魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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ダークネス VS 白夜戦、決着。
仕上げて見れば過去最大級の文字数に。
そして、所々に仕込んでいた彼のパワーアップフラグをようやく回収できました。



決戦、”闇の書” 《新世黄金神》

崩れ落ちる身体を慌てて駆け寄ったアリシアに支えられたシュテルは、フルマラソンを完走した直後のように激しく呼吸を繰り返しながら苦しそうに胸元を掻きむしるように押さえている。

いや、彼女だけではない。ルビーへ抱き着く様に崩れ落ちていくユーリも、荒い呼吸を繰り返しながらお互いを支え合って何とか宙に浮かんでいるディアーチェとレヴィ、彼女ら全員が苦痛にゆがんだ表情を浮かべながら胸元を押さえている。尋常ではないシュテルたちの状態を、ダークネスの強力な感知能力は正確に読み解いていた。シュテルの症状は『魔力の枯渇』。それも、身体の中に穴が開いたかのように体外へと漏れ出している。元来の魔力枯渇症状であったならば、身体の末端部……手足の先から魔力の粒子となっていくはずだ。だが、シュテルは違う。今の彼女は押さえた胸元……正確には、彼女という存在の核があった場所にぽっかりと空洞のような物が空いてそこから、放射状に魔力の拡散が起こっている。

それが差し示す答えはたった一つ――!

 

「貴様……、アイツのコアを……!」

「おいおい、どうして睨む必要があるんだ? アレは元々僕が生み出して与えたチカラなんだよ? それを返してもらっただけさ」

 

彼女らのコアに当たるものは白夜のチカラの原形……望んだとおりのチカラを具現化させる種のようなものだった。

それをコアとして、魔導生命体の肉体を構築して個人という人格を作り上げた。すなわち、コアを取り除かれてしまった彼女たちが存在を維持できずに崩壊してしまうのは自明の理であった。

 

「奴らは仲間じゃなかったのか? 正義の味方を気取っている割には下種な真似をするもんだな」

「――君はさっきから何を言っているんだ? 内通を行った時点で、アレ(・・)は裏切り者……滅ぼすべき“悪”じゃないか。だったらそんなモノを存在させておく必要なんてあるはずが無いだろう? だいたい、邪悪な存在に自分からすり寄る女など、堕落した売婦以外に何があるっていうんだ? そんなモノを欲しがるなんて、まったく――天に背いた愚者の考えは理解できないよ」

 

白夜の力の一部たる彼女たちが彼の命に従うのは当然であり、その思想を全肯定する存在でなければならない。

仮に白夜が“王”であり彼女らが“臣下”であったとするのならば、敵勢存在と内通(親しく)する者が出てきても仕方のないことではある。何故なら、“臣下”個人がそれぞれ持つ思想、価値観などは千差万別であり、それを束ねることが“王”たる存在の務めであるからだ。清濁併せ飲む……それが出来て初めて、“王”は“王”として名乗りを上げることが許される。

だが白夜は“王”ではなく、“正義の使者”――それも自分が中心にあることを前提とした存在であると思い込んでいる。

離反や裏切りなどの“悪”しき行為を乗り越えて、数多の犠牲(・・・・・)が積み上げられた修羅の道を乗り越えていき最後に絶対的勝利を手にする者……それが“正義の使者”だと、本気で信じている。

そう。

彼にとって“紫天の書”一派は部下でも仲間でもなく……自分が歩く正義の王道(妄想)を語る上で必要な存在――悪の化身を撃ち滅ぼすために物語の主人公である白夜の身代わりという犠牲となって物語を演出する小道具でしかなかったのだ。

主人公に必要なヒロインは、あくまでも原作キャラクター(この世界の住人)たちであって、シュテルたちは『仲間を失い悲しみにくれながらも、それを乗り越えて世界に平和を取り戻す英雄にして正義の使者』としての役割を興じさせるためだけに用意されたお人形……。

でも、それだけのためにチカラを割り当てるのは割に合わないので、正義の執行者としての役割――白夜の僕としての身分――を与えていたに過ぎない。

それは、つまり――

 

彼女たちが白夜に忠誠を誓っていなかったのも。

シュテルがダークネスたちに助力を要請するほどに心を許していたことも。

部下であるはずのユーリが消滅してしまう可能性がある命令を躊躇なく出したことも。

 

そして……今まさに、シュテルを始めとする“紫天の書”一派全員のコア――チカラの種を回収し新たなチカラを取得していることも

全ては、白夜が自分の描いた“正義の味方”の生き様を再現させるために仕組んでいた事だったのだ――!

 

「所詮は僕の英雄譚を彩るためだけに用意した駒だったんだけど……フン。結局大した役には立たなかったかな?」

 

ブチィ!

 

その瞬間、アリシアはダークネスの理性がはじけ飛ぶ音を生まれて初めて耳にした。

ゆらり、とダークネスの身体がブレる。

 

「やはり、お前は――ここで潰す!!」

 

激高を露わにしたダークネスが、無防備状態の白夜に向けて突進する。

大きく羽ばたいた双翼から黒金色の魔力残滓を撒き散らしながら右拳を握り込む。

ダークネスと白夜が交差する刹那――炎の巨人が主の身を守るかのごとく立ちふさがった。高層ビルの外周ほどの太さがある腕を横薙ぎに振るい、ダークネスを叩き落そうと巨腕が唸りをあげる。

 

「邪魔だ!」

 

迫り来る炎の腕……いや、もはや炎の壁とも呼ぶべきものに対して、ダークネスは躊躇なく拳を叩き付ける。

普通の感性を持つ者ならば、彼が行ったことは結果の分かりすぎている愚行そのもの。巨象に蟻が太刀打ちできるはずも無く、圧倒的な体格差の前には多少の力など無意味でしかない。

だが、それはあくまでも普通の人間(・・・・・)であれば、という話だ。

暗黒の魔竜神と天炎の巨人の拳が交差し、僅かだが拮抗するものの、力の劣る方が押し負けるのはこの世の摂理である。現に力が劣ったもの……敗北者が腕を弾かれた反動で大きく体勢を崩してしまっている。ゆらゆらと全身の輪郭が霞んでしまうほどの衝撃を受けた炎の巨人(・・・・)が、粉微塵に消し飛ばされた方とは逆の腕を振り上げる。もし、巨人に心が備わっていたのならば『逃げる』という選択肢もあったはずだ。圧倒的すぎる力量差がある敵から逃避するというのは、決して臆病と称されるものではない。無意味に命を散らすのではなく、たとえ今は勝てないのだとしても諦めず、時を隔てて再度挑むことは恥じる行為ではないからだ。しかし、もとより傀儡兵と同じように主の命令にのみ従うよう設定(プログラミング)されている巨人(カレ)に取れる選択肢は、『自分と言う存在が消滅する瞬間まで、(白夜)の敵を粉滅する』しかない。それが分かっているからこそ、ダークネスにも躊躇はない。振り抜いた拳を解いて手刀を形づくると、魔力を纏わせて横薙ぎに振るう。放たれしは魔力ブーストがされたた手刀、されど黒金の魔力が描くのは天の使いすら葬りさる断罪の剣。一振りで胴体部分から上下に斬り分けられた巨人が最後のあがきとばかりに、頭上で両手を組み、ハンマーのように振り下ろしてきた。

 

「甘い!」

 

叫びと同時にハイキック気味に放たれた蹴りが、大気の軋む音を鳴り響かせながら天より降り注ぐ炎の鉄槌を打ち砕く。止めとばかりに魔力弾を頭部に二発、下半身に三発ほど叩き込めば、見上げるほどの威容を持つ巨体が粉々に消し飛ばされた。

 

「……へぇ!? 本当にやるじゃないか!」

 

高みの見物を気取っていた白夜の称賛など効く耳持たずとばかりに、ダークネスが“敵”へと迫る。

 

「はんっ、そうがっつくなよ。――戦いにはそれにふさわしい戦場(ステージ)が必要とは思わないか? ――『Uriel(ウリエル)』」

 

――リィイイイン……!

 

そう言いながら白夜が天高く掲げた指先をはじいた瞬間、夜の海上に鈴の音が響き渡る。次いで、天空より眩い輝きが舞い降りる。

それはまさに、天使のヴェール。透き通った純白の幕に見える物がダークネスたちを包み込んでいく。

咄嗟のことで反応出来なかったダークネスが次に目蓋を開いた瞬間、彼の目に飛び込んできたのは一見すると先ほどまでと何ら変わらない風景。しいてその違いを言うとするになら、見渡す限りの大地や海面から雪のような淡い光を放つ何かが湧き上がる様に舞い踊っているということくらいであろうか。幻想的という表現を体現したかのごとき光景は、己が今いる場所こそ、明らかに異質な空間なのだと理解させられるものだった。

 

「結界……? いや、これは、まさか――!?」

 

これがただの結界ではないことにいち早く気づいたのは、やはりと言うべきか彼だった。ただの結界ではない、いや、これはそんなレベルの話などではない。

こんなものを発動できる人間がいて良い筈が――

 

「っ!? くそっ、そういうコトか! 奴らめ……何を考えている!?」

「おやおや、どうしたのさ? 急に怒り出したりなんかしてさ」

「お前……この空間がどういうものなのか、分かっていて使ったのか?」

「?? はぁ? 分かるも何も、これ(・・)は僕が発動させたチカラなんだから、効果も知ってて当たり前だろう」

 

やれやれと肩をすくめる白夜のリアクションに、|この空間を展開させたのが本当に自分一人の力なのだと思い込んでいる愚者の仕草に、ダークネスは歯噛みする。

 

「『Uriel(ウリエル)』は超広域結界を展開させるチカラだよ。有効範囲は、この国(にほん)全域を覆い尽くすほど! その辺のチンケな結界じゃぁ、僕が本気を出した瞬間に、冗談で済まない被害を出してしまうからね。無力な一般人を戦いに巻き込むのは、“正義の使者”としての義に反するのさ。だからこうして、“レヴィのコア”を抜き取ってまで、結界を発動させるチカラを造りだしたワケ」

(――馬鹿が! コイツがお前の考えているようなシロモノ程度のはず無いだろうが!)

 

見れば、ユーリを膝に乗せるように中空に腰かけた体勢で、虚空に浮かぶキーボードに指を走らせているルビーも、ダークネス同様に苦い表情を浮かべている。

稀有な情報分析能力を持つ彼女もまた、この空間に秘められた本当の効力《・・・・・》に察しがついたのだろう。頬を冷や汗が流れ落ちている様からも、彼女の焦りのレベルがわかる。

――どんな理由にせよ、白夜がこの空間を発動させた以上、無駄に戦いを長引かせるのは何としても避けなければならない。

ならば――!

 

(最強の神代魔法(いちげき)で勝負を決める!)

 

かぶりを振って、今やるべきことを見据える。ひとたび『決断』を下せば、彼の行動に淀みは無い。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

咆哮と共に、ダークネスの身体から膨大過ぎるチカラの奔流が立ち昇る。解放されていく魔力の量、質ともに世界を消し飛ばすほどのシロモノ。

魔法力(マナ)のみならずダークネス自身の魔力すらも上乗せしたそれは、まさに正真正銘、手加減なしの“全力全壊”であると白夜も悟る。

 

「ハッ! ――面白い!」

 

破壊の具現たる一撃を迎え撃つために、白夜もまた最強の切り札を切らんと構えてみせる。

天に掲げた手の平に集うのは、霧散させられていたはずの炎の巨人のなれの果て。打ち砕かれ、それでもなお主の命に従わんと集う様は、まさに主神に付き従う天使の在り方そのもの。

 

「この神代魔法(いちげき)……止められるなら、止めて見せろ!」

「天の頂に立つ存在の威光をその身で知るが良い!」

 

際限なく高まり続ける魔力が生み出す破壊の暴風……大気を切り裂き、海原をさざめかせるそれはまさに世界が泣き叫ぶ悲鳴のようであった。

そして、ほぼ同時に臨界へと達した膨大過ぎる魔力が、神代の時代に名を馳せた最強の魔法を呼び覚ます!

 

「――『総てを飲み干す世界蛇の凶牙(ヨルムンガルド)』――!」

 

世界を飲み干す大蛇が主の命を受けて、邪悪な熾天使を呑み尽くさん咆哮を上げながら、その巨大すぎる咢を開く。

世界をも飲み込む神蛇に狙われたが最後、その牙より逃れる術など存在しない――!

だが。

 

「――『Lucifel(ルシフェル)』――!」

 

解放された神の蛇を迎え撃つは、断罪を司る天涯の神光! 天空の頂に立つ最高天使の名を冠する閃光が、神に仇名す悪神の息子を灰燼に化さんと威光を示す。

激突した神代魔法(きりふだ)は、互いの存在を消し去らんと唸りを上げ、しのぎを削る。

 

――相殺などありえない、己が役目は主に勝利の二文字を届けることのみ――!

 

眼前の敵を屠るためだけに生み出されし世界蛇と最高天使は、その使命を成就せんとただ前へと突き進む。そして――

爆音。

 

「ぐっ……おおっ!?」

「くはぁあっ!?」

 

爆音に混ざるのは両者の苦痛に歪んだ声。両者の総てを費やして放たれた神代魔法(きりふだ)は、互いの神代魔法(きりふだ)を相殺するという結末に終わったのだ。

世界を飲み干す神蛇の咢も、全ての不浄を浄化する最高天使の炎も、その先へ届くことは出来ずに対消滅するに留まってしまった。

しかし――

 

「まださ! もう一発くらいな!」

「なっ!? 第二射だと――!?」

 

ダークネスは動けない。『Gabriel(ガブリエル)』の自動防御《オートガード》によって守られた白夜と違って、余波の煽りをモロに受けた彼は体勢を大きく崩してしまっていたからだ。

全力の一撃を放った直後であり、一時的に魔力枯渇に陥っていたこともあって、彼にできたのは半ば無意識に左手を前に翳すくらいだった。次の瞬間、天上の焔が再度解き放たれた。

 

「『Lucifel(ルシフェル)』――!」

 

悲鳴すらかき消すほどの劫火がダークネスへと直撃し――かなり離れた位置にいたアリシアたちですら吹き飛ばされるほどの爆風を伴った大爆発が巻き起こった。

 

 

炎の残火が火の粉のように撒き散らされる中、いまだ天空で燃え盛る炎の柱の中から零れ落ち、海面へと落下していく一つの影を彼女らのデバイスが感知する。

 

【お嬢様! 下方四十度方向に親方様の反応がっ!】

「なっ……!? ダークちゃんっ!?」

 

届くはずが無い、そんなわかりきったことすらも忘れて反射的に伸ばされた指の間には、所々砕かれたように欠損している鎧を纏ったダークネスが一直線に落下していく姿が捕えられていた。

 

 

全身を蹂躙する激しい痛みが、ダークネスの意識を覚醒させる。

どうやら奴の一撃をくらって一瞬だけ気を失っていたらしい。着弾寸前に展開が間に合った障壁のお蔭で威力が減衰していたとはいえ、曲がりなりにも神代魔法。

ダメージは深刻で、バリアジャケットでもある鎧は亀裂の奔っていない箇所を探す方が難しいくらいのダメージを受けていた。

浮遊感と共に、風を切る音が聞こえてくる。自分が落下しているのだと気づくのにしばしの時間を必要とした。

どうやら本格的にマズいらしい。思考がまとまらない。動かなければ、戦わなければという思いに反して、しびれるような痛みに侵され続ける身体は鉛のように重い。

このまま眠ってしまえたら、どんなに安らかな夢が見れるのだろうか……?

文字通りの全力を出し切ってなお撃ち負けたという現実が、彼の心を蝕んでいく。ぼやける視線の先に、淡い燐光を生み出す海面が迫り来る様を捉えながら、それでも指一本動かすことが出来ない。

 

――ここで、終わってしまうのか?

 

諦めが、ダークネスの心を支配しようと鎌首を擡げる。最強であるが故に敗北を知らなかった彼の心が、決して譲らぬと決めたはずの『決断(生き抜く覚悟)』が大きく揺らぐ。

――だが。

 

「~~ッ、ダークちゃんっ!」

「……!」

 

念話などではない。肉声が届くはずが無い。それでも少女の叫びが、ダークネスの心に届く。

 

「なに、諦めちゃってるの!? そんなの全然、らしくないよ!?」

 

『生き抜く覚悟』という光が消えかけていたココロに、再び光が灯っていく。

 

「貴方は……その程度の男ではないでしょう……!?」

 

自らも消えかかっているというのにかかわらず、シュテルの眼光がダークネスを射抜く。それはまるで、この程度の窮地に躓くことなど許さないとでも叫ぶかのように。

主の想いに呼応して、蒼き宝石たちも蒼き魔力を生み出していく。

 

「わすれたの!? 私を蘇生(目覚め)させてくれたのはダークちゃんでしょ!? だったら責任とってよ! この年で未亡人なんてヤダからね!」

 

(何を言っとるか、のーてんき娘が……)

 

「……ふむ。この場合はアリシアが本妻、私が妾となるのでしょうか? それとも逆? ――まあ、どちらにせよ、こんな中途半端に我々を放り出すおつもりはありませんよね?」

 

(存外に元気だな、お前……)

 

――まったく、アイツらと来たら。

 

口元に浮かぶのはふてぶてしい笑み。先ほどまでは全然動かなかった指先が、腕が、足が、翼が、……身体が思うままに動いてくれる。

痛みはもう消えている。耐えているのではない、痛覚を感じなくなっているわけでもない。なのに、どうして彼女たち(アリシアとシュテル)応援(想い)はこれほどんにまでも胸に届いてくるのだろうか。

 

“本当の魔法”

 

ふと、そんな言葉がダークネスの脳裏をよぎった。超科学の産物である魔導とも、人ならざる存在が感じ取れる魔法力(マナ)を利用した“能力”(まほう)でもない。

ただ、誰かと想いを通じ合わせたいというだけの……そんな、一歩前へと進むための勇気が生み出す本当の奇跡。ソレを起こしたのは、『神成るモノ』でもなんでもない幼き少女たち。

 

――ああ、本当に敵わないな。

 

恐怖と憎しみを浴び続けた己に初めてできた“守り抜きたい少女”。

化け物と比喩される己を頼ってくれた“傍らにいて欲しい少女”。

守っていたつもりなのに、本当は己の方を守ってくれていた彼女たちは、こうして唯の言葉で己の心を奮い立たせてくれる。

ならば、俺は――

 

「だからっ!!」

「ですから……っ!」

 

心を蝕む(絶望)を、今こそ振り払い――

 

「ダークちゃん(さん)、まけないで!!」

 

あいつらに……(希望)を指し示してみせる!

 

「――――!」

 

――――ドクン!

 

彼女たちの言葉が、ダークネスの心の奥深くに響く。焦点が定まった瞳が映すのは、いつだって傍にいると言ってくれた少女たちの姿。

 

(そうだ、あいつらはいつも……いつだって、俺を――!)

 

孤独という暗い闇から救ってくれた彼女こそ、いつだって自分をふるい立たせてくれてきたかけがいの無い存在。

彼女はいつだって自分の総てをぶつけてきてくれていた。そう、ダークネスを理解し、歩み寄り、血に塗れた手を握り締めてくれて――そして、自分の抱く想いを伝えてくれていた。

 

『ダークちゃんと一緒にいるのは~~……ダークちゃんの事が好きだからだよ~~♪』

『私を……私たちを……助けてください――!』

 

そして、思い出す。

 

『想い』とは、人の間を繋げて受け継がれていくもの。

そして、『戦い』とは相手の想いを拒絶し、自分の想いを押し通すことのみに非ず。

相手の想いを受けとめ、理解し、歩み寄り――そして自分の想いを伝えること。

相互理解――今まで忘れていたそんな当たり前のことを思い出させてくれたのは、やはり彼女だった。

負けたくない、泣かせたくない、消えたくない、生き続けていたい、ずっと――……一緒にいたい。

ああ、そうだ。一度負けたくらいで、何を弱気になっていたのか。違うだろう? 

お前は誰だ(・・・・・)

 

(俺はNo.“Ⅰ” ダークネス……。俺は――あいつ(アリシア)が愛してくれる俺は、アイツ(シュテル)が信じてくれた俺は――この程度の逆境で生きることから逃げだす様な男なんかじゃない!)

 

ならば、応えよう。彼女が……アリシアが信じてくれる(オレ)は、誰にも負けない(最強)存在であると、証明するために!

 

そう思うだけで、胸の奥底から力が、魔力が溢れ出してくる。いや……それだけではない。自分以外の者の想いすらも体の中に流れ込んでくるのがわかる。

自分のものではない『想い』を拒絶するのではなく、素直に受け止めてみれば、力が、今までに感じたことがないほどの巨大な力となって全身を駆け巡る。静かに瞳を閉じて、溢れ出す魔力(想い)に身を任せる。

それは、彼一人だけでは決してたどり着けぬ領域。受け入れた想いが共鳴し、世界の理という殻を破るほどのチカラが生み出される。

アリシア、シュテル、ルビー、ユーリ、ディアーチェ、レヴィ、そして……バサラを始めとするかつてその未来を、命を奪った転生者たちの願いまでもが、一つの魔力となって全身を駆け巡り、それらに込められた願いと想いを感じ取ることが出来た。そして、理解する。己自身の魔力……リンカーコアが生成する総魔力が自分自身の魔力の総てであったという誤りに。

魔法力(マナ)が人々の想いの集合体であるように、個人が内包する魔力にはその者の想いが籠められている。だが、今まではそれに気づくことが出来なかった。

しかし、今までよりもはるかに広がった自分の世界……巨大化したダークネスという存在の“器”が、魔力と共に他者の想いまでもを受け入れることを可能としていた。

想いに呼応し、莫大な魔力を生成するジュエルシード、そして『超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』という相手の想いまでもを感じ取れる可能性を秘めた“能力”……相手の心を受け入れる下地は既に整っていた。

そう、ダークネスは己も知らぬ内に他者の想いを感じ取っていたのだ。でなければ、狂喜に染まったプレシアやディーノの想いを、心を理解できるはずも無かっただろう。

だが、彼は今まで己自身すら深く知ろうとせず、同胞によるサバイバルゲームという非情な現実に心挫けないように……セカイの“闇”の部分にしか視ていなかった。

どんなに希望を求めたところで、それは淡い夢に過ぎないものなのだと、皆で協力しあうなど愚かで現実を理解できてない非現実主義者の考えなのだと、心のどこかで決めつけていた。

 

だから、他者の心を知ろうとする必要なんてない、アリシアともいずれは別れが訪れてしまう、自分が生き抜くためには世界に溢れる“闇”の中で力を得ることでしか未来は掴めない……そう思い込んでいた。ダークネスが纏う漆黒の外甲……術者の心理状況(イメージ)を露わにするそれの形状こそが、彼の思想を表現していたと言ってよいだろう。

だが、そうだとしても――眩い輝きを放つほんの一握りの幸せを掴み取ることを、最初からあきらめてよい事にはならない。

 

そう――大切な存在(ヒト)と一緒にいたいという願いを抱くことは、全ての存在(モノ)に許された想い(こうい)なのだから――!

 

ダークネスの心の、魂の震えに呼応して、願いを叶える宝石が放つ蒼き光が忘れかけていた想いを呼び覚ます。もう自分には手に入れることが出来ないと諦めて、目を背け続けてきた記憶。かつての世界で、家族とともに笑い合い、些細なことで喧嘩して、それでもすぐに仲直りしてまた笑い合う。そんな有り触れた日常。どこにでもあるような小さな幸せ。

今の自分は、幸福とはほど遠い場所で生まれ変わり、殺伐とした儀式に放り込まれ、世界の総てから脅威とみなされた。

自分の起こした行動に後悔はない。でもだからこそ、どこかで思い込んでいた。“神造遊戯(ゲーム)”という殺伐とした殺し合いに自らの意志で望んでいる以上、色褪せた記憶の中に在る幸福をもう一度手にすることは出来ないのだと。

でも、それは間違いだったと、ようやく気づいた。本物の笑顔を己に向けてくれる小さな少女がいる。闇に堕ちたと思い込んでいた自分に願いを告げた少女がいる。我が身の内には、己を信じてくれる優しい輝きを放つ宝石(そんざい)たちがいる。

いまなら理解(わか)る。他人を拒絶するだけではなく、己が奪ってしまった皆の想いを受け入れ、理解して……その上で、自分の想いを貫き通すという強い意志を持つ『ココロ』を宿す――――

それこそが、さらなる高みへと至るために必要な(きっかけ)。クソッタレな現実をブチ破り、大切なヒトたち(みんな)で笑いあうことのできる未来(キボウ)を掴み取る本当の『チカラ』。

故に唱える。新たなる領域(高み)へと至るために、心に浮かんだその言葉を――!

 

「――『超高次領域・起源解放(ハイ・マテリアルシフト・フルアクセス)』――!!」

 

それは自分自身をさらけ出し、更なる高次存在へと覚醒するための言霊(キーワード)

地上で信仰される神々の本質が世の人々に理解されているように、自分という存在をセカイそのものに知らしめるための宣告。

溢れ出すは、無限にして究極。強大にして絶対なチカラ。一つに溶け合った想いは覚悟と成って、世界を極光で染め上げる。

それは目も眩む輝きを放つ――黄金。

闇の中に身を委ね、それでも失わなかった黄金色のココロ。

蒼く優しい願いが満たしたココロが世界をも超える究極のチカラを顕現させる。

古き殻を打ち破れ、世界に満ちる声へと耳を澄まし、幾星霜の想いを紡ぎ上げる。

あまねく想いを受け止めてなお、己の意志を貫き通す強き心を以て、自身に内包されていた新たな可能性の扉を開く。

そう、いまこそ――自分自身を超える瞬間(とき)!!

 

解放されるのは世界を包み込むほどの魔力の奔流。

溢れ出す魔力が渦を巻いてダークネスの身体を包み込んでいく。それはまさに地上に舞い降りた太陽の如き輝きを放つ黄金の繭。

僅かな間を空けて内側から溢れ出すのは、漆黒の縁取りに覆われた炎の如き黄金色の魔力。

眩い閃光と共に繭が霧散した先にいた存在を目にしたアリシアは何もかもを忘れたかのような表情で、ぽつり、と今彼女の胸を占める想いを言葉に変えて零す。

 

「きれ――……」

 

かの者は、黄金色の意志を映す金色の鎧を纏っていた。

蒼い輝きを放つ翼と真紅の竜尾。禍々しい獣を思わせる両肩の装甲は、深紅の輝きを放つ竜頭を模したものと変わっており、邪悪さなどではない、どこか神聖さすら見るものに感じさせる。

腰にかかるほどに伸びた黒き長髪が風に泳ぎ、竜の意匠が刻まれた左目のアイマスクの奥に輝くのは、実の瞳と遜色ない形状と化した義眼。

蒼き宝石が主の新たなる覚醒(めざめ)に歓喜の咆哮を上げている。太陽の如き黄金に煌めく鎧の内には莫大なエネルギーが渦巻いているのが分かる。

人の……いや、人界に属する存在には決して抗うことが許されぬほどのチカラを内包するのは、天の頂へと到達した『神成るモノを超えし存在(モノ)』――『新生せし神の雛』

 

 

其は超越者。

其は絶対者。

其は――新たな世界の守護神となる者。

 

 

神々の頂に立つ十二の最高神が一柱の系譜を受け継ぎし存在(モノ)。人々の想いを聞き遂げて願いを叶え、大切な存在のいる人界を守護する黄金の守護竜。

 

 

かの者の名は――

 

《新世黄金神 スペリオルダークネス》

 

 

闇を払うのではなく、闇を受け入れた上で自らを光り輝かせる。深淵なる闇の中に在ってなお、失わなかった黄金の意志を持ち続けた彼だからこそたどり着けた、究極なる一。

そこに存在(ある)だけで、膝をつき、首を垂れなければならないと思わせる、“凄まじい力”などという表現では到底表すことのできない圧倒的すぎる波動《オーラ》を纏った超越存在。

古より人々が祈りを捧げ、その加護を求め続けてきた存在が住まう領域に、とうとう彼は到達したのだ。それも――“神造遊戯(ゲーム)”という儀式の決着がつく前に、自分自身の力で。

まさにこの瞬間、ダークネスは真の意味で世界の理を超越してしまったのだと断言できるだろう。

 

「――ッ! くっ、くだらない! そんな変身くらいでこの僕を退けられるとでも思っているのか!」

「さあ……つけようか、No.“0”――この戦いの決着を」

「――ふん、まあいい。所詮は悪党のお約束の悪あがき……この僕の手で、君という存在を欠片も残さずに消滅(消し)てやるよ。さあ――さっさと楽になるんだね! 『Lucifel(ルシフェル)』――!」

 

再度放たれたのは、唸りを上げる劫火の奔流。再度放たれし神の炎が、身動きをしないダークネスに向けて一直線に突き進む。

 

だが。

 

「ああ、そうだな……さよならだ」

 

 

「――『穢れ無き宮殿(アスガルド)』――」

 

 

突き出した左手に触れた瞬間、『Lucifel(ルシフェル)』は跡形も無く消え去っていった。まるで――そんなものなど最初からなかったかのように。

 

「何ぃ……!?」

「無駄だ。今の俺には、お前の攻撃など効きはしない」

 

歪みを正すチカラ。人の意志によって志向性を与えられたチカラを、元の無色の状態……純然な神の力の状態まで巻き戻す。

これこそが、『穢れ無き宮殿(アスガルド)』――『神成るモノ』すら超えた、真なる神の領域に在る存在へと至ったダークネスの新たなるチカラ。

神の力の一端として人の身にありとあらゆる現象を起こす“能力”から、世界を、そしてそこに住む人々を護るために生まれ出た守護の力……黄金の守護神として覚醒し(めざめ)つつあるダークネスの本質を体現したチカラだった。

 

「ば、バカな!? いったい……何をした!? 何をしたんだっ!? 僕の……この僕のチカラを消し去るなんて――ありえないっ!?」

「何もしていないさ……。そう、俺は……いや、俺たちは“能力”というものの本質が見えていなかっただけだった、ということだな」

 

“能力”とは自分用に調整(チューニング)された“特典”であり、“特典”とは細分化された神の力そのもの。

人間という枠組みにとらわれていた頃の自分たちに、それを理解できるはずも無かったのだ。『神成るモノ』……そこへと至ったから自分は人を超えたのだと思い込み、そのさらに先――神の力をより深く知ろうとはしなかった。それこそが誤り。神の力の本質が司るのは『進化』。手の届かぬ遥か彼方へと昇るのではなく、自らの内に深淵よりもなお深く潜った先に秘められた無限の可能性へと手を伸ばす。そう――たったそれだけでよかったのだ。だが、人としての価値観が――『神成るモノ』となった者には人を超えたという慢心が――上を目指すことしか考えられないようにしていたために、それに気づけなかった。

『人間』とか『神成るモノ』とか関係ない……ただ、自分の可能性を信じ抜ければよかっただけなのだ。

チカラを得たから強くなったのではない、強くなったから新しいチカラに目覚めたのだ。そう――すべての答えは自分自身の中にあった。人を超え、超常のチカラを手にした自分自身の本質を理解し、受け入れ、より深く知る。そうしてチカラは紅玉の如き輝きを放つまでに磨き上げられ、洗練されていく。その先に在る称号こそが――“神”。

力ある者は例外なしに自分を他人とは違う存在だと思い込んでいる。チカラ無き人々を格下の存在と決めつけて、『自分が守らなければ』、『自分と奴らは違う』……そんな考えを抱く。

だが忘れてはならない。神とは本来、人々の祈りを、信仰を、想いを己が力と化す存在だということを。

自他の間に境界線を張るような者が、幾星霜ほどもある人々の想いを受け止めることが出来ようはずも無い。だが逆を言えば……それを出来る者がいたするのならば、たった一つの想い程度受け止めることが難しいはずも無い!

 

「与えられた“能力(オモチャ)”に酔いしれるだけのお前に、今の俺は絶対に斃せないぞ」

「――っ!!? だ、だまれぇええええ! そんな事っ! そんなありえないことを認めてぇぇええええっ!」

 

後のことなど関係ない、今この場でこいつを倒す。たった一つの意志が切っ掛け(トリガー)となって、リンカーコアが我武者羅に魔力を生成していく。

両手に生まれるのは、全てを浄化する断罪の炎。白夜の激情を体現した猛火の奔流。

 

「認めてっ、たまるかぁあああああっ!」

 

大気を震わせる轟音を鳴り響かせながら放たれし神の炎。迫り来る炎の奔流を前にしてもなお、ダークネスの顔に恐怖や焦りの感情は……無い。

迫り来る劫火に向けて片手を突き出し、小さく詠唱を唱える。

その声に導かれるように風が巻き起こり、掲げられた腕へと集まっていく。否、それは風ではない。魔法の素養のないものでさえ肉眼で視認できるほどの密度を持った――魔法力(マナ)

新たなる主が一柱の求めに応えんと、世界がその力を捧げているのだ。集束していく魔力が形成するのは黄金の輝きを放つ巨大魔力球。その中で、魔力が激流の如き勢いで渦巻いている。

大陸をまるごと包み込むほどの効果範囲を有する『Uriel(ウリエル)』は、一般的な封時結界とは結界強度が段違いである。それは、先の神代魔法の撃ち合いを経てもなお、燐光が舞うこの空間が維持され続けていることからも証明できる。故に――手加減なしの神代魔法(いちげき)を放つことに何ら不備は存在しない!

渦巻く『魔法力(マナ)』を練り上げ、彼は己へと迫り来る神の炎へと視線を向ける。

そこにあるのは、世界蛇すらも焼き尽くす神代の焔……それはさながら、天罰の顕現そのもの!

 

されども――迎え撃つは、『最強』の極光。

金色(こんじき)のココロより湧き出でるのは、新たなる神が揮いし奇跡の魔法(つるぎ)

世界そのものが敬う新世した主の怨敵を屠らんと、蛇神竜が咆哮を上げる。黒と蒼を抱きし黄金が生み出す極光が今――解き放たれる!

 

「――『希望を司る金色の神蛇皇(リミットブレイク・ヨルムンガルド)』――!!」

 

放たれしは、太陽すらも超える輝きを放つ極光。

金色に光り輝く鱗に覆われた神蛇の皇は、眼前に存在する“敵”のみならず、世界そのものを消し去っていく。

新たな神すら誕生させるほどの可能性を秘めた少女たちが抱いた優しき想いが紡ぎだす『未来』を切り開くための煌めき輝く閃光の刃を、たかが天使の名を冠した炎ごときが抗えるはずも無い――!

 

「なっ――!?」

 

必殺と信じて疑わなかった神代魔法(いちげき)を容易く消し飛ばしながら迫り来る黄金の閃刃を目の当たりにして、白夜の顔が驚愕で歪む。

その刹那――夜の闇と湧き立つ燐光に照らされる世界全てを照らしだすほどの、あまりにも強大過ぎる魔法力(マナ)の輝きが、白夜の声はおろか存在そのものを完全に飲み込んで、遥か彼方へと消え去っていった。

避けることも防ぐことも叶わない、世界そのものを飲み込み、焼き尽くす、黄金色の剣。

全霊を以て放たれた神代魔法(いちげき)は、一切の慈悲も無くNo.“0”という存在を(ゼロ)へと返したのだ。

全てを滅ぼし尽くす眩いばかりの一撃がもたらした破壊の傷跡は、『Uriel(ウリエル)』によって現実世界への影響を最低限まで抑えられた。

世界は、地球は原形を留めてこそいるものの、解放された魔法力(マナ)の波動に晒されて世界規模での異常気象が巻き起こっていることだろう。だが、この程度で済んだことに、人々は天へと祈りを捧げつつ、ほっ、と胸を撫で下ろすべきかもしれない。

なぜならば――もし現実世界で神代魔法(アレ)を放たれていたとすれば、地球という星どころではなく……文字通り、この『世界』そのものが消し飛んでいたのは間違いないであろうからだ。

 

「――――」

 

自らが行った破壊の爪痕を見下ろしていたダークネスはだったが、やがて構えを解くと開かれていた翼を閉じる。溢れ出していた魔力が収まっていき、場を支配していた圧倒的すぎる威圧感っも収まっていった。戦いの余波を受けないよう、毛糸球のようにも見える魔力糸の障壁の中に身を隠していたルビーとアリシアが、ひょこっと顔を覗かせる。きょろきょろとあたりを見わたし、戦いが終わったことを確認すると、はぁ~っ、と深々と息を吐いた。

 

「こらー! ダークちゃんてば、イロイロとやりすぎなんだよっ! いつもの事だけどっ!」

「ふわ~~、すっご~~い! ね、ね! 身体の方はどうなってんの!? うっわ、すっごい金ぴか~~……ね、ね! 細胞採取してもい~い?」

「良い訳ないだろうが。そんな事よりも、シュテルたちの方はどんな感じだ?」

「ふっふ~~♪ このボクを誰だと思っていやがりますかぁ! 超究極天災美少女 ルビー・スカリエッティさんなのだぁ! 下準備はもう済んじゃってるんです~~、いえーぃ!」

「テンション高いな……いや、まあ良いんだけどな。――さて、と」

 

さいっこうにハイって奴だぜぇ、フゥハハハハハハハァァアアアアアアア!! 的な高笑いを繰り出すルビーをほっといて、糸で組み上げられたベッドらしいものに寝かされているシュテルたちの様子をうかがう。

今の所は安定しているようで、ルビーの処置(・・)が恙なく完了していることの証だと言える。ほっ、と安堵を溢しながら、後は自分の役割だとばかりに、ダークネスは眠りについている彼女たちに翳す様に両手を突き出す。

掌から零れ落ちるように溢れ出すのは、蒼き輝きを放つ魔力光。それは願いを叶える宝石『ジュエルシード』の輝きだった。

“紫天の書”一派、正確にはそのコピーである彼女たちの真実をいち早く察し、詳細についての説明を受けたダークネスとルビーは、それぞれの手段で彼女らを救済する方法を模索していた。

ダークネスはシュテルと彼女が望む仲間たちを救うために。

ルビーはユーリを手に入れるために。

己の持ちうる力だけで彼女たちを救うことは出来ないのではないか?

ジュエルシードを制御できるダークネスにも、すべての宝石がそろっていないこともあって彼女たちの存在を確たるものとして固定させることは難しく、“無限の欲望”と同等の知恵を有するルビーの叡智を総動員しても、現在の彼女らの性能を維持したまま消滅を防ぐ手立てを導き出すことは出来なかった。

そんな感じにちょうど行き詰まっていた頃、“紫天の書”一派繋がりで――正確にはシュテルとユーリに――ダークネスとルビーはお互いが似通った目的で動いていることを知った。

そこで、ふと思ったのだ。

 

――自分だけで無理なら、アイツにも協力させればいいんじゃね? ……と。

 

こうして共同戦線を張ることとなった二人が、アリシアの引き継いだ大魔導師の知識やジェイル・スカリエッティの意見を参考に理論を組み立てていった結果、ある方法を導き出したのだ。

それこそが――プログラム生命体を超えた新しい存在へと変える新たな『コア』の生成と移植であった。

そもそも、“紫天の書”一派は白夜の“能力”によって生み出された存在であるが、彼女らを構成する総てがそうであるわけではない。

白夜の元々の“能力”は十種類の“チカラの種”であり、それらが本人の願うとおりの形に具現化したものが現在のチカラのカタチである。

つまり、彼女たちは“チカラの種”を核として、魔導生命体としての肉体と彼女たち自身の心から構成される存在である。

彼女たちを構成している根本的な部分(コア)が白夜の一部であるために白夜の所有物として扱われているが、もしコアを入れ替えればどうなるか?

本人の意思で彼女らの中にある種をとりださせることが出来れば、彼女たちは解放されるだろう。ただし、存在のコアがなくなるのでそのままでは消滅してしまう。

だからこそ、ルビーの手によって作り出されたコアプログラムを埋め込むことで、彼女たちを主の無いまっさらな状態のプログラム生命体として再構築させる。

無論、言うほど容易い方法なのではなく、この手法も現代でいう臓器移植のようなものに当たるので、拒絶反応がでないようにジュエルシードの力で安定化させる必要がある。

さらに言えば、オリジナルのように“紫天の書”というシステムの端子ではないため、彼女たちは運命共同体という意味での『四心同体』ではなく、あくまでも友達、あるいは仲の良い仲間のような関係となるだろう。これは、彼女たちが元々持っていた『No.“0”のチカラの一部』という繋がりが、チカラの種(コア)を抜き取られた影響を受けて完全に独立した個別のシステムとなってしまっていることが理由となる。

ダークネスが白夜を挑発して追いこんでいたのは、今の自分のチカラでは太刀打ちできないのだと思い込ませることで、新しいチカラを発現させることを促し、彼女らのコアになっている種をとりださせるように誘導していたからだ。戦う前のふざけたやり取りも、道具としてしか見ていなかった白夜たちの関係性を逆手にとった作戦であり、彼女たちがダークに敵意を向けていない=役に立たない と思い込ませることに在った。そう、全ては彼らの計画の内だったのだ。

彼女たちを救うために白夜の“能力”の詳細を彼女たち(シュテルとユーリ)に訊き出した彼らがまず最初に思ったのが、『腑に落ちない』というものだった。

白夜のチカラは確かに強力なものが集まっており、シュテルたちも戦力に数えれば、まさに一人軍隊(ワンマンズ・アーミー)と呼べるほどのもの。

だが、“正義”を名乗る割には、いささか派手さに欠けていたことが、彼らに違和感を感じさせていた。

このセカイの華といえば、見た目も派手な砲撃魔法に代表される大規模魔法だろう。なのに、白夜自身はそのようなチカラは持っていないのだという。

純粋に剣術の腕のみで戦い抜くというつもりもない彼が“正義の使者”を名乗り続けるのならば、強敵を一撃で打ち倒す必殺技(フェイバリット)は用意していなければおかしい。

代替品としてシュテルたちを戦力として数えているのならばまだ納得はいっていたのだが……先の戦いで白夜自身の口から語られたように、その線も無い。

ならば考えられる理由としてもっとも可能性の高いもの、それは――『白夜は一度造り上げたチカラをリセットし、状況に応じて新しいチカラを再構築させることが出来る』という真実(こたえ)を導き出したのだ。

これをもとに構築した戦術こそが、今回の戦闘の雛型。白夜が見せた予想以上の粘りやダークネスの覚醒などイレギュラーは多々あれども、結果だけ見ればシュテルたちを白夜の縛りから解放させられたのだから、おおむね成功したと言って過言ではないだろう。

 

ジュエルシードが生み出されるは、暖かな燐光を纏わせた想いの結晶。静かに、まるで眠りにつく様に瞳を閉じて横たわる少女たちを、神々の呪縛から解き放ってやりたいという願いが生み出した輝きだった。

翳された掌より舞い落ちる光り輝く結晶の雪が、少女たちへと降り注ぎ吸い込まれていく。光を取り込むたびに、眠り姫たちの頬に血色がどんどんと蘇り、活力が舞い戻っていく。

最後の仕上げと、胸の前で勢いよく両手を合わせると、パンッ! と打ち鳴らされた心地よい音に導かれるように、眠り姫たちの瞳がゆっくりと開かれていった。

 

――呪いに侵され、永遠の眠りの底へと墜ちてしまった姫君たちを目覚めさせたのは、王子様のキスではなく……彼女らを想う“ヒト”の祈りだった。

 

太陽の如き『黄金色』と蒼穹の如き『蒼』き光が、姫君たちの心を優しく包み込み、彼女らがこれから歩むであろう未来すらも照らす。

 

「さぁ……戻ってこい。――ここ(・・)が、お前たちの生きる“世界”だ」

 

集いし想いの極光が、幻想なる世界を包み込んだ。

 

 

 

 

「むぅ……まさか我が貴様らに助けられる日がこようとは、な。――よし! ならば、今度は王たる我が上に立つ者としての度量を見せつける時ぞ! そこな塵芥共! 我が前にひれ伏し、この“闇統べる王” ロード・ディアーチェの臣下となる栄誉をくれてやろうではないか! 感涙するがよい!」

「「……」」

 

――ふびゃぁぁあああああああああああああっ!?

 

 

「ありがとうございます、アリシア。貴方たちのお蔭で、こうして今を生きることが出来るようになりました」

「うん、ボクからもお礼を言っとくね――! ホントーーに、ありがとう! えと、『ありしあ』……で、合ってるよね?」

「うん! 私もこうやってシュテルたちともっかいお話しできてすっごく嬉しいんだよ! それから……レヴィ、私の名前覚えてくれたんだね!」

「もちろんだよ! 君たちは僕らの命の恩人なんだから、もうボクと君は『マブダチ』さ!」

「え? ええ? あの、ディアーチェは放置してて、良いんでしょうか……?」

 

ルビーの用意した新しいコアプログラムが馴染み、目を覚ましたお姫様こと、シュテルたち。

まず、歓喜を露わにしたアリシアがシュテルに突貫、情熱的な抱擁とともに、そのまま『ちゅっちゅ』しちゃいそうなくらいの距離で見つめ合っているところに、レヴィとユーリも合流。

お互いの無事を喜び、嬉しさを露わにする。

一方で、一派の事実上の代表であるディアーチェはダークネスとルビーから彼女らに行った処置について説明を受けると、えらそうにふんぞり返りながらうっかりと王様発言をかましてしまう。

彼女としては、内心はどうあれ恩人には違いない二人に最大限の感謝を述べたつもりだったのだが……いかんせん、相手が悪すぎたとしか言いようがない。

なにせ、方や“完全に人間を辞めちゃった神サマ候補”であり、方や“次元世界最凶の愉快犯”なのだ。二人に共通するのは、誰かに支配を受けることを良しとしない、超フリーダムな性格の持ち主だという所だ。

背伸びして命令口調の少女の頬っぺたを、ナマイキ言ったお仕置きとばかりに『びろ――ん』、としてしまうのはある意味で当然の結果なのかもしれない。

……ちなみに、二人掛かりで伸ばされたディアーチェ嬢の頬っぺたがこの日、二十センチ近くまで引き伸ばされるという記録を打ち立てていたのは、完璧に余談と言えるだろう。

シュテルの口添えでダークネスの回復魔法(ジュエルシードの力を使用)を受けて治療されるまで、某日本国伝統の物語に登場する登場人物であり、お子様方にもわかりやすいようにアニメーションにもなったことがある有名人の一人……頬にどデカい“こぶ”をぶら下げたおじいさんの如き美貌に進化してしまっていた瞬間の激写ショットを、アリシアたちは各々のデバイスに保存させていた……なんてことも無いのである。

頬っぺたを押さえながら半泣き&べそかいていた少女の名誉のためにも……合掌。

 

まだ鈍く痛む頬を押さえながら、真っ赤な顔をしたディアーチェに追いかけまわされる四人の少女たちと、それを指差してお腹を抱えながらケラケラと笑っているルビーを横目で眺めながら、進化した自身の調子を確かめるように身体中を触っていたダークネスの視線が不意に海鳴市へと向けられる。

都市部をまるごと包み込むように展開されたソレは……おそらくは、時空管理局の関係者が展開させたものであろう封次結界だった。

向こうでも始まっているみたいだなと何処か他人ごとのように漏らしながら、彼は別のことに対して意識を割いていた。

救済を司る優しい光は収まったものの、雪が湧き上がってくるという幻想的な世界はいまだに展開されたままという現状に、どうしても嫌な予感が振り払えない。封次結界すら取り込むほどに強大なこの空間は、白夜が発動させた『Uriel(ウリエル)』の空間結界だ。それが術者が消えたにもかかわらず、いまだに在り続けるという事実に困惑を隠せない。

No.“0”(白夜)は斃した。それは間違いないだろう。最後の一撃、確実に彼を仕留めたという手ごたえがあった。仮に、未だ顕わになってない最後の能力――シュテルたち四人のコアと“紫天の書”のマスター権限に使用されていた“チカラの種”は計五つ。これを利用して新たに生み出されたチカラは『Gabriel(ガブリエル)』、『Michael(ミカエル)』、『Uriel(ウリエル)』、『Lucifel(ルシフェル)』に続く第五のチカラ――によって生き延びれていた……という可能性も残されてはいるが、彼自身“正義の使者”を自称していた以上、敵前からの逃走という選択肢を選ぶような性格だとは思えない。

ならば、不可解なこの現実を説明できる理論(ロジック)が指し示す見解(こたえ)とは――

 

「いやな予感の方が当たっていそうな気がするぞ。……ったく、もう――おい、お前ら。いつまでもじゃれ合ってないで、さっさと戦闘準備しとけ」

「――ほへ? ダークちゃん、まだ何かあったりするの?」

「ああ、それもとびっきりめんどくさそうな奴がな……ルビー、お前はどうする?」

「ん~~……、んじゃあ、ボクも一緒に行くよ。最後にイイトコ取りだけする『トンビに油揚げ作戦』をするつもりだったけど、そっちの方がおもしろそ~だしね。ま、ボ~ナスステ~ジってコトで一つぅ♪」

「ああ、そうかい。なら――往くか」

 

ジュエルシードと同じ蒼き輝きを放つ翼を羽ばたかせる彼を先陣として、少女たちも彼の後ろを追走する様に夜天の空を飛ぶ。

向かうは魔法少女たちが繰り広げているであろう演武の舞台、呪われた魔導書に終焉を与えるために想いを、魂を燃やす本当の『正義の味方』たちの戦場。

寄り添うように並走して傍らを飛ぶ紫電と焔の魔法少女たちと繋いだ手に力が籠る。

 

もう二度とこの温もりを手放さないと己が心に誓約を刻み込みながら、黄金の竜神が天空を駆け抜けた。

 




”敗北 → ヒロインの祈りでパワーアップ → 勝利”のパターンはやはり王道だと思う今日この頃。

ちなみに、彼の進化そのものが別のフラグになっていたりします。

あと、ダークネスはまだ神サマにまでなっていません。
”人間”と”神”の中間点に位置するのが『神成るモノ』ならば、今の彼は『神成るモノ』と”神”の間に存在する者……と、しています(この辺りは、『A's』編終了時に用語紹介などで別途アップする予定)。

ついでに前書きに記したフラグについて簡単に説明をば……
黄金(ひかり)(やみ)の二色からなる魔力光は、スぺドラの分身であるナイトガンダム(ひかり)サタンガンダム(やみ)をイメージ。
・アリシアを始め、誰かに手を差し伸べることが多い(スぺドラは一部で”でしゃばり”と称されるくらい世界に干渉しまくっている)。
・ライバル(他の参加者たち)を倒して神の称号を手に入れようとしている立場(スぺドラもライバルであったマスターガンダムを倒して黄金神の称号を得ている)。
・バリアジャケットのデザインには、モデルにしたスペリオルドラゴン(SDガンダム外伝より)に関連性を持たせている。
 初期形態:スペリオルドラゴンの分身、ナイトガンダムの初期鎧を禍々しくしたもの
 第二形態:『黄金神話』に登場した、邪悪な意志に体を乗っ取られた暗黒の神”悪のスペリオルドラゴン”
 第三形態:”騎士スペリオルドラゴン”のアレンジ

こんなところですね。この辺も、きりの良いところで纏める予定です。
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