魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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何とか連休中に1話分仕上げることが出来ました。
予告通り、今回から地球出張編。
色々と詰め込みすぎた気がしないでもありませんが、まだ前編程度です。


出張任務

木立に囲まれた深緑の影に背を預けながら、花梨と切名が向かい合っていた。

そこは機動六課敷地内にある訓練場の一角、普段は人影の入らない小さな森の中だった。

 

「――以上が、俺がここにいる目的、及び、儀式に関する情報になるな」

「なるほどね……ありがとう“ⅩⅠ”(イレブンス)……いえ、切名君。でも、やっぱりと言うか神サマも一筋縄じゃいかない様ね」

「組織にしろ何にしろ、数が集まった集団は、基本一枚岩ですまねぇのが普通だろ。むしろ、儀式そのものが連中の覇権争いの一環なのかもしれないな」

「手駒になる《新米の神》を造り出して、戦力の増強を図るってこと? なんていうか、すっごく人間臭い話よね」

「神なんてモンは、起源を遡ると語り告げられる神話や伝承、災いとされてきた超常の自然現象に対する人間の意志っつうか、思い込みによってカタチを成した存在って言われてるしな。《神》のカタチを造り出したのは、人間の原種の感情だと言っても過言じゃねぇ。なら、人間と似たような思考を持ってても不思議じゃないだろ?」

「《神》が自らを模して『人間』を造り出したのか、それとも『人間』の想いが《神》という偶像に実態を与えてしまったのか……まったく、どちらにせよままならないものね。特に、神々のお遊びに巻き込まれている立場としては」

「そう言うなよ。こうして人生を楽しめているのも、あちらさんのお蔭でもあるんだからよ。……んで? そろそろ返事を聞かせて貰おうか? 俺と協力関係を結ぶか否かを」

「……同盟の件、謹んで受けさせてもらうわ。もとより、戦う力で劣る私たちの強みは仲間との絆。貴方が儀式の破壊を目論むと言うのなら、それは私たちの行動指針と合致するしね」

「オーライ。んじゃあ、これからヨロシクな“Ⅶ”」

「こちらこそ……。歓迎するわ“ⅩⅠ”」

 

木々の切れ間から注ぎ込む太陽の光の下で、反“神造遊戯(ゲーム)”を掲げる者同士が、同盟の証となる握手を交わした。

 

 

 

 

機動六課の業務は、ロストロギアの回収任務がメインである。

しかし、ただ出撃して目標を回収、撤退で終わりと言う訳にはいかない。

出撃任務は勿論、訓練においても細かな業務報告書の作成・提出は通常業務として組み込まれているのだ。

花梨との出会い、隊長陣の復帰というイベントから早数週間、フォワードメンバーは新たな任務について説明を受けていた。

 

『出張任務?』

 

業務作業を行う隊長、部隊員共通の執務室で、フォワードメンバーの声が重なった。

首を傾げる部下たちの視線を受けながら、部隊長より任務の説明を任されたフェイトが微笑みを浮かべながら口を開く。

 

「そう。なのはやはやての出身世界で、私たちが小さい頃一緒に過ごしていた第九十七管理外世界……『地球』。そこでロストロギアが発見されたって連絡が聖王教会からあったんだ。教会は、先日の“Ⅰ”襲撃の影響もあって戦力を派遣できそうにないから、代わりに私たち機動六課へ出動要請が出たんだよ」

「ロストロギア……危険度はどれくらいの物なのですか?」

「そんなに警戒する程の物じゃあ無いみたいだよ。危険度も低いから、半分休暇みたいなものだと思ってくれていいよ」

「休暇ですか?」

「おっ、マジっすか!? ひゃっほーう!」

 

休暇と言う単語にピンとこないスバルと、テンションがうなぎ登りなカエデの真逆の反応に、別の意味で困った顔を浮かべるフェイト。

休みを大喜びするカエデもどうかと思うが、休みなしで仕事にのめり込むのが普通と思っているらしいスバルの反応も如何なものか。

とは言え、六課設立前までは自分やなのは、はやて辺りは、ほぼ連日無休状態を続けてしまった経験がるので、笑えないのだが。

 

――あの時の花梨、怖かったなぁ……。

 

うら若き女性が、目の下に隈をこさえてデスクに齧り付く様は筆舌しがたい光景だったらしく、部隊設立直前という事を考慮しても、休みを削って明らかな過剰業務を続けていた彼女らに、とうとうスポンサー衆(レジアス、リンディ、カリム)の雷が落ちた。

結果、最終超絶オカン属性持ち“姉”型決戦兵器『高町 花梨』が投入され、力尽くで気絶(ちんあつ)させられた三人は溜まり溜まった疲労もあって三日三晩爆睡。

四日後に目覚めるなり、花梨&援軍として呼ばれた葉月によるお説教(下手な反論は、葉月による理論詰めによって撃退されるスーパーお仕置きタイム)が発動。

最終的に、自己管理もできない輩に部隊を纏められる訳が無いだろう、ヴァカメ! 的な状況に陥り、定期的な休暇を取ることを約束させられるまで攻められつづけたと言うトラウマがあったりする。

 

そんな訳で、はやてを含む六課の隊長陣は適度な休暇とリフレッシュをスケジュールに組み込んでいたのだが、新人隊員にとっての休みは自己鍛錬に当てる自由時間として受け取っていたらしく、普通の休暇を取ることは一度も無かったようなのだ。

 

もし、このまま新人たちをワーカーホリックにしてしまったとしたら……あの地獄が再来することは間違いない。

実際、この任務を回したカリムの計らいとして、新人たちをリフレッシュさせてあげなさいというのが含まれているのだ。

彼女のご厚意を無下にも出来ず、こうして前線部隊全員で地球へ出張するという流れになったのだった。

 

「ま、そんな訳で三日後に出発することになったから、必要な物を用意しておいてね。それと、向こうじゃあ制服はNGだから私服で行動することになるから。……何か質問はあるかな?」

「はい! バナナはおやつに入るんですか!?」

「何で態々バナナ(それ)をチョイスした!?」

「フェイト隊長に、皮を剥いたバナナの筋を舐めるようにしゃぶって欲しかったからです! ――はっ!? そ、それなら、リイン曹長に『お、おっきいですぅ~』って言って貰う方がいいかもしレバーぶろぉおおおおおおおッ!?」

 

スバルの拳がカエデのミゾに叩き込まれた。

もし彼女が男であれば、世界を狙える素晴らしい一撃であった。

背中を反らしながら必死に酸素を取り込んでいる大バカ(カエデ)を冷たい目で見ながら、ツッコミを入れなかった仲間へと視線を向ける。

するとそこには、

 

「……セナ?」

「な、なんでせう?」

「どうして前屈みになっているの? どうしてフェイトさんから視線を逸らしているの? ぜひ、詳しく聞かせて欲しいんですけれど?」

 

聖母を思わせる微笑みを浮かべながら阿修羅の如き威圧感を放つことが出来るのは、流石は恋を知る乙女と言ったところか。

突然の修羅場の余波に巻き込まれ、恐怖で震えるエリオが不憫で仕方がない。

 

「えっと、他には無いかな~? ……無いみたいだね? それじゃあ、そういう事だからちゃんと準備しておいてね」

 

最後の希望(フェイト)は天然さん故の鈍感さで気づかなかったようで、微笑みを浮かべながら執務室から出て行ってしまう。

こうして、非戦闘員の方々からの『何とかしてくれ!』 という懇願を一身に背負った騎士(エリオ)は、無謀なる戦い(ちゅうさい)へと身を投じる事になるのだった。

 

 

 

 

そして、三日後。

転送ポートで『地球』へと転移した機動六課出張部隊。

参加者は、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムの隊長陣。

切名、ティアナ、スバル、エリオ、カエデのフォワードメンバー。

部隊長のはやてと護衛でもあるザフィーラ、保険医のシャマル。

さらに、里帰りに同伴という理由で参加した花梨と宗助に加えて、宗助の友人繋がりのリヒトとルーテシアも加わっている。

そして、なんとか休暇をもぎ取れた地上部隊所属に所属している――

 

「あっ、あの! 八神 コウタ講師……じゃなくて! 八神一等陸尉とお見受けします!」

「え? ああ、うん。そうだけど?」

「「さっ、サインを頂戴できますでしょうかっ!?」」

「あっ、ちょ、ズルいぜお前ら! スンマセン、俺にも一筆!」

 

自己紹介を交わした直後、スバル、ティアナ、カエデの三人が、コウタ目掛けて突貫(色紙片手に)。

アイドルの追っかけと化した三人の様子に目をパチクリさせるエリオへ説明したのは、すでにサイン色紙をキープしていた切名だった。

 

「地上本部のエース部隊所属 八神 コウタ。クラナガンの治安を守る陸のエースの一角と称される実力者にして、『地上の絶対守護者』と呼ばれる英雄さ。ミッドに住む人々にとって、次元の海で犯罪者を捕える“剣”よりも、自分たちを守ってくれる“盾”の方がなじみ深いし、人気も高いんだ。それに、あの人は俺たちが卒業した陸士訓練校でも教鞭をとられたことがある憧れの存在なんだ」

 

優秀な魔導師と呼ばれる者がいたとして。

事件を起こした犯罪者を捕えた者と、被害者側の住民たちを守ってくれる者のどちらが良いかと聞かれれば、多くの人々は後者を支持することだろう。

確かに、時空管理局の指針である次元世界の安定と平和の維持という持論は崇高で、広域的に見れば称賛されるべきものだ。

しかし、自らの発祥の地であるミッドの治安を守る陸よりも違う世界に対する干渉を優先する海への権力肥大化は、この世界で生きる人々にとって必ずしも良い感情を抱かれるものではない。

実際彼らの平和を守っているのは、次元世界にその名を轟かせる海のエースではなく地上本部に所属する陸戦魔導師たちなのだから。

ミッドで暮らす人々にとって、なのはを筆頭とするエースたちはテレビの中の住人、アイドルのようなもの。

普通の生活を送る中では、まず本人とである事はない雲の上の存在なのだ。

対して、地上に所属しながら数々の事件を解決に導き、しかも被害者である力無き彼らを守る盾として活躍するコウタたちはとても身近な存在であるが故に、感謝や尊敬という想いを抱かれやすい。

テレビのドキュメンタリーで放送されるような世界的犯罪組織を壊滅させる外国の特殊部隊よりも、街の平和を守ってくれる派出所の警察官の方が尊敬されやすいのと同じ持論だと言える。

そんな訳で、どちらかと言えば憧れの色が強いなのはと同クラスの評価を受けている陸の時期ナンバーワンエースこそ、八神 コウタと言う人物なのだ。

地上の平和を守る陸戦魔導師を目指す者にとって、コウタは憧れの先輩であり目標。

スバルたちの態度も、仕方のないことだと言える。

訓練場の講師もいう繋がりもあって親しみやすいということも、コウタの人気を高める要因になっている。

 

そんなこんなで騒がしくも心温まる交遊を交わした後、コウタも加えた一行が地球への出張を担当するメンバーとなる。

 

残念な事に、リインはメンテナンスの日程が重なってしまったため、不在。

葉月は無限図書館の仕事が忙しく、泣く泣く辞退する羽目に(ついでに、久しぶりに恋人との逢瀬を期待していた某室長も、仕事多忙につき不参加となった)。

さらに、ちっちゃなお姉ちゃんのためにも気合を入れてお土産を用意しなければと、ガッツポーズをとるリヒトにクラリとしてしまった男性陣がそれぞれの制裁を受けると言うハプニングこそあったものの、そのほかには特に問題も無く地球側の転送ポートがある月村家別荘へと転移するのだった。

 

ちなみに制裁と言うのは、

 

ザフィーラ → 想い人参加不可のやつあたりを兼ねてシャマルにからかわれる。

切名 → ティアナに足の甲を踏み抜かれる(ブーツの踵で)。

カエデ → 保護者一同(はやて&シグナム)による『拳から始まるお説教術』を頂く羽目に。

エリオ → フェイトに微笑ましそうな顔をされて、精神に大ダメージ。

コウタ → ヴィータ渾身の『崩玉脚』によってK.O。

宗助 → 何故か不機嫌になったルーテシアの必殺技『でっかい(ちゅー)プレス』(別名:地雷王あたっく)の餌食に。

 

で、あったそうな。

 

「ほんなら出発しよか!」

『はい!』

 

リヒトと手を繋ぎながら、反対の手に小さな三角形の旗を持つ部隊長の姿にツッコミを入れる者は皆無。

『何処のバスガイドだよ!』 とか『幼稚園の先生かい!?』 的なツッコミを期待していたはやては、ちょっぴりご不満顔。

しかし、久しぶりに書類作業から解放されたおかげでSAN値が最高値を維持している彼女に死角はない。

わずか数秒で元のテンションへと巻き戻ると、足早に転送ポートの中へと入っていく。

半ばプライベートモードへと移行したはやての先導で、順番に転送ポートへと足を踏み入れる。

全員が入ったところで魔力光の光が周囲を包み込んで、別世界へと通じる回廊を形成する。

一瞬、足元が消失したかのような浮遊感に晒された次の瞬間には、ありのままの自然の香り……木々や水といった、はやてたちにとっては懐かしい臭いが鼻孔を擽った。

転送ポートが初体験だったフォワードメンバーや宗助は慣れない感覚に若干酔ってしまったらしく、顔色が悪い。

だが、自身も召喚魔導師であるが故に転移魔法を得意とするルーテシアは至って平然としていた。

だが、転移先の施設がいろいろと物珍しいようで、木目の美しい板目張りのコテージの壁に触りながらいろいろと物色中。

一方で、以前にもここに来たことのあるはやてたちは荷物を抱え直すと、勝手知ったるとばかりに出入り口へ向かっていく。

ミッド出身者たちが慌てて後を追い掛けようとして……開かれたドアの向こうに広がる風景に圧倒されたように言葉を無くした。

 

「ど~や? ここが私らの故郷である地球の姿や」

 

転送ポートがあったのは、拓けた森の中に建てられている小屋の中だったようだ。

一歩足を踏みだしてみれば、眼前に広がる美しい風景。

青々と生い茂る深緑なる木立。小鳥のさえずりが軽やかなメロディーとなって、何とも言えぬ心地良さを感じさせる。

木々の隙間から覗くのは、キラキラと輝く煌めき。それは、青く澄んだ湖の水面へと降り注ぎ、反射している太陽の光。

視線を動かせば、決して小さくは無いコテージの姿が見える。

どうやらここは高級リゾート地、或いは金持ちご禁制の避暑地であるらしい。

根が庶民なフォワード&ちみっこトリオは呆けたように口を開きながら溜息を零す。

 

「うわぁ……! すっごーい!」

「ここが、なのはさんたちの故郷……。うん、なんて言うか……えと……」

「思ってたのと違う、ってか?」

 

素直に驚きの声を上げるスバルの横で、何やら素人ゆえに手堅く一番人気の馬券を買ってみたものの、ものの見事に外れてしまって放心状態な女子大生の如き表情を浮かべていたティアナにからかい混じりでそう言うのは切名だった。

的を得ていたらしく、羞恥で頬を朱に染めながら、ぷいっとそっぽを向く。

 

「し、しょうがないでしょ! 管理外世界っていったら、普通は文明が未発達の辺境世界だって思うでしょうが! ――あっ!? す、すすすみません、別に部隊長たちの故郷をどうこう言う訳ではなくてですね!?」

「おうおう、見事に自爆しとんなぁ~ティアナ」

「にゃはは……」

「あっはっは~♪ 良いわね~、こういうノリ」

 

はやて、なのは、花梨の地球出身者から微笑ましそうなものを見るような顔をされて、ティアナの顔面温度が更に上昇していく。

羞恥を誤魔化すように、ティアナの踵が切名の脛へと叩き込まれる一方で、ミッド出身、且、自然の多い辺境へと足を運んだことが無かった純粋培養の都会っ子なエリオが、目を光らせながら周囲を見回し続けている。

その様子をカメラに収めていくのは、自ら記録係に名乗りを上げたカエデだった。

【ドラグノーツ】に搭載されているカメラ機能を試しつつ、相棒となるデバイスとの交友を深めるためにと、本人から言い出したからだ。

実際、【ドラグノーツ】は初任務の最中に屈辱的な名前を付けられそうになったことをいまだに根に持っているらしく、事あるごとに変態言動をブチかますカエデを更生させねば自分も『変態の一部』であると思われてしまうのではないか!? と戦慄を覚えたらしい。

お先真っ暗な未来を変えるべく、デバイスと使い手の交友を深めて彼の変態性を少しでも改善せねばと判断。

こうして、カメラ替わりという最新デバイスとしてそれはどうなの? と思われるような役目も積極的に受け入れるほどに、【ドラグノーツ】は切羽詰まっているのだった。

全ては、カエデの性格改善のきっかけを作るために!

 

「んん~! 良いよ、良いよ、エリオっち、その笑顔良い感じだよ!」

【相棒、やけに熱心じゃないか?】

「そりゃおめぇ、当然だろ。こんな風に、皆で休暇をエンジョイできる機会なんて、早々ないだろうし? 大事な思い出の一ページとして、ちゃーんと記憶しておかないとナ!」

【ふむ、主要な考えだな。……だが、健全だ。うむ。健全なのは良い事だ】

 

――ま、今撮影してる分は、地上本部の女性局員へ流すシークレットショットなんだけどナ!

 

見た目以上に幼く見えるエリオ(私服)の姿は、年上のお姉さま方の母性を擽りまくる事だろう。

実際、管理局のきれいどころが集まったアイドル部隊として、部隊員の写真や画像が高値で流通しているとまことしやかに囁かれているのだから。

その辺りについては海・陸両サイドの上層部も把握してはいるものの、売り上げの何割かが管理局へと還元されているようで、目下黙認中との噂だ。

さらにさらに、隠し撮り写真を大量に取り扱っている非合法の裏サイト“IZAYO-I”の正体が、実は地上本部の最高責任者&信頼できる部下~ズによって経営されているらしいが……。

真相は、全て闇の中である。

経営者たちが莫大な収益を手にれたことに感極まって、お互いの鍛え上げし筋肉を煽動させながらマッスルポージング大会を開催していた所、再度身内(娘とか嫁とか部下の紅一点とか)によって豚のような悲鳴を上げていた……なんてことは無いのである。

翌日、全身包帯塗れでありながら、ひーこら言いつつ書類作業をやり遂げた某中将や某エース、某部隊長の名誉のためにも。

 

 

閑話休題

 

 

地球に到着してからしばらくして、現在はやてたち六課メンバーは二班に分かれて別行動をとっていた。

それは、本来の目的であるロストロギアの反応が確認されたために探索を始めた……ハズだったのだが。

 

「う~ん、やっぱりそう簡単には見つからんか~」

「ちょっとはやて。指揮官がそんなんで良いワケ? もっとシャキッとしなさいシャキッと」

「堪忍や~~アリサちゃん~~」

 

転送ポートがある敷地の所有者である現地協力者であるアリサ・バニングスに頭をはたかれて、コテージ裏のテーブルに突っ伏したはやてがくぐもった声を漏らす。周りには、守護騎士たち……シグナム、シャマル、ザフィーラの姿もあった。

彼女らが何をしているかというと、名目上は指揮官として指示を出すために拠点であるこの場所に残っているはやてと彼女の護衛である騎士たちがスタンバイしている……のだが、

 

「ほら、暇なんだったらぐだってないで準備手伝いなさいよ。すずかたちが買い出しから戻ってくる前に、用意を済ませときたいんだから」

「ほ~い」

 

実際、ロストロギアの反応は微塵も感知できず、ここに居ないなのはたちからも進展はえられなかったと報告を受けている。

仕方がないので、今日のところは探索を打ち切り、夕飯の買い出しをしてくるとも連絡を受けた。

長い間地球を離れていたなのはたちが迷子にならないようにと現地協力者のもう一人である月村 すずかを同伴に、買い出しの真っただ中。

ロストロギア自体の危険度が低い&もし街中で発動したとしても即座に急行・封印が可能な戦力が集まっている事もあって、部隊長からたれタヌキ――もとい、『たれはやて』へとジョブチェンジする流れになってしまった、らしい。

久しぶりの休暇をエンジョイするつもり満載なはやてだったが、そうは問屋が下ろさない。

 

「い・い・か・ら! アンタも働けぇええええっ!」

「ぐええええっ!?」

 

テーブルにしがみ付くはやての首根っこを掴むと、片手で持ち上げてみせるアマゾネス――アリサ嬢。

魔力素養が皆無な彼女の細腕で、小柄とはいえ成人女性を軽々と持ち上げてみせるアリサに、シグナムとザフィーラから感嘆の声が上がる。

 

「ちょ、うぇええ!? あ、アリサちゃん、いつの間にこれほどのパワーを!? それに、肌を刺すような威圧感……ッ!? ま、まさか――遂に紅世の王と契約をしてしまったんか!? ロリ奥様へと進化してしまったんか!?」

「ワケの分からないことぬかしてんじゃないわよ! ツッコミどころが多すぎるんだけど!? ――って、アレ?」

 

と、そこでふと気づいた。

ここに、居なければならない人物が見当たらないという事実に。

 

「ねぇ……シャマルさん、は?」

 

恐る恐る、辺りを見渡してみる。……が、やはり彼女の姿が見えない。

四人の頬を嫌な汗が流れ落ちるとほぼ同時、コテージの中のキッチンのある方角から

 

――ズバッ! ドシュッ! グジュッ! ドシュウウッ!!

 

それはそれは骨ごと肉を切り裂くような生々しい音が――……!

 

「しゃ、シャマルぅうううううッ!? ちょ、これマズイで! アリサちゃん、料理の材料になるようなモンはないんとちゃうかったんか!?」

「え、えと、その、実はかさばるものを運ばせるのはかわいそうって思ったから……」

「まさか……あるんか? あったりしちゃうんか!? この十年もの間、あらゆる訓練を重ね! 数多のお料理教室に通い詰め! ユーノ君への愛すらも注ぎ込んだというのに、何故かマイナス方向へと超進化してもうた、シャマル渾身の“必殺お料理レシピ(『必ず殺す』と書いて『ひっさつ』と呼んじゃうの♡)”の材料となる食材が!」

「お、お肉が結構いっぱい……。ってか、すごくなってんの!? 前より!? え、それ大丈夫なの!?」

『……』

「三人そろって無言のまま視線を逸らすなぁあああああっ!?」

 

愛という究極絶対ATフィールドを装備したユーノですら、彼女の料理を口にしてから復活までに三日は必要とする。

愛しい彼女の手料理を残さず平らげ続けた十年もの間、『神成るモノ』をも凌駕する強度へと鍛え上げられたユーノの胃袋。

それはまさしく、次元世界最強と称するに相応しい。

だが……硫酸を直飲みしても無問題な次元世界最強の体内器官ですら、シャマルの究極料理の前では無力に等しい。

それほどまでの凶悪な破壊力を秘めた彼女の料理、それがユーノの不在という不満をぶつけるかのごとき勢いで手間暇かけて生み出されているとしたら……。

 

――香りだけで、地球という世界そのものが解けて消えてしまうかもしれん……!!

 

市販の野菜や肉で作ったカレーが、どうすれば盛り付けた器を溶かすほどの酸性を宿してしまうというのか?

その奇怪さは、食材の性質を変貌させてしまう希少能力でも秘めているんじゃないのかと、最近の八神家家族会議の議題に上がるほどだ。

だが、問題はそこではない。

ユーノという、彼女の料理(もうい)を受け止めてくれる唯一の存在が居ない現状、このままでは目を離したはやてたちにこそ原因があると、責任もって料理を処理し(たべ)て的な状況になってしまうのでは……!?

 

「え、エマージェンシーやぁああああっ! 総員、全力を持ってシャマルを取り押さえるんやぁあああああっ!!」

「承知!」

「心得た!」

 

まるで絶望的な戦場へと向かう兵士の如き形相を浮かべて、“夜天の王”と守護騎士たちがキッチンへと駆け込んでいく。

全ては――皆の胃袋を守るために……!

 

「……」

 

――ピッ!

 

「――あ、もしもし、すずか? 悪いんだけどさ、夕飯の材料を買うときにお肉も買っておいてくれない? ――うん、そう。ユーノの奴がいないから、シャマルさんが暴走しちゃったみたいで……うん、うん。それじゃあよろしく」

 

携帯を閉じて一息を吐くと、アリサは夕食のメインにするつもりだった最高級の松坂牛の成れの果てを片づけるべく、けたたましい騒音が聴こえてくるコテージへと足を向けるのだった。

 

 

 

 

一方の、探索班。

アリサから連絡を受けたすずかが商店街で贔屓にしている肉屋へ向かっている後ろで、肉を除いた夕飯のバーベキューの材料――野菜や海鮮類――入りのビニール袋を持ったフェイトたちが談笑していた。

高町姉妹&ちみっこトリオの姿は無い。彼女らは、久しぶりの里帰りとして両親が経営している翠屋へ顔を出すべく別行動中だ。

そのため、町内にサーチャーを設置しつつ、本日の探索を終えたフォワードとフェイトは主婦モードへと移行したすずかに先導されるまま、ミッドではほとんど見られない商店街へと足を踏み入れていた。

 

「すいませーん、お肉をひと塊くださーい」

「へい、毎度! おやおや? なんだか団体さんだねえ? ひょっとしてパーティーでもするのかい?」

「あははっ、そうなんですよ。久しぶりに里帰りした友達と一緒にバーべキューです」

「おおっ! そんじゃあ、いつもご贔屓にしてもらってるから、サービスしないとな。ほれ、カルビのサービスだ!」

「わあ! ありがとうございます、おじさん!」

 

親しげなやり取りを交わしていくすずかが、いつの間にか人見知りの気を感じられなくなっていることに、幼少からの付き合いであるフェイトは小さな驚きを抱く。

ミッドに移住する前まで共に過ごしていたころの彼女は内向的な性格で、人見知りの気があった。

しかし今は、若奥さま風のファッションに身を包み、商店街の方々から気軽に声を掛けられては、ひとつひとつ丁寧に手を振ったり、返事を返している。

彼女たちと育んだ友情は決して変わらないと断言できるものの、こういった些細な変化を目の当たりにしてしまえば、どうしても離れて暮らしていることを実感してしまう。良い方向へと成長している彼女を少しだけ誇らしくもあり、それでいて、ちょっぴり寂しい。

 

「おまたせ~。お肉屋さんの亭主さんってば、一杯サービスしてくれたよ~」

「すずかって、この辺りをよく利用したりするの? ここの人たちとすごく親しそうに見えたけど」

「うん、そうだね。高校に通ってた頃は、放課後、アリサちゃんと一緒に立ち寄ってたし、最近でも日常生活品とかの買い物はここを利用してるからね」

 

同じ大学に通っているすずかとアリサは講義終了後も一緒に行動する割合が多く、帰宅途中にあるこの辺りのカフェなどを頻繁に利用している。

そうすれば、必然的に商店街の方々と接する機会も増えるというものだ。

 

「それじゃあ買い出しも終わったことだし、コテージに帰ろっか。久しぶりに家族団欒な花梨ちゃんたちのお邪魔するのも気が引けちゃうし」

「そうだね。桃子さんたちには、明日にでもご挨拶に伺う事にするよ」

 

相当の重さがあるはずの生肉入りビニール袋を両手に1つずつ軽々と持ち上げたすずかと共に、フェイト&フォワードメンバーはコテージへと引き返していった。

彼女らが立ち去った直後、

 

「くっださいな~! なんだよっ♪」

「おいしいおいしい、お肉さ~ん! なのですっ♪」

 

すずかがバーベキュー用の肉を購入した肉屋さんに、フェイトと瓜二つな容姿の女性と興味で瞳を輝かせながら店頭のガラスケースの中に並んだ肉を覗き込む金髪の少女が来店したことに、終ぞ気づかぬまま。

 

 

 

 

「ここが、かーさんの実家?」

「そ。私たちの両親が経営している海鳴市最高の喫茶店、翠屋(本家)よ! てなわけで、ただいま~! ミッド支店の店長高町 花梨とワーカーホリックな高町 なのは、帰還いたしました!」

「ちょ、お姉ちゃん!? その言い方はどうかと思うんですけどっ!?」

「……えっ?」

「どうしてそこで絶句するかなあっ!?」

「あはは~、なのはってばもう……冗談が上手いんだから♪」

「朗らかに笑みを浮かべながら肩を叩かないでよ! なんだかすっごくムカつくのですっ!」

「仕事にのめり込みすぎるあまり、肌の手入れとかいろいろと女として大切なものを放り出してる娘に言われてもねぇ……」

「(ムカッ!) ……へ、へえ~、そんなこと言っちゃうんだ~? な、なら私だって言わせて貰うんだからねっ!」

「ふふ~ん、妹の分際で、姉であるこの私に立てつこうっての? いいわ、やって見なさいな。――でもね? とある偉人はこんな名言を残しているのよ? ……曰く、『姉より優れた妹なんざ居ねぇ!』 ってね!」

「――おか~さ~ん! おと~さ~ん! お姉ちゃんってば、ミッドのお店が開店した日に色々あって、“Ⅰ”さんと同じ屋根の下で一晩過ごしたんだって~!」

「ちょ――!? な、なななんでそれを知って「「詳しく訊かせてもらおうか」」――って、早っ!? 駆けつけるの早っ!? え、てか、お父さんもお兄ちゃんもどっから現れたの!?」

「「無論、道場から」」

「早すぎでしょうが! つか、“神速”使ったでしょ!? 軽々しく奥義を使ってもいいの!?」

「「大丈夫だ、問題ない。――さあ、それでは彼(あの野郎)と何があったのか、詳しく聞かせてもらおうか」」

「え!? あ、いや、その、あにょ……にゃ、にゃのはぁ! アンタ、なんてことしてくれたのよ!?」

「(ニヤリ)……計画通り、なの」

「くそっ、N(なのは)め! こんな屈辱(妹にしてやられた)なんて初めてだわ! けど、覚えてなさい! アンタは必ず私が――!」

 

哀れ花梨は両脇をガッチリと固められたまま、捕らわれた宇宙人の如き恰好のまま、店の奥へと引きずられていった。

花梨とは違う女性らしき声も聞こえてくるので、母や姉も店の奥でスタンバっているのだろう。

あの中では、さぞかし愉快な家庭裁判が繰り広げられている事だろう。

涙まじりな姉の悲鳴を聞いて真っ黒な笑みを浮かべるなのはさんに、ちみっこ3人組はお互いを抱き締め合いながらガクガク震える事しか出来ないのであった。

 

「だっ、だから誤解なんだってばぁぁあああああああああああっ!?」

「クスクスクス……」

「「「(ガクガクブルブル……)」」」

 

大体一時間後。

 

口から白っぽいナニカを出し始めたところでようやく解放された花梨嬢。

耳と首筋が真っ赤なのに、顔色が真っ青。薄く開かれた両目はぐるぐるナルトマーク、

果たして、奥で何が行われていたのか非常に気になる有様だ。

そんな花梨は現在、居間のソファーでリカバリー中。なので、隣のリビングでちみっこたちの自己紹介が行われていた。

 

「は、初めまして。かーさん――じゃくて! 花梨さんにお世話になっています、その、うぁ、ぇぅ……」

「頑張ってください宗助君!」

「ほらほら、いつものおっきな態度はどうしたの?」

「うっ、うっせーよ、お前ら!? ――ん、んんっ! た、高町 宗助です! えと、よ、よろしくお願いします! ほ、ほら、お前らも自己紹介しやがれ!」

「まっかな顔してなーにカッコつけてんだか。……初めまして、私はルーテシア・アルピーノと申します。ミッドチルダにその人ありと謳われたエース、高町 なのは一等空尉のご家族とお会いできましたこと、心より嬉しく思いますわ」

「うっわー、何その似合わねーお嬢言ばぁあああっ!?」

「おほほほほ……申し訳ありません。キャンキャン吼えるしか能がないワンちゃんなもので」

 

口元に手を当てながらお上品な微笑みを浮かべるルーテシアの足元崩れ落ちる、脇腹に肘をたたき込まれた宗助。

エビ反りになりながら「こひゅー、こひゅー」と荒い呼吸を繰り返す様に、あわあわと慌てふためくリヒトの姿を微笑ましいものを見るかのような優しげな顔をする高町家。

この程度のじゃれあいなどは、彼らにとって騒ぎ立てるレベルの物ではないという事なのだろう。

寧ろ、幼いころのお世話を任されていたリヒトが友として接することのできる相手が出来たこと、しかもその片割れが新しい家族だという事が、どうしようもなく嬉しくて仕方がないようだ。

桃子の目がハートマークになりかけている。

 

「……どうしましょう、あなた。リヒトちゃんだけじゃなくて、ルーテシアちゃんも宗助君もかわいすぎるわ。このまま三人ともウチに貰えないかしら」

「落ち着くんだ桃子。リヒトちゃんははやてちゃんの義娘さんで、ルーテシアちゃんにもご両親はいるだろう」

「でもぉ……そうだわ! それなら、宗助君だけならどうかしら? 貴方や恭也も、剣を教えられる後継者が出来たら嬉しいんじゃない?」

「む……」

「それは、まあ……」

「こらこら、お母さんはともかく、お父さんやお兄ちゃんまで何言ってるの」

 

流石に洒落にならないので、なのはからストップが掛かる。

 

「だってえ……せっかく夢だった孫が出来たのよ? 美由紀やなのはには恋人の『こ』の字も感じられないし」

 

グサッ!

 

「あうっ!?」

 

ドシュッ!

 

「くはっ!?」

 

「恭也の方は、出来るだけお母さんと一緒にいた方が良いって、世界中を飛び回ってる忍ちゃんが独り占めしちゃってるからなかなか会えないし……。今日だって、あの子たちを連れてきてくれなかったし」

「い、いや、忍の奴が「久しぶりの家族団欒楽しんできて。子どもたちは私が面倒見ておくから」って言うもんだから……」

「そんなだから、私の希望は花梨だけなの。――でも、意外ね。てっきり、ダーク君と同棲くらいはしてるもんだと思ってたんだけど」

「ンなワケ無いでしょ!?」

 

花梨嬢復活。

 

「大体、アイツにはアリシアとかシュテルがいるじゃない! なのに、どうしてそんな発想が出てくるワケ!?」

「花梨、世の中には『NTR』って言葉があるのよ?」

「その返しは予想外ッ!?」

「花梨、女という生き物はね……欲しいものを手に入れるためには、時として獣と化す必要があるのよ♪」

「恋する乙女みたいに恥ずかしげに頬を染めながら言うような台詞じゃないわよねぇ!? ってか、そもそも、どうして私がアイツとっ!」

「……? だって貴方、彼のこと好きでしょう? もちろん――異性として」

「しょしょしょんなことにゃいわよ!?」

「ホラ、どもった♪」

「突然、ンな事言われたら誰でも動揺するわ!」

「またまた~」

「だ・か・らぁ――!」

 

「……むぅ」

「おんやぁ~? リヒトってば、ほっぺた膨らませちゃったりして~~、どうしちゃったのかにゃ~~?」

「ふにゃっ!? にゃ、にゃんでもないでしゅ……」

「ふう~ん? へぇ~? ほぉ~? ……ソースケ」

「ンだよ?」

「がんばっ♪」

「だから、何がだ!?」

 

口をωにしたルーテシアがニマニマ、ニヨニヨしながら、宗助をからかい。

宗助は宗助で、ぶーたれているリヒトが何となく面白くなくて心がもやもや。

リヒトは(本人の自覚なしに)花梨を恨めしそうに見つめている。

 

そんな様子を一歩離れたところから眺めていた大黒柱たる士郎は、

 

「……ああ、今日も桃子が淹れてくれたお茶は美味いなぁ」

 

完全に、匙を投げていた。

 

 

 

 

夜、コテージにて。

 

「ヒャッハー! この世のすべての肉は俺のものだぁああああっ!」

「俺はっ! 俺は遠慮を捨てるぞっ、セェツゥナァァアアアアアアッ!」

「テメーら、大人げないにも程があんだろーがこの野郎! バカ野郎!」

「フハハハハハッ! 僕の箸捌きは108式まであるよおっ!」

「ど、どうしよう。あの中に飛び込む勇気は無いんですけど……」

 

本日の夕飯は、お肉たっぷり、海鮮物も山盛りなバーベキュー。

金網の上で香ばしく焼き上がっていく肉、キャベツ、トウモロコシ、エビ、イカ等々……。

食欲をそそる焼き色が付いた先から箸の豪雨が降り注ぎ、刹那の間を開けずに誰かの胃袋へと消えていく。

例えそれが、誰かが手塩に掛けて育て上げた肉太郎(高級松阪牛のカルビ)であろうと、イカの助(刺身でもいけるスルメイカ)であろうと、モロ美(実が大粒のトウモロコシ)であろうと関係ない。

空腹に飢えた大食漢&育ちざかり(バーサーカー)の前では、いかなる法則であろうと無に等しいのだ。

食材の貯蔵は十分すぎるほどの余裕があるというのに、ペースを落とそうという者は一人たりとも存在しない。

今まさに、金網という世界における天下一武道会が繰り広げられているのだ。

 

※シャマル先生作のすぺっしゃるディナーは、せめて休暇気分だけでも味わってもらおうという部隊長の善意によって、某図書館の秘書長の物へと転送済みです。

 

男衆――切名、カエデ、宗助、コウタ、エリオの五人が囲う金網は、まさに世紀末も真っ青な大乱闘。

奇声を上げながら怒濤の勢いで獲物をかっ喰らい続ける三人に気押されながらも、僅かな隙間をついて獲物を奪い去っているエリオの手腕は、さすがはエースオブエースの教え子だと言える。

この展開を予想して、予め自分の分をキープしていたザフィーラが、静かに食事している姿とは、実に対照的だと言える。

 

それに引き替え、

 

「う~ん、おいし~♪」

「ルーちゃん、ルーちゃん。こっちの海老さんも美味しいですよ?」

「ホント? それじゃあ、このお肉と交換しましょ。はい、あ~ん」

「あ~ん……んぐんぐ、んくっ。美味しいです~♪」

「リヒトリヒトっ! 私にもちょうだいっ!」

「はいはい、あ~ん」

「あ~ん……ん~♪ プリプリしてる~♪」

 

バックに季節外れの花畑を浮かび上がらせながら、仲睦まじく食べさせ合いっこしているちみっこがいれば。

 

 

「こら、スバル! アンタ、野菜もしっかり食べなさい。肉ばっか食べてんじゃないわよ!」

「置いといてっ! 後で食べるからっ!」

「うっさい! そんなこと言って、結局お腹いっぱいになったとか言い出すに決まってんでしょーが! ほら、今すぐ食べるっ!」

「あつうっ!? ちょ、熱いよティア! ほかほかキャベツを押し付けちゃダメェ~~!?」

 

(ティアナ)によって金網から摘み上げられたばかりのしんなりキャベツが、(スバル)のほっぺたを直撃していたりする。

一瞬で涙腺の耐久度がゼロに!

 

「うんうん、皆楽しそうでなによりやな……そこおっ!」

「ええ、まったくその通りですね主はやて……させませんっ!」

 

 

ガキイッ! と割り箸ではありえない音が響きわたる。

噛みあった割り箸越しに、“王”と“将”の視線が交差する。

 

――コラ、シグナム! その肉朗(にくろう)は私が育て上げたんやで!?

――言いがかりはよしてください。カルビの助は私に出会う(食べられる)ために生まれてきたのですよ!?

 

互いに一歩も譲らず、箸を魔力強化してまで鍔迫り合いを続けるアホ主従。

主従の関係すら無に帰してしまうほどの魅力を秘めているというのか……。

 

「ハッ! その隙、貰ったあぁぁああああああっ!」

 

しかし、百戦錬磨の騎士に隙を晒すという行為はこの上なく悪手。真横から伸びたヴィータの箸が、マツザッカー・ミート三世(ヴィータ命名)を掻っ攫う!

 

「「んなぁああっ!?」」

 

そして、相変わらず騒がしすぎる八神家。

 

 

「皆はっちゃけけるねー……あ、フェイトちゃんお肉焼けたみたいだよ?」

「ありがとう、なのは。……ま、まあ、無礼講ってことで良いんじゃないかな?」

 

取っ組み合いにまで発展している部隊長&副隊長ズを眺めながら、隊長二人は仲睦まじくバーベキューに舌を打つ。

ちなみに花梨さんは不参加。

理由は、母を筆頭に色々と暴走し始めた家族の抑え役をなのはに押し付けられたから。

「後で覚えてなさいよ、なのはぁああああああっ!」 的な絶叫が木霊したような気がするが、エースオブエースには届かなかったようだ。笑みを浮かべ、親友と共に夕食を堪能している。

 

「そう言えば、シャマル先生が見当たらないね?」

「えっとね、なんでもシャマル宛てに緊急の呼び出しがあったんだって。だから急遽、本局の方に戻ってるみたいだよ」

「えっ!? 何か問題でも起こったの!?」

「ああ、違う違う! そうじゃなくてね。なんでもユーノが食中毒で入院したって連絡があったみたいなんだ。だから、お見舞いも兼ねて、ってことみたいだよ」

「そ、そうなんだ……。ん? ユーノ君が入院? 食中毒で?」

「うん。やっぱり無限図書の仕事が忙しいから胃腸が弱っていたんじゃないかな?」

「そっかー、それじゃあ私たちもお見舞いに行かないとだね。――あ、でも、シャマル先生がつきっきりで看病してくれているんなら、むしろお邪魔さんかも」

「あははっ、そうかもしれないねー」

 

彼女たちは知らない。

そもそもユーノ君が入院する羽目になったそもそもの原因は、某女医さんお手製のダークマター(ラブラブクッキング)であることを。

どこぞの王様や騎士たちが無駄に元気なのは、罪悪感という刃でめった刺しにされた良心の痛みをごまかすためのものであることを。

 

真実を知る者が口を塞ぎ、深層は全て闇の中。

こうして、地球出張初日の楽しい夕食は賑やかに過ぎていった。

 

 

 

 

同時刻

 

「あっ、ンッ――!」

「んふっ、ふぁ……ちろっ」

「ひゃうっ!? ちょ、こら、なにすんのよバカ! なのはたちに聞こえちゃうでしょ!」

「えへへ~、別にいいんじゃないかな? だって――アリサちゃんはもう、私だけのモノだし。もし

皆から化け物呼ばわりされたって……アリサちゃんさえいてくれれば」

 

コテージの一角、月明かりの身が唯一の光源になっている部屋の中。

ベッドの上に横たわったアリサに覆いかぶさって白く滑らかな首筋に舌を這わせながら、妖絶な笑みを浮かべながら呟くすずか

火照った肌はピンク色に染まり、濡れた唇からは熱に侵された様な吐息が溢れ出す。

顔を起こして、鮮血よりも深い真紅に輝く瞳に愉悦を宿しているすずかと目が合って、アリサの瞳が不安げに揺れ動く。

それは真実を知られることに対する不安、拒絶されるかもしれないという恐れから来るもの――ではなく、

 

「馬鹿ね」

「ふぇ?」

 

再びアリサの首筋に鼻先を埋めて、高級ミルクを彷彿させるまろやかな香りを堪能しようとしていたすずかの頭を、ぽかりと小突く。

きょとん、と惚けている間に彼女の肩に手を置くと、ベッドの上をころがるように半回転、今度はアリサがすずかを押し倒す体勢へと持って行く。

 

「あのお人よし共がそんなくっだらない事でアンタを嫌う訳ないでしょうが。少し考えればわかる事よ。だいたい、アリサ(わたし)すずか(アンタ)のモノですって? いいえ、そうじゃないでしょう? 『アリサ(わたし)すずか(アンタ)のモノで、すずか(アンタ)アリサ(わたし)のモノ』……違う?」

「アリサちゃん……」

 

確たる“自我”が籠められた芯の通った強い瞳。

すずかが憧れ、あの日を境にしてからは、どんどん好きになっている炎が宿った瞳。

宝石のような輝きを放つそれを手に入れたくて、誰かに渡したくなくて、鋭い刃を彷彿させる爪の生えた指先が己を見つめてくる愛しい人の頬へと伸びる。

手の平に感じる燃えるような熱さ。それでいて、もっと触れ合いたいという願いが湧き出してくる自分のココロ。

焦燥にも似た感情に促されるまま、アリサの身体を抱き寄せる。

汗に濡れた肌と肌が重なり合い、ひとつに溶け合うような感覚が二人の脳髄を溶かす。

すらりと伸びた脚線美の美しい足が半身を求め、まるで始まりの木を締め付ける毒蛇の様に絡みつく。

赤い瞳の吸血鬼が、堪えようのない渇きを訴えて涙を浮かべる。

相手を求めれば求めるだけ増大してしまう“衝動”。

わかっているとばかりに愛しい吸血鬼の頭を撫でると、やさしく、包み込むように抱きしめる。

――ちょうど、彼女の口元が己の首筋にあたるように。

幾度目にしても飽きることは無い、芸術品を想わせる白い肌を一舐めし、歯を押し当てて力を込める。

瞬間、生命力と優しい想いに満たされた生命の雫が口いっぱいに広がって、すずかはどうしようもない光悦感に包まれる。

夢中になってしゃぶりつく吸血鬼(すずか)を撫でてやりながら、アリサもまた、形容しがたい快感を味わっていた。

生まれたままの姿で絡み合う『赤』と『紅』。

どろりとした血と燃え盛る炎がお互いを求め、交わり、ひとつになっていく。

彼女たちだけの時間(しょくじ)は、まだまだ始まったばかりだ――――

 




最後のは、ちょっとだけやりすぎたかもしれませんね! 
……ま、いいか。本人たちは幸せそうだし。

ちなみに、二人だけのお食事会について一同が疑問に思うことはありません。
――魔眼って便利ですよね♪ 

それから、チラリと姿を見せた金髪美人母子。はたして彼女たちの正体とは!? (笑)
正解は、次回の戦闘……もとい、銭湯回にて明らかになる予定!

果たして、混浴なる素敵空間に足を踏み入れてしまうのはいったい誰なんでしょうね?
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