魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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バトルパートの次は平常パート。
シリアスとギャグを両立させるのって、ホント難しいですね。

あと、この話はかなり楽しんで書き上げることができました!


一夜明けて

カーテン越しに頬を撫でる暖かな日差しを受けて、もう朝が来たのかと察する。

冬眠明けのアライグマの如きのっそりとした動きで布団から這い出ると、寝癖でボサボサな頭の惨状が向かいの鏡に映る。昨夜、命を掛けた戦いを繰り広げた挙句、一時的に人間を辞めてしまったなどと、まるで夢のようだとどこか他人事のように思う。

 

「でも、夢なんかじゃないのよね……だいだい、夢ならもうちょっとこう……オンナノコが夢見る恋愛劇っぽい展開のが良いんだけど」

【意外です。マスターにも“まだ”少女チックな趣味が残されていたのですね】

 

机の上で折りたたまれたハンカチの上に乗せられ、チカチカと点滅を繰り返す【ルミナスハート】がモーニングコール替わりの第一声を飛ばす。

 

「ルミナスハート? “まだ”ってどーゆー意味かしら?」

【いえいえ、マスターのパートナーかつ、デバイスである身分といたしましては、主の趣向をチェックするのも必要不可欠な作業でございまして。今までに蒐集いたしましたマスターの個人情報その他諸々より導き出した結果、マスターは世に言う『枯れている』、あるいは『オバちゃん臭い』人種であると判断いたしま――……おや? 如何なさいましたか、マイマスター? ベッドに腰掛けたままプルプル震われたりして……ハッ!? まさか! いい年こいてお漏らしを――】

「いっぺん初期化されてこいや、こんのアホデバイス――!?」

【朝日に向かって、フライングハ――イ!?】

 

きらりん☆

 

と実に綺麗な放物線を描いて放り投げられルミナスハートは、高町家中庭の池にダ~イブ・イ~ン。

エサと勘違いした鯉がぱちゃぱちゃと水面に顔を出している中、【マスター!? マスター!? ヘルプ! ヘルプミ~~!?】と人間味あふれる人口音声が聴こえてくる気がするが、ここは敢えて窓を閉めるという選択肢を選ぶ。

 

パタンッ

 

【は、はくじょおものぉぉおおおお!? ――わきゃぁ!? や、やめなさい貴様ら! 魚の分際で、この私を誰と心得やがりますか! 畏れ多くも次期『神』候補たる高町 花梨のデバイスにして神々の叡智のけっしょ……あ、ちょっ、ヤメテっ!? つっ、つっついちゃらめぇええええ!?】

 

……どうしよう。本気でチェンジ出来ないかしら?

ついこの前まではバルデッシュのように無口で寡黙な、時々はっちゃけてしまうという性格だったはずなのだが……一晩でああも愉快に進化してしまうモノなのだろうか?

 

――まさかと思うが、自分が『神成るモノ』への覚醒へ至ったせいなのだろうか……? 

 

(いやいやいや……まさか、そんな訳はないわ、あはは~~……ハァ……さっさと起きよ)

 

浮かび上がってきた嫌な予感に蓋をして(人、それを現実逃避と言う)、まずは着替える前に乱れた布団をなおそうと手を伸ばして毛布を掴むと、ふにゃんとした、なんだかとってもや~らかい感触が返ってきた。

 

「? 布団の中に何か……って、ええええ!?」

 

言いつつ、捲り上げた布団の下からよく見知った顔が転がり出てきた。

 

「ははは、葉月ぃ!? え? なんで、葉月が私の布団に!? てか――」

「んん~~……寒いですわ~~……」

 

布団にしがみついている葉月は――全裸であった。

マッパである。それはもう、見事な肌色であった。すけすけネグリジェとか下着姿なんて目じゃないくらい、実に潔い姿であった。

肌を刺す冷気に身を震わせると、僅かに葉月の目が開く。だが、動かない。寝ぼけ眼をぱちぱちさせると、花梨が引っぺがした布団に手を伸ばし、己の方へと引き寄せる。

 

「ん~~~~にゅ」

 

布団に頬擦りしながら、ゆっくりと瞼を閉じていく。程なくして、再び夢の世界へと旅立った葉月は、かわいらしいあくびを漏らしながら布団に頬を擦り付ける。

くぅ~~、という寝息が爽やかな朝の陽射しが注ぎ込まれる室内に響く中、部屋の主たる少女がゆっくりと立ち上がり、眠り姫が抱きついている布団の端をしっかりと掴む。

そして、勝手に他人様の布団に入り込んできた親友(おばか)をひっぺがすように、勢いよく布団を引き抜いてやる。すると当然、その勢いに引きずられるように転がった葉月がベッドの端から床に落ちるのは自明の理であり――

 

びたんっ!

 

「へぶう!?」

 

およそ彼女らしからぬ、潰れたヤモリの如き悲鳴が上がる。流石に目が覚めたらしく、むくりと上半身を起こしながら文句を言ってきた。

 

「にゃ、なやにしゅるんでしゅかぁ……!? ひろりれふよぉ!?」 

「ひどくないわよ! どうしてアンタが私の布団にもぐりこんでるのよ!? しかも全裸で!」

「わたくしはいつも寝る時は全裸ですからっ!」

「ドヤ顔浮かべてまで言うことかっ!? そもそも、アンタん家には異性も沢山居たでしょうに! アルクとか執事さんとかに見られたらどーするつもり!?」

「あ、それなら問題ありませんよ? 我が家の使用人たちは、皆さん礼儀というものをご承知ですし。それにほとんどの方々はわたくしが幼い頃より仕えてくださっている方ばかりですから。もう家族と呼んでも何ら不思議ではない間柄なのです。だからたとえ見られても大丈夫ですわ♪ 後、アルクさんについてですが……」

 

ちらり、と視線を向けるのは花梨の部屋の壁の一つ……正確にはその先に在るなのはの自室の机の上におかれたバスケットの中。

 

「久しぶりに家族水入らずで語られればよろしいかと思いまして。ユーノさんと一緒に居ていただいておりますわ♪ ああ、いつもは彼専用の部屋で就寝についていただいておりますから、覗かれる心配もございませんし」

「そなの? まあ、そういうことならいいかな?」

 

 

 

 

――同時刻 なのはの自室―― 

 

眠りに落ちたまま布団に包まったなのはが気づかなかった、もう一つの戦いが彼女の勉強机の上に置かれたバスケットの中で繰り広げられていた。

そこにいたのは茶色と白のボンレスハム……ではなく。

覗き防止のためと言って、二人纏めて頑丈なワイヤーで全身ぐるぐる巻きにされた『おこじょさん』モードのアルクと『フェレット』モードのユーノであった。

さめざめと涙を流すアルクの脳裏に浮かのは「ひさしぶりなんですから、お友達とゆっくりと語られるのがよろしいかと」と笑顔で告げた葉月の顔。

言葉だけなら確かに心優しい少女そのものであったのだが、それなりの付き合いがあるアルクは彼女のお尻に小悪魔的なしっぽが生えていたのをしかと目にしていた。

この状況、まちがいなく彼女の悪戯だ。

 

「ううう……なんで俺がこんな目に……」

「それは僕のセリフだよぉ!? 何なの!? どうして僕がこんな目に遭わなきゃならないのさぁ!?」

「ウッサイわ!? 美少女と同じ部屋で過ごす挙句! 愛玩動物的なポジションを悪用して、嬉し恥ずかしきゃっきゃうふふ的なイベントを経験してやがった奴が文句言ってんじゃねぇ!? 俺なんてアレだぞ!? 同い年な女の娘と同居なんてシチュに内心『ワクワクが止まらねぇ!』状態だった、ってのに現実はアレだぞ! 狂戦士と書いて紳士と読むイカレタ連中しかいない屋敷で宛がわれた部屋が、鳥篭(すっぽり覆うカーテン付き)だぞ!? 何回、涙で枕を濡らしたことか! それに引き換えお前というやつはぁああああ!」

 

とうとう血の涙まで流しながら、ワイヤーで縛られた体勢のまま、器用に前足でユーノの首を絞めにかかる。

身を攀じるたびにワイヤーが肌に食いこんでくるが、その痛みすら感じぬ形相で、一人(一匹?)だけ男のロマンを堪能してくれやがったラッキースケベに制裁を加えるべく、腕に力を込めていく。

さすがに身の危険を感じたのか、ユーノもまた必死にアルクの腕を押さえていた。その間も、両者の間で激しい舌戦が繰り広げられる。

 

「だいたい、今まで連絡をくれなかったのはどういうことなのさ!? 集落の皆も心配してたんだよ!?」

「うっ……!? そ、それは、その、お前、あれだよ……そう! 高町のおね~さんと同じ理由ってことだ!」 

「いや、それで納得できるわけないだろ!? 僕と君は友達じゃないか! ワケを話してよ、ワケを!!」

「ぐぐ……! い、いや、言いたいんだぞ? でも、言えねぇていうか、その……――って、おい。なんでお前の首にレイジングハートが掛けられてんだよ?」

「うえ!? べべべ、別に何もおかしいことじゃないだろ? 元々、僕が見つけたデバイスなんだし……」

「……レイハさんよぅ? ちょいとばっか、訊いときたいんだが」

【なんでしょうか?】

「お前さん、なのは嬢と淫獣、選ぶとしたらどっちが良い?」

【決まっていますよ。私のマスターは高町 なのは唯一人です。セクハラ上等な淫獣など、目にするだけでも悍ましいですね。いえ、むしろ消えてください。遺伝子レベルで】

「うぉおおい!? 僕の存在全否定!? そんな事思っちゃってたの、レイジングハートさんんんん!?」

 

予想だにしない悪評価。ユーノ、驚愕の新事実である。

 

【話しかけないでください、淫獣(ユーノ)。妊娠してしまいます】

「しないよ!? どうやったらデバイスが妊娠しちゃうってーの!?」

【どうやったら、ですか……ハァ。つくづく救いようのないナマモノ(ユーノ)ですね】

「あれぇ!? 無機物にものすっごい貶められたような気がするんですけど!?」

【『どうやったら』……そんな言葉が出てくる時点で、アウトですよ。ソッチ系に興味を抱いていなければ、そんな言葉が浮かぶはずありません。『無機物であるデバイスすらハラマシテやんぜ、ぐえっへっへ~~』なんてことを考えているという何よりの証拠と言えるでしょう】

「どんだけ嫌われてたの僕!? 知りたくもなかったよこんな現実っ!」

「んで、話は戻るワケなんだが……どーしてユーノの首に掛かってんの? 答えてくれれば、こいつから離してやろう」

【……】

 

ぴこぴこ、と何やら葛藤している風に点滅を繰り返していたレイハさんだったが、

 

【いいでしょう。実はあなたや姉上様(花梨)たちの共通が秘密を抱えているようなので、どさくさまぎれに情報を聞き出すようハラオウン艦長に依頼を受けまして……】

「――ってえ!? 言っちゃダメじゃないか、レイジングハートぉ!?」

「ホホゥ……! ユーノぉ……テンメェ……!」

「あ、いや、僕はただ頼まれただけでっ!?」

【実は人間だったという事実をマスターの親御様にばらされたくなければ協力しろという執務官の脅しに屈したくせに、何を偉そうに言っているんですか?】

「お願いだから、チョットだけ黙っててください!?」

「ユゥノォ! 自分の保身のために親友を売りとばすたぁ、テメェの血は何色だこのヤロ――!?」

「うひぃいいいいいいい!?」

 

きゅーきゅー、きしゃー! と騒ぎまくるナマモノコンビのせいで大切なマスターの眠りを妨げない様、さり気なく防音結界を展開するレイハさんは実に主思いの良い子ちゃん(デバイス)であると言えよう。

魔力源としてさりげなくユーノを利用している辺り、非常にちゃっかりさんであるとも言えるが。本人にも気づかれぬまま魔力を吸い上げるとは、実に見事なテクニックであった。

 

「……すぴ――……」

 

こうしてなのは嬢の安眠は守られたのだ。

……うっかり、目覚まし替わりの携帯まで結界の効果範囲に捕えてしまったのは、仕方のないこと……なのだろうか?

携帯に表示される時刻とにらめっこしながら寝起きの子猫を思わせるかわいらしい悲鳴が高町家に響き渡るまで、残り一時間。

 

 

 

ところ変わって、再び、花梨おねえちゃんの自室。

暖かい陽光が降り注ぐそこでは、相変わらず花梨と葉月の喧嘩が続けられていた。

 

「うぅ……か、花梨さんのいけずっ! ちょっとくらい、いいじゃないですか! 別に『にゃんにゃん♪』しようとしたわけでもあるまいし!」

「うぉおおおおい!? なにいっちゃってんの!? 朝っぱらからなにいっちゃってんの、この娘は!?」

「実は以前からわたくし、花梨さんとより『深い』お付き合いをしたいと思っていましたの」

「どーして、このタイミングで言っちゃうかなぁ!? そーゆーことぉ!?」

 

心なし就寝前よりも乱れているパジャマの胸元を押さえつつ、じりじり……、と後ろへと下がる花梨さん。そのリアクションはまるで怯えた小動物を連想させ、現在進行形でマッパな葉月さんの心中に、イケない感情が芽生えそうになってしまう。いや、だめだ。それはまだ早い(・・・・)。今は冷静になるのだ。そういうことはこれからの将来の楽しみとして――ぐへへ♪

 

ゾクゾクゥッ!?

 

「ぴいいっ!?」

 

さらなる身の危険を感じた花梨さんの将来に合掌。年若くして排他的な百合の園へと身を投じる未来が運命付けられた彼女の将来は、きっと素晴らしいものになるに違いない。

 

「はぁはぁ……じゅるっ! ――ふう、落ち着いてくださいな花梨さん。ちょっとした、イタリアンジョークじゃないですか」

「目がマジだったでしょーが!? それに、そーゆーセリフは鼻血と涎を拭いてから言いなさいっ!」

「あらま、これは失礼……」

 

ごく自然な動きで、さりげなく花梨(・・)のハンカチで顔を拭く葉月さんはきっと確信犯だ。何気に、くんかくんかしてるし……。

 

数分後、いい加減に服を着ろ! という花梨さんのお怒りを受けてしまった葉月さんは、綺麗に畳んでベッドの脇に置いていた自分用の制服を着込んでいく親友の背中に、花梨もまた小学校指定の制服に着替えつつ問いかける。

 

「……で? なんでこんな真似してまでウチに泊まったの? 爺やさんたち、きっと心配してるわよ?」

「大丈夫ですわ、昨晩に気絶された花梨さんをお届けに来た際、お養父(とう)様たちを誤魔化すのと一緒に連絡しておきましたから。『傷ついた親友の看病がしたいので、今晩はこちらに宿泊させてもらいます』って。爺やもお養父(とう)様と直接電話で話していましたから、了承してくれたみたいですよ」

「推測なのね……いや、ちゃんと確認すればいいじゃない。泊まってもいいですか? って」

「……昨夜は一刻も早く花梨さんのメディカルチェックを済ませておきたかったのです。アースラが本局で改修中な以上、リンディさんたちの拠点では碌なチェックが出来そうもありませんでしたし。何よりも原因がコチラ側の事情でしたからね」

 

胸元のリボンを締めて身支度を完了させた葉月は声のトーンを下げながら、花梨が気絶してからのことも合わせて、昨夜の出来事を説明する。

 

花梨が『神成るモノ』への覚醒に(限定的だが)至り、なのはの治療を完遂させた直後、“Ⅷ”らしき人物を退けた“Ⅰ”が現れたこと。

しかし彼は一同を見渡すと数言呟いた後、その場から撤退していったこと。

結界が解除された瞬間、騎士たちは全員、無事に逃走したこと(無事に、というのは間違っているかもしれないが)。

アリシアと戦っていたフェイトは、離れたビルの屋上で丸焦げになって気絶したところを救助されたこと(状況から見て、アリシアに敗北したと思われる)。

少なくない傷を負ったアルフ、クロノらは現在、転送ポートで本局に移送されて治療中。幸い、皆回復に向かっているとのこと。

“Ⅹ”がどうなったかは不明。

そして、気絶した花梨の身体に異常がないか確認する意味も込めて、看病という名目で同じベッドで一晩を過ごしたということを。

 

説明を受け、なるほどと納得の意を示した花梨に、展開させた【グリモワール】のページを開く。幾何学文字でびっしりと埋め尽くされた紙面を引き抜いた。

同時に、文字群が彼女の魔力光と同じ鮮やかな黄色に輝いたかと思うや、紙片が光に包まれ、一瞬で石版へと変わる。そこに描かれていた文字は花梨が慣れ親しんだ日本語そのものであった。

宙に浮かぶそれを花梨に見えるようにかざしながら、葉月は石版に書かれた文字を読んでいく。

 

「『神成るモノ』……それはわたくしたち転生者の一ランク上の存在。神と成る資質『因子(ジーン)』を発現させた選ばれし者たち。その力は人知を超越し、人間の定めた理を軽々と破壊しうるほどの能力を有している、まさに次世代を担う神の『器』……とされています。高次領域覚醒(マテリアル・シフト)と呼ばれる現象を経て、存在そのものがそれまでとは大きく異なってしまうということくらいしかわからないのが現状ですわ」

 

石版に記された情報を語り終えた葉月が、石版の表面を軽く叩く。コツンッ、という音と共に先ほどと同じように石版が光り輝き、元の紙片へと戻る。ひらひらと宙を舞うそれを指先で捕えると、無造作に開いた【グリモワール】の中へと差し込むや、勢いよく閉じる。

言われた情報の整理を終えた花梨の視線は、再び葉月の下へ。

 

「そっか……じゃあ、私の診断結果はどうだったの? 何かおかしい所、あった?」

 

問われた葉月は首を振りながら、お手上げと言わんばかりに肩をすくめる。

 

「残念ながらと言うべきか、それとも幸いと言うべきなのか……。肉体そのものに異常は全く見られませんでした。念のために遺伝子レベルまで解析かのうな探知魔法で調べたのですが、健康体そのもの。紛れも無く、普通の女の子そのものと言う結果となりましたわ。ただ……如いて言うならば、リンカーコアの魔力生成限界値が増加していることくらいですか」

「リンカーコアが? 要するに成長したってコト?」

「はい、昨日まではAAAクラスだったのが、今ではSSクラスに匹敵するほどに成長しております。こんな急成長をすれば身体へ相当の負荷が掛かっても可笑しくはないのですが……今の所、そういった症状を感じたりします?」

「へ? いや、全然。至って普通なんだけど」

「フム……やはり、良くわかりませんわね。管理局の本局で調査したところで、多分原因不明とされるのがオチでしょうし」

「ま、まあいいじゃない。今のトコ、デメリットは無いみたいなんだし! 単純にパワーアップしたと思えば」

 

お気楽な発言を繰り出す花梨に、若干の呆れを抱きつつも、内心の不安を表に出さず葉月を気遣ってくれている彼女の強さに、改めて驚嘆する。

 

(まったく、貴方という方は……)

 

むん! と力こぶを作る親友のメンタリティの強さを再確認していた葉月に、不意に何かを思いついたと言わんばかりの表情を浮かべた花梨が問う。

「ねえ、そういえばさ? あの時、私が変身した時に頭の中に浮かんだ言葉……“言霊”を唱えれば、またあの姿になれるのかしら?」

 

思い浮かぶのは圧倒的なチカラを従えていた『神成るモノ』へと変身した己の姿。あの力をうまくコントロールできれば、“Ⅰ”に対処することも不可能ではないだろう。

何しろ、同じ土台に立つことが出来るのだ。条件が同じなら、仲間というアドバンテージがある自分の方が断然有利と言えるのではないか?

しかし少女の思い浮かべた淡い希望も、現実主義な親友に一言で斬って捨てられる。

 

「あまりお勧めは出来ませんわ。『神成るモノ』について、ほんのさわり程度の情報しか【グリモワール(この子)】の中に記載されておりませんでしたのをお忘れですか? おそらくは、自分で気づけということなのでしょうね。それなのに、良くわからないものに頼るというのはどうかと思いますわ――第一、あの時の姿は限定的な覚醒状態でしたでしょう? 完全に制御できているわけではありませんから、調子にのらないでくださいな」

 

なるほど、と納得させられる理論だった。だが、同時に思う。“彼”ならこの疑問の答えを知っているのだろうか、と。

脳裏に浮かぶのは、圧倒的なチカラを見せつけたあの怪物の姿。

 

「……“彼”に直接訊くのも一つの手っちゃあ、手なんだけど」

「なっ!? 何をバカなことを! あの化け物に自分から近づくなんて、愚行以外の何ものでもありませんわ!」

 

有無を言わせぬ怒鳴りつけてきた葉月に、花梨は反射的に身を縮こまらせる。確かに軽はずみな発言だったと反省を示しながら謝罪の言葉を告げる。

 

「ゴメンゴメン。なんとなく、頭に浮かんだだけだから、そんなムキにならなくても――」

「大体、あの男は花梨さんに興味津々といった態度だったのでしょう!? もし二人きりで出会ってしまったら、きっと花梨さんは着衣を引き裂かれ、手足を拘束して逃げられなくした上で、大切に守り続けてこられた“まく”的なモノを引き裂か――」

「うん。ちょっともう、黙ろうか葉月。いろいろと可笑しくなってるから。これ以上アホなこと言うようなら、大口開けさせた中にルミナスキャノンを叩き込むしか無くなってしまうわ」

 

一瞬でルミナスハートを起動させて、柄部分をゆっくりと撫でる花梨さん。超こわいんですけど。さすがの葉月さんも冷や汗を隠せていない。

 

「ご、ゴメンなさい……で、でも、流石にさっきの提案は却下ですわ。昨夜の戦いでも底を見せるどころか、力をセーブしていた節がありますし……下手に藪を突くのは如何なものかと……思ったり、したんです、けど」

「ふ~ん。そう……アイツ、あの時ホンキじゃなかったんだ――って、え? ……うえぇええええええ!?」

 

恐る恐る告げられた新たな事実に、先ほどまでの静かな怒りも忘れて驚愕の声を上げる。

 

「えっ!? あ、アレで手加減されていたって言うの!?」

「ええ。だって、花梨さんたちが撤退した後に足止めに残られた“Ⅷ”との戦闘をサーチャーで監視していたのですが、その時の戦闘力は明らかに花梨さん方を相手取ったときよりも上でしたわ。おまけに、世界を滅ぼすほどの魔導砲を放ってもいましたし……花梨さんは気絶されていたからご存じないと思いますが、なのはさんの治療をしていたビルを含めたごく一部以外の殆んどが完膚無きまでに破壊され尽くしていたのですから。花梨さんたちが無事なのは偏に、“Ⅷ”が花梨さんたちの隠れている場所が“Ⅰ”の放つ攻撃の射線上に入らないよう、心がけていらっしゃったとしか考えられません」

「それ、マジ? 彼だけじゃなくて“Ⅷ”もバケモノなワケ?」

「マジですわ。彼も無事に保護されて、本局で治療を受けていらっしゃるそうなので、後程お礼に参られた方が良いのではありませんか?」

「うん、そうする……あれ? でも、そういうことなら“Ⅷ”……さんてかなり強かったりするのかな? “Ⅰ”相手に時間稼ぎができるくらいの強さがあるってことでしょ?」

「相性、というものも影響していたのは間違いありませんが……かなり強力な“能力”を持っておられるのは間違いないでしょう。生憎、戦闘の途中でサーチャーは破壊されてしまったので詳細まではわかりませんが」

 

それでも、遠くからでも感じ取れる圧倒的な魔力の波動が生み出す大気の振動を肌で感じ取るくらいは出来ていた。おまけに、花梨と合流直後には莫大と称するに値するほどに魔力が膨れ上がったことから見ても、相手が未だに底を見せていない何よりの証拠と言える。

 

(花梨さんには軽く言いましたけれども……やはり情報交換も兼ねて、一度“Ⅷ”と接触すべきですわね)

 

今までの様に裏方に徹するのではなく、管理局と協力し合う方がいいかもしれない。葉月はそんな考えを思い浮かべながら、とりあえずリビングの方から聞こえてくる朝食を知らせる桃子さんの声に返事を返すのだった。

 

――ちなみに。

 

花梨と葉月が朝食のスクランブルエッグに頬を綻ばせていた最中、子猫を思わせる悲鳴と共に小動物チックな悲鳴が二つ程とある部屋から聞こえてきたが、桃子さん特製の朝ご飯を堪能していた少女たちはノーリアクションだったことをここに記しておく。

 

喫茶店、兼、洋菓子屋を経営している翠屋こと高町家の朝はこうして賑やかに過ぎていった。

 




お約束なお色気フラグがバッキバキに叩き折られていたアルク君と、カミングアウトしちゃった葉月ちゃんの回
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