魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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満を持して《あのお方たち》がご登場。
……もちろん今回限りのゲストですよ?


超龍皇顕現

(……どこだ、ここ)

 

視界に広がる風景に、ダークネスは何処か他人事のように疑問を浮かべた。

ここはかつて、『己』という存在が『No.”Ⅰ”』へと生まれ変わった場所に酷似している。

手足の感覚が無く、自分と言う存在がどこまでも稀薄になっているのだと魂で理解する。

大地に立っているのか、宙を飛んでいるのか、はたまた水の中に漂っているのか……。

まるで、自分と言う存在が世界そのものに溶け込んでしまっているかのようだ。

剥き出しにされた魂が何者かの掌で弄ばれている訳ではないと思いたいが……それでも、不安を感じずにはいられない。

だが、

 

(……暖かい、な)

 

同じようで、まるで違う。

かつて見た白一色に染め上げられた世界は、何色も存在を許されないが故に、どうしようもない拒絶を感じさせるものだった。

しかし、今己が漂っている世界は、無色なれども暖かく、愛しむような優しさに満たされている。

そう、言うなればそれは、慈愛に満ちた守護者の領域――……

 

――拒絶反応は無し、か。やはり、資質は十二分にあるようだな。

――みたいですね。

 

静寂に満たされていた優しき世界に、突如として二つの声が響き渡った。

 

(――なん……だと……!?)

 

今まで気配すら感じられなかった空間から聞こえてきた声に驚き、慌てて目蓋を開きながら振り向いたダークネスは驚愕で言葉を失ってしまう。

そこにいたのは、人ならざる二つの超越存在。

腕を組み、ダークネスを見下ろしていたのは金色の輝きを放つのは、黄金色の鎧を身に纏った巨大なるヒトガタ。

生物のような生命の脈動を感じられるというのに、その外見はまるで巨大な機動兵器のよう。

威容にして強大なる《神》たる存在――《黄金神》スペリオルカイザーZ。

もう一人は、全身が純白に包まれた穢れ無き白き者。

まるで天より降り注いだ純白の淡雪のごとき澄み切った『白』を体現させたかの存在もまた、人ではなかった。

黄金の巨人と似通った、生物とも機械ともとれる姿。

されど、どこか人間らしい親しみやすさを感じさせるような――今までダークネスが出会った事のないタイプ。

言葉を失うダークネスを気遣うように、白き彼は微笑みを浮かべながら彼の手をとると、自身のソレを重ねて優しく包み込む。

たったそれだけで胸の動悸が治まっていくのを、ダークネスははっきりと感じとっていた。

同時に理解する。彼らは己の敵ではないのだという、純然たる事実に。

 

――ほぅ……。

 

黄金の巨人……スペリオルカイザーZが感心した風に声を上げる。

眠っていた彼を強制的に自分たちの領域へと招き入れた黄金の神は、ダークネスの適応能力に……いや、自分たちの本質を一瞬で見抜き、最善の選択を選ぼうとするその気質に無言の称賛を送る。

突然の事態に混乱して錯乱する様子を微塵も見せず、それどころか自分たち《神》が接触してきた理由を大まかにではあるが理解し、現状を受け入れようとしている。その在り様は、彼らが《鎧》を託すに相応しい資格を持っていると判断できる。

白き守護者……サンボーンは、直接的な接触を介することでダークネスの本質を理解できたが故に自分たちの判断はやはり正しかったのだと確信し、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。

 

――先輩。僕は彼なら任せられると思いますよ。

――確かに。“奏者”となる資質は十二分に……、否、すでに覚醒の予兆すら感じさせるか。本当に大した者だ。だからこそ……“あの者”が警戒しているのだろう。

――ですが、それがチャンスでもあります。あのセカイに僕たちは介入できませんから……。

 

自分を呼び出しておきながら何事か相談を始めた彼らに、ダークネスは言葉を挟む事もせずに、ただじいっと彼らの姿を見つめていた。

まるで――何かに魅入られたかのように。

 

――っと、先輩、そろそろ……。

――む、すまない。我らが呼び出したと言うのにほっぽり出してしまって。

(いや、別にいいんですがね。で、そろそろ要件を聞かせて貰えませんか?)

 

その言葉に――実際には声が出ている訳ではなく、この空間では念話のようなもので意思疎通が出来るらしい――頷きを返したスペリオルカイザーZに促されたサンボーンが胸元で両手を合わせ、何かを祈る様に呟いた。

聞き覚えのない言葉の羅列。純白の守護者より紡がれるのは、天使の歌声を彷彿させる召喚式。

 

――来たれ……金色の飛龍皇よ!

 

詠唱が終わった次の瞬間、空間を切り裂くような残光と共に真紅の翼を羽ばたかせた金色の存在が飛来した。

 

(こ、これは……!?)

 

今度こそ、ダークネスは驚きに目を見開かせた。

サンボーンの傍らに降り立ったのは、この場で最も強大な存在である《黄金神》と似通った姿をしたドラゴンであった。

宝石のように光り輝く黄金の竜麟で全身を覆い、前方へ突きでた頭部は翼と同じ燃え盛る様な真紅。

翼の根元部分には、《新生黄金神》となった時のダークネスの肩鎧と酷似した竜頭が二つ存在している。

かの者こそ、《黄金神》が新たなる白き《神》に世界を委ねる際、補佐として産み落とした大幻獣――『天翔飛龍皇』エクスワイバリオンであった。

召喚されたエクスワイバリオンは、まず生みの親とも呼べる《黄金神》を確認するや歓喜の雄叫びを上げ、彼の周りを踊るように飛びまわる。

やがて満足した彼は、現在仕えているサンボーンの元へと降り立ち、じゃれ付く様に頭を擦りつけ始めた。

いかつい見た目に反して感情が豊かなようだ。微笑ましさすら感じさせる黄金の飛龍の姿に「自分はどうすればいいんだ?」 と溜息を吐きたくなったダークネスであったが、不意にエクスワイバリオンの視線が己を射抜いていることに気づく。

 

「……」

 

じぃ~~っ

 

(……む、むぅ)

 

どう反応すればよいのか分からず、思わず目を背けそうになったところで、エクスワイバリオンの方から距離を詰めてきた。

ぴすぴす、と鼻を鳴らし、計六つの瞳でダークネスを見つめてくるエクスワイバリオン。心なし、何やら期待しているような表情をしている……ような気がした。だから……

 

――ぽふっ。

 

「……!!」

 

――ナデナデ……。

 

「――♪」

 

ついつい頭を撫でてしまったのもしょうがない事だと思う。

ついでに、今更ながら自分の四肢が健在であることに気づく。以前のように自分の身体が存在しない、剥き出しの魂だけでこの空間に引き込まれたものとばかりに思い込んでいたのだが、どうやら違ったらしい。

 

……それにしても、ものすごくイイ笑顔のサンボーンと、無言でサムズアップをしているスペリオルカイザーZの視線が生暖かくてしょうがない。

ていうかこの人(?) たち、一体何しに来たんだろうか?

 

――うんうん、どうやら彼に認められたようだね。それじゃあ、これから彼の事やあのセカイの事……よろしくお願いするよ。

 

(――え?)

 

――その者は我の分身にして、新たなる守護龍となりしもの。必ずや汝の力となる事だろう。決して損はさせんよ。

 

(ちょっ――ま――!)

 

――では、な。我が後継者よ、汝の未来に光あらんことを。

――君のセカイに蔓延する闇より暗き悪意……君の輝きが浄化することを願っているよ。

 

最後に意味深な言葉を残して、《黄金神》と《純白の守護者》の気配が遠ざかっていく。

後に残されたのは、どこかに引き戻されていくような感覚に包まれたダークネスと、彼にしがみついている黄金の飛龍。

意識が薄れゆく中でダークネスは思った。

 

――意味深な事言うだけ言って放置か! 大事な事はきちんと言わんか! ――と。

 

……もしこの場に花梨がいればこうつぶやいていた事だろう。

 

――アンタが言うな! ……と。

 

その後、彼がホテルのソファーで目を覚ました瞬間、突如真上の空間が揺らめいて飛び出してきたエクスワイバリオンに押し潰されるハメになったのは、決してお茶目な《神サマ~ズ》の悪戯なのではない――ハズだ。

 

これは、海鳴市から戻ってきた翌日に起こった出来事である。

 

 

――◆◇◆――

 

 

広大な密林の地中に建設されたスカリエッティ一味のアジト。近代的なデザインが施された廊下を駆け抜ける白い影。

彼女は目的の人物を確認すると、「気遣い? なにそれ喰えんの?」 と言わんばかりに突撃を敢行する。

 

「おにぃ~~、ちょっと良い~~?」

 

咲き誇るヒマワリを彷彿させる笑顔を浮かべたルビーの襲撃を受け、スポンサーへと提供する技術についてウーノと相談していたスカリエッティは盛大に頬を引きつらせた。ウーノも同様の表情を浮かべていることを見るに、相当苦い記憶があるらしい。

不気味を通り越してから恐ろしい笑顔の妹に、スカリエッティはどうか自分に被害が起こりませんようにと祈りつつ、言葉の先を促す。

 

「確か今日、アグスタで古代遺産(ガラクタ)のオークションされてるんだよね? おにぃもガジェットとか送り込んだりするんでしょ? 行くのはキーちゃん?」

「あ、ああ……。確かにキャロ君に指揮をお願いしていたはずだけど」

「そっか♪ そんじゃ、ボクのオモチャも持ってって貰うけどいいよね?」

「オモチャかい? ひょっとして『彼女』を――」

 

脳裏に浮かんだ、今後の鍵となりうる戦力(じんぶつ)を幻視し、流石にリスクが大きいのではと難色を示すスカリエッティ。

だが、

 

「うんにゃ、『あの子』じゃなくて“鎧”の方だよ。試作品がいちおー形になったから、データ収集も兼ねて動かしてみようかってね」

「ちょ、ルビー!? アレは私たちの切り札となりうる兵器ですよ!? いくらなんでもリスクが大きすぎます!」

 

スカリエッティ陣営が保有する戦力……古代遺産たる『王の船』と『姉妹たち』。そこに“紫天一派”も加えれば、それだけで相当の戦力だと言えるものの、ルビーが現在開発調整中の“鎧”と呼ばれる兵器は、それらを遥かに凌駕しうる可能性を秘めているのだ。

楔を打ち砕き、真の意味で自由を掴もうとしている彼らにとって、それはまさしくとっておきのジョーカー。おいそれと人目につかせるような真似は、なんとしても避けねばならない。

 

「い~んだよ、アレはまだまだ試作品。内部骨格(フレーム)と人工筋肉の調整が済んだだけのプロトタイプでしかないんだから。アレを完成させるには、まだまだデータが不足してるんだ。だから、せっかくの機会だし、今の状態で六課にぶつけたらどうなるか試してみたいんだ~。 ――あ、ちなみにもう現地に転送済みだったりして♪」

「「ちょっ、おま!?」」

「てへぺろ♪」

 

まさか、この問答自体が“鎧”を転送させている間、邪魔が入らないようにという時間稼ぎであったとは。

絶句するドクターと秘書さんを尻目に、天災(ルビー)はアグスタで繰り広げられるであろう“殺戮”の光景を脳裏に浮かべ、口端を吊り上げるのだった。

 

「さ~って、クズども。精々、足掻いて見せろよ~? 装甲ゼロ、内部剥き出しの試作品とは言え、いまんところボクの最高傑作なんだからね……『プロトA』は、サ」

 

展開させた空間モニターに映りこむ、異形の群れを従えた竜の巫女とアグスタから離れた森の中で膝を折って待機してる巨大な人型の兵器を見つめたルビーの悪意が、なのはたちへと襲いかからんとしていた。

 

 

――◆◇◆――

 

 

存在(ウツワ)喰われ(・・・)空虚(カラッポ)になったソレは歓喜に打ち震えていた。

空虚な器(カラッポ)だった“己”が“個”と転じていくのを実感する。

瞼を開き、暗黒の世界から抜け出す。軋みを上げる外殻の煩わしさ、役目を与えられたという事実に昂揚する胸の昂り、その総てが懐かしくもあり、新鮮でもあり……そして新しい。

“己”を満たすは、()の自分を生み出した創造主より授かりし使命。

伽藍堂であった存在は、使命を与えられて確たる存在へと生まれ変わる。

大気を震わせる豪風(といき)を吐き出し、折っていた膝に力を込めていく。

与えられた使命を果たすために。

 

 

 

 

同時刻、ホテルアグスタ。

ダークネスたちが午前の部で出展されたほとんどのロストロギアを買占めてホクホク顔を浮かべていた頃、一人探検を楽しんでいたヴィヴィオは現在、盛大にぶっとばしてしまった少女の介抱に努めていた。

 

「ゴメンね~、大丈夫ですか~?」

「は、はい。何とか……その、お強いんですね。――ものすごく」

 

ズズ~ン……、と影を背負う覇王っ娘。涙目になっているのは、決して浅からぬ縁のある人物と時を超えた再会を果たした喜びから来るもの……ではないだろう。

 

「いや~、ついつい身体が反応しちゃって……あ! そう言えば、まだお姉さんの名前を聞いてなかったですね。私、ヴィヴィオ・スペリオルっていいます! よろしくです!」

「……え? あ、はい、こちらこそ――私は、アインハルト・ストラトスと申します」

 

「お、お姉さん……ですか……。わ、悪くないですね」と、小声でもにょもにょ言っているアインハルトと対照的に、新しい友達が出来たヴィヴィオは実に楽しそうだ。

 

「なるほど~~……つまり、『あーちゃん』ですねっ!」

「えへへ……ってぇ、はいいっ!? 『あーちゃん』!?」

「あれ? 『あーたん』の方が良かったです?」

 

キョトンとした邪気のない視線を向けられ、何故か悪い事をしてしまったかのような錯覚に襲われてしまう『あーたん(仮)』。

じぃ~っ、と見つめられてしまい、居心地が悪そうにそっぽを向きながら蚊の鳴くような小声で、

 

「……『あーちゃん』でお願いします」

『あ、折れた』

 

二人の掛け合いを遠巻きに眺めていた一同の心の声がシンクロした。

 

「あの~、そろそろええか?」

 

と、ここで傍観に徹していたはやてからヴィヴィオへと声がかけられる。

 

「なあ、ヴィヴィオちゃん。なんでこんなトコに一人でおるん?」

 

疑問形ではあったものの、はやての中ではすでに回答を導き出せていた。

それでも淡い希望を抱いたが故の問いかけだったのだが――

 

「一人じゃないですよ~? ダークパパもアリシアママもシュテルママも一緒にいますっ! パパたちはちょっぴり用事があるって言ってたので、その用が済むまで遊んでいるのです!」

 

どーだ! とばかりに胸を張るウィヴィオ嬢。

ご本人的には、パパたちのお仕事の邪魔をしない立派な女の子として顔見知りであるはやてに褒めて欲しいようだ。

無言で、『ナデナデしてもいいんですよ~?』 とアピールをされていらっしゃいます。

が、残念な事に、正義の味方(かんりきょくいん)であるはやて部隊長に、そんな余裕なんてありゃしねぇ~のです。

 

『しゃ、シャマル! 今すぐアグスタ内部をスキャンしい! 緊急事態や!』

『は、はやてちゃん? 一体何事――』

『ロングアーチ1 八神 はやて、現在ヴィヴィオちゃんと邂逅中! 彼女の発言から読み取るに、この場所にダークさんたちがいる可能性が極めて濃厚! 至急、彼らの所在を確認せよ!』

『んなあっ!? ちょ、りょ、了解です! 【クラールヴィント】』

 

切羽詰まったはやての通信を受け、屋上で外部からの敵襲に備えていたシャマルが慌てて施設内部のスキャニングを開始する。

すると、六課隊長陣以外にSSランクの魔力反応が二つ、その近くによく分からない反応(・・・・・・・・・)を返す謎の存在が確認された。

結果に眉をひそませるものの、それは一瞬、即座に情報を六課部隊員へと展開する。

通信越しに驚きの声が上がるものん、それは仕方のない事だろうとシャマルは思う。

なにせ、ついこの間出会ったばかりの人物……それも、ブラックリスト最上位に君臨する犯罪者が、警戒を怠っていなかった自分たちの監視をすり抜け、優秀とオークションに参加していたのだから。

もしこの場に真っ当な局員が同伴していたとすれば、犯罪者の娘として生きる道を選んだヴィヴィオを急ぎ保護して更生させるべく尽力するのがセオリー……なのだが、

 

――ンな真似を仕出かしたら、ミッドが滅ぼされるっちゅうーの。

 

そう、海鳴市では少々ハッチャケていたとはいえ、元来ダークネスと言う人物は、敵意を向けてくる相手に容赦してやる様な殊勝な性格はしていない。

彼の身内へ向ける慈愛の視線は本物であり、だからこそヴィヴィオに危害を加えようものなら、破壊と殺戮の饗宴が現実のものとなるのは想像に難しくない。

 

……もっとも、それを抜きにしても、常識をどこかへ置いてきたっぽい鮮烈なる少女を抑え込むことも非常に困難であるのだが。

 

現に、俄かに慌ただしくなった空気に反応したのか、ざわめき、泣き声を上げる生徒もいる中で、やる気に満ちた表情を浮かべつつシャドーなんてしているのだから。

 

――時折、虚空に向かって何やら呟いている風に見えなくもないが……微妙な電波属性に目を瞑っても余りある能力をお持ちなのだ。

 

なにせこの幼女、士郎や恭也とバトっている父の姿を観戦しつつ、御神流剣術の奥義である“神速”を見て、覚えて、使いこなすような規格外なのだ。

「わ、私の立場が……!」 と崩れ落ちる美由紀が妹たちに慰められている横で、士郎が「ふむ……もし花梨がダーク君を落とすことができれば、少なくともヴィヴィオ君の世代までは御神流は安泰と言うことか……」なんて呟いていたのが、まるで昨日の事のように思い返される。

まあ要するに、魔法無しだとシグナムを打倒しうる戦闘力を誇る恭也ですら驚くほどの『戦いの才』を持っているのだ、彼女は。

一般人が数多く存在しているこのような場所で悶着を起こしてしまえば、間違いなく冗談では済まない被害が起こる。

さてさて、どうするべきかと頭を抱えそうになったはやてへ、

 

『八神部隊長! ガジェットが出現しました! Ⅰ型が三十機にⅡ型が六十……いえ、機影さらに増加中!』

『陸上に正体不明の生命反応も多数確認! 召喚魔法らしき遠距離召喚術と推察されます! ――えっ? な、なにコレ!?』

「どうした、ルキノ! 現状を報告せえ!」

『はっ、はい! ガジェットと思われる機影の更に遠方より、巨大な熱源を感知! データから推察するに、全長百メートルを超える巨大機動兵器と思われます。その内部には魔力反応も感知! 魔力ランク――計測不能!? そんな!?』

「っ!? まったく……どうしてこう問題ばかり起こるかなぁ!?」

 

はやてが思わず悪態をついてしまった次の瞬間、

アグスタそのものを揺るがすほどの振動が彼女らへと襲いかかった。

 

 

――◆◇◆――

 

 

――巫女(ミコ)ヨ……今生(コンジョウ)コソハ(ナンジ)ヲ……。

 

大地を踏みならし、一歩、一歩と歩を進める。

始めはおぼつかない足取りで。

異様なる体躯が進むたびに、大地に広がる木々が薙ぎ払われ、小さき生命が逃走を始めた。

安住の地を蹂躙したという事実を、ソレは意識の端にすら留めない。

ソレの目的は使命を果たす事。

そして、かつて救えなかった幼き少女を守り抜くこと。

ただ――それだけなのだから。

 

 

 

 

「何よアレは!?」

 

ティアナが睨むのは森の奥から怒濤の津波を彷彿させる勢いで飛び出してきた異形の生物による大軍だった。

四足歩行しているモノがいれば、両腕が皮膜に覆われた飛龍のように見えるモノもいる。

大きさも千差万物で、座敷犬程度の小型種から、身の丈三メートルは下らないであろう巨大な個体まで存在している。

ガジェットだと思いきや、予想だにしない化け物による襲撃を受ける事になったものの、いつまでも呆気にとられて良い筈も無い。

意識を切り替えて素早く二丁拳銃を構えると、コンビを組んだスバルに的確な指示を送りつつ、敵の排除にうつる。

スバルも相棒による冷静な指示を受けて落ち着いたのか、雄叫びを上げながら異形の先頭に立つ頭部が刃のようになっている化け物へと拳を叩き込んだ。

刀剣を彷彿させる頭部を振り回して襲いかかってきたそれを障壁でいなし、無防備な側頭へカウンターの一撃を叩き込む。

奇声をあげて吹き飛んだ怪物は、木々の一つに激しく背中を打ち付け、力無く地面へと落ちていく。

だが――

 

「ちいっ! なんなのよこいつら!? 頭おかしいんじゃないの!?」

 

顔色を青くしたティアナの悲鳴じみた怒号が響き渡る。

それも仕方のない事だろう。なにせ、つい今しがたスバルにノックダウンされた個体へ後から続いてきた他の怪物たちが群がったかと思いきや、瞬く間に共食いを始めたのだから。

確かに、外形がここまで異なる以上、彼らが同一種族や群れとして機能しているとは考えにくい。

大方、召喚されるなりしてほっぽり出されたまま、人間を襲え……と言った簡単な指示しか受けていないのだろう。

元々人間を襲う種族だったのか、奴らの眼光はティアナたちを敵ではなく捕食対象……すなわち『餌』として見ている者のソレだ。

仲間意識も無いから、弱った軍勢は他の連中のディナーへと早変わり。

鮮血を振り撒き、肉片を撒き散らしながら生々しい音を立て続けている怖気極まる光景に、そう言った事に対する免疫が薄い少女たちの集中力が瞬く間に拡散していく。

相手が生物である以上、“殺さずに制する”を信条とする戦術を学んでいる彼女らには、いささか荷が重いと言わざるを得ない。

それでも、自分たちの後ろにいる戦う術を持たない人々を守るために、吐き気を堪えながら少女たちは戦いを継続する。

一人の犠牲も出してたまるか。そんな夢を抱きながら。

 

 

――◆◇◆――

 

――アレハ……マサカ……?

 

ソレは思った。

不意に己が動きを縛り上げたのは、筆舌出来ぬ強大なる覇気。

見上げてみれば、天の頂よりソレを見下ろす一つの存在。

太陽の如き黄金光(ヒカリ)と煉獄を思わせる暗黒(ヤミ)。相反するソレがカタチを成した……理解に苦しむ存在。

ソレは知っている。

あの存在こそ……己が属する種の頂に座す存在であることを。

そして――ソレが守るべき存在であった小さく幼い巫女に手を差し伸べてくれなかったことを。

ソレが、創造主たるお方より遣わされた“己”を、見下し……いや、睥睨している。

 

そんなことはどうでもいい(・・・・・・・・・・・・)

 

言外に、そう告げているかのように。

 

――ユルサヌ……!!

 

かような存在がいて良い筈がない。

巫女はソレらが種の声を聞き、心を通わせる神聖なる存在。

起源は違えど、黄金色の龍神(アレ)もまた同じ幻想に連なる存在なれば、かつてのソレが事切れし時に異界より来訪した『絶死の魔竜』から救い出すのが筋というものだろう。

だが……奴は彼女を、竜の巫女を救ってはくれなかった。

見当違いだとは分かっている。力なく喰われたソレに言えた義理など存在しないのだと。

だが、それでも――……堪えきれぬ怒りがある!

 

ぎらついた牙が立ち並ぶ咢より溢れ出す、怒れる呻き声。

ソレは中空に浮かぶ存在を、排除すべき敵と見定めた。

創造主の命令は絶対。されど、この存在は此処で破壊する。

ひとつの“個”となったことで手に入れた『自我』。

それに従うまま、ソレは大地を踏みしめる両の足に力を込めた。

憎き『皇』を討ち滅ぼすために。

 

 

 

 

ティアナたちが戦いを繰り広げている場所から、アグスタを挟んでちょうど反対側。

ガジェットの大軍を捌き、防衛に当たっていた切名は、無機質なレンズ越しに元凶の悪意を感じとり、憎々しげに眉をひそませる。

 

「ちっ! やっぱり性能が向上していやがる! カエデ、気をつけろ!」

 

フランベルシュの斬撃を受け止めようとワイヤーケーブル絡みつかせようと目論み、群がってくるⅠ型の群れに対峙しながら、切名はカエデへと注意を飛ばす。

 

「あいよ! 大丈夫だから、安心しな――よおっと!」

 

Ⅰ型が放つレーザーをやたらと大袈裟な動きで回避しつつ、奴らを容赦なく蹴り砕いている親友の姿に、僅かに安堵する。

常人離れした耐久力を除くと、カエデは個人での戦闘よりも集団戦におけるブースト担当……即ちサポート役が適任である。

なのはの教導方針によって、単独でもいっぱしの戦闘を熟せるように格闘術なども鍛え上げられてはいるが、生憎とそちらの才能は持ち合わせていなかった。

遠距離では数発の誘導弾スフィアを形成させるだえで精いっぱい、格闘術も打たれ強さを前面に出したごり押しくらいしか身に着けられなかった。

何せ、細かい技術を教え込もうとしても、何故かエロ方面へのスキルへ転化させられてしまうのだ。

スフィアを利用した探索魔法を教えれば女風呂の覗きに使い、近接戦の体捌きを教えれば、覗きから逃れるための逃走術に転用されてしまう。

射撃を教えようものなら、「じゃあ、遠くのターゲットを正確に捉えられないといけませんねっ!」 と女子更衣室を覗くセクハラ行為を、「訓練ですっ! (キリッ!」 と大声で断言してしまうほどなのだ。

やることなす事、全てが犯罪行為に直結してしまう彼は、「とりあえず模擬戦でボコっておけば打たれ強くなるのでは?」 というシグナムの提案によって、終日隊長陣の誰かにボコられ続けると言う鬼畜訓練を施されてしまう事に。

……それでも変態行為が段々レベルアップしているのは、もうほんとにどうしようもないと言わざるを得ない。

そんなカエデであったが、流石にⅠ型と一対一の状況下では押されるような事は無いようだ。

切名を優先的に狙っているせいか、カエデへのマークが緩くなっているので、今はまだ彼単体でも問題なく対処できていた。

しかし、いつまでもここで足止めを受けてしまうのはよろしくない。

敵は次々に増援を送り込んできていると言うのに対して、この場には彼ら二人しかいないからだ。

元来この場に配属されている筈のエリオは、敵が召喚魔法を発動させたと聞くなり、反応のあった座標へ突撃していったのだ。

おそらくは、その場に居るであろう召喚士……キャロを止めるために。

独断専行は許されないが、敵の主格と目される召喚主を押さえなければジリ貧なのも、また事実。

結果、地上をフォワード四名が、上空を副隊長の二人が対処するという陣形となった。

防衛の指揮官であるシャマルとザフィーラがアグスタに構え、防衛線をすり抜けてくる化け物の対処に動けない以上、長期戦は圧倒的に不利。

 

――ったく、どういうカラクリだ? ティアとスバルがこうも易々と敵の進行を許すってのは?

 

シャマルからの念話によると、アグスタの入り口近くへ幻のように突然現れた化け物の一団が出現し、ザフィーラが防衛に当たっているとのことだ。

おそらくは迷彩能力を持った個体が、防衛線をすり抜けたのだと推察できるが、それでも普段のティアナなら気配を探知するなりして見抜くことはできるはずだった。

しかし、そんな切名の考えには重要なピースが欠けていた。

ティアナは心優しい少女であり、未だ生物の命を奪うと言う行為に耐性がついていないと言うことを。

人ならざる異形とは言え、マニュアル通りに無力化しようとも、結果的に共食いによって殺してしまう。

人を襲う化け物とは言え、命を奪うと言う行為に慣れていない彼女は精神的動揺を隠せず、結果として姿を隠した敵の隠遁を見抜くことが出来ないでいるのだ。

戦いに慣れ過ぎたが故の弊害と言うべきか、そんな事態など想像も出来ないでいる切名は、とにかくガジェットを排除しないと始まらないと意識を切り替えると、紅蓮の炎を纏わせた愛剣を振いながら、鉄の軍然へと跳びこんでいった。

 

 

――◆◇◆――

 

殴り、蹴り、噛み千切る。されど敵はいまだ健在。

 

――フザケルナフザケルナフザケルナ……!

 

壊す。砕く。潰す。引き裂く。すり潰す。

如何なる手段を用いようと、コレは必ず“己”が()す!

なぜ自分がそこまで執着を見せているのか、もはや自分でもよく分からない。

それでもやらねばならないという衝動がソレの中を駆け巡る。

天を翔け、空を往く。

そんな最中、不意に気付く。

眼下に創造主より与えられた知識にある『人間』がいたことに。

そして……そのそばに、誰よりも守りたい少女がいることに。

気付かぬうちに、近くまで来ていたようだ。

ならばちょうどいい。コレを壊して、アレも壊す。

彼女を……巫女を傷つけようとする存在は、すべて己が破壊する!

唸り、吼え、滾り……獣の如き雄たけびを上げる。

全ては、己が心の求めるままに。

 

 

 

「はぁあああああっ!」

「くっ――!? この前よりも……強いっ!?」

 

森の奥で自分が召喚した『竜』の群れを制御していたキャロが、群れの中を突っ切ってきたエリオと戦闘を繰り広げていた。

しかし、以前のような一方的な状況には陥らなかった。

キャロを止めるために花梨へと師事し、より実践的な戦闘訓練を積み重ねたエリオの運動性、反射速度は、基本後方支援型であるキャロの反応速度を凌駕するに至っていた。もしこの場に彼女の相棒たるフリードリヒが同伴していればここまで戦況が拮抗することも無かっただろう。

しかし、実際の戦況は五分五分。大量の竜を召喚するという今回の任務では、召喚主であるキャロにすら牙を剝きかねないフリードを同伴させることは危険だからだ。フリードは以前にも、キャロが集落を追放された直後の心が弱っていた時期に彼女の精神を侵食し、狂気の闇へ落とそうと目論んだと言う前科がある。敵方の主戦力である機動六課はアグスタ防衛を優先し、キャロの探索を後回しにするだろうという予測を立てていたのだが……ものの見事に裏目ってしまったらしい。

 

「キャロ! 君はここでっ!」

 

声と同時、雷を迸らせる槍刃が煌めき、キャロのマントを切り裂いた。

 

「この……っ!」

 

咄嗟にバックステップを取りながら【アルケミックチェーン】を召喚して打ち払おうとするものの、エリオは鎖の不規則な機動を完全に見抜き、最小限の体捌きで攻撃の嵐をいなしていく。

ジワジワと距離を詰めてくるエリオに焦り、唇を噛むキャロ。焦りが心の余裕を打ち払い、鎖の操作が大雑把になってしまう。

攻撃の精度を落とした敵の隙を見抜き、一気呵成に距離を詰めようとするエリオ。

踏み込みの速度に驚いて動きを止めてしまったキャロの懐へと飛び込むと、【ストラーダ】の柄頭を彼女のデバイスであるグローブへと叩き付ける。

竜軍の制御も補佐していたデバイスであったが、コアに当たる部分に強い衝撃を受けたことで一時的な機能不全に陥ってしまう。

機能回復までわずか数秒、本当に小さな時であったものの、その一瞬が戦局を大きく動かすこととなった。

突然召喚主からの指令が途絶え、戸惑いを顕わにした竜たち。僅かに動きを止めてしまった彼らはまさに隙だらけ。

ガジェットの大半を駆逐したシグナムとヴィータの援護もあり、フォワードたちが一気に攻勢へと転じたことで戦局は一気にひっくり返されてしまった。

 

「そんな……! くうっ、よくも!」

 

キャロの顔が怒りに染まる。折角自分一人に任された『お仕事』だと言うのに、圧倒して蹂躙して殺し尽くすだけの簡単な『お仕事』だった筈なのに!

怒りに震える指先をタクトのように振るい、新たに召喚した八本の鎖でエリオの全方位を包み込む。

逃げ道を塞いだ。いくらすばしっこくても、これは躱せない。

『お仕事』を完遂させるには、もう一度竜たちを召喚しないといけない。そのためには、少しでも早くエリオを倒す必要がある。

殺到する鎖の牢獄の向こう側で大地に倒れ伏すエリオの姿を幻視してキャロの口元が弧を描き――

 

「……え?」

 

次の瞬間、驚愕と戦慄で凍りついた。

 

「うっ――おぉおおおおおおおおおおおっ!」

「ばっ――バカじゃないんですかっ!? 何を考えているんです!? バリアジャケットを自ら脱ぎ捨てるなんてっ!?」

 

生々しい傷痕を全身に刻み付けながら牢獄を真正面から突き破って見せたエリオに、キャロは戦慄を感じずにはいられなかった。

彼女の喉元に切っ先を突き付け、荒い呼吸で肩を震わせているというのに、エリオの瞳に宿った覚悟の炎は全く揺らいではいなかった。

エリオが仕掛けたのは【バリアバースト】と呼ばれる魔法だ。

魔力で構成されているバリアジャケットへ意図的に魔力を注ぎ込み、供給過多による負荷(オーバーロード)を利用して爆発させるというもの。

元来は、防御を貫通する程の攻撃に対する最終手段として発動させる炸裂装甲(リアクティブアーマー)と同じ原理の術式なのだが、エリオは何と纏ったコートを脱ぎ捨て、それを踏みつけた瞬間に【バリアバースト】を発動、その反動を突進力に加算することで鎖の牢獄を突き破って見せたのだ。

一歩間違えれば自らの命を失いかねないほどの危険な行為。フェイト同様、機動重視であるエリオにとって、まさしく命を賭けた蛮行だとキャロは思う。

しかし、当の本人にとっては、自らが下した判断を最善であったと認識している。

なぜならば……こうして、キャロと正面から向き合えることが出来たのだから。

 

「キャロ……僕は――ッ!?」

「えっ!?」

 

伝えたい想いが上手く言葉に出来なくて言いよどみ、それでも何とか言葉にしようと口を開いた瞬間、凄まじい爆音と共に、彼らのすぐ近くへと何かが飛来した。

撒き上がる粉塵と暴風から咄嗟にキャロを抱きしめて庇うエリオ。

咄嗟の事態に思考が停止してしまったのか、年相応の女の子のように真っ赤になってあわあわしているキャロを抱き抱えながら、エリオの目が上空より飛来したナニカの正体を捕捉する。

そこにいたのは――

 

”Ⅰ”(ファースト)さん!?」

 

その場所は、つい今しがたまで激しい戦闘を繰り広げていたせいもあって、大木の群れが覆い茂る森林は殺伐とした風景へと移り変わっていた。

しかし、深さ数メートルは下らないクレーターを造り出すほどの衝撃波は、彼らの戦いをまるで児戯っそのものだと言わんばかりに、消し飛ばしてみせた。

周囲の木々は放射状に折れ曲がり、大地は薙ぎ払われて無残な姿を晒している。

その中心にいるダークネスはピクリとも動かない。

黄金色の鎧は土に汚れきっていて、太陽の如き眩い輝きが穢されている。

瞳は閉じられ、呻き声すら聴こえてこない。

 

――まさか!?

 

脳裏に浮かぶありえない可能性に生きつき、思わず顔を見合わせてしまうエリオとキャロ。

 

と、その時だ。

木々の合間より降り注いでいた太陽の輝きを覆い隠すほどの巨大なナニカが、天空より飛来したのは。

 

「なっ、これはまさか……ドラゴン!?」

「ちっ、違う……ううん、違わない(・・・・)!? え、でも、なにこれ……こんな気配、私も知らない!」

 

それはあまりにも巨大な、人型のドラゴンとしての姿をしていた。

身の丈は数十、いや、数百はあるだろう。

小さな板金を無理やり貼り付け、繋ぎ合わせたかのような歪な外甲の隙間から、生物の筋組織と機械的な装置らしきものが見え隠れしている。

まるで人体模型に肌色の紙を張り付けたみたいだと、以前医務室で何故か部屋の隅に置かれていた人体模型に驚きの声を上げてしまった経験があるエリオは思った。

ベースとなっているのは間違いなく生物だ。

しかし、それを機械的な改造を加えることで、生物本来が持つ能力限界値を逸脱した性能(・・)を実現させている。

太く、強靭な四肢とやや小ぶりの頭部。

骨格こそ竜のものであるものの、剥き出しの筋肉とカメラアイのような眼球が蠢く様は、雄々しさよりも悍ましさを先に感じさせる。

剥き出しの闘争本能を顕わにし、骨の髄まで響く重低音の唸り声を上げた巨人は、地に伏したダークネスを見据えるなり両手を頭上で組み合わせ、まるでハンマーのように躊躇なく振り下ろした。

再度の爆音。先ほど以上の衝撃がエリオたちを襲い、吹き飛ばされないように地面に倒れ込んだ彼らが見つめる先で、巨人による圧倒的な暴力の蹂躙が繰り広げられていた。

巨人からしてみれば爪先程度の大きさしか持たないダークネス目掛け、何度も何度も拳を振り下ろし、叩き付ける。

憎悪すら感じさせる暴虐の前に、砕け散った木々が木の葉のように舞い上がる。

濛々と吹き荒れる粉塵から目を庇いながら、エリオは圧倒的な暴力を振るい続けている歪な巨人を放心しながら見上げることしかできないでいた。

驚愕と戦慄をないまぜにした視線に気づいていないのか、竜を模した巨人が生物のように滑らかな動きで腕を上げ、ちょうど胸元の辺りへと差し出す。

すると、胸部を蔽っていた装甲が内部よりはじけ飛び、心臓のように鼓動を繰り返す真紅の宝珠らしき内部機関が剥き出しになった。

そこから太い棒のようにも見える物体が生えたかと思うと、巨人はそれを両手でつかみ取り、一気に引きぬいた。

 

「あれは……槍……?」

 

それは槍のようでもあり、大砲のようでもある歪な武器であった。

二股に分かれた切っ先は鋭い刃の光沢を放ち、表面は血管にも見えるラインで埋め尽くされている。

そこに流れるのは膨大なる魔力。まるで、武器自体が生きているかのように脈動し、不気味な鼓動音を鳴り響かせている。

エリオの背筋に冷たい物が走る。アレは世にあってはならない物だと、生物としての本能が警告を上げていたからだ。

しかし、小さくも勇敢な少年など眼中にないとばかりに、巨人はダークネスがめり込んだ大地から視線を外さない。

恐れおののく様にざわめく森の悲鳴をBGMに、巨人が武器を構える。

やはり大砲だったのだろう、切っ先の間に存在する砲口をダークネスへと向けると、巨人を中心として発生した目視できるほど凄まじい魔力が暴風となって吹き荒れる。

身の丈を超えるほどの巨大な獲物を両手で構えると、脚部から姿勢制御用のアンカーが射出されて大地に楔を打ち込む。

そうしなければ反動に耐えられないと言うことなのだろう。

これから放たれるのは、間違いなく人智を超えた破壊の奔流であると、否応なしに理解させられる。

 

(だ、駄目だ……! ここにいたら巻き込まれる!)

 

心中で悲鳴をあげながら、エリオはキャロを抱き抱えると、この場から離脱しようと全身に魔力を流そうとする。

しかし……

 

「――っク!? こんな、時に、っ……!」

 

『魔力切れ』

 

キャロとの戦闘で限界を超えた魔力放出を続けた結果、決して少なくは無いエリオの魔力は底をつき、最早身体強化にまわせるだけの余禄は残されていなかった。それはキャロも同様だ。

彼女が召喚した竜たち、奴らはキャロの魔力を代価として先払いすることで召喚に応じている。

つまり、あれだけの大軍を同時に展開させていたキャロは、エリオと戦闘を行う前の時点で残存魔力が四割を下回っていたのだ。

そこからエリオとの激闘をこなした結果、現在の彼女にはバリアジャケットを維持する程度の魔力しか残されてはいなかった。

暴風が吹き荒れるこの場を、魔法も無しに離脱できるほど彼らの身体能力は優れていない。

つまりは……完全なる手詰まりということだ。

異変を察知して仲間が駆けつけてくるとしても、僅かに時間が掛かってしまうだろう。

ハッキリ言って、今まさに攻撃を放たんとしている巨人の攻撃範囲から離脱出来るとは考えられない。

二人の脳裏に”諦め”の二文字が浮かび上がる。

しかし……運命と言う奴はどこまでも人をおちょくるのが好みなようだ。

絶望を打ち払う輝きを放つ龍神が、静かに目蓋を開く。

ゆっくりと身体に張り付いた泥を払い落としながら、両の足で大地を踏みしめ、立ち上がる。

見上げる先には、今まさに解放されんと唸りを上げる膨大なる魔力の波動……!

 

「……オーションが済んで、さあヴィヴィオを探しに行くかと思った矢先に感じとった妙な気配。無性に気になったからヴィヴィオの事を二人に任せて、直接確認に来た訳なんだが……ふむ、なるほどな。そういうことか(・・・・・・・)

 

一人納得の様子を浮かべているダークネスはいつも通りの不敵な態度。あれほど巨大な物体の攻撃を受け続けたと言うのに、ダメージらしいダメージを受けた様子は微塵も感じられない。

 

「さしずめ、試作品のデータ収集が目的に投入されたといったところか。いや、それにしては少々浅はかすぎる。何故、態々手の内を晒すような真似を……いや、まてよ。――そうか、そういう事か。ルビーの奴め、なかなかしゃれた真似をしてくれるじゃないか」

 

なぜ『神を殺す鎧』の情報を自ら提示するのか。ワザ(・・)と攻撃を受けて見ることで、いまだ己の脅威にはならずと判断できたものの、彼女の能力から予測すれば“あの事件”が発生する頃には完全体(・・・)を開発できている事だろう。

その理由はおそらく……

 

(彼らが告げた悪意ある存在……おそらくは“奴”が関わっているということだろうな)

 

夢の世界で邂逅し、新たなる力を授けてくれた神々を思い出し、あれほどの力の主が警戒を呼び掛けるほどの危険な存在がこのセカイに――“神造遊戯(ゲーム)”に介入しようとしている。

いや、おそらくはすでに――

 

「……まあ、それは追々の課題とさせて貰うとしよう。それに――コレにはコレで使い道はありそうだ」

 

不敵な笑みを浮かべると、両手を胸の前で重ねあわせ、己が内に宿る『竜』の因子(ジーン)へと呼びかける。

金色の鎧と同化したジュエルシードが暖かな輝きを放ち、それらはより合わさって光のヴェールとなり、全身を覆い尽くしていく。

それは蒼く輝く光の繭。

あまりにも幻想的な輝きに逃げることも忘れて、心を奪われたかのように見つめ続けるエリオとキャロ。

エリオは純粋な美しさに目を奪われていたが、竜の巫女たるキャロには目の前で形成された光の繭の中で、身近な存在と近しい気配を感じとっていた。

 

「これって、(みんな)と同じ? ううん、違う……! この清らかさはいったい――!?」

 

瞬間、光が爆ぜた。

解き放たれた燐光が渦を巻き、蹂躙された大地を、森を、そこに住まう生物を愛しみ、包み込む様な優しさを内包させた魔力が世界に広がっていく。

だがその一方で、今まさにさらなる破壊をもたらさんとしていた未完なる“鎧”には、薄れかけた魂を震え上がらせるほどの殺意が、かの者の全身を蹂躙し、動きを拘束する。

あまりにも眩い輝きに目を焼かれて一時的に麻痺していた視力が回復すると、そこには金色に光り輝く一頭の“龍”が存在していた。

 

それは黄金色の鎧を身に纏った三つの頭部を持つ雄々しき龍神。

機械的にも見えるドラゴンそのもののソレへと転じた頭部は真紅の龍鱗と外甲で覆われており、鋭い牙が立ち並ぶ。

両肩の竜頭は首が伸びる様に前方へとせり出し、それぞれが意志を持つかのように唸り声をあげている。

巨大な双翼は装甲の繋ぎ目部分が展開され、そこから放出された魔力が光の翼を形成している。

太く鋭い爪で覆われた腕と大地を踏みしめる脚部には、途方も無い力強さを内包されているのが感じられる。

真の意味で《黄金の龍神》と化したダークネスが咆哮をあげる。その波動は凄まじい衝撃波となって、空を、大地を、世界を震撼させる。

この姿こそ、ダークネスのもう一つの姿。竜神としてのチカラを解放させた新たなるカタチ。

その名も――

 

超竜皇形態(ハイパードライグフォーム)

 

ダークネスの鋭さを増した眼光が、敵を捕らえる。

気圧されたかのように動きを止めていた巨人が、目の前の恐ろしき敵を屠らんとチャージさせた魔力を解放させようとする。

砲身に集束された強大なる魔力は、リミッターを解除したなのはやはやての全力砲撃んすら凌駕するほど……。

まさしく、遍く生物を死滅させた災厄の巨人が揮いし破壊の杖――!

しかし、今のダークネスにとってその程度(・・・・)の攻撃など脅威になりはしない。

巨大化した翼をはためかせ、重量感を増した体躯を空中へと浮かび上がらせると、ダークネスの全身を光り輝く魔力粒子が取り巻いていく。

それはまるで、恒星に集いし星屑を彷彿させる輝き……!

 

「うつろいし魂よ……! 黄金光(ヒカリ)に呑まれ、揺り篭(ヤミ)に抱かれて眠るがいい……!」

 

集った魔力が解き放たれた瞬間、解放された魔力光が輝く竜鱗となって天空へと飛翔、歪なる”鎧”目掛けて殺到する。

と同時に、撃ち放たれた魔導砲とぶつかり合い、激しい爆発が巻き起こる――が、それも一瞬。

飛翔する竜鱗は鋭い刃となって巨人の魔導砲を切り裂き、霧散させながら突き進みながら巨人へと殺到する。

見てくれ通りに防御力はほとんど考慮していなかったらしく、その体躯に比べて砂粒程度にしか見えない竜鱗に全身を切り裂かれ、剥き出しの体組織を次々に引き裂かれていく。

言葉では表現できない叫びをあげる巨人は瞬く間に星屑の奔流に呑み込まれ、磔にされる。

苦しみ、何とか拘束から逃れようとする巨人の眼が、光りの包囲を穿つように突撃してくる黄金の光を垣間見た。

それは光がカタチを成した最強の龍神。巨人(オノレ)の創造主が恋い焦がれる“強さ”を持った、最強の体現者……。

星屑を従えた黄金の流星が、仮初の命を与えられし巨人に終焉の幕を下ろす……!

 

――幼キ巫女ヨ……我ハ……汝、ヲ――……

 

眩い金色に撃ち抜かれながら、かつて守り神として崇められていたソレはカメラアイを動かして己が守護すべき巫女たる少女の姿を見下ろす。

また守れなかった事に対する無念を抱きながら。

それが、ルシエの里にて黒き神と呼ばれし偉大なる竜……かつて、『ヴォルテール』と呼ばれし存在が最後に抱いた感情だった――……。

 

集いし星屑の聖魔光(ギャラクシーミーティア)――!」

 

次の瞬間、金色の流星となった超竜皇によってソレの魂は撃ち抜かれ、粉微塵に粉砕された。

技の発動を終えて元の姿に戻ったダークネスは爆散して大地へと降り注ぐ巨人の欠片のいくつかを掴み取り、収納箱として利用しているパンドラへと納めていく。

形が残った部品のほぼすべての回収を終えると、戦いを終えたとばかりに肩の力を抜いて、深く息を吐く。

と、何かに気づいたかのようにアグスタのある方角を見やり、

 

「この気配はヴィヴィオか? ふ、流石は俺とアイツらの娘だ。こんなに早く覚醒(めざめ)るとはな――『聖王姫』に」

 

はるか遠くより感じられる神聖なる力の波動を感知して、ダークネスは嬉しそうに口端を吊り上げる。

強化された彼の瞳に映しだされたのは、新しい家族を傍らに控えさせ、輝く衣に身を包んだ『新しき王』の姿だった。




嫁、妻、娘、愛人に続いてペットまでご登場。
ダークさんの愉快なご家庭が、着実に作られていきますな!
彼の出番は次回にて。アグスタ内部での戦闘シーンになる予定。
主役はもちろん……あの娘ですよ♪


●作中に登場した魔法、魔導兵器解説

・プロトA
製作者:ルビー
ルビーが制作した《神》をも滅ぼす”鎧”――の、試作品。
フリードに喰い殺された守り神ヴォルテールの細胞から再生・復元されたクローンをベースに作り上げられた生体兵器。
アジトでのデータ収集を終えたために、威力偵察もかねてアグスタ戦に投入された。
本来の予定では六課にぶつけて戦闘経験を積ませて、次回以降にダークネスへと挑ませる予定だったのだが……アグスタに訪れていたダークネスに感知され、戦闘に突入した。
名前の通り試作品止まりの出来で、完成品よりも格段に戦闘能力は劣るのだが、それでも管理局一個師団を上回る戦力を誇る。
とある巨大生体兵器を模して造り出されたようだが、試作故に装甲がなく、内部機構がむき出しになっている。

超龍皇形態(ハイパードライグフォーム)
使用者:ダークネス
スペリオルダークネスEXのもう一つの姿。人型とはうって変わり、野性味あふれる三つ首のドラゴンへと変身する。実は『神成るモノ』の段階からドラゴン形態には変身できてはいたものの、この姿になると闘争心が膨れ上がり、理性が薄まってしまうという欠点が存在するので変身は控えていた。
そのかわり、身体能力は倍近くまで膨れ上がるらしい。

・【集いし星屑の聖魔光(ギャラクシーミーティア)
使用者:ダークネス
超龍皇形態となったダークネスの必殺技と呼べる技。
全身から解き放った魔力を竜鱗と化して対象を切り裂き、拘束したところを全身を魔力で纏った体当たりで貫く。

・エクスワイバリオン
契約者:ダークネス
ダークネスが《黄金神》スペリオルカイザーZと《白き守護者》サンボーンより受け継いだ大幻獣。
彼の出番は次話にて掲載予定。
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