魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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『無印》編、最終章開始


星と雷の守護者VS欲望に塗れし勇者

月村邸での邂逅から幾分ほど時は過ぎた。

 

あの後、ジュエルシードを発端とする今回の事件はほぼ原作通りに進んでいった。

なのはにまで敵意を向けてくる新たな転生者 バサラ・ストレイターの相手を花梨が請け負っていたことで彼の原作介入を防いでいたからだ。

温泉街でのなのはとフェイトの戦闘に、市内で二人の魔力衝突が原因で起こった時空振動。それを察知して現れた時空管理局。

フェイトの事が気になるなのはは戦艦アースラ艦長『リンディ・ハラオウン』に協力を要請、ユーノもなのはのサポートのために同乗し、なし崩し的に花梨も協力することとなった。葉月とアルクは裏方に徹しようとアースラと接触はせず、身を隠したままだったが。

そしてなのはとフェイト双方同意の上で、海上大決戦が繰り広げられて、見事なのはが勝利するも、その瞬間を狙い済ましたような次元跳躍魔法を受けてしまい、フェイトが墜落。フェイトサイドが回収していたジュエルシード九個を奪われてしまう。

だが、アースラのオペレーター エイミィの手腕により先の魔法を逆探知、ついに時の庭園の座標を特定したのだ。

だが、その後の展開は原作とは異なっていた。

 

まず、時の庭園を覆うように展開された転移魔法の妨害術式により原作にあった先行の武装隊を送り込むことが出来なかった。

このため、アリシアの遺体を武装隊員が発見することも、通信を介してのプレシアとの問当も起こらず、フェイトがこの段階で真実を知ることもなかった(リンディたち事情を知る者たちが伝えるのに戸惑ったため)。

そして庭園を覆う、動力炉と直結しているのであろう大出力の防御フィールドを突破するのは、アースラの全エネルギーを費やしても一度が限界であり、ならば全兵力を一度に送り込むしかないとリンディは判断を下した。

こうして、現場指示のために赴いたリンディを中心に、クロノと武装隊、なのは、ユーノ、花梨たち民間協力者。それとなのはたちに説得され、母の真意を知ろうと同行してきたフェイト、アルフ、そしてバサラ。

明確に敵意をあらわにし、管理局員にも攻撃を繰り返したバサラを同伴させることは危険との意見が出たが、庭園の内部構造に詳しい人物であり、基本的にフェイトの味方であるために、監視付きではあるが同伴を許可された。

最も本人は『プレシアに真実を聞かされて落ち込むフェイトを支えるのは自分だけだ』という考えの下、同伴しているにすぎないわけだが。

 

「言っとくけど、妙な真似をすれば後ろからでも撃つからね」

「フン、うるさいぞ“Ⅵ“。もとより俺はフェイト以外の連中がどうなろうと知ったことじゃない。お前とは後でしっかりと決着をつけてやるからな。覚悟しておくんだな……っ、ふん!」

「ふんっ! それはコッチの台詞よ……っと!」

 

花梨とバサラは互いに罵しりあいながら、防衛に出てきた傀儡兵を一体、また一体と撃破してゆく。

だが、傀儡兵はその後ろから次々と溢れ出してくる。

 

「これじゃあ、きりがないよ……」

「まだ先は長いよ。オーバーペースにならないように気をつけて」

「母さん……こんな事までして、一体なにをしようとしているの……?」

「大丈夫だよ、フェイト! とにかく、玉座の間までいって、あのババァを一発分殴る! そんでもってあらいざらい白状させる! これが一番だよ!」

 

不安げに表情を曇らせるフェイトを元気づけようとしたのだろうが、この場ではアルフのそれは慰めにもなっていなかった。

母は間違いなく犯罪者として囚われてしまうだろうと理解してしまっていたフェイトは、さらに『ズーン……』と効果音が聞こえてきそうなくらい落ち込んでしまう。俯く細い背中に縦縞ののれんがのっているように見えるのは果たして気のせいであろうか?

 

『アルフ(さん) ……』

「え? あの、その……ご、ゴメンよ、フェイトォ~!!」

 

 

「何をやっているんだ彼らは……」

「まあまあ、良いじゃないクロノ。ちゃ~んと戦闘も疎かにしていないみたいだし♪」

「なんでそんなに楽しそうなんですか艦長……いえ、まあ、おっしゃりたいことはわかるんですよ? でも、武装隊の皆が必死になっている隣で、あんなゆるい空気を作られるのは如何な物かと……それにおしゃべりの片手間みたいに戦闘をこなしているのも、いろいろと理不尽さとか感じてしまうのですが……」

「あらあら、男の子の嫉妬は見苦しいわよ? 彼女達の輪に入りたいなら、行ってもいいのに♪」

「そんなことは、ひとっことも言ってないでしょう!? 僕を寂しいやつみたいに言わないでください!」

 

 

「なあ、俺たち必死にやってるよな? ムダ話してないで全力だよな? なのに、絶賛おしゃべり中なあの人たちのほうが戦果が上って現実をどう思うよ?」

「言うなよ悲しくなるから……」

「畜生……これがエースと量産機の違いなのか」

「じゃあさ? 俺たちも何かこれだっ! てのを持てばいいんじゃね?」

「一利あるな……例えばどんなだ?」

「――俺、この戦いが終わったら彼女に告白するんだ……」

「ちょっと待とうか、盟友!? なぜにこのタイミングで死亡フラグを立てるような真似をするんだ!?」

「いやいや、やっぱりこれくらいしないとキャラの濃さで勝てな――」

 

び~っ! ちゅど~ん! ← 死亡フラグを立てた局員に傀儡兵の放ったビームが直撃した音。

 

「あぶろぱぁああああっ!?」

「隊員Aぇえええええっ!?」

「バカ野朗……! 無茶しやがってっ……!」

「いや、それよりも効果音がやたらとしょぼくなかったか!? 何で向こう(エースサイド)は『ズグァアアアン!』とか『ドゴォオオオオンッ!』とかカッコいいのに、俺たちの方は『び~っ』とか『ちゅど~ん』とか気の抜けそうな音なんだよ!? 酷くね!? これ酷くね!?」

「先輩、諦めましょうよ……俺たちは所詮こんな扱いが関の山なんすから……」

「隊員C……! クッ! 涙が止まらんぜ、チクショウめ!」

 

コソコソ……

 

「ん? 待て、何処に行く新人隊員A?」

ビクッ! と肩を竦める最近増員された新人武装隊員の一人を襲うじとーっとした視線の数々。みれば互いに肩を抱き合い、むせび泣いていた武装隊たち全員の視線が彼に降り注いでいた。

「あ~、いや~、実はその……自分、どちらかというとアチラ側でして……」

『……ほお? それで?』

「ですので、ここは一つ本来いるべき場所に戻った方がいいんじゃないかと思ったりしちゃったりしたわけでして……」

『……で?』 

「いや、ですから……その……」

『……』

「……短い間でしたが、いろいろお世話になりましたっ! それじゃ!(シュバッ!)」

『待たんかいコラァアアッ!! 何、自分だけスポットライトを浴びて、いい思いしようとしとんじゃワレェエエエっ!?』

「うわ、速!? てか、ちょ、まっ! ぎゃぁああああっ!?」

 

 

「……ハァ」

 

突然、内輪もめを始めた部下の姿にクロノは頭の痛みを堪えることができなかった。

懐から頭痛薬を取り出す彼の背中に哀愁が漂っているのは、気のせいでは無いだろう。

クロノ・ハラオウン 十四才 彼の胃袋に穴が開く日もそう遠くない事だろう。

 

「急に傀儡兵が出てこなくなったけどどうしたんだろうね、ユーノ君?」

「う~ん……大魔導師も空気を読んだってことじゃないかな? ――多分」

「あらあら? それでも油断しちゃ駄目よ? 戦いはお家に帰るまでが戦いなんですからね?」

「「「「は~い!」」」」

 

こちらはこちらで、戦闘の合間にのんびりと談笑タイム。さりげなくリンディまで混ざっていたりする。

いったいどこの小学生だ……あ、年齢的には小学生だった。

 

――こいつら、ほんとにやる気あるのかな?

 

なのはたちとは別ルートで庭園に忍び込み、様子を伺っていた“とある転生者“は、主人公勢の緩やかさにそんな感想を抱いたとかそうでないとか。

 

 

「よう、遅かったじゃあねえかよ。待ちくたびれたぜ」

 

庭園の中央部に位置する大広間。天を仰ぎ見るほどの高さのある吹き抜けの空間になのはたちがたどり着いた時、数多くの傀儡兵のものと思われる残骸で出来た山の上に、一人の人物が仁王立ちして待ち構えていた。

口元に浮かぶのは慢心に満ちた、歪んだ笑み。

蒼光の鎧を全身に身に纏った、伝説の戦士の力を与えられた転生者。No.“Ⅳ”(ナンバー・フォース) 新藤 荒貴がなのはたちの行く先を阻むように仁王立ちしていた。

 

「……何者だ!」

「チッ……うるせぇんだよ、三下が! 雑魚は雑魚らしく俺様の視界から外れてろ、このボケが!」

 

ここにきて正体不明の魔導師……らしき人物の登場に管理局員としてお決まりの問いかけをしたクロノに、荒貴ははき捨てるように返してきた。

その不遜すぎる言葉に一瞬、スティンガーレイを打ち込んでやろうか? などと物騒な考えを思い浮かべたものの、苦労人スキルで磨かれた強靭な理性でなんとか思い留める。

それでも頬がヒクついているところから見て、内心怒りで煮えくりまわっているらしかったが。

 

「アンタ! 一体何者だい!? アンタみたいな嫌な匂いのする奴なんて、あたしもフェイトも知らないよ!!」

「何……? アルフ、それはどういう意味――」

「“Ⅳ”……。まさかこのタイミングで仕掛けてくるなんてね」

 

クロノの声を遮るようにポツリと呟いたのは高町花梨。

その視線は先ほどまでとは比べ物にならないほどに鋭く、敵意と戦意に溢れていた。

 

「お姉ちゃん……?」

 

様子がおかしい姉の姿になのはが呆然とする横で、バサラが戦闘体勢を維持しつつ花梨の傍に寄り、声を掛ける。

 

「おい“Ⅵ”? アイツの事を知ってるなら、奴の情報をあらいざらい話せ」

 

ただし、それは問いかけではなく確認だったが。

 

「――いいわ。ただし取引よ? 私の知る限りの情報をアンタに教える。だからアイツを倒すのに手を貸しなさい」

 

バサラは花梨からの提案に少し驚く。彼の知る限りでは、No.“Ⅵ”(ナンバー・シックス)こと高町 花梨は“ゲーム”自体に否定的で、参加者同士の潰しあいを嫌っている節があった。実際、海鳴市での戦闘中に、停戦を呼びかけられたり、協力を要請されたりしたことがあるバサラからしてみれば、エンカウント直後からいきなり戦闘体勢をとる花梨に不自然さを感じていた。

 

「いったいどういう風の吹き回しだ? “ゲーム”を拒絶して、参加者同士で協力し合うことで戦う以外の解決策を見つけ出そう、とか言ってたくせに?」

「葉月たち……海鳴市にいる仲間からコイツについて連絡を受けているのよ。“ゲーム”に進んで参加している上、自分をこの世界の主人公とか勘違いしているオツムが逝っちゃってる奴がいるってね」

「――納得。つまりこいつは二次創作でよくある勘違い系って事か?」

「まあ、そんなとこね。――ああ、それからこいつの目的だけれども……なのはやフェイトたちで自分のハーレムを作るのが狙いらしいわよ?」

「――よし、殺そう。“Ⅵ”、協力してやるから、こいつだけは絶対にここでぶっ潰すぞ」

「言われるまでも無いわよ。妹たちの貞操がかかってるんだから! ――みんな! こいつの相手は私とバサラが務めるわ! みんなは先に進んで!」

「フェイト! アルフ! お前たちも先に行け! このゲスは俺らの相手だ!」

 

花梨とバサラは各々のデバイスを構えながら、仲間に先へ進むよう促す。

 

「そんな、お姉ちゃんどうして!?」

「バサラ……!?」

「何を言っているんだ君達は!? そんな勝手なこと認められるわけが……!」

 

当然のように否定の声が上がるが、花梨が皆の反論を遮るほどの大きな声で怒鳴り返す。

 

「いいから行きなさい! ここに来た目的を忘れたの!? 今は少しでも時間が惜しいんでしょうが! それ以前に、コイツの相手はみんなには――!」

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ、クソ雑魚共が! とっとと死ねよ! 『ベギラマ』ッ!」

 

主人公である己の前で余裕綽綽に駄弁っている(と荒貴には見えていた)相手に苛立ち、感情の赴くまま攻撃の態勢へと移る。

右手を縦に、左手の指先を右肘に触れるように水平に構えた荒貴の右腕から破壊光線が花梨たちへと向けて放たれた。

 

「ッ!? ルミナスハートッ!!」

「トールギスッ!」

【【Protection】】

 

突然の奇襲に反応できた花梨とバサラが展開した防御シールドによって閃光魔法『ベギラマ』を何とか防ぐ。

だが、元々広範囲殲滅を目的に非情に幅広に放たれていた破壊光線は、花梨たちの側面を通り抜け、周囲に破壊の傷跡を刻み込んでいく。

所々に飾られていた高級そうな美術品の数々は軒並みガラクタへと姿を変え、広間の壁は次々に風通しがよくなっていく。

破壊の奔流が止むと、後に残ったのはひび割れ、今にも崩れ落ちそうな庭園の姿。彼女らの家とも言える場所が一瞬で凄惨な有様になった光景に、幼い頃から過ごしてきたフェイトやアルフはなんともいえない表情を浮かべ、クロノやリンディといった管理局員は明らかに非殺傷設定でない攻撃を放たれたことに警戒を顕わにする。

 

「チッ、耐えやがったか」

「君は……! 自分が何をしているのかわかっているのか!? 非殺傷設定もなしにあんな攻撃を出すなんて……! もし一歩間違えば、人の命に関わるところだったんだぞ!?」

「はぁ? 何を寝ぼけてんだ、テメェ?」

 

心底何を言っているのかわからない。そう言いたげに荒貴はあっさりと告げる。

 

「俺を不愉快にしたテメェらクズなんか、くたばった所で問題なんざあるわきゃあねぇだろ~がよお!」

 

ムカつくから斬り殺す。目障りだからブチ殺す。反抗するから消し飛ばす。

野生動物ですら持ち合わせているであろう最低限の矜持すら微塵も感じさせない、どこまでも傲慢で歪みきった欲望しか感じられない男だと、数多くの犯罪者と対峙し、捕縛してきた管理局員であるクロノやリンディは直感した。

『己は特別である』という盲信を宿したまま生れ落ち、その身に宿す強大な力を恐れられてずっと一人きりだった荒貴に他者を思いやる気持ちなどあろうはずもない。

あるのは、純粋な欲望。敵《ゴミ》を壊し、獲物《オンナ》を犯し、自身が全能たる神と成ることを願っている天上の神たちすら己が眼下にひれ伏させたいという分不相応なまでの欲望、ただ一点のみ。

 

「~~っ!? 君はっ!?」

「落ち着きなさい、ハラオウン執務官……。“Ⅳ”君――だったかしら? 管理局提督の名において命じます。直ちに武装解除し、大人しく投降しなさい。今なら、多少の過剰防衛という形で収めることが出来ないこともありませんよ?」

「ハァ?? アンタら、ホントに頭おかしいんじゃねぇの? 主人公様なこの俺が、テメエらクズ共に従う理由が何処にあるよ? 脳みそ腐っちゃってるんじゃ、ありまちぇんかぁ~~?? ギャハハハハハハァ!!」

「――もういいでしょう、リンディさん。アイツに投降なんて呼びかけてもムダですよ。だってアイツ、自分をこの世界の中心人物……主人公みたいに思い込んでるんですよ。そして今の奴の目的は間違いなく、私とバサラの命。それになのはやフェイトたちの身体なんですから」

「なるほどな、よーくわかったぜ……あのクソ野朗はどうしようもない下種だってことがな! おい! あんたらは早く先に行けよ! これ以上あんな奴の視線を受けてちゃ、フェイトの身体が腐っちまうぜ!」

「で、でも、花梨さん? 彼が危険な人物だと言うことはわかったけど、貴方たちだけに任せるのは……」

「わがままばっかりで本当にすみません、リンディさん……でもこれは私たちの問題なんです。今はまだ事情を話すことはできませんが……それでもお願いします。この場は何も言わずに、私たちを信じてもらえないでしょうか」

 

あくまで自分たちだけで戦おうとする花梨と管理局員として、そして一人の母親としていまだ幼い花梨たちにあんな異常者の相手を任せるのは心苦しいリンディ。両者の視線が交差し、互いに目線を逸らさずに数秒の時間がたち――リンディが困った風に溜息を漏らした。

 

「しょうが無いわね……でも、これだけは約束して頂戴。必ず無事で戻ってきなさい。――いい? これは命令よ?」

「リンディさん……! はい!」

「へいへい……いいから、はよいけ」

 

花梨は不恰好な敬礼を返しながら、バサラはそっぽをむいたままで返答を返す。

クロノやなのはが反対の声を上げていたが、今は少しでも時間が惜しいということ、まずはプレシアの身柄の確保が最優先だと説き伏せられ、身を引かれる思いを感じながらも、先に進んで行った。

 

「意外ね。なのはたちをスルーするなんて」

 

先に進んでいくなのはたちを妨害しなかったことに疑問を覚えた花梨が問いかけると、荒貴はフン、と鼻を鳴らしながら答えた。

 

「なのはもフェイトも俺のハーレムの一員になるんだ。強すぎる俺があいつらと戦ってしまったら、うっかり殺してしまうだろうが」

「とことん下種な返答ありがとよ……なら、こいつはせめてもの礼だ。大人しく、くたばっとけ!」

【Rising Bullet】

 

挨拶代わりに、電気属性の付与された魔力弾が放たれた瞬間、時の庭園内における転生者同士の戦いの火蓋が切って下ろされた。

 

「ルミナスバスターッ!!」

【Shoot】

「ライジングバレット!!」

【Fire】

「効くかよ、んなモンがよぉ!! 『ベギラマ』ッ!!」

 

薄い赤色の砲撃と鮮やかな黄色の魔弾が白く輝く光の奔流に飲み込まれる。

迫りくる非殺傷設定の無い攻撃の射線からはじけるように回避すると、攻撃直後で硬直している荒貴に、『雷光天承《ライトニング・クラウド》』を発動させたバサラが突進を仕掛ける。

 

「トールギスッ! モードチェンジ!」

【Yes sir! 『Spiral mode』】

 

バサラの叫びに応じて、彼の獲物である【戦刃槍トールギス】がその姿を変える。

薙刀に近い形状だった槍刃部分が螺旋を描き、巨大なドリルへと変容を遂げた。

貫通特化型形態『スパイラル』モードと成った愛機を両手で構え、加速をそのままに無防備な荒貴へと突き出す。

狙いは――右わき腹!

 

「喰らえ! スパイラルシェイバー!!」

 

唸りを上げる穿孔角。だが荒貴の表情から余裕の色は消えない。荒貴は放っていた魔法をキャンセルすると、右手に装着された剣を無造作に振るう。

 

「おらぁ! 失せな!」

 

振るわれた刀身から巨大な魔力刃が発生し、まるでカマイタチの様に石床を切り裂きながらバサラへと迫る。

その攻撃に対してバサラは真横にラウンドシールドを形成、それを足場に蹴るすることで無理やりに方向転換し、ギリギリの所で斬撃を回避する。だが荒貴の攻撃はまだ終わらない。続け様に右腕を振り回し、周囲の被害などお構い無しに斬撃を放ち続ける。

 

「おらおらおらおらおらぁ! どーしたよ、このクソ雑魚共が! でかい口叩いた割には大したことねーなぁ!?」

「ちいぃ! 調子に……!」

「落ち着きなさい! 挑発に乗っちゃ駄目よ!」

 

癇に障る言葉しか放たない荒貴に、沸点が低いために今にも突っ込みそうなバサラを宥めつつ、花梨は冷静に荒貴の戦力を分析してゆく。

 

(魔力ランクはだいたいSランクくらい? ってところかしら……。それよりも厄介なのは奴の“能力”ね)

 

荒貴の異常性や“能力”について、事前に葉月という情報源から知り得ていた花梨は、こうして本人と対峙することでそのデタラメぶりを再確認し、舌打ちを漏らす。

一言で言ってしまえば、単なる『思い込み』。けれども、病的なまでにこり固まったソレは、世界の理を超えて異常なまでに強力な“能力”として完成してしまっている。

荒貴の“能力”を破るには、迷いなき思い込みを生み出す心をへし折ることでしか不可能。されども、その方法が全く思いつかない。

当たれば手足の一本は覚悟しなければならないだろう攻撃を紙一重のところで回避し、余波である衝撃波に煽られながらも何とか打開策を模索していた花梨だったが、ふと、なにか引っかかるものを感じた。

歯の間にほうれん草の切れ端が挟まってしまったような(お下品) 、なんとももどかしい様な変な感じ。

 

(あれ……!? これって、まさか!?)

 

この状況を一変させられるかもしれない打開策に思い当たり、花梨は思わず、一瞬だけ集中を乱してしまった。

それは本当に刹那の、コンマ数秒の空白だった。だが、この嵐のような攻撃が繰り出される中では、致命的な隙でしかなかった。

 

「ハッ! 動きが止まってんぜ~~!? もらったぁ!」

「しまっ……!?」

 

無論、荒貴がその隙を逃すはずも無く、躊躇なくロトの剣を振るい、一際大きな斬撃が放たれる。

遮るもののない空間を恐るべき速さで迫りくる死の具現に、花梨は反射的に目を瞑ってしまう。

死を覚悟した彼女だったが、彼女の感じた痛みはどれほど待とうとも来ず、すぐ近くで甲高い音が鳴り響くだけだった。

一体何が? と花梨が目蓋を開いた先では、まるで花梨を守るように立ちふさがり、幾層もの防御魔法を展開して攻撃を防いでいるバサラの背中が映った。

 

「“Ⅴ”? いったい、どうして……?」

「ケッ! 勘違いすんなよ! こいつを倒すには、今の俺一人じゃ無理らしいからな! ただそれだけだ!」

 

憎まれ口を叩きながらも、バサラは魔力障壁が破られるたびに新たな障壁を展開するという無茶な方法で何とか攻撃を防いでいる状態だった。

無論、そんな方法が身体にかかる負担が小さいわけも無く、滝のような汗が頬を流れ落ち、石床を踏みしめる両足はガクガクと振るえてしまっている。だが、花梨に見えない彼の瞳は、自身が無意識に起こてしまったこの行動に混乱で揺れていた。

 

(何をやってるんだ俺は……! 今まで仲間なんて要らないって、ずっと一人でフェイトを助けてきただろうが! なのに何で今更、俺はコイツを庇ってるんだ!?)

 

バサラこと“Ⅴ”は“Ⅵ”……高町花梨と相容れない存在である。月村の屋敷で出会ってからずっとそう考えてきた。

この、生き残れるのは一人だけというサバイバルゲームの参加者でありながら、戦いを否定するおかしな奴。それがバサラの抱く、高町花梨という少女の印象だった。敵である筈の他の転生者たちと言葉を交わし、手を取り合い、同じ仲間として“ゲーム”から逸脱する方法を、皆が死ななくて良い方法を探しているのだと彼女は言った。

むろんその中には、今ここにいる“Ⅳ”のような、敵としかならない相手も存在はしている。それでも彼女は諦める様なことはせず、皆が笑顔で迎えられる未来を探しているのだと笑顔で豪語する強さを持っている。

しかし、バサラにはその考えに賛同することは出来ない。どうしても出来ない理由があったからだ。

 

(もし……俺が人並みの寿命を持っていれば、もっと自然にこいつ等の仲間になれたんだろうかな……?)

 

その理由は彼の寿命。元々、プレシアに生み出された人造魔導師であるバサラは、ジュエルシード回収の為だけに用意されたようなものだと言って過言ではない。故に、彼の肉体は元々長期間生きていられないように最初から定められていたのだ。

だからこそ、残された時間が今しか無いバサラは、この先およそ一〇年以上生き残ることを前提に考えている花梨の考えにどうしても賛同できなかった。自分は“ゲーム”に関係なく、もうじき終わってしまうと言うのに、彼女らには確実に未来がある。

故に他の転生者を妬み、羨み、嫌悪して、半ば依存のようにフェイトへの執着という歪んだ想いに囚われるようになっていってしまう。

だが此処にきて、“Ⅳ”という共通の敵の存在が、奇しくも相容れないはずの存在との共闘という事態を引き起こした。

根本的に同じ境遇とも言える間柄の人物との共闘は、自分は最後まで一人なのだと諦めかけていたバサラの心を確かに揺り動かした。

それはほんの僅かな変化でしか無かったのだけれども、たしかに、彼の中にある何かを変えた。

風が吹けば吹き飛んでしまうほどに小さく、本人も気付かないレベルのものではあったが、確かにそれは彼の心に存在した。

それを世の人々は称してこう呼ぶ――“友情”と。

ジュエルシードを巡る戦いの中で幾度もぶつかり、杖と槍を交わし続けたことで知らず知らずの内に芽生えていた感情が、命の危機に瀕する事で無意識に表層へと浮かび上がってきたわけだ。

防御障壁を展開し続けながら、バサラはそのことに何と無くではあるが気付き始めていた。だが、もう今更だと己の心をごまかし、意識を目の前の戦闘へと戻す。と同時に、なにやら対策を思いついたらしい花梨へ、怒鳴るように問いかけた。

 

「おい、“Ⅵ”!? 何かいい手でも浮かんだのか!?」

「え、ええ。いい手っていうか、なんというか……アイツの様子を見て何か気付かない?」

「は?」

 

言われ、障壁越しに荒貴の姿へと目を凝らしてみてはみるものの、相変わらず不遜な態度そのままにめちゃくちゃに右手を振り回して斬撃を飛ばしまくっている。剣を振るう上で必要な下半身の使い方とかも、素人丸出しで、どう見ても能力任せな素人にしか見えない、だがその能力が一級品であるために、此処まで追い詰められているわけなのだが。

実際、バサラは戦闘開始より『超電磁砲』を十発近く放っており、その内の三発は間違いなく直撃したはずだ。だが『超電磁砲』は効果が無い、あるいは無効化されているらしく、目立ったダメージは見受けられない。

下手な放電は無意味でしかなく、まさに手詰まりな状況だというのに、本当に打開策があるのだろうか……?

バサラのそんな考えを感じ取ったのか、花梨が言う。彼女の気付いた、荒貴の致命的な欠点を。

 

「あいつ、戦闘が始まってから殆ど動いていないのよ。最初は動く必要は無いとか考えてるのかと思ってたんだけど……多分、違う。足の運び方とか、身のこなしとか、なんていうか、てんでバラバラなのよ」

「それは……まあ確かにな。けどそれがどうしたっていうんだよ!?」

 

必死になって障壁を維持しつつバサラが悲鳴のような叫びを上げる。

 

「すこしは落ち着いてよ! いい? アイツはおそらく格闘技は愚かまともな戦闘も殆どした事が無いんだと思うわ。精々、無機物相手に能力の試し打ちくらいじゃないかしら? だから立ち止まって遠距離攻撃しかしてこないのよ。騎士の得意な近接格闘をしてこないのも、きっと接近戦の経験が殆ど無いのが理由よ。だったら……!」

「近接戦闘に持ち込めば勝ち目は十分にある、って事か……! けど、どうする!? こんな広域斬撃技の雨霰を潜り抜けるのは、さすがに骨が折れるぜ!?」

「一つ、試したいことがあるの。あいつの性格ならきっと引っかかるはず! “Ⅴ”……ううん、“バサラ”。今さら手を取り合ってくれなくてもいい。この瞬間だけでもいい。だから、お願い! 私に力を貸して!!」

 

真摯な瞳に覚悟の色を映しながら真っ直ぐ見つめてくる花梨に、バサラはばつの悪そうにガシガシと乱暴に頭をかきむしった。

 

「……チッ! あーもー、わーったよ! で? 俺はどうればいいんだ!?」

「一気にアイツとの距離を詰められる技か何か無い!? なのはのACSみたいな!」

「それなら……ある! だが、あの弾幕、っていうか斬幕? を何とかしないと距離を詰める前に叩き落されて終わりだぜ!?」

「そっちは任せて! ルミナスハート!」

【All light Master!】

 

花梨の想いに応えるように、ルミナスハートのコアが激しく点滅を繰り返す。主の戦意に呼応するかのように、彼女の愛機もまた対峙する強敵を打倒するための起死回生の一手をとる。

花梨はルミナスハートを荒貴に向けて翳すと、無防備なその身体を光の帯が縛り上げてゆく。バインドと呼ばれる拘束魔法の一つ、『ストラグルバインド』だ。

 

「今更バインドだぁ? ハッ! しゃらくせ――んだとぉ!?」

 

赤く輝く光の帯に拘束されても容易く破壊できると踏んでいた荒貴は嘲笑を浮かべつつバインドを引きちぎろうと腕を振り上げようとし――その表情を驚愕で染め上げた。

見開かれた目線の先、振り上げた腕の先に『リングバインド』がいつの間にか展開されていたからだ。

不可視となっていたそれに自分から腕を突っ込む形になった荒貴は、呆然とした表情を浮かべて気を逸らしてしまう。――そう、戦いにおいて決してしてはならない悪手である、『相手から目線を外してしまう』ということを、己は強者であるという驕りゆえに犯してしまったのだ。

そしてその千載一遇の好機を逃すほど、この二人は甘くは無い。

 

「受けてみなさい! バインドのバリエーションを!」

【Cartouche Bind!】

 

花梨の叫びに呼応するように、ルミナスハートも彼女の魔力を吸い上げ、演算処理能力をフル稼働させて術式を高速展開してゆく。

足元に発生した魔法陣からは鎖状のバインド『チェーンバインド』が蛇の群れの如き動きで床を疾走し、身動きの取れない荒貴へと襲い掛かる。

さらにこれで終わりでは無い。荒貴の周囲の空間にも次々に魔法陣が展開され、そこからも極太のアンカー状のバインドが次々に襲い掛かってゆく。たちどころに荒貴は鎖や帯、リングといった様々な形状のバインドに雁字搦めにされてゆく。

これをされた側からしてみれば溜まったものではない。

何しろバインドを壊しても壊しても、その上から次々に新しい拘束具が被さってくるのだから。

荒貴が力に溺れていたために――バリアブレイク等の技術を習得していないこともあるが――花梨の保有魔力の六割を費やした拘束魔法の乱れ打ちで、とうとう狂った勇者を抑えることに成功したのだ。

だが――

 

「ハァ、ハァ……ちぇ。やっぱ、このまま終わってはくれないわね」

 

巨大な毛糸球状になったバインドの塊が内側から大きな衝撃を与えられてその輪郭を大きく歪める。

花梨渾身の攻撃も、基本性能に差がありすぎる相手には足止めが精一杯だったらしい。どんどん歪み、魔力が雲散してゆく光景を目にした花梨の表情には、しかし、悲壮の色は無かった。

逆にニヤリ、と不敵な笑みを浮かべながら、今まさにバインドの檻から這い出してきた荒貴を睨んでいた。

 

「チッ……!! このクソアマぁあああ!! 優しくしてやったらチョーシんのりやがってぇぇええええ!! ブッコロす!!」

「あらら……小物臭、ここに極まれりね。あ~やだやだ、これだから現実の見えないイタイ子はや~ね~?」

「ああ!?」

「だって、そ~でしょ? アンタ自分で言ってたじゃない。『俺はこの世界のオリ主だ』みたいなことを……バッカじゃ無いの? この世界に特定の主人公なんて居ないわよ。居るとしたら私たち転生者全員か――ああ。そういえば誰かが言ってたかしら? 『人は誰もが自分の描く物語の主人公になれる』って……そういう意味ではアンタも主人公かもねぇ? この世界に生きる数多の人間の一人として」

 

花梨はどこまでも根深い自己陶酔に浸りきった究極の凡人に辛辣な言葉を浴びせる。

自分を特別視する者は、総じて己が平凡な存在であるという事実から目を背けている場合が多々ある。

他人()から与えられた力に守られ、分不相応なまでの力を振りかざして愉悦に浸る。

傲慢かつ驕り固まった荒貴の姿は、花梨の最も嫌悪する人種そのものだった。単なる思い込みで自分の心を塗り固めて、本当の自分をさらけ出すことを拒んでいる弱虫などに己が敗北することなどありえるはずなどないのだから――!

 

“己は特別ではない”

 

それは荒貴にとってのNGワード。自分は選ばれた特別な存在で、周りに居るのは彼の輝かしい未来を彩るためだけに存在する雑多でしかないと思い込んでいる彼にとって、その言葉は決して受け入れられない言葉だった。しかし、だからこそ花梨の言葉は荒貴の心に響いてくる。視線を逸らさず、まっすぐ己を見据えてくる花梨の放つ言葉は不思議なほどにすんなりと、荒貴の心に楔のように打ち込まれていく。

『俺はオリ主じゃないのか?』 己がアイデンティティを崩しかねない疑問が浮かび僅かに心が揺れた――その時! 荒貴の持つもう一つの“能力”が発動した。花梨達にとってはまさに最悪のタイミングで。

 

 

――――『俺様最強(オンリーワン・デスティニー)』――――

 

荒貴自身ががこの世界の主人公だと信じて疑わない思い込みが昇華した完全自己陶酔型の”能力”。

他者からの説得による心変わりや同情、改心などの心境の変化が“絶対”に起きなくなる。

この“能力”の発動によって荒貴の心に僅かに生まれた自分自身への疑念はあっさりと消滅し、その代わりとばかりに『オリ主である己を侮辱する戯言を吐いた愚か者』に対する怒りが際限なく溢れだしてきた。

 

「フッ……フザケんなぁぁあああああああ!! こっ、この俺が、よりにもよってその辺に居るモブと同じ存在だと!? そう言いたいのかよ、テメェは!!」

「はあ? なに言ってんの? 今ある此処を精一杯楽しんで、努力して、悲しんで――そして全力で満喫しながら生きている私の大切な人たちを、ちょっと強い力を手にした程度で世の中を舐めくさってるアンタなんかと一緒にしないでよ。不愉快極まりないわ」

「なっ……、テッ……メ……!?」

 

己の“能力”に振り回されながらヒステリックに叫ぶ荒貴を冷たい視線と共に一刀の元で切り捨てる。

こちらを指差しながら、怒りで声が出ないのか口をパクパクさせている荒貴の滑稽な姿を前に、花梨はあからさまな嘲笑を浮かべていた。

 

「ホントにアンタって哀れよね……思い込みだけで周りを拒絶した挙句、こうして見下していた同胞の手によって終わるんだから。勇者ちゃま~~? もう一度幼稚園からやり直されてはいかかでちゅか~~♪」

「――――――ッ!!!!」

 

哀れみと蔑みが混じる目を向けてきた花梨の姿を見て完全に理性が崩壊してしまったのだろう。

荒貴が獣の如き叫び声を揚げながら鎧の胸元に装着された真紅い宝石へと手を当てる。

すると荒貴の全身を覆っていた蒼光の鎧がパージされ、右手の先に集まってゆく。

眩い光と共に、バラバラのパーツが組み合わさり、変形したそれがとうとう姿を現す。

 

それは、あらゆる敵を射抜く巨大な超弩級の弩弓。

 

これが荒貴のデバイスの真の姿にして最終形態。

荒貴の奥の手であるフルドライブ。全身を覆う守りを排除してまで刹那的な破壊力ただ一点を追及した形状。

下半身が未だにバインドの群れの中にあるというのに、そんな事お構い無しと言ったふうに憎しみに染まりきった目は真っ直ぐ花梨を射すくめたまま。

荒貴は右手に構えた重弓の弓先を花梨へと向け、左手をまるで弓矢を引き絞るように構える。

するとデバイス自体が発光を初め、凄まじい勢いで魔力が収束されてゆく。

その魔力量は、フェイトとの決戦で使用されたなのはのスターライトブレイカーすら遥かに凌駕する威力を内包していることは間違いないだろう。

だが花梨は動かない。此処までの戦闘で予想以上に魔力を消費してしまったこともあるだろうが、これほどの力の差を見せ付けられてもはや諦めてしまったのだろう。

荒貴はどす黒い怒りに染まった思考、ほんの僅かに残された冷静な部分でそう判断した。

弩弓形態で初めて使用が可能となる荒貴の最強技はチャージにやたらと時間がかかるのが欠点であったが、恐怖で立ちすくみ、身動きを取れない相手を屠るのならば、こうして目の前で悠々とチャージしても問題は無いだろう。

そのように判断してのこの状況だったのだが――荒貴の思惑は次の瞬間、脆くも崩れ落ちることとなった。

 

「――ねぇ?」

 

不意に花梨が声をかけてくる。相変わらず俯き、デバイスも下げて棒立ちしている様から抵抗する素振りは見られない。

――だというのに、何故だろう。何か大切なことを見落としているような気がするのは。そして背筋を流れ落ちる冷や汗が何故止まないのだろうか……!?

 

「私一人に構ってばっかで良いの? 私たちは二人なんだけど?」

「――――ッ!!?」

 

花梨の告げた一声。その意味を理解して、荒貴は思わず『切り札』を発射することも忘れるほどの驚愕で両目を見開き――

 

「コイツでぇぇえええええ!!」

 

突如、いまだ消滅していないバインドの檻の向こうから男のものと思われる叫びが響く。、

 

「――っ、は!?」

「バインド解除! いっけえ!! バサラぁぁああああ!!」

「――っ、終わりだぁぁああああああああ!!」

 

花梨がバインドを解除した瞬間、赤い魔力の壁の向こうから巨大なランスへと姿を変えたデバイスを構え、全身から放たれる電を纏った突撃《チャージ》を繰り出した“Ⅴ”が飛び出してきた。

 

「うっ、おぉぉおおおお!?」

 

驚愕の声を上げる荒貴目掛け、雷へと変換させた魔力が『雷光天承(ライトニング・クラウド)』のまき散らす雷と重なり、交わり、バサラという存在そのものが一条の雷槍へとその姿を変える。

これこそがバサラの奥の手、正真正銘の『切り札』。神話の時代の存在した雷を纏いし戦神の名を冠する神代の奇跡を具象化した奇跡のチカラ……『神代魔法』。

その名を――

 

「――――『運命を貫く雷光(トールハンマー)』――――!!」

 

轟音を置き去りにした、文字通り光速の閃刃と呼ぶにふさわしい一撃。

それはまさしく、絶望に彩られた運命すら撃ち貫いてみせるという強き心の震えが生み出した、雷神の閃光――!

 

「なめん……なぁあああああ!!」

 

されども、覚悟を決めた雷神に相対するはどす黒い欲望を宿した蒼き勇者。

己が本能の求めるまま、未だかつてないほどに『生』を渇望する荒貴の心に応えるかのように、彼の肉体は人の反応速度の限界を超えた反射を見せる。

視認することすら不可能な光速の神槍を血走った眼でしかと捕捉し弩弓の切先を己へと突撃してくる“Ⅴ”へと向る。

体を捻った無理な体勢にも拘らず足場を固める事すら億劫だと言わんばかりに、躊躇なく己が最強と疑わぬ一撃を解き放つ!

 

「――――『栄光を掴む救世主の証(ヒロイック・エンブレム)』――――!!」

 

それはまさに濁った蒼き光の奔流だった。

とある世界で、人々の心を恐怖で縛り上げ、彼らの心の拠り所であった美しき王女を奪いさった悪しき竜の王を葬り去った一人の英雄。

時を越え、世界を超えて伝えられる彼の伝説に宿ったさまざまな想いを集め、使い手たる荒貴自身が望む形の『魔法』として具象化させた。

それは即ち――新たなる勇者たる『自分自身』に刃向う愚かな『虫ケラ』を屠り、消し去る、絶対的な暴力(チカラ)という、最悪のカタチとしてここに具現化された!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

「っかはぁああああああああああああ!!」

 

激突する極大の『魔法力(マナ)』。

この瞬間、互いに一歩も譲ることなく眼前に聳える敵を葬り去らんと己の『総て』を引き出した二人はこの瞬間、ヒトの領域を超え、神たるチカラの一端である『魔法力(マナ)』を行使できるまでに至った。

 

――神と成るべくして選ばれた彼らであるが、実際は『次期神の候補者』どころか、候補者の予備軍止まりでしかなかったのだ。

真に神と成るべき者は、人を超えた肉体とそれに見合う精神が求められる。

いかに“神造遊戯《ゲーム》”の参加者として選ばれる資質を持ち合わせていたとしても、所詮は運よく神と成る資格たる『因子(ジーン)』を宿していたに過ぎない。

つまり、人としての常識という『枠』で自らを縛り上げ、小さく纏まっていることに疑問を抱くことすらできない『程度』の魂に、天上の存在へと成ることが出来ようはずもない。

因子(ジーン)』を宿したモノが一度死亡し、魂がむき出しの状態で超常のチカラの塊とも言える神に接することで『因子(ジーン)』の覚醒を促し、さらに神のチカラ……“能力”を引き出しやすいように改良した肉体で転生させる。

さらに同胞と生死を掛けた極限状態で競い合わせることで互いのチカラを高め合わせると同時に、多大な負荷を心に与える事で、より強靭な精神力へと磨き上げる。

ヒトの領域を超え、世界の理を塗り替えるほどの意志の力を宿すに至ったモノたちこそが、新たなる神と成る可能性を秘めたモノ……『神成るモノ』と呼ばれるようになる。

故に、『参加者』『転生者』と呼ばれる者達は、真の意味で己自身の可能性に気づいておらず、本当の“能力”に目覚めていないということなのだ。

 

命の危機に瀕し、希望と欲望という純粋であり、強大な意志のみで心を染め上げたバサラと荒貴は、真の『神成るモノ』へと至った。

彼らの繰り出した奥の手は、まさしく神のチカラの結晶『神代魔法』……人が生み出した魔法とは一線を該する極大にして究極なるチカラの激突が生み出す未来には、いずれかの消滅という結果しか在りえない――――!

 

時の庭園そのものを震わせるほどの衝撃を轟かせながら、雷光の鉄槌と希望の光の矢が交差する。

槍と弓の切っ先がぶつかり、その衝撃で互いの攻撃が僅かにずれる。

光の弓はバサラの左脇腹を掠るように通り過ぎ、後方にある庭園の壁を幾層も貫通しながら吹き飛んでいく。

挙句の果てに庭園の外、次元空間すら突き破り、その先にあるどこかの世界の惑星の一つに着弾、巨大なキノコ雲を上げて、漸く終息する事となった。

対する雷光の鉄槌も、『栄光を掴む救世主の証(ヒロイック・エンブレム)』と接触した反動で狙いがズレ、荒貴の左肩を掠る程度になるはずだった。だがそれを悟ったバサラは無理やり片足を床を踏み砕くほど強く踏み込み、全身の筋肉が悲鳴を上げるのを無視しながら無理やりに槍先を、向かって左方向――全身を覆う鎧の隙間である関節部の一つである脇腹へと修正したのだ。筋肉の筋が切断する嫌な音を聞きながらも、雄たけびを上げながら振りぬいたランスは狙い通り、荒貴の身中を打ち抜いた。

 

 

 

――――『迅雷思考(ソニック・ライジング)』――――

 

雷光と同化しての高速移動を可能とする『雷光天承』の弱点であった『思考速度は変化しない』という弱点を補うために編み出した”能力”。

それは光速機動時に発生する脳に与える過度の演算処理に伴う負荷を軽減させ、脳の思考速度までもを光速レベルまで加速させることができるようになるというもの。

脳のキャパを超える演算速度を叩き出すため並列思考が使用不可となる、脳の演算速度を優先させるため“能力”の発動中は五感が機能しなくなるというデメリットが存在するが、ひとたび発動させれば光速機動中に攻撃の軌道を変えることが可能となる。

これにより、『雷化したときの攻撃は速いが、直線的すぎる』という弱点の克服を可能とする。

そう、この“能力”の覚醒により、バサラは完全なる雷の化身と成る力を生み出すことに成功したのだ。

 

 

「……ア――ガ、ぁ? んだよぉ、これはぁ?」

 

人体の急所であり最も防御の薄い箇所をピンポイントで撃ち抜かれた荒貴の精神が大きく削られる。転生してから一度たりとも経験したことのない命に係わるほどの激しい痛みが、思考力を奪っていく。

精神の乱れが“技能”の維持を不可能としたのだろう、バリアジャケットがその輪郭をぼやけさせ、崩壊してゆく。破壊無効と言う概念が解除されたことで『運命を貫く雷光(トールハンマー)』の雷光をモロに浴びてしまったのだろう。

電光に焼かれたデバイスはコア部分こそはなんとか全壊を免れてこそいたものの、フレームや外装もはや自己修復では修復不可能な程のダメージを受けてしまったのは、流石の荒貴にも理解できてしまっていた。

ランスで貫かれた脇腹からどろりと流れ落ちる血が、白い民族衣装を真紅に染め上げてゆく。

その近くでは、デバイスを杖代わりにもたれ掛けながら、息を整えようとしているバサラの背中を花梨が摩っている。

その花梨も表情は優れておらず、かなりの疲労を蓄積してしまったのがありありと見て取れる。

 

「――ハァ、ハァ……ふう、もういい。大丈夫だ」

「……本当に大丈夫なの? かなりきつそうだけど……」

「んな事いってる場合かよ? さっさとソイツをどうにかしねぇと」

 

未だに手の平に残る肉を切り裂き、骨を砕いた感触に……かつて月村邸でなのはにしたような軽い脅しでなく、確実に“殺す気”で放った一撃のもたらした『誰かの命を奪う』という感触に今さら震えが奔ってきた。小刻みに震える手の平を呆然と見おろすバサラに、花梨は敢えて何も気づいていない風を装って平静に提案した。

 

「大丈夫よ。さっき、エイミィさんに連絡がついたから。すぐに予備戦力の武装隊の人たちを送ってくれるって言ってたわ。デバイスも封印したし、こいつはこのまま、アースラの牢屋にINよ」

 

花梨の言葉に、倒れこむ荒貴の瞳に意思の光が戻ってくる。

 

「――ざけんな。ざけんなよクソビッチがぁぁああああ!! この俺様を! オリ主であり、絶対存在であるこの俺様をテメェら如きが捕らえるだと!? ふざ――」

「ふざけてんのは、アンタでしょうが!! 何よ、オリ主って!? バッカじゃ無いの!? アンタは主人公なんかじゃない!! ただの幼稚で、自分勝手でしかない自己中なガキよ!!」

「ああ!? ふざけたこと抜かすな!! この世界は俺様が総てなんだよ!! それ以外の連中は全部屑だ!! 俺様の気まぐれで壊されるしか脳の無い玩具(テキ)と、俺様に犯されるし可能の無い(ドレイ)の分際で!! この俺様に口応えするな、息を吐くな、口を開くな、視界に映るな! 目障りなんだよぉ、おまえらぁぁああああああああ!! ドイツもコイツもドイツもコイツもドイツもコイツも!! 俺様に逆らう屑どもは皆、皆きえちまえよぉおおぉぉおおあああああ!!」

 

「――もう良い。もうソレに構うなよ“Ⅵ”。ソレの言葉を耳にするだけではらわた煮えたぎっちまう」

「――ええ、そうね。今回ばかりは流石の私も同感よ。もうアレを説得するのは不可能だってわかったから」

 

支離滅裂。完全な自閉思考に陥ったのか、自分以外のすべてに対し呪詛を喚き散らす荒貴に、花梨とバサラは一度だけ冷たい目線を向けると、完全に荒貴の存在を頭の中から消し去った。

“ゲーム”のルールとしては二人のどちらかが止めを刺すのが正しい選択なのだが、“神造遊戯《ゲーム》”に否定的な花梨はもとより、“神造遊戯《ゲーム》”に対する興味が薄いバサラもまた、あえて止めを刺すつもりは無かった。むしろ、このまま捕まえておいて、何かしらの情報を引き出したほうが有意義だと考えた(まあ、荒貴の態度から見ても、大した成果は期待できないとも思ったが)。

とにかく、二人が一応の方針を決めてから程なくして到着した武装隊員に荒貴の身柄を引き渡し、急速もそこそこに、花梨とバサラは各々の助けたい相手に追いつこうと駆け出した。

 

 

 

 

「――――あは♪」

 

花梨たちが駆け出し、武装隊員が喚き散らす荒貴を連行した後の大広間に鈴の鳴るような少女の声が響いたのを、戦闘の余波で瓦礫に埋もれてしまった高級そうな絵画に描かれた貴婦人だけが捉えていた。

 

 

 

 

 




作中に登場した魔法解説

・カルトゥーシュバインド(Cartouche Bind)
使用者:高町 花梨
複数種類の拘束魔法を同時展開し、対象を完全な行動不能とする拘束魔法。
個々のバインドは術式を微妙にアレンジしているため、脱出には相当の演算処理能力と魔力が要求される。カルトゥーシュとは古代エジプトの記号”ヒエログリフ”の一つで、『王の名を囲むもの』という意味を持つ。花梨は『絶対的存在である王を囲む = あらゆるものを包囲する』という意味を込めて、この名を付けた。

・スパイラルシェイバー
使用者:バサラ・ストレイター
【トールギス】第二形態『Spiral mode』で繰り出す突撃技。貫通力に長ける技だったが、荒貴には通用しなかった。
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