魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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今後の戦いに向けて、六課の戦力が増強中。
そして今回、ギンガに保護された下水少女が本格的に登場します。


不穏の胎動

同時に発生した三つの激闘の幕が下りてから数日の時が流れた。

 

結局、駆けつけた管理局の横やりを受けて戦いが有耶無耶となったアリシアたちを引きつれてアジトのひとつを訪れていたダークネスは、あの日に起こっていた事件について情報を纏めていた。

コウタの消滅、ダークネスが感じたヴィヴィオと似て非なる魔力、多くの人々の知る事となった高町 花梨(エースオブエースの姉)ルビー・スカリエッティ(“無限の欲望”の妹)。そして……

 

「ヴィヴィオと似た魔力の波動、ですか?」

「そうだ。ほんのわずかな時間だったが間違いない。アレは確かにヴィヴィオと同じ魔力の波動だった」

 

ダークネスの言葉を受けて、手元の機器を操作していたアリシアが振り返る。

 

「でも、ヴィヴィオは私たちとずっと一緒にいたよ? こないだだって、ユーリちゃん相手に押されてたけど最後までやられなかったし」

 

無尽蔵の魔力にものを言わせて一気呵成に責めたててくるユーリに対して受けに回らざるを得なかったヴィヴィオだったが、その身に宿した格闘センスと真覇・虚刀流を駆使することでどうにか凌ぎきったのだ。

しかし、本人としては敗けたように感じたのだろう。今もこうして、【セイクリッドハート】の最終調整の完了を今か今かと待ちかねている。

今度こそリベンジしてやりますっ! と胸の前で拳を握る娘の頭に手を置きながら、シュテルが思い立ったように口を開いた。

 

「……もしや、ヴィヴィオ以外に生み出された聖王のクローンでは?」

「え、それって可笑しくないかな? ユーリちゃんたちはヴィヴィオを狙ってたじゃない。もし手元に聖王のクローンがいるんなら、わざわざこの子まで手に入れようとする必要はないんじゃないかな?」

 

戦力的な面で見ると、確かにヴィヴィオは魅力的な戦力になるだろう。

しかし、現在の彼女の基本骨子となっているのはダークネスたちとの絆や信頼だ。

無理やり攫って洗脳を施したところで、操り人形程度の状態で十全に彼女の能力を引き出せるはずも無い。

そんなものを、果たしてあのルビーが欲するだろうか……?

 

「あれは方便ですよ。王たちの目的は私たちを倒すことに違いありません。現に、一番強くて殺傷能力に富んだユーリをヴィヴィオにぶつけてきたじゃないですか。もし本当にこの子を手に入れようと言うのなら、先に私たちを三人がかりで仕留めて攫ってしまえば済む話じゃないですか」

「むぅ……そうだとすると、ダークちゃんが感じたのがスカリー博士たちの本命の子ってワケ? けど、その子は確か――」

「はい。下水道でガジェットに襲われていたところを、独自に(・・・)事件の調査を行っていたギンガ・ナカジマが保護。その後、現場に駆け付けた八神 はやての指示により聖王教会へと搬送。その際に使われた六課所属のヘリがSランク相当の魔力砲撃を受けたものの、リミッターを解除したナノハがコレを防ぐことで事なきを得ました。ちなみに襲撃者と思われる全身青タイツの少女たちは反撃を仕掛けたフェイト・T・ハラウオンとナノハから逃げ切ったようです」

「そうか……ちなみに、保護された少女とやらの容姿は?」

「詳しい治療は聖王教会で行われたらしく詳細までは……」

 

ただ、と一言断ってから、

 

「彼女の容姿についてはヘリの中で診察を済ませたらしい泉の騎士の報告が上がっていました。それによると、彼女は外見年齢十六~十七ほど。腰まで届く金の髪と左右で色の異なる瞳をしていたとのこと。おまけにリンカーコアも備わっていたらしいですね」

 

金糸のように眩く輝く髪、宝石を連想させる真紅と翡翠色の瞳。

それは間違いなく、ベルカ古の時代を生きた伝説の人物“聖王”の特徴そのものだった。

後は魔力光が虹色である事を確認すれば完璧だろう。

 

「ま、九割方『アタリ』だろう。“知識”によれば、おそらくその娘が『揺り篭』の起動キーとなるに違いない、ハズなんだが……あのルビーがこの程度の策で満足するとは思えんな」

 

“原作”では、起動した『揺り篭』は最終的に粉微塵に粉砕されている。

それを知るルビーが、ただ“原作”をなぞるだけとは到底思えない。

そもそも、本来の起動キーであるヴィヴィオがこちらにいるのだ。

代替え品と言えば聞こえが悪いが、新たに用意されたであろう少女に何かを仕込んでいる可能性は否定できない。

 

「次に結界が発動するのがいつになるのか予測できないのが痛いな……。保護の名目で六課が引き取ってくれれば、まだやり様はあるんだが」

 

出来る事なら、件の少女の調査と接触を済ませておきたい。

六課では見抜けない彼女の秘密も、アリシアという科学者よりの天才肌の力を持ってすればなにか突き止めることが出来るかもしれない。

コウタと言う護りの要を失った今の六課であれば、気づかれないように侵入することも不可能ではない。

 

「まあ、その辺は追々やって行けばいいか。今はそれよりも優先しておく件があるからな」

 

調整用のガラスケースの中で真に完成しようとしている相棒(デバイス)に熱い視線を送り続けるヴィヴィオを見て、やれやれと肩を竦める。

ガラスに額と鼻の頭を押し付け、興奮に染まった表情を浮かべたヴィヴィオの想いに答えたのか、調整漕の中で宙に浮かんでいたうさぎ型のぬいぐるみ……クリスがつぶらな眼を開いてヴィヴィオを見返した。

 

「クリス!」

「……! (ぴこぴこ)」 ← 両手を掲げて「やったるでー!」 とやる気をアピール中。

 

微笑ましい光景に、シュテルの頬が緩む。

 

「あらあら、こんなに喜んでくれるなんて母親冥利に尽きますね。『とっておきの隠しモード』を追加しておいて正解でした」

「……何を仕込んだ? 『聖王姫』への進化理論(トランスファー・アルゴリズム)以外に何を?」

「ご心配には及びませんよ。ただ、ちょっぴり……ええ、ほんのちょっぴりだけ追加機能を仕込んだだけですから――」

 

恍惚すら感じさせる笑みを浮かべるシュテルに背筋が凍りつく錯覚を覚えつつも、まあ自分に被害はこないだろうと思考を切り替えてモニターへ視線を戻す。

アリシアが高速でキーボードに指を走らせ、瞬時に同大な数の情報が空間モニターとして同時展開されていく。

正面のメインモニター、さらに周囲に浮かぶ空間投影型ディスプレイに目を通し、彼女がハッキングによって入手したリアルタイムの情報を見聞する。

 

「これは……」

 

と、不意ある情報が映し出されていることに気づく。

宙に指を走らせ、見過ごせない情報が表示されたディスプレイを拡大化、アリシアたちにも見える様に角度を動かしながら情報を読み解いていく。

 

「“古の偉大なる王! 聖王の再来と判明した少女の護衛に機動六課が任命された”、か」

 

そこにあった写真には、どこかヴィヴィオを彷彿させる――ただし、今の彼女ではなく聖王モード以上に変身した十代半ばほどの――少女が、聖王教会の騎士と談笑している姿が映し出されていた。

少女の服は質素な入院着のままである所を見るに、おそらく聖王教会直下の病院施設あたりで撮影された物なのだろう。

年相応の微笑みを浮かべ、清楚なお嬢様然とした騎士……カリムと楽しげなひと時を過ごしているように見える。

 

「これは……もしや彼女はヴィヴィオと同じ?」

「……病院での検査データは――あ、ダメみたいだよ。Sランク以上の閲覧制限がかけられてるみたい。コレを突破するのは流石の私でも苦労しそうなんだよ」

「それほどまでに重要な人物と言う訳ですか。ま、大々的に聖王の再来! 的な公表をするつもりみたいですしね。……クローンと言うあたりはどう誤魔化すつもりなのでしょうか?」

「う~ん、なんかフルオープンにするみたいだね~。ま、人造魔導師とかの非合法研究についての情報規制ってあんまり徹底していないだから」

 

写真の人物は、間違いなくヴィヴィオの姉妹……外見年齢的に推察するに、ヴィヴィオを生み出した研究施設よりも数段格上の設備が整った場所で時間をかけた調整を受けているのだろう。

近々公開される予定らしい記事の文章を読み進めてみると、彼女がとある違法研究所で生み出された聖王のクローンであることを敢えて公表しつつ、彼女を人的な観点から聖王教会で保護する様に上層部が話を進めているらしい。

ただ、クローンが聖王の名をかたることを許さないといった一部の過激派による襲撃も考えられるため、一時的に管理局の精鋭部隊である機動六課へ預けるのだと言う。

教会にとって計り知れない益を齎す可能性を秘めた人物を、あえて(・・・)同盟組織である管理局に預けることより、組織間の繋がりを強調しつつ、法の守護者たる組織が護衛を任されるのは彼女が本物の聖王であるという言外のアピールも兼ねているのだろう。

 

「なんというか、聖王教会もしたたかなやり手がいるようだ。情報を規制するのではなく、大々的な表舞台に立たせる戦略を選ぶか。さらに、クローンであっても人道的な支援を与えるのが聖王教会の方針なのだという噂を流すことで、管理局が保護・捕縛している人造魔導師研究の産物たち『聖王教会に行けば、普通の人間ではない自分でも人権が保障されるのでは』という希望を抱かせることもできると言う訳だ」

「管理局に保護された魔力資質持ちの人造魔道師の殆んどは、出生に関する情報を規制された上で、戦闘員として前線に送り込まれていますからね。まあ、組織の上層部としては、魔力ランクが魔導師の価値を決めるという風習を利用し、戦功をあげる機会を増やせるようにという目論見があるのかもしれませんが……実際、彼らのどれほどの割合が“普通の人間としての平凡な生活”を望んでいるのやら」

「魔力至上主義……か。皆が皆、力こそ総てだという考え方をしてるわけじゃないって信じたいんだよ」

「魔法という異常なチカラが当たり前となっている世界だからこそ、魔道を使える者はそれを活かすべきだ――と考える者が少なからずいるのは事実だろう。だからこそ、俺と言う危険人物(そんざい)に付き従うアリシアとシュテル(おまえたち)ですら、殺さずに生け捕りにしようと目論んでいるんだ。大魔導師の後継者と呼ばれるアリシア然り、稀有な魔力変換資質を有するシュテル然り」

 

“闇の書”事件の終焉から約十年。ダークネスたちを仕留めに来た管理局特殊部隊の目的は、ダークネスの抹殺とアリシア・シュテル両名の捕縛であった。

優秀な才能を持つ人物は、減刑を代価に組織の末端に加える。それが管理局の基本方針であるのは、今も昔も何も変わっていない。

嘱託魔導師としてかかわりを持った人物が魔導の道から遠ざかる事が無いのと同じ、基本的に優秀な才能を与えられた人造魔導師は戦力として手放されることは無いだろう。

無論、エリオのように自分を助けてくれた管理局員に恩返しがしたいという考えから、自ら進んでその道を選択する者も存在する。

しかし、人造魔導師という『普通ではない』出自というものは、どうしても足かせとなって彼らの選択肢を削り取ってしまう。

今の現状、彼らが取れるのは管理局の保護下にある施設で身柄を預けられるか、組織の一員となって己の力を示すかくらい。

もし聖王教会が人造魔導師を受け入れることから彼らに『自由』を与えるとでも言い出したとしたら、果たして彼らはどんな決断を下すのであろうか?

 

「――いや、それは考えすぎか。そもそも、どうして俺がそこまで有象無象な連中の事を考えてやらんといかんのだ」

 

らしくないと頭を振るダークネス。

彼の変化に気づいたアリシアは小さく含み笑いを零す。

シュテルとヴィヴィオが不思議そうに首を傾げるのを余所に、彼女はダークネスの胸中で生まれかけているある感情の正体を看破していた。

 

(ダークちゃん、あなたが見ず知らずの人たちのことを気にかけちゃってるのはね……《神》サマとしての自覚が出てきたからなんじゃないかな)

 

守護神の系譜に連なる存在。それが現在のダークネスだ。

今までは身内だけの狭い範囲でしかなかった。しかし、ごく近いうちに更なる覚醒を始めそうになるほどに肥大化した器が――彼にとってどうでもいい、力無き存在でしかなかった人々を『擁護する対象』として感じる様な変化を齎したのでは。

誰よりも生命(イノチ)というものを真剣に捉えるからこそ、すこし認識を変えるだけで他者の生命(イノチ)を見守り、庇護を与える存在へと成長を進めているのではないか。

黄金神と白き神が彼に希望を託したのは、そんな可能性を感じとったからなのだろう。

 

「……何ニヤニヤしているか」

「べっつにぃ~? 何でもないんだよ~」

「なら、微笑ましい物を見るかのような優しい目を止めんか。なんか無性に腹が立つ」

「まあまあ。――っと、そう言えば」

 

不意に何かを思い出したようにシュテルがモニターを操作して、とある映像を展開させる。

 

「デバイスから抜き取った、お前たちの戦闘映像か? 市街地戦と言うことは、この間の紫天のガキどもとやり合った時のだな」

「はい。その時、杖を交えていると、少々気になったというか妙な違和感を感じたんですよね。あの時は昂揚していたのもあって意識の外へ追いやっていたのですが、改めて思い返してみると……」

「あ、ホントだ。ユーリちゃんのバリアジャケットが前と変わってるんだよ。このカッコ、どこかで見た様な?」

「シスターさんですよ、アリシアママ。ていうか、あの女の人って元々こんな恰好じゃなかったんですか?」

 

ユーリが戦う様を見たのはあの時が初見であったヴィヴィオが首を傾げながら問う。

実際にユーリと相対していたのは彼女だが、敵対時の対策として能力云々の情報こそ教えられていたものの、バリアジャケットの形状云々までは教えられていなかったらしい。

【セイクリッドハート】から抜き出した記録データをさらに検証していくと、ヴィヴィオとの戦闘では彼女の主力武器である魂翼をほとんど使用せず、何故か西洋剣タイプのデバイスを振るっていた。

 

「なるほど、確かに妙だな。しかも奴が使っているのは聖王教会で配布されている騎士専用の汎用デバイスじゃないか。他の二人は普段通りで、何故奴だけが――いや、まさか……?」

 

何かに気づいたかのように、ダークネスが顎に手を当てながら瞠目し、より詳しい情報を訊きだそうと口を開く。

 

「アリシア、シュテル。お前たちが対峙した奴らの行動に、違和感を感じるようなことは無かったか? あからさまに時間稼ぎをしている風な印象を受けたとかは?」

「そう言われてみれば……王たちは私たちを分断させるように動いていた風に思えますね。高速機動を得意とするレヴィが広域殲滅型のアリシアをかく乱し、火力を前面に押すタイプの私には多彩な魔導で多様な攻めを実行できる王が相手になりました」

「それはお前たちからそうなるように仕向けた訳じゃないんだな?」

「はい、それは間違いありません。彼女らは明らかに誰を誰が相手取るか、予め配置を決めていた節が見受けられます」

「一人だけ装備を変えた敵を一番違和感を感じにくいであろうヴィヴィオにぶつけたと言う事か? だとすれば――もしルビーがあの結界の発動を何らかの手段で予知できるのだとしたら……なにか仕込みやがったか?」

「仕込み、ですか?」

「相手はあのルビーだ。愉快犯的な一面が強調されている奴だが、その本質は獲物をじわりじわりと追い詰める蛇の如き冷徹な思考の持ち主。自分の手駒に意味も無い行動をとらせたりしないだろうさ」

「だとすればいったい……? あ、もしかしてスカリエッティ一味も聖王教会の関係者だと思わせる事で、管理局と構築している関係を悪化させることが狙いなのでしょうか?」

「だとすれば、他の連中も同じ格好をさせている筈だ。この場合はヴィヴィオの相手が聖王教会のメンバーではないかと思わせるのが目的、なのか? いや、断定はまだ早いか。まあ、どちらにせよ、そう遠くない内に事態は大きく動くことになるだろう。――この娘が火種となってな」

 

ダークネスが睨み付ける一つのモニター、そこには八神 はやてを筆頭とした六課隊長陣にエスコートされていく己が娘と瓜二つの容姿を持った少女が映し出されている。

生命を感じさせぬ漆黒の左目(デバイス)は、微笑を浮かべる少女の中に宿る異質なチカラを真っ直ぐに射抜いていた。

 

――少なくないイレギュラーもあったが……まあ、この調子なら俺の望む形に戦局が傾いてくれそうだな。

 

かつて己が撒いた『種』が芽を出さんとしていることを、ダークネスは確かに感じ取っていた。

 

 

――◇◆◇――

 

 

ダークネスたちが今後の戦略を練っていた頃、機動六課の訓練場でバカ騒ぎが引き起こされていた。

朝露も乾かない時刻、冷たい海風が頬を撫でるその場所に昨日まで居なかった人物の姿があった。

機動六課の関係者を示すマークが刻まれた腕章をつけた三人の子どもたち……宗助とリヒト、ルーテシアだ。

宗助の足元には仔犬サイズに縮んでお座りしているフェンリルの姿もある。

彼らは本日から機動六課の民間協力者として六課宿舎で生活を行う事になったのだ。

事の起こりはホテルアグスタの事件に彼ら初等部の生徒たちが巻き込まれたことを発端とする。

未だ幼い生徒たちの精神は、突然の戦闘に巻き込まれたと言うショックに耐える事が出来なかった。

心理的障害を負ってしまった生徒たちのケアが完了するまでは授業が休校することとなり、宗助たちも自宅待機となるはずだった。

しかし、あの事件を扱った報道たちが巻き込まれてしまった宗助たちの存在を大々的に取り上げてしまったお蔭で、相当の個人情報が公にされてしまった。

特に、誰もが知るエースオブエースの姉が養子とした宗助や、はやての娘であるリヒト。地上本部のエース部隊に所属するメガーヌの娘であるルーテシアの三人については念入りに。マスコミ各所からすれば絶好のネタだったのは間違いない。

だがそのせいで、プライバシーも何もない状況に追い込まれてしまった彼らの身の安全性は一気に最下層まで叩き落されてしまった。

なにせ、居所などの情報が芸能人並みに晒されてしまったのだ。いつ敵側の襲撃を受けてもおかしくない。

そんな彼らの身を護るために、はやては彼らを事件解決のために必要不可欠な重要参考人として扱い、六課で保護したのだ。

 

『アグスタの一件は広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ一味によるものと断定された。本人の意思に関係なく事件に関わってしまった彼らが口封じに襲われる可能性もある。

よって、捜査を一任されている我々機動六課が責任を持って彼らの身の安全を保障します』、と。

 

ルーテシアは母親のメガーヌがいる地上部隊で保護すると言う選択肢もあったが、普段から仲の良い三人を離れ離れにするのは逆効果なのではないか? という理由で、三人仲良く六課の保護下に入ることとなった。

ちなみに、民間協力者なので管理局の制服は用意されておらず、彼らの服装は学校指定の制服そのままだ。

 

「あー……ねむ……」

「もう、そーくんってば。ほら、起きて、起きて」

「肩を揺するなんて甘いわよリヒト。こういうのはこうやって起こせばいいの――よっ!」

 

メメタァ! ← ルーテシアが召喚した地雷王(野球ボールサイズ)がうたた寝小僧(そうすけ)の顔面にめり込んだ音

キラキラキラ……! ← なにかをやり遂げた表情で額を拭うルーテシアから飛び散る、爽やかな汗が煌めく音

 

「なにやってんのルーちゃ――ん!?」 ← 直立姿勢で後ろへと倒れこんで逝く(誤字に在らず)幼馴染その2(そうすけ)に絶叫する少女(リヒト)の悲鳴

 

「愛のモーニングコール……なんちゃって」

 

はにかむような微笑みを浮かべてそんな事をいっちゃうルーテシア嬢。

もし背景に顔面が蟲とドッキングしてしまった『怪奇! ダンゴ虫フェイス男!』 と化した《神》サマ候補(笑)が映り込んでいなかったら、思わずシャッターを切らずにはいられなかったことだろう。

ビクンビクン! とヤバげな痙攣を繰り返す宗助を抱き上げ、めり込んだ地雷王を必死に外そうとするリヒト。

恥ずかしそうに頬を朱色に染めて、くねくねするルーテシア。

強気系幼馴染から過激な愛情表現を受け、健気系幼馴染に解放されるというエロゲー的主人公イベントを堪能している主を見て、一心同体であるはずのフェンリルは我関せずとばかりにそっぽを向く。如何なる困難をも共に戦い抜くと誓い合った無二の相棒であったとしても、ラブコメに茶々を入れるのは勘弁願いたいらしい。

そんな何とも賑やかな三人組+一匹の様子を遠巻きから眺める少女が新しい上官となった人物に振り返り、

 

「……あれ、ほっといてもいいんですか?」

「え、なにかいけないかな? 仲良くて何よりだと思うんだけど?」

「フェイトさん……一度眼科に行った方が良いのでは?」

「今年の健康診断じゃ問題無かったよ?」

「……ああ、もういいです。そうですね、天然さんでしたね貴方は。頭にお花畑が咲き誇っているんですよね」

「?? 別に花なんて咲いてないけど?」

「いや、あのですね? 首を傾げながら頭の上に手を当てる時点でもう、何と言いますか……はぁ」

 

宗助たちの護衛と言う名目で出頭してきたギンガは、心底疲れた顔で額を抑える。

父の部隊にいた頃は“地上本部の最終防壁(ラストガーディアン)”(構成員はギンガとクイントにメガーヌとオーリス)の一員扱いされて、なにかと暴走するオヤジ~ズのストッパーを任されていたが、まさか六課に来てまでツッコミをさせられる羽目になろうとは。

地上の平和を守るのが己の本分であるはずなのに、実際は問題児集団の後始末。

まさか、護衛と言う名目でツッコミ役をさせるために自分を出頭させたのでは? と勘繰ってしまうほどに、ギンガの精神はささくれ立っていた。

 

「にゃはは……皆朝から元気だねぇ」

 

苦笑を浮かべて頬を掻きつつ現れたのは、教導官の制服に身を包んだなのはだった。

 

「あ、なのはさん。おはようございます!」

 

もう一人の上司であるなのはに声をかけられ、慌ててギンガが敬礼を返す。

他部隊からの出頭者であるギンガの態度は、そのまま彼女が所属する部隊の規律に反映される。

父が隊長を務める部隊の品格を貶めてはいけないと、模範のような美しい敬礼をとるギンガの硬い態度に、顔見知りには基本的に砕けた態度をとるなのはは苦笑を隠せない。

 

「ふふっ、皆様方楽しそうでいらっしゃいますね♪」

 

不意に響いた透明感を感じさせる少女の声が、喧騒を繰り広げていた子どもたちの動きを止める。

まるで聖域より湧き上がった清らかな湧水が大地へと染み渡るかのように、騒いでいた宗助たちの視線が、ごくごく自然な動きで声の主へと向けられた。

 

「あっ、皆にも紹介するね。彼女の名前は『ヴィレオ』。知っているかもしれないけど、この間の戦闘で保護された人物が彼女なの」

「わ、知ってます! TVに出演されていた聖王様の生まれ変わりって言われてる方ですよね?」

「はい、ルーテシアちゃん正解! で、彼女を襲った襲撃者がスカリエッティ一味だってこととか、世論が落ち着くまでの間、彼女の護衛役も必要だって話になってね。今日から皆と同じように、私たち機動六課で一緒に生活することになりました」

「そう言った事情がありまして。皆様、不束者でありますけれども、どうぞよろしくお願いいたします」

 

身体の前で両手を重ね、深々とお辞儀をするヴィレオ。

まさに、完璧なお嬢様然とした仕草と雰囲気に圧倒されたのか、子どもたちが目に見えて狼狽え始めた。

年上の、しかも異性の魅力をこれでもかと感じさせるヴィレオの何気ない仕草に、宗助は思わず頬を真っ赤に染め上げてしまい。

リヒトは、どこかお姫様を彷彿させるオーラを放つヴィレオに純粋な憧れを抱き。

ルーテシアは、頭を下げた瞬間に柔らかくも艶めかしい動きを実現して見せた、大変ご立派な胸部兵装(おむねさま)と自身のソレとの間に存在する絶対的な戦力差にうちひしがれ。

久しくお目にかかれずにいた、真面目そうな常識人な人物の登場に、ギンガは静かに涙を流す。

四者四様のリアクションを見せる新たな仲間たちの反応に、なのはとフェイトはおろおろすることしか出来ず。

「あらあら、うふふ」と頬に手を当てて微笑むヴィレオを中心とした混沌は、早朝訓練に現れた刹那たちが「……アンタら何やってんの?」 とツッコミを入れるまで続いたと言う。

 

 

 

 

「……“聖王の生まれ変わり”、ね」

「なんや、花梨ちゃんはヴィレオちゃんの事を疑っとるんか?」

 

ヴィレオや宗助たちがフォワード陣と再会を果たしていた頃、六課部隊長室でははやてと花梨がデスクを挟んで向かい合い、聖王教会から提供された検査データの検分を行っていた。

記されているのは、保護されたヴィレオが病院で受けた検査の結果。

そこには、彼女が人工的に生み出された人造魔導師である痕跡が確認された事や、伝承として残る“聖王”との共通点などについて事細かく書き込まれていた。

 

「これを見た限り、彼女が“聖王”の遺伝子を元に生み出された存在だってのは間違いないと思うわ。だからこそ、教会の上層部も彼女の扱いについて慎重に議論を交わしているんだろうしね」

「身元請負人の主体は女狐(ローラ)らしいけど、カリムも後見人の一人になってくれとるみたいやから、早々政治の道具にはされないと思う。女狐(ローラ)だけなら、平然と権力を手に入れるための道具に利用しそうやけど、カリムは十分信用できる」

「ずいぶんとローラって人を嫌ってんのね?」

「アイツとは相容れんって初対面の時に確信したんよ。例えるならそう、塩素系と酸素系の潜在みたいな関係や」

「混ぜたら危険。薬も劇薬に早変わりって言いたいわけね。――ちなみに、管理局は今回の発表をどう受け止めているの? 同盟関係にある組織が確固たる旗印を得た……って、あんまりおもしろくないんじゃない?」

「う~ん、ゲイズ中将(オッサン)共の話じゃあ、結構荒れとるみたいやね。一部のタカ派……管理局こそが次元世界最高の権力を持つ組織なのだっ! ――みたいな選民主義者は人造魔導師に人権を与えるなんて馬鹿馬鹿しいみたいな事を吼えとるみたいや。ま、そうは言うても、大多数はリンディ提督とかの穏健派と同じ対等の立場での協力関係を持続させることを望んどるみたいやね」

「伝説の復活とは言っても、所詮は他人事。対岸の火事ってワケか。――あ、ぞれじゃあ、ヴィヴィオちゃんはどうなるの? 彼女もヴィレオさんと同じ、聖王のクローンでしょう?」

「犯罪者の娘……それがあの娘に対する対応らしいわ」

 

つまり、罪を犯す危険人物である者が何を主張しようとも、『戯言』として無視すると言うことだ。

少し前までは、ヴィヴィオを保護しようと考えていた教会関係者もいたようだが、ヴィレオという強力的な……しかも、利用目的で自身を生み出した悪の組織から逃げ出し、運命的な巡りあわせの末に聖王教会へと降臨した少女という民衆受けする経緯がある彼女がいれば十分だと思い直したらしい。

危険人物(ダークネス)の影響を受けている幼子(ヴィヴィオ)よりも、友好的で従順そうな美少女(ヴィレオ)の方が御しやすいという考えもあったのかもしれない。

 

「政治の世界って、どこも真っ暗よね……お嬢様な葉月が、親御さんの仕事関係のお付き合いでパーティに参加してはぶーたれていた理由がよく分かるわ」

資産家の娘である彼女は、花梨のような一般人よりも闇が渦巻く政治の深遠を垣間見る機会に恵まれていた。

時折翠屋に顔を見せに来ては、紅茶を味わいつつ愚痴をこぼしていた姿が今では懐かしく感じる。

 

――あの時の葉月の顔って面白かったのよね。

 

親友の普段は見せないふてくされた様な表情を思いだし、くすくすと忍び笑いを零す。

そんな花梨の顔を見詰めつつ、不思議そうな表情を浮かべたはやてが手に持った書類を机に置きながら問う。

 

「なあ、花梨ちゃん――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『葉月』って誰のことや(・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……」

 

冗談でもなんでもなく、本当にわからないという顔のはやてに、花梨は表情をこわばらせながら、僅かな希望を胸に尋ねた。

 

No.“Ⅶ”(ナンバー・セブンス)……私と同じ儀式の参加者で……“闇の書”事件の時にも手を貸してくれた、私にとって大切な……ほんとうに大切な親友、よ」

 

想いの丈を告げるかのように、一語一句を噛みしめながら言葉にしていく。

しかし、帰ってきた答えは、

 

「ふーん……そうなんか(・・・・・)

 

声色から、はやての返答に含まれた意味を――まさしく他人事としてしか『葉月』と言う存在の事を認識できないでいることに気づき、花梨は机の下で拳を固く握りしめる。

わかっていた――そう、わかっていた事なのだ。

『因果』を、如月 葉月と言う『存在』を喰われた(・・・・)彼女の末路を。

完全なる消滅へと至ってしまった彼女を認識できるのは、自身が敗北し(きえ)た後にも残る“因子(ジーン)”を宿す儀式参加者だけである事を。

 

(わかってた……わかっていたのよ、はやてたちが葉月の事を認識できなくなることくらい! でも……! それでも、こんな仕打ちが許されるって言うの……!?)

 

悲しみの叫びを上げそうになるのを必死に堪える花梨に驚き、駆け寄ってくるはやてに返事を返すことも出来ず、胸に渦巻く怒りがうねりをもって、元凶へと向けられる。

それは、自身に教えを乞う少年が救いたいと願う少女の姿をしていた。

彼女に寄り添い、空虚な瞳でこちらを見下す『おぞましき化生』 ……。

親友が最後に抱いた願いによって受け継いだ彼女の“因子(ジーン)”によって覚醒した、『終焉を告げし大いなる冬(フィンブルヴェント)』。

自分の中で確かに存在する親友の想いを愛しむ様に、腕を回して身体を抱き締めた花梨の瞳が、怒りの炎を宿す。

 

――キャロ・ル・ルシエ……! フリードリヒ! 私はアンタたちを絶対に許さないから……!

 

宿主の激情に呼応したかのように、“因子(ジーン)”が大きな脈動と共に、さらなるチカラを顕現させようとしていた。

 

花梨の願い……誰もが救われる未来を紡ぐという目的のためには不要な――誰かを消滅(ころ)すためのチカラを。

 




花梨覚醒の裏側に存在していた、葉月嬢敗退済みフラグがようやく明らかに。
前回の話しで、それとなく匂わせていました『親友から受け継いだ力』云々の発言は、こういう意味だったのです。
葉月嬢最後の戦いは次話で。
ついでに、正体不明としていたフリードの正体も明らかにします。
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