魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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ホテルアグスタの後編。
彼女はもちろん、これまでほとんど戦闘シーンがなかったあの少年にもスポットが。


鮮烈なる聖王姫

ダークネスが“鎧”を破壊し、手勢が尽きたキャロがドサクサまぎれに逃走を図っていた頃、アグスタ内部でも戦いが繰り広げられていた。

対外的には本命にあたる午後のオークション。無限図書の司書長による解説付きの一大イベントが開催されていた会場は現在、阿鼻叫喚の喧騒渦巻く混沌の場と化していた。

出席者たちの警護に当たっていた護衛やSPが何とか混乱を抑えようと四苦八苦している中、警護として会場にいたなのはとフェイトはガジェットとアンノウンの襲来の連絡を受けた直後に突然なだれ込んできた襲撃者と対峙していた。

全身を真っ黒な闇色の衣装に身を包んだ異装の集団。海鳴市でも現れた正体不明の襲撃者。

“影”の一団が、再び彼女らの前へと姿を現したのだ。

以前相対した際は切名の戦力調査が目的だったらしく、なのはたちには逃げの一手を取るばかりでまともな戦闘を行うことは無かった。

しかし、今度は違う、

明らかな殺意を持って彼女らを……いや、彼女たちが守らなければならない招待客(いっぱんじん)へと狙いを定めている。

一糸乱れぬ動きで懐より取り出したのは、無骨な金属質漂う兵器(・・)

管理世界において所持するだけでも罪に問われてしまう危険物である『銃』、しかも相当の改造が施されていると一見して分かるアサルトライフルであった。

部屋の壁に背中を預けるような立ち位置でなのはたちを取り囲んだ“影”たちは、円陣を組んだ彼女らの背中に隠れた招待客目掛けて躊躇なく引き金を引く。

もはや轟音と呼ぶにふさわしい銃音が彼女らへと襲いかかる。

咄嗟にデバイスを起動させて迎撃を行わんとするものの、更なる困難が彼女たちを襲う。

 

「くっ!? AMF……こんな強力な!?」

「そんな!? ガジェットもいないのにどうして!?」

 

デバイスを起動させることは出来た。しかし、バリアジャケットを形成する魔力素の結合は寸断されてしまい、戦闘服を纏うことが出来ない。

慌てふためくSPたちが次々と蜂の巣にされて真紅の血肉となって真っ赤な絨毯に撒き散らされていく中、怒号と悲鳴をあげる事しか出来ない護衛対象を普段より弱体化した障壁でどうにか防ぐ。

ギリギリで冷静さを取り戻し、ひき肉のお仲間に成らずに済んだ護衛の生き残りやユーノと協力して円形のフィールド型障壁を発動し続けることで攻撃を防ぐ。

しかし、暴風の如き勢いで襲いかかる敵に対し、ただ守りに徹するのは悪手と言わざるを得ない。

フェイトの頬を冷たい雫が流れ落ちる。執務官として犯罪者の拠点へ制圧に乗り出した経験がある彼女には事態の深刻さが嫌というほどに理解できていた。

立ち位置こそ真逆だが、この状況はまさに管理局の襲撃を受けた犯罪者たちが悪あがきにとる手段そのものではないか。

雨のように降り注ぐ魔力弾を魔導師を前面に押し出すことでせき止め、持ちこたえている間に増援を求める。

イチかバチかの突撃を仕掛けてくる輩は実は少なく、大半は予備選力や同業者への救援を要請して守りに徹する者が大半なのだ。

そんな時に突入班の指揮を務めるフェイトがとる戦術とは、『孤立させて鎮圧する』という何とも単純なもの。

突入前に連絡手段を遮断、あるいは先だって捕縛しておいて逃げ道を塞ぎ、全方位の後、一気に鎮圧する。

単純だからこそ、効果的な戦法の一つでもある手法なのだが、現在の彼女らの状況はまさにそれそのものでは無いか。

 

「……マズイよなのは。このままだとジリ貧だ。どうにかして包囲を突破しないと」

「うん……。でも、一般人を守りながら離脱するのは不可能だよ。はやてちゃんは宗助たちを守らないといけないし、外にいるみんなはガジェットの対応で手いっぱい。かと言って時間を稼いだところでこんなに濃いAMFのなかじゃあそんなに持たない。向こうが終わる前に、私たちの方が穴だらけにされちゃうよ」

「それがわかっているから、彼らは僕たちじゃなくてお客さんたちをターゲットにしているんだろうね。くそっ、こんな事なら僕もデバイスの一つでも用意しておくんだったよ。それだけでも魔法効果を高められたって言うのに……」

 

司書長としての事務作業を務めてきたユーノは前線に立つなのはたちに比べて、魔導の腕が若干低下してしまっている。

現に今も、マルチタスクの殆んどを術式の演算に費やすことで、何とか障壁を維持出来ているのだ。

それでも、高密度AMF状況下でありながら、複数人で共同展開させている複合障壁の中核を担えているのは流石と言わざるを得ない。

しかし、それでもなのはやフェイトを攻勢に出させるほどの余力は無い。もし彼女らが迎撃を行おうとすれば、その瞬間に障壁は強度を一気に低下させてしまうことだろう。つまりは手詰まり。

防御に全力を注いでいるユーノはもちろん、なのは、フェイト、魔導師であるSPの誰一人でも欠けてしまえば、その先にあるのは無残な事態の山と化した自分たちの未来しか存在しない。

つまり、彼女らがこの状況を打破できる可能性が残されているとすれば――

 

「斬り裂くんだよっ! ギガストラッシュ!」

【Giga strush!】

「薙ぎ払いなさい……! フレイムチャージ!」

【Frame chage!】

 

“影”にも予測不可能な援軍の登場に他ならない。

紫電の残滓を閃き、黒を斬り裂くのは天の威を示す雷光。

真紅の燐光を煌めかせ、黒を薙ぎ払うのは邪悪を浄化する輝焔。

突然の襲撃に混乱を見せる“影”たちの向こう側に、見覚えのある人物が開け放たれたドアにもたれかかりながら不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。

AMFの影響を受けているのかデバイスこそ起動出来てはいるものの、その身を包むのはバリアジャケットではなく絢爛なドレスと着物。

それでも、圧倒的な強者は自分たちであると言わんばかりに、悠然と会場を見下ろしている。

 

「貴方たちは……!」

「アリシア! それにシュテルまで……!」

「うわぁ……これはまた予想外」

 

驚くなのは、目を白黒させるフェイト、若干遠い眼を浮かべるユーノ。

つい先ほど、ロングアーチ経由でダークネス一味がアグスタにいるとは聞いてはいたが……まさかここまで堂々とご登場してくださるとは。

なのはらと瓜二つの女性が登場したことに戸惑いの声を上げる観客たちを余所に、完璧な包囲を思わせていた陣形を一太刀で切り崩してみせた双翼が、不敵な笑みを浮かべて戦場へと降臨した。

 

「こいつらにはちょ~っと聞きたい事もあるからね~。ボコんのを手伝ってあげるんだよ」

「まあ、そう言う訳です。貴方たちはどうしますか? アホ顔晒すしか能が無いのでしたら、とっととそこにいる管理局のスポンサー(エロジジイ)共へ尻振り(セックスアピール)しながら失せてください。邪魔なので」

「う、噂以上に毒を吐くんだね……」

 

なのはと同じ顔の持ち主から放たれる毒舌に、ユーノは冷や汗を禁じ得ない。

必死のフェイトに羽交い絞めにされながら、マジギレしかけているなのはを出来るだけ視界に映さないように顔を背けていると、ふとごくごく当たり前の疑問が湧き上がってきた。

 

「あの……君たち? どうして僕たちを助けてくれるんだ?」

 

単純に“影”を捕えようというのなら、わざわざ危機に瀕していた自分たちを助けに入る必要はないだろう。

ユーノたちが力尽き、仕留めた所で獲物を打ち取った心の緩み……連中が隙を見せた瞬間を狙いすまして強襲すれば事足りるはずだ。

なのに、彼女らの動きは明らかにユーノたちを助けるためのもの。犯罪者である彼女らに、管理局員や協力者である彼らを助ける義務は存在しないハズなのだ。だが、

「確かに義務はないよ。でもね、君たちに生きていてもらえればこれから先の布石(・・)になってくれるんだよ。もちろん――君たちの意志なんてモノに関係なく、ね」

「私たちの願いはあの方の勝利と、その先にある未来を掴み取る事。そのためならば、敵であろうと手を差し伸べてみせますよ」

ダークネスがアリシアたちを大切に想い、手を差し伸べてきたように。

アリシアたちもまた、ダークネスのために出来る事を模索し、行動を起こしているのだ。

互いを互いが想い合い、渦巻き、重なり合った想いは大きな力となって未来を創りだしていく。

すべては望む未来(キボウ)を掴み取るために。

 

「――っ、だ、だったら!」

「にゃ?」

「だったら! ……今は味方だって考えてもいいんだよね? アリシアちゃん、シュテルちゃん」

「なのは!? それは――」

 

管理局員としては到底受け入れる事は出来ないと、彼女の理性が叫んでいる。

しかし、彼女の本心(ココロ)が信じてみたいと願っている。

大事な誰かを想い、眩いばかりに真っ直ぐな眼差しを持った彼女たちを信じてみたい、と。

それはフェイトも同様だ。しこりが残る姉と一時的ではあっても手を取り合うことができるのなら……と。

そうこうしている位置に動揺を収めた“影”たちが二手に分かれ、再び攻撃を仕掛けようと陣形を整える。

これ以上の問答にかまけている余裕は残されていない。

あとは唯……『決断』するのみ。

彼女たちを信用せず、自力でこの状況を切り抜けるのか。

それとも――……

 

「っ! フェイトちゃん!」

「……わかったよなのは。――アリシア、シュテル。お願い(・・・)力を貸して」

「……おっけ~い♪」

「ふ……いい判断です」

 

返答に満足げに頷きを返し、“黄金神の双翼”が戦場へと足を踏み入れた。

 

 

――◆◇◆――

 

 

宗助たちが集められていた会議室、そこもまた敵の襲撃に晒されていた。

敵の襲撃の報告を受けたはやては六課メンバーに指示を出しつつ、一般人である生徒たちの避難誘導を行った。

建物を震わせる振動に恐怖を煽られ、泣きわめく下級生たちを上級生が慰め、介抱しながら教師の先導の元、移動を開始。

しかし、手薄になった守りの隙をすり抜けてきたかのように突然現れたのは一人の“影”。

はやてや生徒たちには目もくれず、腰から引き抜いた短剣を逆手に構えた“影”は猛禽類を彷彿させるしなやかな身のこなしを見せ、一人の少女目掛けて襲いかかってきた。

狙いは可愛らしいドレス姿の少女……ヴィヴィオ。

天井近くまで跳躍した“影”が、懐より取り出した小刀を短剣を構えるのとは逆の手の指の間で挟み込み、弾丸の如き速度で撃ち放った。

投擲と呼ばれるソレはしかし、冗談のような速度と精度を叩き出した。ヴィヴィオが紙一重で刃を躱すと、床に突き刺さった小刀がコンクリート製の床を貫通し、下の階層まで到達した。あまりにも冗談みたいな威力に、すぐ目の前にいたアインハルトの顔に恐怖が浮かぶ。

しかも、攻撃は単発では終わらなかった。何も無い虚空より手品のように次々と短剣が現れては投擲され、雨霰のように少女目掛けて降り注ぐ。

真紅に全身を染め上げる少女の未来を連想した生徒たちの悲鳴と静止を呼びかけるはやてと宗助の怒号が室内に木霊する。

紙一重で攻撃を躱し続けているヴィヴィオを助けようと、はやてが待機状態のデバイスを取り出す。

しかし、敵は任務を遂行する上での最大障害となるであろうはやてへの対策を十分に用意していた。

金色の十字架である待機状態のデバイスを掲げ、起動させようと魔力を流す。だが、起動は不発に終わってしまう。

なんてことは無い、現在彼女らがいる会議室にはなのはたちが激闘を繰り広げているオークション会場よりも数段強力なAMFが展開されていたからだ。

念話も遮断され、完全に無力の小娘となり果てた事実に、はやては唇を噛む。

しかし、悲嘆にくれている場合ではない。魔法が使えないというのならば、今の自分に出来る事をやればよいだけの事だ。

 

「……ヴィヴィオちゃん!」

「は~い? なんですか~?」

「ソイツの狙いはアンタみたいや。だからこそ、あえて言わせて貰う――任せてもええか(・・・・・・・)?」

「なっ、母様!?」

「はやてさん!? いったい何を」

「リヒト、ルーテシアちゃん、アンタたちもすぐにここから避難するんや。こんだけ強力なAMFの中じゃあ、私らに出来ることは何もない。むしろ、此処でウロチョロする方があの娘に迷惑や」

 

はやてとて、幼い少女に正体不明の襲撃者の相手を押し付けることは心苦しい。

それは、無力な自分への不甲斐なさと怒りに震え、力の限り握りしめたために血を流している彼女の拳が何よりの証だ。

それでも整然としら態度を崩すわけにはいかない。一般人である子どもたちにとって、頼れるのは大人であるはやてか引率の教師くらいなのだから。

ここで取り乱してしまえば、不安は恐怖を増長させつつ彼らへと感染し、パニックが引き起こされてしまう事だろう。

突然の事態にうろたえながらも大きな混乱が追っていないのは、テレビや雑誌でも取り上げられたことがある有名人『八神 はやて』の存在を頼もしく感じているからに他ならない。

ヴィヴィオの正体を知らない彼らはこう考えているはずだ。

彼女(ヴィヴィオ)エース(はやて)に頼りにされるような立場にいる人間……管理局員か、それに連なる人物なのだ』――と。

幼い少女ではなく、戦う術を持った魔導師だと錯覚しているからこそ、不気味な“影”とやり合っている彼女の存在が心の支えの一つになっているのだ。

事情を知るリヒトたちの発言を断ち切ったのは、都合のいい誤解を解かれてしまうことで、要らぬ混乱が巻き起こることを懸念したが故のことだ。

 

「……今やるべきことを見失ったらいかん。頼むから言う事きいてくれ」

 

決断に至った母の苦悩を感じとったのだろう、未だ納得が出来ていない様子のルーテシアの手を引いて、リヒトが出口へ向かって駆け出していく

娘の物分かりの良さに小さく苦笑を浮かべつつ、脱出していく生徒たちの殿をつとめるはやてと入れ違うように、激しい戦闘が繰り広げられている場へと飛び込もうとする二つの小さな影が存在した。

 

「えっ……そー君!?」

「はあ!? アンタなにやってんのよ!?」

「お前らは先に行け! 俺は――……奴を倒すっ!」

 

――世界を喰らう暴食の王よ、神話に幕を引いた神の獣よ!

 

駆け出し、戦場へと跳び込みながら、宗助が詠唱を紡ぐ。

 

――いまこそ古き盟約に従いて、我が前に顕現せよ!

 

己が内に宿りし――最高の相棒を呼び出す言霊を!

 

「来い――『神喰らう魔狼(フェンリル)』ッ」

 

詠唱が終えると同時に、宗助の胸元から光が溢れ出す。

轟々と渦巻く『魔法力(マナ)』の奔流より姿を現したのは、気高き毛並みを持った巨大なる神の獣。

かつて負わされた傷を感知させ、再びこの世界への顕現を果たした宗助の半身。

 

「行くぜ相棒(フェン)! 俺の『槍』をっ!」

『応よ! ――我、フェンリルの名においてここに宣言する! 我が牙、我が爪、我が魂の全てを汝、高町 宗助に委ねることを! 『魔槍』……開帳!』

 

主の求めに応じて、彼の中で封じられていた宝具開帳の許可を下す。

フェンリルの傷を癒す間、封印してきたもう一つの“相棒”を解放させる。

宗助が掲げた手の中で光りが収束し、爆発する。次の瞬間、彼の手の中には身の丈を大きく超えた漆黒の直槍が収められていた。

刃から柄尻に至るまで、全てが漆黒。その上を真紅の魔力が流れる文様が刻み込まれている。

巨大すぎるソレを軽々と振り回し、切っ先を“影”へと向ける。

その様は実に堂々としたもので、雄々しき神獣を従えたその姿はまさに神話の時代から蘇った神代(かみよ)の騎士そのものだ。

 

神獣(フェン)の牙より鍛え上げた『黒鱗の魔狼槍(ゲイ・ヴォルフ)』……その威力、テメェの身を以て知りやがれ!」

 

走り出したフェンリルの背中に飛び乗った宗助が、蜘蛛のように天井に張り付いた“影”に魔槍を突きだす。

突然の不意打ちでありながら、天井(・・)という足場を得ていた“影”にとっては最たる脅威とは呼べない一撃だった。

まるで一人だけ重力が逆転しているかのように、天井をバク転して、宗助の攻撃を回避する。しかし、彼らの攻撃はこの程度では終わらない。

幼い容姿からは想像も出来ない見事な槍捌きを以て、立て続けに追撃を仕掛けていく。

連続で繰り出される槍先がブレるほどの鋭い突きの嵐、速射砲のように天井を穿っていくソレがつけた傷跡は、なんと罅ひとつ入っていない穴を形成していた。もし槍に余分な力が込められていたとすれば、切っ先に微弱なブレを生み出していたはずだ。当然そうなれば刺突に前方向へと進む以外の運動エネルギーが形成されることに繋がり、槍が刻んだ傷跡には放射状に亀裂や罅が走っていたはずである。

しかし、宗助の生み出した傷跡にはそのような形跡など微塵も存在しない。つまりそれは、彼の一撃は槍使いとして完全なる一撃……一つの完成系として確立されているということだ。

 

「っおぉおおおおおおっ!!」

「グルゥオオァアアアアアアアア!!」

 

魔力強化によって飛躍的に上昇した身体能力を活用した槍術を披露する宗助。

さらに筆舌すべきは鋭い牙を剝き、憎むべき敵の喉仏を噛み千切らんと飛び掛かるフェンリルだ。

全長三メートルほどの体躯を存分に生かし、人外の斥力を以て憎き宿敵と同じ匂いがする(・・・・・・・)“影”へと牙を突き立てんとする。

跳びかかってくる二つの脅威を前にして、されど『かの者』に動揺の色は垣間見えない。

それどころか、軽やかな足捌きで怒濤の連携攻撃を躱し、いなし、すり抜けつつ、カウンターの反撃を繰り出してすらいる。

 

「カッ――!?」

 

そしてついに、“影”の蹴撃が宗助の鳩尾を捕えた。

獲物はともかく、四肢の間合いの違いが命運を分けた。

薙ぎ払われる横凪の一閃を肘と膝で挟み込むように受け止めた“影”はそのまま魔槍を掴み、引き寄せたところで放たれた内臓を押し潰す様な一撃に、胃液を吐き出しながら床へと叩き付けられる。よくも! と大口を開けて突っ込んできたフェンリルには、鼻頭へ叩き付ける様に短刀を叩きつける。

全身を覆う毛皮は銃弾すら弾き返す強度を誇るとはいえ、鼻先までは多い被っていない。ギャウンッ!? と悲鳴を上げながら、バランスを崩したフェンリルもまた主の後を追って床へと落下した。

身体の芯まで響く一撃を喰らった宗助は咳混みをしながらも立ち上がり、闘志を燃やす。

瞳に映しだされるのは敵を畏怖する『恐れ』……ではなく、してやったりといわんばかりの不敵さ。

その様に訝しむ“影”であったが、即座に己の異変に気づく。

 

「不可解……!」

 

“影”は困惑する。

己の全身を駆け巡る正体不明の虚脱感。自身の体調を数値として認識できる“影”だからこそ、今の状況に戸惑いを隠せない。

攻撃を受けた覚えはない。戦闘の疲労とも呼べるものも、この程度であるのならば問題は無いはずだ。

それだというのに――己の体力がちょうど二割ほど消費されている。まるで……その分だけ削り取られた(・・・・・・)かのように。

要領の無い声色でこそあったが、歯を噛み締める音には確かな怒りの感情が見え隠れしていた。

 

――へっ、ザマあみやがれってんだ!

 

表情が見えなくても、間違いなく憤怒しているであろう敵の様子に溜飲を下げつつ、宗助は自分たちの戦術が効果を発揮したことに満足げにほくそ笑む。

苦渋を食わされた敵に同胞にやり返せたのが、相当に嬉しいようだ。

――何故、宗助たちの攻撃が直撃していないというのに“影”がここまで消耗しているのだろうか?

その理由は、彼が持つ魔槍にあった。

 

――『黒鱗の魔狼槍(ゲイ・ヴォルフ)』――

 

それはラグナロクにて、最高神オーディンと対峙して彼を飲み込んだとされるフェンリルの『牙』から作られた漆黒の直槍。

デバイスではなく、刹那の『全てを焔き薙う勝利の剣(レーヴァテイン)』同様に宝具と呼ばれる武具。

その能力は『触れた相手の体力を一割削る』というもの。

これは直撃ではなくとも、ほんのさわり程度に触れるだけでも効果を発揮できるという非常に凶悪な能力を秘めているのだ。

騎獣を持つ彼の攻撃速度は極めて早く、彼の猛攻を防ぐことは出来ても完全に回避しきることは困難であると言わざるを得ない。

つまり、触れただけで体力を一割奪い去られ、体力の消耗に伴って動きが悪化し、更に追撃を受けてしまい再び体力を削られて――という、無限ループが形成されてしまうのだ。

“影”の消耗は、宗助の薙ぎ払いを片膝肘で挟み込むように受け止めたことに他ならない。

防御をすり抜けてくる効果を秘めているかもしれないと考え、白羽取りの要領で曲芸じみた防御術を見せたのだが、結果として膝と肘に当たり判定が出てしまい、合計二割の体力を一気に削り取られてしまったのだ。

ジワジワと獲物を追い詰めていく狩人を彷彿させる、非常に強力な“特典”であると言える。

 

(……けど、なんで削りきれてイネェんだ? 掠っただけでも能力は発動するはずなのに)

 

直撃せずとも、肉体の一部に掠るだけで体力を削り取るのが魔槍の能力だ。先ほどまでの攻防において、目に見える直撃を繰り出せたのは二回だけではあるが、それ以外にも槍が触れる程度の機会はいくつかあったはずなのだ。

つまり、本来ならば“影”はすでに全体力を削り取られていなければおかしい。僅か二割の消耗に抑えられているということは何らかのカラクリが潜んでいることになのか――?

 

「……予定、変更」

 

戦闘を引き延ばすことは危険と判断したのだろう。

何故か部屋に残っていたアインハルトを庇うように構える標的(ヴィヴィオ)から宗助へと狙いを変更する――と見せかけて、

 

――トスッ……

 

「え……っ!?」

「なっ!?」

「あーちゃんっ!?」

 

現実が理解できないと困惑を浮かべたアインハルトの胸元から、銀色に輝く刃が生まれ出た。

その刃の形状は、間違いなく“影”が手にしていた短刀の物。しかし、正面から投擲されたはずのソレがまるで幻影のように消え去った瞬間、アインハルトの胸から飛び出してきた。

それはまるで、彼女の中から鉄の刃が鬼子のように生まれ出たかのよう。

そのカラクリを、宗助は空間転移の類であると看破する。

(投げつけた短剣そのものをアインハルト(アイツ)の中に転移させたのか! だから身体の中から剣が生えたように見えるって訳だな!)

舌打ちを堪えきれない。これは一対一の決闘などではなく、ルール無用の殺し合いなのだということを今更になって理解した。

ヴィヴィオを見捨てることを良しとしなかったのか、あるいは単純に己の武術(りきりょう)に自信があったのかは分からないが、『アインハルト・ストラトス』という少女に実戦経験が無い事が災いとなった結果がこの惨状だった。

全身を苛む虚脱感と激痛に幼い身体が耐えられるはずも無く、アインハルトの身体がくの字に折れる。

 

「カッ……! ハ――!?」

「あーちゃんっ!? っく、こんのぉおおっ!!」

 

――きょと~りゅ~ いちのおうぎ きょうかすいげつ!

 

倒れ込むアインハルトを片手で支えながら、友を傷つけられたヴィヴィオの怒りが籠められた拳が追撃に迫ってくる“影”の心中を撃ち抜く。

骨を砕き、肉が破裂する生々しい炸裂音を上げながら、悲鳴を上げることも叶わない“影”が会議場の壁と叩き付けられる。

あまりの衝撃に壁が粉々に粉砕され、漆黒の衣を瓦礫の粉塵が覆い隠す。

想像以上の破壊力に冷や汗を流しながら駆け寄ってきた宗助にアインハルトを預けると、怒りに震えるヴィヴィオがゆらりと立ち上がる。

色違いの双眼に苛烈なる怒気を宿した少女の感情の高ぶりに呼応したかのように、照明に照らされた彼女の影が歪に歪む。

人型から異形のカタチへ、そして二次元であるはずの(ソレ)が風船のように膨れ上がり、一気に肥大化する。

痛烈な神気を感じとったフェンリルが警戒の唸り声を響かせる中、漆黒の繭となったヴィヴィオの影に複雑怪奇な文様が奔り――弾ける。

吹き荒ぶ烈風に思わず目を閉じてしまった宗助が再び目蓋を開いてみると、そこに金色と真紅が栄える大幻獣が顕現していた。

鮮鋭な竜麟で包まれた雄々しき体躯。金色の輝きを纏った偉大なる神の僕。

神狼(フェンリル)と同格、あるいはそれ以上の“神格”を秘めた最高位の神僕。

 

『天翔飛龍皇』 エクスワイバリオン

 

ダークネスがヴィヴィオにかけておいた、万が一の保険。

デバイスが未完成である彼女が『全力』を出せるようにサポートするようにという命を受け、彼女の影の中で護衛に当たっていた守り神だ。

主の娘たる少女の願いを叶えんと、戦意を滾らせる大幻獣が神聖さと雄々しさを内包した咆哮を響かせる。

と同時に、ヴィヴィオを中心に渦巻いていた虹色の魔力がエクスワイバリオンの金色の神力と絡み合い、ひとつに溶け合っていく。

 

「お願いだよワイちゃん……私に力を貸して!」

 

今こそ、己の覚悟(しんねん)を賭けるべき時なのだと、ヴィヴィオは光の粒子となって己が内へと取り込まれていく大幻獣へと語りかける。

 

『――承知いたしました。姫、拙者の力、存分に揮われますよう』

 

少女の想いに応えるかのように、大幻獣によって増幅・制御された膨大なる魔力が彼女の身体を戦に相応しき姿へと転身させる。

光りが溢れ、爆散する。

その瞬間――古の伝説より蘇り、新たなる神話を創造する『王』が顕現した。

 

――――現れたのは金の髪を棚引かせた気高き戦乙女を彷彿させる少女。

十代半ばほどであろう若々しくも神々しい体躯に纏うのは純白の法衣。

一見すると戦闘には不向きに思える絢爛なドレスの上からゆったりとした外套を羽織っている。

肘ほどしかない布地の下にある両腕には、黒のラインが走る真紅の手甲。

胸元には、吸い込まれそうな黒い輝きを放つ首飾りに刻み込まれている十字架と三日月を繋いだかのような刻印が淡い光を放っている。

片と背中には、輝ける衣に触れないよう宙に浮かぶ非固定の鎧甲。

彼女の父を髣髴させる深紅の龍頭を模した装甲が両肩に、先鋭的な双翼が背中に装着されている。

虹と黄金の輝きを放つ魔力粒子が彼女の周囲を漂う燐光となって、少女の美貌を照らしだす。

この姿こそヴィヴィオが持つ希少能力『聖王の鎧』を十全に引き出すために最適な年齢へと自身の肉体を成長させる……ように見せる変身魔法を発動させた姿である『聖王モード』――――その更に上に在る形態。

最強に鍛え上げられ、最高と最優によって正しく導かれた『新たなる王』、その真の姿。

 

聖王姫(せいおうき)』ヴィヴィオ・スペリオル

 

「真覇・虚刀流 第七の奥義――」

 

溢れんばかりに高まる魔力を滾らせる少女の双眼は、再び幻影のように背後へとまわりこんできた“影”の姿を狂いなく捉えていた。

指の間に挟んだ短剣を振り上げ、己目掛けて今まさに振り下ろさんとする敵をあざ笑うかのように、ヴィヴィオの姿がその場から消失する。

必殺を疑わなかった一撃を完全回避されて狼狽したのか、慌てて首を回してヴィヴィオの姿を探す“影”。

だがそれは悪手。何故なら、かの者はすでに聖王姫の間合いの内に足を踏み入れてしまっているからだ。

 

――真覇・虚刀流――

 

それは、空想上の産物である必殺技と呼べるものを現実に再現した上で、異なる技術を組み合わせて更なる向上を図った末に生み出された最強の戦闘技術。

刀を使わぬ剣術である虚刀流を雛形に、魔法という技術と他の技の特性を融合させることで完成したソレは、まさしく完殺必滅。

如何なる相手であろうとも確実に葬り去ることができるように鍛え上げられたソレの使い手を前にして、姿を見失うなど愚の骨頂……!

 

足の指で床を弾いた反動で、静止状態から一瞬で天井近くまで飛び上がったヴィヴィオは、無防備な“影”の頭上より渾身の一撃を振り下ろす。

霊峰すら叩き割る極限の剣戟と『花』の名を冠する奥義を組み合わせた――新たなる奥義のひとつを!

 

「“富嶽砕華(ふがくさいか)”!」

 

回転する身体の遠心力を加算させた踵落としが、“影”の脳天へと叩き付けられる。

その衝撃は“影”の体内を浸透して床へと到達、半径数メートルものクレーターを形成させる。

しかし、それは単純なクレーターなのではない。

形成されたのは美しい新円を描く円形。深々と沈み込んだ床は水平を保っており、まるでそこだけ重力が何倍にも高まったことで陥没してしまったかのよう。

基点となる踵一点に破壊力が収束されているのではなく、そこを中心とした周囲の空間そのものを圧縮し、目標ごと押し潰す。

これこそが、“富嶽砕華(ふがくさいか)”。

とある世界の日の国にて、巨大なる蟲を屠るために剣を振るう若き侍の代名詞たる技の特性を組み込んだ真覇・虚刀流 第七の奥義――……。

 

「すっげぇ……てか、アイツ死んだんじゃね?」

 

陥没した床に倒れ伏したまま身動きひとつとらない“影”を見て、アインハルトの介抱をしていた宗助は小さく一人ごちる。

 

「いや……まだだぜ相棒! 奴は一匹じゃない(・・・・・・)!」

 

しかし、彼の相棒たるフェンリルの鼻は、いまだ不愉快な匂い……何者かの悪意が存在していることを感知する。

刹那、ヴィヴィオの死角にある机の影から、二人目(・・・)の“影”が跳び出し、彼女の背中へ刃を突き立てんと襲いかかった。

だが、それすらも今の彼女には不意打ちに成りえない。

軸足を起点に身を翻すことで躱して見せると、遠心力を利用した回し蹴りを“影”の側頭部へと叩き込む。

 

(――多分、増援が来たんじゃなくて最初から部屋の中に隠れていたんだね)

『おそらくはその通りでしょう。神狼の騎士(フェンリルライダー)が手間取っていたのも、奴がいたからこそと推察できます』

 

――何故、宗助とフェンリルが二人がかりでありながら、一人相手にあそこまで手こずっていたのか?

 

それは空間転移を利用して二人の“影”が入れ替わることで一人に見せかけていたからに他ならない。

武器を呼び出す技量と、自身を転移させる技術。この二つに差異があったのは、前者は個人の能力だけのものであり、後者は二人の連携であったからに他ならない。一方が正面から戦闘を仕掛け、攻撃を受けそうになるタイミングで机などの影へと退避、同時にもう片方が敵の死角から攻撃を仕掛ける事で、凄腕の空間転移術師と錯覚させていたのだ。

宗助の魔槍を掠っていたのに消耗が低かったのもこのためだ。今まで姿を隠していた二人目こそが、一人目よりも多くの攻撃を掠り、体力を削られていた“影”。彼はもう一人が相手をしている間、じっと体力の回復に努めていた。

そして標的(ヴィヴィオ)の実力が正攻法では対処困難と判断したために、彼女がもう一人を倒した直後に気を緩める、その瞬間を狙いすましていたのだ。

 

「やっぱり、このまま見過ごす事なんて出来ないよ……。あーちゃんを傷つけた罪、ちゃーんとオトシマエをつけて貰わないとね!」

『姫、それは……』

 

砕け散った瓦礫が散乱する床の上を転がるように拭き飛んだもう一人の“影”を見据えながら、ヴィヴィオは『聖剣』を抜くことを決断する。

敵の能力限界はいまだ未知数。空間転移が奴の能力だと宗助は推察しているが、ヴィヴィオはそれだけとは思わない。

何故なら、これまでの戦闘方法と吊り合っていないからだ。

空間転移を自在に使いこなしているのは間違いないだろう。明らかに暗記で隠せる量の武器をどこからともなく取り出しているのも、見えない所で武器を召喚しているからに間違いないだろう。

しかし、もしアインハルトに仕掛けた様な、完璧な空間転移(テレポート)能力を使いこなせているのだとすれば、そもそもこんな戦闘など起こるはずも無い。完全なる奇襲を可能とするスキルを有しているのならば、混乱に乗じてヴィヴィオだけを別の場所へ強制転移させるなどやり様はいくらでもあったはずだ。そもそも、数が二人だけというのも腑に落ちない。

ヴィヴィオが“誰”の娘であるかを理解していれば、この程度の戦力で彼女をどうにかできると考えるはずがない。

態々、姿を見せて正面から戦闘を仕掛ける様な暗殺者など非効率極まりない。確かに、そこに何らかの誇りや矜持を持ち合わせている相手であるのならばそれもアリかもしれない。だが、機械的な反応しか返さない“影”がそう言った人種であるとは到底考えられない。

 

……つまるところ、“影”の目的が本当はどこにあるのかはいまだに不明確だということだ。

 

今後の戦略を練る上では、『倒す』のではなく『制する』ことで情報を引き出す様に動く方が賢明なのかもしれない。

事実、彼女と融合しているエクスワイバリオンからはそのように進言を受けていた。

だが――

 

「ゴメンね、ワイちゃん……。でも私は許せないんだ。私の大切な友達を傷つけようとする人を黙って見過ごす事なんてできないから……!」

 

父は言った。『自分が信じた相手は何があっても護り抜いて見せろ』と。

母たちは言った。『何が正しいかじゃない。自分が何をやりたいかが大事なのよ』と。

 

友を傷つけた“影”が許せない。

ぜったいにぶっ飛ばす!

ヴィヴィオは決意を固める様に瞼を閉じると、静かに呼吸を整えて意識を集中させる。

正面へと突きだした右手指先は天を向き、腰だめに構える左手は如何なる型にも即座に転じることができるように軽く拳を握る。

腰を落とし、両足を開いて大地を踏みしめる。この独特な構えこそ、ヴィヴィオ本来(・・)構え(スタイル)

相手を傷つけないように意図的な威力低下(レベルダウン)させた仮初の剣術などではない……相手を必ず倒すためだけに開発された、彼女だけの戦()術。

如何なる技であろうとも己が血肉と変える事が出来る彼女だからこそ生み出すことが出来た必勝必殺の戦闘技法……!

対人での使用を禁じられていたソレを披露することに、ヴィヴィオは微塵も後悔しない。

静かに開いた曇りなき瞳は、真っ直ぐに敵の姿を射抜く。

『決断』を下してしまった彼女の頑固さにちょっぴり呆れ、それ以上の喜びに満足げな笑みを浮かべながら、想いと優しさを司る大幻獣もまた、悪しき敵を打倒せんと力を高めていく。

黄金神の分身たる彼の心眼が、“影”の向こう側にいる悪の気配を……元主たちが懸念していたセカイに介入する邪悪なる意志の存在を感知する。

参加する者に対して等しく公平な恩恵を与えるあるはずの“神造遊戯(ゲーム)”。

しかし、明らかに個人の意思(・・・・・)が介入した形跡がある今回の儀式の異質さを見抜いた元主たちは、その存在が抹消せんと策謀を凝らしていた人物……参加者の一人と接触することを選択した。

一歩間違えればルール違反ともとられかねないギリギリの行為、無関係であるはずの彼らであっても何らかの罰則(ペナルティ)を受けかねない行為。

しかしそれでも……彼ならば、自力で元主と同じ頂へと昇りつめようとしている新たなる黄金の神の雛ならば――と。

特典のリスクを強化させたり、明らかに彼を排除するためだけに神殺しの“能力”を与えた参加者を用意するなどという妨害行為をものともしない『No.“Ⅰ”』ならば、必ずや正しい結果(ミライ)を紡いでくれると、そう信じたから。

時此処にいたり、その選択は正しかったのだと彼は確信する。

子は親の背中を見て育つ。

友のために心から怒ることができる少女を育て上げた今の彼ならば、希望を託すに値する存在であると。

故に、大幻獣は総てを賭けて幼き少女を高みへと導くことに専念する。

己の道を信じ、大切な誰かを護るために魂を震わせることができる少女の望むチカラを、引き出すために。

 

「……ありがとワイちゃん、私を信じてくれて。なら、今度は私がアナタの想いに答える番だよね――!」

 

ドクン、と胸の奥が脈動する。

『信頼』という代え難き想いを抱き、託してくれたエクスワイバリオンへ応える様に、ヴィヴィオの胸が、いや、全身に燃え盛る様な熱が伝達していく。

彼女が感じているものの正体――それは“魔法力(マナ)”。

人を超えた『神成るモノ』にしか感じとることができぬはずの超常のエネルギー(ソレ)を、彼女はごく当たり前のように理解する。

《神》より分かたれた力の結晶である大幻獣と融合することで存在としての位が上がったために、“因子(ジ―ン)”を持たずしてその領域へと至ったのだ。

 

「はぁああぁぁああああああああっ!!」

 

はるか天上より降り注ぐ膨大過ぎるエネルギーの制御をエクスワイバリオンに委ね、ヴィヴィオは滾り高まる闘志を燃やす。

“大切な『誰か』のために自分のチカラを振るう”

それこそが、ヴィヴィオが戦う力を学ぼうとした切っ掛け。原初(ハジマリ)の想い。

中身の無い器であった自分を優しさで満たしてくれた家族に誓った穢れ無き決意が、気高き聖剣を顕現させる……!

 

ヴィヴィオの構えが変わる。

突きだしていた右手を腰だめに構える左手に添え、身体を後方へと捻る体勢(スタイル)

魔力を集束させていく左の拳を振るうと一目で分かってしまう構え……。

当然、そんな見え見えの攻撃を受けてやるほど“影”は甘くない。

蹴り飛ばされた痛みを遮断し、距離を取るために後方へと跳躍する。

だが――

 

「無駄だよ……その程度の選択で私の覚悟(つるぎ)から逃れる事なんて出来ないんだから」

 

ヴィヴィオは己の魔力と“魔法力(マナ)”を融合させ、顕現させたソレを拳へと装填する。

これより彼女が繰り出すのは必殺にして無敵の『聖剣』。

大切な誰かのために揮うと決めた、穢れ無き純粋にして鮮烈なる想いが鍛え上げた王の証――……。

 

「いくよ……!」

 

刹那、未来を司る新しき王の剣が解き放たれた。

 

「――『鮮烈なる極光の聖剣(エクスカリバー)』――!」

 

打ち放たれたのは、眩いばかりの極彩色に光り輝く極光。

ヒトの身でありながら”究極”の領域へと達する魔法(いちげき)は、対象との距離をコンマ数秒にて零にする。

虹色の閃光は”影”に転移する隙も与えず、その存在全てを蹂躙していく。

直撃した瞬間、膨大な魔力が破壊の奔流となって荒れ狂い、半壊状態だった会議室を蹂躙していく。

『圧倒的な破壊』……それ以外の言葉が思いつかないほどに苛烈で、鮮烈な閃光もやがてその勢力を収めていく。

――後に残されたのは、欠片も残さずに破壊されつくした”無の領域”。

神狼の騎士を追い込み、誇り高き覇王の末裔を傷つけた愚者は、聖王姫の怒りの前に跡形もなく消失したのだ。

そう――――最高にして至高の聖剣の名を冠した究極魔法(いちげき)は、刹那の間も与えずに悪しき“影”を無慈悲に消し去って見せた――……!

 

「ヴィヴィオ、さん……あなたは、いったい……?」

 

生徒たちの避難誘導を終えて戻ってきたはやての治療を受けながら、神々しいオーラを纏う『彼女』の背中を見つめるアインハルトが小さく呟いた。




ヴィヴィっ娘が禁手に至りました。宗助君の活躍をふっとばす無双っぷり(笑)。
ついでに、あーちゃんがヒロインしてますね。
ちなみに彼女が残っていた理由は、友達になったヴィヴィオを見捨てることが出来なかったのと、格闘家として、彼女がそこまで強くなった一因を見ることが出来るかもしれないと思っちゃったからです。


作中に登場した魔法解説

・『黒鱗の魔狼槍(ゲイ・ヴォルフ)
使用者:高町 宗助
宗助が転生時に授けられた”特典”。
触れただけで対象の体力を一割削り取るという非常に強力な能力を内包している。
デバイスではなく、宝具として宗助の胎内に宿っている。

・聖王姫モード
使用者:ヴィヴィオ・スペリオル
ヴィヴィオが至った聖王モードを超える『新たなる王』の姿。
基礎身体能力のさらなる向上や、魔力量の増加、『聖王の鎧』の強化などの効果が発現する。
本人だけでは聖王モードへの変身が精いっぱいなところ、エクスワイバリオンとの融合によって欠点を克服・完成させた。
元々、アリシアたちが彼女のデバイスに高性能さを求めていたのは、この形態へと至るための補助装置とする目算だったから。そのため、デバイスが完成すれば、彼女単体でもこの形態に自由に変身可能となる予定。

・真覇・虚刀流
使用者:ヴィヴィオ・スペリオル
正史には存在しなかった幻想の技術――他作品の技――を組み合わせて作り上げられたヴィヴィオだけの戦()術。
実戦を考慮した上で考案された流派故に、唯の拳でも人体を破壊しきるほどの攻撃力を実現させた。
攻撃的すぎる故の反動として普段のヴィヴィオでは肉体にかかる負荷が極めて大きいため、聖王モード以上の状態でしか使うことを許されていない。
そのかわりとして考案され、意図的に威力を低下させた不殺武術が『きょと~りゅ~』である。

・“富嶽砕華(ふがくさいか)
使用者:ヴィヴィオ・スペリオル
真覇・虚刀流 第七の奥義。
虚刀流の落花狼藉(らっかろうぜき)に、月島流剣術『富嶽鉄槌割り』を組み合わせた技。
周囲の空間ごと対象を押し潰す強力無比な踵落とし。

・『鮮烈なる極光の聖剣(エクスカリバー)
使用者:ヴィヴィオ・スペリオル
聖王の鎧を全開にさせることで自身への反動を最小限に防ぐことによって初めて発動出来る、聖王姫が振るいし虹色の聖剣。
その輝きは遍く絶望を薙ぎ払い、一振りで世界を蔽う暗雲すら断ち切って見せるほどとされる。
虹色の極光に秘められた膨大な破壊のチカラは『神代魔法』に匹敵する程であり、まず間違いなく世界最強クラスの破壊力が秘められた究極攻撃魔法のひとつである。

・エクスワイバリオンとの合体について
彼はダークさんの守護竜として授けられましたので、彼の眷属扱いであるアリシュコンビやヴィヴィっ娘とも一時的な融合が可能。
《黄金神》サマの相棒である”暴竜”君が、ご主人様の魂の欠片を受け継いだ騎士と合体できていたのと同じ理由です。
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