魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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『A's』編エピローグ。
次回からは日常編を予定。



奇跡という名の光

――神域 大樹がそびえる空間――

 

《やあやあ、皆! 元気してたかい? うん、皆元気そうで何よりだね! ボク、ボクちゃんはいつでもどこでも元気いっぱいもりもりんぐさ♪(キラッ!) うんうん、わかってる、わかってるよ? ボクに訊きたい事がたぁっくさんあるだよね? そんなことは当然知ってるよ、なにせボクちゃんは神サマだからねえっ(ギュピーン!) それで、どれが訊きたいのかな? No.“0”につて? それともアレに斃されたおマヌケさんなNo.“Ⅷ”の『因子』がどうなったのかについてかな? かな? そ・れ・は・ぁ――まだ内緒にしときむぁあすっ! ぎゃははははっ! ねえ怒った? 怒っちゃった? プリプリぷんすかしちゃったのかな? でも、ずぅあんねんでしたぁ!! せっかくボクの番に回ってきたんだから、面白おかしく楽しませてもらおうか♪ あ、でもちょっとだけなら教えてあげても構わないよ。べ、別にアンタたちのために教えてあげるんじゃないんだからねっ!?(はぁと♪)  実はぁ、No.“0”は“ゲーム”を盛り上げるために僕らが用意したサプライズゲストだったのでぇーす! アレの言葉を信じたおバカちゃんはま・さ・か・いなよねぇ~? 最初の説明で言われたでしょ~? 『神の立場でゲーム開始後に新しい参加者を追加させることは出来ない』って、あれってつまり、大神であろうとも絶対に覆せないルールなのさっ! 次にぃ~、No.“Ⅷ”の『因子』だけどぉ、正規の参加者でないNo.“0”に倒されてぇ、しかも近くに君らの誰もいなかったからぁ、この境界の世界(世界樹のある空間)で保管しているんだよ~。でもぉ、このままじゃあれなんでぇ~、これを景品に空白期の間にサブミッション的なボーナスゲームを行いたいと思いむぁ~すっ! 日程はまた後日連絡するからぁ、今日のところはお帰りくださぁ~いな。んじゃねぇ~~(ヒラヒラ)》

 

これが“闇の書”事件終結の翌年、またもや強制的に大樹のある世界へと呼び出された存命の参加者たちに送られた神の宣告(言葉)、その総てである。

 

 

 

――第一管理世界『ミッドチルダ』 首都クラナガン――

 

「ふぅ……なんちゅうーか、ようやく新しい家に馴染んできた気がするわ」

「そうだねー、僕たちがこっちに引っ越してきてからもう一週間か……」

 

リビングのテーブルで向かい合いに腰を下ろし、日本茶を注がれた玉露を傾ける八神 はやてと八神 コウタは感傷深げに息を零す。

地球から持ち込んだ緑葉の生み出す少しだけ苦みのある何とも言えぬ美味しさを舌いっぱいに堪能し、心を落ち着かせてくれる。

業務過多の影響で早々取れない家族の時間を、心行くまで堪能している八神姉弟は、どこか達観した成人の如き雰囲気すら感じさせる。

八神 はやてが保護観察を経て正式に管理局局員として入局してからかなりの月日が流れた。

グレアムやリンディたちの支援を受けて中学を卒業するまで地球で暮らした後、ここミッドチルダに居を移すまでの六年近い間、実にいろいろな出来事があった。

例えば嘱託魔導師として登録した花梨が、クラナガンに翠屋の支店を開いてオーナー兼メインパティシェとして腕を振るっていたり。

スクライアの集落に戻ったアルクが、調査と言う名目で潜った遺跡をいくつも破壊してしまって、しょっちゅうクロノたちから雷を落とされていたり。

ユーノの副官として無限図書館職員に就任した葉月が持ち前の高速演算処理チートっぷりを見せつけて、情報探索担当官たちから救世主扱いを受けていたり。

コウタが地上本部のエース部隊と名高いゼスト隊にスカウトされて、日夜扱かれていたり。

なのはとフェイトは其々の夢を叶えて、戦術教導隊と執務官になっていつも忙しそうに次元世界中を飛び回っていたり。

今でもお互いに連絡を取り合っているらしい“紫天の書”一派が時折翠屋でお茶会をするものだから、高町 士郎、桃子夫妻に気に入られたらしいデイアーチェとレヴィが、高町家の養子にならないかと頻繁に迫られていたり。

アリシアとシュテルを連れたダークネスまでもが時折、素顔のまま翠屋に来店していたり等々……。

そして――

 

「早いもんやなぁ……あの娘が居なくなってから、もう六年にもなるんか」

 

タンスの上に飾られた写真立て、そこに納められている写真に写っているのは、幼い頃のはやてと抱き合う銀色の髪と真紅の瞳が目を惹く一人の女性。

ほんの少ししか同じ時を過ごすことが出来ず、今はもう居なくなってしまった大切な家族。

はやては写真に写る彼女の姿を通して、あの日の出来事を回想していく。

あの日……彼女を奪われたあの瞬間を。

 

 

 

――六年前 海鳴市 海岸沿い公園――

 

「リインフォースッ!? リインフォースゥッ!! いやぁあああああっ!?」

「リインフォースさんッ!?」

「おいっ、しっかりしろよ!?」

 

少女たちの絶叫が冬の公園に木霊する。

まるで胸の内側から何かが喰い破ってきたかのように、リインフォースの胸部には人間の腕程の穴が存在していた。

拭き出した血の雨が純白の大地に降り注ぎ、真っ白なキャンパスに鮮血の赤が広がっていく。

驚愕で両目を見開いたまま崩れ落ちたリインフォースはピクリとも反応を返さない。騎士たちは悲痛な声を上げる少女たちから目を逸らし、いつのまにか現れた元凶と思われる人物へと怒号を浴びせた。

 

「スカリエッティ、貴様ッ!」

「お前……! よくも!」

 

殺意を向けられ、展開させたデバイスを突き付けられているというのに、彼女……ルビーの顔に張り付いた愉悦の笑みが収まる気配はない。むしろ、更に濃くなっているようにも見える。

ルビーは彼女の掌の中に納まったテニスボールほどの球体……リインフォースの体内から飛び出してきた光球を弄びながら、平然と言う。

 

「おいおい、ボクが何したって言うのさ? たまたま足を運んだだけのボクに武器(そんなもの)を突き付けるなんて、正義の味方が聞いてあきれるね~~……あ、お前らは悪党の方だったっけ! いや~、うっかりしてたよ。ゴメンね~、“闇の書”が生み出したプログラム生命体さん♪」

 

シグナムたちの精神を逆撫でする発言を繰り返すルビーの目は、不快感しか感じさせない“嫌な目”そのものだった。

記憶の中に在る、守護騎士たちを道具としてしか認識していなかった者たちと同じ目だ。デバイスを握る指先に力が籠ってしまう。

 

「もう一度だけ訊く……アイツに、リインフォースに何をした?」

「ん? 何って、管制人格プログラムの中枢部を引き抜いただけだけど?」

 

平然と言ってのけたルビーの顔には、『それがどうした?』と言わんばかりの表情が浮かんでいる。

対して、彼女の言葉を理解した者たに戦慄が走る。騎士たち同様、リインフォースもまたプログラム生命体として存在している。

中枢部、すなわちコアを引き抜かれてしまえば、彼女という存在に致命的なダメージを与える事は想像に難しくない。

 

「何で……!? 何でこんなヒドイ事をするんや!? 返して! それはリインフォースの……!」

「何でって……。ハァ……お前、ボクの話ちゃんと聞いてた? こないだ協力してやったじゃんか、だからその見返りを回収しに来ただけだよ。ダーちゃんはジュエルシード目当てで協力してたじゃん? だからさ、ボクも欲しいものを貰っとこうと思って。興味あったんだよね~~……“闇の書”の中枢部分だったコレ(・・)。知的好奇心が刺激されてしょうがないよ。こういうの何てったっけ……え~っと、そう! ワクテカだよ!」

「ふざけるな! そんな事のためにお前はリインフォースを殺したと言うのか!?」

「うっさいなぁ~~、大体、仕込みはしたけどボクが直接手を下してなんかないよ。文句があるなら、ボクの策を成すための最後の一手を実行したそいつらに言えよ」

 

そう言って、ルビーが指さすのはリインフォースにしがみ付いていたはやてを抱き上げている花梨と、その傍らの葉月だった。

予想だに出来ない彼女の言葉に、困惑を隠せない二人に向けて、ルビーは楽しげに種明かしを繰り広げる。

 

「ゆーちゃんたちを消滅させないためにボクが用意したコアプログラムにはちょっとした仕掛けが施されていたのさ。簡単に言うと、あの娘たちに外部から干渉してデータを吸い出しでもしたらそのデータに一つの命令コマンドを組み込むよう細工していたのさ。コマンド内容は吸い出されたデータを基にプログラムが組み上げられた際にプログラムが組み込まれたシステムごと、ルビー(ボク)の元へと転移する様に、とね。お前らは、ゆーちゃんから入手したデータを基に新しい防衛プログラムを作ったんだろ? だから、命令コマンドが潜んでいた防衛プログラムごと、魔導書のコアプログラムが引き抜かれたってワケさ。目的にばっかり目が行って、基となったデータの安全性の確認を怠ったお前らのせいだよ、この結果はね」

 

そんな事を平然と言ってのけるルビーに対して、一同の怒りのボルテージが上昇し続ける。

守護騎士は勿論、アルクやコウタたちも臨戦態勢へと移行しつつ、彼女が弄んでいるリインフォースのコアを取り戻そうと全身に魔力を張り巡らせていく。

その様子を見て肩を竦めたルビーが徐に指を弾く。それだけで彼女の指輪から真紅の糸が放出され、彼女以外の全員を刹那の間に拘束した。

どんなに力を込めようと、どれだけ魔力を練り上げようともびくともしない糸に捕らわれた悲しき獲物たちの歯軋りの音を耳にして、ルビーの愉悦の笑みがさらに深まっていく。

怒号と懇願の叫びを上げる少女たちに背を向けると、ルビーは軽いステップを踏みながら立ち去っていく。

 

「ほんのちょっとでも家族やれたんでしょ~~? だったらもう十分じゃんか。んなワケで、サヨウナラ~~♪ 十年後に、また会いましょ~~」

 

最後まで理性を逆なでする言葉を投げつけ、『天災』は地球から姿を消した。

途方も無い喪失感と悲しみを彼女たちの心に刻み込みながら、紫天に連なる少女たちと“夜天の書”の中枢プログラムを奪い去って。

 

 

 

――現在 クラナガン 八神邸――

 

「ほんま……アイツだけは許せへん。必ず私の手でとっ捕まえたる」

「主、それは我々も同じです。管制人格(アイツ)を手にかけた奴だけは、必ずや我らの手で捕縛してみせます」

 

他の騎士たちも即座に同意を返す。無論、コウタもだ。

八神家の思いは同じ……即ち、『ルビー・スカリエッティの逮捕』という思いが。

六年の歳月を経ても尚、収まる兆しを見せぬ怒りの炎が渦を巻き、交わり、この場を支配しようとした時、玄関口の方からドアの開く音が響く。

トントントン……、と軽快な足音を立てながら、足音の主がリビングのドアを開いて現れた。

 

「母様、ただいま戻りました……? どうかなさいましたか?」

 

淑女の鏡と称するべきお淑やかな笑みを浮かべていた少女は、場の雰囲気に気づくと、養母である母へと訝しげに尋ねた。

腰まで届く銀色の髪を三つ編みに纏め、落ち着いた雰囲気を持つ少女。可愛らしいと言うよりも、美しいと呼ぶ方がしっくりくると感じさせる。

事実、ご近所の奥様方からはあと数年もすれば引く手数多の美少女へと成長すると専らの噂になっている。

彼女の着ているミッドチルダにあるジュニアハイスクール『ザンクト・ヒルデ魔法学院』小等科の制服の胸ポケットから、彼女の迎えに出向いていた小さな()がひょこっと頭を出す。

 

「はやてちゃ~ん! リイン、リヒトちゃん(・・・・・・)のお出迎え任務、無事完了いたしましたですぅ!」

 

ピーターパンのポケットから飛び立つティンカーベルの様にクルクルと回転しながら飛び立った身の丈十センチほどの少女が満面の笑みを浮かべつつ、テーブルの中央に降り立つ。

綺麗な敬礼をしながら可愛らしい報告をする八神家ご自慢のちびっ娘(姉)の登場に、暗く淀みつつあった空気を浄化していく。

純粋さ故に自然と皆を笑顔にしてくれるちっちゃな家族に、なんでもないよと手を振り返しつつ、はやての視線は部屋にカバンを置いてきたちびっ娘(妹)へと向けられる。

 

「おかえりー、リヒト(・・・)。今日の学校はどうやった?」

「はい。皆さんに優しくして戴けましたし、とても楽しかったです。転校生である私にも、皆さん親身になって接してくださいまして」

「うんうん、やっぱそれは、リヒトがええ娘やからなぁ……。私もわかるわぁ」

「いえ、そんな……。あ、そう言えば、姉さまの迎えを教室で待っていた時に何人かの殿方からこれから宜しくと握手を求められたりもしましたね」

「……ほほう? つまりはあれかい? リヒトのプ二プ二お手々を握り締めやがったクソ虫野郎が生息していると――よし、ちょっと行ってぬっころしてくる」

「落ち着けバカ野郎、たかが手を握ったくらいで動揺すんな」

 

殺ル気満々なシスコン男を、彼女&騎士&家族な三つ編み少女がドついて止める。引っ叩かれた後頭部を擦りながら振り返ったコウタは、まるでこの世の悪を見てきたかのようにまくし立てる。

 

「だって……だって、握手だよ、握手! リヒトの事だからきっとニッコリ笑顔でひとりひとり丁寧に対応したに決まってる! そんなことすれば、きっと勘違いする男が出てくるはずだよ!」

「力説してんな!? いいから落ち着け!」

「あの……おじ様? 私はまだ、その……お付き合いと言うものはちょっと……」

「――え? あ、うん、そうだね! そうだよね! うん、うん! それくらい、最初からわかっていたよ!」

「【レイアース】まで起動して、ヤる気満々だったじゃねぇか!」

 

最近はよく見かけるようになったコウタの暴走から目を逸らして、はやては制服の上からエプロンを掛けてキッチンへと向かう――の後姿を見つめる。

真紅の瞳、銀の髪、かつて失った家族をそのまま幼くしたかのような独特の雰囲気を持つ幼い娘。

あの日、リインフォースの消滅の後に残された二つの遺産。

 

一つは“夜天の書”の一欠片……そこから誕生した二代目“祝福の風”リインフォース(ツヴァイ)――通称『リイン』。

 

そして――リインを肩に乗せ、楽しそうにお菓子を作っているリインフォースと瓜二つの少女『八神 リヒト』。

 

彼女こそ、初代“祝福の風”が完全に消滅する刹那、突如として現れた『とある人物』の手によって新たな存在――“夜天の書”とも“闇の書”とも全くの無関係な人間の少女(・・・・・)として修復……いや、転生(・・)した存在だった。

本来ならば、リヒトは『とある人物』に引き取られるところだったのだが――様々な理由で反対を受け、更に、彼女を引き取らせてほしいと土下座までしてみせたはやてたちに根負けしたのか、リヒトを八神家の娘として受け入れることができた。

あれから六年、人間の少女として転生した初代リインフォース改め『八神 リヒト』ははやてたちがミッドチルダに移住したのを契機に学校へと通い初めた。

一人の少女として……ごくごくありふれた、それでいてとても大切な毎日を送っている。

娘のことについては感謝してもしきれない。

でも、だからこそもどかしく、思い悩む。

恩人である()は次元世界最大最強の指名手配犯として捕縛することが自分たち管理局員の役目であるから。

何故あの時、自分たちの願いを聞き届け、奇跡を起こしてくれたのか、それは今でもわからない。

プログラムを人間へと生まれ変わらせる……まさに神の所業と呼ぶべき奇跡を起こしたことで、彼に対する警戒度は次元世界最高ランクに跳ね上がった。

リンディやレティ提督の口添えもあり、リヒトについての情報は閉口令が敷かれたので彼女の存在はほぼ知られていない。だが、彼の仕出かした行為についての報告は、管理局上層部に広がっている事だろう。つい昨日、歴代史上最高額の賞金が彼にかけられたことから見ても、上層部が血眼こになって彼を手に入れようと躍起になっているのは火を見るよりも明らかだ。

返し切れない借りがある恩人であり、親友二人の命を狙う最強の敵でもある。

果たして、どんな『選択』を選べば最善の未来を手繰り寄せることが出来るのだろうか――?

 

「リヒトちゃん、リヒトちゃん。ひょっとしてぇ、クラスの男子の中に気になる男の子がいちゃったりしませんでした~~?」

「ね、姉さまったら……もう、段々お母様に似てこられていませんか?」

「え~~? そんなこと無いですよぉ~~……で、どうなのです?」

「そう、ですね……どちらかと言えば憧れ、みたいなものですけれど――……時折、夢に出てこられます殿方が気になりますね」

「夢、ですか?」

 

意外な展開にリインだけでなく、耳を傾けていたはやてたちも思わず振り向く。

リヒトは自分に集まる家族の視線を気にした風も無く、どことなく夢見る乙女のように頬を染めた可憐な表情を浮かべたまま、自分が時折見ると言う夢の内容を語る。

 

「満天に広がる夜の空……星々の煌めきが照らす天上の海原を泳ぐ黄金に光り輝く偉大なる竜の神さま――鋭くも優しい不思議な瞳のあのお方の姿が心に残っているのです」

「黄金の竜さんですか? へぇ~、リヒトちゃんはドラゴンさんが好きなんですね!」

「いえ、竜の神さまはそう見えるからお呼びしているだけでありまして、本当は人間の殿方と同じお姿をされているんですよ?」

「はわ~、何とも不思議な夢ですね~。その神さまに見覚えはないんですか?」

「そう言えば……以前、週刊誌に神さまそっくりなお方の写真が掲載されていたような? 確かお名前は……『ダーク』様、と……」

「なぁ~んだ、名前がわかっているなら話は簡単ですぅ! リインに掛かれば、ちょちょいのちょいで調べ上げてみせますよ! あ、何なら会いに行くって言うのもアリですね! それじゃ、さっそく――」

『お願いだから、それだけはヤメテッ!?』

 

知らぬ間に純粋な末っ子の世界最強な危険人物への好感度が急上昇していたのだという恐ろしい事実を前に、八神家姉弟と守護騎士たちの心が過去最高レベルで一つになった瞬間であった。

 

 

 

――ミッドチルダ郊外――

 

「うふふふ……」

 

薄暗い部屋の中、モニターの放つ光に浮かび上がる少女の顔に浮かぶのは満面の笑み。

だが、それは年相応のかわいらしい類のものではない。

愉悦……これ以上ないほどに口端は吊り上り、爛々と危険な光の浮かぶ瞳の持ち主……ルビーは声を押し殺すことも無く、目の前の円柱状のカプセルを仰ぎ見る。

密閉されたカプセル……生体ポッドの中に漂うのは一人の少女。瞳を閉じ、両腕で膝を抱えるような姿勢のまま培養液の中で揺れる銀色(・・)の髪をした少女を見上げながら、もう一度笑う。

彼女の傍らに控えたユーリは、目覚めの刻をじっと待っている少女を少しだけ気の毒そうな視線を送ってから、空になった食器を手に部屋を後にする。

 

――なるほど、夜天の王に接触していたのはこの為でしたか。

 

以前、病院に入院していたころの八神 はやてに正体を隠したルビーが接触していたと聞いていたが、彼女を創る(・・)ためだったのかと納得する。

と、同時に思う。果たして、目覚めた彼女と夜天の王たちが出会った時、彼女たちはどんな表情を浮かべるのだろう? ……と。

 

『朱に染まれば赤く染まる』

 

かつて、とある偉人の残したこの言葉は実に的を射ていると言えよう。

何故ならば――ユーリまでもが狂気すら感じさせる薄ら笑いを浮かべていたのだから。

人工灯の光に照らされる()()をもう一度見やってから、ユーリはルビーのラボを後にした。

その後ろ姿を、自分の入れられている金糸を思わせる長髪を培養カプセルの中に広げながら微睡んでいた少女の左右の異彩が異なる瞳が見つめていた。

 

 

――とある次元世界――

 

人里離れた草原を吹き抜ける穏やかな風を全身で味わいながら、ふと何かに気づいたかのように空を見上げる一人の男がいた。

上着、ズボン共に漆黒。左目は眼帯で覆われ、背中に届く黒髪を首の後ろで纏めている。

一見すると唯の成人男性にしか見えないかもしれない……が、彼の正体を知る者ならば、否、彼と言う存在を知ってしまった者であったとしたのならば、そうは思えないだろう。

全身より溢れ出すのは異常にして超常の威圧感。深淵を思わせる瞳に秘められたのは遥かなる蒼穹(ソラ)の先にある神成る存在の立つ領域。

そう、彼は人ではない。人を超えた先を歩く者……黄金色のココロとチカラを宿す存在。

神罰を司りし天電の魔女と断罪を司りし輝焔の魔女たちが首を垂れる唯一無二の存在……『黄金の神』。

 

「すべての決着がつく日も近い、か……」

 

魔女を従えた黄金神は天を見上げながらぽつりと零す。

彼の眼には、頭上に広がる空の果て、その遥かな先の未来を見据えていると言うのか。

 

「アリシア、シュテル。そう遠くない未来に、かつてない激闘が幕を開くことになるだろう。……お前たち、俺についてきてくれるか?」

「今更言うコトじゃ無いんだよ、ソレ」

「全くです。私たちはどこまでもお供いたしますよ」

 

当たり前の様に腕を絡めていた見目麗しい二人の女性からジト目で睨まれ、黄金神……ダークネスは苦笑いしながら言った。

腕を解き、彼女たちに向き直る。これから口にする言葉、それに込められた意味を噛み締めながら、それでも目を逸らさずに。

 

「俺はお前たちを大切な存在として認識している。だからもしお前たちに何かあれば、多分俺は冷静でいられないだろう。だから――」

 

手を伸ばす。

己が命と同価値であると認める存在へと。決して手放したいくないと心から言えるだけの存在となった、大切な少女たちへと。

 

「俺と言う存在の消え去るその瞬間まで――共に居て貰うからな。逃げようとしても無駄だぞ。俺は絶対にお前たちを離さないからな」

 

「もっちろん♪ 私たちはダークちゃんのモノで、ダークちゃんは私たちのモノなんだからねっ」

「私の身体も、心も、想いも……全ては貴方と共に在ります。ですから……」

 

少女……いや、大人の女性へと美しく成長しつつある彼女たちは、この世で最も愛しい人へとそっと身を寄せ、彼の服の裾を掴む。

僅かな恥ずかしさと、共に在る内にとてつもなく膨れ上がってしまった愛おしさを込めながら。

 

「「私たちを離さないでね?」」

「――ああ、当然だ」

 

満ち足りた現実に立ち止まらず、その先へと彼らは進み続ける。

例え、絶望を齎す未来が立ちふさがったとしても、愛しさを胸に抱き、悲しみを背負い、時々過去を振り返りながら。

世界を背負う神成る存在が誕生する、その瞬間まで……。

彼らの歩みは、決して止まる事はない――――

 

 

《神造遊戯事件》 第二幕 “闇の書事件” ――――閉幕。

 

 

 

 

【『A’s』最終報告】

“ゲーム”の舞台時間軸:魔法少女リリカルなのは:『A’s』終了

『A’s』終了時の転生者総数:六名

【A’s終了時の状況】

“Ⅰ”:リインフォース・アインスをジュエルシードと彼自身の未完成な“権能”によって人間の少女として転生させる。その後、アリシア、シュテルを引き攣れて次元世界を放浪中。

“Ⅱ”:シュテルを除く”紫天の書”一派を手中に収め、“夜天の書”のコアプログラムを強奪。何やら怪しい企みを実行中。

“Ⅲ”:嘱託魔導師として管理局に登録しつつ、故郷に一時帰郷。修行も兼ねてトレジャーハントに勤しむ。

“Ⅵ”:いざという時に動きやすいよう嘱託魔導師として管理局に所属しつつ、クラナガンの一角に翠屋の支店をオープン。オーナーパティシェとして腕を振るう。

“Ⅶ”:無限図書館の室長補佐として就任。

“Ⅸ”:時空管理局地上本部に所属。地上本部のエース部隊『ゼスト隊』の新人として、日夜特訓と事件解決に精を出す。

 

End stage 『A’s』 Finish!

 

GO TO NEXT STAGE ―― 『Striker’s』

 

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