」
重い沈黙を破ってチラホラと声が漏れ聞こえて来る。だが、その声はどれも力弱い言葉ばかり。シイコさんはそれを聞いて垂れ下がった腕の拳を固く握りしめると、無言で目を瞑り首を横に数度振って心底、幻滅し呆れ果てたという表情をすると数歩下がり、議場に背を向けると先ほど放り投げたヘルメットを拾い上げた。
そして、ヘルメットを再び被ろうとする、だが、その行動は止まった。
「私は魔女の提案に賛成です」
そんな一声が議場の一角から上がった。
シイコさんはヘルメットを被る手を止め、俺も含めて議場の皆と一様に声のした方を見る。
「魔女の言う通りです。ここで逃げても、ジオンは私達をどこまでも追撃するでしょう。ならば、ここでジオンに追撃を躊躇させる程のダメージを与えるしかありません」
「あなたは……」
シイコさんは声の発生源を見てそれまでの険しい表情は変えないながらも少し驚いた様子を見せる。そこには、まるでディズニーの眠れる森の美女に出てくるマレフィセントを彷彿とさせる如何にも悪の親玉みたいな派手な黒い服装を身に纏い、それに加えて貫禄のある雰囲気も身に纏った黒人の人物がいた。
「久しいですね。ルナツーの戦い以来ですか魔女。いえ、シイコ・スガイ」
「ハニ・アサナ将軍……」
シイコさんはその人物の名をつぶやく。それは俺も当然知っている人物の名前だった。
ハニ・アサナ将軍。正史には一切登場しないが、GUNDAM 0079 THE WAR FOR EARTHの世界においてはレビル将軍の直属の将軍の一人として登場する人物。
久しぶりに直で見るが、服装が変わりすぎて言われないと初見では気づけないレベルの姿の変容っぷりだ。
だが、1年戦争の頃の貫禄はいまだ健在。連邦軍時代の貫禄もすごかったが、今はマレフィセントを彷彿とさせる服装を何故か着ている事もあって、以前以上にまるで魔王の様な貫禄を感じる。
シイコさんはハニ・アサナ将軍がここに居る事に内心かなり驚いている、というか衝撃を受けている様だが、一方の俺の方はというと将軍が戦後にこっちの界隈に転向した事はとうに見聞きしていた為、姿を見て驚きは一切しなかったが。
ハニ・アサナ将軍。
この界隈に深く関わっていれば、ある意味、知らない者などいない。
何故ならば、この女将軍こそが1年戦争後まもなく、ジオンとの休戦条約が締結され宇宙に居る全地球連邦軍に対して停戦と地球への全面撤退が命じられる中、停戦も撤退も拒否して、連邦の敗残兵をまとめ上げ、ジオンの攻撃で壊滅した旧サイド群の暗礁宙域に潜む事を決定した張本人……。
連邦の内乱で敗残兵同士で盛大な内輪もめをするまで、実質、地球連邦版デラーズ・フリートないしは連邦版ネオジオンの頭を張っていた人物だ。つまりは、現在の宇宙の終わった治安の原因を作り出した元凶の一人……。
かつて程の影響力はもはやなく、それどころか今では地球連邦軍とすら名乗らなくなったそうだが、未だにこの界隈では、謎のカリスマ性というかオーラからか最大勢力を率いているし、その影響力は絶大だ。
「まさか将軍程のお方がこの様な場にいらっしゃるとは……あの頃は大変お世話になりました」
「色々あったのです。今ではここらの宙域で最大の宇宙海賊を率いています。
ですが、それはこちらも同じ感想です。あなたの様な優れたパイロットを手放すほど今の連邦は悲惨な状況の様ですね」
「私がこの場に居るのは自主的な判断ですが、連邦が悲惨な状況というのには同意します」
「さて、シイコ・スガイ。あなたに質問があります。その回答次第ではこの場での不規則発言は私の持てる力の全てでもって容認しましょう」
「何を聞きたいんですか?」
「あなたは仮にジオンの討伐艦隊と戦うと決まった場合、あなた自身はどうするのですか?」
「もちろん。戦います」
「あなた程の実力があれば、戦場で生き残る事は容易いでしょう。ですが、あえて他人からは最前線で戦っている様に見せつつも、あなたにとっては生き残るのに容易い戦場で戦う事もあなたには出来きますね。
多くを犠牲にして、自分だけは確実に助かる事も出来るのではないですか?」
「確かに。難しいですが可能だと思います」
「先程のあなたの皆に向けられた言葉は勇敢ですが……釣り合っていない懸念があります。皆のかける命とあなたのかける命が」
「私の本気度を疑うと?」
「そうは言いませんが、差し支えなければ聞いておきたいのです。それに、この場には聞いておきたい者も大勢居るでしょう」
「……分かりました。それで満足するなら幾らでも言います。
私は赤い彗星と戦うつもりです」
赤い彗星と戦うとの言葉に議場がざわめく。
「連邦は負けたけど私は負けてない。赤い彗星は必ず私が倒すんです。あのケツ顎は必ず私がッ!」
誰もが息を呑む。シイコさんから溢れ出る気迫に。
一方でシイコさんからこの答を引き出したハニ・アサナ将軍は満足気な表情を浮かべた。
「皆、聞きましたね?
彼女は最も死に近い所で戦うと言ってのけた。この場の誰もが逃亡の話をしている中!
彼女の決意は先ほどの主張で十分に皆に伝わっている筈です。生半可な覚悟ではこの場で発言など不可能。ましてや正規の発言権を持たない者など不可能に近いでしょう。
ですが、彼女はそれをやってのけた!この宇宙で最も危険なこの場所で!
ここまでの事を言われて戦わない者など少なくとも私の海賊には一人もいません」
ハニ・アサナ将軍は列席者を一通り見渡す。
「あなた方はどうなのです?本当に最後は破滅する事が分かっていながら逃げ出すのか、それとも一か八か戦うのか。今が決断の時です」
ハニ・アサナ将軍は静かにまるで諭す様に鋭い視線を乗せながら、その場に居る皆に言った。
議場は沈黙し静寂に包まれる。そんな様子をシイコさんは眺めそして、こいつ等はやっぱり腰抜けでダメだと思ったのか目を瞑り静かに失望した様子で頭を横に振った。
「女にここまで言わせて戦わねぇ程、男は腐っちゃいねぇ。俺は賛成するぜ」
シイコさんが呆れた、丁度その瞬間、何処からかそんな声が議場に響く。
その声に目を開き少し驚いた様子でシイコさんは声のした方見た。そこには自信気に笑みを浮かべる、ヒゲを蓄え、くたびれた連邦軍の制服を着た中堅宇宙海賊のとある長が腕を組んでいた。
そして、その男を皮切りに声はまた一つ二つと増えて行く。
「俺達も賛成する。嬢ちゃんに言われて目が覚めたぜ。そうだこれ以上、逃げ回るのは我慢ならねぇからな」
「彼女は20代超えで、列記とした成人女性ですよ」
「えぇッ!?外見まで魔女ってか!?」
「私共も賛成します。彼女の言うとおりだ。スペースノイドの独立という崇高な使命の為に戦った我々退役軍人へのジオンの扱いは目に余る」
「僕も賛成だ。ジオンには過激な交渉が必要だ。僕らの組織のトップである最高議長もそれを、きっと望んでおられる」
「過激な交渉?」
「ビームサーベルを使った交渉だよ」
「俺らも賛成だ。ジオン星人にこれ以上、良いようにさせてたまるか」
「誰がジオン星人だコラァ!連邦に媚び諂う事しか出来なかった負け犬が!っと、今はそれどころじゃなかったな。俺っちも賛成だァ!ジオンに怨みはねぇが、ケツ顎には軍を追い出された怨みがあるからな!」
「わしも賛成じゃ。娘っ子の言うとおりじゃ。ここで逃げても壊滅するのがオチじゃろう。ここは初心に帰って連邦軍の敗残兵として惨めったらしく、この穴倉に引き篭もった最初の頃の矜持を思い出す時じゃ」
「うちも賛成だ!元連邦軍中将の爺ちゃんがここまで言ってんだ!うちが賛成しない理由はない!それに、ジムで100キル超えした連邦の魔女まで居るんだ!勝てるぜ!」
「そうだ!連邦の魔女が居るなら話は別だ!赤い彗星が居ても勝てるかもしれない!吾輩達も賛成だ!」
「チッ……この空気で今更、反対なんて言える訳無いだろ。賛成だ」
「賛成する!」
議場の空気感は一変した。
一つ二つと増えた賛成の声は巨大なうねりとなり、つい先程まで、ジオンと戦う事に反対していた列席者は大半が賛成の意見を表明し議場全体を包み込んでいた。
もちろん、賛成を表明する者の中には、明らかに渋々といった風の者が何人も居たが、こと、この状況に至っては、反対意見を出せる空気では無かった。
すると、やがて勢いよく振られた木槌の音が3回、議場に響き渡る。
進行の男に注目が集まった。
「あーあー、議論の結果が出た様だな?紳士淑女諸君。それでは……最終採決を採ろうと思うがいかがかな?」
「「意義なし」」
「よろしい。では最終採決を採る!ジオンと戦う事を選ぶ命知らずの馬鹿共は挙手しろ!!⸻よし。次にジオンと戦う事に反対する利口者は挙手しろ!!」
進行の男の掛け声により続々と採決が行われていく。粛々と挙手制による採決は確実に行われていった。進行役の男は列席者の手が挙がるその度に、議場を一瞥し、挙がっている手の数を見ていく。そして、直ぐに結果は出た。数えるまでもなく、採決の結果は⸻。
「よろしい。では賛成多数と認め、今ここに!評議会の意志は決定された!我々はジオンと、この宙域で決戦を行う事とするッ!!」
列席者からの了承を得た進行の男はそう宣言すると、木槌を振り上げ1度叩き、それをもって、評議会は正式にジオンと戦う決断を下したのだった。
反対者はほぼ存在しなかった。内心では反対しつつも、嫌々であったり渋々、賛成に挙手した者も少なからず居たであろうが、既にシイコさんの演説と赤い彗星との対決宣言に加え、この界隈で最大級の影響力を持つハニ・アサナ将軍の賛成表明によって作られた議場の空気は反対の声を許さなかった。
今ここで反対意見を出せば、腰抜けであったり、弱虫などとの罵りを受けそうな雰囲気が避けられない場の空気感であった。それは各々の組織の面子に関わる。故に、反対派は完全に封殺されたのだ。
犯罪組織とは実に難儀な組織だ。やってる事は人間の屑の所業、外道の所業であるにも関わらず、彼ら彼女らは何よりも面子を重視する。
人様に迷惑をかけ、犯罪で生計をとりながら、今更なにが面子だと言いたくなるが、それでも現実として、犯罪組織とは面子を重視する生き物なのだ。
面子は組織に対する顧客や同じ裏社会の同業者からの信用に、そして自らの組織内部からの信用にも直結する。面子を重視しない組織は長く持たないのが世の常。
さらには、犯罪組織は序列という面子も重視する生き物だ。
シイコさんにあそこまで、自らのルーツに関する事柄を突っつかれ、戦わない事による戦略的な問題点も指摘され、その上、赤い彗星と戦うとまで言われ、終いには、この界隈で最も影響力のある組織の一つの長であるハニ・アサナ将軍まで賛成についた。これは非常に強い重圧だ。
この状況で反対できる者など、シイコさんの主張に真っ向から対立できるだけの論拠を備えた上で、ハニ・アサナ将軍と同等の影響力を持つ人物でなければ不可能だろう。だが、そんな両面を備える人物はあいにく、この場には存在しなかった。故に反対派は沈黙を余儀なくされたのだ。
いずれにせよ、一部に反対派が居たとはいえ、シイコさんの主張を聞いて積極的な賛成にまわった者は非常に多かった。そして、評議会の採決は既に成された。
評議会の決定は、それ即ち、この界隈のルールその物。反対意見であろうが、逆らう事は許されない。大きな組織であれば、評議会の決定を無視する事もできるかもしれないが、並大抵の組織では不可能だ。
逆らった事に対する報復の様な事にはならずとも、もはやこの界隈で大手を振って活動をしていく事は不可能となるだろう。それほどまでに評議会の決定は重い。
つまり、このろくでもない犯罪シンジケート共はジオンと一致団結して戦う事が確定したのだ。
そんな、評議会の様子を俺は、流石ネームドキャラ。影響力が段違いだと思いつつ、シイコさんは戦う機会を得られて喜んでいるかもしれないが、俺は脳裏にあのケツ顎が不敵な笑みを浮かべている姿を想像して⸻自分の手が震えている事に気づいたのだった。
最終採決の後、評議会はその他の細かな決め事を議論し、具体的なジオンと如何な作戦で戦うのかに関しては後日に持ち越される事になった。
評議会は大体2、3時間程度で終わった。終了後、シイコさんは、演説に心を動かされたゴロツキ共に囲まれ称賛されるなどした他、ハニ・アサナ将軍に呼ばれた為、俺とブライトさんも付添いで少々の立ち話をした。
流石は連邦軍1位のエースパイロットであるシイコさん。ハニ・アサナ将軍とは1年戦争を通じて、それなりに顔見知りである様だった。
しばらく、シイコさんとハニ・アサナ将軍が他愛のない最近どうだとか、そういう話をした。
一方のブライトさんにはハニ・アサナ将軍は一切の関心を示さなかったが(正史ほど活躍してないんじゃそりゃあねぇ顔も覚えられませんわな……)。
だが、意外だったのはハニ・アサナ将軍が俺にまで話かけてきた事だろう。
まぁ、顔見知りのシイコさんが居たのだから、ヘルメットで素顔を隠したまま、かつ、シイコさんと同じ格好をした俺に特に深い意味もなく興味を抱いたのかもしれないが。
この界隈で最大級の有力者からの言葉であった為に逆らう訳にもいかず、俺はヘルメットを外した。
まぁ、とっかかりはそんな感じだったが、俺がヘルメットを脱ぎ素顔を晒すと様子が少々一変した。
ハニ・アサナ将軍は俺の顔を見ると、何処かで会ったかと聞いてきた。
それで俺が、"お久しぶりです。1年戦争の時に1度だけジャブローにてお会いしました。その度はどうも" と答え1年戦争における自身の所属を証した。
そこでようやく、ハニ・アサナ将軍は俺とブライトさんに気づいたのだろう。俺とブライトさんを交互に見ると、ハニ・アサナ将軍はまるで狐につままれた様な表情で俺に、困惑した様子で、"驚きました……今は何を?" と聞いてきて、俺はパイロットをしていると言うと、怪訝そうな様子で "こんな事を言えた立場ではありませんが……あなたはもう充分に働いたと思いますよ?"と言ってきた。
それに対して俺はハニ・アサナ将軍が言わんとしている意味を測りかね、曖昧な返事を返す事しか出来なかったが、いずれにせよ、意外な事にハニ・アサナ将軍は俺の事を覚えている様だっだ。
そうして、何とも言えない微妙な空気になり、俺との会話は早々に切り上げてブライトさんと、社交辞令な会話をして、その場は解散となったのだった。
去り際、ハニ・アサナ将軍は俺の方をチラりと見て去って行ったのだが、その表情はまるで幽霊を見るかの様な何処か青ざめた表情に感じられたのだった。
そして、翌日から対ジオンの為の行動が本格化した。
各々の組織は自らが持てる、あらゆる手段を駆使して難破船入り江の宙域にありとあらゆる物資の集積が開始された。
これから、ジオンによる討伐が始まる日までの間に出来る限り大量の物資を集め、戦いに備える事になる。
それはホワイトベースも同じ。
ブライトさんと警護チームは打ち合わせの為に難破船入り江に残ったが、ホワイトベースはその積載能力を活かして数日間に渡ってサイド7と難破船入り江の間を往復し、依頼のあった様々な組織の物資を運搬した。
もっとも、俺達パイロットは何かあった時に備えて臨戦体制で待機状態だったとはいえ、戦闘は一度も発生せず、何もしていないに等しかったが。
なお、この往復に際して奇妙な事はあった。
いつもならば、2、3回往復していれば、1回はジオンやサイド6の当局の哨戒艦の活動に出くわし、さらなる遠回りや、ミノフスキー粒子の散布、全動力停止によるやり過ごし等をするのが普通なのだが、今回は一度も出くわさなかったのだ。
不在のブライトさんに変わってホワイトベースの指揮を任されたサラに聞けば、どうやら他の船も何処も似た様な状況だという。
俺にはそれが、嵐の前の静けさに感じられた。
そうして、日は瞬く間に過ぎて行き、情報提供のあったジオン議会でのサイド1に巣食う犯罪シンジケート討伐の決議が行われる1週間前の日となった。
ホワイトベースは既に往復作業を終え、難破船入り江の宙域にて、戦いの準備作業を進めている。
ホワイトベースの格納庫は近年稀に見る多忙さを極めていた。作業員が行き交い様々な物資の配置や整備を急ピッチで進めている。
そんなホワイトベースの格納庫の一角、MS隊*13専用の区画ではFAガンダムとジムを眺める、その足下にて、俺とシイコさん、そして指揮官代理のサラは集まって打ち合わせをしていたのだった。
なお、ちなみにブライトさんは相変わらず連日、難破船入り江で各勢力の長と作戦会議に没頭している為、不在。最後に顔を合わせたのは評議会があった日だ。今頃、何を話しているのだろうか。まぁ、今考えても仕方のない事だが。
「⸻と、以上が現在までに搬入した機材の詳細になります。不足している機材はありませんかライスさん?」
「はい。今の所は」
「シイコさんは……まだ新しい機体が到着していないので、それからですね」
「そうね。実物を確かめてみない事には」
「予定ではそろそろ到着する筈ですが……」
「まぁ、気ままに待つしか無いんでは?」
「それもそうね。それにしても……まさか、連邦が新型機をまわしてくれるなんて」
「赤い彗星を倒す絶好のチャンスですからね。その為の投資なら連邦も惜しまないでしょう。特にスーパーユニカムのスガイさんなら尚更です」
連邦は赤い彗星が出てくると聞いてかなり本気になっている様だった。
僅か数日前の段階ではシイコさんはいつも通りジムで出撃する予定だったのだが、ジャブローから新型の機体が納入されるという話が挙がり急遽、変更されたのだ。
そして、その連絡を受けてから僅か数日でホワイトベースに届けられる事が決まったというのが事のあらましだ。
連邦はジオンを支配する双璧の一柱である赤い彗星を何としても、このチャンスを活かして始末したいらしい。
だが、連邦には現在、まともな宇宙戦力は存在しない。
しかも、今回の戦いは犯罪シンジケート討伐という誰がどう見ても、ジオン側に大義がある戦いだ。仮に正規軍部隊が存在したとしても、犯罪シンジケートの味方を表立ってする事は難しい。
だから、俺達の様な秘密部隊がこの任務にあてがわれたのだ。もっとも、今の連邦には宇宙で動かせる戦力は俺達の様な部隊しか残っていないのが、悲しい実状な訳だが。
俺は知らないが、恐らくは俺達以外にも民間組織や、もしくは犯罪組織に偽装した連邦軍情報局に属している秘密部隊が存在し、それらも今回の戦いに参加している筈だ。だが、それは俺達を含めて全てをかき集めても、たかが知れる規模だ。それが、今の連邦のお寒い実状だ。
「例の盾は数を揃えられそうですか?」
「ええ、なんとか。既に部隊にある物に加えて、新たに急遽、作製を依頼してなんとか、ジオンとの戦いの前日までにはギリギリ数が揃いそうです」
「それは良かったです。ジオンの正規軍相手に戦うんじゃ、あの盾は必需ですよ」
「ただ、万が一という事もあります。もしも、戦いまでに間に合わなかった場合にはスガイさんの機体の方に優先的にまわします」
「……まぁ、仕方ないですね。それが最善だと思います」
「えっと……私は良いけど、本当に良いの?ライス君」
「正直言うと、めちゃくちゃ不安ですけど、これが最善だと思います。何せ、今回の作戦の要はシイコさんですし。たぶん、俺よりもシイコさんの方が必要ですよ。相手を考えれば」
「……それもそうね。その時は有効に使わせてもらいます」
「例の盾はゲルググ対策には有用な装備ですからね」
「でも、あの盾は粒子兵器に対しては効果はあると思うけど、実弾兵器に対しては、どれくらい有用なの?その辺りはまだ、正直、図りかねるわ」
「表面は従来のルナチタニウム装甲なんで、通常の盾と同じだけの防御力はありますよ」
「なら、一応は平気そうね。ただ、懸念点があるとすれば……」
「 "再設計型" ……ですか」
「ジオンはゲルググ等の従来機に加えて再設計型を投入してくる可能性が非常に高いと思われます」
「ええ、その通りです。
再設計型……私はまだ直に戦った事は無いけど、ライス君やサラさんはどうです?」
「俺は一度も。というか、ホワイトベースのメンバーで、再設計型を相手に戦ったメンバーは誰もいませんよ」
「ライスさんの言うとおりです。再設計型は基本的に正規軍装備ですから、交戦する事態そのものが稀です」
「普通そうよね……」
「シイコさんは再設計型について何処までご存知で?」
「確か、サイド6のワンナヴァルが開発した物よね?ニュースを聞いた時は戦争に勝ったにも関わらず、哀れな物だわと思ったものよ」
「概ね間違いありません。
再設計型は3年程前にジオンの第二次統合整備計画で産まれた考え方です。戦後、ジオンは戦時国債や宇宙の管理という莫大なコストによって財政が強く圧迫されました。これは今も解決していませんが、この問題を緩和する処置として導入されたのが再設計型です。
サイド6の新興の巨大造船企業連合ワンナヴァルは、ジオンの第二次統合整備計画に対して工業的合理主義への全面的な回帰を提案しました。従来、航空機から宇宙船、MSまで多くの物は外見のデザイン性が一定程度、重視されている側面がありましたが、ワンナヴァルはこれを大幅に削減し、あくまで工業的に生産のしやすい形状へと変更する事で無駄なコストを抑えるという考え方を示しました。
ジオンはワンナヴァルの提案を了承して以降、宇宙艦艇からMSまでワンナヴァルと共同で従来品をこの工業概念の下で文字通り "再設計" して生産し、続々と置き換えを進めています」
「サラさんの説明をさらに補足すると、今回の作戦でほぼ確実に投入されそうなのは、ムサイ再設計型、ザク再設計型辺りですかね?
カタログスペックは従来のムサイやザクと殆ど変わらないですけど、情報によれば危機感知機能が従来型よりも強化されています。ザク再設計型に関して言えば、それに加えて、総合的な推進力は従来型と殆ど変わらないですけど、スラスター配置を下腹部に集中した結果、従来型よりも若干加速性に優れていると言われてます。そして、何より、一番厄介なのは……」
「新型のザクマシンガンね?」
「そうです。第二統合整備計画でジオンはザクマシンガンを更新してますけど、情報が正しければこの新型ザクマシンガンは発射レートが改善されて連射速度が上がってます。
そして何より最大の脅威は……ジオンが採用したルナチタニウム弾頭ですね……正直、盾が何処までもつのか完全に未知数です」
「旧式のザクマシンガンですら充分脅威なのに、厄介ね……」
「とはいえ、ジオンが主力MSであるザク再設計型をビーム兵器でなく、実弾兵装を主軸にしたのは、製造や維持のコストがかかるビーム兵器をあえて避けた側面が強いと言われてます。
実弾火器は製造コストも維持コストも安いですし、運用面でも平時であれば、安価な通常榴弾や通常徹甲弾、何なら演習程度であれば空砲でも、お茶を濁す事ができますから。それを考えると、非常に高価なルナチタニウム弾を必ずしも全面的には投入はしてこないのでは?」
「それはちょっと楽観視しすぎでは?今回の作戦がジオンにとって宇宙から連邦とジオンの緩衝地帯を排除する事を目的としてるんなら、出し惜しみ無く戦力を投入してくる前提で考えた方が良いと思いますよ?」
「私もライス君の意見に賛成ね。備えあれば憂いなしだもの」
「確かに……それもそうですね。では、その方向で進めましょう」
そんなこんなで、3者の打ち合わせは進んでいく。だが、その打ち合わせは唐突に中断された。
格納庫内にガンダム世界特有のアラート音が鳴り響く。
『サラ副社長。民間運搬船が着艦を求めています』
「何隻ですか?」
『1隻です』
「どうやら遅れていた荷物が到着した様ですね。着艦を許可します。予定の格納庫に誘導して下さい」
格納庫内に響いたアナウンスに対してサラは元々、耳に付けていたハンドフリーの通信端末を使ってアナウンスに対して返答し指示を出す。
連邦がシイコさんを支援する為に運ばせていた新型MSが到着したのだ。
「スガイさん。荷物が到着しました。下の格納庫ですので着艦作業が終わり次第、向かいましょう」
「分かりました」
「ライスさんはどうします?」
「俺も行きますよ。気になるんで」
「果たして、どんな機体が来るのかしらね。鬼が出るか蛇が出るか」
「新型というと、ガンボーイか重キャノンの系列でしょうかね?」
「その場合は、いつものジムで行くわ。ガンボーイは火力不足だし、重キャノンは赤い彗星を相手にするには鈍重すぎるもの。改善されているなら兎も角ね。
もっとも、一番重要なのは悪い意味で使い慣れた戦闘コンピューターが搭載されているか否かね。無くても操縦はできるけど、慣れた物が一番だもの」
「戦闘コンピューターなんてゴミ屑も同然なのに、それに慣れると普通の操縦に戻るのに苦労するのは皮肉というべきか、何というべきかですね。まったく……」
「はぁ……本当に悩ましい限りよ。まぁ、お互い戦闘コンピューターに縛られた者同士、頑張りましょう」
「シイコさんがそう言うなら」
そうシイコさんと戦闘コンピューターに対する愚痴を言いながら、俺とシイコさんは、しばらく、着艦作業が終わるまで待機し、そして作業⸻具体的には格納庫内の空気を抜き、格納庫の隔壁を開放し艦内に運搬船を迎え入れて、隔壁を閉めて再び空気を注入する作業⸻が終わるのを待った。
なお、これが正史のホワイトベースならば、格納庫は2つしか無い為、俺やシイコさんやサラは宇宙服を着るか、もしくは空気が注入されるまで、安全区画に退避しなければならない所だが、この世界のホワイトベースは正史よりもクッソデカく格納庫も段々構造になっている関係上、ようは格納庫区画が複数ある為に、隔壁もその分、多く存在している事から、一々、発着艦の度に格納庫内に居る全員を退避させたり宇宙服を着せる必要は無い。
やがて、着艦時特有の振動を感じ、そして、そのすぐ後に一連の着艦が終わったとの知らせを受けとると、行きましょうと言って歩き出したサラを先頭に俺とシイコさんは、運搬船が着艦した格納庫の区画へと向かったのだった。
運搬船が着艦した格納庫の区画に到着すると、そこには確かに民間のありふれた運搬船が止まっていた。冴えない極一般的なジャンク業者が使っていそうな、いかにもな中古運搬船。
だが、その実態は民間船に偽装した連邦軍情報局が手配した秘密運搬船だ。ようは工作船の類である。そんな運搬船の周りでは降りてきた複数名の乗員の姿があった。
「あれは……」
その人だかりへと向かう。どんどん距離が近づき互いの顔が判別できる様になる訳だが、そんな時、予想外な反応をシイコさんが示したのだった。
シイコさんは突然、そう呟くと、小走りでサラよりも一足先に人だかりの方へと向かったのだ。
「まぁ、やっぱり!モスク・ハン博士!」
「ん?おお、シイコ君じゃないか!もう数年ぶりになるかね?」
「お久しぶりです。まさか、博士が来られるとは思ってもいませんでした」
「私もまさか君がここに居るとは予想打にもしていなかったよ。でも、そうか。私の技術が必要になるなんて一体誰なんだとは思っていたが、君なら納得だよ」
「何も知らされずにここに?」
「詳しくはな。なんでも、機密漏洩を避ける為だそうだ」
「お互い大変ですね」
「君達パイロット程ではないよ。それにしても、君が軍を辞めたと聞いた時は君の様な優秀なパイロットまで軍を辞める様な事になるとは連邦ももう終わりだと思ったが……そうか。ここに配属になっていたという訳か。元気そうで何よりだ」
「詳しい事は話せませんが、まぁ、色々ありまして。モスク・ハン博士も相変わらず、お元気そうでなによりです」
シイコさんと白髪の混じった男は固く握手を結ぶ。
どうやら二人は顔なじみの様だ。サラさんはシイコさんの急な行動に少々驚いている様だったが*14、一方の俺はその様子を冷静に見ていた。
「モスク・ハン……そうか、あれがモスク・ハン博士。マグネットコーティングおじさんか」
俺はそう小声で呟き自身の記憶を探る。
モスク・ハン博士。電磁工学の新鋭の技術者。初出は機動戦士ガンダムのファーストで、作中ではアムロの操縦に付いて行けなくなったガンダムを改良すべく登場し、ガンダムの駆動系にマグネットコーティングという摩擦キャンセル技術を施し、終盤のアムロの活躍を支えた重要人物。
俺は本物のモスク・ハンが目の前に居るという驚きを抑えつつ*15、頭を引き続き働かせる。
博士自体は他の作品にも登場するが、中でもジークアクスでは、連邦のMSの配備が遅れたり、そもそもアムロが活躍していなかったりの影響で、1年戦争中にマグネットコーティングが実用化されず、それどころか、連邦が敗戦した影響で、戦後は連邦軍からリストラされたのか、あるいは自主退役したのかで、サイド6の軍事警備会社に転職して、そこでマグネットコーティングの研究を継続していた。
シイコさんと、博士は劇中にて直接縁がある中だった。
もちろん、二人の縁があったのはジークアクスにおいてだ。シイコさんは赤いガンダムと戦う為にクランバトルの対戦相手であった軍事警備会社から試合に出場。その出場の前に、二人はシミュレーターの前で軽い邂逅をしている。
モスク・ハン博士はマグネットコーティングを施した機体性能を説明する為に、シイコさんは実際に使い物になるかを見定める為といった具合にだ。
だが、この時の二人会話の雰囲気はお世辞にも良い物ではなかった。
シイコさんは性能の向上を認めながらも、でも所詮は量産型でしょ?とどこか懐疑的な雰囲気を隠さなかったのに対して、それを言われた博士は冗談じゃない!あんたの為に用意した機体にはジオンも持っていない新技術を実装したんだ!他のポンコツとは訳が違うんだよ!おわかりか?とかなり反発していた。
もっとも、完全に険悪かと言われたら、そこまでではなく、あくまで業務的な意見対立の域を出ない範囲の雰囲気ではあったが。
ともかくとして、シイコさんと博士の関係は、ジークアクスにおいては、そこまで深い関係ではなかった。少なくとも友人の様な関係では決してない。
だが、目の前で繰り広げられている光景はジークアクスでのものよりも、明らかに気心の知れた友好的なムード一色だ。
何故、ジークアクスでの関係性と、目の前で繰り広げられている関係性が見るからに違うのだろうか。それを夢想する。
"MSの関節の摩擦を無くす新技術よ。内戦中に私の機体に導入されたけれど、でもまぁ聞かなくても当然ね。今の連邦軍のMS技術は摩擦の関節がどうのと言ってる以前の問題ばかりだもの"
そうだ。確かシイコさんは内戦、つまりは1年戦争後に起こった戦乱の最中にマグネットコーティングを自身の機体に実装したと以前に言っていた。
なるほど。恐らくは内戦中にそれなりに交流の機会があり、現在の親密な雰囲気に繋がっているんだろうと、俺はそう結論を出す。
「えっと、スガイさん。彼とお知り合いで?」
「ええ、紹介します。彼はモスク・ハン博士。電磁工学のスペシャリストで、内戦中に私のジムの改良に非常に大きな貢献をしてくれました。
モスク・ハン博士、こちらはアブ・ル・ハウルPMCの副社長、サラ・ホリンさんです」
「ご紹介に預かる。モスク・ハンだ。お届けに上がったMSの整備チームのリーダーを任されている。アブ・ル・ハウルPMCの副社長という事は宇宙開発部隊の副指揮官ですな?」
「ご挨拶が遅れました。アブ・ル・ハウルPMCの副社長を務めています、連邦軍情報局所属、宇宙開発部隊の副指揮官サラ・ホリンです。指揮官は現在、所用で艦を離れている為、私が対応させて頂きます。遠路はるばる、ようこそ来てくださいました。ようこそ、ホワイトベースへ。歓迎します博士」
「こちらこそ」
そう言うとサラとモスク・ハン博士は互いに軽く握手をした。
「ところで、シイコ君がここに居るという事は私達が持ってきたMSは彼女の物という認識で正しいかな?」
「はい。その認識で問題ありません」
「ふむ。どうやら、私がこのチームリーダーを任されたのは私が彼女の事をよく知っているからなようですね。よし。それでは善は急げだ。早速、機体を運搬船から降ろす。荷を確認してくれ」
「分かりました」
軽く挨拶を済ませると博士に連れられ、サラ、シイコさん、俺の3人は運搬船の後部ハッチの前までやって来た。そして、博士がハッチを開けろ!と掛け声を出すと運搬船の後部ハッチがゆっくりと開かれる。
俺達、3人は果たしてどんな機体が出てくるんだと内心気になりながらも、表には出さず、開かれるハッチの向こう側に注目する。
他の2人が何を考えてハッチの向こうを見ているかは分からないが、俺はというと、内心ではモスク・ハンが登場したという事は……まさかゲルググ!?いや、でも新型って言ってたし、そうだとするとゲルググではないか?ま、まさか、ジムの新型として名前がジムのゲルググ(GQ)が出てくる逆尊厳破壊の可能性も……?などと考えていた。
だが、完全にハッチが開かれた時、その俺の考えはただの杞憂だった事が分かる。
開けられたハッチから露わになった機体。それは確かに俺の知る機体に良く似てはいたが、先ほどまでの考えの物とは全く違う物だったのだ。
そこにあった物。見覚えのあるバイザーヘッド、バカデカいバックパック、そのバックパックから伸びる2本のロボットアームとそれに備え付けられた2枚の盾。それは、まさしくサンダーボルトに登場していた、あのジムが佇んで居たのだった。
ただし、よく見ると細部が異なる感じがした。特にバックパックの上部にぱっと見、FAガンダムの大型メガ粒子砲っぽい物が2基マウントされているのが見える。サンダーボルトのこのタイプのジムには大型メガ粒子砲は搭載されていなかったと記憶しているのだが、俺の記憶ミスだろうか?あるいは……。
「これは……ジム?」
シイコさんが一番に反応を示す。
「ジムをベースに開発されたFAジムだ。VOBの簡易試作版のバックパックを搭載している。簡易試作版と言っても、出力はVOBに引けを取らないから安心してほしい。もっともVOBと違ってブースターでAMBACは出来ず、あくまで加速と姿勢制御補助用の物だがね」
「操縦系は何です?」
「そちらも安心してくれ、操縦系には今時、珍しい戦闘コンピューターが搭載されている。最初にこの機体を見た時は一体、何処の命知らずが戦闘コンピューターなんて使うんだと思っていたが、君が使うと聞いて納得だ。君程、戦闘コンピューターを使いこなせる人間は他には居ない。
今も昔と君が変わらないのであれば、君の懸念点は戦闘コンピューターが搭載されているか、無いかが最も大きいだろう?君は戦闘コンピューターに慣れ過ぎた」
「ふふ、流石モスク・ハン博士。相変わらず全てお見通しですね。ええ、その通りです」
「内戦中に君のワガママを私が一体、どれだけ聞かされたと思っているのかね?」
「武装はなんですか?」
「試作のダブルビームライフルを両手にそれぞれ2丁装備できる。その他にはバックパック側面にビームサーベル2本が格納。また、バックパック兵装として、この機体の最大の特徴が、バックパックにマウントされた2基のビーム砲だ」
「あれは……大型メガ粒子砲ですか?それにしてはちょっと形状が違う様な……」
「あれは有線制御式ビーム砲だ」
「有線制御……?」
「ようは有線制御式のビットだよ。ジオンも使っているだろう?」
「という事は……まさか……サイコミュ兵器……ですか?」
「安心してほしい。技術部から受けた説明によるとあれは、サイコミュ兵器では無いらしい」
「ふぅ……それは良かったです。サイコミュ兵器なんて絶対に触りたくもありませんから」
「君のニュータイプ嫌いも相変わらずだな」
「ニュータイプなんて方便です。ジオンのプロパガンダですよ」
「私は今でも君にはニュータイプの素養があると思っているがね」
「…………話を戻しますけどサイコミュを搭載していないのなら、この有線ビーム砲はどうやって制御するんです?まさか、ラジコン操作の様に自分で飛ばすとかじゃないですよね?」
「戦闘コンピューターだそうだよ」
「戦闘コンピューターで……?そんな事が可能なんですか?」
「私も詳しい事は知らないが、なんでもこの機体に搭載されている戦闘コンピューターは新型の物なんだそうだ」
「新型……」
「操作性はあとで確かめてみるといい」
「そうします。それともう一点気になったのは、そのダブルビームライフル?とか言うのなんですが……見た目からして明らかに大出力のビーム砲ですよね?こんな物を2つも搭載して、まともに戦えるんですか?」
「普通ならば反動制御がダメで無理だろう。普通ならばな」
「というと何か……?」
「そうだ。察しの通り対策が施してある。このジムの腕は "ゲルググ" の腕だ」
「ブッ⸻あっ失礼。ちょっとクシャミが出てしまって……どうぞ。続けて下さい……」
唐突に、あまりにも唐突にゲルググの単語が出てきたせいで吹き出してしまった。会話が中断され、その場の注目が一気に俺に集まってしまった為に誤魔化す。
その一方で、どんなけシイコさんとゲルググの間には縁があるんだよ!?と内心ではそう思う。
「ああ、なるほど……ガンダムタンク Mk-Ⅱと同じ方式ね。良く手に入りましたね、ゲルググの腕なんて」
「なんでも、ジオンからの横流し品を流用したそうだよ?」
「如何にも今の財政難のジオンらしいと言えばらしいのかしらね」
「ジオンに同情かね?」
「馬鹿を言わないでください。この有様はジオンの自業自得ですよ。消化できない物を丸呑みにした結果ですよ」
「それは失礼」
「でも……確かにゲルググの腕なら、ビーム兵器はまともに扱えるわね……だけど、そうだとするとマグネットコーティングとの相性が悪いのでは?ゲルググは流体パルスシステムですよね?流体パルスシステムにはマグネットコーティングはできないんじゃなかった?」
「だから私がここに来たんだ。この機体は、ようは連邦の駆動系システムであるフィールドモーターシステムとジオンの流体パルスシステムのハイブリットだ。私の役目は機体の各部を調整して、問題なく動作させる事なんだよ。これを随時に使う事を前提にするならば、流石に私でも匙を投げた所だが、なぁに、1回程度の戦闘には耐えられる様にする位なら可能さ」
「ふふ、期待してます。博士なら信用できます。
ところで、ジムは全て先の連邦議会で全て退役させる事が決定してから、重キャノンを除けばもう開発はされていないと聞いていたんですが、まだこんな機体を作ってるんですね。少し意外でした」
「 "オーガスタ研究所" とかいう言う研究所が作った試作機の内の一つだそうだ。私も詳しくは知らされていないが、実物を初めて見た時は同じ感想を抱いたよ」
「博士も知らされていないんですか?」
「ああ。私は今回の作戦の為に機体の調整役として呼ばれただけでね。駆動系のハード面の事は分かるがソフト面の事はからっきしだよ」
「そうですか……」
そう言うとシイコさんは、チラッとこのMSの整備チームの面々の方を見た。
「赤い作業着と濃い青の作業着を着てる人達が居ますが、何か違いが?」
「ん?ああ、赤の作業着を着てるのは殆どはウチの研究所から連れてきたスタッフだ。で、青の作業着を着ているのはオーガスタ研究所のスタッフだな。ウチのスタッフは基本的に機体のハード面の調整を担当するが、オーガスタ研究所の方の連中は主にソフトウェア周りの調整を担当する」
「それじゃあ、挨拶した方が良いですか?」
「いや、ウチのスタッフはともかく、オーガスタ研究所のスタッフはやめた方が良い。機密機密ばかりでMSの調整に必要な最低限の会話以外、全く会話にならないからな。いけ好かない連中だよ」
「そうですか……分かりました。まぁ、彼らにも事情があるんでしょう。仕方ないですよ」
そう言うシイコさんの、濃い青の作業着を着ている者達に向ける目は何処か警戒感が表れていたのだった。
………………。
いや、これどう考えても、FAジムに搭載されているのは新型の戦闘コンピューターじゃなくて、実はサイコミュでした!ってオチなのでは?
てか!見間違えるわけねぇよ!濃い青の作業着を着てるスタッフの中にZガンダムに出てきたローレン・ナカモト居るじゃねぇか!?あれ、俺の見間違いじゃないよね!?いや、今の俺、頭おかしくなってるから、見間違えている可能性もゼロではないんだけど……。
などとは口が裂けても言えない俺なのであった。
●第二統合整備計画
1年戦争終結後、戦争に勝利したジオンは連邦に代わって宇宙利権を独占したが、ジオンの国力では広大な宇宙の管理は難しかった。それに加えて地球にも事実上のジオン領が存在していた事も追い打ちとなり、ジオンの財政状況は完全にオーバーフローした。この状況を何とかする為に1年戦争中に最初の統合整備計画を発案したマク・ベ中将により当初の統合整備計画の内容を大幅に修正した計画が発案された。それが第二次統合整備計画と呼ばれる計画。
お財布事情が厳しいジオンが少しでもお財布にゆとりを持たせる為に、マク・ベ中将が胃を痛めながら必死こいて産み出した涙ぐましい計画。
●再設計型
第二次統合整備計画においてワンナヴァルの提案を採用する形で採用された概念の下、新たに製造された装備類。ジオンはこの概念に当てはめて、既存装備を "再設計" して再設計型に更新を進めていった。このおかげで、初期投資は既存装備を再設計型に置き換えなければならない為に高くついたものの、長期的には安く収める事に成功した模様。現在までにムサイ再設計型、チベ再設計型、グワジン再設計型、ザク再設計型、リックドム再設計型、ズゴック再設計型、ゴック再設計型、ギャン再設計型がジオン軍において採用されており、これによって、再設計型に置き換えられた1年戦争時の装備は軒並み退役。解体されるか、ジャンク市場や地球の反連邦勢力に流れた。ただし、グワジンやリックドムは厳重に管理された上で解体された為、他勢力には流れた心配は無い模様。
なお、再設計型はサイド6の当局である軍警察においても採用されており、サイド6はザク再設計型軍警察仕様を配備。この他、マゼラン再設計型、サラミス再設計型も配備しており、ジオンによる制限下ではあるものの、軍備を増強している。噂では連邦にもこの再設計の概念は一部で影響を与えているとかいないとか……。
お察しの方はもう居るかもしれないが、再設計型の正体はジークアクス版の艦船やMSである*16。
●巨大造船企業連合ワンナヴァル
サイド6の巨大造船企業連合。現サイド6大統領のペルガミノが前首席議長を務めていた事でも有名。1年戦争後に複数の企業が急速に連合を組んで生まれた。1年戦争において富を築いたペルガミノ造船が組織の設立に大きな役割を果たしていた模様。ジオニック、アナハイム・エレクトロニクスと並ぶ巨大企業*17。
主力は造船業であるが、ジオンの第二次統合整備計画をきっかけにMS事業にも参入した。ただし、ワンナヴァルにはMSの生産ノウハウが無かった事と、ジオンがサイド6の武装化する事に懸念を持っていた事も影響して、MSの生産事業はワンナヴァルに加えて、ジオニック、ツィマット、MIPも加えた4社による共同事業によって行われている。
●新型ザクマシンガン
第二統合整備計画で新規採用されたザクマシンガン。なお、どこからどう見てもジークアクス版のザクマシンガンな模様。1年戦争時のザクマシンガンに比べて連射速度が向上している。さらにこの世界のジオンは1年戦争で連邦のバルカン無双に脳を焼かれており、ルナ・チタニウム弾頭に目覚めた結果、この新型ザクマシンガンの弾頭に採用してしまった為、化け物級の貫通性能を有している。通常の榴弾や徹甲弾も使用可能。
ジオンは戦後、ビーム兵器を全てのMSに共通する装備としては採用しなかった。その理由は財政状況が厳しいからな模様。ビームライフルなどは製造と維持にコストが掛る為、製造も維持も安価に済む実弾装備が採用された。普通に考えるならば、威力面でも重量面でもビームライフル一択に思えるが、この世界では連邦がルナ・チタニウム弾頭なんていう、トンチキな物を生み出してしまったせいで、必ずしもビーム兵器でなくとも、敵に対して強力な威力の攻撃をお見舞いできる事から、威力面はそんなに気にされなかった。さらにルナ・チタニウムの産地であるルナツーをジオンが占有している点や、ザクマシンガンのドラムマガジンの装弾数が100発もある点も、決定に際して非常に大きく働いた*18。
ただし、ルナ・チタニウム弾頭は極めて高価な弾薬である為、ルナ・チタニウム弾頭による1度の戦闘におけるコストはビーム兵器の方が遥かに安価。この為、ジオン軍は平時には通常弾頭を主に使用している*19。
●FAジム
外見はサンダーボルトに登場した大きいバックパックと2枚の盾を装備したジム。ただし、バックパックにやや厚みがある他、有線制御式ビーム砲を2基マウントしており、また、サンダーボルト版ジムの、あの特徴的なバックパックの背面にスラスターの邪魔にならない様にリールラックが露出した形でくっ付いているという違いはある。
主人公はこれ絶対、サイコミュ兵器だろと疑っているが大正解。連邦軍情報局はシイコさんに黙ってサイコミュ兵器を使わせて赤い彗星を葬る算段な模様。なお、有線制御式ビーム砲以外の操作系は疑われない様に戦闘コンピューターにする徹底ぶり。でも、シイコさんも内心、胡散臭さを感じている。
本人が知らぬ事とはいえ、ニュータイプ嫌いの人間をニュータイプパイロットとして採用する尊厳破壊機*20。
●例の盾
宇宙兵器開発部隊が開発したMS用の今のところ謎の盾。
●ハニ・アサナ将軍
宇宙の治安を乱した元凶。連邦版デラーズフリートを率いたが連邦の内乱でこの組織は崩壊し統制を失った。その後、連邦に有様に絶望したり、活動資金面で困窮したりなどして、急速に連邦軍の残党組織は犯罪組織へとジョブチェンジしていったが、その中でも、ハニ・アサナ将軍はかつて程の影響力は失ったとはいえ、それでも最大規模の一角を成す規模の宇宙海賊を率いており、その影響力は侮れない。なお、今の連邦に絶望した結果、魔王の様な風貌になり果ててしまった模様。
●モスク・ハン博士
マグネットコーティングおじさん。この世界でも連邦は戦争に負けたが、ジークアクスの世界とは違い、1年戦争後に連邦が盛大に内戦を起こしてくれたお陰と、シイコさんという化け物パイロットが合わさった相乗効果でマグネットコーティングを施す機会があり、連邦軍を辞める必要が無かった。
ただし、マグネットコーティングを実用化したは良いものの、連邦のMS技術がクソ過ぎてマグネットコーティングどころでは無い為、極一部の機体にしか普及していないのが実情。
FAジムがサイコミュ兵器である事は本当に知らない模様。
シイコさんとモスク・ハン博士の会話が長くなりそうだったので、俺とサラはその場を離れる事になった。
なお、去り際に一応、FAジムが余りにも、きな臭すぎる為に、一人で行動しない事と、渡された飲み物や食べ物、薬は絶対に口にしない事、整備チームには注意する様に伝えておいた。
オーガスタ研究所が関わってる時点で怪しすぎる。
オーガスタ研究所と言えば、思い出す限りにおいても正史ではムラサメ研究所と並んで倫理観が終わっており、非人道的なニュータイプ研究に明け暮れ、人体実験や強化人間をやりまくってる組織だ。この世界でも同じとは、証拠も無い為、言い切れないが警戒して損は無い。
それに、Zガンダムに出ていたオーガスタ研究所のローレン・ナカモトそっくりのヤツまで整備スタッフの中に居るのだ。直接、話して確かめた訳では無いから、本人かどうかの確証は得られていないが、そんなヤツが混じっている時点で警戒するなという方が無理があるだろう*21。
シイコさんを人体実験の道具にさせる訳にはいかない。
とはいえ、シイコさんは俺に言われなくてもFAジムが怪しいと分かっていたようだ。
俺の忠告に対してシイコさんは二つ返事で "分かったわ" と即答した。
もっとも、俺の様に原作知識がある訳ではないから、シイコさんの抱いている警戒心は直感によるものだろうが。
シイコさん自身が警戒しているのなら、恐らくは大事には至らないだろう。
しかも、ここはホワイトベースの艦内。下手な事も周囲の目があってしにくい筈だ。
それに加えるなら、正直、怪しいには怪しいがシイコさんの身に深刻な影響が生じる様な物に乗せたり、生じさせる様な行為はしないんじゃないかと内心、俺は思っている。
というのも、そんな危険な物を使ったら赤い彗星を倒すという計画において、深刻なノイズになると思うからだ。
シイコさんは誰もが認める地球連邦最高峰のエースパイロット。素でそんなに強いのに、わざわざその素を破壊するのはバカすぎる。これでは素でやってた方が勝てたという状況にも成りかねない。
そう考えるならば、精々出来る事は、実はFAジムはサイコミュ兵器だけど、サイコミュ兵器じゃありません!新型の戦闘コンピューターです!って言い張って使わせる事くらいではなかろうか。
サイコミュ兵器は純粋に兵器のポテンシャルとしては高い。シャアを倒すという目的を考えるならば、勝率を上げる為にも優秀なエースパイロットに使わせたいと思うのはある意味当然だろう。
その最大の障壁が、その優秀なエースパイロット(シイコさん)が自他共に認める大のニュータイプ嫌いであるという点だ。サイコミュ兵器を使えるという事は自身がニュータイプであると認める事になる。シイコさんは絶対に使わないだろう。
だから、そんなシイコさんにサイコミュ兵器を使わせる為に用意された嘘の塊がFAジムなのでは?と俺は考えた。
"それじゃあ、挨拶した方が良いですか?"
"いや、ウチのスタッフはともかく、オーガスタ研究所のスタッフはやめた方が良い。機密機密ばかりでMSの調整に必要な最低限の会話以外、全く会話にならないからな。いけ好かない連中だよ"
そう言えば……モスク・ハン博士はこんな事を言っていた。
もしかしたら、オーガスタ研究所のスタッフがシイコさんとの接触を最小限にしてるのは、ニュータイプの読心で考えている事を知られて嘘が露呈するリスクを考慮しているのかもしれない。
俺の想像があってるとすると……。
それってなんて尊厳破壊機……とも思うが、とはいえ、ただのサイコミュ兵器にシイコさんを乗せる程度の嘘という話ならば、このまま俺は何も言わずに、シイコさんには騙されてもらってFAジムに乗ってもらう事自体は問題が無いとも……思う。
何故ならば、相手は最強の男、ケツ顎シャアなのだから……。
俺は震える右手を震えを抑える様に左手でギュッと握った。
「ふっ……シイコさんには口が裂けても言えないな。まぁ、最大にアンテナ張ってシイコさんの身に危険がありそうなら止めれば良いか……」
自傷気味の引きつった笑みが漏れ、俺は吐き捨てる様に小さく呟く。
「え?何か言いました?」
「いえ、何も」
サラが首を傾げて聞いてくる。俺は何事も無かったかのように否定した。
どうやら、呟きを聞かれた様だが、内容までは聞かれていなかった様だ。
「そうですか。なら良いですが」
俺とサラはシイコさんと分かれた後、もと居た格納庫の区画へと戻って来ていた。
FAガンダムの足元で二人でFAガンダムを見上げる形でその場に居る。
「スガイさんの機体はあちらに任せるとして、こちらの方はどうしますライスさん?」
「そうですね……今回はB型装備で行こうかなと考えてます」
「B型装備ですか?というと、以前に高機動戦を想定して開発した爆雷装備ですよね?」
「はい」
「でも、あれって今まで実戦で使った事ありませんが、本当にそれで?」
「作ってはみたものの、必然的に活動の多い暗礁宙域じゃ色んな意味で危ない装備ですからね。
ただ、今回の任務を考えると、俺の役目はシイコさんが、赤い彗星と戦う間になるべく、横やりが入らない様にする事で、一般の敵を引き付けなきゃいけないんで、多少のリスクは負っても持てる手は持っておいた方が良いと思うんですよね」
B型装備。
それは俺がこっちで活動をはじめてからその経験を基にFAガンダムの高機動戦能力を強化する目的で設計した脚部装備だ。俺はその仕様上、"サイズミックチャージ装備" と呼んでいる。
構造は至ってシンプルかつ安価なのが特徴だ。ガンダムの脚部の内、膝下を外して単なる四角柱の箱を下脚部として取り付けた装備で、見た目的には足首から下の無い下脚部と言った感じだ。
その四角柱の箱は実際、文字通りの "箱" であり、内部には2基の小型の電磁カタパルトと、そこにガンダムの握り拳2個を横に並べた位の大きさの爆雷が計6発、収められている。
これを両脚に装備する。つまりは計12発の爆雷とその射出機構という事だ。射出口はちょうど、本来なら足首に当たる場所にある。
使い方も至ってシンプル。爆雷を撃ちたい方向に向かって足首(射出口)を向けて爆雷を射出するだけだ。
爆雷にも工夫が施してあり、接近してきた物体に反応する極めて一般的な爆雷のセンサーの他に、爆薬の周りに特殊だが安価で手に入る金属類による合金製の15.5mm直径の鉄球の層を仕込んである。
この合金製の鉄球の層によって爆雷が爆発すると、全方位に向けて、この鉄球が雨の様に降り注ぐという設計だ。
ガンダムの握り拳2個分のサイズの爆雷の為、爆薬の威力だけでも、そこらのMSのバズーカ以上の威力があるが、これにさらに鉄球が加わる事になる。
もちろん、爆発はともかく、15.5mmの鉄球程度では、MSの装甲に傷一つ付かないだろうが(ガンダムは直撃したら蜂の巣になるかもしれんけど……)だが、無数に飛んできて機体を叩き付ける鉄球というのは、その機体に乗っているパイロットに対する強い心理的負荷をかける他、装甲の無い個所へのダメージを期待できる。
この装甲の無い個所へのダメージというのがこの爆雷の最大の狙いで、例えばカメラアイが破壊できれば、相手がNTでもなければそれ以上の戦闘の継続は不能に出来るし、間接部にダメージを与えたならば動きを鈍くし、スラスター系にダメージを与えたならば機動性を低下させ、武装にダメージを与えたならば、その武装を使えなくする事ができる。
一方でこんな武器使ったら、FAガンダムもひとたまりもないないだろ!と普通ならなるが、この鉄球に使用してある合金は沸点の低い金属を混合させた特殊な配合となっており、爆発地点から半径250m~300mで自身の熱によって自壊し無害なレベルにまで分子レベルに分解する為、爆雷を射出してから爆発するまでのタイムラグを考慮に入れればFAガンダムならば余裕で爆発半径内から退避可能だ。
これ産み出した時は流石に自分の発想に俺、天才か!?ってなって、もう脳内アドレナリンがドバドバになった記憶がある。
この装備はFAガンダムを使ってて、1年戦争の頃からのずっと長年の懸案事項だったFAガンダム、後ろから敵に追撃された時に、反撃するのクッソ難しい問題を解決する為に俺がひねり出して考えた物だ。
もちろん、機首を反転して敵の方を向けば、反撃も出来るが、それはつまり、FAガンダムの最大の重要ポイントであるVOBによる加速性を犠牲にする事になる。
一旦、加速し切った後ならば、機首を反転しても慣性の法則により、加速していた進行方向に向かって機体は進み続ける為、問題は無いが、加速し切らない内だと、敵のMSに追いつかれる危険性がある。
FAガンダムはMSと戦闘において接近すればする程、不利になる為、常に一定の距離はあけていたいのだ。だからこその、機首反転もせずに後方に攻撃できる手段が欲しかった。
ビーム兵器、バズーカ、マシンガンはFAガンダムの構造上、もう追加の余地は無い。ミサイルも選択肢としては有り寄りの有りではあったが、搭載できる装弾数に不安があった。
そこで爆雷だ。爆雷なら、複雑な機構をFAガンダム本体に施す必要は無いし、広範囲に影響を与えられるのなら精密射撃性も必要ない。さらに下脚部を爆雷のカートリッチとして使ってしまえば、計12発もの弾数を搭載できるのも魅力的だった*22。
だからこそのサイズミックチャージ装備呼びだ。
スターウォーズ・エピソード2で見たサイズミックチャージの使い方を彷彿とさせるから、そう呼んでいる。もっとも、サイズミックチャージ程の化け物威力は無いが*23。
と……ここまで聞けば、一見、このB型装備、めっちゃええやん!となるかもしれないが……この装備、開発後、全くと言って良い程、使われる事は無く、ホワイトベースの格納庫で長い間ずっと置物と化していた。
というのも、これ設計時には気づかなかった大きな落とし穴があったのだ……それはつまり、下脚部を爆雷の射出機兼、カートリッチとして使うという事はつまり、足として使えないという事なのだ……。
これが何もないただの宇宙空間ならば良かったのだが、1年戦争後、俺を含めたホワイトベースの面々にとって主な活動の場は暗礁宙域だった事が災いした。
暗礁宙域ではデブリを避けるために意外にも足を使う場面が多かった。例えばデブリを蹴ったり、デブリの上で踏ん張ったりなのだ。つまり、足首から下の足部の部分を使う場面がよくあるのだ。
この為、暗礁宙域でこのB型装備を使うには危険が多すぎて、これまで使う事が全くと言って良い程、無かったのだ。
だが、今回は状況が違う。相手はジオンの正規軍なのだ。
暗礁宙域でこの装備を使うのは危険ではあるが、生き残る為には仕方ないと割り切った。
つまるところ、俺の中で暗礁宙域のデブリよりもジオンの正規軍の方が脅威度で勝ったという事だ。
「分かりました。それでしたら、FAガンダムの脚部をB型装備に変更する様に指示を出しておきます」
「ええ、お願いします」
「弾頭はどうしますか?」
「もちろん、通常機雷じゃなく、うちが開発した広域タイプの機雷を搭載して下さい」
「わかりました。では、その様にしておきます」
こうして俺もシイコさんも、ホワイトベースの他の面々も着実に準備を進めていったのだった。
「……………………」
「どうか、しましたか?蟀谷押さえて……」
「…………いえ、ちょっと耳鳴りが」
「体調が悪いんでしたら、医務室にでも」
「そこまでじゃないんで大丈夫です。それよりも、機体の整備の話を詰めときましょう」
「大丈夫そうなら良いですけど、うちの部隊の貴重なMSパイロットなんですから、体調面はくれぐれも気を付けて下さいね?」
「ははは……肝に銘じておきます」
そして、ジオンとの戦いが予想される前々日となった。
『まったく……ジオンがびっくりドッキリメカ大集合といった所なら、こっちはトンチキメカ大集合といった所ね』
呆れというか、失笑というかな声色混じりのシイコさんの声が、通信を通じて俺の耳に入って来ていた。
俺とシイコさんはMSの最終調整の為にホワイトベースを発艦し操作具合のテスト飛行を行っていた。もう予想される戦いの前々日となった事もあり、うちの会社というか部隊以外の他の組織もこの頃になると、戦いの準備をあらかた終わらせ、最終調整の段階に入っていた。
『カラーリングもはちゃめちゃだけど、機種も見えるだけでもジム、ガンボーイ、ザク、ボール……少ないけどセイバーフィッシュとトリアーエズまで居るじゃない。ほんとに、ごった煮な戦力ね。ただ……見た感じボールの方が多いかしら?』
「ボールの方が多いは有ってる気がしますね。ボールはザクとガンボーイに並んで人気ですし」
俺とシイコさんは、テスト飛行の合間を縫って、しばし、機体外に広がる混沌とした様子について話していた。
機体の外には難破船入り江をバックに多数のマゼラン、サラミス、ムサイ、コロンブス、パブリクで構成される大艦隊の姿が見え、さらにそれらに加えて、多数のMSや少数の宇宙戦闘機の大戦力があちらこちらに展開している様子が見えた。
これだけの大戦力が集結している姿は正直、1年戦争以来だ。
だが、これらの戦力だけでは確かにムサイやザクは居るが殆どは連邦系の装備である為、シイコさんの言う "トンチキメカ大集合" "ごった煮な戦力" という表現は一見すると、言葉の意味合いとして間違っている様に感じるが、しかし、実際に実物を見てみれば、誰もがシイコさんのこの表現に同意するだろう。
何故ならば、大艦隊と字面にすれば、如何にも強そうだが、その実態はただの犯罪組織と民間軍事会社の集まりだ。
故に、この場に居る殆どの艦船がそれぞれの艦が思い思いの好き勝手なカラーリングを施しているし、それだけならばまだしも、殆どの艦船が継ぎ接ぎだらけのオンボロ船ばかり。ホワイトベースの様に綺麗な状態を保っている艦船は稀な状況だ。
そして、極めつけはMSだ。
MS戦力の恐らく半数を占めるボールを見るだけでもシイコさんの言うトンチキ具合が良く分かる。1年戦争期基準の熱核融合炉を搭載していない極普通のボールから、近年になって登場した熱核融合炉を搭載したトンデモボールが勢ぞろいしている。その姿はまさに多様千差万別。
目に付くだけでも、まずは普通のキャノン砲を搭載したボール。これはまぁ良いだろう。
だが、それ以外に目を向けて見ると、機体内に熱核融合炉を搭載したボールはキャノン砲ではなく、ビーム砲を単基か、あるいはビームライフルやビームスプレーガンを1丁ないしは多いと2丁もマウントしている物もある。
一方で、熱核融合炉を搭載していなくても、ビーム砲、ビームライフル、ビームスプレーガンを熱核融合炉を搭載したボールと同じくマウントしつつ、ボールの両手に恐らくはジムの物と思われる手足の無い胴体を持たせて、そのMSの胴体からエネルギー伝導管をひいて直接、マウントした兵器に直結させて無理やりビーム兵器を運用している物もある*24。
「あれ見て下さいよ。あそこに居るボールの一団がマウントしてるのビームスナイパーライフルじゃないですか?」
『どれ?……ほんとね。確かにあの形状はジオンのビームスナイパーライフルだわ。ビームスナイパーライフル用のバックパックは……十中八九あの手に持ってるのね』
「珍しい装備を手に入れた組織もあるもんだ」
『ねぇ、ところでボールと言えば所々で水中戦闘用のボール……フィッシュアイっぽい機体が見えるんだけど、あれ、まさか本当に水中戦闘用の機体を持ってきて使ってるの……?』
「いや、あれは、確かにフィッシュアイそっくりですし、名前もまんまフィッシュアイですけど、全くの別物ですよ」
『別物?』
「確か、最近、ザクやガンボーイの次くらいに人気になってるヤツですよ。"アナハイムの最新鋭" ハイグレードMS。
水中版では連装式ロング・スピアだった所は低圧ビーム砲に。クロー・アームはヒート機構が追加されて、ヒート・クローアームに。水中用推進器は熱核ロケットエンジンにと言った具合です。もちろん、当たり前の様に動力は熱核融合炉。
それに加え、一般に流通してるボールでは難しいAMBACも、水中版のクロー・アームがAMBACに対応してたんで、あれもAMBAC出来るそうですよ?あとは、ヒート・クローアームの基本設計が重機の設計をモデルにやってるから、通常の連邦製MSの腕と違って信頼性が高いのが人気の理由だとかなんとか」
『なるほどね。でも、安心したわ。水中用MSを引っ張り出してなくて』
「それは……そうですねー」
いや、ジークアクスでは確かポメラニアンズがゾックを宇宙仕様に改造して使っている描写があった。この世界でも中古のザクが流通している以上、水中MSを宇宙仕様に魔改造して使っている連中は居るかもしれないなーと頭の片隅で思う。
『……ちょっとあれは……』
「どうかしました?」
『呆れた。ちょっとあれ見て。あんな物まで……戦力が多い事に越したことはないけど、あれは流石に犯罪組織が持っていて良い代物じゃないでしょ……』
「どれです?……ああ……」
シイコさんが指した場所にある、ある物を見て俺もシイコさんと恐らくは同じ感想を抱く。
『あれって最近、連邦軍に配備されたばかりの拠点防御用の重MA、"スーパー・デプロッグ" じゃない……』
俺とシイコさんが見つめる先。そこにはギレンの野望をプレイした事のある者ならおなじみ重爆撃機のデプロッグが居たのだった……。
だが、よく見ると普通のデプロッグとそれは違う。デプロッグ特有のB29の様なガラス張りのコックピットは装甲化され、機体の上部には機首側に連装ビーム砲塔が2基、機尾側に1基が備えられているのが分かる。
それだけではない。なんと、機体の下部に目を向ければ、そこには本来のデプロッグには有る筈の無い、巨大なMSの足が生えていた。それも、デプロッグのコックピットのある首部分を除いた胴体と同じ位のデカさだ*25。この他、機首側に大型の逆噴射用とみられる外装ブースターも見える。
おおよそ正史を知る人間が見たら、即倒しそうな機体構成だ。
それもその筈、このMA⸻スーパー・デプロッグはMS技術がちゃんとしている正史では決して生まれなかったであろう、明らかにこの世界、特有の機体だ。
スーパー・デプロッグ。
1年戦争後、制宙権と宇宙資源を完全にジオンに掌握された連邦は空からの脅威に対抗する為、限られるリソースを有効に使いつつ、地上拠点の防衛の為に重MAの開発と生産を決定した。
スーパー・デプロッグはその計画の中、連邦の航空機大手のメーカー、ハービック社が立案したMAであり、また、MSの時代の到来により航空機の需要が減少した事で顧客を奪われたハービック社が自社を倒産や他社からの買収の脅威から救った起死回生の機体として知られている*26。
デプロッグの生産ラインを流用し生産コストを抑えつつも、元々優れていた、その寸胴な機体の容量を生かして、ジェットエンジンを熱核ジェットエンジンに換装し、格納庫のスペースには実に3基もの熱核融合炉を搭載。熱核融合炉は熱核ジェットエンジンへのエネルギー供給の他、機体上部に搭載された連装ビーム砲塔にエネルギーを供給している。そして、この機体最大の特徴は格納庫のスペースには熱核融合炉の他にIフィールドの発生装置まで搭載している点だ。
熱核ジェットエンジンの採用と航空機の翼によりMS以上の長時間の空中継戦能力があるほか、地上においても足を装備している為、地形に関係なく移動できる。
特に地上からの防空能力に重点が置かれていて、機体の全体は本来のデプロッグがMSとの戦闘に際しては防御力はほぼ皆無なユニバーサル・ジュラルミンだったのに対して、MSと同じチタン合金セラミック複合材を採用しているが、上部の装甲は下部よりも分厚い構造となっており、ビーム攻撃はIフィールドで防ぎつつ、実弾に対しても、連邦軍の一般MS以上の装甲である程度は防御できるという設計の機体だ。
これが正史の世界であれば、こんな機体を連邦軍が採用するとは到底思えないが、この世界においては連邦のMS技術が終わってる為、MSを作った事のないハービック社でも参入できる余地が残されていたという訳だ。
まぁ、いずれにしても、この世界の連邦にとって極めて重要な最新鋭のMAである為、間違っても犯罪組織が持っていて良い機体ではない。
それが2機も俺とシイコさんの視界には入っていた。
「十中八九、今回の戦いに合わせてに連邦の支援じゃないですかね?そうじゃなくて横流し品だったら連邦はもうお終いですよ」
『それもそうね……。ボールだとか、あまりのトンチキぶりに目を取られがちだけど、ジムやザクに混じって結構な数のガンボーイも居るしね。幾ら横流し品もあるとはいえ、ここまでの規模ともなると、それだけじゃ片づけられないものね……誰かが裏で糸を引いていると見るのが自然だわ』
実際、つい先程はボールに目を取られていたが、この現場には結構な数のガンボーイも居る。ガンボーイは今回の作戦関係なく普段から連邦、または反連邦勢力から、謎の経路により、犯罪組織や民間軍事会社に流出(支援かはたまた横流しか)されているが、それにしても今、俺とシイコさんの目に映る数はちょっと異常だ。
それによく目をこらせば、ガンボーイの特殊作戦部隊仕様のガンボーイ・コマンドの姿も少数だがあった。シイコさんも恐らくは既に気づいているだろう。
ガンボーイ・コマンドは正史で言うジム・コマンドのポジション機体だが、正史レベルで特段に良い機体という訳では無く、ガンボーイの頭部を挟むように左右に1門の発射口を備えた4発装填式のカートリッジを内蔵したミサイル発射機を装備している程度だ。
頭部ミサイルに採用しているのはMS IGLOOの重力戦線でお馴染みの対MS重誘導弾リジーナの赤外線誘導型。
この世界の連邦軍はジオンとの戦争に敗北したとはいえ、戦時中にバルカン最強伝説を経験してしまった結果、MSの頭部にはMSを倒せる決定的な武装が欲しい病に罹ってしまった。だが、敗戦により宇宙権益を失い、バルカン最強伝説を行う為のルナ・チタニウム合金はジオンにより供給を絞られている。
その解決策として選ばれたのがリジーナだった。リジーナは歩兵が携行できるサイズ。MSの頭に装備させるには丁度良いサイズ感だったのだ。
そんな目立った特徴が、ほぼ頭部ミサイルだけなガンボーイ・コマンドではあるものの、腐っても、特殊作戦部隊仕様の機体。つまり、一般ガンボーイに比べれば特別な機体だ。
だが、そんな機体がこの場に少数とはいえある。
俺もシイコさんも、民間軍事会社として活動してきて今までガンボーイは見る事があっても、ガンボーイ・コマンドは一度も見た事は無い。だが、それがこの場にはあるのだ。
何者かの支援が今回の作戦で行われていると見るのは当然だろう。
まぁ、十中八九、この光景を生み出しているのは連邦だろうが。
ま、まぁ、連邦の腐敗がついに行く所まで行って純粋に横流しが行われている可能性もゼロではないが、その可能性は流石に低いだろう……*27。
『それにしても、確かスーパー・デプロッグって大気圏内用のMAじゃなかったかしら?一体どんな改造を施したんだか……』
「いや、あれは改造品じゃないですよ」
『どういう事?』
「あれには大気圏内用のタイプと、大気圏内と宇宙の両用タイプの2種類があるんですよ」
『初耳だわ。あれが2タイプも?』
「ええ。両用タイプの方は熱核ジェットエンジンじゃなくて、3基の熱核ロケットエンジンを搭載してるんですよ。見分けるポイントは両用タイプのスーパー・デプロッグは機首方向の胴体下部に逆噴射用の外付けのブースターが2基付いてる事ですかね。
あとは、ジェットエンジンじゃなないんでエアインテークが不要なんで塞がってるのも特徴です。エアインテークのあった場所にはビーム砲の砲門がトライアングル型に左右に3門ずつの計6門あるんで、結構、解りやすいですよ。
もっとも、両用とは言いつつも、大気圏内用のタイプと比べると大気圏内を飛べる時間は圧倒的に短いデメリットはありますけどね」
『あの機体サイズの大型熱核ロケットエンジンに加えて、連装ビーム砲塔と合わせたら計12門のビーム砲?呆れた機体ね……。
こんな機体を今まで知らなかったなんて……ダメね。勉強不足だわ』
「いや、知らなくても仕方ないとは思いますよ?だって、優先して製造されてるのは大気圏内用タイプだった筈ですし」
『そうなの?』
「ええ。大気圏内での利用を考えると両用タイプは滞空能力が限定的なんで」
『なるほどね。教えてくれてありがとうライス君。助かったわ』
「シイコさんの役に立ったのなら本望ですよ」
『大型の熱核ロケットエンジンに加えて重武装の機体構成…………恐らく、あの大きさの熱核ロケットエンジンで出せる推進力は相当なもの…………ねぇ、ライス君?』
「…………」
『大推進力、重武装……どこかで聞いた事がある様な話で、それに、ちょっと前に軍に居た私が知らない位、珍しい機体にも関わらず、やけに、あのMAについて物凄く詳しいみたいだけど……。
まさか、ライス君があのMAの開発に関わってる訳じゃないわよね?』
「…………や、やだなーシイコさん。そ、そんな事ある訳ないじゃないですかー」
『……物凄く変な間が開いてるし、棒読みだけど、まぁ、良いわ。聞かなかった事にするわ。
……ちょっと待って……フィッシュアイもよくよく考えてみれば、高機動戦用の機体構成じゃない?……まさかアナハイムにも……?』
「いやいやいや!流石にそっちは俺、無関係ですって!」
『そっちは?』
シイコさんが呆れぎみに言っているのが通信越しにも分かる。でも、通信越しで良かったと熟々思う。もしもシイコさんが目の前に居たら、きっと、シイコさんの目には俺の目が物凄く泳いでいたのが直ぐに分かっただろう。
だ、だが!この件についてはノーコメントにさせて頂く。諸事情により。
さらなる追求がありそうな雰囲気であったが、その直後、コックピットにビビッと通知音が鳴り、ホワイトベースからの追加指示が届いた事でこの話はそこで幸いにも強制中断される事になった。
追加指示の内容は至ってシンプル。追加の機動性テストだ。
正直な所、FAガンダムは別に改めてテストをする必要など一切無い。調整に必要なレベルの飛行はもう既に完了していると言って良い。
にも拘わらず、こんなにテストをさせられるのは恐らく、FAガンダムではなく、FAジム側の問題があるのだろうと俺は頭の片隅で考えていた。
可動実績のあるFAガンダムと、つい最近、シイコさんの為だけに作られたばかりのFAジムでは稼働実績に大きな開きがある。
だからこそ、FAジムにFAガンダムに追従できるだけの性能があるか無いかを、実際にFAガンダムと一緒に動かしてみて確かめているんだろう。コンピューターのシミュレーションでも出来る事ではあるし、恐らくはFAジムを開発したオーガスタ研究所もとっくにやっているとは思うが、とはいえ、実機でテストをするのと、しないのとではデータの信頼性の度合いが全然、違う。
FAジムはサイコミュ兵装を除けば、明らかに、FAガンダムを意識して作られている節がある。テストの結果、追従できないという事になれば、運用方法を全般的に見直す必要も生じる。それは今回のシャアを倒すという目的において、かなり重大な事だ。
作戦の成功確率を出来るだけ挙げる為に不確定要素をギリギリまで洗い出し、不確定要素が仮にあったならば、それに合わせて柔軟に当日の作戦行動を練り直し、作戦の成功率を出来るだけ上げる。
それが、このテストにFAガンダムも加わっている理由なんだろう。
………………。
そして数十分が経過し、そんなこんなで、俺とシイコさんはホワイトベースからの指示通りにテストを進め、艦隊とサイド1の残骸の合間を縫うように飛び回り、工程を消化し終わらせていった。
そうして一通りの工程を終えた時、帰投の指示が下るが、俺とシイコさんはその時、ホワイトベースからある程度、離れた場所に居た為、戻るまでに少しばかりの時間がかかった。
暗礁宙域の瓦礫やデブリ、艦隊に気を付けつつ飛んでいると、FAガンダムとFAジムはある、ひと際大きな艦の直ぐ近くを通ったのだった。
『ねぇ、さっきから気になってたんだけど、あの戦艦とても大きいわね。戦艦としては、ちょっと破格のサイズじゃない?』
凡そ、最後に雑談をして数十分ぶりか。シイコさんが機体のテストに関する事以外で俺に話しかけてくる。
俺はシイコさんの呼びかけを受けて、シイコさんが指したと見られるその艦艇に目を向ける。
そこには、マゼラン級宇宙戦艦2隻の側面を繋ぎ合わせて、さらにその下部にもうプラス1隻のマゼラン(下部のマゼランはエンジンと動力区画のみ)を繋ぎ合わせて1隻の巨大な船体とし、艦橋は1つだけにした、総勢マゼラン2.5隻分の巨大宇宙戦艦が居た。
色は紫。連装メガ粒子砲塔を10基も搭載している化け物戦艦だ。
「ああ、ゼネラル・レビルですよ」
『ゼネラル・レビル?レビルって、もしかしてレビル将軍の事?1年戦争で死んだ』
「そのレビル将軍であってた筈です確か」
『どこの組織の船なの?』
「宇宙海賊、レビルズ・フリートです」
『はい……?ごめんなさい。聞き間違えたわ。ダメね。今、レビルズ・フリートって聞こえた気がしたわ』
「聞き間違いじゃなくて、それで合ってますよシイコさん」
『……レビル将軍の墓前で土下座するべきね』
「ついでに言うと、謝罪声明も出すべきですね。この界隈じゃ多分一番有名なネーミングセンスの宇宙海賊ですよ」
『頭が痛くなってくるわ……それで、どこの誰が乗ってるの?』
「シイコさんも知ってる人ですよ?」
『ほんとに?』
「ハニ・アサナ将軍ですよ。ゼネラル・レビルはハニ・アサナ将軍の座上艦です」
「………………そう、ハニ・アサナ将軍の……」
ハニ・アサナ将軍の名前を出す前はシイコさんも、とんでもない名前を海賊船に付けたヤツも居るもんだと呆れ、というか半ばドン引きしている様子だったが、名前が出た後、露骨に声色が変わる。
ついさっきまで、ドン引きしていた相手が、まさかの逃げずに今回のジオンとの戦いを行うという決定に重大な貢献をしたハニ・アサナ将軍で、気まずかったから声色が変わったのな?とも内心でふと思ったが、いや、この声色はそういうんじゃないなと思い直す。
「そう言えばハニ・アサナ将軍とは知り合いみたいでしたけど、どういう関係なのか聞いても?」
『……そんなに知り合いと言えるほどの関係性はないわ。でも、1年戦争の頃にハニ・アサナ将軍直属の部隊に配属されていたのよ。言うてこの部隊も元々はハニ・アサナ将軍の指揮下にあった部隊でしょ?』
「確かに組織図上はそうでしたけど、うちの場合、直接的にやりとりをした回数は数える程ですよ」
『そういえば……第13独立部隊は遊撃任務が主だったわね。それだと、余り関わりが無いのも、しょうがないか』
「というと、シイコさんの方は、少なくともうちの部隊よりは?」
『ええ、それなりにあったわ。と言っても最後の一か月に満たない期間程度だったどね……でも、そう……あの、ハニ・アサナ将軍がレビルの名をね……』
シイコさんは何処か心ここにあらずといった感じで後半呟く。その呟きは明らかに俺に向けられた物ではなく、何かを思い出しながら口から自然と零れてしまっていた様だった。
俺はそれ以上は口を閉じ、深入りする様な事はしなかった。
この界隈に長く居ると色々と分かる事がある。
あの戦争で色々と脳を焼かれた人間はあちらこちらに居る。シイコさんの赤い彗星への執着然りだ。恐らくはハニ・アサナ将軍も何かしらでレビル将軍に脳を焼かれた人間なんだろう。
そう納得というか自然に察して、俺はただ、操縦に集中したのだった。
なお、シイコさんの話を聞いて内心、ハニ・アサナ将軍の宇宙海賊の名前がレビルズ・フリートで、旗艦の名前もゼネラル・レビルなのって1年戦争で負けたレビル将軍への当てつけの名前だと今までずっと思ってた……と思ったのは内緒の話である。
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「うっ…………」
俺はふいに表情を若干ゆがめ片手を操縦桿から放すと眉間を押えた。
俺の姿は傍から見れば、まるで頭痛に耐える姿そのものだろう。だが、頭痛が起こっている訳では無かった。
まただ……今日これで何回目だ……?
俺は最近の "これ" について考える。
最近、俺は妙な耳鳴りに悩まされていた。それは時と場所に関わらず、唐突に俺を襲って来た。
一週間くらい前から、耳鳴りが時たまに起きる様になり、最初の内は大した事無かったのだが、日に日に酷くなって来ている実感があった。
体感としては作戦の日が近づくに連れてどんどん酷くなっている感じがある。
耳鳴り以外は特段に身体に異常は無いのだが、余りにも五月蠅いのだ。ここ耳鳴りが。
だが、不思議と耳から入る音はこの耳鳴りが鳴っていても聞き取るのに特に支障は無く、なんだか、頭の中で鳴り響いている様な感じだ。
最近は特に酷く、なんだが、耳鳴りが遠くで誰か人の話してる言葉な様にさえ感じる……。
「思い出した。そう言えば…………ルナツー攻防戦の時も耳鳴りが酷くって終いには幻聴が聞こえてたっけ…………耳鳴りに効く薬なんて持ってきてねぇよ…………どうすっかな」
*28恐らくはこの幻聴は俺のおかしくなった精神的な病気から来る症状なのだろう。
俺は数多の薬を飲んでいるから、常に多数の薬を持ち歩いている。だが、俺の場合、耳鳴りの症状は幸いにも普段は起こらない為、その様な症状に効く薬は持ち合わせが無かった。
余り酷いと医者に診てもらう必要があるかもしれないが、ホワイトベースに精神科医なんて常駐していない。
どうしたもんか、このままだと作戦に支障が出るかもしれない。下手に支障が出る様だと、俺の生存確率の低下を招く事になりかねない。何か。何か対策を考えねばと、俺は思案を巡らせるのだった。
宇宙世紀0085年になっても21世紀から殆ど代わり映えしない物は多くあるがメディアはその代表例だろう。テレビニュースは依然として大衆向けメディアであるし、新聞もまた重要な情報源であり続けている。
前世の世界を知る俺からすれば、ネットメディアの影響力が低すぎる気がするが。
もっとも、ネットメディアが存在しないかと問われればしっかりと、存在もしているし、SNSだって存在している。
にも拘わらず、ここまでテレビや新聞が現在も元気なのは宇宙世紀においては1年戦争中にジオンがミノフスキー粒子の電波妨害を軍事利用したせいで、戦争中はネットが事実上寸断され使い物にならなくなった経緯がある事を踏まえれば、テレビや新聞が復権したとみれる為、現在のこの状況は致し方ないだろう。
そしてそんな、息を吹き返したとも言えるオールドメディアであるが、前世を知る俺からすると、相も変わらないその姿は、何処か一周回って懐かしさを感じさせる。
サイド6公共放送局。
サイド6の公共放送局であるこのテレビ局なんかはその筆頭例だ。サイド6に居住し受信媒体を持っている世帯は漏れなく契約して受信料を支払わなければならないその運営スタイル*29。
サイド6公共放送局の番組なんて見ないのに何で受信料を払わなきゃいけないんだよ!と日夜バトルしているサイド6国民達。
その姿は俺にとっては、もはや遥か遠く銀河の彼方に感じられる日本におけるNHKを思い起こさせるに充分な物だった。
おまけにサイド6には多くの日系人が暮らしているコロニーもある為に日本語放送まで行っている。もうこれ、実質、宇宙世紀のNHKだろと思わない方が難しいだろう。
そんな俺にとっては、一周回って懐かしさすら思えるムーブをしているサイド6公共放送局。
そのサイド6公共放送局が放送しているニュース番組が、放送されているサイド6から幾つもの中継衛星を介してホワイトベースの艦内で流れていた。
そして、その放送を艦内に居る誰もが緊張した面持ちで注視していたのだった。
かくゆう俺もその一人。
俺、そしてシイコさんはホワイトベースの艦橋にて、ブライトさんやサラ、そしてその他のブリッジクルーはニュース番組が映るモニターを見ていたのだった……。
『ただいま入ってきたニュースです。
ジオン公国の議会は本日未明、旧サイド1宙域を不法占拠している宇宙海賊および犯罪シンジケートに対し、大規模な討伐艦隊を派遣することを決定しました。
現地ズムシティの議会前から中継が入っています』
『はい、こちらはジオン公国の議会議事堂前です。
わずか2時間程前、緊急動議として与党から提出された "旧サイド1宙域治安回復特別措置決議" が賛成多数で可決されました。
これにより、旧サイド1宙域を不法占拠している宇宙海賊および犯罪シンジケートに対し、公国軍による大規模な軍事行動が正式に承認された形です。
この決議は前日まで議事日程に含まれておらず、与野党を問わず多くの議員が事前説明の不足を指摘する中での異例の採決となりました。議場内は一時騒然となりましたが、最終的には圧倒的多数が賛成に回ったとみられています』
『突然の決議ということですが、背景にはどのような事情があるのでしょうか』
『はい。今回の決議の背景には、現在の治安情勢が大きく関わっていそうです。
5年前に終結したジオン独立戦争後、旧サイド宙域は、当時の戦闘による甚大な被害から、全くと言って良い程、復興が進んでいません。
これらの宙域帯には破壊されたコロニーの残骸群が広範なデブリ帯を形成し、航行が極めて困難な暗礁宙域を形成しています。
この空白宙域に戦争末期に潜伏した旧地球連邦軍の残党勢力が分裂を繰返しながら、やがて犯罪シンジケートへと転化しました。
現在では宇宙海賊行為、違法薬物の製造・流通、人身売買、身代金目的の誘拐、武器密輸、詐欺など、多岐にわたる組織犯罪を展開しているとされています。
公国政府はこれまで、警察対応や限定的な哨戒行動によって対処してきましたが、被害はむしろ拡大傾向にあり、商船や客船からの被害報告が増加していました。』
『今回の艦隊派遣、その規模については何か分かっていますか』
『公式な戦力規模は明らかにされていません。ただし、国防委員会関係者は、ジオン独立戦争後、最大規模の軍事行動になる事を示唆しています。
さらに注目すべき情報として、複数の軍事情報筋によれば、決議前の段階で既に艦隊は出撃済みであり、現在は旧サイド1宙域外縁に展開しているとの情報も挙がって来ています。
つまり、今回の議会決議は実質的な開戦承認に近いものであり、決議を合図として奇襲的に一斉掃討作戦を開始する意図があるとみられています』
『すでに展開済みということは、作戦はかなり綿密に準備されていた可能性がありますね』
『はい。その通りです。今回の動きは、表向きは突発的な決議ですが、実際には数か月単位で準備されていたとの見方が強まっています。
犯罪シンジケートがモビルスーツや軍用艦艇を保有している可能性があり、暗礁宙域というデブリ帯である事を考えると公国軍にとっても容易な作戦とは言えません。ですので、今回の軍事行動には入念な準備があったと見るのが大勢的です』
『この作戦は宇宙全体の治安にも影響が及ぶ可能性がありますね』
『はい。現在、宇宙商業航路の一部は事実上、治安の悪化に伴い旧サイド宙域の周辺を迂回せざるを得ない状況です。物流コストの増大や保険料の高騰が深刻化しており、経済面での影響も無視できません。
ここ数年、宇宙航路での襲撃事件は増加傾向にあり、経済団体等からは強い対策要求が出ていました。今回の大規模派遣は、旧サイド1に限定した掃討にとどまらず、宇宙規模で広がる犯罪ネットワークの遮断を視野に入れたものとの見方もあります。
今回の大規模掃討作戦が成功すれば、宇宙航路の安全回復と経済正常化への大きな一歩となります。
しかし一方で、旧サイド宙域には民間のサルベージ業者や難民も多数存在しており、巻き添え被害を懸念する声も既に出ています。作戦の具体的な交戦規定や民間保護策については、今のところ明らかにされていません』
『ジオン国内の反応はどうですか?』
『大手メディアは速報として今回の決議を報道しています。多くは今回の決定に対して支持ないしは消極的な支持を伝える内容となっています。
ですが、市民の声は大きく割れている印象です。私達のインタビューに答えた市民の半数以上は軍事作戦の決定について支持をしていました。やはり、昨今の治安の悪化による経済的な影響を感じている人々が多くいました。
ですが、一方で、戦後最大規模の軍事作戦に不安を抱いている市民も少なからず存在します。また、賛成反対の立場を問わず、今回の議会での採決の仕方に不満を抱いている市民も数多く存在する印象です』
『ありがとうございました。続いてパルダの大統領官邸前より中継です』
『はい。こちらはパルダの大統領官邸前です』
『サイド6政府は今回のジオンの決定に対して何か反応をしていますか?』
『サイド6政府は今のところ立場を表明していません。
ですが、サイド6政府は今回のジオンの行動を支持すると見られます。サイド6政府も昨今の宇宙の治安情勢の悪化には問題を示しています。政府に対して経済団体からも早急な対策が求められていました。
宇宙海賊の被害は年々、増加傾向にあり、先月にはワンナヴァルの大型貨物船が旧サイド4宙域で宇宙海賊に拿捕され、大量の貨物を強奪された他、船員も人質にされ身代金を要求される事件も起こっています。
さらに、宇宙の治安の悪化の影響はコロニーの外だけでなく、私達の身近にも及んでいます。軍警察の発表によると昨年、サイド6で違法薬物所持で検挙された数は前年を越えており、さらに今年は今月の時点で昨年の検挙数を越える事が確実視されています。それ以外にも昨今、社会問題化している詐欺事件の増加にも、今回クローズアップされている犯罪ネットワークが関与しているとも指摘されています。
これらの事から政府内には以前から一刻も早い対処を行うべきとする意見が挙がっていました』
『市民の反応はどうでしょうか?』
『やはり、近年の治安の影響は皆さん肌に感じている様で肯定的な意見も多く見られます。ですが、やはり一番多く聞くのは不安の声です。
治安回復への期待を示す声がある一方、再び戦時下に逆戻りするのではないかと懸念する市民も見られます。
ジオン独立戦争の終結から5年。戦後秩序の再構築がいまだ途上にある現実を、私達は改めて突き付けられています』
『ズムシティとパルダからの報告でした。繰り返してお伝えします。
ジオン公国の議会は本日未明、旧サイド1宙域を不法占拠している宇宙海賊および犯罪シンジケートに対し、大規模な討伐艦隊を派遣することを決定しました。
繰り返します。ジオン公国の議会は本日未明、旧サイド1宙域を不法占拠している宇宙海賊および犯罪シンジケートに対し、大規模な討伐艦隊を派遣することを決定しました。
すでにジオン軍は展開済みとの情報もあり、ジオン独立戦争後、最大規模の軍事行動となる見通しです。今後、旧サイド1宙域での戦況および公国軍の作戦開始時刻など、続報が入り次第お伝えします』
その報道はあらゆる媒体のメディアで速報として今この時、瞬時に地球圏中を駆け巡っていた。
それは、コロニーの墓場である、ここ旧サイド1宙域の暗礁宙域でも同じ。
特に今、俺を含めたホワイトベースの全クルーがそうであるように、この宙域に居るあらゆる組織はこのニュースをメディアは違えどチェックしているだろう。そして恐らくは、その注目度は他のどの場所よりも高い。
何故ならば、今この場に居る者達は如何なる組織であろうとも、今、速報で伝えられたジオンが討伐するとした対象なのだから。
「……ついに始まるぞ」
近くに居るブライトさんがそう呟く。
「ブライト艦長!暗礁宙域の浅瀬に設置してある監視衛星がこちらに向けて前進してくる複数の艦影をキャッチしました!」
「来たか!モニターに映せ!」
サラの報告を受けてブライトさんが指示を飛ばす。
ブライトさんの指示によりブリッジのモニターに監視衛星が捉えたという浅瀬での映像が映し出された。
暗礁宙域は大きく分けて2つのエリアがある。1つはTHE暗礁宙域である、そこら中にデブリが浮遊し船舶やMSを含めた宇宙機の運航には細心の注意を払わねばならないエリア。
そしてもう一つは浅瀬と呼ばれるエリアで、暗礁宙域の外縁に当たる比較的、デブリが少なめで、船舶の航行も大変ではないエリアだ。
その浅瀬には、今回の戦いに備えて、レーザー通信衛星による監視網が構築され各艦に映像を届けていた。
「事前に知らされていた情報通りとはいえ……これは中々に大変な任務になりそうだ」
やや自虐気味にブライトさんはそう言った。
モニターに映る映像。そこには、1隻のザンジバル級機動巡洋艦を中心に、左右を2隻のチベ再設計型で固め、さらにその周囲には実に40隻以上のムサイ再設計型が上下にも展開しつつ、左右に広く長く展開したジオンの大艦隊の姿が映し出されていた。
それだけではない。そんな大艦隊に随伴する様に多数のザク再設計型で構成されたMSの大部隊までもが展開している。
そして、よく見ればその大艦隊の後方にはパゾク級輸送艦の姿も、ちらっと見える。まさに攻撃、兵站の両方を潤沢に備えた理想的な大艦隊だった。
対するは暗礁宙域の奥深くに陣取る俺達、民間軍事会社と犯罪シンジケートの寄せ集めの連合軍。
ピカピカの新造艦と新造MSを引き連れたジオン。
ニコイチ、サンコイチは当たり前の継ぎ接ぎだらけのオンボロ船とトンチキメカを引き連れた誰がどう見ても犯罪者の連合軍……。
ついにやって来た事前に知らされていた決戦の当日。
ジオンは事前の情報通りに議会での決議を行い、旧サイド1宙域の暗礁宙域に潜む宇宙海賊や犯罪シンジケートの撲滅に乗り出した。
ついに戦いが……俺にとって、いやこの場に居る全ての者にとって1年戦争以降では最大規模となる宇宙戦がついに……ついに……始まってしまう。
俺は片手で震える腕をギュッと強く、強く、強く押えたのだった。
●RB-79 ボール
連邦のMS技術がクソ過ぎた結果、相対的に連邦軍最高のMSとなってしまったボール先輩。
宇宙世紀0085年時点でも未だ現役どころかバリバリの現役。連邦軍の他、宇宙海賊を始め犯罪シンジケートも使用している。なお、ジオン軍ではMSではなくモビルポット扱いな模様*30。
戦後5年経ってもバリバリの現役機であるボールは熱核融合炉が搭載されるなど、正史とは異なる進化を果たしている。
宇宙海賊や犯罪シンジケートが使用するボールは組織が調達可能な金や物資で構成が異なる世知辛い特徴がある模様。安い順に並べると、通常の燃料電池駆動のキャノン砲を搭載したボール。燃料電池駆動のボールにMS用のビーム兵器をマウントしビーム兵器用のエネルギーはMSの熱核融合炉から外部供給しているヤッツケ仕様ボール(なお、このタイプのボールはMSの熱核融合炉はボールの手に持たせている場合が多いゾ……)。ビーム兵器をマウントした熱核融合炉駆動のボール。フィッシュアイ。ビームスナイパーライフル仕様のボールの順となる。
防御力を強化する為に1年戦争中に腐る程作られた連邦軍のジムやガンダムの盾を入手できた組織は盾を横向きにして両手で持たせたり、ヤッツケ仕様ボールの様に手に動力炉を持っている場合は動力炉に盾をくっ付けたりして防御力を強化している*31。盾が無い場合は宇宙船から剝ぎ取った外壁だとか最悪、鉄板という場合もある。
なお、ボールの手にそんなに物持たせたら、ボールの視界って窓だから前見えないんじゃ……?と思うネキ達も居るだろうが、それは大正解で、多くのボールは熱核融合炉を搭載しているボールも含めて依然として窓から外を見ている仕様。この為、手に色々持たせて前の視界が塞がっている機体はマウントしてある武装やもしくはその周辺に外部カメラなどを幾つか設置した上にコックピット内にPCモニターを設置してそれで周囲を把握している模様。
●RB-79 ボール / ビームスナイパーライフル仕様
ジオン軍のザクⅠ・スナイパータイプのビームスナイパーライフルをマウントし両手にはサブジェネレーターを搭載したランドセルを持たせている仕様。バックパックはボールの熱核融合炉の搭載有無に関わらず持っている*32他、バックパックを防御する為に丁度良いサイズの正面装甲板もくっ付いている。
ジオン軍のザクⅠ・スナイパータイプは市場へはまず流出しておらず精々、照準器が出回る程度。だが、何故か、そんな市場には殆ど出回っていないビームスナイパーライフルを搭載したボールが居る模様。主人公も初めてボールがビームススナイパーライフルを搭載している所を見たらしい。一体、何処から流れてきた代物なんだろうか……、
なお、市場価格で言うと、ビームスナイパーライフルの希少性からフィッシュアイを越える。
●フィッシュアイ
フィッシュアイと言えば1年戦争中に地球連邦が使用した海戦用の水中ボールだが、その堅牢な設計に目をつけたアナハイムが全く同じ名前、ほぼ同様の形状で作ったのがこのMS。動力は熱核融合炉。エンジンは熱核ロケットエンジン。武装はビーム砲をマウントし、ヒートロットに使われているヒート機構と同じ物をクロー・アームに仕込みヒート・クローアームにした物を採用。視界は相変わらず、正面の窓に依存している。
アナハイムが作ったMSとしては最新鋭の機体で最近、民間軍事会社、宇宙海賊や犯罪シンジケートなどの界隈でザクやガンボーイに次ぐ人気となっている。一般的なボールでは難しいAMBACが出来る他、ヒート・クローアームは使い古された重機の技術を応用している為、連邦系MSでありがちな関節に問題が無く、近接戦闘もしやすいと中々に好評。さらに熱核ロケットエンジンも大きさに見合った出力が出る為、従来のボールよりも優れた加速性も持っている点も支持を受ける点になっている。
なお、このフィッシュアイはアナハイムの最新鋭MSでありハイグレードMSである(こんなのがアナハイムの最新鋭ハイグレードMSとかウッソだろお前!?)。*33
●スーパー・デプロッグ
ハービック社が開発した拠点防御用の重MA。連邦軍が正式採用する唯一のMAでもある*34。外見は完全に1年戦争中に連邦軍が使用していた重爆撃機デプロッグにバカデカいMSの足を生やした感じになっている。熱核ジェットエンジンを採用した大気圏内タイプと大気圏内と宇宙の両方で利用できる両用タイプの2種類が居る模様。MSに顧客を奪われつつあったハービック社が起死回生の一手として世に送り出し、これにより倒産と他社に買収される事を防いだ。乗員は10名。
武装は連装ビーム砲塔を上部に3基、両用タイプはこれに加えて正面に6門のビーム砲を備えている。動力には熱核融合炉を3基搭載しているが、それにしたって、ビーム砲最大12門はエネルギー配分大丈夫なの?と心配になるが、実はスーパーデプロッグが搭載しているビーム砲は全てビームスプレーガン並のビームである為、この砲門数にして実は意外と問題は無い。なお、エンジン出力を弱めれば12門の内、6門は1秒~2秒程度は照射を行う事も可能。
防御は本体のチタン合金セラミック複合材とIフィールド。拠点防御の為に地上からの対空射撃に重点を置いた設計となっている事から上部装甲が一番、分厚く、上部装甲は理論上はザクマシンガン(1年戦争時の物)はほぼ防ぐ事ができ、バズーカも至近距離から撃たれず、同じ所に1度以上の直撃を食らわなければ防げる*35。が、連装ビーム砲塔の砲手席はガラス張りである為、連装ビーム砲塔に実弾が直撃するのは、かなり不味い模様。一方で足を含めた下部の装甲はジムより多少マシな程度。
運用するに当たっては地上においては、基本的に護衛のMSを配置して装甲の薄い機体下部の脆弱性をカバーして運用される。地上から飛び立つ時は、脚部に補助スラスターが搭載されている為、これを利用しつつエンジンを吹かして飛び上がる仕様。
●ガンボーイ・コマンド
ガンボーイの特殊部隊仕様。とは言っても、頭にミサイル(リジーナ)を搭載しているだけ。
バルカン無双に脳を焼かれたパイロット達の要望を受けて作られた。でも、当然ながら、バルカン無双をするだけのポテンシャルは無い。妥協の産物。
●ザンジバル級機動巡洋艦
1年戦争終結後に再設計型に置き換えられなかった数少ないジオン軍の戦闘艦。これ以外に再設計型に置き換えられていない艦はパゾク級輸送艦など数える程しかいない。
●ハニ・アサナ将軍
自分の指揮下の宇宙海賊の名前をレビルズ・フリートにして、自身が乗る旗艦の名前をゼネラル・レビルとかいうレビル尽くしの組織のボス。
主人公は今まで完全にレビル将軍への嫌がらせだと思っていたが、どうやら主人公の知らぬ所でレビル将軍に脳を焼かれていた模様(でも、流石に犯罪組織にその名前はどうかと思うよ……将軍)。
●シイコ・スガイ
決戦を前に準備が整いつつあった宇宙海賊や犯罪シンジケートの艦隊やMSを見て、めちゃくちゃ目移りしている。まぁ、こんだけトンチキメカ集まってたらねぇ……?
●ライス・ポンペイオ
最近、耳鳴りに悩まされている模様。誰か良いお薬あったら教えてあげてね。
前回のアンケートに答えて下さった方々ありがとう!
ガンダム関係のアンケートでは、ある意味見れない珍しい光景が見れて作者はもう満足だよ!
あなたなら、どれに乗る?(FAガンダムとジムは相変わらずの教育型コンピューター仕様!※なお、燃料電池式ボールは燃料電池で動いてる通常のボールで、熱核融合炉式ボールは熱核融合炉を搭載しているボールという意味になっております。シイコ機仕様のジムはFAジムの事ではなく、4話参照のシイコ仕様のジムとなっております。それと大変、残念ながらルナ・チタニウム弾頭が現在入手困難な為、バルカンは使用できません)
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FAガンダム
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ジム(ビームバズーカ装備シイコ機仕様)
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ジム(4話の宇宙海賊仕様)
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ジム(無改造機)
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ザクⅡ
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ガンボーイ
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ガンボーイ・コマンド
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燃料電池式ボール(無改造機)
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燃料電池式ボール(ビーム兵器装備)
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熱核融合炉式ボール(実弾装備)
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熱核融合炉式ボール(ビーム兵器装備)
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ボール(ビームスナイパーライフル装備)
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フィッシュアイ
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スーパー・デプロッグ