……一部、キャラ崩壊ありにつき、ご注意をば。
ミッドチルダの外れにある深い森林。獣道すら見受けられない深き場所に、それは存在した。
森の木々に巧妙にカモフラージュされた、明らかに人工的な建築物。意見すると地下シェルターへの入り口にも見える降下エレベーターが繋がるのは、広大な面積を誇る地下研究施設。表向きには管理局すらその存在を知り得ていないこの場所こそ、ミッド、否、全次元世界最高峰の頭脳の持ち主たちが住み込み、生活している住居であった。
その施設の一角にあるとある部屋。研究関連ではなく、純粋に人が住むために用意された日常生活用の一室から、少女らしき声が奏でる怪しげな笑い声が漏れ出ていた。
照明の落とされた小さく、狭い、封鎖的な暗闇を宿す室内には無数の用途不明なケーブルや機器が乱雑に積み上げられている。
唯一の灯りである無数のモニターの淡い光が、一人の少女の姿を照らし出す。
その少女の両指は指先がかすむほどの速さでキーボードを叩き続け、カタカタと無機質な音を奏で続けていた。
モニターの光を野暮ったい眼鏡のレンズに反射させながら言葉無く作業を進めていた少女が、ふと作業を止めてモニターの一つを覗き込んだ。
そのモニターはつい先ほどに画像が切れ、ザー、という耳障りな音と共に灰色の波模様を映し出している。
だが少女はそれに不快な表情を浮かべることも無く、むしろ逆に唇の端を吊り上げ、彼女の家族からチャームポイントだと言われたこともある八重歯を覗かせる。
少女の浮かべていた感情は――『喜悦』。
それはまるで販売を待ちかねた玩具が手に入ったような、無垢で、無邪気な子供の様な笑顔だった。
「うふふっ……みぃ~つけたっ♪」
少女が手元のキーボードを操作し、件のモニターの映像を巻き戻せば、そこに映っていたのは金の髪を舞わせながらハシャグ一人の少女と白い鎧を身に纏った異形の存在。そして画像の最後には、異形が片腕をこちらに向けて振るっているように見える映像が残されていた。
「ふぅ~ん? 超高速静止映像機能でも攻撃の瞬間はハッキリしないんだ……腕がブレてるようにしか見えないなぁ……あは♪」
少女は笑う、嗤う、ワラウ。
自分に理解できない現象、自分の頭脳が、力が叶わないかもしれない存在が居てくれたことに歓喜する。
彼との出会いは昨日のことのように思い出すことができる。
かつて、とある管理外世界で発生した”P・T事件”
その最終決戦が繰り広げられていた時の庭園に、いや、正確には時の庭園に接檻した管理局所属の次元航行艦『アースラ』の内部にルビーはいた。
彼女はある目的を果たすために、『ある人物』の協力を得てここに侵入していたのだ。
管理局員でもなく、作戦実行中の次元航行艦にたやすく潜入できるようなスペシャリストでもない少女だったが、知ったこっちゃねぇ! とばかりに、隠れようともせず艦内を堂々と歩きまわっていた。
そもそも、次元空間を航行している艦に侵入するなど普通の方法では不可能なのだ。
同じ次元航行能力を有した船を接して直接乗り込んでくるか、転送装置を使って艦内に直接乗り込んでくるかの二つしない。
次元航行艦など持っているはずもない少女は当然のように後者の方法を実行した。
しかし、こちらも普通に考えれば不可能だといってもいいだろう。
管理局の艦艇ならば敵対者の侵入を防ぐために転送妨害装置の一つ位備わっているのが普通だ。それは無論、この『アースラ』においても多分に洩れない。
だから、普通に考えれば転送での侵入も不可能なハズだ。……そう、その
「ふんふふ~~ん♪ らりらりら~~ん♪ キャッほーー!」
「ちょ、お姉さま! もう少し静かにお願いしますわ。未完成の【シルバーカーテン】と手持ち式防音結界発生装置があるとは言え、館内には待機している武装隊員もいますんですよ?」
「無駄よ、『クアットロ』。この娘に常識なんて言葉は何の意味もなさないわよ」
「『ドゥーエ』お姉さま……お顔がものすごいことになっていますよ……?」
丸メガネをかけた少女、クアットロは自分と同じく、鼻歌を口ずさんでいる少女に無理やり連れてこられたもう一人の姉を見上げる。姉の浮かべる悲壮すら漂う表情に、クアットロは冷や汗を隠せない。
「いやねもうあれよあれなのよどーしてわたしがこんなめにあわなきゃいけないのかしらそもそもわたしっていつもいつもびんぼうくじひいてるってゆーのおいぼれどもにこびうってきゃらじゃないおまじめもーどをつづけるのってすとれすたまんのよおまけにようやくきゅうかだーっていきようようとかえってきたらそのしゅんかんにこんなかんりがいくんだりまでひっぱりだされてさもうなにいみわかんないんですけどそこんとこあんたどうおもう」
「無呼吸でものすっごい愚痴の嵐!? せめて疑問符だけでもつけてくださいませんか!? ものすごく怖いんですけれど!?」
ストレスと精神的疲労で逝ってしまった姉の肩を激しく揺すりながら、突っ込みを飛ばしまくるクアットロ。
『天然の災害』略して”天災”と呼ばれる少女と精神的に病みかけている女性の前では、普段ドSな彼女でも突っ込みに回らねばならないのだ。
普段の彼女を知る人間がこの光景を見れば、彼女がまるで常識人に見えるこの状況をこう称することだろう。
――『これ、何てカオス?』、と!
科学の産物を引っ提げて悠然と探索を進めていた少女らは、ようやく目的の場所を見つけることができた。
ドアに厳重なプロテクトが掛けられているその部屋こそ、任務中に捕縛した犯罪者、あるいは危険人物を拘束しておくために用意された牢獄、拘束室であった。
目的地に到達するやいなや、少女は己の頭に装着している機械仕掛けの猫耳をなにやらいじくる。
耳の穴に当たるところから取り出したのは、イヤホンのようにも見える一本のケーブル。伸ばしたそれをドア横に設置された電子キーに、
「ちょいさー!」
突き刺した。それはもう、ブッスリと。
普通ならば警報が鳴り響くこと間違いなしな愚行、されどそれを実行したのが”天災”であるならば、話は変わってくる。ピ、ピ、ピ……、と規則的な電子音の後、僅かな間を空けて拘束室のドアが開け放たれる。
常人には理解に苦しむ光景に(現にお付きの二人はいろんな意味で頭を抱えていた) なんら表情を変えない少女は部屋の中へと足を進める。
拘束室の中、魔力を封じられた状態で椅子に縛り付けられている一人の少年の姿があった。彼の名は、新藤 荒貴。時の庭園内で管理局員とその協力者たちに突如として襲いかかった危険人物だ。
花梨とバサラとの戦いの後、敗北した荒貴は後詰の武装隊により身柄を確保され、ここに投獄されたのだ。
デバイスも取り上げられ、大きなダメージを負ったせいで”能力”も使えない、死にぞこない。
誰もいないのにいきなりドアが開いたこと困惑の表情を浮かべる(猿轡のせいでよくわからないが) 彼こそが少女の目的だった。
【シルバーカーテン】の効果で姿が見えぬまま近づいていく。
姿は見えなくても、本能的に恐怖を感じたのだろう。
荒貴はまるで、なにかに怯えるように身を揺さぶるが、全身を拘束されている以上、逃げることは叶わない。
獲物をいたぶる猫のように、ゆっくりと近づいていく少女の表情に浮かぶ感情、それは『愉悦』。
愚かで、救いようのない
「――――『
腕を一振り、たったそれだけで実にあっけなく、彼の首筋から命の源たる鮮血が噴出した。
しばし全身を震わせ、痙攣を繰り返していた荒貴であったが、やがて力なくグッタリと頭を垂れる。
そして彼の身体が光の粒子……純粋な魔力のカタチである『
命を奪ったことに対する後ろめたさも感じさせなかった少女は、己と同じ存在の末路を見届けるでもなく、あっさりと踵を返す。まるで、もうここには用はないとでも言うかのように。
彼女にとってこの世界総ては空虚そのものでしか無く、己の傍らに立つ彼女らを含めた自身の家族にこそ『親愛』という感情を抱くことはできる。だが、己の未来と命をチップに懸けねばならない、”ゲーム”に対しては、やる気も何も持ち合わせていなかった。
詰まらないのだ、コイツラは。
他の参加者に関する情報を集める上で、彼らの目的や思想、願いなどを知った。
彼らにとって何物にも替えがたい”無二の願い”を知った少女の心は、微塵も揺れ動くことはなかった。
なまじ他人よりも優れているがゆえに、望むことは何であろうとも可能とできる少女にとって、”ゲーム”の結果は揺るがない。そう――『己の勝利』という結果は不動にして絶対であると確信していた。
己が覚醒した”能力”の性能上、敗北などあり得ない。
冷静に戦力を分析した結果、導き出した
そう、彼女は確信していた。――彼の存在を知るまでは。
直感? それとも虫の知らせ?
なんとなしに。そう、本当になんとなく、時の庭園内の状況を見てみたくなった少女は、庭園内に散布していたサーチャーの映像を展開させる。そして――見つけてしまったのだ。
かつて”ゲーム”の開始を告げられたあの場所で出会った『彼』と。
あの時は姿はわからず、声だけだった。だがそれに込められた意志が、他の有象無象とは明らかに違う何かを感じさせるモノを宿していると少女には感じられた。
玉座の間で金髪の少女を抱き上げながら悠然と佇む『彼』の姿に、少女は心を奪われた。
己には理解できない思考に、完璧であると疑わなかった自慢の
そのどれもが彼女に理解できぬ未知の存在であり、故にどうしようもなく心が惹かれてしまう。
完全であるが故に、周りに興味を持つことが叶わなかった少女が、家族以外の存在に生まれて初めて興味を持った瞬間だった。
あの時の出会いを、あの場所にいた者の中でただ一人、サーチャー越しの自分の存在に気づいていた『彼』……ダークネスの姿を思い返し、心がどうしようもなく高揚してしまうのを抑えられない。
「良いよ、良いよ! キミは私に何をしてくれるのかな? 何を見せてくれるのかな? 楽しみだよ、ああ楽しみだよ! こんなにボクを惹きつけるなんて! 君は何を考えて“ゲーム”に参加してるのかな? 何故、神の座なんてものを目指しているんだい? 知りたい! 知りたいよ! 君という存在の総てをっ!!」
恋焦がれる少女のように、モニターに映る想い人を指先で優しげになぞり、頬を上気させながらうっとりとした光悦の表情を浮かべる。
瞳はとろんと熱を帯び、息は荒く、室内に少女の熱い溜息が木霊してゆく。
やがて少女は無意識に両指で己が身体をまさぐり始めた。おとぎ話の登場人物である"不思議の国のアリス"のようなヒラヒラとした衣装に包まれた、年不相応にたおやかな胸をまさぐり、下腹部へと指先を走らせる。潤んだ瞳はモニターに釘付けのまま少女は身を悶え、くねらせながら熱い息を吐き出し続ける。
程なくして、彼女の指先が衣服のつなぎ目からするりと内側へと滑り込み、より強くなった刺激にまるで全身に電気が走ったかのようにピクンと身を震わせた瞬間――なんの予告も無しに部屋のドアが開け放たれた。
「ルビー? 少し良いかい? 実は相談したいことが――」
「……ふぇ?」
廊下の灯りに照らされた生活臭の一切感じられない室内に気まずい沈黙が舞い降りる。
紫の長髪に白衣を身に纏う青年の目に飛び込んできたのは、実の妹が俗に言う自家発電行為を繰り広げられている最中だった。
なかなかにショッキングな光景だっただろう。
両者の視線が重なり、無言の静寂が空間を支配する。
やがて、『あ~』だの『う~』だのなんとも言いにくそうに言葉を濁していた青年が、視線を部屋の外へとずらし、頭を掻きながら言う。
「その、だね、ルビー……キミも『オトシゴロ』というやつなのだろうから、私としてもあまりこういうことは口にしたくは無いのだがね……兄として一言、物申させてくれたまえ。――そういうことは、部屋の鍵をちゃんと締めてからするべきだと思うのだよ、うん。 ――それじゃあ、失礼したね。ごゆっくり」
なんとも居心地悪そうな困った笑みを浮かべながら、妹の部屋から退出した青年――ジェイル・スカリエッティは「あの子も成長しているのだね……これが生命の神秘と言う奴か……?」などとわけのわからないことを呟きながら、静かにその場を立ち去ろうとした。
だがしかし、そうは問屋がおろさないのはこの世界のお約束である。
ドゴンッ! ← 先ほどの部屋の出入り口である自動ドアが蹴り飛ばされる音。
ベシィッ! ← 吹き飛んできたドア(というか、もはや鉄板)がスカリエッティにぶち当たった音。
「へぶし!?」 ← ドアだったものと廊下の壁にサンドイッチされたスカリエッティの上げた悲鳴。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「ふっ、ふふふふふふ……何処に行こうとしているのかなぁ? ねぇ? オニイチャン?」
ゆら~り、と幽鬼のように這い出てくるのは、先ほど実の兄にオトメのプライバシーを木っ端にされた一人の少女。
彼女こそ“ゲーム”参加者の一人にして『アルハザードの遺児』とも呼ばれる天才科学者ジェイル・スカリエッティの妹。
名を『ルビー・スカリエッティ』 転生者No“Ⅱ”の名を冠する少女であった。
兄と同じ紫色の長髪は踵に届くほど長く、金色の瞳は理知的な雰囲気を映し出していた。――ただし、それは普段の通常形態の話であって、現在の激怒体(別名『乙女の怒りモード』とも言う)では、怒気で髪はユラユラ揺れ動き、目じりには怒りと困惑と恥ずかしさの交じり合った涙を浮かべている。
頭部に装備した猫耳を思わせるカチューシャはピン! と天を突き、乱れていた服のはだけは何とか取り繕ってこそいるものの所々にシワがよってよれよれになっている。俯き加減でユラユラ上半身を揺らしながら歩いてくるため、目元が隠れている前髪の隙間から殺意に満ちた赤く輝く瞳がその光を漏らしている。その風体は、まさに某呪われたビデオで古井戸から這い出てくるヤマトナデシコ“だったもの”を連想させる。
ドアと壁の隙間から這い出たスカリエッティの頬が、妹の姿を見て盛大にひきつっているのが良い証拠だろう。
そうこうしているうちに、廊下の奥から複数人のものと思われる駆け音が聞こえてきた。
彼女らが居るのは、ミッドチルダのとある森林地帯の地下に備え付けられた自宅兼研究施設であるために、音は良く響くのだ。
最も、こちらへ近づいてくる彼女たちが、普通の人間よりも聴覚に優れているのもまた、これほど早く駆けつけてきた理由の一つであっただろうが。
「ドクター! 一体何事ですか!?」
「やれやれ……」
「まぁ、どうせまたドクターがお姉さまの部屋にノックも無しに侵入されたってところじゃな~い?」
「? それで何故、部屋のドアが吹き飛ぶ必要があるんだ?」
「う~ん、それはねぇ~……チンクちゃんにはまだ早いことよぉ~♪」
「なんだと!? こら、クアットロ! 私を子ども扱いするなといつも言って……!」
「うふふふふふ……子ども扱いするなって言ってる内はお子様の証拠なのよぉ~? ざ~んね~んでした~♪」
「う、ううう~……! ふしゃー!!」
ビシッ! としたスーツを着こなす秘書風の女性が慌ててスカリエッティの介抱へと駆け寄り、青い髪をショートにした青いボディスーツに身を包んだ少女は『またか』とでもいいたげに呆れ顔を浮かべ、腰に届く銀髪が特徴の少女は三つ編みで丸眼鏡の少女のからかいに両手をブンブン振り回しながら姉妹喧嘩を繰り広げていた。
彼女たちは通称『ナンバーズ』と呼ばれる、スカリエッティとルビーの共同研究により生み出された戦闘機人である。
体内に機械や金属フレームを組み込んで生み出された彼女達は『人としての限界』そして『機械としての限界』を超えた量産できる兵器として求められ、生み出された存在だ。
だが、それはあくまでスポンサーの意向であり、想像主たるスカリエッティやルビーは娘や妹と呼んでいるのだが。そんな彼女たちの性能は五感も含めて、人間のそれを上回っている。これは非戦闘型であるウーノも多分に漏れず、こうして創造主の悲鳴を聞きつけて駆けつけた訳だ。
「それで? 今日は一体何が原因なんだ?」
青髪ショートの大人びた少女――トーレは片手をヒラヒラさせながら問いかける。
反対の手には現在の彼女がやる気の無い理由でもある……○SPが、しかと握り締められていた。
「まったく……せっかくソロで村長クエスト全制覇を達成したばかりだというのに……私の興奮と喜びに水をさした理由はいったいなんだ? さっさと終わらせて、隠しクエストを受注したいんだ。サッサと言え」
そう! なんと基本的に暇人な彼女は、とある人物からせんの……、もとい教育を受けた影響で、暇な時間があればゲームに齧りつくゲーマーへと進化してしまっていたのだ!
今は九十七管理外世界から通販で手に入れたモンハンにはまりにはまっているらしく、片時も○SPを手放さなくなっていた。
ちなみに、クエストに行き詰まると、憂さ晴らしをかねて生身の戦闘訓練を繰り広げているので、何気に戦闘経験も積んでいたりする。
どうせまたつまらないことなんだろう。そう決め付け、「早く狩りに戻りたいな~」と内心愚痴っていたトーレだったが、
「レディの部屋にノックもなしに入り込んで、妹の柔肌を視姦したあげく、謝罪もなしにトンズラしようとしやがったんだよ、ソレ」
「……ほぉ?」
続けて語られた言葉に、スゥ……、と目を細める事となった。
さり気にソレ呼ばわりされたことに内心凹むスカリエッティだったが、つい先ほどまで介抱という名の膝枕をしてくれていた筈の助手であり娘でもある女性――ウーノの視線がどんどん冷たくなっていくことにようやく気付き、慌てて立ち上がろうとするも――しなやかな指先でこめかみをガッチリとホールドされてしまった。手足をばたつかせて何とか逃走を図ろうとあがくものの、戦闘向きでは無いとは言え流石は戦闘機人というべきか、ウーノの指が緩む気はまったく無く、むしろ逆に爪が食い込んでくる結果になってしまった。
「あ、あの、ウーノ? 爪が刺さって非常に痛いので出来れば放してくれるとありがたかったりするのだがね……?」
「うふふ……いけませんよドクター? それは流石に犯罪ですよ? これはちょうき……コホン――修正が必要なご様子。さて、それでは参りましょうか、ドクター?」
「ま、待つんだ、ウーノッ!? 君は勘違いしてしまっている! 冷静になるんだ! 落ち着いて話し合おうじゃないか!」
「ええ、ええ、嫌ですわドクター、私は落ち着いておりますよ? どうしてそんなにガタガタ震えていらっしゃるのです? ――ああ、もしかしてお寒かったりいたしますか? それなら大丈夫ですわよ? すぐにナニモ感じなくなれますからね……」
「ナニを!? 君は創造主である私に何をするつもりなんだね!? ……ちょ、クアットロ!? その手に持った、ぶよぶよしてうごめいている物体をいったいどうするつもりなんだい!?」
「ウーノお姉さまぁ~、私もご一緒してもよろしいでしょうかぁ~?」
「フム、それなら私もご同伴に預かるとしようか。なんだか急に身体を動かしたくなったからな。そう、何というか……白い白衣を着た変質者をサンドバックにしたいくらいに」
「ええ、もちろん。歓迎するわよ二人とも。さあドクター……逝きましょうか? もちろん、答えは聞いてはおりませんが」
「ちょ、ま――!? な、なんだいその怪しげなドアは!? さっきまでそんなところにドアなんて無かったと記憶しているのだがね!? あ、ヤメ、許し――」
バターン!
抵抗も虚しく、ウーノに首固めを決められ、両足をトーレとクアットロに抱え上げられたスカリエッティの身体は怪しげなドアの向こう側へと消えていった。
「ふぅ……ちょっとは憂さ晴らしできたかな~? ん~……ボクの気も済んだし、おにぃもゆるしてあげよ~か! ――無事にあそこから出て来られたらだけど」
「あ、あの、姉上? それは一体どういう意味で――」
にょわぁぁああーーーーーーッ!!?
建物内に響き渡るスカリエッティ? らしき人物の悲鳴っぽい叫び声。
起動してから一度も耳にした事の無い創造主の片割れの声に、チンクの頬は盛大に引きつる。対して、そもそもの元凶たる
「あ~ゆ~こと♪」
「ど、ドクター……ッ! わっ、わが身の無力をどうかお許しください……! そして叶うならば、どうか! どうか強く生きてくださいっ……!」
「あ~も~、この真面目っこさんめ~! あ! そ~だ、食堂の戸棚の奥に苺のデニッシュが隠してあったんだっけ! ち~ちゃんも一緒に食べる?」
「えっ!? も、もちろん食べるに決まっています! お姉ちゃん、はやく、はやくっ!」
「ほいほ~い。も~、ち~ちゃんってば時々子供っぽくなるよね~? やっぱし、肉体年齢に精神が引っ張られてるのかなかな~~?」
幼児退行を起こしたっぽい家族の姿に頬を緩ませながら、手を繋いで無機質な壁の続く廊下を歩いていく。
「それにしても“Ⅰ” 、ううん『ダークネス』かぁ……」
「お姉ちゃん?」
「にゃふふふふふ……これからが、面白くなりそ~だね~。ボクを虜にした責任、とって貰わないとね~♪」
チンクが見上げた創造主でもあり姉でもある女性の顔には、見間違うことの無い表情……喜悦の笑みが浮かんでいた。
どうやら、“