魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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日常編第二幕、開始!
まずはお約束の水着&アッシュの因子(ジーン)保有者を決めるサブクエストから。
時系列的には、なのはたちが小学校最高学年になった頃、魔法少女たちが地球で学生生活を満喫していたころになります。

後、場面が変わるシーンの境界にわかりやすいよう目印を入れてみました。
読みやすいと感じていただければよいのですが……。


そうだ、プールへ行こう

カラカラカラ……コロンッ

 

「おりょ?」

「おっ、オメデ……ド、ゴザイマ、ッ……!!」

 

半被を羽織った男性が手に持ったハンドベルの音が商店街に鳴り響く。

翠屋で使用する砂糖のストックが切れてしまったので、それを補充するために馴染みのスーパーへと買い出しに向かった花梨が会計の際に貰った商店街の福引券。

残念賞のティッシュが関の山かなと軽い気持ちでいたのも過去の話、花梨は何故か半泣き&鼻水垂れ流し状態の男性にドン引きしながらも、差し出された景品を受け取る。

 

「これ……最近完成したっていう『海王』の入場チケット?」

「ズズッ! ――おう、そこの完成記念に関係者に配られた無料チケットだよ。それ一枚で一家族まで無料で入場できるから、親御さんと一緒に楽しんできな……ちくしょー! 何で三人連続で当たりが出やがるんだ、べらんめぇ!?」

 

――いや、そんなん私に言われても……。

 

憤慨する男性を当たり前の様のスルーした花梨は、手に持った入場チケットとやらをしげしげと眺める。

海鳴市の新しい観光スポットとして一月前に完成したばかりのスポーツセンターばりに施設が充実している巨大な温水プール施設『海王』。

地元住民から親しんでもらいたいと言う経営者サイドの計らいにより、一般人に対する施設名の募集が行われていたのは記憶に新しい。

しかし、よりにもよって彼女の兄が提案した名前が採用されるとは思ってもみなかったことだろう。

いや、採用記念品として贈り物も頂いているので、悪い事ではない。

無いのだが……

 

「お兄ちゃんに送られてきてたのも無料チケットだったのよねぇ……、しかもあっちの方がスゴイし」

 

そう、兄 恭也へ送られてきた賞品は『海王ランド一年間フリーパス券』。

彼女の手元にあるチケットは有効期限が一ヶ月しかないのに比べると、どちらが優れているかなど一目瞭然。

向こうも一家族全員揃っての入場が可能とあって、せっかく当選した商品を手に入れたと言うのに微妙な顔を浮かべているのがその証拠であると言えよう。

 

「う~ん……まあ、葉月たちを誘うのに使えばいっか。換金するってのも何だしね」

 

そう結論付けた花梨は軽い足取りで帰路へつく。彼女の脳内では、もう次の休日に皆でプールで遊ぶビジョンが描かれていた。

だからこそ、見落としてしまったのだ。

ものすごく悔しそうだった男性が口走っていた言葉、その意味を。

自分より前に、同じチケットを当てた人物が如何様な人たちであったのか。それを聞きそびれていた事を、彼女は赴いたプールにて盛大に後悔する羽目になる。

 

――◇◆◇――

 

花梨が無料チケットを当てた日から数えて四日後の日曜日。

都心よ若干離れた場所にドドン! と構える巨大なレジャー施設『海王ランド』のプールサイドに高町一家の姿があった。

喫茶店である翠屋は休日も稼ぎどころだと思われがちだが、むしろ平日に学校帰りの学生たちなど若い世代が来客の大半を占めている故に、本日は臨時休業として久しぶりに家族全員で遊びに来ていた。着替えを手早く終わらせた男衆が手ごろなスペースにビニールシートを広げて陣地を確保している合間に、色とりどりの可憐な水着を纏った女性陣が姿を現す。

最初に現れたのは桃子と美由紀、そして花梨から贈られたチケットでお呼ばれした月村 忍、ノエル、ファリンだ。

桃子は清純さを醸し出す白いビキニとパレオ、美由紀は花柄のかわいらしいデザインのワンピース、忍は布の面積がやや小さい黒が映えるビキニ、ノエルとファリンはおそろいの薄い水色のワンピースだ。肩ひもの部分などにフリルがあしらわれたかわいらしいデザインのもので基本的に無表情なノエルの頬が若干赤い。

実はこの水着、つい先日に忍とすずかからプレゼントされた物であったりする。敬愛する主たちからの贈り物であり、デザインの可愛らしさもあって嬉しさ半分、恥ずかしさ半分と言ったところなのだ。純粋なファリンの方は、ナチュラルに喜んでいるだけだが。

 

「皆お待たせ~、あ! ノエルもファリンも良く似合ってるよ♪」

「へぇ~、すずかもいいチョイスしてるじゃない」

「おおう……、クール系メイドさんが恥ずかしげに身を捩っているこのシチュ……グッジョブや! グッジョブやで、すずかちゃん!」

 

すずかは身体のラインがそのまま映し出される競泳水着、なのはと花梨は色違いでおそろいのワンピース、はやては白いタンキニ、葉月は裾の短いチャイナ服にも見えるやや露出を控えた水着姿だ。その後ろからは、黒いビキニを着たヴィータが、自分の胸元と最近徐々に成長を始めている友人たちのソレの間を何度も視線を行き交わし、影を背負い込むくらい盛大にブルーモードに陥っている。

しかし、それでも皆、整った容姿ともって生まれた独特の雰囲気を合わさって、周囲の視線を釘付けにしている。

――ちなみに、そんな彼女たちと一緒にいたら周りの視線が痛いので、アロハシャツと“海人”とプリントされたトランクスのアルクとブリーフタイプをチョイスしたコウタは士郎たちの手伝いに回っていた。

こういう所の危機管理能力は流石と称するべきである。

 

「別にすずかちゃんは狙ってないと、なのはは思うんです。――ていうか、フェイトちゃん? なんでスク水なの?」

「え? えっと、ホントはちゃんとしたのを買っておいたんだけど、クロノ……お兄ちゃんに『それだけは止めてくれ』って止められちゃって……他の水着は、学校指定のこれしか無くて」

「あの生真面目くんが反対するような水着って……どんなモンを用意してたのよ?」

 

紅いビキニを纏った呆れ顔を浮かべるアリサの視線の先では、学校指定のスクール水着姿のフェイトがいた。

胸元にひらがなで『ふぇいと・てすたろっさ・はらおうん』と書かれた名札がついている、無駄に力の入った一品だ。

 

「え? えっと、……あ、あの女の人が着てるのと同じタイプだよ」

 

フェイトの指差した方向へ一同が視線を向け……即座に固まる。

何故なら、彼女たちの視線の先に居た女性が装備している水着とはまさに必殺兵器と称するにふさわしい一品なのだから――!

 

「だ、ダウトォ!? あれはさすがに駄目よ、フェイト!? てかアレ、水着じゃないでしょ!?」

「ひ、紐なの……! お尻とか丸見えなの!? おっぱいとか零れ落ちちゃいそうなの!?」

「うっわー……男連中の鼻の下が伸びに伸びまくってますわね……あ、ご覧ください。向こうの方には真っ赤な顔して前屈みになっている大学生らしき集団がいますわ。あ、アッチにも」

「スタイルによっぽど自身が無いと、あれは流石に着れないわ~……」

 

顔を真っ赤にしながら相手に聞こえない様に小声で話す花梨たちの視線の先では、ローライズすぎる紐ビキニの女性がとある男性に声を掛けていた。

女性が、微塵も隠れていない胸元を見せつけるように前かがみになれば、ぷるん! と擬音が聞こえてきそうなくらいダイナミックに踊る双丘。

たった一工程(シングルアクション)で、数十人にも上る男連中を行動不能に陥らせた破壊力は、現在の少女たちには決して抗う事の出来ない圧倒的な戦力差をまざまざと見せつけてくる。

しかし、熱の籠った視線を集める彼女に声を掛けられていた男性は、前かがみになるどころか動揺するそぶりすら見せないまま平然と立っていた。

彼女と顔見知り……という訳でもないらしい。

距離が離れているために花梨たちからは顔までははっきり見えないが、どうも彼女らと同じくらいの年ごろの少女二人を連れて遊びに来ているようだった。

子供連れと言うほどには年を重ねてはいないらしく、まだ十代後半と言ったところか。

裾の長いトランクスタイプの水着とパーカーを纏い、左目には人目を引く眼帯を装着している。

どうやら女性の方が男性に声を掛けているらしい。俗に言う逆ナンという奴だ。

零れ落ちそうな双丘を両手で挟み込み、挑発する様に突き出しながら上目使いで見上げてくる女性。

その妖絶な色香に、周囲に居た男性陣が挙って前屈みになりすぎて正座の体勢へと移行していく。

中には家族や恋人と共に遊びに来ていた者もいたらしく、所々から女性特有の甲高い怒りの声が上がっている。

これほどの被害をもたらした誘惑を受けて、しかし男性はいたって平然とした態度で断りを告げた。

それはもうあっさりと。

女性&周囲の男性陣が信じられないものを見たような表情を浮かべるのを尻目に、眼帯の男性は逆ナンを受けた直後から不機嫌そうにむくれていた少女たちの手を引きつつ、花梨たちのいる方へと歩いてきた。

本人からすればあの場から少しでも離れたいという考えであって、別に彼女たちに用があった訳ではないのだろう。だが、運命のいたずらか、それとも神の采配か。

お互いの顔がわかるほどの距離まで近づいてしまった両者は、互いの顔を見て驚きの声を上げることとなる。

 

「んなあっ!? だ、ダークっ!?」

「ん? なんだ、お前たちも来ていたのか」

 

そう、眼帯の男性の正体は彼女らと浅からぬ因縁を持つ男、ダークネスであった。

鋼の様に鍛え抜かれた胸板や腹筋が前を開かれたパーカーから覗き、精神年齢の高い花梨や葉月などは否応なしに頬が熱くなってしまう。

士郎や恭也の様に剣術を習得するために作り込まれたものではなく、どこか野生の獣を彷彿させる雄々しさを感じさせる肉体美だ。

実際、その静かな佇まいも相まって周囲の女性たちの視線を多く集めており、熱っぽい視線を送っている淑女たちも少なく無い。

――もっとも、本人は欠片も気づいていないようだが。

黒いワンピースのアリシアと、紅いセパレートのシュテルと仲睦まじく手を繋いでプールサイドを闊歩していたダークネスは、そのまま通り過ぎようとしていたところを物凄い勢いで近づいた花梨にパーカーの裾を掴まれると、そのまま一気に詰め寄られる。

 

「な、ななな、なんでアンタが此処に居るワケ!? しかも正体隠す気ゼロ!? 犯罪者って自覚無いの!?」

「何でと言われてもな……。アリシアが商店街の福引で個々の無料チケットを引き当てたからだが? 無駄にするのも何だし、まあ別にかまわんだろと遊びに来ただけだ。他意は無い。それから、こういう処では逆に堂々としている方が自然だろうに。そもそも、管理局員共を警戒する必要もないからな」

「それを信じろと仰られるのですか?」

「此処で暴れて欲しいのか? 彼我の戦力差を理解できないほどの愚者という訳でもあるまい?」

「くっ!?」

 

言い争う三人からすこし離れた所では、アリシアとシュテルもなのはたちに詰め寄られている。

もっとも、彼女たちの方は何処か和気藹々とした『ほんわか』的な空気が漂っているが。

ダークネスに対してはともかく、姉に対しては敵意が薄れたものの、どう接したらいいのかが分からなくて困惑気味なフェイトの後押しをなのはたちがしようとしているようだ。

同時に、自分と瓜二つなシュテルとも仲良くなりたいとなのはがシュテルに積極的に声を掛けているようだが、彼女の方は一定の線引きをしているらしい。

必要以上に仲良くなろうとせず、一歩離れた場所から傍観する様な立ち位置を保っていた。

 

「……やれやれ、せっかくの気晴らしに来たんだ。これ以上お前たちといらん騒ぎを起こすつもりは無い。――じゃあな」

「あ、コラ!」

 

ダークネスはそう言って肩を竦めると、さっさと背を向けて歩き出してしまう。その背中をアリシアとシュテルが慌てて追いかけていく。

花梨はまだ言いたいことがあったものの、これ以上騒いでいると係員につまみ出されてしまうかもしれないと言うすずかの進言に従い、歯噛みしながらも彼らを見送るしか出来なかった。

 

――◇◆◇――

 

いきなりアクシデントに見舞われたものの、とりあえず気を取り直して本来の目的……プールを遊び倒そうとテンションを一気に高めた少女たちは、プールを思い思いに楽しむことにした。

ちなみに参加者は高町&月村一家、アリサと葉月、はやてとコウタの姉弟にアルク、さらに騎士代表としてヴィータ、と言うメンバーだった。いつものメンバーから欠員が出ているのは、司法取引の手続きなどでリンディたちと共に守護騎士たちや“闇の書”について資料を纏めるよう依頼されたユーノなどがミッドチルダに赴いているからだ。

本来ならはやてたちも同伴する予定だったのだが、ようやくリハビリを終えて歩行できるようになったはやてに、普通の子どものような楽しい思い出を作ってほしいと考えた騎士たちが気を遣ってくれたのだ。

手続きだけだから大丈夫だとリンディも口添えしてくれたこともあって、はやてとコウタも今回のイベントに参加する流れになったのだった。

ヴィータがいるのは、平和な日常の思い出をこれから作っていくのだから、子供は子供らしく振る舞うのもアリなのではないかとシグナムたちに進められたからだ。

無論、本人は(精神年齢的に考えると)十分、大人と呼べる年齢ではあるが、せっかくのコウタとのお出かけなのだから楽しんで来いという仲間たちの気遣いを蔑にすることも出来ず、万一の時のための護衛だと言い訳を並べながらついてきたわけだ。

ちなみに、バニングスグループがこの施設が造られる際に出資していたらしく、その伝手でアリサが彼女らの分も入場券を手に入れたという経緯があったりする。

 

閑話休題(それはともかく)

 

多少のトラブルがあったものの、とりあえず今日は遊ぶことにした花梨たち。

二十五メートルプールで泳ぎの競争をする者、浅いプールでビーチバレーを楽しむ者、個々の目玉、ウォータースライダーへ何度も足を運ぶもの等々……。

皆、思い思いにプールを楽しみ、満喫していた。

お昼には皆で桃子や忍が作ってきたサンドウィッチを堪能し、食べた後には何をしようかと笑いあいながらおしゃべりを交わす。

何とも平和で、穏やかな日常の一幕。

だが、そんな穏やかなひと時は、唐突に終わりを告げることになる。

それは一同が昼食を食べ終わり、食後のまったりとした時間を楽しんでいた時の事。

突如として各所に設置されたスピーカーからガガッ! という雑音が響いたかと思った次の瞬間、ごく一部の者にはものすごく聞き覚えのある声が施設内に響き渡った。

 

《ああ~、テステス。んんっ……と、よし。全員清聴! 『海王』に来場した者どもに告げる! 今から三十分後、波のプール傍に用意した特設会場にて、スペシャルイベントを開催することを此処に宣言する! 参加資格者は今すぐにこちらに集合するように。以上》

「あれ? 何かしらコレ……? 何かのイベント? でもそういう案内とかは全然聴いてなかったけど……」

「ていうかコイツ、なんか言い方ムカつくんだけど。偉そうっていうか、私たちを下に見てるって気がありありと感じられるんだけど」

「アリサちゃんに言われたらおしまいやなぁ」

「どーいう意味よ!?」

 

怒れるアリサから逃げ回るはやてを余所に、葉月と顔を見合わせていた花梨はお互いに頷き合うと立ち上がり、会場と指定された波のプールがある方へと向かおうとする。

僅かに遅れてアルクとコウタも腰を上げようとしたが、流石にこの(・・)四人が似たような反応をすれば気づく者も現れてくる。

四人の様子に気づいた士郎が声を掛けるものの、何故か四人は理由を話し辛そうに言葉を濁してしまう。その様子に怪訝なものを感じ取った一同の向けてくる追及の視線に居た堪れなくなったのか、それとも誤魔化すのは無駄だとわかったのか、葉月が嘆息を溢しながら理由を口にする。

 

「先ほどの声なのですが、私たちに聞き覚えのある方の物だったのですよ。ですから、それを確かめる意味でも会場に向かおうかと思った次第でございまして」

「放送の声の主に心当たりがあるのか?」

「ええ、まあ……、その、なんと言いましょうか……。えっと、花梨さん?」

「ふ、振らないでよ、もう……、コホン。あのね、私たちの想像通りだとしたら、多分だけど――《神サマ》かもしれないの」

『はい?』

 

予想外の単語に、一同の動きが静止してしまう。

「まあ、それが普通の反応よね」と苦笑を浮かべる花梨も葉月の笑顔もどこか引き攣っているように見える。

 

「いろいろと言いたいことはあるでしょうけど、取り合えず行ってみない? 違ったら違ったで別にかまわないし」

 

結局、花梨のその言葉に同意した全員で、イベント会場とやらに向かうことになった。まだ純粋な少女たちは本物の《神サマ》に会えるかもしれないと湧き上がっているが、決して一筋縄ではいかない存在だと否応なしに理解させられている花梨たちの表情は引き締まっており、まさに戦場に赴く戦士のような顔つきのようであった。

 

「……なんだかすっごく嫌な予感がするのは私だけかしら?」

「いいえ、私も花梨さんと同じ思いですわ」

「俺っちも」

「実は僕も……」

 

『――……ハァ』

 

せっかく遊びに来たと言うのに、どうしてこんなに疲れなきゃいけないのか。

彼らの背中は、まるで貴重な休みを家族サービスにつぎ込んで精も根も疲れ果て、晩酌のビールとスルメイカのおつまみを啄む以外に心休まる瞬間の無いサラリーマンのように哀愁を漂わせていたと言う。

 

――◇◆◇――

 

特設会場として急遽用意されたらしい舞台は、予想に反してしっかりとした造りになっており、彼女たちを少しだけ驚かせた。

……次いで、飾り付けられた横断幕に書かれた文字を読み、盛大に噴き出した。

 

『第一回 “神造遊戯(ゲーム)”サブクエスト! “Ⅷ”の因子(ジーン)を手にするのは誰か!? チキチキ、神サマゲーム!!』

 

葉月が思わず立ちくらみを起こしてしまったのも仕方のない事だろう。

能天気なアルクですら大口を開けて放心し、コウタは『うん、これは夢だ、夢なんだ。て言うか夢だと言ってくださいお願いします』などとブツブツつぶやきながら頭を抱え込んでいる。

それは当たり前だろう。彼らからすれば、自分たちの参加している文字通り生死を掛けた闘争(たたかい)が、ゴールデンで放送されていそうなバラエティー番組チックな扱いを受けているのだから。こんなんのために命賭けてる訳じゃないという、彼らの心の声が聴こえたような錯覚を覚えたと、後に某魔法少女は語っている。

痛み額を押さえながら、とりあえず花梨は周囲を一瞥して、怪しい者はいないか確認した――のだが、

 

「あ、解説席にダークさんがいるの」

 

妹の台詞に本日二度目となる盛大な拭き出しを繰り出すハメになってしまった。

激しく咳き込んだせいで震える背中をすずかに擦って貰いながら、恐る恐るなのはの指差す方向へと視線を向けてみると……確かにいた。

舞台上に設置された解説席、その一つの席に腰を下ろし、どこか不機嫌そうに頬杖を突いている眼帯男の姿があった。見紛うことのない、ダークネスご本人のお姿である。

 

「ちょっ、アンタぁっ!? なんで、当たり前の様にスタンバってんのよ!?」

「喧しい。俺が好きでこんなアホな真似をしとると思っているのか」

「……違うっていうの? なら何で審査員なんて引き受けてんのよ?」

「アレに訊け」

 

ダークネスは不機嫌そうな顔のまま、舞台の真ん中に立つ人物を指差す。

そこに居たのは道化としか表現できない出で立ちの男性がマイク片手にムーンウォークを決めいる光景が繰り広げられていた。観客はもうドン引きである。

頭にはシルクハット、顔にはピエロのペイント、上着には方部分にスパイクのようなトゲのある某世紀末神話的なファッションでありながら、下半身は和製男子のファストスタイルである『赤ふんどし』、さらにはバニーガールが穿く様な編みタイツに、今や懐かしいローラースケートという、どこから突っ込んだらいいのか皆目見当もつかない、スタイリッシュすぎる意匠の男(?) の姿があった。

 

「えーと……ナニ、アレ?」

「神」

「え? いやいやいや……えぇ?」

「気持ちは痛いほどわかる。わかるんだが、な。――受け入れろ、これは見紛う事なき真実だ。だから受け入れろ、現実から目を背けてはいけない」

 

もう一度、神(?) を見てみる。

今度はどこからともなく取り出したポンポン(運動会の応援などで使われるアレ)を両手に、くねくねと気持ち悪いことこの上ない動きで、舞台の上をのた打ち回っている。

本人的には踊っているつもりなのかもしれないが、どう贔屓目に見ても、海岸に打ち上げられた瀕死の大王イカがもがき苦しんでいる風にしか見えない。

チラホラと会場に集まりだした観客たちから悲鳴が止まることなく上がり続けていることからも、その気色悪さの証明になると言えるだろう。

 

「……あ、アレが神だと一万歩引いて納得するとして、何でアンタが解説者になってるワケ? このイベントとやらは――」

「優勝者に“Ⅷ”の因子(ジーン)が譲渡されるって言うんだろう? もちろん知っている――が、俺自身は参加不可能だと直々に指摘されてな。司会者曰く、公平な戦力バランスを保つためにも今回のイベントに本人の参加は認められないんだと」

「なるほどねぇ……確かにアンタ、ほとんど無敵存在になりつつあるもんね。これ以上強くなられたら私たちに勝ち目は無くなるわ、マジで」

「ふん……? 客観的に彼我の戦力差を分析できるくらいには冷静になったか?」

「お蔭様でね」

「そうか、ならもう一つだけ教えておいてやる。このイベントに参加できるのは俺たち『参加者』、あるいは『出場権を譲渡された者』になる。もしお前たちの中で参加したくない奴がいるのなら、身内の連中に代役を任せるのも一つの手だぞ? 見ての通り、今回は戦闘は戦闘でも、バラエティーに近いイベントの様だからな。危険性はさほど無いだろう」

「ご丁寧にどうも。でも、おあいにく様。そういう他人任せって趣味じゃないのよ、私たちは(・・・・)

 

そう言いながら花梨が振り返った先には、各々戦意を滾らせていく葉月、アルク、コウタの姿があった。

いろいろとつっこみたいところはある物の、結局、優勝者には“Ⅷ”……アッシュの因子(ジーン)を受け取ることが出来るという事は理解したようだ。

仲間同士で戦うという行為には否定的な彼らだが、自分たちの目的を果たすためにも戦力の強化が可能ならば出来る限りの手は打っておきたいという所か。

正攻法では対処不可能な怪物(ダークネス)が不参加な以上、四人で参加すればかなりの確率で戦力の強化が叶う。

ならば逃げるわけにはいかない。そうこうしている内に、会場の周りにはかなりの人が集まっていた。

舞台の上で奇妙な踊りを続ける謎存在(神)への悲鳴が鳴りやまないと言うのに、それでもこの場を後にしようとする人は一人もいないようだ。おそらくは神のチカラ的なものの影響下に置かれているのだろう、とは葉月の言。

ざわざわと話し声に包まれる観客席が総て埋まったのを見計らい、神(?) がマイク片手に大声を上げる。

 

《さあ、さあ、そろそろ良い塩梅になってきたところで、本日のスペシャルイベントを開催するぞおっ!》

 

見かけに反して意外と手際は良いらしく、ちゃきちゃきと場を仕切り、進行していく。

神造遊戯(ゲーム)”について疑念を抱かせない様な魔法がかけられているのか、特に騒ぎが起こることも無く、かなりおざなりな説明が続けられていく。

大まかに纏めると、

 

①優勝者には“0”に敗北した“Ⅷ”の因子《ジーン》が進呈される。

②参加資格があるのは、“参加者”、或いは彼らから資格を譲渡された“関係者”のみ。

 一般参加の飛び入りの類は禁止とする。

③イベント中は参加者同士の戦闘を禁じる。これはイベント進行上の妨害行為も同義。

 

以上のような物だ。

そして参加予定者たちが一番気になっているであろう競技内容の詳細については――

 

《協議の詳細は我が招いた解説者より告げて貰うとしようか。では解説者、イニシャル“J・S”君、よろしく》

「くっくっくっ……ここからはご紹介に賜ったこの私が説明してあげよう。私の事は、そう……『無限の欲望』とでも呼んでいただこうか。そして、初めましてだね“Ⅰ”君。君とは一度、直接話をしてみたかったのだよ」

「ん? ああ、お前が……なるほど、ルビーの奴の言葉は真実であったと、そういう訳なのか……」

「あ、あの、少し訊きたいのだがね? どうしてごく普通に私から距離をとっているのかね? て言うか、あの娘からいったい何を訊かされているのかね?」

「“J・S”……貴様の真の名は『()子高生・()ゅきしゅき~』の略称であり、日夜ありとあらゆる世界の女子高生の制服を舐めまわすように鑑賞しつつ、四六時中ハァハァし続けているド変態だと訊いている……!」

「ちょ――っ!? 真顔で何てことを言いだすのかね、君は!? て言うか、何を吹き込んでいるんだあの娘はっ!? 違うからね? 誤解だからね!? 私はごくごく普通の、どこにでもいる科学者なのだよ!? だから心の底から戦慄を露わにしたかのような表情を浮かべるのをやめてはくれないだろうか!?」

「ちなみに仕事の内容は?」

「人体を解剖したり、遺伝子操作をした生命体を生み出したり、危険指定を受けた古代遺産を強奪したり……どこの街にも一人はいる、ごくごく普通のマッドサイエンティストなのだよ! 怪しいだなんて侵害にも甚だしい!」

「怪しくないとほざくのなら、その頭に被ったコンビニ袋を脱げ。カサカサいって煩いんだが?」

「フッ、それは無理な相談なのだと言わざるを得ないね……そう、なぜならばッ! 科学者はッ! 正体を隠してこそッ! 闇の世界で光り輝く者なのだからッ!!」

 

『闇の世界とか言っちゃったよ……』と会場の内なる声が一つになった瞬間である。

そして謎の科学者Mr.“J・S”を名乗る、目の部分に穴を空けたコンビニ袋を被り、ピッチリと身体に張り付くブーメランタイプの水着の上から白衣を羽織ると言うどこからどう見ても変態としか表現することのできない男の正体を知識とい言う形で知っていた一部の少年少女たちは、彼らの記憶の中にある人物の姿と、今目の前でダークネスに自分の行っている違法研究の素晴らしさを力説している変態の姿がどうしても重なってくれない現実に、挙って頭を抱えるしか出来ない。

“原作ブレイク”と言う言葉が彼らの脳裏に過ぎる。

この状況、ほぼ間違いなく彼の妹として誕生したルビーの影響なのだろう。

此処まで記憶との差異が大きくなってしまえば、未来がどんな形に描かれていくのか想像もつかない。

一方で、未来に思い悩む少年少女のことなど知ったことではない解説席では、Mr.“J・S”がようやくダークネスの誤解を解消できたらしく、胸を撫で下ろしていた。

と、そこでようやく話が脱線していたことを思いだしたらしく、ワザとらしい咳払いをしてから、今回のイベントのゲーム内容の説明を行う。

 

「ふぅ……いけないねえ、つい話が逸れてしまったよ。では改めて、競技内容を説明させて頂こうか!」

 

ビニール袋越しの微妙にくぐもった声でありながら、会場中に届くほどの大声を張り上げつつ、形相な手振りである物を抱え上げる。

それは『箱』であった。正方形の、くじ引きなどで良く見かける類の、段ボールを加工して作った感がひしひしと感じられる『箱』であった。

だが、“ゲーム”の関係者だけは、その『箱』が纏っている強大なチカラのオーラを感じとっていた。

参加者である彼らにしか感知できない未知なるチカラ……《神力》。それを理解すると同時に、納得した。やはりこのイベントも、神々が仕組んだ儀式の一環なのであると。

 

「横断幕に書かれている内容から察しはついている者もいるだろるが、あえて説明させてもらおうか! ここにある『箱』、同じものがもう一つここにあるのだが、この中には『指令』と『参加者番号』が書かれた紙がそれぞれ入れられている。司会者である神くんが『箱』から一枚の紙を引き抜き、それに書かれた人物が指令をクリアできればポイントが加算されているという仕組みになっているのだよ。無論、指令の内容には達成困難なものも含まれており、参加者にはリタイアする権利も与えられている。――が、一度リタイアすれば、その時点で失格となるから気を付けたまえ。そしてゲーム終了時点でリタイアしていない参加者の中から、最も支持を受けた一組のみが、商品を手に入れることができるそうだよ。――ああ、そう言えば“Ⅰ”君、君も本来なら参加資格があるはずだったのだが、公平さを欠くと言う理由で解説者に回されてしまったのだったね? 何か、思う所があるのではないかな?」

「いや、参加できるが?」

「――はい?」

「ルールに在っただろう? “参加資格を譲渡された関係者”なら代理で参加も可能だと。だから俺の代役としてあいつらに頼んだ」

 

ホレ、と彼が指差したほうに目を遣ると、そこには仲睦まじく手を繋いだ二人の少女、アリシアとシュテルが舞台の上に現れた所だった。

可愛らしい少女の登場に会場が湧いた――と思いきや、二人はまるで飼い主を見つけた子犬のようなスピードで真っ直ぐダークネスへと駆け寄っていくと、そのまま宙へとジャンプ、反射的に両手を広げたダークネスの腕の中へと飛び込んでいった。

魔法を一切使わずに危なげなく抱きとめると、頬を擦り付けてくる少女たちの頭を軽く小突く。危ない真似をしたお仕置きのようなもの……のつもりなのかもしれないが、傍から見れば悪戯を仕出かした愛玩動物を怒れないだだ甘な飼い主のようにしか見えない。もし彼女たちがもう少し成長しいたとすれば、周囲から向けられる視線の種類も変わっていた事だろう。

だが、実際は兄と妹ほどに年の離れた幼い少女たちを、微笑みながら(←ここ重要)抱き留めるその姿は、否応なしに父性を感じさせられてしまう。

会場の女性、特に十代以下の若い世代の少女たちが、ついついクール系細マッチョで頼りがいのあるダークネスに熱い視線を送ってしまうのも、仕方のない事なのかもしれない。

 

……一部の男性陣たちから蜃気楼の如き怒りと『しっと』のオーラが立ち上っているが、幸いと言うべきか解説席からは死角になっているようなのでそれは華麗にスルーされてしまうが、イベントの進行上、特に問題はないので神も彼らには一切触れなかった。

神の慈悲、という奴なのだろうとはコウタの弁。

それはともかく、アリシアたちに続いて舞台の上に現れたのはルビーの代役としてMr.“J・S”に同伴してきたディアーチェ、レヴィのコンビであった。

突然の再開を喜ぶマテリアルを横目に、参加者の紹介は続く。

アルク、花梨、葉月、コウタは本人の希望通り、自分自身で参加することにしたらしい。

心配そうな家族や友人たちに手を振りながら、舞台の上に上がる。

小さな参加者たちが現れるたびに、観客席からは盛大な拍手と歓声が巻き起こり、こういうことに慣れていない花梨たちは恥ずかしそうに身を縮こませてしまうというハプニングもあったが、他は滞りなく終え、遂にイベント開始と相成った。

 

《さあ、それではゲームスタートだァ! まずは最初の挑戦者は……こいつだっ!》

 

勢いよく『箱』に腕を突っ込んだ神が引き抜いた紙に書かれていたのは……“Ⅰ”の文字。

つまりこれは――

 

《挑戦者は“Ⅰ”ッ! だが、本人は参加できていないので、代役のアリシア&シュテルの出番という事だァ!》

「むむっ! いきなり私たちがトップバッターなんだよ! 頑張ろうね、シュテル!」

「はい」

 

天然金髪娘とクール系茶髪娘の掛け合いに会場がほんわかしている合間に、二人が挑戦するお題が書かれた紙が引き抜かれる。

 

《こっ、これはっ!? いきなり、ラッキーカードだァ――!!》

 

引き抜いた手には、金ぴかに光り輝くみょうちきりんなカード。

表面に文字らしいものも見当たらないこれこそが、一箱に一枚しか入れられていないアタリカードであった。

 

《ふっふっふっ……よく聞くがいい、皆の衆! このラッキーカードは我がお題、もしくは参加者を自由に選べるというスペッシャルなカードなのだぁあ~~っ! すさまじき恥辱にまみれた行為を強要することも、それを我の選んだ誰かに命じることも可能ということだぁああ~~っ!》

 

言葉の意味を理解した皆の顔色がまたたく間に変わっていく。進行役の神は、ピエロのメイクを程こした口元を盛大に歪めながら皆の様子を満足げに眺めつつ、我関せずのスタンスを貫いていた()を勢いよく指差す。

 

《では……”Ⅰ”の代役たる幼女たちよっ! 我は君らに”フレンチなきっちゅ”的なアクションを所望する!》

 

ど~~んっ!

 

「は?」

「ふぇ?」

「なんですって?」

『なっ、なにぃいいいいい!?』

「?? ねーねー、ダークちゃん。”フレンチなきっちゅ”ってなんなのかな?」

「いや、わからん……記憶の端に何かが引っ掛かるような気はしないでもないんだが。――フレンチトーストの類似品か? それとも、アレ見たいに激甘なキスをしろと言うのか?」

「微妙にあたっているようで間違ってますよ。ハァ……、いいですか? ようするにディープキスのことですよ。別名フレンチキス。私たちがいつもやってるあれです」

 

『いつもやってるの!?』

 

さらっと暴露された衝撃的な事実に、再び皆の思いが一つになるという平和への第一歩的瞬間が訪れる中、渦中の人である三人はいつも通りのマイペースを貫く。

 

「なんだ、それならそうと早く言え。……アリシア」

「は~い」

 

手招きされるまま、とてとてと足音が聞こえてくるくらいの足取りで席を立ったダークネスへと近づいていくアリシア。

ダークネスに対して疑いを微塵も抱いていないその態度、彼への信頼の深さを感じさせる。

ダークネスはアリシアと同じ目線になるよう身を屈めると、彼女の体を繊細なガラス細工に触れるかのようにそっと抱き締める。

アリシアは微塵も抵抗せずに、ダークの首へと手を回しつつ、ゆっくりと瞳を閉じていく。

そのまま、二人の距離はだんだんと近づいていき――

 

「「ん……」」

《やったぁあーーっ!? やりやがったぜあの男ぉおーーっ!? 衆人観衆の眼の前でっ! 微塵も、かけらも、これっぽッちも躊躇せずにぶちかましやがったあぁーーっ!? まるで足元を這いずる蟻を踏み潰すようにッ! HBの鉛筆をポキッとへし折る様にっ! ごく当たり前のようにとんでもねぇことをしでかしてくれやがったぜぇえーーっ! コイツぁヤベェ! この男っ……、並みじゃねぇ!? 全身から余すことなく漂わせる王者の如き風格っ! こ、この我がっ!? 畏怖してしまうほどにぃい~~っ!!》

「んっ、んんっ……、ちゅぷ……」

《しっ、しかもめっちゃ濃厚だぁああーーっ!? 唾液の混ざり合う音っ、舌が絡み合う音がここまでひびいてきやがるぜぇーーーーっ!! さっ、さすがは最強っ……、しょっぱなから決めてくれやがるぅうっ! そこにシビれる、憧れるぅ!!》

 

ほとんど絶叫と化した解説をBGMに濃厚なキスを続ける二人。

数分後、ようやく満足したのか、二人の唇がゆっくりと離れていく。

まるで彼らの想いを繋ぐ架け橋のように、きらきらと輝く唾液のアーチが描かれ……ぷつりと途切れる。

朱色に上気した頬をとろけさせたアリシアが、ダークの胸板に額をこすりつければ、微笑を浮かべつつ彼女の金糸を思わせるつややかな長髪を指で梳く。

実に絵となる光景に、非リア充の男衆は血涙を垂れ流しつつ怨嗟の声を上げ、女性たちは頬を赤らめながらうらやましそうに熱い視線を送り、リア充たちはそれぞれの相手の顔をちらちらと窺っている。どうやら、自分たちもやってみたくなったようだ。

いい感じに混沌と化しつつあるプールサイドの様子に、自称《神》は満足げな笑みを浮かべる。

 

《よしよし、掴みはばっちりだな。ならば次、いってみようか!》

 

再び『お題』と銘打たれた箱の中に手を差し入れ、引き抜いた紙の内容を読み上げる。

 

《お題は『(ゴッド)★ポッキーゲーム』!》

「あ、これは知っているぞ。ポッキーゲームとはチョコレートを塗した棒状の菓子の両端からかじり、ポッキーが折れるまで続けるというパーティゲームだ。おもに、カップルとかがやるんだったな」

「ふ~~ん、あ、でも、もし最後までポッキーが折れなかったりしちゃったら……?」

「もちろん、プレイヤー同士の唇がジョグレスすることになるでしょうね」

「どうしてアリシアちゃんたちは、あんなに余裕いっぱいなのかな!?」

「なのは……そんなの訊くまでも無いでしょうが」

《あ、ちなみに”★”とは、神のいたずらを指すんだぜ?》

「わかりやすっ!? つかまんまなの!?」

《そして、注目の挑戦者は……》

 

お題の危険性に叫ぶなのはを華麗にスルーした神サマは焦らすようなリアクションで観客をあおりながら、チャレンジャーと書かれた『箱』の中から各人の名前が記載された紙切れを引き抜く。

 

《まず一人目は”Ⅲ”……アルク・スクライア》

「俺っちか!? いやーまいったなー」

 

口ではそういいつつも、顔はだらしなく緩みきっている。

どうも、先のダークたちみたいなシチュエーションを自分もできると考えているらしい。

 

《うーむ、なんという下心丸見え。絵に描いたようなエロ小僧だな。んじゃま、二人目は……》

 

そう、このゲームを行うには二人の参加者が必要なのだ。

確率的に見ると、異性と当たる可能性は極めて“大”。

彼ならずとも、燃えてしまうのは仕方のない事だろう。

一方の神は二枚目に書かれていた名前を目にした瞬間、まるで何かを堪えるかのように言い淀む。

その表情を仰ぎ見ることはできないが、なにやら葛藤しているらしい。

静寂に支配されたプールサイドに、猛烈に嫌な予感と悪寒に襲われたアルクが唾を飲み込む音だけがむなしく響き渡る。

果たしてどれほど時間が経ったのか……神は意を決したかのように、その名前を呼ぶ。

 

《”Ⅸ”……八神コウタ》

 

その瞬間、プールサイドに声なき叫びが木霊した。

 

「……me?」

 

コウタの震える指先が、自分の顔を指す。そんな筈はない、聞き間違いであってくれ。

そんな切実な願いがありありと映し出された表情の少年に対して、無慈悲なる現実をわからせるために悲痛さすら漂わせる声で宣言する。

 

《You》

 

コウタは脱兎のごとく逃げ出した! しかし、大魔王(ダークさん)からは逃げられない! 

大魔王の側近(アリシア&シュテル)にまわり込まれてしまった!

 

「面白そうだ、ヤレ」

「絶対いやだ!」

「まあまあ、そうムキにならなくてもいいじゃないですか。たかがキスくらいで大げさな」

「キスするの確定しているみたいに言わないでくれます!?」

「(わくわく)」

「穢れを知らない純真無垢な瞳を向けるないで下さいませんですか、アリシアさん!?」

《やれやれ、往生際の悪い……しからば、(ゴッド)★ローック!》

「んなっ!? か、身体がうごかねぇ!?」

「なっ、ぐうっ!?」

《ふはははは! 神の決定は絶対ナリ! これはこの世の常識だぞ? さあ……レッツ・ゴゥ!》

「やっ、やめろをおおおおおお!?」

「ひぃいいいっ!? か、体が勝手に動くうっ!? だ、誰か助けてぇええええ!?」

 

悲痛な叫びが木霊する。だが残念! ここにいるのは指の隙間からしっかりと覗き見ている女性が数多く生息する危険地帯(デンジャーゾーン)

赤毛三つ編み少女が面白がった主の手で拘束されている今、彼らが運命をはねのける可能性は……皆無皆無皆無皆無皆無皆無ぅうううっ!!

 

《ちなみに”★”とは、神のいたずらを指すんだぜ?》

「なぜ二回言うか」

《いやぁ……なんてーの? ノリ?》

「どうでもいいわあっ!? あ、ちょ、マジやめてぇええええっ!?」

 

アルクのソウルシャフトが木霊する。

だが、運命はより強い思いを抱く者の前にこそ道を指し示すものなのだ。

大多数の女性陣たちが願い、一つになった想いは、天すら動かしてみせる。

そう、彼女たちは望んだのだ……薔薇的なシチュエーションをっ!!

恐怖に震える少年たちの唇がわずか十数センチしかないポッキー棒の両端を咥えると、本人たちの意思に関係なく、ぽりぽりとかじり進めていく。

せめてもの抵抗とばかりに首を振ってポッキーをへし折ろうと足掻くものの、『(ゴッド)★ロック』によって支配された二人の身体は本人の意思とは無関係に、繊細にかじり進めていく。

だんだんと近づいていく少年たちの唇、加速度的に高まり続ける会場のボルテージ、それに反比例するようにどんどん真っ青になっていく二人の顔色。

 

そして――運命の瞬間が訪れる。

 

ぶっちゅうぅぅぅっ!

 

「「ッァ――――!!?」」

 

 

 

~~ただいま、腐った女性が狂喜乱舞する光景が繰り広げられております。少々お待ちください~~

 

 

 

「ほぉ……人間とは、これほどまでに真っ白となるものだったのか」

「いわゆる燃え尽き症候群ってやつだね!」

「なるほど……言われてみれば確かに、燃え尽きてしまうくらい情熱的なキッスでしたからねぇ。さすがですアリシア、うまいこと言いますね」

 

塩の塊と化したアルクとコウタは崩れ落ちた態勢のまま微動だにできずに制止し続けていた。

二人を見下ろすダークネスたちの顔に浮かぶのは極上の愉悦。

インスタントカメラ片手ににやにやと黒い笑みを浮かべる様は、実にラスボスチックである。

人生初めての体験があまりにもアレな結果に終わってしまった少年たちに、花梨たちもフォローすることができない。

 

「……コウタ」

「……ゴメン、ヴィータ。今の僕に近付かないで……」

「そんな……!? 何でそんなこと言うんだよ!?」

「だって……っ! だって、今の僕は真っ黒に汚れてしまっているんだ! 僕はっ! 君を……君まで汚したくないんだ……」

「バカ野郎っ!」

 

パシィイン! 

 

コウタの頬をヴィータの平手が一閃する。

痛む頬を抑えながらゆるゆると振り返ったコウタの瞳に、涙を流す大切な少女の姿が映りこんだ。

 

「お前は汚くなんてねぇ! たとえそうだとしても、このアタシが許す! こんなくっだらねぇ事で、アタシがお前を見放すとでも思ってんのか!?」

「ちっ、ちがっ!?」

「じゃあなんだってんだよ!? アタシを信じられねーのか? お前の中のアタシはこんなことくらいでお前を見放しちまうような女なのかよ!」

「違う! ヴィータはそんな娘じゃない! 僕の中で君は……ものすごく強くて、かっこよくて、でもちょっぴり泣き虫な――とっても素敵な女の子だよ! だからっ! だから僕は……そんな君が好きになったんだ」

「だったらさぁ……自分をこき下ろすようなこと言ってんじゃねェよ。お前がアタシを想ってくれてるのと同じくらい、アタシも……その、お、お前が大好きなんだからなっ! あ、だ、だからって勘違いすんなよ!? アタシはただ自分で大切な奴って決めた相手が、自分で自分を貶したりしてんのが気にいらねーってだけなんだからな!? ホント、それだけなんだからなっ!?」

 

「ヴィータァ……そこでツンデるとはなぁ……、そこはグイグイ押すところやろ!?」

「ふふっ、あのヴィータちゃんが奥目も見せずにあれほどに発破してみせるとはな」

「恋は人を変えるっていうけれど、プログラムであるあの娘たちにだって変われる可能性はある筈なのよ? 初々しくていいわね~~♪」

「フ……、今夜は我が家で赤飯をごちそしてあげないとな。な、桃子」

「そうですね、あなた」

「「あっ……!?」」

 

いかなる者も侵入することが叶わぬ完全無欠の空間 愛・領域(ラヴ・テリトリー)を展開していたコウタとヴィータは、自分たちがどこにいるのかをようやく思い出したらしい。

ニヤニヤ笑顔を浮かべる高町一家を筆頭に、余りの甘さに胸やけがするとばかりにブラックコーヒーをがぶ飲みしまくる観客陣、八ミリビデオカメラを構えながらドS全快の笑みを浮かべたダークネス。そんな彼の上着の裾を指で引っ張りながら、ちょっとだけうらやましそうな表情を浮かべるアリシア&シュテル。

あらあらまあまあ、と満面の笑みを浮かべる奥様~ズ。明日までには海鳴市全体に広まっていることだろう(尾ひれ、背びれ、ついでにダーク印の激写写真も添えて)。

そうこうしている内に、次なる被害者の名が高らかに宣言される。

 

『では次――♪ ”Ⅲ”と――』

「なっ! またかよ!?」

『”Ⅸ”が――』

「え゛!?」

 

『オ・ト・ナのチッス(はぁと)。出来れば、舌を絡め合うような濃厚な奴を所望する♪』

「「――」」

 

 

「「どうして俺っち(僕)ばっかりこんなお題なんだぁああああっ!?」」

『きゃーーーーーーっ!!』

 

沸き立つ観客(主に女性中心)、腹を抱えて笑い転げる王様な少女、指定されたのが自分じゃなくてほっと肩を下ろす一部男性、意地の悪い笑みを浮かべながら、決定的瞬間を逃さぬよう高解像度デジタルカメラ(魔力強化によって防水対応済み)を構える”さいきょー”な一味。

傍らにいる少女たちが羞恥心から顔を手で覆いつつも、指の間にばっちりと隙間が開かれており、ガン見する準備は万端だ。

大きな期待と小さな同情が向けられた少年たちは、はっ、と我に返るやあらん限りに叫び声を上げる。

 

「誰がやるかぁあああああああ!」

『ええ~~っ!?』

「いや、どーしてそんなに不満そうなのさ!? 僕とアルクくんとのキスシーンなんて見たくないでしょ、フツー!?」

「察しろよ”Ⅸ”。こいつらはお前らの薔薇的で反道徳的な行為が、よだれが出るほど御所望なんだよ。ほれ、さっさとぶちゅぅ! とヤっちまえ」

「カメラまで構えて、記録する気満々じゃねェか! 子供の晴れ姿を記録しようと無駄にがんばる運動会の父親か!?」

「安心しろ。最高画質でお前たちの初体験を記録できた暁には、大々的に公開してやるから」

「いらんことしないでくれません!?」

「そう遠慮するな。謙虚さは日本人の美点だが、行き過ぎると反感を買ってしまうぞ?」

「そうですね、胸を張るといいですよ。明日から貴方たちはネットのアイドルとして生まれ変わるのですから! ――……ぷーすクスクス……!」

「せめてその、にやけ顔を隠してから言えや!? 悪ふざけ考えてますって、ありありじゃねぇか、このドSコンビ!」

「ええい、やかましい。後が閊えているんだ、さっさとヤレ」

「ちょっ、どうして俺たちの頭をわし掴みにする必要が――!?」

 

 

~再び、腐った女性が狂喜乱舞する光景が繰り広げられております。もうしばらくお待ちください~

 

 

 

次の瞬間、この日一番の大歓声がプールサイドに響き渡ることとなる。

そしてこの日、二人の少年の心の日記(ダイアリー)にある一文が刻まれることとなった。

 

――ファーストキッスとセカンドキッスの味はとろけるように甘く、その感触はどこかごつごつした男特有のものでした――と。

 

 

 

『さあさあ、ノってまいりました! 続きまして、第四のゲーム!』

 

ファーストキッスとセカンドキッスという男の子の淡い夢を完膚なきまでに粉砕してくださりやがりました元凶は、悪びれる様子も無く抽選箱の中に腕を突っ込む。

ていやっ! と間抜けな声を上げながら引き抜いた紙に書かれていたのは――!

 

『”Ⅶ”が――』

「あら」

『”Ⅵ”に――』

「え゛!?」

 

『お嫁にいけないようなことをする(エロ的な意味で)』

 

「あらあらまあまあまあ! うふふふふふふふふふ!!」

「ひぃいいいいいっ!? だ、誰か助け――!?」

 

最後までいう事も叶わず、哀れなる少女は一見すると唯の布にしか見えない拘束魔法【マグダラ】によって捕縛され、舞台裏へと連れ込まれていった。

流れるほど華麗なこの動きに、流石のダークネスですら花梨の未来を憂い、無言で合掌していたと言う。

 

 

……十分後。

気絶した花梨を抱えながら、満面の笑みを浮かべた葉月が姿を現した。

花梨は水着から覗く肌の至る所に虫に吸われたかの様な赤いマークが見え隠れしていたが、事情を察した大人たちの優しさによりそれを指摘されることは終ぞ無かった。

ただ、しいて言えば……葉月がやたらとつやつやしていたとだけ述べておくとしよう。

 

《えー……、コホン。続きまして第五のゲームといきたいところなんだが……“Ⅵ”? 大丈夫かー?》

「……」

《あー、魂抜けかけとるなー……。しょうがない、次でラストにするとしようか。》

 

舞台の端で体育座りをしながら口から白い靄を吐き出している花梨からワザとらしく視線を逸らすと、そのまま参加者と銘打たれた『箱』からカードを引き抜く。

 

《む? おおう、これは、なんというか……最後の最後で“Ⅱ”がきたぞ》

「ふむ? “Ⅱ”という事は我が妹のこと……つまり、ディアーチェ君とレヴィ君という訳だね」

「だろうな。しかし、こううまく全員に出番が回ってくるとはな」

《ふむふむ、ではお題といこうか。二人のチャレンジしてもらうお題はぁ~~、これだあっ!》

 

テンションを維持したまま天高々と掲げられたカードに書かれていたお題とは……!?

 

《水着姿でハグ……なんだ詰まらん》

 

心底つまらなさそうに参加予定者たちの方を見る《神》。

スカート付の黒いビキニを着たディアーチェはともかく、頭部以外を統べて覆う全身使用のフルボディ水着姿のレヴィからは色気とか可愛らしさとかそんなもの微塵も感じられない。

ついでに言えばそんな二人の年齢はどう見積もっても小学生高学年レベル。

このあたりの年ごろの子供ならば、同性同士で抱き合うくらい恥ずかしくも何でも無いだろう。

せめてもう少し年上ならば、周囲の目線を気にしたりして恥ずかしがると言う見てい楽しいリアクションが期待できたというのに!

 

「――という事を考えていそうな顔だな、アレは」

「なるほど」

《心を読まれた……だとっ!? 態々ピエロメイクまで仕込んできたと言うのにっ!?》

「ソレ、ワザとやっていたのかい!?」

「そもそも、参加者限定の時点で、そう言う色気系のハプニングが起こるはずはないと気づかなかったのか? 俺とルビーを除けば、他の連中は全員ガキだぞ?」

《――――っ!!?》

「メイクの奥で、思いもよらなかったとでも言いたげな表情しているような気がする」

「奇遇だね、私もだよ……おや? 何やら参加者の方で動きがあったようだよ?」

「あれは……? 着替えを促しているのか?」

「おやおや、シュテル君にアリシア君にひっぱられて舞台裏に引っ込んでしまったよ。お色直しと言う奴になるのかな? まあ、知らない間柄という訳でもないし、せめてもう少し可愛らしい」水着をという事なのだろうね。――ちなみに“Ⅰ”君、彼女たちの水着のチョイスは君が?」

「ん? いいや、俺のも含めて此処で借りたレンタルだ。生憎とそういう分野のセンスまでは持ち合わせていなかったんでな。まあ、あの二人なら何を着ても似合うだろうし、問題はないが」

「さらりと惚気てくれたものだね? ――っと、どうやら着替えが終わったようだ」

「俺としては、舞台の上に残されたもう片方の動揺っぷりの方が気になるところなんだが――っ、は?」

「ふむ、確かに私も――っ、え?」

 

――ザワッ!?

 

解説席にいる犯罪者コンビの平和な会話で弛んでいた会場の空気が、彼の存在の登場によって一瞬で張り詰める。

それはまさに、水を打ったとしか表現のしようがない無音の世界。誰もが息を呑み、言葉を無くし、目の前の現実を理解できなくて思考を停止させてしまう。

それは観客だけに留まらない。解説席にいる二人も、舞台の端に控えていた花梨たちも、それが何を意味することなのか、すぐ傍で見ていたであろうアリシアですらも、盛大に頬が引き攣ってしまっている。だが、それは仕方のない事なのだ。

人間と言う生物は、己の理解を超えた現実を目の当たりにしてしまうと、思考を停止させてしまうものなのだから。

 

「あっれー? 皆かたまっちゃって、どうしたんだろー? ねえねえ、シュテルん、どういうコト?」

「ああ、気にしなくても大丈夫ですよレヴィ。ただ皆さんはこのセカイに存在する本当の事を知らなかったという事だけなのですから」

 

ものすごく楽しそうに微笑を浮かべながら、シュテルはそんな事をのたまう。

ふーん、とアッサリと納得したらしいレヴィは、何故か自分を指差しながら口をパクパクさせつつ、耳まで真っ赤なゆで蛸状態なディアーチェへと近づいていく。

青いツインテールがふわりと舞い、先ほどまでは水着に隠されていた引き締まった二の腕や胸板が太陽の光に照らされて健康的な美を感じさせる。

固まったままなディアーチェのすぐ目の前まで歩み寄ったレヴィは、声なき悲鳴を上げ続けている彼女を不思議そうに眺めつつ、布面積が小さいせいか寄れてしまったマイクロビキニを治していた瞬間、再起動を果たしたディアーチェ渾身の邪心必衰の聖王神剣(ハリセン)が炸裂する。

 

「な、ななな、なんという格好をしておるのかこの大ばか者ぉおおおおっ!?」

 

スッパァア~~ン!!

 

妙に軽い音だったような気がしたが、ソコは突っ込んであげてはいけない処なので華麗に流したディアーチェ嬢は、どこからともなく取り出した最終ツッコミ兵器を肩で担ぎながら荒い呼吸を繰り返す。

 

「ぜぇ~、ぜぇ~……! レヴィ、貴様! その恰好は何だ、その恰好は!?」

「うう~~……ヒドイよ王様~~。どうしてそこまで怒るのさ? 普通の水着に着替えただけじゃん!?」

「それの何処が普通か言ってみんかい!? 布部分がほとんど無いだいろうが!? あ、いや、それもそうなのだが、お前、その……!?」

「ふぇ?」

「どうして上を着ておらんのだ!?」

 

そう、彼女がここまで動揺していたそもそもの原因……それ即ち、レヴィが水着の上を装着していない事に他ならない!

そうなのだ! レヴィは『Tバック? いいえTフロントです』的なお尻丸見えマイクロビキニの下を履いてこそいるものの上半身には何も着ていなかったのだ。

流石にそれはまずいと静止しようとしたアリシアを羽交い絞めにしたシュテルに進められるまま、このような恰好になったレヴィに羞恥心のようなものは欠片も見受けられない。

至って平然としたまま、まるでこの姿こそが自分のあるべき姿なのだと言わんばかりに堂々としている。その態度に見ている観客の方が恥ずかしくなってしまう始末。

誰もがツッコミを入れたいものの、レヴィを納得させられそうな言葉が思いつかず、皆は口を紡ぎ、視線を逸らすことしか出来ない。

本人も、どうして怒られているのか理解していない様子で、ディアーチェの説教の意味が全く分からないとでも言いたげに首を傾げてしまっている。

何とも混沌と化した展開を打破したのは、やはりと言うかこの男であった。

「見ちゃダメ!」と憤慨するアリシアに背中から抱き着かれるように目隠しをされていたダークネスは、彼女の小さい掌の隙間から覗くレヴィの姿を見て、少しだけ不思議そうな顔をした後、傍に近づいてきたシュテルへと気になったことを訊いてみることにした。

 

「なあ、アイツって……()なのか?」

『……へ?』

「おや、流石ですね、お気づきになられましたかダーク様」

「ああ、まあ、な。骨格とか筋肉のつき方とか、男特有の物みたいだし。それなら、上半身裸であそこまで堂々としていられる説明にもなるだろう?」

「お見事です。ご推察、痛み入ります。ダーク様のおっしゃられます通り、あの子の性別は♂です。男です。Manなのです。――もっとも、それを知っていたのは、どうやら私だけだったようですが」

 

シュテルの声が聴こえたのだろう、ディアーチェがレヴィを指差した体勢のまま完全に硬直してしまっている。

会場の空気も、レヴィにどう接すればいいのかわからなくてものすごく気まずい物へとシフトしつつある。

そんな中、いち早く再起動を果たした神がこほん、と咳払いをして、

 

《――それでは、情熱的なハグにレッツ・チャレンジ♪》

 

そう言ってのけた。途端、湧き上がる歓声の嵐。

女の子のような男の子……即ちリアル『男の娘』であったレヴィと、彼女……否、()と身近にいながらその真実に気づくことの無かったディアーチェのハグ・シーンをお目に掛かれるとあって、会場のボルテージが瞬く間に膨れ上がる。

 

「え、あの、わ、我はそんな安い女では……ていうか、え? レヴィが男? は、あははは……」

「王様? お・う・さ・ま~? ん~……とりゃ」

「ひゃうっ!?」

『おおおおお~~っ!』

 

相変わらず放心状態だったディアーチェに無造作に近づいたレヴィが、躊躇なくほぼ同じ背丈の彼女に抱き着いた。

もしこれが普段の洋服を着ている状態であったのならば、まだ救いはあったかもしれない。しかし水着と言う、極めて生まれたままの姿に近い恰好な上、今の彼はほとんど全裸と称するべき露出度の高さ。つまり、むき出しの肌の感触とか、すぐ耳元でささやくように聞こえる吐息の暖かさとか、自分の水着越しに感じるレヴィの鼓動とか、下腹部辺りに感じるささやかなれど女性には決してあるはずの無い確かな感触とか……とにかく、いろいろと艶めかしい感触のオンパレードが怒濤の如き勢いでディアーチェの脳内を駆け巡っていた。

混乱している無防備な状態で、更にこの仕打ち。人間ではないとはいえ、普通の少女と似通った精神構造しか持ち得ていない彼女に耐えられるはずも無く……ディアーチェは頭頂部から激しい湯気を吹き上げながら意識を手放したのだった。

 

 

――結局のところ、レヴィの性別バレこそが一番インパクトがあって面白かったと言う理由で、因子(ジーン)は彼女たちを代役に立てたルビーへと進呈されることとなった。

このあまりにもご無体すぎる判定に最も憤りをあらわにしたのは、同性とちゅっちゅさせられる羽目になった某少年二人であったのは言うまでも無い。

 

更に余談になるが、彼らの濃厚なポッキーゲーム&ディープなキッスの激写ショットが、某真っ黒モードと化した神サマとその従者の手で街中にばら撒かれ、主に年上の女性たちから生暖か~い視線を頂くことになったのだが、これは“ゲーム”の進行上何ら関係が無いので割愛する。

 

更に更に余談となるが、これからしばらくした後、某おこじょな少年が人の記憶を消し去ることのできるロストロギアを探してトレジャーハンターへの道を目指すことになるのも、完全なる小話である。

 




”紫天の書”一派の情報がようやく出揃いました。
シュテルちゃん  :ドS系むっつりさん
ユーリちゃん   :狂化したヤンデレ
ディアーチェちゃん:いじられっ娘
レヴィくん    :露出狂な男の娘

さすがにレヴィくんの性別までは皆さん気づかなかったでしょう。
初登場以来、常にディアーチェと行動を共にさせていたり、呼称を『彼女たち』、『雷刃』、『レヴィ』としか呼ばず、レヴィ自身を”彼女”と呼称してこなかったのはこのためだったのです。
――……わかりにくっ!?

さて、これから”Ⅱ”陣営の数少ない男性陣として、謎のドクター Mr.”J・S”さんと友愛を築いてもらいたいところです。

邪心必衰の聖王神剣(ハリセン)
使用者:ディアーチェ
”紫天の書”の奥底に記録されていた、最終ツッコみ用究極ボケ殺しという忌み名を持つ、空前絶後の大魔法である――……ワケはない。もちろん嘘である。
いろいろと暴走しがちな愉快なスカリエッティ一味のブレーキ役として板についてきた彼女の、もう一つの相棒と呼べるデバイス。突っ込みのためだけに、”紫天の書”に記録されていた過去の叡智とスカリエッティ兄妹が有する最先端のテクノロジーを融合させて誕生させた、何気に世界最高ランクの技術の結晶。……でも、使用目的はツッコミ限定という、何とも微妙なデバイスである。
これでドタマを引っぱたくと、実にいい音が鳴るという。
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