「っだぁあああああああっ!」
意識の範疇外から迫りくる闘気を感じ、止めを刺さんと剣を振り上げた体勢のままその方へと振り向く。その直後、己へと迫り来る一条の光の正体が剣による斬撃だと胸の内に宿った意志の一つに告げられる。ほとんど反射的に剣を盾のように構え、咆哮と共に振り下ろされた金色の剣閃を真正面から受け止めることができたものの、はるか上空から振りおろさえた一撃に込められた威力は相当のもので、それは衝撃を殺し切れなかったディーノを十メートル近く吹き飛ばすほどの代物であった。
「お前……!? コウタ!?」
「大丈夫か、シグナム!? ――っく!」
襲撃者……八神コウタは狂喜の嗤いを上げるでもなく、襲い掛かってくるでもない、ただ無言で立ち上がって静かに佇むディーノを警戒しながら、倒れたシグナムを背中に庇うように構える。
右手に構えるのは金色の輝きを放つ刀身が美しい西洋剣、左手に構えるのは彼の身体の半分は覆い隠すことが出来るほどの巨大な盾。
コウタのデバイス【レイアース】の基本形態だ。コウタは剣を構えながら、油断なくディーノの一足一投を凝視している。
踏みしめた大地の下で何か巨大な物体が蠢いているのを感じる。シグナムが対峙していたこの世界最強の捕食者である赤竜の群れが一斉に逃げ出しているのだ。だが、それも仕方のないことだろう。
元来、食物連鎖の頂点に立つはずの存在ですら、戦場となったこの場所に留まることが耐えられないほどの殺気と狂気が大地を侵食する様に広がっているのだから。
年端も無い少年の身体には到底収まりきらぬほどの憎悪が、無言で佇むディーノの全身から撒き散らされている。吐き気を催すほどの激情に正面から向かい合いながら、コウタは盾をシグナムへと向ける。
「癒しの風――!」
柔らかな優風がシグナムの全身を包み込むように覆い隠す。僅かな間を開けて風が霧散すれば、シグナムの負った傷がほとんど跡形も無く消え去っていた。優れた回復と治療の使い手であるシャマルですら、ここまで鮮やかに治療を施すことが出来るかどうか。内心、舌を巻くシグナムだったが、ズクンッ! と身体の内側から響く鈍い痛みに呻き声を漏らしかけるのを必死になって耐える。
表面上の傷はコウタの魔法で感知した風に見えるが、肉体の内側……彼女という存在を構成するコアプログラムに達してしまった“毒”までは取り除くことが出来なかったらしい。
――いや、これでいい……。この痛みは、私が……私たちが背負うべきモノだ。
「――シグナム?」
「フッ、なんでもない。助かったぞコウタ……しかし、何故お前がここにいる?」
「はやて姉が、さ。いやな予感がするって言ったんだよ。まるで大切な人がいなくなるような……そんな予感が、ってね。それが気になったから探知をかけてみたんだよ。そしたらさ――」
盾を正面に構え、いつでも戦闘に移れるよう重心を低く構える。
「――家からそう遠くない森の中にある彼の反応を探知したってわけ。いや~焦ったよ。偶然出会った友達を話し込んでたはやて姉の目をごまかして、慌ててそこに駆けつけてみたら、紫色のバインドを引き千切りながら飛び去ろうとするディーノを見つけたんだ」
頭を冷やす意味もかねて、アリシアのバインドでぐるぐる巻きにされたまま森の中に放置されていたディーノだったが、バインドが緩んだ隙をついて拘束を抜け出し、再び守護騎士たちを狙って動き出したのだ。
ディーノ自身は転移魔法が使えなかったのだが、多少理性を取り戻したらしく『招魂の輝石』へと宿った意志に術式の代理を任せることで別世界への転移を可能とした。いずこかへと消え去ろうとするディーノを放置しておくことは危険と判断したコウタが慌てて後を追ってみれば、そこはシグナムが蒐集活動に訪れていたこの世界だったわけだ。ろくに転移座標の確認もせず、他人の転移魔法陣に無理やり割り込むように飛び込んだおかげで目標座標が大きくずれてしまって救援が遅れてしまったものの、最悪の状況だけはまぬがれることが出来た。
(ちなみに、アリシアのバインドが緩んだのはちょうどその頃に翠屋で交渉が行われており、シュークリームを食べまくった彼女が満腹になってしまい、うつらうつら舟をこいでいたから術の維持に揺らぎが生じたからである)
「仲間のピンチに颯爽と駆けつける……な~んて、ヒーローはガラじゃないんだけどね。――シグナム、ここは僕が引き受けるから君は今すぐシャマルと合流して撤退を」
「ま、待てコウタ! あの少年相手に一人では――!?」
「わかってる! とんでもない無茶を言ってるって事も、未熟な僕の
震え出しそうになる膝を、家族を救いたいという覚悟の思いでもって押さえつける。コウタの目的はこの世界にいるシグナムとシャマルの救助。
ヴィータとザフィーラに救援は出せない。ディーノの剣には彼らを滅すr溜めだけに生み出された猛毒が仕込まれているのだから、ヘタな救援は逆効果となる可能性が極めて高い。
最悪の場合、何かとディーノを気にしていた
「僕が力を、戦う術を学んだのは……大切な家族を守り抜くためなんだから!」
正面に構える盾の取っ手を握る指先に力が籠る。大地を踏みしめ、裂号の気合いと共に虚を突いた突進を繰り出す。盾による初撃は予想外だったのか、棒立ちのままだったディーノに巨大な盾が衝突する瞬間に発生した衝撃が大気を振動させた。
「な!?」
驚愕の声の主はディーノ……ではなく、コウタのもの。超重型の鈍器を叩き付けられたディーノは、突き出した片手でその一撃を受け止めてみせていた。やや俯いているので表情は伺えぬとも、ダメージが無いのは間違いないだろう。振り上げられた蹴りが盾の中央へと叩き込まれる。正面から受け止めたというのに、コウタの斥力を軽々と上回る重さを宿した一撃は、盾を構える指先から容赦なく力を奪いさっていく。表情が歪むコウタにディーノの追撃が迫る。一切の躊躇も戸惑いも無い無慈悲なる刃が脳天目掛けて振り下ろされる。身体を開いて躱せたものの、刃に纏った魔力が陽炎のように揺らめき、コウタの肌を焼きつける。数百人にも達する怨念が寄り集まった魔力は、物理干渉すら得たらしい。放出される魔力の残光ですら、触れたモノに傷を負わせてくる。斬り返しの刃を時に盾で受け、時に剣でいなしながら反撃の機会を伺うものの、純然たる斥力で圧倒してくるディーノになすすべを見出すことが出来ない。数度の交叉を経て、コウタのパリアジャケットを掠るギリギリの剛撃の数が増していく。守護騎士たちと似通った、服に属類する意匠であるバリアジャケットでは、もし直撃されたら致命傷は免れないだろう。騎士たちに比べても防御と守りを主体とするコウタですら、ディーノの繰り出す嵐のような猛攻の中を紙一重の領域で生き延び続けることが精いっぱいだった。
「このっ……! 調子にっ!」
型も何もない、右手で振り上げた大剣を無造作に振り下ろされるだけの斬撃を盾表面の傾斜を利用して受け流すと、逆手に構えた剣で斜め上へと逆袈裟切りに斬り上げる。
大剣を振り下ろした直後で大きく身体の開いた無防備な左脇腹を狙って放たれた起死回生の斬撃は吸い込まれるようにディーノへと直撃する。だが。
(またっ!?)
まるで巨大な岩石に叩き付けたかのような感触。攻撃を仕掛けたというのに、逆に押し返されてしまうという矛盾。軽鎧しか身に付けていない筈のディーノに少なくない攻撃を叩き込めていた。なのに、斬りつけた刃は弾かれ、盾や足による打撃を叩きこんでも、逆にこちらが痛みを感じる始末。そんな、わけもわからずに混乱するコウタの隙を見逃すほどディーノは甘くは無い。手首を返し、地面に突き刺さった大剣をそのまま真横に振り回し、コウタへと叩き付ける。片手で振り回されたに過ぎない一撃は、しかし、冗談のような威力を込めていた。まるで野球選手にトスバッティングで飛ばされたボールのように、コウタの身体は天高々と打ち上げられ、吹き飛ばされてしまう。
「なんて、力――っがは!?」
大剣が直撃したのは反射的に構えることに成功した盾だったお蔭で深刻なダメージは無かったコウタは、宙を舞いながら何とかして体勢を立て直そうと身を捩る。その瞬間、大地より立ち昇った真紅の稲光がコウタの全身を焼き貫いた。強固な盾でも魔力を変換させた電気までは防ぐことが出来なかったらしい。全身から焦げ臭い煙を立ち昇らせながら地面に叩き付けられ、手足の感覚が薄れていく現実に混乱しながらも反射的に手の平から放出させた魔力を暴発させてその場から緊急離脱する。直後、コウタの頭部があった場所に突き刺さる濁った輝きを放つ死神の刃。それを放った存在……ディーノは死を告げる冥府の使いの如き幽然とした動きで近づき、死神の刃かと錯覚させた大剣を引き抜くと、左手首から溢れ出すように流れ出ている己が血液を刀身に塗りたくっていく。その悍ましい光景に、知らずコウタは息を呑む。と同時に理解する。先ほどの稲光、その正体を。
「自分の血液を触媒にして発動させる斬撃系砲撃魔法――!?」
刀身を照らす血の真紅が怪しく煌めき、まるで高温にさらされたかのように一気に蒸発すると、魔力と混ざり合いながら鮮血の如き真紅の魔光が生まれ出でた。
大剣を引き寄せて切っ先をコウタに定めながら勢いよく突き出せば、解放された魔光が紅に輝く砲撃魔法となって放たれる。迫り来る暴虐の一撃を防御ではなく回避することを選択し、身を翻したコウタの脇を掠めてはるか後方へと突き進んだ砲撃が何かしらに着弾した瞬間、彼方より迫り来た爆音と爆風を巻き起こすキノコ雲を生み出した。
「げ、原爆!?」
冗談みたいな光景に間の抜けた声を出すコウタに、ディーノからさらなる追撃が放たれる。血液を纏わせた刀身を今度は突きではなく薙ぎ払う様に振るった。三日月のように美しい弧を描きながら、真紅の飛翔する刃が放たれる。コウタは反射的に剣を盾に収め、右手を突き出しながらすばやく魔法の詠唱を終える。
「紅い稲妻!」
解き放たれた紅き雷光が真紅の刃とぶつかり合い、相殺する。ディーノの斬撃は刀身に血を擦り付けなければ発動できないということに気づいたコウタがディーノ目掛けて走り出す。あと数歩で間合いに届くという位置で収めていた剣を抜剣しつつ、右腕を狙って突きを放つ。戦闘開始より、ディーノは一括して右手で大剣を振るい続けている。利き腕だからとも考えられるが、それにしても左手を添えるような素振りを見せないことがコウタには気になっていた。もしかしたら……という直感。自身の第六感を信じて、大剣を振るう際に最も負荷のかかるであろう手首を狙って放たれた突きが直撃する刹那、ディーノがとんでもない行動に移った。
「自分の左手を犠牲にするのか!?」
ディーノはコウタの切っ先に左の掌を突き出すことで、正面から受け止めてみせたのだ。横から掴み取る……のではない。手の平に突き刺さった切っ先をより深く刺し貫くかのように、あえて自分から前へと踏み込んでみせた。非殺傷設定とは魔法の行使によって発生するダメージを魔力ダメージへと変換するものだが、剣などの獲物が有する切断効果までは無効化できない。
鮮血を撒き散らし、切っ先が手首近くまで深々と突き刺さったせいで、ディーノの左手が歪に歪む。常人なら泣き叫ざるを得ないほどの激痛に晒されていながら、それでもディーノの表情に揺らぎはない。
彼が浮かべるのは一貫して同じ表情、すなわち――狂笑。
「ひゃはああああぁぁああああっ!」
ダメ―ジを受けた様子など微塵も感じさせずに、左手を引いたディーノは互いの額が擦れ合うほどの距離にコウタを引き寄せると、無防備な頭部に自身の額を叩き付ける。
ヘッドバッドという予想外の攻撃を受けて、瞼を閉じてしまったコウタの丹田――人間の体内を駆け巡る生命力の中枢器官――に、大剣をほおり出して無手となった掌を押し付ける。
大地を踏みしめ、その反動と全身を駆け巡る血液の脈動、そして渦巻く怨念を収束、伝達させながら一点に集中させたエネルギーを掌から解き放つ。
「絶魔・発頸――!」
練り上げられたエネルギーが掌から迸り、丹田を中心にしてコウタの全身を蹂躙する。人体の急所ともいうべき位置を正確に撃ち抜けたのは、ディーノが宿す怨念の中に格闘技や気功の心得があるものが含まれていたからだ。一時的に肉体の所有権を彼らの魂に委ねることで、普段のディーノが取得できていない技法や術を行使することも可能とする。
もちろん、積み重ねた鍛錬の末に見出した達人の技を無理やり再現しているのだから、ディーノの身体へ極めて大きな反動が襲い掛かっている。心得すら持ち得ない気功法を使用すれば体内の頸路――生命力、気と呼ばれるエネルギーを循環させる回路のようなもの――に多大な負荷をかけてしまうし、剣を振るう普段とは異なる動きを行ったことで至る所の筋肉が悲鳴を上げている。
武術というものは修練の繰り返しによってそれを使うに相応しい肉体を手に入れることで初めて結果を出すことが出来る。少なくとも、気功の才能を持ち得ていないディーノが一流の発頸を使用してしまったのだから、彼の寿命は著しく削り取られてしまっていることだろう。だが、痛みを感じているような素振りは見られない。今も、発頸によって爆破されたかのように吹っ飛んで、岩山にめり込んでいるコウタに追撃を仕掛けようと、大剣を振りかざしている。
それが導き出す
(痛覚を完全に遮断しているのか!?)
激痛に堪え、地面に突き刺した剣を支えにして何とか立ち上がったコウタは信じられないものを見るような目を向ける。
痛みとは生物が生きていく上で必要不可欠な感覚だ。痛みがあるから、人は学習し、取り返しの利かなくなる一歩手前で思い留まることが出来る。だが、今のディーノの状態はまさに『精神が肉体を凌駕した』と称して差し支えないだろう。
「なんて……ヤツ……!!」
大地を粉砕しながら天高々と跳躍したディーノを見上げるコウタの瞳に恐怖が映る。理解を超えた存在に……想像だに出来ない怒りを凝縮させた魔光を纏った復讐者の姿に、コウタの心は大きく揺らぎつつあった。だが。天は彼を見捨てなかったらしい。
コウタの視界に、遥か上空より迫り来るディーノの横面を殴り飛ばす黒い影が映り込んだからだ。
「へ? え、えぇええええ!?」
マヌケな叫びを上げるコウタの眼前で、拳の直撃したディーノの頭部が手榴弾でも叩き付けられたかのように爆発する。
もうもうと煙を立ち昇らせながら衝撃で地面へと叩き付けられたディーノを呆然と見つめていたコウタの傍に、それを成したと思われる人影が降り立った。
民族衣装をおもわせる軽装とマフラーが特徴的な少年。コウタは知っていた。この少年がいったい誰なのかを。
「さ、”Ⅲ”!? な、なんで君が僕を助けてくれたんだ!?」
「はぁ? ンだよ、見捨てた方が良かったのか?」
「え、いや、そういう訳じゃないんだけど……その……」
「へっ、ウジウジしやがって。けどまあ、今はンな事どうでもいいじゃね~か。俺とアンタの目的は同じはずだぜ? ――あの狂人からアンタらを見捨てたら、いろんな人に文句を言われちまうんだよ。だからほら、さっさと立て」
恥ずかしげにそっぽを向きながら手を差し伸べてくるアルクにしばし呆然としていたコウタだったが、やがて苦笑を浮かべながら差し出された手を借りて何とか立ち上がる。
二人が頷きを交わし合うのとほぼ同時に、ディーノが落下した地点から爆発的に魔力が放出される。砂埃の向こう側からゆっくりと近づいてくる人影を睨み付けながら、手短に作戦を取り決める。
「このままやり合ってても、じり貧だ。俺は蒐集されちまったせいでフラフラだし、アンタも満身創痍のズタボロだしな。ここはひとつ、こういう場合に取るべき鉄壁の戦略を行うべきだと思うんだが、どうよ?」
「奇遇だね、僕もそれしかないと思っていたところなんだ」
「そっか、じゃあ協力するとしようぜ?」
「いいよ、その話に乗らせてもらうよ。……で、どっちが何をやる?」
「あ~~、……ワリ、俺の方はもうガス欠だ。魔法は使えそうにないわ」
「……OK.それじゃあ、そっちは僕が引き受けるよ。でもそうなると君は――」
「大丈夫だ、任せろ。こんなこともあろうかと! こ~ンな事もあろうかと!! とっておきの切り札があんだよ!」
自信満々なアルクに若干頬をひきつらせながら、それなら任せたとばかりに一歩下がると、即座に術式の構築に移る。
それに気づいたディーノは大剣を一振りして粉塵を散らせると、目も霞むようなスピードで二人目掛けて襲い掛かってくる。詠唱を続けるコウタを庇うように立ち塞がったアルクは、膝を落とし、両手を腰だめに構えながら迎え討つ。まずは
袈裟切りに振り下ろされた斬撃は、直撃すればSランクオーバーの魔道師ですら一撃で沈んでしまうほどの威力が籠められていた。迫り来る死の気配を肌で感じ取ったアルクの口端が引き攣る様に吊りあがる。そして――
防ぐことも避けることも叶わぬ斬撃が、コウタの身体を真っ二つに切り裂いた。
宙を舞い、地に落ちて転がったアルクの上半身。いまだに立ったままの下半身、その切り口から噴水の如き鮮血が飛び散っていく。唐突に砂漠の世界に誕生した小さな赤いオアシス……人の血液によって生まれた文字通りの血の池を見下ろすディーノの瞳には、やはり後悔や悲しみの感情は映し出されていなかった。彼にとって、アルクという存在は“ゲーム”における対戦者なのではなく……単なる道端を這いずり回る虫けらと同等の価値しか存在していないのだ。
己が生み出した亡骸を躊躇なく踏み越え、一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄っていく。敵に組する愚か者へ、あらんかぎりの恐怖を与えるかのように。
迫り来る死神から放たれる殺気に身を震わせながら、それでもコウタは詠唱を止めなかった。逃走するでもなく、刃向ってくるでもない敵の姿にディーノが僅かに首を傾げた直後……何者かが彼の肩に指を掛けて押しとどめた。驚き、振り向いたディーノの目に飛び込んできたのは――無傷のアルクが振りかぶった拳だった。
ごおんっ! と鉄板を殴りつけたような音を響かせながら、ディーノを吹き飛ばした。
「はっは~~っ! 見たか、聞いたか、驚いたか! コイツが俺のとっておき……『
無慈悲なる魔剣によって、確かにその存在を切り裂かれたはずのアルクが立ち上がり、反撃までしてみせた光景に、コウタとディーノは戦慄を隠せなかった。
――『
『
『それぞれの能力に属する攻撃によって受けた致命傷を一度だけ無効化させる』という限定的な蘇生能力と呼べるもので、生死に関わる傷を負った時に自動的に発動する。
この“能力”は、厳密には死亡した直後に蘇生させる蘇生魔法ではなく、死の一歩前の状態――いわゆる瀕死状態――に至ると、肉体の傷を超速で再生させることで全体状態にまで巻き戻すというもの。
こういった特性故に、一撃で命を絶えるような攻撃によって即死した場合や、遅効性の毒などによって徐々に肉体を蝕まれていった場合などには“能力”が発動しないという弱点があるものの、疑似的な蘇生能力という強力な“能力であると言えよう。”
(――つっても、ノーリスクってワケにはいかねえんだけどな)
自身の内側からあるものが抜け落ちていく感覚に、アルクは無意識に眉根を寄せてしまっていた。
「お、驚いたな! まさか死者蘇生を行えるなんて……! 君はへラクレスかなんかかい!?」
「いやいや、流石に
「君が真っ二つにされたものだから驚いていたんだよ! だからもうちょっとだけ――、よし! 転移魔法完成! 目標座標、第九十七管理外世界! 転移……開始!」
「よっしゃ! 俺たちの作戦『所詮この世は思うがままに行かないことばっかり~~、所詮は逃げたもん勝ちよ』大作戦が見事にハマったってことだな!」
「いや、長いよ!? どんなネーミングセンスしてんのっ!?」
「こまけぇことは気にスンナ! てなワケで……へへっ! あ~ばよ~」
迫り来るディーノの顔に浮かぶ明らかな怒気に、してやったりと言わんばかりの悪ガキ風の笑みを投げつけながら、コウタとアルクは転移の光に包まれてこの世界から消え去っていった。
「ぁ、ァァぁ唖嗚呼……っ我ァ嗚呼あ亞蛙あ嗚ああアアあ亜!!」
後に残されたのは、悲壮さすら感じさせる叫びを上げ続ける悲しき復讐者と、
「――少年、我々と取引を交わさないか?」
慟哭する少年に声を掛ける、自身と同じ姿をした存在に肩を借りながら現れた仮面の男だけだった。
振り向いたディーノの瞳を覗き込むように顔を近づけた男――シグナムとアルクの決闘に割り込み、ディーノの不意打ちを受けていた方――は、まるで子どもに言い聞かせるように語りかける。
「我々と君の目的は同じ……ならば、協力し合うことも出来るはずだ。そうだろう? ――私と同じ復讐者よ」
かの男は、仮面の奥で暗い笑みを浮かべていた。
無垢な幼子をたぶらかす非情な魔女のように。
そして――どこまでも純粋に残酷な判断を下すことのできる悪魔のように。