「くそっ! 何なんだよコイツは」
討論会当日の早朝、深夜シフト後の仮眠から目覚めた矢先に発生した騒動に、刹那は露骨に表情をゆがませた。
「まさか聖王教会がスカリエッティと同盟を結ぶなんて真似に踏み切るとはな。完全にしてやられたぜ」
味方だと思わせておきながら、ここぞというターニングポイントで周囲の度肝を抜く奇策にうって出る。戦術として非常に有効な手段だと、内心はき捨てる。
同時に、無謀な捨て身、下の策でしかない行為だとも。
革命、反乱、クーデター……どの言葉もしっくり来ない此度の聖王教会が起こした騒動は遠からず鎮圧されることだろう。
いかに民衆への影響力が強い教会といえども、軍人としての教導を受けている自分たちに比べて、あくまでも自衛に留まっている程度の戦力しか保有していない聖王教会とでは底力が違う。不足する戦力をスカリエッティと同盟を結ぶことで補おうというのだろうが、民間協力者扱いの姉御たちも控えている。
「懸念材料といえば化けモンくらいか。ま、ここでうだうだと考え込んでても始まらないか。カエデ、俺たちも救援に向かおう……ぜ……?」
振り向きながら、相方を呼ぶーー。しかし、彼の台詞は尻すぼみに小さくなり、モニターをにらみつけていた鋭い眼が驚愕と困惑で見開かれていく。
「なあ、――……なに、やってんだ?」
「……」
「頼むから答えろよ――……どうして、
カエデは答えない。普段とは……いや、教会が動き出したことに呼応したように、それまでの緩んだ顔つきから能面のような無表情へと切り変わった。何も写さない空虚な瞳で刹那を見る立ち姿に隙は見られない。
「……雑魚」
口元に酷薄な笑みを無理やり作りながら、カエデがつぶやく。仲間の命を奪ったというのに、ひとかけらも後悔を感じていないことを察し、一瞬で刹那の理性が吹き飛ぶ。
「何やってんだって……言ってんだろうがぁあああっ!」
激情に駆られるまま、数歩で間合いを詰めた刹那は、悪友と信じているカエデへ向けて、起動させた愛剣を容赦なく振り抜く。
だが、普段の鈍足が嘘のように思える足裁きで襲い掛かる炎刃を避わすと、お返しとばかりに仲間へ突き立てていた短刀を引き抜き、その勢いを載せた逆袈裟切りを繰り出した。
狙いは――首筋!
(喉を掻っ捌くつもりか!?)
本気で己の命を奪おうとする殺意が乗せられた一撃。驚きつつも剣を跳ね上げ、迫り来る凶刃を受け止め、そのまま剣戟戦を繰り広げる。突然暴走を始めた悪友を止めるべく急所を外す刹那と違い、カエデの攻撃には一切の躊躇や戸惑いが含まれていなかった。振るわれる斬撃全てが命を奪おうという敵意を宿す。まるで人が変わってしまったかのような悪友の変貌に、困惑を感じずにはいられない刹那は徐々に防戦一方になってしまう。訓練や模擬戦で幾度か手合わせすることは合った。だが、豹変したカエデの技量は、記憶にあるそれに比べ、明らかに戦闘能力が上回っている!
「どういうことだよ……なあ、答えてくれ……! いったい何があったっていうんだよ!?」
「……切やん、いい加減現実を受け止めろよ」
聞きなれたいつもどおりの口調だったが、声は暖かみを一切感じさせない冷たいもの。まるで、自我を持たないAIのように作り物めいた印象を感じさせる。
「ホントはわかってんだろ? 聖王教会が動き出したことがきっかけだってことに。――俺っちが、切やんたちの動向を監視するために送り込まれたスパイだってことも」
「いつからだよ……。いったい、いつから連中に与しやがった!?」
「最初から、って言えば信じるかい?」
”知識”から誰が六課に配属されるのかをあらかじめ知っていたカリムたちは、内部から情報を提供する間諜を送り込む決定を下した。組織の中へ潜入するよう命じられたカエデがとったのは、新人として配属される者たちと信頼関係を構築すること。
そこで、”知識”の中に居ない、異常な存在のくせに普通の人間ぶっている風に感じた刹那へ接触を図ったのだ。敬愛する主と競い、争う存在であるかもしれないと、そう確信したから。
「正反対だからこそ意見が合うこともある。演じさせてもらったんだよ」
組織の中へ潜入するよう命じられたカエデがとったのは、新人として配属される者たちと信頼関係を構築すること。
そこで、”知識”の中に居ない、異常な存在のくせに普通の人間ぶっている風に感じた刹那へ接触を図ったのだ。
敬愛する主と競い、争う存在であるかもしれないと、そう確信したから。
「正反対だからこそ意見が合うこともある。だから演じさせてもらったんだよ――”馬鹿みたいに笑い合える悪友”を、な」
他の参加者と違い、使命を帯びてこの地に舞い降りた
「ってもよー、本当はここで正体バラすつもりはなかったんだぜぇ? いや、マジで。もともとの予定じゃあ、スカリーっちの襲撃を見越して、俺らを部隊所の防衛に回すモンだとばっかり思ってたんだ。折角、篭城して油断したところを後ろからザックリやらかそうと仕込んでいたってのに……まさかコッチに回されるんてなぁ。ほーんと、やれやれだぜぃ」
わざとらしく肩をすくめるカエデの口元には酷薄な笑み。
何かをあざ笑うかのように、小さな笑い声を零す。
「ま、愚痴っててもしょうがないってね。さっさとゴミ掃除を済ませて、陛下のお迎えにいかねぇと。――っつーわけでよう、切やん……今から
「カエデェ……!」
怒りのボルテージは限界を見せず、高ぶる激情が灼熱の闘気となって吹き荒れる。
仲間であったはずの【魔導師たち】の屍を足蹴にする”親友の姿をしたナニカ”への殺意が炎剣という形を成して、具象化する。魔の道へ堕ちた仲間の罪を裁くべく、正義を担う断罪の英雄が判決を下す。
「その邪悪なる意思……俺の炎で浄化してやるよ!」
「おーおー、カッコイー♪ 本気モードの切やんってば、マジ男前ぇ」
聞きなれた口調のはずだが、今の状況では神経を逆撫でる不快音にしか聞こえない。
燃え盛る炎剣を上段に構え――刃を返して殺傷力を下げているが――、一太刀で片を付けんと、全力の踏み込みを仕掛け、
「
「っな!?」
カエデのバリアジャケットの袖から射出された無数の鎖が、怒りに支配されて隙だらけの刹那へ襲い掛かった。仲間を作らなかった前世では得られなかった親友だと信じていた男の裏切りに、冷静な判断力が欠落していたからだ。
蛇のように宙をのたうち、迫り来る鎖の大群を振り払おうと炎剣を振るうが、鎖に触れた瞬間、まるで幻であったかのように炎が消失してしまった刃が瞬く間に縛り上げられてしまった。ならば叩き切るまでだと柄を握る腕に力を込めるが、あらゆるものを寸断するはずの相棒ですら斬れる様子をまったく見せない。そこまでの強度があるのか!? と驚愕する刹那を得意げな表情のカエデが鼻を鳴らしながら、種明かしを始めた。
「ざ~んねんでした~♪ 聖母様から授かった神縛りの天鎖は、あらゆる人外の能力を無効化させる。お前さんが異世界で名を馳せた英雄本人……英霊だってのは調査済みなんだぜい。つ・ま・り……切やんは人外のカテゴリーにバッチシ適合しちまってんだよ。まさに、『こうかはばつぐんだ』って奴だな」
話の間にも鎖は刹那を捉えんと襲い掛かる。
だが、思考が混乱して足を止めてしまう……そんな新兵のような愚行をとるほど、彼は甘くは無い。
刹那の肉体に刻み込まれた戦いの記憶が、条件反射となって回避行動をとる。
蛇のように襲いくる鎖を群れをいなし、避け、逆に懐へもぐりこまんと機会を伺う。
しかし、
「
「
「っな!? 新手!?」
戦闘モードに切り替わっていた筈の刹那ですら気づけない程の穏行。新手の正体は、これまで幾度となく六課の前に立ち塞がってきた”影”の集団であった。
カエデの背中からにじみ出る様に出現した二体の”影”が、それぞれの腕に絡めつけていた宝具を放つ。
それはまるで意志を持つかのように大地を滑り、刹那の死角へとまわりこむ。襲いかかる金色の鎖と呪怨が刻まれた荒縄が刹那の両足に絡みつき、しばりあげる。
予想外の攻撃によって脚部を抑えられたことで起こった機動力の低下はいかんともいがたく、ついに刹那の全身が雁字搦めに束縛されてしまった。
刹那も必死に回避し続けていたものの、空間ごと縛り上げんとする猛蛇の群れを前にして、この場を切り抜けることは不可能だった。
「くそッタレがぁ……! お前らグルだったのか!?」
「ん? ん~……ちいっとばかし違うんだな~これが~。おい、お前ら、見せてやんな」
「「了解」」
カエデの命令に淡々と返答を返した二人の”影”が、頭部を蔽っている黒布を解いていく。
今まででの戦闘の中でも一度として暴くことが出来なかった”影”の素顔。
それは、怒りの形相で睨み付けていた刹那を、呆気にとらせるほどの衝撃を秘めているものだった。
「え……? な、なんで……?」
呆然と呟く。そうすることしか出来ないほどに、刹那は混乱していた。
何故ならば――
「同じ……顔……?」
顕わになったのは見知った悪友と寸分たがわぬ少年の顔。
瞳の形や色、鼻、口の形状はもちろん、頭部の輪郭や黒子の位置までもが、まるでコピー機で写し取ったかのように同じもの。
三つ子と言われれば、間違いなく信じてしまうことだろう。
「おいおい、驚きすぎだぜ、切やん♪」
よほど刹那の反応がお気に召したのか、実に楽しげな表情でカエデが笑う。
「ふっふっふ……イイ反応を返してくれた切やんにはご褒美を進呈いたしませう~。本邦初公開! 機動六課と幾度も刃を交叉してきた”影”の正体はぁ……なんと! 聖王教会が誇る特殊任務実行部隊だったのだ! しかもしかも、構成員を束ねる隊長はこの俺、カエデ君が務めているのでぇ~す!」
「そんな、こと……そんな事はどうでもいい! 答えやがれ、カエデ! そいつらはいったいなにも――」
「プロジェクトFで生み出された俺っちのクローンですが? それがなにか? べっつにそう珍しいモンでもないだろ~。フェイトンたいちょ~とかエリオっちんも
彼女らは自身の特別な出自を隠そうとしているが、カエデからしてみればバカにしか見えない。
どれだけ取り繕おうと、どれだけ『人間』を演じようと、所詮自分たちは誰かの道具以外になれる未来など存在しないと言うのに。
「俺は管理局公認の違法研究所で行われた人体実験のサンプルなのさ~。で、こいつらは俺の細胞を元に、人造魔導師研究の実験で使い捨てにされてきた道具。身体をぐちゃぐちゃに掻き回されて、
人造魔導師に関わらず、科学の発展には代償が必要だ。
新薬の効果を試すためにネズミや猿を被験体にするように、人造魔導師の素体となる魔導師の細胞をいきなり実験に使ったりはしない。
まずは使い捨てのきくサンプル……失敗作となることを前提とする被験体で効果を試す。
孤児であったカエデは保護と言う名目でとある研究所へ送り込まれ……実験用のサンプルを生み出す母体として
彼の細胞から生み出されたクローンの観察や解剖にとどまらず、遺伝子提供者にどのような処置を施せばより優秀なクローンを生成できるのかを確かめるために繰り返された人体実験の数々。
長年にも渡って続けられた非人道的な実験は、カエデの精神を摩耗させ、こんな状況を齎した元凶である管理局への憎悪を抱かせるに十分な理由となった。
そして遡ること数年前、管理局の裏の情報を入手するために施設へ単独で潜入を試みていたヴェロッサによって発見され、罪を暴く証言人として聖王教会に保護されたのだ。
本当の名前すら忘却してしまうほどの凄惨な日々から解放されたカエデは、実験の産物として後天的に覚醒した特殊能力……遺伝子劣化を起こさずにクローンを生み出すことができる力を使って自身と全く同じ性能を持つクローン軍団を構築、救い主であるカリムの役に立つため、自ら進んで聖王教会の暗部組織を生み出したのだ。
さらに、カリムの”能力”によって特別な力を与えられることで、伝説級の宝具すら操る事が出来る特殊戦闘部隊 ”影”が誕生した。
すべては――
「切やん、お前には親愛を感じていた、友情も抱いていた、本当の……友と呼べる存在だった。けどな、お前さんの夢はティアナっちと一緒に『管理局の』執務官になることなんだろ? 俺っちの大っ嫌いな管理局の先兵に。そんなの許せるわきゃぁねぇんだ――……だからよぉ、死んでくれや」
能面のような無表情は胸中で渦巻く憎悪の激情を抑え込むためか。
演じていたという軽薄なおバカキャラ……逆を返せば、日常的にバカ騒ぎを繰り広げなければ我慢できない程に、苛烈な憎しみを秘めていたと言うことでもある。親友だろうと悪友だろうと、排除すると言う決断に迷いはない。何故なら、
両足、胴体、そして首……鋼の茨で磔にされた英雄への対応をどうすべきか僅かに思案し、明暗が浮かんだとばかりに拳を作った右手で左の手のひらを叩く。
「聖人、英雄、偉人……歴史に名を馳せる人物の末路っていえばヤッパし――」
首ちょんぱだよな♪
ボールペンかなにかのように指先で弄んでいた短刀を構え、無造作に一閃。両者の間には数メートルの距離が開き、刃渡り二十センチ程度の刃が届くはずは無い。しかし、本性を現したカエデは、
「かふ……!?」
鮮血が宙を舞い、悲鳴にならない絶叫が響き渡る。
喉元を横一文字に切り裂かれ、激痛が全身を駆け巡る。流れ落ちる鮮血が水溜りをつくり、瞬く間に生命力と思考力が抜け落ちていく。精神世界から必死に声をかけてくる相棒に答えることも出来ないまま、刹那の意識は漆黒の闇へと落ちていく。
「――アバヨ、親友。お前らと過ごした時間……悪くなかったぜ」
身動きできるものがいない血潮から立ち昇る鉄の匂いに満ちた場で、僅かな悲しみを宿した呟きが零れ落ちた――……。
――◇◆◇――
「――以上が、私の知る《神》や転生、それに『
淡々と説明を終えたカリムが着席するのとほぼ同時に、各所から困惑と懐疑のざわめきが起こる。
だが、それも当然の事だろる。突然《神》などいわれてもピンと来ないというのが真っ当な人間の反応だ。
クーデターまがいの革命を起こしたかと思いきや、いきなり新しい《神》の候補者などと言い出されては、正気を疑われても仕方がない。
だが、彼女の言葉が真実であることを否応なしに理解させられた関係者たちは、皆、言葉に出来ない怒りにうち震えていた。
カリムの言葉を真実とするのなら、参加者たち……つまりは、仲間であり家族でもある花梨や刹那にとって、自分たちは創作物の中の存在でしかないのだと言っているのと同じだからだ。
特に、カリムとの間に友情を感じていたはやては口惜しさを隠しきれない。
共に過ごした少なくない時間、交わした交流……はやての中で大切な思い出になっているそれが、カリムにとってアニメの登場人物を愛でる様な感覚でしかなかったと言われたようなものなのだから。
そんな中、クロノだけは得心がいったとばかりの表情を見せていた。
十年前、あまりにも常軌を逸脱した発言を繰り返す犯罪者と対峙した時に感じた違和感……その正体にやっとたどり着けたから。
(新藤 荒貴……フェイトたちを奴隷呼ばわりしたり、僕の事をモブと呼んでいたのはそういう事だったのか。奴にとって、僕たちはアニメか漫画の中の人物でしかなく、ここは自分を主人公としたゲームの中の世界だと思い込んでいたんだな)
「カリム、そろそろ良いんじゃなし?」
「ええ。外もひと段落ついたようだし……頃合いね」
突き刺さる敵意と悲しみが混ざり合った視線に気づいていないのか、カリムはローラと目配せを交わし、頷き合う。
ここまでは、あくまでも前準備。このような事態を引き起こした理由の説明はこれからなのだ。
そう――世界を味方とするために。
「皆様、ご静粛に。無関係の観客であるあなた方にとって、私たち参加者が巻き込まれている儀式はどうでもいいことなのかもしれません。ですが、本題は別にあります。先にも述べたとおり、儀式の期間はあらかじめ定められていると申し上げました。……ですが、期限を過ぎても勝利者が存在しなかった場合――つまりは、二人以上の参加者が生き乗っていた場合に起こる
「
「確かに大まかな概要は間違っておりません。ですが、その言葉には更に深い意味が隠されているのです」
『期限を過ぎても複数の参加者が存命の場合、“勝者無し”と見做して全員が消滅する』
それが儀式開始前に説明が行われたルールの一文だ。
文面だけを見ると、確かにクロノの言葉通りの意味に捉えられる。
しかし、言葉というモノは聴き様によって幾重にもその意味合いを変化させるもの。
このルールも多分に漏れず、別の意味合いがあるとも取れるのだ。
それこそが真実であると確信し、カリムは告げる。あまりにも残酷で悪意に満ちた――不条理な現実を。
「“全員が消滅する”という一節……この言葉が指し示す本当の意味が、『参加者全員』ではなく――『この世界に存在する総てのモノ』だとしたら?」
何度目になるかわからない驚きの喧騒が巻き起こる。
自分達には関係ないと無関係を気取っていた人々が、突然己にまで被害が及ぶなどと言われれば、心乱されてもおかしくは無い。
反論じみた疑問の声が上がりそうになるのを手で遮り、カリムが続ける。
「そもそも、新しい《神》を創造する事態となったのは、彼らが見守る世界の数が増えすぎたことを発端としているのです。“セカイ”という概念はそこに住まう人々が選択する未来の数だけ無数に枝分かれし、存在しています。無限に等しく存在し、今この時にも数を増やし続けている世界に比べて、《神》の数は圧倒的に足りていないのです。ですから、資質を持つ者を潰し合うと言う強引な手段をとってまで、新たなる同士を求めているのですよ」
セカイは《神》の加護を受けることで成り立っている。
セカイを構築するエネルギーは、そこに生きる者たちから放たれるさまざまな意志のエネルギー……“
《神》の役目は、自身の加護をセカイに与え、“
加護無き世界に満ちる“
無限の意志を正しく導き、輪廻の環を正常に保つ。
これこそが、彼らの役目であり存在理由のひとつでもあるのだ。
しかし、いかに超常存在とは言えども認識の限界というモノは存在している。
そもそも、一柱の大神で全ての並行世界を統括・管理することが出来るのならば、これほど多彩で千差万別な神話体系を持つ神々が生まれる必要性も無いだろう。そう、《神》と言えども限界は存在するのだ。限界を知るからこそ、志を同じくとする者たちと繋がりを作り、多くの体系を構築している。
神々を模して生み出された人間が、他者と手を取り合い、協力するという行動をとるのもごくごく自然な行為だと言える。
さて、ここで話を戻そう。
儀式を行う根本的な理由は、神々の人員不足を解消するため。
つまり、現時点で神々の加護を受けていない世界が無数に存在しているということ。
神の加護を与えられない世界は、何れ混沌に呑み込まれ、崩壊してしまう。
ならば、『儀式の会場としてのためだけに用意されたこの世界は儀式が終わった後にも存続し続けることができる』のだろうか?
――答えは否だ。
自らの負担を増やす行為を自ら望んで行うとは思えない。
この世界は、あくまでも儀式を執り行うためだけに用意された箱庭であり、主人公は十三人の参加者たち。
ならば、主人公を失った箱庭に、いか程の価値があると言うのか。
「もともと存在していた世界へ参加者を放り込むのではなく、参加者のために新たな世界を創造した。ならば、世界を構築している源は参加者そのものにあるといっても過言ではありません。源を失えば、後に待つのは瓦解する未来のみです。そう、つまり……」
否定したかった。そんな訳が無いと叫びたかった。
でも、出来ない。それが真実だと、否応なしに理解させられる。それだけの説得力が、カリムの言葉には内包されていたから。
「バカな……! もしそれが真実だとして、どうして花梨はそのことを話していない!?」
「あら、今更取り繕わなくても良いですよ? この事実は参加者であるのならば誰もが導き出すことができる簡単な
一同の視線がクロノへと突き刺さる。
そこには、未曽有の危機を知りながらも口外しなかったのでは? という懐疑心が含まれていたのは言うまでもない。
無論、クロノにはまったく憶えの無い、事実無根の虚言だ。
しかし、立て続けに提示された情報を整理できず、半ば思考を放棄してしまった一般人たちには、嘘を暴かれて動揺を顕わにする姿にしか映らなかった。
「勝者が決まらなければ世界が終る……しかし、逆を言えば勝者が決まれば世界が存続することも可能ということ。さらに言えば、此度の儀式の勝利者が私たちの世界を統括する《神》に選ばれる可能性が極めて高い」
人でなくなったとしても、第二の故郷と呼べるこの世界の終焉を望む者はそういない。
ならば、この予測も大凡間違っていない筈だ。
だが同時に、勝者には世界を自分が願うとおりに改変する権限が与えられると言うことでもある。
「参加者が複数人管理局へ所属、あるいは保護下に置かれている。その目的はあなた方にとって都合の良い世界を創造してくれる
「我々は純粋に仲間と……大切な友人たちと肩を並べ、共に困難を乗り越えようとしているだけだ。二心など、持ち合わせていない!」
「相変わらずあなた方は耳触りの良い言葉ばかり使いますね。本心を語られてはいかがですか? 望むのは儀式の果てに創造される世界の支配権なのだと。あなた方の定める法によって統治され、従わないものは最初からいなかったことにされる世界。彼女らに取り入り、協力関係を結んでいるのは、つまるところソレが狙いなのですよ」
「な……っ! 何を根拠に!」
「誰かが勝利すれば、その瞬間に世界の在り様が書き換えられてしまう。《神》となった者が望むままに、ね」
勝利者に存在を許されたものは、なんら変化無く日常を過ごすことが出来るだろう。だが、そうでない者は? もし、勝利者がお前はいなくなってほしい、自分の世界にあなたは不要だと断じてしまったとしたら……その人物はきっと、新しい世界でに存在しないこととなってしまうだろう。つまり、儀式終結の先にある未来とは、勝利者が認め、欲した人間だけが生きることを許された独善的な世界。
「最も手っ取り早い手段でしょう? あなた方が定める法によって統治される次元世界を実現するための。次元世界の恒久的平和を実現するために、自分たちに異を唱える人々が“存在しない”世界を造る……そのために管理局は彼女らを囲い込んでいる。――違いますか? ですから、彼を力でねじ伏せるのではなく籠絡しようと目論んでいらっしゃるのでしょう?」
「彼、だと? いったい何のことだ」
「いまさら誤魔化さなくてもよろしいと言っていますのに。彼といえば一人しかいないでしょう? ――No.”Ⅰ”のことですよ」
「馬鹿馬鹿しいにも程がある。あの男が誰かに与するはずがないだろう」
グレアムとのやり取りを見ても、益のある取引ならば耳を傾けるだろう。
しかし、どこぞの組織に所属するなどありえない。
それを理解しているからこそ、カリムの発言を鼻で笑う。
しかし、カリムの返答は予想の斜め上を行くものだった。
「確かに力で従わせることは不可能でしょう。ですが、人を従わせる方法はそれ以外にも存在しています。たとえば、そう――異性で気を惹く、とかね」
力や言葉で動かせないのならば、身体を使えばいい。
ダークネスとて男なのだ。美しい女性が籠絡を仕掛ければ、心を動かすこともできるかもしれない。
そして、それを裏付ける理由としてちょうどいいネタが、すぐ目の前にある。
「かつて私が行った予言を覆すために設立された機動六課。後見人として私も協力を図りましたが、所属するメンバーに関しては管理局へ一任しました。その結果、エースオブエースやエリート執務官といった高ランクの実力者である……見目麗しい女性が中核を成す部隊が設立されました。ですが、単純に実力が高い者たちを集めた……と言いきれるでしょうか? あまりにも女性多々に偏った部隊メンバーというのは例を見ません」
偶然だ、と叫ぶのは簡単だ。
はやての伝手で身近な友人や知人を優先して集めた結果、女性の割合が多くなってしまっただけの事。
しかし、事情を知らない者たちから見れば、綺麗どころを集めて人気を得ようとするアイドル部隊のように見えるのもまた事実。実際、取材を受けた隊長陣がミッドの雑誌の表紙を飾ったことも少なくない。
管理局が六課設立を許可したのは人気集めのためだという噂がたっているように、人材に疑問譜を浮かべている者がいるのも事実なのだ。
「No.”Ⅰ”は男で、機動六課の隊長陣は全員女。つまりはそういうことなのでしょう?」
「ふざけんな! カリム、アンタは何を根拠にそんなことを――!」
カリムの返答は、言い逃れの出来ない証拠映像を表示させることだった。
画面に映し出されたのはなのはやはやてにとってなじみの深い……それこそ、ついこの間に赴いた事がある場所。
始まりであり平穏な日常の象徴とも言える大切な場所……海鳴市のとある施設。
白濁の温水で満たされた風情を感じさせる石造りの入浴施設。見紛う事の無い、聖王教会の依頼を受けて六課前線部隊が訪れたハイパー銭湯の露天風呂だった。湯船に浸かり、向かい合うように腰を下ろす男女。
胸元をタオルで隠しただけのきめ細かい肌を桜色に染め上げて……されど、満更でもないように見えなくも無い表情の女性たち。
彼女らが意識しているのが、左目を閉じた黒髪の男性であることは言うまでも無く、彼の正体についても説明は不要だろう。
なにせ、つい先ほどに英雄と闇取引を交わしていた人物なのだから。
「同じ湯船に浸かるだけにとどまらず、淫猥な行意に及にそうな空気を作っておいて、自分達のみは潔白だなんて……よくもまあヌケヌケと」
羞恥でうつむいてしまったなのはらをを見下ろすローラの表情に、はやては彼女らの仕組んだ罠にようやく気づく。
事の発端になった地球への出張任務。聖王教会からの伝手で任務を組んだあの事件は、全て彼女らが仕組んだ罠だったのだ。
何らかの手段でダークネスたちが地球に向かうという情報を掴み、鉢合わせするように自作自演の任務を用意する。
帰郷によって心の腱がほぐれ、犯罪者である彼とのスキャンダルを誘発しやすくなるように。
同時に気づく。今まで正体不明とされてきた『奴ら』の正体について。
――“影”はカリムの……聖王教会の密偵部隊やったんか!
六課の戦力分析に現れたと思っていた“影”。
彼らの本当の目的は、はやてたちへ犯罪者と親密な関係にあるという疑いをかけるための材料を集めることだったのだ。
謎の施設から逃げ出した宗助を執拗に追いかけたのも、アグスタでヴィヴィオに襲いかかったことも、ダークネスが聖王教会を襲撃したことも、 “影”と教会が繋がっていたと考えれば辻褄があう。
(手駒にしようと目論んでいた宗助君の殺害を試み、ヴィヴィオちゃんの誘拐を目論んどったちゅうことか。ダークさんはそれに気づいたから、聖王教会へカチコミを――あれ? ちょっと待てよ?)
ダークネスの性格は大体理解している。
敵にはどこまでも容赦しない苛烈さと、確証を掴むまでは静観を選ぶ思慮深さを併せ持つ。
以前、聖王教会襲撃時に何かしらの情報を察したのはあの時の会話から読み取れる。
ならば、何故今まで教会を放置していたのだろうか?
いや、あるいは……、
――聖王教会が黒っちゅう確証が持てなかったのか?
ルールでは、世界を滅ぼしすような行為も禁止されている。
ただでさえ星をも砕くほどのチカラを持つダークネスだからこそ、現実世界で大破壊を齎しかねない戦闘は最低限に留めておきたいはず。
だからこそ、結界が発動した時にしか戦いを仕掛けてこないのではないか?
戦闘で昂った感情の暴走が、世界を滅ぼし、家族を巻き込んで滅びを齎すことを恐れているから。
「言いがかりも大概にしろ!」
憤慨の声を上げたのはレジアス。
次元犯罪者と手を組んだ自分たちの事を棚に上げて、確証も無い言いがかりをつけて糾弾する。
彼からしてみれば、聖王教会の方がよっぽど恥知らずに見えた。全身を怒りに震わせるのも当然の事と言える。
しかし、カリムたちの表情はあくまでも冷静なまま。
「言いがかり? まるで御自身には後ろめたいことが無いとでも言いたげな発言ですね。――ドクターのように違法研究で生み出された人造魔導師たちを都合の良い道具として利用してきた貴方がたが」
その点については否定できない。
保護された人造魔導師の中には、優秀な魔導師としての才能を開花させたフェイトやエリオなどの一部を除き、能力が基準を満たさなかったために廃棄処分されそうになった者たちも存在する。
魔道師として戦力に組み込むにはリスクが高く、かと言って保護施設に押し込み続ける事も出来ない。施設の数は有限で、違法研究に手を染める者たちはいくらでも湧いてくるからだ。
ならばどうするか?
出自と言うマイナスを利用し、一般的な魔導師よりも安い給料で好まれない仕事……雑務や書類整理の仕事を与えてやればいい。
彼らからしても実験動物という立場から救ってくれた恩義を感じているからこそ、辛い仕事に耐え忍んできた。
しかし、彼らとて人なのだ。
現状に不満を感じることもあれば、一般人をうらやみ、妬む事もある。
故に、次のカリムが発した言葉に魅力を感じてしまったのも仕方のないことなのだ。
「私は、私たちはそのような真似をいたしません。人造魔導師であろうとも、争いを望まない方々は普通の人間として保護する用意があります。何故なら私、”ⅩⅢ”には……『他者に
――『
他者が望む願いを、“カリムにとって都合が良い”形で叶える願望器と呼べる”能力”。
カリムはこの”能力”を用いて、”影”たちに希少能力を後天的に授けることを可能とした。
参加者が持つ“能力”に匹敵する希少能力の発現すら可能であるが、自分自身を対象には使えないデメリットが存在するが、一軍を率いて戦う事において、非常に有効な切り札となることは言うまでもない。
自分自身を聖杯であり、他者の願いを受け入れる器であると定めたことで体現できた“能力”と言える。
「今はリンカーコアを持つ者にしか力を授ける事は出来ませんが、ゆくゆくは、非魔導師の皆さまにリンカーコアを与える事が出来るようになるのでは……と考えています。そうなれば、現在の社会問題でもある非魔導師と魔導師の間にある境界線も打破できる、皆が真の意味で平等な世界を実現できると私は願っています」
むろん、それだけで世界平和が訪れるとは、彼女も思っていない。
だがしかし、世界の改変はこうした小さな一歩を積み重ねる先にあると信じている。
自分のためだけに殺戮を繰り返すのではない、同じ境遇の同胞を救うために足掻くのでもない、儀式には無関係の、されどセカイの大多数を占める”人々”に平和と未来を齎すために身命を賭す。
それが、カリム・グラシアの決断。己のためではなく、ただ……皆のために。
「おい、いい加減に貴様自身の目的を行ったらどうだ。貴様は、いや、貴様らはいったい何がしたいのだ?」
真実と嘘を練り混ぜて糾弾を繰り返そうとも、彼女ら自身に志がなければ、大衆は賛同しない。誇れる指針が無いからこそ、敵を落とし入れようとしていうのだとレジアスは推察した。
――大方、儀式とやらで敗北することが定められているから自暴自棄にでもなっているのだろう。フン、運命だかなんだか知らんが、たやすく抗うことをあきらめるような小娘に、ワシらが積み重ねてきた
親友たちと共に築き上げた
だが、
「私の目的ですか? それはもちろん……この世界の運命を、人間の手に取り戻すことですよ。未来が無いこの身なればこそ……世界に私と言う存在が確かに在ったのだという証を残したいのです」
その言葉に、はやてが眉をひそませる。
カリムの言い分では、まるで彼女が自身の敗北を決定しているかのようなニュアンスに聞こえたからだ。
「私には《神》となる資格が与えられていなんですよ。憑依、というヤツですね。魂と記憶が混ざり合ったことで形成された新しい人格……それが、私です。私はNo.”ⅩⅢ”として選ばれた人間の『魂』そのもの……。本来、魂が宿るべき肉体を得られなかったかの人物が宿った存在、それこそがカリム・グラシアなのです。そう、つまり私はこの世界のカリム・グラシアという魂と、参加者として選ばれた《神》候補者の魂が混ざり合い、融合したことで誕生した存在。参加者として選ばれたNo.”ⅩⅢ”であり、神へと至る重要な欠片……肉体を持たないために、儀式への参加資格を持たない者でもあるのです」
“魂”と“肉体”、そして“
儀式の中で“魂”を昇華させ、“肉体”を人外のそれへと進化させ、《神》の力の結晶たる“
しかし、魂だけしか持たないカリムには参加者を倒しても新たに“
事実、カリムに戦いの才能が皆無なのも、人の身には不相応なほどに大きい“
かと言って、“肉体”だけあればよいものではない。
“肉体”と“魂”の両者が揃って、初めて“
今の『人間』の肉体では、第二の“
そう、彼女は最初から儀式へ参加する資格を与えられていない――敗北する運命が定められていた存在だったのだ。
「彼らに選ばれ、されど参加資格を得られなかった私だからこそ出来ることがあります。たとえば、資格を持たない私が儀式の最後の生存者となったとすればどうなると思いますか?」
彼女という存在は、他のメンバーのように人間という枠を逸脱することは出来ない。そう、どこまで行っても人間なのだ、彼女は。
――そこで考えてほしい。
もし
「私たちの未来を
声を上げ、己の胸の内を曝け出す様は、まるで宣教師のよう。
彼女の言葉は、魔道という力への渇望を抱く者、英雄と言う偶像への憧れを抱く者たちへと浸透し、苛烈な熱を産み落としていく。
ダークネスや花梨たちには持ちえなかい才能……有無を言わさぬほどの説得力を感じさせるカリスマ性。
これが、カリム・グラシア。個ではなく、群を以て勝利を求める者。
「私たちの目的はたった一つ……遥か古の時代、終わりなき戦乱を繰り広げていた世界に平和と安寧を齎された偉大なる王の生まれ変わりである陛下のお力添えの元、争いが無く、人が人を利用することもない平和な世界を作り上げる事です。もちろん――《神》を名乗る輩からの支配も受けない、人間によって統治された世界を! 私の命は――きっと、このために
力強い宣告を下すカリム。もはや真実などどうでもいいとばかりに騒ぎ立てる民衆たち。
これから訪れる混乱を予知して、歯を食いしばる管理局の面々。
この日、世界は大きく動き出した。
はやては荒れ狂う変革の波を感じとりながら、遥か遠方から童女の嗤い声が聞えた気がした。
――◇◆◇――
聖王教会が革命を宣告したころからしばしの時が過ぎたころ。ミッドの上空を飛翔する二つの影があった。
「予想が外れてしまいましたね」
【ヴィントブルーム】に跨ったアリシアの後ろに乗り込んだシュテルの淡々とした台詞を聞いて、ヴィヴィオを抱きかかえてエクスワイバリオンに騎乗したダークネスの肩眉が跳ね上がる。してやられたことを、意外と気にしているようだ。
「……てっきり、管理局とより強固な同盟を結んでスカリエッティに対処するものだとばかり思っていたんだがな。まさかルビーの奴と手を組む酔狂な輩が存在しているとは思いもしなかった」
声に悔しさが混じる。それは直接相対する機会がありながら、正体を看破することが出来なかった自分自身への怒りも含まれていた。そもそも、ダークネスが自らの力を誇示するかのように振舞っていたのは敵を一点に終結させることにあった。己という強大な敵を前にして、他の参加者たちは脅威に感じることだろう。単独で戦闘する事態に陥れば敗北は必然。ならば、他の参加者と同盟を結び、協力体制を構築することが出来れば、別個撃破される可能性も低くなる――……そう考えるように仕向けたのは、己の探知能力を掻い潜る”能力”の存在を警戒していたからだ。かつて、”Ⅷ”は自身の気配を希薄にし、認識を誤魔化すという”能力”を駆使してダークネスの操作網から逃れていた。もし己の”能力”を完全に無効化できる”能力”を持つ敵が現れた場合、どう対処すべきか?
その答えが『敵をひとつの部隊に終結させ、”能力”が通用しなくても行動を探りやすい環境を作る』こと。
そう、ダークネスの狙いは例外のルビーを除く、全ての参加者を機動六課に所属させることだったのだ。管理局とスカリエッティの対立がほぼ確定している以上、うまくいけば自分以外の参加者同士が勝手に潰しあい、もっとも厄介なルビーを消耗させてくれる――ハズだったのだが、
「カリム・グラシアの正体について深読みしすぎたせいで後手に回ったツケか」
「私たち、ものすごい極悪人に思われたよね? ヴィヴィオも私たちが洗脳したみたいになってるし」
六課を糾弾する際に提示された情報の中に、先日の一件も含まれていた。
通常空間で被害を考えない砲撃を放つ花梨(もちろんルビーの姿は加工されて、赤の他人に挿げ替えられていたが)と、教会のシスター服を纏ったユーリと戦うヴィヴィオ。
強敵との戦いを楽しむ『もう一人の聖王』について、教会側は”ヴィヴィオは管理局がベルカを支配下に置くために生み出したクローン体で、ダークネスを引き込むための道具として利用された少女”であり、”ダークネスの手によって教会への敵意を宿す兵器として洗脳されてしまった悲劇のヒロイン”だと語ったのだ。
この言葉に顕著な反応を返したのは、ベルカよりの思想を持つ人々だった。
彼らは、再来した偉大なる王の姉妹とも呼べる少女を戦いの道具にするなど許すまじ! と怒りをあらわにした。
一刻も早く『もう一人の聖王』……いや、王女たるヴィヴィオを救い出すべしと、ダークたちを探し始めている。実際、ホテルのドアの前にベルカ信者が詰め寄ってきたので、あわてて窓から逃走する羽目になったのだから。
「で、これからどうするの? 隠れ家に引っ込んで、花梨ちゃんたちが潰しあってくれるのを待ってみる?」
「それは難しいでしょうね……。どんな手品を使ったのかはわかりませんが、民衆は彼女の言葉が真実だと信じているようです。ミッドのみならず、各世界でも聖王教会を指示する声が上がっている模様です。世論は完全にあちらに味方しています。それに、ここまで大掛かりな作戦を実行したということは、それを裏付けする切り札も用意しているはずです。実際、ミッド各地にある管理局の支部が”影”やガジェットの襲撃を受けているようですし、六課の方もアレですから」
大量の怪物じみたドラゴンの群れとガジェットの襲撃を受けて火の手が上がる六課部隊所を眺めつつ、シュテルがため息を零す。
花梨たちは敵の襲撃を十二分に警戒していたはずだ。
なのに、”知識”にある光景を再現するかのように部隊所が破壊されていく。おそらくは、先ほど戦闘機人らしき反応と共に離脱していった
「これだけの被害が出るようじゃあ、管理局が反抗に出る余力は残ってないかもしれないね~」
「スカリエッティ陣営だけでも、そこらの次元世界をたやすく制圧できる力がありますからね。しかも今回は、信者がやたらと多いベルカの大御所、聖王教会との同盟ですから。隠密部隊らしき”影”も表立って動き始めるでしょうし、総合的な戦力は相当なものと――」
「――決めた」
高速飛翔による強烈な風切り音の中でも、彼の声なら確実に聞き取れる。声に振り向くと、ゾッ、と背骨に氷柱を差し込まれたかのような寒気――怒気混じりの殺意を振りまくダークネスの姿が。
「予定変更だ。このままベルカへ向かうぞ。なめた真似をしてくれやがった奴らには、きっちりとケジメをつけてもらわないとな」
「……ダークちゃんってアレだよね。パワプ○のピッチャーを操作したら、普段は変化球中心の冷静な技巧派なのに、完全試合直前になってヒットを打たれたら逆上して直球ばっかり投げる力押しに変わっちゃうタイプ」
「普段は冷静なのに、ふとしたきっかけで直情お馬鹿様になってしまう……なるほど、実に的を得ている考察ですよアリシア。百点です」
「……お前ら、本当は俺のこと馬鹿にしているだろ?」
「「いえいえ、まさかそんな」」
「……まあいい。この件は後でゆっくりと家族会議だ」
咳払いで妙な方向へ飛んでいきそうな空気を切り替えつつ、改めて宣言する。
「じゃあ、改めて今後の方針だが……ベルカを潰す。教会の奴らが儀式に無関係だった民衆を味方につけるのならば――……その民衆を潰してやればいいだけの話だからな」
「管理局の方はどうするの?」
「邪魔をしない限り放っておけ。
――だから、この程度で潰れてくれるなよ、花梨。
黒煙を吹き上げる六課を一度だけ見やってから、激情が収まらない龍神がついに動き出す。目指すは、聖王教会の拠点であるベルカ地方。
荒ぶる龍神の怒りが、罪無き人々へと襲い掛からんとしていた。
『人間』なカリム嬢の目的は、人間が儀式を勝ち残ることで未来を掴み取ることでした。
”影”が宝具をわんさか使ってたのは彼女の”能力”を受けていたから、カエデ君が別の場所にいるときにしか”影”が現れなかったのも、エンカウントしないように心掛けていたからだったりします。
ついでに、カリム嬢がスカリーと同盟を結んだのは、
管理局が悪い子ちゃんです~ ⇒ 彼らに囲われてる花梨たちも同罪なんです~ ⇒ よし、被害者なDr.スカリーを助け出して、みんなで成敗しちゃいましょう!
……と、こんな流れを目論んでるから。
正体を公開したのは、自分には後ろ暗いことは何もありませんっていうアピールと、同情を誘うためです。
敗北が決定しているのに皆の未来を守るために頑張ってます! ってな感じで世論を味方につけたわけですな。
最も、意外と短気なダークさんがお怒りぷんぷん丸なので、ベルカ終焉のお知らせが絶賛公開中なわけですが。