具体的には、なのはたちによる魔法技術の説明が一通り終わらせた直後になります。
事情説明
粉雪が舞い降り、幻想的なひと時を演出する十二月二十五日。
クリスマスと言う年に一度の一大イベントであるこの日、本来ならば飲食物を扱う翠屋はケーキやスィーツを求めて数多くのお客様が来店し、賑わいをみせている筈だった。
だがしかし、現実には閑古鳥が鳴いているようにも見えるほどに店内は静まり返り、笑顔と共に賑わいを見せる外の世界とは隔絶してしまっている印象を見る者に与える様子を見せていた。
翠屋の入り口には『CLOSED』の看板が下げられ、道路に接するガラス窓には隙間なくブラインドが下ろされて、中の様子を伺うことが出来ない。
近所の皆様方やお得意様たちがこの様子に首を傾げ、立ち去っていく翠屋の店内には、翠屋経営者たる高町家、月村家、八神家にアリサ、そして管理局の代表としてハラウオン親子とエイミィ、グレアムの姿があった。
皆、どことなく緊張した面持ちのまま手ごろな席に腰を下ろしており、彼らの視線の先ではどこから用意したのか説明用のホワイトボードを背に花梨、葉月、アルク、コウタ四人が立っている。一同の視線を集めた花梨が咳払いを吐きながら、一同を見渡す。
「それじゃあ、今から私たちが隠してきた秘密……私たちが参加させられている“
一同が頷きを返してきた事を確認すると、花梨に促された葉月が、彼女たちが知りうる“
「まずは“
「花梨さんたら、もう……そんな、どストレートすぎな言い方では駄目ですわよ?」
「だったらアンタが変わってくれてもいいじゃない……はぁ、もう! わかってるわよ。これは私が言わなきゃならない事だってくらいは」
真剣な瞳を向けてきた葉月に応えるように、花梨は慎重に言葉を選びながら一つずつ語り始める。
子供の絵空事にしか聞こえない、けれども確かな現実として起こっているこのセカイの真実を。
「此処にいる私たちには、とある共通点があるの。それは“神を名乗る存在と邂逅”して、“前世の記憶を保有”したまま新しい命としてこのセカイに生まれ変わったっていう過去を持っている事よ。皆には信じられない事だと思うけど、これは紛れも無い真実、揺るぎ様の無い本当の事なの。だから頭ごなしに否定しないで、“そういうものだ”っていう事を念頭に置いて訊いて欲しいの」
虚構さなど微塵も感じさせない真剣な表情を浮かべたまま淡々と説明をする花梨の言葉を笑うことが出来る者は一人もいなかった。
それは、彼女だけでなく、後ろに控えた葉月たちもまた、真剣に、あるいは今まで黙っていたことに対する後ろめたさを浮かび上がらせていたからだ。
彼らと少なからず交流のあるこの場にいる一同は、彼らの言動や態度が、この場を流そうとする戯言の類なものでは決してないという事を、否応なしに感じ取らされていた。
「私たちはこことは違う、けれども限りなく近い世界で一度死んで、あの世……と呼べるのかはわからないけど、とても不思議な……そう、果てしなく真っ白な空間に呼び出されたの。そこで神を名乗る存在に違う世界に転生する資格と力を与えられて、このセカイで第二の生を授かったのよ。でも、そこには奴らの思惑が隠されていたの……その目的こそが“
さらりと『殺す』という単語を口にする娘を信じられないものを見たかのような表情を浮かべながら見つめるのは高町夫妻だった。
特に、元裏の世界の住人である士郎には、娘が口にした言葉に込められた重みを……真実、“殺し合い”と言う行為についてきちんと理解した上で言葉にしているといるのだと言うことが否応なしに理解させられてしまう。
内心で激しく動揺する父に気づいていないのか、それともあえて無視しているのか、花梨は表情一つ変えないまま説明を続けていく。
「えっと、私たちを除く他の参加者たちに中には、《神の座》を求めて積極的に戦いを仕掛けるっていう奴もいるの。
「……あのさ、全然意味がわからないんだけど? そもそも、どうしてアンタたちがそんなモノに参加しないといけないのよ?」
黙って話を聞いていたアリサが、怒りを押し殺したかのような静かな口調で問いを投げる。
それはこの場にいる全員の思いを代弁したものであった。
彼女たちを疑う訳ではないが、それでも話の内容が常識というものを置き去りにしたレベルに達しつつある展開に我慢することが出来なくなったようだ。
「……それは、そうしなければ私たちが此処にいることは叶わなかったからよ」
そう告げた花梨の口元は苦虫を噛んだかのような、まるで何かを堪えるかのように歪んでいた。
「此処にいる私たちは神々の手で生まれ変わらされた存在なんだけど、転生する条件が“儀式に参加すること”だったのよ。――まあ、私はイレギュラーだったみたいで儀式の事を知らされていなかったんだけどね――っと、話が逸れたわね。とにかく、もし儀式の参加を拒んでいたとしたら、その時点で私たちの魂は輪廻の環に逆戻り、記憶も人格も何もかもを消されてまっさらな状態になって生まれ変わっていたでしょうね。少なくとも、此処にいる私たちとは完全な別人としての生を受けていただろうことは間違いないと思うわ。だから、私たちには参加を拒むことが出来なかったの」
「そんな……!? 何やそれ!? 逃げ道を塞いで、自分のやり方を押し付けて……そんなん許されるんか!?」
「許すも許さないも無いんじゃない? だって神サマなんだし。人間の道徳感なんて持ち合わせてないのよ、きっと」
「花梨ちゃんはそんなんで良いんか!? 神サマとやらの言い分を認めるっちゅうことは……!」
「貴方も一度死ねばわかるわよ、きっと。あの時こうしていれば、もっと上手くやっていたら……そんな後悔ばっかりが湧き上がってきて、つらくて、苦しくて、悲しすぎるあの感覚、とてもじゃないけど言葉にはできないわ。そしてこうも思うの、『もしもう一度生きることが出来るのなら、何を引き換えにしたとしても
花梨言い分を否定することは誰にもできない。
それが出来るとすれのならば、それは彼女と同じく真の意味で一度命を失った事がある存在だけなのだから。
それでも納得ができないという思いが、ありありと見てとれるはやてを窘めるように、花梨は真剣な眼差しを向ける。
「この世界を支配する現実とはそういうものなんだってことを理解しなさい。私たちはそういう不条理な現実を精一杯生きる以外に、道は残されていないんだから」
花梨の言葉に同意の頷きを返している弟の姿に、はやては二の句が継げなくなってしまう。
誰よりも長く傍にいたはずの家族が、とてつもなく遠い存在になってしまった、そんな喪失感が彼女の身体を駆け巡る。
「……俺からもいいか? その“
「いいえ、それは無理なのよ恭也兄さん。どこかに隠れ続けるっていうのは確かに一つの手ではあるけど、その方法を取っても未来は無いの」
恭也の問いに対して、花梨は否定の意を示す。
逃げる、或いは隠れ続けると言う行為を拒絶するのではなく、現実的に考えてその方法を選ぶことは不可能なのだと知っているから。
「“
「な……!?」
「私たちを転生させた存在が相手なのよ? たぶん、戦いにすらならないわね。自販機でジュースを買うのと同じくらい簡単に、私たちの命は奪われてしまうと思うわ」
「ふざけている……! なんだ、それは!? 人間の命をなんだと思っているんだ!?」
「――どうとも思っていないと思いますわ。彼らにとって、今の私たちは新しい神の候補者にすら成り得ていない存在でしかないのですから。もし彼らが真の意味で目を掛ける存在がいるとするのならば……
憤る恭也の内心を見透かしたかのような葉月の言葉。されども、その言葉が指す意味こそ、限りなく真実に近いのだと、神の候補者として選ばれた者たちは感じていた。
「そう――……私たちに帰りたい場所があるのなら……、守りたい、大切な人たちがいるのなら――戦って未来を勝ち取る以外に生きる術は存在し得ないのよ」
この場にいる全員が、花梨の言葉が現実として受け入れるしか出来ない。そうするしか……出来なかった。
「――え、ええっと、自分で言っといてなんだけど、そんなに暗くならないでくれないかしら? ホラ、別に今すぐどうこうなるわけじゃないんだし? 戦いの期間が決められているから、少なくとも今から十年位は、私たちはお互いに戦う事を禁止されているから……だから、まだ時間的猶予は残されているの」
「……それも、“ルール”とやらで決められていることなのかしら?」
「あ、はい。私たちはこのセカイで起こりうる出来事と言いますか……その、運命にようなものを『特別な知識』と言う形で与えられているんです。それは運命の分岐点とも呼ばれるもので、たとえば『ユーノがジュエルシードを発掘した』、『彼との出会いで、なのはが魔法の力を手に入れる』、『なのはとフェイトがジュエルシードを奪い合う』、『はやてが“闇の書”の主に選ばれる』……そういった出来事について、私たちは予備知識として与えられていたの、――もちろん、ある程度の個人差はあるけどね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? それはつまりあれか? 君たちは、ジュエルシードの件から今回の件に至るまでの未来を、予め知っていたと、そう言いたいのか!?」
「ま、そういうコトになる……かな?」
「……少し良いだろうか?」
問いを投げたシグナムは、表情が何処か硬い。いや、彼女だけではなく、守護騎士たちにも困惑とも怒りとも取れるものが浮かんでいる。それに敢えて気づいていないフリをしつつ、先を促す。
「もし今回の事件についても、予め予備知識として知っていたとするのならば……我らが覚醒する前に主はやてを保護、或いは接触することも出来たはず。それをしなかったのは何故だ? ……お前たちにとって、主を救ってくれることは重要な事ではなかったという事か?」
「――自惚れないでいただけません? 自分の命を常に脅かされる中、どうして私たちが無償で八神さんを救ってあげなければならないのですか? 貴方たちにとって彼女の命が何よりも重要であるのと同じように、私たちにも何よりも大切な
「そうね。確かに悲しい未来、つらい出来事が起こるっていう未来を知っていながら、何もしなかった私たちは褒められる人間じゃあないのかもしれない。でもね、だからこそ救われた人がいるのも事実なの。お父さんが怪我で入院してた時、なのはが自分を必要じゃないって思い込んでしまった事を、必要以上にフォローしなかった事だってそうなのよ」
「はあ? ソレ、どういう事よ!? そんなのが、なのはのためになるって言うの!?」
「ええ。この出来事があったからこそ、なのはは誰かが悲しんだりしているのを放っておけなくなった。だからこそ、アリサとすずかの喧嘩に割り込んだし、これがきっかけで二人と親友にもなれた。だからこそ、傷ついたユーノと魔法技術に接触した時も、途中で投げ出さずに最後までやり通すことが出来た。だからこそ、事件の中でフェイトを救うことも出来たのよ。――言い方が悪いかもしれないけど、もしあの頃のなのはの支えに私がなっていたら、今以上に私に依存する性格になったいたんじゃないかしら? そんな状態じゃあ、アリサたちと友達になることも、魔法を手にすることも、フェイトを救う事だって出来ていたとは思えないわ」
考えすぎかもしれない。
けれど、『知識』をなぞる形で“
そう考えたからこそ、今回の説明にあたって、花梨たちはこのセカイが創作物に極めて近いという事実は隠して、“これから起こりうる未来をある程度知っている”という事にした。
このセカイでの家族であり、友人でもある彼らに、本当の事を……自分たちが“リリカルなのは”というストーリーを描く登場人物として自分たちが用意された存在なのだと告げることは、彼女たちには出来なかった。
「……君たちの言いたいことはわかった。いや、納得は出来ないが、今は脇に置いておくことにする。――で、だ。花梨、君の話の中に《神》という単語がいくつも現れていたし、それが存在するという前提で話を進めているようだが、それは本当に、その……オカルトでよく言われる、あの《神》という認識でいいのか?」
「まあ、概ねは。ていうか、本人がそう言ってただけだし、もしかしたら私たちの想像もつかな不思議な異能を持つ存在が神を名乗っているだけなのかもしれないけどさ……私の勘だと、間違いなく本物だと思うわ」
「君の言葉を疑うつもりは無いが……しかし『ハイ、そうですか』と答える訳にもいかないな。何より確証が無さすぎる。僕から言わせて貰えば、そもそも君たちが本当に転生とやらを経験してるのかすら怪しいものだ。集団催眠や洗脳の類で、『自分には前世があって、
「リアリストなクロノ君らしい、実に現実的な発想ね。――でも、その理論だとどうしても証明できないことがあるんじゃない?」
「なんだと?」
怪訝な表情のクロノに対して、人差し指をぴっ、と立てながら言う。
己が内に宿る、人間の定義した理論では説明のつかない、理不尽の塊とも称すべき異能の“能力”について。
「私たちに宿る“能力”のことよ。私たちに秘められた特別な力、唯人には決して持ち得ないチカラを持っていることが何よりの証明になるわ」
「それは魔法……ではないのよね?」
「ええ、その通りですよリンディさん。私たちに宿るのは未知にして超常の神々より与えられた異能のチカラ……この星も含めて数多存在する次元世界で貴方たち魔法科学を使役する者たち――魔導師が
「――!? ま、まさか……!?」
「気づいた様ね? そう――
日本と言う平和な国で生まれ育った者にとって、この上なく非現実的な言葉をつらつらと並べながら、花梨の説明は続く。
「私たち転生者、あるいは参加者の中でも、更にワンランク上の力を発現させた存在は『神成るモノ』と呼ばれているわ。その名の通り、新しい神となる候補者って意味なんだけど、その代表格がダークなの。私たちが名乗る
「彼が、“Ⅰ”――っ!? ちょっと待て!? それならまさか、アースラに残っている女性も!?」
「そ。
「彼らと協力することは出来ないのかね? 確かに常人とはとても呼べない危険な存在であることは間違いないが、話に耳を傾けるくらいはしてくれそうな気がしたのだがね? 現に、私がジュエルシードを代価に取引を持ちかけた際、結果はどうあれ、傾聴の姿勢は見せてくれていたと思うのだが」
「無理じゃねェの? ありゃあ、自分の決めた考えは絶対に曲げない性質の人種に違いねェよ」
「うん、僕も同感だよ。“Ⅰ”もそうだけど、“Ⅱ”も、絶対に相容れないような気がするんだ。いや彼らだけじゃない。もしかすればこれから先、僕たちの前に現れるであろう新しい参加者たちも、彼らの様に儀式を肯定する人種なのかもしれないね」
「疑心暗鬼に憑りつかれておられますわね、お二方共……」
強大過ぎる力を持つダークネスと出来るだけこじれた関係にならない様にというグレアムの提案を、アルクとコウタがすっぱりと切り捨てる。
あからさまな嫌悪感と敵意を抱いている少年二人に、葉月の口元は苦笑を描き、花梨は内心で重い溜息を吐く。かつての自分も通った道とは言え、こうして第三者的視線で見ると、彼の“能力”のデメリットが如何様な物なのかが良くわかる。
葉月が隙をついて【いどのえにっき】で読み取らせたダークネスの“能力”に関する情報、どこに逃げようとも炙り出されてしまう強力な感知能力である『
強力過ぎる“能力”には当然、デメリットというものが存在している。
『
つまり、“能力”によって自分のチカラなどを読み取られた者は、彼をこの世で最も嫌悪する存在と等しいほどに敵意を抱いてしまう。
言うなれば、好感度を強制的にゼロにしてしまうのだ。コウタとアルクが敵意をむき出しなのも、今までダークネスとほとんど接触していなかったから好感度がゼロのままであるためだ。
しかし、このデメリットは『一度限り』のものでもあり、一度好感度をゼロにしたとしても、そこから再び好感度を上げることも可能なのだ。
花梨のダークネスへ向ける感情の推移もこれが原因で、彼女自身が『神成るモノ』へと限定的に至り、知覚や価値観に変化が現れたことや、アリシアやシュテルへ接する姿などを見て、嫌悪感が薄れてきている事が、彼女の変化の理由であったりする。
だからこそ、彼の言い分を認めることは出来なくとも、今回の様に協力し合うことは出来るのではないかと思うようになってきている。
具体的に“
それは花梨がダークネス個人へ向ける感情なのか、それとも全く別の物なのか、いまだあやふやで形を成さないソレがどんな結果と成るのかは彼女自身にもまだわからない。
けれども、わかり合えない相手と手を取り合うためには、彼らの考えを、何を大切にしているのかを知る必要もあるだろう。
今ある日常……決して譲れない大切な居場所。自分だけの大切な場所を見つけることが出来たなら、彼らの考えも少しはわかるかもしれない。
――私の大切な場所……私の、夢? 私の夢は……
彼らと同じように、自分も家族だけじゃなくて、自分自身の生きる大切な日常を満喫してみるのも一つの手なのかもしれない。
今まで儀式を止めることしか考えていなかったせいで、視界が狭まっていたことは否めない。
ならば、此処で一つ違う視点からのアクションをとってみるのも一つの手段なのではないか――?
「パティシエになって翠屋ミッド支店をオープンする……! よし、イケる!」
『はい?』
突然意味の分からないことを言いだした花梨に、一同の視線が集まる。
それに気づいた花梨は、少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながら、自分の中で纏めた考えを述べることにした。
「え、えっと……さ。この儀式をどうこうする方法がまだわからない現状を打破するには、私たちも新しい一歩を踏み出すべきなんじゃないかって思ったワケなのよ。戦いを肯定するダークたちを認めるつもりはないけどさ、頭ごなしに否定するだけなのも可笑しい気がしてさ。だから今まではしようとも思わなかった事をやってみるのも一つの手かな、って」
「それが翠屋のミッド支店なのですか?」
「うん。元々、儀式云々を脇に置いといた時、私の夢はお母さんみたいなパティシエになることだったからね。そうすれば、アイツらみたいに自分の日常や大切なものを守りぬくために戦いを肯定する連中の考え方とかわかるかもしれないし、何よりこれからの戦いは
両の人差し指の先をツンツンさせながら不安げに上目使いを作る娘のおねだりに、基本娘に甘い父親が陥落する寸前、プロの職人である母 桃子から厳しい叱咤が飛ぶ。
「花梨、飲食店を経営するっていう事や、一人前の職人になるっていうことはそう簡単な話じゃないのよ? 何年も専門の勉強を続けて、数えきれない涙を流した先に、ようやく叶えることができるようになるの。貴方にそこまでの覚悟があるのかしら?」
「……はい。私は“
目を逸らさず、真剣な眼で見返してくる娘の姿に納得したらしく、桃子は細めていた目尻をふっ、と緩めると、ごく自然に花梨に近づいて小さな身体を抱きしめる。
困惑気に見上げてくる娘の幼く、小さな身体。こんな小さな子供に重く、厳しい現実が圧し掛かっている。
それを肩代わりしてあげることも出来ない己が無力さを噛み締めつつ、しかし表面上は笑顔を浮かべて愛おしい娘を抱きしめ続ける。せめて、心の支えにはなってあげたい。
そう願いを込めて。
「……とにかく、今回の件について流石にある程度の情報は報告を上げなければならない。無論、このまま報告したところで子どもの語る絵空事と受け取られてしまうのが関の山だろうから、君たちの事を含めて出来る限りの情報を隠して報告する方向に持って行こうと思う。ただし、流石に彼……“Ⅰ”や“Ⅱ”に関する情報は公表せざるを得ないという事を理解して欲しい。あの人智を超えた力に危険な思想……次元犯罪者として情報を提示しておかなければ、不要な被害者を生み出すことになりかねない」
「そうね……。私も、彼らと話をして感じたのはどこまでも自分の我を通す人種だという事を感じたわ。多分、悪意を持って接触してきた者がいたとすれば、ほぼ間違いなく人死につながる参事を巻き起こすでしょうね。ここはリスクを承知の上でも、彼らの危険性を公表することで、無関係の人々が不用意に彼らに接触してしまう可能性を減らしとくべきだと思うわ」
クロノの意見にリンディもまた同意を表す。彼らの情報が開示されることでその力を手に入れようとする犯罪者たちと接触してしまう可能性は高くなるが、それを差し引いたとしても無関係の一般人たちが不用意に彼らと接触してしまう可能性を減らせることにはつながるだろう。
犯罪者を死罪にするのではなく、構成させて社会に復帰させることを是非とする管理局員である彼らではあるが、罪なき人々の命を未然に防ぐ方がより重要であると捉えるのもある意味で当然のことだと言える。犯罪集団と結託し、更なる被害を増やしてしまうと言う可能性も無い事はないが……あの性格上、それはありえないとリンディの局員としての経験も断言している。
ハラオウン親子が今後の報告についてどう纏めるべきか意見を交わす横で、なのはたち魔導師組が儀式参加者たちに自分たちも協力する旨を言い出して、ちょっとした騒ぎになっていた。
参加者勢としては、これはあくまでも自分たちの問題であり、彼女らには不必要に関わってほしくないと言えば、そんなのは今更だと、もう巻き込まれているからという正論で返されてぐうの音も出なくなってしまう。
結局、そのまま収拾がつかなくなりそうな雰囲気に大人たちが待ったをかけたことでこの日の説明は一応の終わりを見せることとなる。
そして、今だけはそういう血生臭い現実を忘れようと、せっかくのクリスマスを楽しむべきだと言う意見に皆が賛同し、この流れのまま関係者全員参加のクリスマスパーティーが開催されることとなったのだった。
――後日、ハラオウン提督によって提出された報告書にはこう記されている。
第九十七管理外世界における二度にもわたる
首謀者は
それは、現地住民も含めて十数名ににも上る
今回我々が確認できた危険人物の情報を以下に記しますので、管理局上層部の皆様方は可及的速やかに、彼らの広域手配の実施を申請いたします。
・Name : No.“Ⅰ” ダークネス
犯罪内容 :“P・T事件”の首謀者プレシア・テスタロッサの殺害。
及び、娘アリシア・テスタロッサの遺体を強奪。
現管理局嘱託魔導師と局員への暴行、殺傷行為。
・Name : No.“Ⅱ” ルビー・スカリエッティ
犯罪内容 :第一級危険指定物“闇の書”の中枢プログラムの強奪。
さらに、違法研究、人造魔導師製造などの犯罪に手を掛けている可能性が極めて大。