魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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星の守護者、雷光の守り手

うららかな陽気が窓から注ぎ込まれ、程好く暖かいバスの中、緩やかな振動に身をゆだねてうつらうつらしていた花梨は、肩を揺さぶられる感覚を感じ、ゆっくりとまぶたを開けていく。目元を擦る花梨を覗き込むように見下ろすのは彼女の兄、高町恭也。

傍らには妹であるなのはがユーノ入りのキャリーバックを抱えながら苦笑を浮かべていた。

 

「うにゅう……あと五分……」

「いいわけないだろう……ほら、降りるぞ?」

「ふぁあいい……」

 

寝ぼけ眼でふらつく身体をなのはに支えてもらいながら、よろよろとバスから降りる。

バス停からすこし歩いた高台の上にある大きなお屋敷。そこが本日の目的地月村すずかちゃんの実家である。

本日はお茶会の誘いをうけたので、すずかの姉である忍さんの恋人である兄同伴で出向いてきたのだ。

大きな門を潜りぬけ、メイドのノエルさんに案内された中庭にあるテーブルに腰を降ろす。

既に待ち構えていたアリサとすずかから『遅いわよ』と憎まれ口を叩かれ(無論、本心ではないのは明確だが) 、『ようこそ、いらっしゃいました♪』と癒し系の微笑で和んでいた花梨となのはの鼻腔を、柔らかく甘い匂いがくすぐってくる。

匂いの発生源の一つ、高級そうなティーカップに注がれる琥珀色の液体。それは質の良い紅茶葉の醸し出す、上品な香りだった。

優雅な仕草でカップを持ち上げ、芳醇な香りと共に喉へと流し込めば、なんともいえぬ幸福感が胸を満たしてきた。

 

「ふぅ……」

 

思わず声が漏れてしまったが誰も咎める者はいない。なぜなら、なのはも、アリサも、すずかまでもが花梨と同じような微笑を浮かべていたのだから。

緩やかな空気で満たされたこのお茶会は、最近お疲れ気味のなのはと花梨の様子を察したすずかが発案し、アリサが同意した形で開催される流れとなった。魔導師として秘密裏に訓練(主にイメージトレーニング) を行ってきた花梨や魔導師としての教育を受けているユーノとは違って、魔法に出会って数日のなのはには連日のジュエルシード回収による負担は決して軽いものではなかった。

授業中にボーっとしたり、うつらうつら船を漕いだりと、普段の真面目な彼女を知るものからしてみれば不自然極まりない姿だった。

だからこそ、なのはに悩みの相談をして欲しいという希望も兼ねた今回のお茶会となったわけだ。

 

「そうそう、大した出来ではありませんがアップルパイを焼いてみたのよ。よろしければご賞味頂けるかしら? お嬢様方」

 

招かれた側の礼儀としてお土産を持参していた花梨が包みをすずかに手渡す。

包みを開くと、食欲をそそる果実独特の香りが、様するにとてもおいしそうな匂いが広がっていく。

彼女らと同じく、テラスのテーブルに座っていた忍やメイドのノエルに彼女の妹ファリンが覗き込んで、各々の歓声が上がる。

女の子は甘いものが好きというのは、どんな世界でも普遍な事実であった。

彼女らの視線を釘付けにするアップルパイを、ノエルから手渡された包丁で切り分けていくと、表面はさっくりと、中身はしっとりと言う表現がジャストフィットする美しい断面が現れた。

軽く焦がしが入ったリンゴの香りが食欲をそそる。

 

「もしかしなくても、これはあんたが?」

「ええ、そうよ……って言いたいんだけれど、残念。実は仕上げはお母さんに手伝ってもらったの」

 

アリサの問いかけに、花梨はにっこり笑顔で返すとそれに納得できない人物が一人、抗議の声を上げる。

 

「ウソ!? 私そんなのしらないよ!? お姉ちゃんだけズルイ!」

「仕方ないじゃない。パイを焼いている時、なのはは宿題でうんうん唸ってたトコだったしね?」

「あうううう~……そう言われてしまえば反論できないと、なのはは思うんです……」

「ふふっ……ゴメンね? 仲間外れにされたくなかったら、明日から宿題は手早く済ませることね?」

「うう~~っ! お姉ちゃんのイジワル!」

 

ぷくー、と膨れるなのはの頭をよしよしと撫でる花梨。その様子に頬を綻ばせるアリサたち。

なのはが元気になってきた様子に皆満足そうな表情浮かべていた。

切り分けたアップルパイを味わい終えて一息したところで、忍と恭也が席を外す。

ここからは恋人の時間だと言わんばかりのラヴ領域を形成する兄達の後ろ姿に、花梨は意地の悪そうな笑みを送る。

 

「おやおや、どうもお兄様たちはこれからアダルティタ~イムのご様子で……ニヤニヤ」

「ニヤニヤって口に出さないでよ。でもまあ、忍さんも恭也さんも幸せそうよね~」

「うん。お姉ちゃんも毎日楽しそうだし」

 

アリサとすずかも思うところは花梨とおおむね同じなのだろう、笑いながら恋人たちの消えていった方を視ていた。

その後、月村邸名物『おにゃんこ部隊』の隊員たち(月村家で飼われている大量の猫~ズ) と戯れながらお茶会は楽しく進んでいった。

しかし、そのままお開きに、とはいかなかった。

月村邸の庭の奥からジュエルシードが発動した反応が感じられたからだ。

 

『!! これって……ユーノ君、お姉ちゃん!?』

『うん、間違いないよ。これはジュエルシードが発動したんだ』

『そんな!? いったいどうして!?』

『なのは、落ち着いて。いまはとにかく封印に向かわないと! でもアリサたちの前で魔法は使えないし……ユーノ、何かいい案ない?』

『えっと……ッ! そうだ!』

 

ユーノが突然逃げ出して庭の奥へと向かう。その小さな身体はあっというまに花梨たちの視界から姿を消してしまう。

 

「ユーノ君!? あ、わ、私、ユーノ君を探してくるね!?」

「ちょっ……て、もう見えなくなっちゃった」

「なのはちゃんだけじゃ心配だよ。私も……」

「待って、すずか。私が行くわ。妹と家のペットのことは、家族にお任せよ」

 

腰を上げかけていたすずかにやんわりと断りを告げると、花梨もなのはたちを追いかけて庭の奥へと駆け出していく。

 

「原作だとフェイトとの初邂逅だけれど、なんかいやな予感がするのよね……それに、こういうときの勘はよく当るから」

 

全速力で木々の合間を駆け抜けつつ、ルミナスハートを起動させた花梨は、魔力による身体強化を行いさらに速度を上げる。

 

(なのは、ユーノ、私が行くまで無茶をするんじゃないわよ……!)

 

 

 

高町なのはとユーノ・スクライアは目の前の光景に呆然としていた。

ジュエルシードの反応を探知して向かった先にいたのは、かつてなのはが襲われた黒い塊な暴走体でも、凶悪な犬でもなく――子猫だった。

キャットである。にゃんこ様である。

くりくりしたおめめも、へんにゃりと垂れた耳も、コテンと首を傾げるその仕草も愛らしいいがいの言葉が浮かんではこなかった。

ただし、そのサイズがあくまで普通レベルであればだが。

なのはたちの視界には、同じ猫科動物であるライオンなど歯牙にもかけぬ巨大な毛玉がのっしのっしと歩いていたのだ。

アフリカ象? いいや、なのはの家にある道場くらいの大きさはあるのでは無いか?

おそらくは『大きくなりたい』という子猫の願いを聞き入れたのが、目の前の世界仰天映像で対象もとれるであろう光景の発端だった。

ジュエルシードは純粋な願いほど正しく叶える傾向があるので、雑念のない純真無垢な子猫の願いは正しく叶えられたわけだ(もっとも、加減と言うものは知らなかったようだが……)。

まさか子猫を見上げる日がこようとは……と、現実逃避気味に乾いた笑いを漏らすなのはに、いち早く復活したユーノから蘇生魔法(ツッコミ)が掛けられる。

 

「な、なのは、しっかり!? その気持ちはとってもわかるんだけれども、とりあえず今はジュエルシードの封印をしないと!」

「――はっ!? う、うん! そうだよね! あのままじゃ、すずかちゃんも猫さんのお世話に困っちゃうしね!」

「え!? えーっと、まあ、うん? ……困る困らない以前の問題なような気がしないでもないんだけど……と、とりあえずレイジングハートを起動させて!」

「了解だよ、ユーノ君! レイジングハート、セットアップ!」

【Yes master! Stand by ready……Set up!】

 

主にして相棒たる少女の求めに応え、待機状態の赤い宝石状態のレイジングハートから光が立ち上る。

ピンクの光に包まれたなのはの身体に魔力で構築された防護服……バリアジャケットが装着されていく。

杖状に変形したレイジングハートを手に取り、先端を暴走体の猫へと向けたところで――なのはの視界の外から金色の光が子猫に襲い掛かった。

 

「え!? な、何、何!?」

「あれは……魔力弾!? まさかっ!?」

 

困惑する二人を余所に、金色の魔力で構築された魔法の槍は、森の奥から次々に飛来し、子猫へと突き刺さっていく。

子猫の悲鳴が木霊する中、なのはは襲撃者の姿を捉えることができた。

それは金色の髪をたなびかせる黒い少女。

黒いマントにバリアジャケット、手にするデバイスに至るまで黒い様は、まるで死神を連想させる。

少女の名はフェイト・テスタロッサ。ジュエルシードの発動を察知して駆けつけてきた“Ⅴ”の仲間である魔導師であった。

木の枝の上に立った彼女は手にしたデバイス【バルディッシュ】を天に掲げる。

 

「バルディッシュ、フォトンランサーセット」

【Photon Lancer set……Fire!】

 

詠唱と共に展開される魔力の槍が一切の容赦もなく子猫へと殺到していく。

子猫の悲鳴が木々の合間を木霊する中、なのはが子猫を守ろうと飛び出そうと一歩踏み出した瞬間、彼女の足元にフェイトのそれよりも明るい黄色の魔力光で構築された魔力弾が打ち込まれた。

 

「きゃっ!?」

 

思わずたたらを踏み、尻餅をついてしまったなのはは、自分のすぐ後ろに何者かが降り立つ気配を感じて振り向こうとし――首筋に当てられた刃の冷たさでその身をギクリと硬直する。

 

「なのはっ!?」

「両者とも動くな。妙な真似をしなければ危害は加えない」

 

なのはを救うために魔法を発動しようと魔力を練り上げかけていたユーノは襲撃者のその一言で身動きが取れなくなってしまう。

襲撃者の手にある槍の刃部分は、なのはの首に添えられたまま。しかし襲撃者はなのはだけでなくユーノにも警戒の視線を送っており、相手は明らかに手だれの魔導師だと察したユーノに出来ることは何も無かった。

 

「なのはを放せ! 君達は一体誰なんだ!? それに、なぜジュエルシードを!?」

「フェイト、さっさとジュエルシードを封印するんだ。こんな連中に構ってやる必要は無い」

「……わかった」

 

矢継ぎ早に怒鳴るユーノには何も答えず、なのはを押さえている男の襲撃者に封印を促されたフェイトは己が愛機バルディッシュの先端を倒れ付した子猫へと向け封印魔法を放つ。

 

「ジュエルシード封印」

【Sealing】

 

封印処理されたジュエルシードが子猫の身体から離れてバルディッシュの中へと吸い込まれていく。

同時に、子猫の身体も光を放ちながら本来の大きさへと戻っていった。

非殺傷設定の魔法ではあったために、表面上傷は見当たら無いのでショックを受けて気絶しているらしい。

子猫に怪我が無いことに気づいて、ホッとするなのはの上から、冷徹な声がかけられた。

 

「さて、それでは今後の憂いを絶つためにも、お前のデバイスを渡してもらおうか」

「なっ!? そんなどうして!? 私たちはジュエルシードを――」

「貴様らの都合など知ったことか。断るなら手足の一本や二本、切り落としてもいいんだぞ?」

「ひっ!?」

「やめろっ!!」

 

グッ、と首に当てられた刃に力が篭り、なのはの首筋に赤い雫が流れ落ちる。

短い悲鳴をあげて震えるなのはの姿に我慢できなくなったユーノが駆け出そうとしたものの、魔力不足のためにいまだフェレットモードのままであったユーノの小さな身体は容易く踏み付けられ、拘束されてしまう。

くぐもった声を漏らすユーノを冷たい目で見下ろしながら、男は少しずつユーノを踏み付ける足に力を込めていく。

 

「学習しない奴だ……もういい。なら身体に教え込んでやるとしようか。先ずはこのフェレットからだ」

「ユーノ君!? お願い! やめてぇえええ!?」

 

なのはの悲鳴が響く中、無常にも男はユーノの身体を踏み潰そうとさらに力を込め――たところで真横から襲い掛かった薄い赤色の砲撃に飲み込まれて吹き飛ばされた。

 

「ぐぁああああっ!?」

 

木々をなぎ倒し、地面を何度もバウンドした先で漸く停止できた男が視線を上げると、そこにはなのはとユーノを庇うように立ちふさがる、栗色の髪をポニーテールにした白いバリアジャケットに身を包んだ少女の姿があった。

 

「お、お姉ちゃん! ユーノ君が、ユーノ君がっ!?」

「な、なのは、僕ならだいじょう……」

「はいはい、けが人は大人しくしてなさいね?」

 

手を翳して妹を落ち着かせながら、もう片方の手をユーノに向けて治療魔法を発動させている高町花梨は、妹たちを傷つけた敵を睨みつける。

 

「妹と友人にずいぶんな真似をしてくれるじゃない……覚悟は出来てんでしょうね?」

(原作とは違う流れ……! こいつも転生者ね。やっぱりフェイトサイドにもいたのね……それになのはたちを傷つけるってことは……!)

「チッ……!」

(やっぱりいやがったな、俺以外の転生者が……主人公と同じ顔ということは双子か? まあ、そんな事よりもさしあたっての問題は奴の実力がどの程度のものなのかという一点だけ、か。さて、どうするか……一度仕掛けてみるのも手か?)

 

事態の展開の速さになのはとユーノのみならず、フェイトまでも困惑して静観する中、周囲への警戒を維持しながらも間合いを詰めていく花梨と襲撃者の男。

 

「どうやらお友達にはなれそうに無いわね。 ――妹たちを傷つけた罪は重いわよ?」

「ああ、そうかい――それと前者については俺も同感だ。お前にはここで消えてもらったほうがよさそうだ」

 

その一言がきっかけとなって、両者はほぼ同時に飛行魔法を発動させて宙へと舞い上がる。

 

「ルミナスシューター……シュートッ!!」

【Shoot】

「ライトニングバレットッ!!」

【Fire】

 

共に魔力弾を打ち出しながら縦横無尽に宙を飛び交う花梨と襲撃者。

牽制代わりの誘導性を付与した魔力弾を互いに連射しながら、お互いの“能力”と力量を測っていく。

転生者同士の戦いでは、いかに相手の“能力”を把握することが出来るのかが重要に成ってくる。

彼女らの持つ“能力”はこの世界に生れ落ちる前に等しく神々から与えられたもの。故に、“無限の剣製”や“大嘘憑き”のように有名な力ほど、その性能や弱点もわかりやすい。

単純な魔導師同士の戦いでは互角の実力を持つ相手でも、本来この世界には無いはずの“能力”を使われてあっさりと戦局が覆されるようなシロモノも少なくないからだ。

相手の“能力”を見抜き、弱点をつく。これが“ゲーム”における転生者同士の戦闘の基本と呼んでよいだろう。

“Ⅳ”のようにペラペラ説明するようなものは例外で、自分の力を過信するがゆえの愚行と言える。――……もっとも、その愚行すら戦略へと変えてしまう怪物も存在するが。

 

花梨と襲撃者、共に己が“能力”は使わずにいたために、いまだ決定打のない状況に陥りつつあったが(それでも初心者のなのははもとより、ユーノやフェイトですら目を見張る高レベルの空中戦を繰り広げていたのだが)ここにきて動きがあった。

しばらく相手の様子を伺っていた両者だったが、やがてじれてきたように片方が手札を切ってきたのだ。

動いたのは――襲撃者の男。

動きを止めると槍型デバイス【トールギス】を持つ手を下ろし、握りこんだ反対の手を花梨へと向ける。

 

「? 一体何を――」

 

怪訝な表情を浮かべていた花梨だったが、次の瞬間には驚愕で両目を見開いていた。

襲撃者が握りこんだ手の親指をはじくような仕草をとる。するとクルクル回転しながら舞い上がるのは……一枚のコイン。

 

「あれは――!? ッ!? マズイ!!」

 

花梨が慌ててルミナスハートを振るって障壁を展開するのと、男が全身放電しながらコインを親指で弾き飛ばすのはほぼ同時の事だった。

 

超電磁砲(ちょうでんじほう)ッ!!」

 

放たれたコインは超電磁砲の名の如き速さと熱量を伴って花梨へと襲い掛かる。

打ち出されてからコンマ数秒で花梨へと着弾したコインは、障壁など紙かなにかの様に正面からぶち破り、花梨の左肩をかすり、彼女の肩肉を焼き切りながら虚空へと消え去っていった。

 

「っ!? ……ぅああっ!」

「お姉ちゃんっ!?」

 

左肩を押さえ、痛みに耐える花梨と、泣き声交じりのなのはの悲鳴が月村邸の庭に木霊する。

肩を抉られた激しい痛みと熱さに涙を浮かべつつも、花梨は襲撃者を睨みつけていた。

目を逸らせば次は殺される。そんな予感が花梨の中に浮かび上がってきたからだ。

そしてその直感は正しかった。

襲撃者が放電を振りまきながら、槍を構えて花梨へと突撃を掛けてきたからだ。

 

「おおおっ! ライジングスラッシュ!!」

【Rising Slash】

 

雷を纏った斬撃を体を捻って避わした花梨は、振り返りつつ、先のお返しとばかりにルミナスハートの杖先を男のわき腹へと押しつける。

 

「!?」

「喰らいなさい! ルミナスバスター!!」

【Luminous Buster】

 

ゼロ距離からの砲撃に飲み込まれた男はそのまま地面へと叩き落された。

爆音が響き渡り、粉塵が舞い上がる中、花梨は攻撃の手を緩めない。

 

「ルミナスハート、サテライトシフトいけるわね?」

【Yes master! 『Luminous Buster satelite shift』 Stand by ready!】

 

右手に持ったルミナスハートを天に翳すと、花梨の周囲を衛星のように旋回する光球が出現する。その数――十二。

 

「星を守護せし守人たちよ……無窮の海を照らす閃光と成れ!」

 

詠唱と共に光球の輝きは増し、一つ一つが直径一メートルほどの大きさに膨れ上がる。

同時に花梨の正面にも魔方陣が展開され、結界に閉じられた世界を真紅の燐光が照らし尽くす。

計十三の魔法陣より放たれるのは、決意と覚悟が込められし真紅の多重魔導砲――――!!

 

「ルミナスバスター・サテライトシフトッ!!」

 

ルミナスハートを魔方陣へと振り下ろすと同時、その魔方陣と周囲の光球から薄い赤色の砲撃が打ち出される。

怒濤の光が紡ぎ、膨大なる力の奔流と化した圧倒的な威力の込められた砲撃の嵐が、墜落した男目掛けて降り注ぐ。

直後、先ほどとは比べ物にならない程の大爆発が巻き起こった。

なのはとユーノは爆風に飛ばされないように地面に屈みこみ、宙にいたフェイトは慌てて高速移動魔法【ブリッツアクション】を使って距離をとる。

やがて煙が晴れた後には、無残に破壊されつくした嘗て森林であったものの残骸だけが残されていた。

青々とした木々は軒並み倒木し、地面には巨大なクレーターが無数に刻み込まれている。

圧倒的な殲滅魔法に全員声も出なかった。しかし花梨だけは苦い表情を浮かべつつ、別の方向……フェイトのいる方を睨みつけていた。

 

「避けられた、か……大したスピードね」

「――フン、少しだけ危なかったけどな」

 

花梨の呟きに答えるのは、いつの間にかフェイトの隣に移動してきていた襲撃者の男。バリアジャケットは所々破れ落ち、頬や二の腕に火傷のようなあとが見て取れるものの、いまだに戦闘可能な状態であることは、その戦意に満ちた瞳が悠然と語っている。何よりも目を惹くのが、彼の全身から迸る雷光。魔力の燐光と共に全身を包み込む雷が、大気を焦がす。

その姿はまさに、雷の化身たる雷神と称するに相応しい。

 

 

――――『雷光天承(ライトニング・クラウド)』――――

魔力変換技能により雷へと変換させた魔力と肉体を半融合させることにより、自らを雷光と化すことで文字通りの光速移動を可能とする“能力”。

全身を包み込む雷はそれ自体がAランクの魔法に相当する威力を内包しており、総ての攻撃に雷属性を付与する攻撃補助、触れた相手への雷熱によるカウンター、そして光速を叩き出す加速術式という三つの複数効果を同時に発現させることを可能としている。

完全な雷化ではないため、物理攻撃を完全無効化するには至らず、使用者本人以上の魔力が込められた攻撃ならばダメージを受けてしまうという欠点があるが、超光速機動が可能となった使用者に触れられる者が存在するとは非常に考えにくい。

つまり、天の怒りの代弁者と称される雷の化身に敗北の二文字など存在しないということに他ならない!

 

あっさりと戦局をひっくり返され、花梨の顔に焦りの色が浮かび上がる。

自分では一人を相手取るのが精いっぱいの現状、もしフェイトやその使い魔たるアルフたちに参戦されでもすれば、間違いなく自分たちは終わってしまう。ジュエルシードは総て奪われ、最悪の場合、デバイスを完全破壊される可能性も考えられる。

なのはたちを連れて一時撤退もやむなしか、とせわしなく思考を回転させる花梨だったが、不意に襲撃者から感じられる殺気が弱まっていく。そして、

 

「……フン。帰るぞフェイト。ジュエルシードを回収した今、ここにいる理由はなくなった」

「う、うん……」

 

帯電し、きな臭い空気が焦げ付くような匂いをまき散らしつつ油断なく桜を睨み付けていた男は完全に殺気を霧散させると、傍らに立ちすくんだままおずおずと、どこか怯えているような素振りを見せるフェイトにそう告げると、身を翻しこの場から立ち去ろうとする。

その時、背中を見せた男に向けて花梨が思わず声を掛ける。

 

「ねえ? 貴方は何番なのかしら? それくらいは教えてくれてもいいと思うのだけれど?」

 

どこか挑発じみた言葉。

その問いかけに、男はチラリと顔だけ振り返ると、

 

「……No“Ⅴ” バサラ・ストレイターだ。次にあったら始末してやる。覚えていろよ“Ⅵ”」

「ふぅ~ん? 私の事は良くご存知のようで……」

 

向けられた意味深な視線なぞどこ吹く風といった感じで、襲撃者……“Ⅴ” バサラはフェイトと共に月村邸を後にした。

後に残されたのは、左肩を押さえながら憎憎しげに敵の消えていった空を睨みつける花梨と、血を流す彼女にあわてて駆け寄るなのはとユーノ。

妹には泣きつかれ、ユーノには無茶しすぎだよ! と怒られながら治療魔法で切れた額の傷を癒しながら、再び合間見えるであろう明確な敵の存在を想い、花梨は内心溜息を吐くのだった。

 

 

――同時刻 とある次元の海――

 

「ゴホッ、ゴホッ……!! くっ……! 時間が足りない……!」

 

次元の海に漂う漆黒の建造物。

紫電の雷を放つそれは巨大な要塞とも、宮殿にも見て取れる。

世界と世界の狭間の空間、次元の海を進むそれは、次元航行機能を備えた『時の庭園』。

フェイトたちの家であり本拠地であり、彼女たちにジュエルシードの回収を命じた大魔導師『プレシア・テスタロッサ』の居城であった。

その最上階にある玉座の間にて、空間モニターを操作していたプレシアは突如咳き込み、口元を押さえる。

指の合間から零れ落ちるのは赤黒い液体。

己から零れ落ち、手の平に付着したそれをプレシアはいまいましげに睨む。

 

「いままでの散々繰り返してきたツケが廻ってきた、か……そう長くは無さそうね。 ――けれど」

 

前髪の合間から覗く双眼に映るのは病に蝕まれた己に対する悲観などではなく、悲壮なまでの――――“覚悟”。

魂すら掛け金にして、己の目的を果たさんとする強者の姿がそこにはあった。

 

(おそらく実行できる計画は今回が最後。それ以上は私の身体が持たないでしょうね……ジュエルシードの次元干渉能力を使って時空に穴をあけた先にあるという伝説の都『アルハザード』。そこでならきっと見つけられる筈! 私のただ一人の娘……『アリシア』を!!)

 

狂気とも取れるその姿を人が見れば、まるでロウソクの最後の瞬間、燃え尽きる間際に一際激しく燃え上がるようだと評しただろう。

腰を沈める玉座の傍らにあるテーブル。その上にある薬に震える手を伸ばし、その中身を分量も確認せず煽るように飲み込む。

しばし息を整え、ようやく発作がおさまってきた所で、ふと眠りについているアリシアの顔が見たくなり、アリシアのいる隠し部屋へと向かおうとするプレシアの背中に突然声が掛けられた。

 

「あまり無茶をしないほうがいいんじゃないか?」

「!? 誰!?」

 

時の庭園に何者かが転移してきたような反応は無かったはず。防衛システムもプレシア自身仕掛けたサーチャーも異常を探知していない。

フェイトたちが出払っている以上、現在ここにいるのはプレシアただ一人のはずだった。

だが確かに、何者かがこの玉座の間の、それも自分のすぐ後ろにまで近づいてきている!

玉座に立てかけていた杖型デバイスを手に取り、振り向きざまに魔力弾を放つ。

大魔導師と呼ばれることはある、神速の居合いを髣髴させる魔力弾は侵入者らしき人影に間違いなく直撃し――

 

「おいおい、そんな身体で無茶をするな」

 

まるでダメージを負った風も無く、平然とそう返してきた。

黒いパーカーに黒いズボン。目元が隠れるくらい深々とフードを被り、顔の左半分には包帯が巻かれている。

そこそこの魔力を感じられるから魔導師だと推測できるが、何故かプレシアの脳内では目の前の人物の警戒度が危険域に達していた。

目の前の人物の力を本能的に感じているのだろう。警戒を怠らず臨戦態勢のまま、けれど見た目は無防備を装いながらプレシアは侵入者へ問いかける。

 

「フン、侵入者にとやかく言われるいわれは無いわね……それで? 貴方は何者で何の目的でここまで現れたのかしら?」

「それはまあ、ごもっともで。 ……だが申し訳ないのだが、俺の正体とかについては諸事情によって話せなくてな。それで、ここに来た理由は――って、うん? はぁ?」

 

話の最中、突如視線をプレシアの左肩上辺りをマジマジと見つめるや、そのまま考え込みだした目の前の人物にプレシアは困惑しつつも、若干の苛立ちを込めて声を荒げる。

 

「ちょっと……!」

「あ~……すまない。一つだけ確認させてもらいたいんだが……よろしいか?」

「……何よ?」

「貴方の左肩に憑いてる金髪の少女っぽい幽霊はもしかして……貴方の娘さん? 存在感みたいなものが良く似ているし」

「え?」

 

――――いまこの少年はなんと言った?

 

私の左肩に憑いている? 金髪の少女? ……まさか。まさかまさかそんなバカなことがある訳――!!

 

「なあ、そこの譲ちゃん? ――……ああ、うん。俺はちゃんと見えてるし、声も聞こえてるぞ? それで君の名前は? ――へえ? 『アリシア』って言うのか?」

「――ッ!!?」

 

アリシア!? 何故その名前をこの少年が知っている!?

昔に会ったことがある? いやそれにしては年齢に折り合いがつかない! いや、それ以前に、奥の隠し部屋にいるアリシアの身体を見たわけでもないのに、何故この人物は私の左肩あたりを見つめなががら独り言を呟いている? それじゃあ、まるで――――!!

 

「――どうやら、少しお話をしたほうがいいみたいね……そうは思わない? 侵入者さん?」

 

幾分かの余裕と理性を取り戻したプレシアは、すっ、と目を細めながらそう提案した。

 

「へ? え、ええ、まあ、もとより取引がしたくてきた訳だからな……」

「ふうん、そう……それで? 貴方の名前くらいは教えてもらいたいのだけれど?」

「それくらいなら……まあ、いいか。 ……俺の名は“ダークネス”。まあ最も、お宅の小間使いな小僧あたりにはこう呼ばれているかな? ――No“Ⅰ”とね」

 

魔女と最強が出会う時、少女の未来は運命の環(さだめ)から外れだす。

ゆっくりと……けれど、確実に。彼女に待ち受けるのは救い無き破滅か、それとも……。

 

その総ては神のみぞが知りえていた――

 

 

【中間報告】

“ゲーム”の舞台時間軸:魔法少女リリカルなのは:無印

現在の転生者総数:八名

【現地状況】

“Ⅰ”:物語におけるキーパーソンの一人『プレシア・テスタロッサ』と接触。なんらかの取引を持ちかけた模様。

“Ⅴ”:仮の拠点であるマンションに帰還。接触した“Ⅵ”たちの戦力を分析中(フェイト、アルフは入浴タイム中)。

“Ⅵ”:妹と共に自宅に帰還。両親から怪我についてのお説教を受けた後、先の戦闘の件でなのは、ユーノと検証中。

 

【ジュエルシード回収状況】

“Ⅰ”:一個

“Ⅱ”:なし

“Ⅳ”:なし

“Ⅴ”:二個

“Ⅵ”(原作チーム):五個

“Ⅲ”及び“Ⅶ”チーム:二個

 

未封印残数:十一個

 




作中に登場した魔法解説

・ルミナスシューター(Luminous Shooter)
使用者:高町花梨
自動追尾型の魔力弾を放つ射撃系魔法。なのはのディバインシューターと同等の性能を持つが、弾道速度はこちらの方がやや速い(神サマ印のデバイスの性能故に)

・ルミナスバスター(Luminous Buster)
使用者:高町花梨
花梨が得意とする砲撃魔法。対象に向かって直進する収束タイプと一定範囲を薙ぎ払う拡散タイプの二種類が存在する。威力はディバインバスターとほぼ同等だが、チャージ開始から発射までのタイムラグはこちらのほうが短い。理由は同上

・ルミナスバスター・サテライトシフト(Luminous Buster satelite shift)
使用者:高町花梨
ルミナスバスターのバリエーションの一つ。フェイトの『ファランクス』を参考に開発された広域殲滅魔法。詠唱と共に十二の魔力スフィアを生成、デバイス本体のものと合わせて計十三の砲撃魔法をほぼ同時に放つことで対象を周囲ごと殲滅する。スフィアの生成やコントロールはルミナスハートが受け持っており、個々の射撃タイミングをずらすことで連射型に、対象の周囲を包囲するように設置してから放つ全方位殲滅型などのバリエーションも存在する。


・ライトニングバレット(Lightning Bullet)
使用者:バサラ・ストレイター
速度重視型の射撃魔法。誘導性をもたないフォトンランサーと同義。

・ライトニングスラッシュ(Lightning Slash)
使用者:バサラ・ストレイター
雷へと変換させた魔力を刃に付与《エンチャント》して斬りつける近接斬撃系魔法。

超電磁砲(ちょうでんじほう)
使用者:バサラ・ストレイター
魔力コーティング済みのコインを超電磁加速を加えて放つ射撃系魔法に分類される技術(わざ)。魔力をエネルギー源にしている(正確には魔力を変換させた電気) とはいえ、ほぼグレーゾーンな質量兵器に分類される。周囲への被害も大きく、移動中には使用不可能という欠点がある。
元ネタは『とある科学の超電磁砲』の主人公の代名詞から。
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