魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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正体不明だったあの娘たちの正体があきらかに!?
それから、多少えちぃ表現があるのでご注意を(R15指定タグもつけた方がいいのでしょうか……)


闇色の焔、空虚な永遠

アリシアとフェイトが泣き止むのを待って、ダークネスが声をかける。

 

「……もう、いいのか?」

「――うん」

 

目尻に浮かんできた涙を見られない様、抱きついて表情を隠す、意地っ張りなアリシアに苦笑を浮かべていたダークネスが、首だけを回して彼女らの方へと顔を向ける。

 

「――ああ、そうだ。ついでにもう一つだけ面白いことを教えておくとしようか。俺が総てのジュエルシードを手に入れ、その力を制御下に置くことが出来れば……完全な、死者蘇生すら可能となるかもしれない。もし気が変わったら、ジュエルシードを用意した上でいつでも言うといい……契約成立の暁には、サービスとしてお前たちが取り戻したい人を、理不尽な現実によって失ってしまった大切な人を生き返らせてやってもいいぞ?」

 

「なっ……、君はっ!? そんな事を本気で言っているのか!? そんな理由で死人を生き返らせるなんて、許されるはずがないだろう! 」

 

“Ⅷ”の所在確認を終えたらしいクロノが、ドアノブに手を伸ばしたダークネスの背中に向け、叫び声を上げる。

 

「ご高説痛み入るよ、執務官。……だがな、それはあくまでもお前たち“人間”の定めたルールでしかない。人を超えた『神成るモノ(オレ)』がそんなものに縛られる所以などない……じゃあな?」

 

ひらひらと手を振りながら立ち去っていくダークネスの後姿を睨み付け、今にも飛び掛からんとする息子の前に、ここで手を出すことは危険だと判断したリンディの手が伸ばされ、静止を命じる。

ドアに備え付けられたベルの音が鳴りやんでからさらに数十秒ほど経過したところで、ゆっくりと息を吐きながら、リンディの身体から力が抜けていく。全身を脱力させたリンディは、いつの間にかカラカラになっていた喉を潤そうと手元に用意されていた紅茶(甘党リンディさん用の特製品。具体的には溶け切れなかった砂糖がカップの半分を埋め尽くすほどの凶悪なシロモノである)に手を伸ばす。

(彼女にとっては)ほど良い甘みが口の中を潤してくれるのを感じながら、傍らの部下たちへ確認の視線を投げかける。それに気づいたクロノに「……頼む」と言われたエイミィが、テーブルを囲む全員の眼前に、空間に浮かぶモニターを展開させる。そこに表示されるのは彼女たちが先ほどまで確認していた内容。ダークネスから齎された、悪い情報、その裏付け。

全員が画面の内容に目を通し終わるのを待ってから、エイミィは重々しく口を開く。

 

「……今から三十分ほど前、近隣世界の哨戒任務についていたユーレル隊員のバイタルデータをロストしました。彼と同伴していた局員は重傷を負ってこそいますが、命に別状はない模様です」

「ッ! ……救助された局員は何か言っていなかったの? 医務室に運ばれる前に訊き出せた情報は?」「救護に当たった局員によれば、見たことも無い結界らしきものが展開されたと思った瞬間、ユーレル隊員だけが結界の内側に引きずり込まれたらしく……。情報を訊き出すことが出来た比較的軽症だった隊員が言うには、行動を共にしていた分隊員たちを落としたのは十字杖を持った銀色の髪の少女だったそうです。彼女の広域空間魔法によって分隊は壊滅、その後、結界が解除された後には、ユーレル隊員の姿は影も形も見当たらなかったそうです……艦長、これって……」

「……ええ、そうね。おそらくは、バサラ君や新藤 荒貴と同じケースと思うわ……花梨さん、それに、葉月さん、だったわね? 貴方たちはどう思うかしら?」

 

この中で事情を察しているであろう少女たちに問いかけてはいるものの、リンディの中ではまず間違いないだろうという確信があった。人間の身体が光の粒子となって霧散していくという異常な現象を、彼女もまた、その眼で直接見ているのだから。魔道生命体ではない、間違いなく人間だったはずの存在が、そこにいたという痕跡すら残さずに消え去ってしまうという異常。早々忘れられるものであろうはずも無い。

彼女の考えを後押しする様に、顔を見合わせていた花梨と葉月も頷きを返しながら肯定の意を告げる。

 

「多分、間違いないかと思います」

「わたくしもですわ。しかし……これで、彼の言葉が正しいものであるということが証明されてしまいましたわね……」

「ええ……」

 

リンディは顎に手を置き、考えを巡らせる。ダークネスの言の通りであるのなら、イレギュラーは先日の戦いの中でアッシュの危機を救ったのだという。なのに、一晩開けると、今度は逆に命を奪うような行動を起こしている。果たしてどこにどんな意図が隠されているというのか。

 

――“闇の書”事件……やはりただで終わりそうにはいかなさそうね。

 

残りの紅茶を一気に飲み干しながら、リンディはとりあえず今日の交渉で手に入った情報を纏めるよう副官的立ち位置にいるエイミィに指示を飛ばそうかと考えていた。

彼女の下したこの判断が、後々、一つの救いと悲しみを生み出すことになろうとは、この時はまだ誰も気づいていなかった。

 

 

 

 

「ねえねえ、ダークちゃん、何であんな余計な事まで言っちゃったの?」

 

手を繋ぎ、海岸沿いの歩道を歩いていると不意にアリシアがそんな事を聞いてくる。目元が若干赤いような気がしないでもないが、あえてスルーしてあげるのが大人の優しさだ。

 

「何で、とは?」

「ジュエルシードのこととかだよ。あの人たちに知られちゃったら、きっと今よりもっとたくさんの追手さんが来るんじゃないかな? たぶん、こっちの都合なんてお構いなしに襲ってきちゃうと思うんだよ。ホントによかったのかな?」

 

くりくりとした瞳でこちらを見上げてくるアリシアは、気心が知れているが故に、ダークネスが意味のないことをする様な人物ではないと確信していた。

己の命を脅かす脅威となりうる存在……儀式の参加者たちを常に警戒し、どんな些細な行動にも、必ず先を見据えて行動している。

一見すると圧倒的な戦闘力にものを言わせたゴリ押しを好みそうな人物にみえるが、実は策謀を巡らせることも得意なのだ(別名、悪巧みともいう)。

己の力を誰よりも理解しているが故に、同種の存在を何よりも警戒している。情報は戦局を決定付ける、何よりも重要なファクターだとわかっている彼が、あんなわかりやすい誤魔化し方をして追及を避わしたのだ。そこに、何かしらの意図が隠されているのは間違いないだろう。

……まあ、アリシアがそこまで考えていたかと問われればそうではなく、単純に、普段のダークネスを知るが故に違和感を感じたというわけだったのだが。

 

「ま、アレは撒き餌みたいなものだからな」

「えさ~?」

「そう、餌だ。リンディ・ハラオウンは優秀だが、所詮は彼女も組織という巨大な生物の一細胞でしかない。俺という存在の脅威度を理解できる彼女は、俺に対する今後の対応も踏まえて、必ず報告をするだろう。何しろ次元震を制御できるという規格外だ、被害を最小限でとどめられるよう情報の共有化は必須だろうしな。そうすれば、ジュエルシードを制御できるという情報は必然的に管理局上層部に届く……それこそが、俺の狙いだ」

「?? どゆこと~? なんで、手の内を見せるのが得になるのかな?」

「くくっ……まあ、そのあたりは追々わかるさ。俺の予測では、クリスマス辺りで管理局から俺に交渉を持ちかけてくるはずだからな」

「ん~~……ヤッパリ、わかんな~~い! も~! ダークちゃんてば、イジワルしないで教えてよ~~」

「はいはい、その内にな――……さて、この辺までくれば良いだろう? いい加減に姿を表したらどうだ、イレギュラー(・・・・・・)

 

秋風が肌を突き刺すほどの冷たさを含み始めたこの頃に好んで海風が吹きつける海沿いを歩く物好きは早々いない。それでも、学校から帰宅途中なのだろう、帰路につく学生たちとすれ違いながら、ダークネスたちは海岸沿いにある公園へと足を運んでいた。何故かすれ違う学生全員が、驚いた風な目を二人に……否、正確には『夕暮れ時に金髪の美少女と手を繋いだ、顔に包帯を巻いた高校生くらいの男』であるダークネスへと向けられていたが、会話に集中していた二人は案の定、微塵も気づいていなかったりするがそこは割愛する。

夕日に照らされる周囲に人影は見当たらない。砂場で遊んでいた子どもたちも、家族の迎えが到着するとともに岐路へとついていた。

静寂が広がる公園にダークネスの声が響き渡る。大声ではない、されども、力ある重みを乗せた言葉が、翠屋を出た直後からずっと後をつけていた人物の耳へと届く。

 

「……バレていましたか。お見事です」

 

後を尾けていたという気まずさを微塵も感じさせない声色で返事を返しながら、自販機の影から現れた人物の姿に、二人はそれぞれ別の意味で驚く。

 

「あっれ~? 花梨ちゃん……じゃなくて、なのはちゃん……だよね? アレ? でも、何で?」

 

アリシアはついさっきまで会話していた(アリシア自身はシュークリームと格闘していたせいで会話なんぞしていなかったが)喫茶店の少女と瓜二つな尾行者の顔に驚き、彼女が何物であるのか知識として知っているダークネスは何故一人(・・)でここに現れたのか、考えを巡らせていた。

そう、彼女一人(・・)なのだ。イレギュラー勢力である彼女らが己を打倒せんと追跡していた、と言うのならばまだわかる。だが、デバイスを起動させる素振りも見せずに無防備で近づいてくる尾行者からは殺気どころか、戦意そのものが感じられない。ダークネスの手前一メートルの距離にまで近づいたところで、ようやく足を止めて二人の顔を見回す追跡者。『神成るモノ』であるダークネスの身体能力は人間のそれを凌駕しており、この程度の距離を取る敵などコンマ数秒もかからずに打ち倒すことが可能だ。その辺りのことは彼女も理解しているだろうに、それでも身構える素振りすら見せないのはどういうことなのか?

「そこまで警戒されなくても大丈夫ですよ? “王”や“力”もいませんし、“盟主”は先日の貴方の攻撃から“Ⅷ”を救い出すために無理をしたせいで、現在治療中なのです。だから此処に居るのはわたし……『星光の殲滅者』 シュテル・ザ・ディストラクターだけですよ」そう言って、スカートの端をちょこん、とつまんで少しだけ持ち上げ、丁寧にお辞儀してきた少女につられるように、慌ててアリシアもワンピースの裾をつまんでお辞儀を返す。

 

「あわわっ! あ、アリシア・テスタロッサですっ! 始めましてっ! あと、間違っちゃってごめんなさい!」

「いえいえ。その辺がいろいろとややこしいのは理解しておりますので、お気になさらず」

「気にするなって……! そんな訳にはいかないよっ!」

 

アリシアには許せなかった。自分の代用品として生み出されたと思っていたであろう“妹”を持つ“姉”として、どこか自分を蔑にしている風に感じられる少女の言い分を認めることは、彼女にはできなかった。

珍しく怒っているアリシアの剣幕が予想外だったのか、目をぱちくりさせる星光(シュテル)。こうした表情を見る限りでは、やや無表情な、けれども年相応の女の子という印象を受ける。だが、彼は知っている。アリシアに肩を激しく揺すられながらお説教を受けているせいで、顔色がいろいろとヤバいことになりつつある少女の正体、それは“紫天の書”と呼ばれる魔導書によって生み出された魔導生命体『マテリアル』が一人……“理”を司るマテリアルであると。イレギュラーと接点がある事も自分で語っていたし、己に感知できない“能力”を有している奴の手下である可能性が非常に高い。そんな人物に気を許すような真似など、出来るはずが――

 

「う゛……ぎ、ぎぼぢわるいで――っ!?」

「いい!? だから、貴方も――っへ? あ、ちょ、まっ――!?」

 

「「――――――ッッ!!!?」」

 

「うわぁ……」

 

 

~~ごく一部の変わった性癖をお持ちではない方には、お見せできない惨状が繰り広げられています。しばらくお待ちください~~

 

 

「あ~~、その、あれだ……あんなにガックンガックン揺すったら三半規管を刺激されるのは自明の理というかなんというかだな? 視界が目まぐるしく動いているのに身体の方が動いていないと車酔いと似たような症状におちいってしまうものなのだ。今回は、身体は固定されているのに首から上を激しく前後にシェイクされたせいで視界が定まらなかったことと、脳を揺らされたことで思考がマヒしてしまい、視界と情報のずれが発生し、結果的に車酔いと同じ症状が出てしまったわけだな。だから、これはある意味で自業自得ではあるが、逆に考えればあそこまで激しく揺さぶられたらこうなるのは当然のことと言えるわけで……まあ、つまりは、何を言いたいかということだが……その、あまり気にするなよ?」

「「……(ギロッ!!)」」

「う……す、すまん……」

 

月の光に照らされた夜の公園。普段は子供たちが遊ぶ遊具の一つである鉄棒に、水で濡れた布らしきものを掛けていた少女二人にものすごい目で睨み付けられたダークネスは思わず仰け反ってしまう。

どちらも見事なまでに涙目だ。アリシアに至ってはマジ泣きのレベルに達している。あの後、激しく頭をシェイクされてしまったシュテルが、とうとう限界を突破。正面に居たアリシアを巻き込んで、激しくリバースしてしまったのだ。アリシアの絶叫が夕暮れ時の公園に木霊した。近隣住民の皆様へ大変なご迷惑をかけるほどの音量で。

程なくして通報を受けて駆けつけてきた警官を茂みに隠れてやり過ごした三人は、こうやって被害を被った二人の服を水道で洗い、鉄棒を物干しに見立てて乾かしているという訳だ。だが、肌寒いこの時期に早々乾いてくれるはずも無く、おまけに下着まで汚れてしまった少女二人は文字通りの『すっぽんぽん』状態。これは流石にまずいだろうと考えたダークネスは己の上着をシュテルに着せ、アリシアは【ヴィントブルーム】に格納していた白いケープを身体に羽織っている。それでも夜風は堪えるようで、二人は身を寄せ合いながら小さく震えている。それでもダークネスから一定距離を離れているのは、異性に肌を見せるのは恥ずかしいという乙女心ゆえか。

 

「「くしゅんっ!」」

 

と、可愛らしいくしゃみをする少女たち。流石にこのまま服が乾くまで夜の公園に居続けるのは無理があるか。

 

「ホレ、行くぞ? ……って、なんだその顔は」

 

いまだ半乾きな服を回収していくダークネスに、少女は二人揃ってジト目を向ける。

 

「……私たちの服をどうするつもりなのかな?」

「もしやと思いますが……あなたはそういう特殊な趣味の持ち主であったのですか?」

「お前らな……ハァ、あのな? この調子じゃあ、服が乾く前に朝日が昇ってしまうだろうが。それに、そんな恰好で居続けたら本当に風邪をひくぞ?」

 

「む、大丈夫です。わたしはこう見えても、魔導――」

「魔導生命体だろうとなんだろうが、本質的には人間とさほど変わらんだろうが。大体、俺に話があったから会いに来たんじゃなかったのか? なら、誰かに盗み聞きされない様な場所で話をした方がいいだろうが」

「ぬ……それは、まあ、確かに……。ですが、なら、どこに向かおうと言うのですか?」

「俺たちがチェックインしている旅館だ。あそこなら着替え替わりの浴衣もあるし、食事も出るぞ? 防音結界を張れば、盗み聞きされる心配も無いだろうしな」

 

ついでに言えば、あくまでも仮の拠点なのでたとえ敵に居場所を知られたとしても、別の旅館やホテルに移れば良いだけだ。そこまで考えた上での判断ならば、シュテルは嫌とは言えない。そもそも、彼女の目的はまだ何も果たせていないのだから。――自分の要件を済ませる前に、醜態をさらしている感が否めないが。

 

「……わかりました。お邪魔します」

 

結局、着替えと温かい食事の魅力には逆らえなかったシュテルは、小さく呟きながら二人の後を追うことしかできなかった。

 

 

「はむはむはむ……」

「むぐむぐ……んくっ、んくっ……」

「もう少し落ち着いて食べんか……」

 

ダークネスとアリシアが拠点としている温泉街にある一軒の旅館。畳の香りが漂う和室にて、三人は少し遅い夕食を堪能していた。今日は三人一緒にということで、旅館側が気を利かせて用意してくれた『かも鍋』だ。コクのある出汁に柔らかいかも肉、そして新鮮なシャキシャキ野菜が生み出すハーモニーは、夜風に晒されて身体の芯まで冷え切ってしまっていた三人を内から温めてくれる。

今現在、浴衣に着替えているダークネスの顔に包帯は巻かれていない。普段は左目の義眼を隠すように覆っている包帯を外し、左目だけ瞼を閉じながら、熱々の長ネギへと箸を伸ばしている。

少し前までは、黒い宝石を埋め込まれたような状態だった左目だが、時の経過と共に馴染んできたのだろう、より普通の義眼に近い形状へと変化しつつある。この調子ならば、あと数年もすればごく普通の義眼と変わりないものへとなるだろうと、ダークネスは予想している。ちなみに、デバイスを兼ねた義眼は、疑似的な神経が構築されて繋がっているお蔭で視界も良好だ。それでも、傍目には眼球の代わりに黒い宝石が埋まっている風にしか言えないので、普段は包帯で覆っているのだが、風呂上り、且、湯気の立ち昇る鍋料理を食べるともあれば流石に外したほうがよい。そんな訳で、片目を瞑った状態で食事を続けていたダークネスだったが、テーブルの向こう側に並んで座りながら、絶え間なく箸を動かし続ける少女二人の姿に、さすがの彼も呆れ顔を浮かべてしまう。コレステロールが少ないとはいえ、濃い味のかも肉ばっかりパクついているのだ。もっきゅもっきゅ、とリスの様に頬を膨らませながら食べ続けるアリシアとシュテルのおかげで、野菜しか口に出来ないダークネスの頬がぴくぴくと震えているのも仕方のないことだろう。

あの後、公園を後にした三人は運よく職務質問受けることもなく、ダークネスたちが泊まっている宿屋にたどり着くことができた。出入り口で出くわした女将さんに、アリシアの友達が遊びに来たので今日一晩だけ同伴させてほしいと頼んだとき、またもやものすごい表情を浮かべていたのはお約束だ。

 

「彼は少女二人を連れ込むロリコン紳士だっのかしら!?」

「いえ、おそらくはあの金髪ちゃんが正妻で、茶髪のクールっ娘が側室なのではありませんか?」

「いんや、ここは敢えて両手に花なハーレムの一択で!」

「「それだっ!!」」

 

――的な会話が受け付けで繰り広げられていたとかなんとか。ついでに、耳が良い一人の少女には、一連の会話がばっちりと聞こえていたらしく……

 

「……(ポタポタ)」

「ふう、ご馳走様で――って、へうあぁ!? だ、ダークちゃぁああん! シュテルが真っ赤な花を咲かしているんだよぉおおおお!?」

「はぁ? いきなり何を――って、どうした!? 口の周りが血塗れだぞ!?」

「はっ!? (ゴシゴシ……)――コホン、ご馳走様でした。大変おいしかったです」

「なかったことにしようとしてるの!? 流石にそれは無理があるんじゃないかなぁ!?」

「これは、鼻血……か?」

 

机に滴り落ちた真紅の液体を指先で掬い、一舐めして当たりをつけたダークネスを見上げながら、騒ぎの元凶たるシュテルは何やら恥じらうように体をくねらせる。

 

「わ、わたしにこのような仕打ちをされるなんて……鬼畜、なのですね……」

「待て、コラ。ちょっと待とうか、マテリアル。いきなり何を言いだすか」

「ダークちゃん……女の子に初めての血を流させるだなんて……!? どうして!? 私じゃあ、駄目なのかな!? 私じゃあ、ダークちゃんを満足させられることは出来ないのかな!?」

「お前もか!? ええい、いらん知識ばっかり覚えおってからに!」

「あ、あの、どうかなさいましたか、お客様……?」

 

ドアの向こうから恐る恐ると言った風な声が掛けられた。声の主は女将さんのもの。外に響く位の大声で騒いでいる彼らの様子が気になったようだ。

別に、三人の関係がとってもに気になったので、聞き耳を立てていた訳ではない。他の客さんがいない事を良いことに、野次馬根性丸出しにした従業員たちが女将さんの後ろに勢ぞろいしている事もない。……ないったらないのだ。ウン。

それはともかく。せっかく用意してもらった浴衣をこんなに早く鼻血で汚してしまったので代わりの浴衣を用意してくださいとは、流石に頼みづらい。

ヒトを超えたとはいえ、そこまで厚顔無恥に振る舞うほど、ダークネスは恥知らずな男ではなかった。だが、どのみち着替えを用意しなければならない訳で――

 

「えー、あー……その、申し訳ないのですが、浴衣をもう一着ほど用意していただくことは出来ますかね?」

 

ドアの向こうでざわめきが起こった気がした。

 

「え、ええと……ご、ご用意いたしますのは、お嬢さま用のサイズのもので……?」

「え? は、はい。その、ちょっと汚してしまって――」

「……申し訳ありません。わたしが(鼻)血を出してしまったせいで要らぬご迷惑を……」

「しょ、しょうがないんだよ、シュテル! だって、始めて(の鼻血)だったんでしょ? それじゃあ、仕方ないことなんだよ!」

 

ざわっ……!

アリシアの台詞によって、ざわめきがさらに膨れ上がった。

 

「そんな……無理に優しい言葉を掛けていただかなくとも大丈夫ですよ。無理やり押しかけた挙句、(自分のせいで)服を濡れさせてしまったわたしを受け入れてくださったのですから(拠点に招く的な意味で)。むしろ、お礼を言わなければならないのは私の方です……ごめんなさい、アリシア。わたしがいなければ、今頃は彼と二人、床に就いていてもおかしくはない時刻だというのに(就寝する的な意味で)」

「もう……そんな事、気にする必要なんてこれっぽっちも無いんだよ! 貴方は、やっと出来た初めてのお友達なんだから(親友的な意味で)! むしろ、一緒にお布団に入りたいくらいなんだよ(もちろん就寝的な意味で)!」

「アリシア……! あなたの優しさは、わたしには眩しすぎます……」

「シュテル……」

「アリシア……」

 

いつの間に仲良くなったのか、両手の指を絡め合い、互いの額を合せるくらい顔を近づけながら見つめ合う少女たち。共に厳しい試練を乗り越えた先にたどり着けた境地、友愛や愛情を超越した場所に、彼女らは上り詰めたと言うのか……。

 

「……げろまみれの友情……略して『げろじょう』か」

「「変な呼び方しないでくださいっ!?」」

 

突っかかってくる少女たちを宥めながら、替えの浴衣の手配をお願いする。

さほど時間が経たぬうちにドアがノックされる音が響き、頬を赤くした女将さんが用意してくれた浴衣を受け取る(何故か、新品のティッシュの箱やドリンクらしいもの、一見するとチョコレートの箱に見えなくも無いよくわからないものも一緒に手渡されたが)。

これは? と訊く前に、女将さんがさっさと引っ込んでしまったため聞きそびれてしまったが、まあ良いかと部屋の隅に寄せておく。

 

「シュテル」

「あ、ありがとうございます」

 

恥ずかしそうに頬を朱く染めながら浴衣を受け取ると、窓の方へ歩いていく。ここは和風の意匠がされた温泉宿、見晴らしの良い風景を一望できる窓の傍には小さなチェアーとテーブルが置かれており、そこと部屋の間には閾のように障子が備え付けられている。カーテンと障子を閉めれば、簡易的な更衣室に早変わりだ。公園では自分をマテリアルだと言っていたシュテルだったが、流石に異性の前で着替えるのは御免被るらしい。全裸なんぞ、公園で汚れた服を脱がせたときにしっかり見られていたというのに、今更と言ってはいけない。何故ならば、彼女もまた、花も恥じらう女の子なのだから。ついでに捕捉しておくと、公園での一件は予想外の事態にパニックを起こしかけていた二人の少女が自力で着替えることも出来なさそうと判断したが故に、仕方なくダークネスが脱がせただけであって(だから半泣きの二人に睨まれていた訳だが)、決して彼自身にそういう趣味があるはずではない……筈だ。多分。

障子越しに聞こえる床擦れの音を、アリシアに耳を塞がれることでシャットアウトしていると、程なくして着替えが終わったらしいシュテルが障子の隙間から顔を覗かせる。おずおずとしたその動きは、どこか巣穴から顔を覗かせるリスのようにも見える。

 

「(こうして見ると、普通の女の子にしか見えないな)」

 

いつまで経ってもこちらに来ないシュテルの様子に、いい加減焦れたらしいアリシアが彼女の手を掴み、引っ張り出す。なにやら、もごもご言っているようだが、そんな言い訳がアリシアに通用するはずも無く。普段の三割増しなテンションのまま、シュテルの躊躇など瞬断してススーッ、と障子が開かれる。「も~、大体さっきまで同じ浴衣を着てたじゃない。なんでそんなに恥ずかしがるかな~?」「い、いえ、流石にご迷惑をかけまくってしまった以上、堂々と胸を張るほど図太い訳ではなくてですね……」恥ずかしいと言うよりも、申し訳なさが前面に出ている風にも思えるが、それでもこうしてアリシアと騒いでいる様子だけを見ると、”知識”の中にある彼女の情報と目の前にいる実物の彼女のギャップに小さな驚きを感じてしまう。公園でのやり取りでも感じたとこだが、己の想像以上にシュテルは感情を表に出してくる性格らしい。

感情の起伏を感じさせぬ無表情と平坦な声色の中に、確かな感情……彼女自身のココロが宿っていることが感じられる。やはり知識と現物に違いがあるのは当然のことなのかな……、と自己完結しつつあったダークネスだったが、不意に(・・・)なんとなく(・・・・・)ほんの気まぐれで(・・・・・・・・)シュテルをじっくりと見つめてみた。と、

 

「――っな!?」

 

己が視界に映る信じられない光景に、驚愕の叫びを上げた。思わず立ち上がってしまったダークネスは、左目が解析してしまった事実……自分の予想の上を行く……されども、納得のできる真実(こたえ)を何とか飲み込み、動揺する心を落ち着かせようと玉露に手を伸ばし、茶柱の立った中身を一気に煽る。

淹れたててでまだ熱いそれを、喉を鳴らしなが一気に飲み干す。喉と舌にピリピリした痛みが奔るものの、むしろその痛みのお蔭で冷静さを取り戻すことに成功していた。

 

「だ、ダークちゃん? どしたの?」

 

『なにがなんだかわからない』とでも言いたげな表情のアリシアはひとまず置いといて、視線をもう一人の少女……シュテルへと向ける。彼女も初めは驚きの表情を浮かべていたものの、即座にダークネスが冷静さを取り戻す様子を見てどこか満足げに頷きを繰り返していた。

 

「お前は……”紫天の書”が生み出したマテリアルじゃあないのか?」

「(さすが……! こうも容易く見破られるとは!)」

 

ほとんど前情報の無い……というか寧ろ、与えられた先入観が邪魔をするせいで真実にたどりつくことはないだろうという自身の予想を上回る理解の速さに、シュテル内に設置された『高感度ランク』が一ランクほど上昇した。

 

「ご察しの通りです。そして、それこそが私があなたに接触した理由でもあります」

 

姿勢を正しながら、シュテルはそう切り出した。

 

 

 

 

そこは、ただただ広い黒い空間だった。宇宙空間のようであり、けれども宇宙とは違って煌めく星々の輝きの無い、まさに暗黒と称するに相応しい世界。

母親の胎内でたゆたい、眠りにつく幼子の様な体勢でまどろむ彼女以外、誰もいない筈の世界。静寂が支配する黒い世界唯一の存在たる少女……紫天の”盟主”『ユーリ・エーベルヴァイン』の耳に、無駄に明るい声が届く。

 

「やっほー♪ 突撃! 貴方のベッドの中~~♪」

「はひぃっ!?」

 

闇に身体を漂わせながらうとうしていたユーリは、唐突にすぐそばから声を掛けられて素っ頓狂な声を上げてしまう。人外の力を揺する彼女とて、精神的には花も恥じらう少女のもので。だからこそ、おまぬけな声を上げてしまったことが無性に恥ずかしくてならない。

 

(うう~~、はずかしいですぅ……じゃなくて!?)

 

「だっ、誰ですかっ!?」

「ふはははは! このボクにお前は誰と訊くのかい!? 世間知らずも甚だしいよ」

「むむっ! た、たしかに最近、引きこもってましたけど! それは怪我の治療に専念していただけなのです! けっして、私は《にぃと》などではないのです!」

 

最近になって覚えた一般常識を披露しつつ、反射的に身構えながら声の聞こえた方へと向き直る。

 

「あっはっは~~、ふ~ん? へぇ~? ほぉ~?」

 

視線の先にいたのは、じろじろとユーリの顔を見つめてくる女の人……なんていうか、変なヒトだと思わざるを得ない人物であった。綺麗なパープルブルーの長髪がたなびく、頭頂には機械みたいな猫耳がぴこぴこと自己主張の真っ最中。絵本の主人公みたいなかわいい服の上に、ちょっと皺の入った白衣を羽織った女のヒト。

 

「どうやって、ここに入ってきたんですか?」

 

素朴にして重要な質問。魔導生命体である紫天一派が肉体を修復させるためだけに用意された空間に平然と侵入してきた相手を前にしたユーリの表情は鋭い。

 

「んん? そんなの、ボクが天才のルビーさんだからにきまってんじゃない」

 

うわ、すごい……こんなに自信満々なヒト、ディアーチェ以外にもいたんだ。ちょっとだけ、感動したのはユーリだけの秘密だ。

でも。

 

「……帰ってください。ここは私の、私たちの世界です」

 

そう、望まぬ生を与えられ、無理やり契約を結ばされた彼女たちに残された最後の空間、彼女たちが彼女たちで居られる、大切な場所。『始まりの闇』ここから私たちは生まれたんだ。だから……誰にも汚させない!

 

「出ていって……!」

 

背中から赤黒い霧状の翼……魂翼を展開、ユーリという存在の核である無限魔力生成機関『エグザミア』を活性化させて魔力を放出する。常人なら、それだけで戦意を奪われるほどの圧倒的な魔力の奔流。まさに闇の世界を震わせるほどの魔力波動を浴びているというのに、女の人の浮かべる笑みに翳りはなく、むしろ逆に、より一層深いものへと変わりつつある。

 

――こわい。

 

正直にそう思う。でも、だからと言ってここで引き下がるような真似をするつもりも無い。何故ならユーリは紫天の盟主であり……表で望まぬ行動を強制させられている彼女たちの帰る場所を守らなければならないのだから。意識を戦闘モードへと切り替え、魔力で構成した刃を纏わせた腕を振るおうとした刹那、――驚愕で、言葉を失ってしまう。

 

「(腕が……動かない!?)」

 

まるで中空に縫いとめられたようにピクリとも動かせない。だが、ユーリの驚きはそれだけでは終わらなかった。逆の手も、両足も、魂翼でさえも、一切の行動を不能にされてしまった。バインドなどの形跡は一切見受けられない。それならば、いったい何故――!?

 

「ふふふ……どうだい? ボクの『狂い踊る人形劇(ドール・パピヨン)』のお味は」

そう言いながら、完全に封殺されたユーリにも見えるように手を拳げてみせる。

目を凝らすと、彼女の指先……正確には十指に装着された指輪から鮮烈な輝きを放つ閃は無数に奔っているのが見えた。それは『糸』。目で捉えることすら困難な程に細い糸が、指輪に刻まれた文様の隙間がら幾重にも溢れ出し、揺らめいていた。

ルビーの魔力光と同じ鮮やかな紫色を放つそれを、光源など存在しない筈の空間のお蔭もあってユーリには比較的簡単に糸の存在を捉えることが出来た。だが、意識して目を凝らさなければ捕捉するどころか、それが糸だと気づくことすら出来なかったことだろう。現に、単体戦闘能力では紫天の一派最強のユーリですら、全く気付くことも出来ぬまま全身をからめ捕られしまい、容易く拘束されてしまっているのだから。

恐るべきは、それを成し遂げるほどの力量を有するルビーの技量か、それともユーリの全力を完全に封じるほどの信じられぬ糸の強度か。

 

「ふっふっふ~~……キミが何を考えてるのか手に取る様にわかっちゃうよ~~、なんたって、ボクは『天災さん』なんだからねっ! でも、『すっごく強度が高い糸』っていう回答じゃあ、三十点だね~~」

 

辛口の判定を下しながら、ルビーは指を一本だけ折り曲げる。と同時に、ユーリの背中で禍々しいかぎ爪のように半実体化していた魂翼が痕方もなく霧散する。術者(ユーリ)の意図を無視して。

驚きで目を剥くユーリに、ちっちっち……、と人差し指を立てながら、まるで生徒を導く教師の様にルビーは己の“能力”を話していく。

 

「ボクは人形使いで、世界に存在するすべてのモノはボクに操られる人形でしかないのさ~~♪ 『狂い踊る人形劇(ドール・パピヨン)』は触れた対象の“理”を操作することが出来るんだよ。つまり、物凄い強度がある糸なんじゃなくて、糸が触れたモノ――今の場合だとキミだね――の存在の動き総てを操って停止させたのさ~~。つま~り! 今の君は頭では糸を引き千切ろうと手足に力を込めているつもりになっているんだろ~けど、実際に身体の方は微塵も動こうとしていないのだっ!」

 

ルビーの“能力”の本質、それは糸は糸でも『操り糸』だということに尽きるだろう。

彼女は自信を人形使いだと自称している。これは比喩でもなんでもなく、彼女の手に掛かってしまえば、例え世界の定めた不変の“理”すら、思うが儘に改変させることが出来るのだ。糸を絡めつけるという条件させ満たしてしまえば、拘束したいと願えば相手の身体は本人の意思に反して文字通り無抵抗な姿を晒し、切り裂きたいと願えばどれほど強固な対象であろうとも豆腐に包丁を下ろすかの如き容易さで切断することができる。だが、この“能力”の真のチカラ……“理”すら操るということは、糸に絡め取った対象を、本人の意識とは無関係にルビーの好きなように動かすことが出来るという点こそが、これの真骨頂と呼べるだろう。触れた者すべてに対する強制的支配権を奪い取る、凶悪なまでの“能力”。それこそが、彼女のチカラの正体。

彼女にとって、世界の統べてが彼女が見おろす箱庭の中に転がる人形でしかないということか。ルビーは人形使い。世界の理ですら、彼女の操り糸の前ではその意識を、想いを塗り替えられてしまうのだ。

 

「さ~って、と……」

「あ、あれ? なんでうきうきしてるんですか? わきわきさせる両手の意味は……?」

「ふっふっふっ……いいねぇ、判ってるねぇ。不安げに上目使いしつつ涙を浮かべる魔王様に穢されるお姫様ちっくなヒロイズム――……はぁ、はぁ……!」

「ちょ!? 鼻血! 鼻血がぼたぼたと流れ落ちてるんですけどっ!? え、何コレ!? 私、何をされちゃうんですかぁ!?」

「だ、大丈……夫……だよ? イタくしないからさぁ……はぁ、はぁ……寧ろ、キモチ良くしてあげるからさぁ……!」

「ぴいいいいっ!?」

 

両手を脇脇させながらにじり寄ってくるルビーの姿に、ユーリはもうカンペキに涙目だ。瞳に涙を溜めて、いやいや、と弱弱しく首を振るその仕草が追いつめられた小動物そのものと言った風な雰囲気を醸し出し、そしようもなくイケナイ気持ちを湧き上がらせてくることを本人は気づいていない。頬は緩み、半開きになった口元からは荒い息ときらりと光る涎が溢れ出す。誰がどう見ても、ドン引きすること間違いなしな変態がそこにいた。助けを呼ぼうとも此処に居るのは彼女と自分の二人だけ。まさに八艘塞がりである。

 

「では……いただきま~す!」

「うわきゃ~~!?」

 

伝統の○パンダイブで拘束された美少女に襲い掛かる、白衣の少女。見る人によっては、ご飯三杯はイケそうな光景だ。

 

「ふふふ……ここか? ここが良いのかな? ん~?」

「あっ、そ、そこはダメ――ンンッ!」

「んっ……はぁ……ちろっ」

「ひゃぅうんっ!? やっ、やぁ……! そんな、トコ……なめちゃぁ――んむぅっ!?」

「ンッ、ンムッ……チュッ……ぷはぁ――あむっ」

「ふむっ……はぁ、むうっ!?」

「んじゅっ……じゅうううっ!」

「~~ッッ!?」

「――ぢろっ……! ふう……」

「ンぁ……ふぁ……あっ!? やっ、やあ――」

「んふふふ……、さあ、キミの総てをボクに見せてよ……!」

 

シュルッ……

 

「――チュッ」

「――ッあ、ああああ~~~~っ!?」

 

 

~~未成年者にはお見せできない行為が繰り広げられております、しばらくお待ちください~~ 

 

 

だいたい三十分後

 

「ふぅ~~……、いやー、まさかボクがここまで夢中にされちゃうなんてねっ! すごいね、キミ!」

「――ううううう~~~~っ!!」

「や~らかいし、い~においもしたし……うん、決めた! 最初はキミの核だけ引っこ抜いてやろうと思ってたけど、やっぱり君ごと貰うことにするよ!」

「そんな事よりも! いい加減に、ぱんつ返してくださいよう……!」

「え――」

「え――じゃありませんからっ! 返してって言ったら、返してくださいよおっ!? あ、ちょっと!? 何で、においを嗅いでるんですかぁっ!? わざとらしく、くんかくんかしないでくださいよぉ!」

「今日という日の記念に、コレ欲しいっ! 額縁に飾っておくからさ! ね、いいでしょ?」

「いい訳ないでしょおおおお!? どれだけ、変態さんなんですかぁ!? ていうか、あなたは”Ⅰ”さんにご執心じゃなかったんですか!?」

「え? もちろんそうなんだけどさぁ……実はボク、女の子もイケるって最近になって気づいたんだっ(キリッ!)」

「すっごい真剣な顔で言うようなことなんですかぁ!?」

「実はボク、女の子もイケるって最近になって気づいたんだっ(キリッ!)」

「大事な事じゃないから、二回言わなくてもいいですっ!」

 

腹が立つくらい爽やかなドヤ顔を決めてくださったルビーに、へにょへにょっ、と戻したてのワカメの如き弱弱しさしか見えぬまでに弱体化させられてしまい、魂翼で『すっぽんぽ~ん』な下半身を隠した真っ赤な顔のユーリが怒るものの、まさに馬耳東風、ぬかに釘、猫に小判。

人差し指の先で、ユーリからずり下ろして奪い取った見かけによらず実は意外と大胆だったユーリちゃん愛用の黒いレースな布生地をくるくると回すルビーの笑顔が崩れる様子は微塵も無い。周りの人間を否応なしに巻き込み、引っ掻き回す彼女こそ、まさに“天命すら災害へと変えてしまう”存在……『天災』と呼ぶにふさわしいだろう。基本、人の話など訊いちゃいねぇルビーは、拘束から解放され(抵抗する気概は完全に鎮火させられてしまっていた)自由になった手足の具合を確認するよりも前に、取り返したアダルティな下着の再装備に忙しいユーリ本人の意思を確認せぬまま、彼女を自分のものにしようと動き出していた。

 

「じゃ、さっそくキミのコアに『狂い踊る人形劇(ドール・パピヨン)』を接続させて、マスター権限をボクに変更――って、あれ?」

 

ユーリのコアに糸を接続させることは出来た。だが、そこで何かに気づいたように動きを止める。訝しむように眉を顰め、首を傾げる。明らかに戸惑っている様子を見て、身だしなみを整えたユーリは儚げな笑みを向けていた。

 

「無理ですよ、”Ⅱ”さん」

「……ど~ゆ~ことさ?」

 

今まで出来ない事が一つも無かったが故に、自分(ルビー)では無理だと断定されたルビーが半眼で睨む。刺すような視線を受けてなお、ユーリは首を横に振って、否定の意を表す。

 

「私の……いえ、”紫天の書”一派である私たちはマスターに生み出された存在なんです。私たちのマスター権限が『あの人』の元にある以上、どんな異能を使ったところで、これを無効化させることは出来ません」

「ふ~ん? でも、このルビーさんを舐めちゃあいけないよ~~? ボクの手に掛かればそんなプログラムなんて、ちょちょいのチョイで――」

「いいえ違います。そうじゃないんです」

 

理屈じゃない。根本から考えが間違っている。そう言外に言われて、流石のルビーも口を紡ぐ。実際、『狂い踊る人形劇(ドール・パピヨン)』のチカラでユーリという存在を操作しようとアクセスした瞬間、実にあっさりと糸を消し去られてしまったのは、紛れもない事実なのだ。身体や魔力を拘束することは容易い事だったというのに、だ。同種の魔導生命体である守護騎士たちならば、三秒も掛からずに騎士プログラムのコアへとアクセスし、付き従うマスターを闇の書の主から自分へと書き換えることが出来ると自負している。そんなルビーですら、先ほどの挑戦で『ユーリのコアプログラムに干渉して、マスター権限を奪い取ることは不可能だ』と、優秀すぎる彼女の頭脳が判断を下していた。

 

「……もう、わかってるんでしょう? 私が唯のプログラム生命体なんかじゃないっていうことに」

「ま~ね~……推論なんだけどさ~? キミ……ううん、キミたちって、本物の”紫天の書”一派じゃないんでしょ?」

 

返答は無言。だが否定の言葉でない以上、つまりは――そういうことなのだろう。

 

「ご明察、です……。私たちは、貴方たちの知識にある”闇の書の残骸”でも”闇の書の闇”でもありません」

 

ユーリは彼女には似合わない自傷気味な笑みを浮かべた。

 

「私たちは『あの人』……転生者No.”0”(ナンバー・ゼロ) 新羅 白夜の”能力”によって生み出された、彼のチカラの一部でしかないんです」

 

告げられた事実に、ルビーの瞳が好機の色を宿した。

 




本家のお株を奪う百合百合~なシュテルんと、オ・ト・ナの階段を二段飛ばしで駆け上がってしまったユーリちゃんの回
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