魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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お待たせしました。純粋な温泉回のはずが、説明シーンと半々くらいになってしまいました。
やっぱ、ダークさんを絡ませると、展開がシリアスかエロのどっちかに傾いてしまう。
ちなみに本話は、ギャグ、シリアス、エロの3点構成となります。
ついでに、リリなのにあるまじき、ボーイズトーク的なシーンがあるのでご注意を(?)


銭湯中

「やれやれ、何時もの事ながら騒がしい連中だ。風呂は人生のリフレッシュという言葉を知らんのか」

 

かけ湯を済ませ、頭の上にタオルを置いた伝統の入浴スタイルで風呂を堪能する黄金の竜神――ランクはもちろん“怪獣王”

 

「う~ん、ボクとしては賑やかなのは良い事だと思うんだけどね。やっぱり、みんなでワイワイやってるのが一番楽しいじゃん♪」

 

一見すると美少女にしか見えない美貌を持ちながら、見紛うこと無き“雄”である雷刃の襲撃者――ランクは“邪竜の系譜に連なる戦闘者”

 

「まさか、貴様らと肩を並べて湯船に浸かる日が来ようとはな……」

 

妙な動きを見せれば即座に反応できるように警戒を密にしつつ、湯ぶねに浸かる夜天の守護獣――ランクは“千年竜王”

 

「まあ、殺気も感じられないし、偶にはいいんじゃないかな。もし何かあっても、僕の“能力”で皆を守ることも出来るからね」

 

敵意に敏感だからこそこの場で騒ぎを起こすつもりは無い事を感じ取っている夜空の城塞――ランクは“戦闘型守護獣”

 

「……おい、カエデ。さっきから妙に大人しいけど何かあったのか?」

 

不気味なほどに大人しい友人を心配二割、警戒八割で気遣っている炎の英雄騎――ランクは“某国の巨猿”

 

「…………」

 

俯き、プルプル震えているセクハラの権化――ランクは“昭和の相棒”

 

「うーん、こんなに広いと泳いでみたくなるね」

 

女性ばかりの職場の雰囲気から解放されたことで純粋な子どもらしい笑顔を浮かべている迅雷の騎士――ランクは“大地の護国聖獣”

 

「おっ、いいねえ! なんなら競争すっかい?」

 

同じ悩み(スキンシップ過多な保護者)を持つ的な意味で大分打ち解けあった神狼の騎士――ランクは“王の源竜”

 

さて、ここで一つ語らねばならないことがある。

古来より、主義・主張・信念・理念……幾重数多にも上る想いを異なる者同士がお互いを理解し、手を取り合い、そして覇を競い合う戦いの儀式があった。

昨今では“裸の付き合い”という諺として定着して久しいそれは、身に纏った一切のしがらみを脱ぎさることで、ありのままの己を以て他者とぶつかり、胸に秘めた熱き滾りをぶつけ合うというもの。

そう……それはまさに現代における闘技場(コロセウム)。一歩足を踏み入れたが最後、唯一つの例外も無しに絶対たる格付けが下されてしまう、真なるグラディエーション!

まさにこの瞬間、絶対的な強者と弱者の格付けがなされてしまったのだ!

 

「ち、ちくしょぉおおおっ! お前ら……っ! お前ら一体なんなんだぁあああああっ!」

「喧しいガキだな。何を騒いでいるか」

 

鬱陶しそうに閉じていた目蓋を開いたダークネスが、騒ぎ立てるカエデを半眼で睨みつける。

 

「うっせえ! ナンだよ、そのイツモツは! 揃いも揃って見せつけやがって!」

 

ナニが……とは言ってはいけない。カエデ君は決して『ちっさ』くは無い。

ただ、周りの野郎共が凶悪なだけ。

 

「うっわ、その言い方ってすっごく女々しいよ? それに、そんな騒ぐようなサイズじゃないと思うんだけどなぁ~?」

「いや、ソレだけの大怪獣をお持ちでありながらそんなこと言われても説得力が無いと思うぜ? つーか、マジでスゴイな。女みたいな容姿と紳士のレベルは反作用するって法則でもあったっけ?」

「ふ、さすがはテスタロッサに比類する実力者だな。身体的特徴部分が、両者ともに優れている」

「いいや、それは違うぞ守護獣。女のアレ同様、俺たちのコレも鍛え、磨き上げることでそのレベルを上昇させる。小僧どもは別枠とするにしても、俺たちとそこのガキの間に絶対的な境界線が形成されているのは、純粋に自己満足以外の訓練を経験出来ていなかったからに違いない」

「おお! さっすが、ダークだね! 言われてみると、確かにそんな気がするよ!」

「ふ~ん……。つまり恋人がいるかいないかの差って訳か。え~っと、切名(オレ)がティアで、ダークネス(アンタ)が――」

「……アリシアとシュテルだな」

「ちょっと言いよどまなかった? まさか……え、嘘、本当に?」

 

思わずつっこんでしまうコウタの追及はのらりくらりと躱しておく。

 

「さて、何の事やら。――で、コウタ(キサマ)鉄槌の(ヴィータ)で、雷刃の相手が……闇、か?」

「にしし~♪ そうなんだよ~、だーくみたいに義娘もいるんだよ! もう、なんて言うかさ……王さまってば意外と――のぎゃんっ!?」

 

いらんことを言いそうになったレヴィの脳天に突き刺さる氷塊。

限定発動させた凍結魔法【ヘイムダル】のようだ。

魔力の色から見るに、ディアーチェが下手人らしい。

デバイスも“紫天の書”も無しの状態でこれほどの魔法を発動できるとは、流石は闇統べる王、潜在能力が並みじゃない。

 

「それは興味深い情報だな、っと。では、残るは守護獣か。ふん? 相手は……フェイト・テスタロッサの使い魔辺りが妥当か?」

 

レヴィの脳天から湯船の中に転がり落ちそうになった氷塊をデコピンで粉々に粉砕させたダークネスが、彼女の主人である執務官がいる女湯にも聞こえる様な音量で問いかける。

何やら喧騒らしいものが聞こえてくるので、目論見は大方成功していると見て良いだろう。

このダークさん、実に意地が悪い。恋バナに目が無い女性陣にネタを提供することで年ごろの娘らしさを面に出してやれば、まだ微妙に壁があるアリシアとフェイトがごくごく自然に会話を楽しめるかもしれない――そんな思惑があっての発言だということに、はたして何人程度が気づいているのだろうか?

 

「いや、違ったはずだよ。だってアルフ、お付き合いしてる人がいるみたいなことリンディ提督が言ってたし」

 

ここで口を滑らせてしまったのはコウタだった。意外そうに驚嘆を示すダークネス。

“知識”から『アルフ×ザフィーラ』は鉄板だと思い込んでいた切名も、目を真ん丸に見開いて驚きを露わにしている。

 

「たしか聖王教会の関係者だったような……」

「なるほどな。使い魔仲間(どうるい)ではなく異種間恋愛と言う事か――っむ! なるほどそういう事か……!」

「な、なんだよ? 何かわかったのか?」

「いいや、相手が誰かまでは推測の場を出ないさ。だがな、相手が特殊な性癖の持ち主であることはまず間違いあるまい」

「な、なんだって!? その辺詳しく聞かせてくれないかい!?」

 

戦慄を顕わにしたコウタに詰め寄られ、意外な喰い付きに少しだけ驚く。

 

「……実は、聖王教会所属騎士への教導のために、近々ヴィータが出張する予定なんだ」

 

地上本部と聖王教会の間で結んでいる協力関係をより強固なものにするため、定期的に双方の教導資格保有者を出頭させることで協調性を高めようと言う試みがある。

PRも兼ねて大々的に宣伝されているそれに今度、ヴィータが教官役として選別されたのだという。

なるほど、もしダークネスの言葉通りに妙な性癖を持つ男が教会に居るとすれば、恋人の身を案じて動揺してしまうのにも説明がつく。

一部では“地上本部のエターナルロリっ娘ヴィータちゃん”と長ったらしい愛称をつけられたり、ネット上で『みちゃダメ!』的な妄想のネタにされているともっぱらの噂なのだ。就業年齢が格段に低いミッドチルダにおいて、戦う幼子が一般的に認知されているからこそ、そう言う趣味の男が多数存在していることも、そんな輩が教会内部に潜んでいる可能性も否定ができないのだ。

 

「つーか、犯罪予備軍なら俺らの目の前にいるんだけどぶろぱぁああああっ!?」

 

うっかり口が滑ってしまった切名君の顔面にダークさんの拳がクリーンヒット。

そういう事は思っても口に出さないのがお約束である。

 

「話を戻すぞ。俺が使い魔の相手が普通ではないと判断する理由……それはズバリ、使い魔自身の特異性にある」

「特異性だって……?」

「その通り。おい“ⅩⅠ”(イレブンス)、お前の知っている範囲で構わないから使い魔の特徴を言ってみろ」

「あ、ああ……ってえ!? あ、アンタ今俺の事……!?」

「ふん、気づかれていないと思ったか? 俺の『超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』から逃れることが出来る訳が無いだろう」

 

噂には聞いていたが、予想以上にやり手な“敵”の実力、その片鱗に触れた切名の背筋にゾクゾクとしたものが駆け登る。

それは畏れ……ではなく、乗り越え、打ち倒すべき好敵手を見つけたという歓喜であった。

 

「――まあ良いさ。で、使い魔……って言いにくい。アルフで良いな? 彼女の特徴って言えば……そうだな。『魔力の省エネ対策でチビになれる』『狼と人間の二タイプに変身できる』『実力はAランク魔導師に相当』『結構過保護』『今は海鳴市でハラオウン提督のお子さんの子守りをしてる』ってとこだな?」

「その通り。で、俺が注目したのは前の二つ、『体型の自由化』と『動物と人間どちらの姿にもなれる』と言うところだ。よく訊け。体型を自由に変えられると言うことは小学生レベルの幼女から女子大生くらいのお姉さんまで自由自在、さらに素体が獣故に、獣耳や尻尾との同調も完璧と言って過言ではないだろう」

「そ、そういう事か! つまり、アルフの交際相手は――!?」

「重度のケモナーかつ、全年齢に対応できる彼女の虜になった筆舌しがたい節操なし野郎と言う事か――!?」

 

何と言う超理論。

ご本人が耳にしてしまえば、まず間違いなく殴り込みをかけてくるレベルの暴言だ。

 

「本人に聞かれたら間違いなく怒り狂うぞ」

「……我関せずみたいなこと言っているけど、そう言うザフィーラのお相手はどうなんだい? 獣男が好きな女の子だったりするのかな?」

「コウタ、あまりふざけたことを言わないで貰おうか。彼女は清廉なるシスターなのだぞ。そのような風変わりな性癖など――」

「モンディアルさん。シスターって、確か神にお仕えする穢れ無き乙女って奴ですよね?」

「えっと、まあそれが一般的かな? それと、エリオで良いよ宗助君」

「わかったっす、エリオさん。で、そんなシスターさんに手ェ出しちゃってもいいんすか?」

「ぬぐぅ!?」

 

子どもゆえの純粋にして的を得ているツッコミが炸裂。

ザフィーラは戦慄のあまり固まっている!

 

「……ケッ! いいですなぁ、意中の相手がいらっしゃる皆様方はよぉ!」

 

そして、唯一浮いた話が無いカエデ君がやさぐれている!

 

「彼女持ちだからって威張るんじゃねぇぞ!? 大体、切やん! お前さんは俺を変態だの犯罪予備軍だの呼んでるけど、お前さんだってティアちんにコスプレしてくれるように土下座していやがる変態じゃねぇか!」

「んなっ!? 人聞き悪いこと言うな! 大体何がコスプレだ! セーラー服は基本だろうが!」

「どこが基本っ!?」

「……制服マニアだったか」

 

突然のカミングアウトにダークネスとコウタが驚愕する。

ついでに、壁の向こうからツンデレ・スタンダートタイプっぽい怒号が上がった気がする。

向けられる冷たい視線に自分がやらかしたことに気づいた切名は、慌てて釈明に移る。

 

「い、いや、違うんだ!? コレはその……そう、郷愁ってヤツなんだ! 俺も元は地球人だし、時々故郷を思い返して心が折れそうになっちまう事があるんだ! だから癒されたくなっちまうんだって! べっ、別に黒セーラー&黒ストッキングはツンツンしてるティアにとっても似合ってました! な事は無いんだぜ!?」

「うん。君の性癖はよく分かったから、もうその辺でやめておこうか」

「他人事のように言っているが、そう言う貴様はどうなんだ“Ⅸ”? ランドセルを背負わせて小学生プレイ位はしてそうだが」

「何言っちゃってんの!? やってないよそんな事!」

「そうか? なら、ミニバスケットのコスの方か?」

「だから、人を幼女偏愛趣味みたいな言い方やめてよ! 君たちはヴィータの本当の魅力を知らないからそんな軽はずみな発言しか出来ないんだよ!」

 

憤慨のあまり顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

口元に手を当てて必死に笑いを堪えているダークネスに気づかないまま、湯ぶねから立ち上がったコウタは拳を突き上げながら意気揚々と彼女(ヴィータ)の素晴らしさを語る。

 

「そもそも、『ヴィータ=幼さ』という発想自体が間違っているんだ。彼女は守護騎士、外見こそ幼く見えるけど、その内に宿るのは大人のレディーの心なんだよ。だから、ヴィータにはアダルトな服装が似合うと思うんだ!」

「っぷ! ……そ、そうなのか。ちなみに、どんなのがある?」

「決まっているさ……! ズバリ、メイドさんだよっ!」

 

ガボッ! ← 壁の向こうから聞こえてきた、何かが湯の中に沈んだ的な音。

 

「ヴィータの強気な態度と裏腹に、質素で華麗なロングスカートタイプのメイド服に身を包んだ時の漢書の可愛らしさときたらっ……! 筆舌しがたい破壊力だったよ! あれは、そう……去年の元旦の時、一度だけ見せてくれた巫女服に匹敵する破壊力だったよ!」

「ごふっ!? ――み、巫女か……! そ、そうか、確かそう言うのを日本では……何と言ったか?」

「え、忘れちゃったのかい? それはね――“姫始め”って言うんだよ。って、アレ? どうして震えながら浴槽の淵を叩いているの?」

「い、いや、俺でも予想できない返答を返されるとは思いもしていなかったんでな……」

 

ダークネスはもう一度女湯との境になっている壁を見やる。

 

……うむ、実に燃え盛るような激怒の感情がひしひしと感じられる。

 

あの壁の向こうには、『ぶっ飛べぇえええっ!』なゲートボールなハンマーから『光になれぇえええええっ!』なゴルディオンなるハンマーレベルにまで引き上げられた特製の獲物を振り回す幼女がいることだろう。

風呂から上がった後が非常に楽しみだ。

 

「おい“Ⅰ”、ちいっとばっかし、真面目な話をしてもいいか?」

 

不意に、真面目な表情になった切名がダークネスへと問いを投げた。

 

「ん、別に構わんぞ。この先、俺たちが戦場以外の場所で出会い、こうやって言葉を交わす機会など、もう二度とないかもしれないからな」

「そうかい。じゃあ、遠慮なく――」

 

 

「アンタは平然と人を殺しておいて、心が痛む様な事はないのか?」

 

 

即答はされなかった。

奇妙な沈黙が浴場を支配し、無音の静寂が舞い降りてきた。

誰かが喉を鳴らした音が、いやに耳に残る。

ひと房の前髪から滴り落ちる水滴が湯船に波紋を生み、広がっていく。

 

「……“ⅩⅠ”。お前は前世でも闘争の中に身を置いていたと聞いた。魔術師として生を受け、お前という異端を受け入れた女を守るために力を身に着け、戦い続けたのだと。この話は真実か?」

「……何でそんな事を聞きやがる?」

「いいから、答えろ」

 

真剣な目を向けてくるダークネスに訝しみながらも、切名は一つだけ咳払いをしてから昔を思い出す様に語り始めた。

 

「……ああ、事実だよ。俺はかつて誰よりも守りたかった女の子を救うために力を、魔術を求め、戦い、勝ち続けた。病に侵されているにもかかわらず、彼女は理不尽な暴力に脅かされている力無き人々を救ってほしいと口癖のように言っていた。――だから俺は、彼女が息途絶えた時に決めたんだ。理不尽な悪意に晒される人々を守り、邪悪を打ち払う『剣』としてこの身を捧げようとな」

 

多くの人々を救い、世界の危機すら救って見せた“救世騎”。

その心を支え続けているのは、いつまでも色褪せる事のない一人の少女と過ごした穏やかな思い出と彼女の願い。

彼女から託された優しい想いが胸にある限り、『葵 切名』、いや……『蒼意(あおい) 雪菜(せつな)』の信念は、穢れを知らぬ伝説の名剣に比類する切れ味を保ち続けている。

新しい大切な(ヒト)が出来ても、決して変わることのない雪菜だけの信念がそこにはあった。

 

「そうか……。お前は色々と背負ってこのセカイへ来たんだな」

「? それはどういう……」

「――俺の前世はどこにでもある、ごくごく普通の人間のソレだった。特別な想いを寄せる相手がいる訳も無い、かと言って仕事に人生の全てを費やそうという気概も無い、平凡で代わり映えのしない毎日を惰性の様に歩み続けるだけの、有象無象のひとつ。そのくせ、自分の命を失うことを何よりも恐れる自己優先主義者だった。ああ、それでも誰かに頼られるのは嫌いじゃなったな。今にして思えば、それは相手を自分よりも格下だと決めつけていたからだったからかもしれない。何故なら、格下の存在が俺の命を脅かす可能性が早々ないからな」

 

静かな独白が浴場に広がっていく。

切名や宗助という特殊な存在を覗き、存命している参加者たちは皆、彼と似通った人生を歩んだ経験があるので、口を阻む事もせずに耳を傾け続ける。

 

「どこまでも自分という存在を優先する。そんな男だからこそ、理不尽な死を迎え、こうして第二の生を手に入れることが出来た幸運をなによりも嬉しく思う。そして、だからこそ俺は自分という存在が終わってしまう事を……己が『生』を失うことが絶対に認めることが出来なくなった。このセカイで初めて抱いた誰かを愛おしいと、護りたいと願う感情を『死』という己が存在の消滅を以て失うことが何よりも恐ろしい」

 

だからこそ……、

 

「かつての俺は、何よりも大切だと考えていた己が命を奪われ、喪失した。だからこそ、俺は再び大切なものを失ってしまうことなど絶対に認める事が出来ない。俺自身、アリシア、シュテル、ヴィヴィオ……俺の大切なものを奪い去ろうとする者がいるのなら、魂魄すら残さずに粉砕してみせよう。俺たちを殺そうとする転生者がいるのなら、唯一人の例外もなく滅ぼしてみせよう。セカイが俺たちという存在を認めないというのなら、遍くすべてを滅ぼし、灰燼としてみせよう。新羅万象を破界する結果を引き起こしてしまうとしても、それでも俺は抗う事を、戦う事を諦めたりはしない」

 

だから――、

 

「どんな理由があれ、人殺しは人殺し以外の何者でもない。“一人殺せば殺人鬼で百人殺せば英雄”だと誰かが言った。だが、俺はそうは思わない。どんな理由があったとしても、命を奪うという行為に正義が在るはずも無く、尊い犠牲などという言葉で有耶無耶にして構わない事柄でもない。故に俺は、“神造遊戯(ゲーム)”の関係者であろうとそうで無かろうと、誰かの命を奪った俺自身がどうしようもない悪党だと思っている。それが俺自身の罪だという事も理解しているさ」

 

罪の抗い方は一つではない。

法の裁きを受け、残された人々からの憎悪と怨嗟の声を真摯に受け止める者。

己が未来を閉じる事によって贖罪とする者。

殺めてしまった人々の分まで必死に生きようとする者。

死者たる彼らの想いを受け継ぎ、その願いを叶えることを己が新しい願いとする者。

理念、法、感情……人の数だけ罪を贖う手段は存在する。

無論、他者の命を奪う事に何ら罪悪感を感じぬ人格破綻者も存在することは事実だ。

しかし、ダークネスは己が奪った命を忘れ去ることを是非としなかった。

命の重みを誰よりも理解しているからこそ、他者のソレであったとしても決して蔑ろにして良いとは思えなかったから。

 

「連中は《神》となるための礎となった……そうは言いたくない。だがな、後悔だけは絶対にしてやらない。それだけは、何があっても俺がしてはならない行為だからな」

「じゃあ、君は手に掛けた人々の想いも背負って生きていくと……そう言いたいのかい?」

「“Ⅸ”、俺がそんな殊勝な台詞を吐くわけないだろうが。俺は、己が手に掛けた連中の想い、願い、怒り、憎悪、悲しみ、遺恨……その総てを受け止め、心に刻み――その上で、立ち止まらずに未来(マエ)へ歩き続ける。他者の想いを受け継ぐのではなく、想いを呑み込み、己がチカラと成す。それが俺なりのケジメの方法だ」

 

遍く感情を受け継ぐでもなく、背負い込むでもなく、蔑にするでもない。

ありのままを受け止め、理解し、その上で己自身の活力へと変換する。

ダークネスという存在がある限り、彼の手にかかった被害者たちがこのセカイから忘れ去られる事は無い。

《神》を生み出す生贄としてなど扱ってはやらない。

彼らは皆、ダークネスというどこまでも自分本位で身勝手な男の独善の被害者として、人々とセカイの記憶へと永遠に刻み付けられる。

それこそが、ダークネスなりの贖罪であり覚悟。

全てを敵に回したとしても、決して立ち止まらず、大切な者たちと共に未来を掴み取ってみせるという絶対不変の信念。

これが、これこそが、何があろうともうつろう事のない彼だけの『決断』。

 

「最初の質問に答えよう。俺は、誰かを手に掛けたとしても心がざわめくことは無い。けれど、それを無かったことにもしない。何故なら俺は、全てを理解した上でこの道を選択したのだから。――これが俺の答えだ」

 

光り差す道筋で無かろうと、己が下した『決断』は最後まで押し通す。

切名はダークネスの目に見覚えがあった。かつて、戦場で出会った事もある強い信念の持ち主。

正義や悪などといった意義の枠外に立つ、己が信念を貫く強さを持った存在を彷彿させる強さを、彼の目を通してひしひしと感じ取っていた。

 

「……あー、そうかい。ったく、マジでやりにくいったらねーわ。もし、平然と人殺しするような外道なら、ぶっ飛ばしてやろうって思ってたんだがなぁ」

 

頭をガシガシと掻き毟り、深々と溜息を零す。

この場にいるメンバーは、ダークネスが倒した“Ⅲ”(アルク)と付き合いの長かった者たち。

黄昏へと続く幻想世界(ヴィーグリーズ)』によって思い出を修正されているとはいえ、それでも仲間の敵であることに変わりはない。

もしダークネスが、“Ⅲ”の命を奪った事を気にも留めていなかったのならば、この場で斬りかかっていたかもしれない。

けれど、切名に認める事は出来ないとはいえ、ダークネスなりに“Ⅲ”を倒した事を受けとめている事がわかった。

多分彼と切名の未来は、決して交わることは無いだろう。

だからこそ、もう少しだけ言葉を交わしてみたい、不思議とそう思えた。

 

「なら、次は俺からの質問だ。“ⅩⅠ”、お前の目的は“神造遊戯(ゲーム)”を破壊することだと聞いたんだが、それは事実か?」

「いや、マジでどうなってんの? なんで情報が筒抜けなワケ? ――ハッ!? まさか六課に盗聴器でも仕掛けていやがるのか!?」

「ふん、そんな面倒な方法などしないさ。それ以前に、お前たちの本拠地には“Ⅸ”(ナインス)の“能力”で作られた結界が常時展開されているからな。浅はかなたくらみ程度では、突破も出来ないさ」

「八神教官の? え、マジっすか!?」

 

いきなり予想外の人物の名前が出て、切名は驚きを顕わにしながら振り向いた。

コウタは少しだけ頬を赤く染めながら、肯定の頷きを返す。

 

「気づかれていたんだ。僕唯一の“能力”――『遥か永遠に聳える神々の皇城(アルカンヘル)』。グレアムさんたちにも気づかれない位の隠密性も兼ね揃えているんだけど」

「ああ、それな。実は六課始動初日にシュテルが砲撃を叩き込んでいたりするのが理由だったりする」

「はい!?」

「着弾の際に発生した過剰魔力素の粉塵すら一瞬で消し去るんだってな? 中々に優秀な“能力”じゃないか」

 

「ちょ、シュテル!? そんなことしてたのっ!?」

「ええ、それが何か? それにしても本当に気づいていなかったようですね。まあ、あの結界には防音機能まで備わっていたようですので仕方がないのかもしれませんが。まったく、エースの名が泣きますよ『タカマチ ナノハ』」

「『なのは』で良いのに……じゃなくて! どうしてそんなことをしたの!? 一歩間違ったら大惨事だったんだよ!?」

「いえ、私なりの六課設立のお祝いのつもりだったのですが? お好きでしょう、ドカンと派手な砲撃」

「人を砲撃マニアみたいな言い方しないでくれるかなぁ!?」

『……え?』

「ちょっ、フェイトちゃん!? どうしてキリンが眠った瞬間と遭遇したかのように驚いているの!? はやてちゃん、その『いやいや、またまた~』的なリアクションはどういう意味なのかな!?」

「いや、だって……」

「なぁ……?」

「公認砲撃魔(笑)」

「う……うわぁああああああんっ!?」

 

女湯がすごく……にぎやかです。

シュテルさんの毒舌は、本日も絶好調のようだ。

 

「うわ~……何でそんな事に」

「お前の“能力”は庇護対象をあらゆる外敵から護り抜く『盾』、いや『城塞』と呼べるものなのだろう? それならこの結果も当然の事じゃないのか。『盾』を構えた騎士が攻撃を受ければその瞬間に襲撃を受けたことを認識できるだろう。何故なら、『盾』が攻撃を防げるのは一方向のみ。全方位を囲まれでもすれば、いかに強力な『盾』がだとしても防ぎようがないからな。それに対して、お前の“能力”は『城塞』だ。攻撃に対処するのは『城塞』を統べるお前(コウタ)のみ、『城塞』の最深部で守られている連中に敵襲を知らせる必要も無いからな。だからこそ、外部からの攻撃の振動や気配、音すらも遮断してしまっているんだよ」

 

あらゆる物理・魔法攻撃を弾き、無効化する絶対防御能力。

それこそが『遥か永遠に聳える神々の皇城(アルカンヘル)』の正体だ。

術者が味方と判断した存在には何ら影響を齎さない反面、敵意ある者の侵入を一切遮断し、侵入を阻む。

十年前、地球の八神家を包むように展開されたこの“能力”によって、はやてたちを利用しようと企んでいたグレアムたちの接近・侵入を許さない鉄壁の防壁としてその力を示したこともある。

監視を務めていたリーゼ姉妹は、この“能力”によって『ここに居たくない』『今すぐこの場を離れたい』という嫌悪感にも似た感情を胸に抱かせ、監視網の交代を余儀なくされた。

結果、かなりの距離を開けての監視以上の行動をとることが出来ず、グレアムたちに焦燥感を感じさせ、“Ⅹ”(ディーノ)へ共闘提案を持ちかけさせるきっかけにもなった。

こと守りにおいては無類の威力を発揮するが、その反面、庇護対象を過保護にするあまりに敵の襲撃を内部の人々に気づかせなかったというミスを起こしてしまうような欠点も存在しているのだ。

 

「その辺りの微調整が出来れば(・・・・)さらに安定した“能力”だと言えるんだがな? そこまで望むのは酷というものかな?」

「ぐっ……!?」

 

複数個の同時展開が可能とは言え、その性能は基本的に同一。

術式として発展・改良を重ねられてきた封次結界とは異なり、人智を超えたチカラ……“能力”によるものなのだ。

誰かの手を借りて調整するなど不可能な故に、機能を改善しようものならコウタ一人でどうにかしなければならない。

実際、十年前に葉月のアドバイスを受けて『遥か永遠に聳える神々の皇城(アルカンヘル)』の性能強化を施したことがある。

だがその時は、着手から完成まで優に五年もの月日を費やす羽目になってしまったのだ。

それを思うと、決して容易い物ではない。

もしそれでもどうにかしようとするのならば――

 

「手ごろな参加者を倒して“因子《ジーン》”を奪えば、楽に強化もできるがな? ま、土台無理な話というものか」

「……っ!」

 

最初から出来るはずがないと分かっていながら口にしているのだから、つくづく彼は人が悪い。

 

「まあ、それは置いておくとしよう。で、どうなんだ“ⅩⅠ”」

「散々ひっかきまわしておいてそれかよ……。ま、まあ、確かに俺の目的は“神造遊戯(ゲーム)”をブッ潰して、無駄な被害を出さないようにすることだ」

「ふむ……だが、『黄昏へと続く幻想世界(ヴィーグリーズ)』はどうする? あれが発動しれば最後、誰かが脱落しなければあの空間から脱出することは出来ないのを忘れた訳ではあるまい。もしお前や“Ⅸ”(八神 コウタ)”Ⅵ”(花梨)が共に取り込まれたらどうするんだ?」

「へっ、伊達や酔狂でコッチへ転移なんざしてねぇのさ。ちゃんと、結界破りの手段は用意済みよ!」

「ほぉ、それは実に興味深いな。だが、もし俺と貴様が対峙することになったとしたら、結界破りの手段とやらを使わせる前に倒させて貰うがな」

「くくっ、そいつは無理な相談って奴さ」

 

己の力に対する自信からくる言葉だったが、切名は視線を逸らせるでもなく、憤慨するでも無く、意味ありげに真っ直ぐ見返してきた。

こけおどしの類ではないと察したダークネスの双眸が、すうっ、と細められる。

 

「真なる参加者……『神成るモノ』、そしてさらにその上にある段階……新たなる神への進化を始めたモノ――『新生せし神の雛』とも呼べるレベルに達しているのが自分だけだと思うなよ?」

「その口ぶり……なるほど。形相な目的を掲げるだけの事はあるということか」

 

つまり、切名もダークネスと同じく『神成るモノ』よりも上の段階へと進化できるという事だ。

神の末席に名を馳せる『救世騎』と成っているのだから、そのくらいの力を隠し持っていたとしても不思議ではない。

だが……、

 

「“ⅩⅠ”、お前は俺たちのように赤子としてこのセカイに生れ落ちたのでは無いと言っていたな? つまりお前は生前の姿でこちらへやってきた……言わば、転生者ではなく転移者(・・・)という事か?」

「は? それがどうかしたのか?」

「……お前、もしや“因子(ジーン)”をその頃から宿していなかったのではないか? こちらへ転移する際に、デバイスコアと“因子(ジーン)”を受けとっただけじゃないのか?」

「へ? いや、う~ん……確か、そうだったかもしれんけど……。それがどーしたってんだよ?」

「なるほど、それでか。なぜわざわざチカラを封印しているのかずっと気になっていたんだが……ようやく合点が言った。やはり、今のお前は俺の敵に成りえない」

「な――!?」

 

挑発的な、しかし確信を以て告げられた言葉に、切名は口元を引きつらせる。

切名の実力を聞かされていたコウタや宗助、仲間として共に戦場を掛けるカエデたちも、何故そんなことが言いきれるのかと訝しむ様な表情を浮かべている。

 

「ま、知られたところで大した問題ではないから教えておいてやる。花梨、これはガキどもだけではなくお前にも該当することだからしっかりと耳を澄ましておくんだな」

「っ! 余計なお世話っ!」

 

壁の向こう側に石鹸を投げつけられたような音が響き、何やら宥めるような会話が聴こえてくる。

それを意に反さず、湯ぶねの淵に肘をつきながらつらつらと説明を始めた。

 

「俺たちの魂に融合している“特典”や“能力”の源とも呼べる“因子(ジ―ン)”、こいつの融合度合いにはいくつかの段階が存在している。有り体に言えば、体内に宿った“因子(ジ―ン)”が完全に定着するまでには相応の時間が必要という事だ。そもそも、何故俺たちが赤ん坊から人生をやり直さなければならなかったのか? “ⅩⅠ”のように若返らせてから送り込むという方法も取れるというのに、何故こんな時間のかかる真似をせねばならなかったのか。確かに、このセカイで生まれ育った人間としてのほうが、主要人物共(高町 なのはたち)と接点を持ちやすいという利点はある。だが、手早く“神造遊戯(ゲーム)”を完遂させて《神》を生み出したいのならば、ある程度の年齢で送り込むほうが適切とは思わないか?」

「それは……」

「言われてみればそうだね……。そもそも、前世の僕はよくあるトラックに撥ねられたりしてないし。いきなり拉致されて転生だったから」

「まあ、死に直面した際に見定められた奴もいるのも事実だが、それをふまえても違和感を感じずんはいられなかった。そしてこう考えた。“神造遊戯(ゲーム)”参加者の根幹を成す“因子(ジ―ン)”、その力を十全に引き出すことができるようになるには、相応の時間を必要とするのではないか? ――とな」

 

この理論にダークネスが至った裏側には、『無印』編の最終決戦における“Ⅳ”(新藤 荒貴)“Ⅴ”(バサラ・ストレイター)の存在。

そして、『A’s』編における、花梨の限定的な『神成るモノ』への進化があった。

 

まず前者。

彼らが最後に激突した際、両者ともに魂を高ぶらせることで“因子(ジーン)”を限界まで活性化させてみせた。

それにより、人を超えた『神成るモノ』として覚醒する資格を十分に得ていたし、あの攻防の際、確かに『魔法力(マナ)』を扱って見せていた。

 

後者は、『限定起源解放(プリ・アクセス)』という予想外の方法で、一時的に人間を超える姿を垣間見せた。

 

しかし……、どれも完全に人を超えた存在たる『神成るモノ』として、完全に覚醒出来た訳ではなかった。

限りなく近い存在のレベルにまで達していながら、最後の境界線を乗り越える事が出来ていなかったのだ。

最初は、精神的な未熟さや人を超える覚悟が無いのだと考えていた。

だが、いくつもの理論を組み上げ、分析を続けた結果、それ以外にも確たる理由が存在していることに気づいたのだ。

 

それこそが、『“因子(ジーン)”が魂に定着していなかった』という言葉の理由。

 

完全な『神成るモノ』として覚醒出来ているのがダークネスやルビー、“Ⅹ”(ディーノ)という、花梨たちよりも年上の存在であること。

幼い頃の花梨たちの大半が“能力”が未覚醒、不完全状態であり、《神》を生み出す戦いを勝ち進むだけの力量が十分とは言えなかったこと。

さらに、“因子(ジーン)”を宿して日が浅い元英霊の切名が、限りなく人間に近い(・・・・・・・・・)ことが決定打となった。

切名の言葉を真とするのなら、彼から感じる気配がダークネスと同じように、人ならざる存在のものでなければおかしい。

一度でも人間を超えてしまった者は、人ならざる気配というものを纏うようになる。

これは肉体のみならず、魂までもが変異しているから起こる現象で、“真名”の封印程度では到底誤魔化しがきかないものだ。

だが現実として、切名は『神成るモノ』として未覚醒の状態のソレ。

ならばその理由は?

 

「“因子(ジーン)”は俺たちにチカラを与えるだけではなく、肉体を人ならざるモノへと変貌させる鍵なのだろう。長い時間、そうだな……おそらくは十年程度の期間を掛けて“因子(ジーン)”と魂が完全な融合を果たすのだろう。そして、それが果たされた時こそ、『神成るモノ』へと進化できる肉体への改造も完了するのではないか? 花梨、“Ⅳ”、“Ⅴ”は肉体が変異に耐えられなかったから完全な進化が出来なかった。“ⅩⅠ”(オマエ)も同じだ。肉体が人間よりだから、“真名”を封印しなければこのセカイに転移できなかったのではないか? いかに魂が人を超える素養を秘めていたとしても、器が脆弱ならば容易く自壊してしまうからな」

「だっ、だが俺は英霊に並び立つまでに至っていたんだぞ!? 若返ったとはいえ、昔の肉体そのままでコッチに来てんだから、そんな事があるわけ――」

「英霊と『神成るモノ』は全くの別物という事なのだろうな。そもそも、元からお前が“因子(ジーン)”を宿していたのなら、わざわざデバイス共々渡す必要性も無いからな」

「じゃ、じゃあ、女神が俺の“真名”を封印したのは……」

「送り込んで早々に自壊しないようにって言う心配りじゃないのか?」

 

実際は、“真名”を解放すれば切名は『神成るモノ』として、更にその上の段階に属する存在としてのチカラを行使する事は出来る。

だが、肉体の変異が不十分であるために、引き出したチカラ相応のキックバックが肉体に課せられる可能性は否めない。

今の切名がどの程度のチカラを引き出すことができるのか……それは、実際に試してみなければ分からないのが現状なのだ。

 

「――さて、討論はこの辺で切り上げるとしよう。今はまだ、お前たちを警戒しなければならないほどの脅威は無いということがわかっただけでも、十分な収穫だ。……ま、守護獣が懇意にしているシスターとやらも気になるところだが、流石にこれ以上弄るのもどうかと思うしな。ボーイズトークも悪くは無いが、この施設の目玉らしい露天風呂にも浸かりたいんで、向かわせて貰う」

 

普段の疲れを癒す浴場でこれ以上の討論会を続ける気が失せたらしく、ダークネスは強引にこの場を解散させようとしてきた。

一瞬だけ壁の向こう側へと視線をやると、徐に湯ぶねから上がり露天風呂の立札が掛けられた扉の方へと歩いていく。

 

「あ、そう言えばボクも王さまと約束してたんだっけ! 待ってよ、だーく。ボクも外のお風呂に入るから」

「その言い方はどうなんだ? いや、まあいいんだが……意外と大胆だなお前」

 

便乗する様に湯ぶねを飛び出したレヴィが、ぺたぺた足音を立てながらダークの後を追う。

露天風呂へお通じる扉は共通の一つしかないが、その先にいくつも枝分かれた流路がこさえられていて、個人用の小さなものから、ゆったりとした広さを堪能できるサイズのものまで多数備え付けられている。それぞれの風呂には番号が割り振られているおかげで、人と待ち合わせる事も可能なのだ。

もっとも、『混浴』の注意書きの通り基本的に恋人や夫婦、あるいは家族くらいしか利用しようとする勇気のある強者が居ないのが難点だが。

それはともかく、堂々と混浴宣言をかましてくださったレヴィにダークさん呆れ顔。

女湯の方から、はやてのハイテンションな叫びとディアーチェの解読不可能な奇声が聞こえてくるのは、とびっきりのネタをきっかけとしたキャッツファイトが繰り広げられているからだろう。

果たして、レヴィが無傷で風呂を上がることができるのか非常に心配なところだ。

話についていけず、耳から煙を出していたカエデが、レヴィの発言で意識を取り戻す。

 

「え、露天風呂? ――っしゃあ! たゆんたゆんなおっぱいとぷりんぷりんなお尻が俺を待っているぜヒャッハー!!」

「俺は……どうすりゃいいんだ……って、あっ!? 待てやコラ! なんてことほざいていやがるか、このヤロ――!」

「う~ん、せっかくだから僕たちも行こうか? 子供用の方なら多分空いてるだろうし」

「ん、了解っす。ザフィーラさんはどうするんで?」

「我はここに残ろう。じっくりと楽しんでくると良い」

 

こうしてザフィーラを残し、男連中は露天風呂へと向かう事となったのだった。

 

 

・切名の場合

 

「セナ」

「おー、ティア。いらっしゃー……い」

「あによ」

「い、いや、別に」

「……そ」

 

なのはの教導で身に着けた運動能力をここぞとばかりに発揮して逃げ遂せたカエデを気にしつつ、あらかじめ約束していた露天風呂でスタンバっていた切名に遅れること数分。

タオルで身体を隠し、リボンを解いて髪を下ろしているティアナが姿を現した。

見慣れたツインテールとは違っているせいか、なんだか大人っぽく見える。

心臓の鼓動が少しずつ早まっていくのを、切名は自覚する。

 

「ふぅ……星空が見えるってのも結構良いものね。これがツナの故郷なんだ……」

「だろ? 正確には違うってことになるんだろうけど……でも、『地球』なのは間違いないってね」

「そっか……」

 

湯ぶねに腰を下ろし、お互いの肩がくっつくほどの距離で心地良いお湯を堪能する。

六課の隊舎には基本的にシャワーしかないので、こういった骨の髄までじんわりと染み渡る様な湯ぶねは早々味わう事が出来ない。

だからと言う訳ではないが、このえも言えぬ温もりに身を委ねたい。

 

「ねぇ……セナ」

「どしたー?」

「……えっち、したいの?」

「んがっ!?」

 

突然の不意打ちに思わず仰け反り&縁の石で後頭部を強打した切名君悶絶。

ついでに、普段の彼女ならばまず言わない台詞を口にしてくださったので、彼の紳士が反応しつつある。実に危険な兆候だ。

いろんな意味で悶える切名の肩に頭を乗せながら、上目使いでティアナが見上げてくる。

湯気と濁ったお湯のお蔭で大部分は遮られているとは言え、水面から見え隠れする胸元の谷間とか、ほんのりとピンク色な鎖骨とか、潤んだ瞳とか……とにかく直視するには色々とヤバい。

切名も年頃の少年なのだ。そう言う衝動は人並みにあるし、六課に配属されてからはずっとティアナと別の部屋での生活が続いている。

定期的な休暇も自己鍛錬に費やしてしまっているので、まともな休暇は今回が初めて。

つまり、彼女とは恋人関係でありながら、デートどころかキスすら久しくしていないような状態なのだ。

無論、今が管理局員としても参加者としても重要な時期である事は十分に承知している。

しかし、生理現象というものは理性ではなく本能によって司られるもの。

どう取り繕っても、腰に巻いたタオルがぴくぴく震えている様子が切名の答えを言外に告げてる。

 

「はぁ……男って奴は、ホントにもう……」

「う、す、すまん。てかいきなり妙なこと言い出すティアも悪いと思うぞ! 何でいきなりあんな――」

「だ、だって、しょうがないじゃない! アンタたちの声が大きすぎるのがいけないのよっ! お蔭で私がアンタと、その……つ、付き合ってるって知られちゃったじゃない! アリシアさんとかシュテルさんとかディアーチェさんとかがものすごくイイ笑顔で詰め寄って来たのよ!? おまけに、えと、ぁぅ……よ、夜の、その……え、えっちする時のアドバイス的なものまで……」

 

講師はアリシア、シュテル、ディアーチェ、ついでにヴィータとすずか、アリサ。

生徒役はティアナを(強制的な)筆頭に、ちみっこ~ズを覗く全員。

実体験を元に実に生々しくもエロティックなガールズトークが開催されていたようだ。

無論こちらは防音結界を展開の上で、だが。

 

「え、えっとお……」

「どうなの? ハッキリしなさい」

「……ごめんなさい。したいです。だって男の子ですからっ!」

「バカ言ってんじゃないわよっ! ――ホント、バカなんだから……っ」

「……っ」

 

徐にティアナの腕が切名の首へと回される。そのまま引き寄せるように唇を近づけ――

 

「――ン」

 

数か月ぶりになる、恋人同士の甘いキスが交わされた。

 

 

・宗助の場合

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……お見合い~?」

『むしろ修羅場ではないか?』

「「「「「いや、違いますからっ!?」」」」」

 

こちらは子供用露天風呂。

入浴者は六名+一匹。内、平然としているのはヴィヴィオと彼女の頭の上に乗っかったフリードのみ。

エリオとキャロは、ついこのあいだに戦った事もあってどうにも居心地が悪そう。

背中合わせにお湯につかりながら、時々チラチラと相手の様子を窺っている。

宗助、リヒト、ルーテシアは三人仲良く横並び。真ん中の宗助の両脇に少女二人が陣取る形。

男湯え繰り広げられた話の大部分は理解できなかったようだが、恋人云々の部分は理解できてしまったらしく、ただのクラスメートだった筈のお互いを微妙に意識してしまったらしい。

 

――どうしてこうなった……。

 

宗助はちらりと視線を右手の方へ。

 

「……ぁぅ~」

 

そこには、恥ずかしそうにモジモジしているリヒトのお姿。

つつましやかでありながら、ちょっぴり成長を始めているお胸の膨らみとか、髪を纏めたお蔭で顕わになっているうなじとか……ぶっちゃけ目のやり場所に困ります。汗に濡れた頬に張り付いたひと房の髪、ほうっ……と熱い吐息を零す濡れた唇。

“可愛い”よりも“綺麗だ”と思わせる色気がそこにはあった。

かと言って逆方向へと視線を動かしてみると。

 

「……あにさ」

「いや……別に」

 

宗助の視線に気づいたルーテシアからジロリと睨み付けられてしまう。でも、普段のようなからかう余裕みたいなものは感じられず、寧ろ虚勢を張っているようにしか見えない。実際、お湯の中で伸ばされている年相応にすらりとした四肢、リヒトと同じように髪を纏められているお蔭で普段より大人っぽく見える横顔。ほんのり桜色に上気した肌からは、温泉の香りとはまた異なった甘いミルクのような“女の子”の匂いを感じるような気がして、気を緩めたら抱き寄せてしまいそうな……何とも危険な予感を感じずにはいられない。

 

――宗助くんって……

――意外と……鍛えてるのね……

 

もっともそれは少女たちにも同様のことが言える。

いつ結界に囚われ、戦いを強制させられるのかわからない以上、一人でも戦えるように鍛え上げられた身体は、同年代の少年に比べてがっしりとしている。口調こそぶっきらぼうなくせに、暴力に訴える様な真似はまず見ない宗助も、しっかり“男の子”なんだなぁ……と再認識。

同時に、胸の奥がぼうっと熱くなったというか、ドキドキ心臓がうるさくなってきたような気がする。

それでもって、頬も赤くなってきたような……不思議な感じ。

 

「「「……」」」

 

結果、胸のもやもやをどうすればいいのかさっぱりわからなくて、口を紡いでしまうのだった。

 

「みんな黙っちゃって変なのー。なんかつまんないから、ダークパパたちのトコに行こっと♪」

 

そう言い残してヴィヴィオが扉の向こうへ消えていった後も、微笑ましくももどかしい光景が継続されるのだった。

 

 

・ダークネスの場合

 

「良い景色だな……」

「なんだよ~~」

「ほぅ……これはこれで風情が合って良いものですね」

 

混浴の露天風呂に身を沈め、肩を寄せ合ったダークネス、アリシア、シュテルの三人は、こぞって満足そうな笑みを浮かべていた。

ヴィヴィオがお子様風呂に出向いてしまったので家族団欒とはいかなかったが、身を守る程度の力は教え込んだので心配はしていない。

念のための保険もかけているのだ、問題は無いだろう。

今はゆっくりと、温泉が齎してくれる心地良い安堵感に身を委ねていたい。

 

カラカラカラ……。

 

――ん? 今の音……通路に備え付けられた扉が開いた音か?

 

湯ぶねに沈みかけていた身体を起こして、音が聞こえた湯気の向こうへと視線を向ける。

両脇の二人が「何事?」 と首を傾げているので幻聴だったのかもしれないが――……

と思っていた瞬間、扉の上に備え付けられた耐水性の蛍光灯の灯りがちょうど逆光の形になって、そこにいる人影のボディラインを顕わにしてしまった。

それと同時に、空気を読んだのか知らないが、いたずらな風が吹いて、視界を真っ白に包み込んでいた湯気が少しだけ薄まった。

 

「は?」

「「へ?」」

「「「……え?」」」

 

ピチョーン、と雫が落ちる音がやけに大きく響く。

ダークネスが目を向けた先にいたのは、長い髪を肌に張り付かせて、タオルと髪で大切な所が微妙に隠されて見えそうで見えないという、なんとも艶めかしい艶姿の美女たち……花梨、なのは、フェイトだった。

微妙な差異こそあれど、誰もが目の前の光景が理解できず、呆然としたまま固まることしか出来ないでいた。

小さなタオルで身体を隠しているとはいえ、圧倒的に面積が足りないそれで完全に隠すことなど出来なるはずも無く、髪の隙間やタオルの端から淡い桃色に色づいたナニカが見えてしまいそうで――

 

「ダークパパ~♪ アリシアママ~♪ シュテルママ~♪ ヴィヴィオもこっち来る~~……はにゃ? お姉さんたちも一緒にお風呂入るんですか?」

 

無邪気なお子様の声で、一同は再起動を果たし、

 

「「「っきゃぁあああああああああああっ!!」」」

 

身体を抱き締めながらしゃがみ込む乙女たちの絶叫と、

 

「「っ、見ちゃダメ(です)ッ!!」」

 

魔力強化された指で、自分たち以外の女性の肌をがん視していた浮気者(違)の頬を妻&嫁が全力で抓る音と、

 

()だだだだだだだだだだっ!?」

 

理不尽なお仕置きをくらってしまった被害者の悲鳴と、

 

「はにゃにゃ~~?」

 

意味が解らず、コテン、と首を傾げる少女の声が重なり合うのだった。

 

 

 

・レヴィの場合

 

「っぅ、はぁっ、んふっ……」

「ッぷは……んっ、ちゅうっ……」

「んんっ、うっ、っぷはぁっ! ちょっ、ば、バカ、もの、ぉ……キス、ばっかり、するでな、い……」

「いいじゃん、王様。ボク、すっごく王様とキスしたい気分なんだっ♪」

「ばっ、バカ――ふむっ!? あふっ、や、やめっ……こ、こがら、す……共に、聴こえ、ちゃ……っ!」

「――い ~んじゃない? だってぇ……『ディア』ってば、こんなに可愛いんだから、さっ」

「っ!? ぅ、うう~~っ! ば、ばかばかっ! こんな時に名前で呼ぶ奴がおるかっ!」

「えへへ~~」

「――ッ!! ば、ばか、ぁ……」

「大好きだよ……」

「……うん」

 

細く、しなやかな四肢を惜しげも無く晒すディアーチェを抱きしめながら、レヴィの唇が吸い寄せられるように近づいていく。

口では拒絶していながら、ゆっくりと瞳を閉じたディアーチェもまた、愛しい人の想いを受け止めようと顎を上げる。

そして……月明かりを遮る白い湯煙に包まれながら生まれたままの二人の唇が、再び重なりあった――――。

 




最後にエロを入れるのはお約束なのです!
てか、ダークさんのリア充っぷりがハンパないですな。
妻、嫁、娘がいて、愛人(?) 疑惑のライバルとその妹に姪(?) までとは。
しかも身内以外の全員が、(戦闘的な意味で)キズモノにされちゃった経歴アリ。
これは……責任を取らないといけないかもしれませんねっ!? (爆)。

次回はいちゃラブシーンとロストロギア確保、になるのかな?
少し戦闘シーンも入れる予定。

――ところで、アルフの姐さん&ザッフィーの兄貴のお相手は誰なんでしょ~ね~?


※オマケ
・男衆の戦闘能力順位表(笑)
ランクは、各々の戦闘力と知名度により数値を算出。

1.怪獣王         :言わずと知れたキングオブモンスター
2.千年竜王        :善玉化したVer.の宇宙超怪獣。実力は怪獣王と同格
3.某国の巨猿       :某大国出身のお猿さん。知名度補正がずば抜けているのでこの位置
4.戦闘型守護獣      :バトルモスラと呼ばれる黒い大蛾。『矛』である星の守護神
5.邪竜の系譜に連なる戦闘者:ギドラ族の親戚、改造体とも呼ばれる宇宙サイボーグ
6.戦闘型守護獣      :尖がったアルマジロ。ファイナルなのにボールにされちゃいました
7.大地の護国聖獣     :「怖いけどちょっとかわいい♪」と女性に人気者な赤いやつ
8.王の源竜        :将来性抜群。この子と核兵器がユニゾンすると怪獣王が誕生します
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