教会の引き起こした反乱――否、彼女らが言うところの『革命』から一夜明け、各所に刻み付けられた壮絶な爪痕があらわになっていく。
建物への被害を抑えての占拠を掲げていたのか、比較的損傷の軽微な地上本部の一角を拠点にして集合した六課メンバー。
強力なジャミングが仕掛けられているせいで本局との連絡がつかず、援軍を呼ぶ手立ても無い現状、ここにいるメンバーこそが今後の作戦における管理局側主要人物ということになる。
彼らのほとんどが討論会に参加していたおかげで比較的軽症ですんだ。
そのため、同じく消耗の軽い六課の隊長陣も参加して、今後の方針を話し合う会議を行っていた。
六課だけを見ても、前線部隊は1名が裏切り、保護対象であった少女二人がさらわれた。
他のメンバーもほとんどが病院送りになるという現状、戦力のほとんどが壊滅状態にある六課は事実上機能停止しているといって過言ではない。
それでもあきらめるわけにはいかないと思考を切り替え、どうにか状況を打破する手段を模索していた。
「やはりここは本局との通信手段を復旧させることを優先すべきでは? いかに彼らが同盟を結んだといえども、完全武装の次元航行艦を投入すれば鎮圧も容易でしょう」
「無理だ、リスクが高すぎる。唯でさえ奴らの動きに触発された犯罪者共の動きが活発になっているのだ。下手をすれば、武力鎮圧が更なる反感をかってしまう。現に、人造魔導師を中心に少なくない数の離反者が奴ら側に寝返っている。過去の経歴に関係なく、等しい人権と恩赦を与えるとあれば、不満を抱えていた連中が飛びつくのも当然のことかもしれないがな」
世論は完全に教会こそが正義だと、彼女らこそが正しいという意見一色で染まっていた。
逆に管理局は、人知を超えた恩恵に目がくらみ、真実を隠蔽し続けてきた利己主義者の集まりだと非難が殺到している。
もちろん、全ての民衆が彼女ら教会を支持しているわけではない。
時を超えて再誕した古の王、人知を超えた《神》と呼ばれる存在、その人外から力を授かった者たちと彼らが繰り広げている儀式という名の殺し合いなど、魔法という異常が常識の一部となっている次元世界であっても、そうたやすく理解できるはずもない。
現在の世論の動きは、3割の教会信者や現体制への反感を持つ者たちを筆頭とし、彼らの過激な発言に煽られた一般市民――自分には無関係だと、完全な他人事として受け取っている者たち――によるネット掲示板への書き込みや過激な発言が後押ししている形になっている。
特に、相手の顔が見えない掲示板などでは過激すぎる発言も多々見受けられる。
あらゆる願いをかなえられるダークネスなどは、どこかに幽閉し、好きな願いをかなえさせ続ければいいなどといった、無謀すぎる発言すら飛び交っているのだから、彼らが事態の深刻さを十分に理解していないのは明確だ。
だが、過激すぎる発言を無視することが出来ないのが、管理世界の代表たちだ。
管理局を正しいと信じ、治安の維持をゆだねてきたのに、守るべき民衆たちからの支持を失った組織にいつまでも組するのはいかがなものかという意見が出てしまった。
公開された情報を信じるべきか、それとも先を見据えて静観するべきか、答えの出ない議論を繰り返している。故に、友好関係にあるはずのミッドへ救援を送ることが出来ないでいるのだ。
「本局に駐在している連中は何をやっているのだ! どうしていまだに救援部隊が来ない!?」「彼らも混乱しているのか、各世界に散らばって騒動の収拾を試みているのか……あるいは」「すでに彼奴らの手が向けられているか……か」
彼女らの用意周到さには歴戦の勇士たる三提督たちですらいっぱい食わされたほど。
もしかすれば、本局の内部にまで教会の手がかかった反乱分子が潜んでいる可能性もゼロではない。憶測が憶測を呼び、答えのない討論を繰り返し泥沼化しつつあった最中、はやての発言が無意味な喧騒を止める。それほどの力を、彼女の言葉に込められていたからだ。
「ダークさんに協力を求めてみよう」という言葉は。
「……正気か?」
「もちろんや、冗談でこないなこと言わへんって。向こうがスカリエッティと同盟結んだっちゅうなら、コッチも同じ土俵に立てばいいだけやんか」
スカリエッティを始めとする人造魔導師もまた、望まぬ命令に従わざるを得なかった被害者だと教会は発表した。
全ての原因は、自作自演による管理局の権威を高めることにあったのだと。
最高評議会の指示でガジェットの襲撃を実行させ、人気の高いエース級魔導師に事件を解決させる。
実力をアピールすると同時に民衆の人気も得られる上に違法研究も捗る、まさに一石三鳥の策……これが、聖王教会が発した文面である。
スカリエッティという男の性格を知るものからすれば、頭がおかしいといわざるを得ない見当はずれの見解。
しかし、世論が教会へと傾いている現状では、こんなとんでもない理論が真実に挿げ替えられてしまう。
まさに四面楚歌。
この状況を打破するには、とっておきの鬼札を切る以外に起死回生の一手は存在しない!
「リスクが高すぎるだろう! いくらなんでも無謀だ。そもそも、あの男を制御できるとでも言うつもりか!?」
「まさか。あんな
「じゃあどうするつもりだったんだ!? まさかまた、古代遺産なりを譲渡するつもりじゃないだろうな!? もし公になれば、今度こそ取り返しがつかなくなるぞ!」
件の一件は、一人の少女を救うためにグレアムが独断で行ったという形に持ち込むことで多少は反感を抑えられたものの、組織の存在理由を根本から揺るがす行為が暴露されたことに代わりはない。この上、敵対勢力への対策として犯罪者を賄賂まがいの方法で勧誘するなどと知られた暁には……民衆の怒りが爆発するに違いない。
それを危惧するからこそ、戻ってくるのは否定的な意見ばかり。提督たちも眉根を寄せて同意を返せないでいる。
「はやてお嬢ちゃん、どうやって彼を従わせようというのかしら? まさか、面と向かって協力してくださいと頭を下げるだけ……なんて言わないでしょうね?」
静かな声でミゼット提督が問いかける。天秤にかけるにはあまりにもリスクが高い手段――しかし、見返りはとてつもなく大きい。
多少の犠牲を払ったとしても、利用価値は十二分にあるのだと、数十年もの間現場にたち続けた勇士の頭脳が導き出す。
「口先の言葉なんかじゃ彼は動かせません。ですが、いかに化け物だといっても心は私たちと同じ人間なんです。ですから、そこにつけこむ隙があるんです。……皆さんは、人が己の信念を捻じ曲げてまで手に入れたいと思えるものがなにかお分かりになりますか?」
言われ、脳裏に思い浮かべたのは各々が大切に想っている人の姿。
家族や恋人、想いを寄せた友人などだった。自らも愛する家族を思い浮かべながら、核心を得た表情で一同を見渡す。
「もうお分かりでしょう。彼を動かせるとすれば、彼が大切に想っている人物を引き合いに出すしかありません。付き従うアリシア・テスタロッサたちと家族のような関係になっていることから見ても、彼が親愛を感じる相手を大切にしていることは明確です。ならば」
「あの男にとって特別な存在を交渉人にすれば、我々の言葉に耳を傾ける可能性があるということか……。いや、まてよ……そうか! 君の言う人物とは!」
「はい。彼が家族と呼び、行動を共にしているアリシアとシュテル。彼女らと同じ容姿の高町隊長らこそが鍵になると私は確信しています。よって私はここに……管理局の未来を託す一世一代の誘惑作戦を提案します」
背後に『ど~ん!』 と効果音が浮かび上がるかのように力説するはやてに、なのはとフェイトの本能が
「……誘惑?」
「ええ。民間協力者である高町 花梨さんと、ここにいる高町・ハラオウン両隊長による誘惑作戦を進言します!」
「「うえぇぇえっ!?」」
「ちょっと待て! 君は人の妹に何をやらせるつもりなんだ!?」
とんでもないぶっ飛び発言をかますはやてに、ブラコン提督の異名を持つクロノお兄ちゃんが待ったをかける。
美しい裏手ツッコミを受けたはやては、コテン、と首をかしげ、
「え? 一般常識の範疇に収まる誘惑をしてもらうつもりですが? それが何か?」
「……具体的には?」
「とりあえず全裸になって、『You、仲間になっちゃいなYo~♪』ダンスを踊ってもらいます。三人を気にいっている感がある彼のことだから、きっとものすごく可哀想な子を見たかのような表情を浮かべて油断するはず! そこを三人が抱きついて拘束してもらうんです。彼女たちの駄目っぷりに保護欲が沸いてしまったダークさんなら、三人がかりで篭絡できるに違いありません!」
「捨て身にも程があるよ!?」
「て言うかどうして私たちがやること前提なの!? 言いだしっぺのはやてがやればいいじゃない!」
「え、何で? あの人の愛人疑惑のあるなのはちゃんらがやるのがスジってもんやろ? ちょうどええ機会やん、妻嫁コンビから寝取ったれや」
「何イイ笑顔でサムズアップしてるのかな!?」
「どうせ相手がいなくて賞味期限まで溜め込んだ挙句に腐らせかけない貞操なんやから、世のため人のために散らしたらええやんか。運良かったら、優秀な子種が貰えるかもやで♪ ……あ、花梨ちゃんは、もう誑しこまれとんやったっけか? ちゅうことは、姉妹&幼馴染丼やね♡」
「「本気でぶっとばすよ!?」」
重い空気に包まれていた会議室が女の子たちによる喧騒の場と化し、一種の悲壮感すら漂いはじめていた雰囲気を消し飛ばしていく。
心が追い詰められた状態で、妙案が思いつくはずも無い。冗談半分、本気半分のジョークで緊張で張り詰めた空気を切り替えて見せたはやてに、レジアスは内心『もっと利口なやりようがあるだろうが、馬鹿者め』と酷評を下す。
もっとも、口端は吊り上り、くっくっくと愉快そうな表情を見せているが。
会議室を見渡して皆を和ませられたことを確認したはやてが、まじめな提案を述べようとした――瞬間、ドアを蹴り破るような勢いで、連絡係に任命された局員が駆け込んできた。
息を整えることも出来ず、肩で呼吸を繰り返す局員の表情は真っ青に血の気が引いており、まるでこの世の絶望を垣間見たかのようだ。
「何事だ!」
怒声混じりに問いただされた年若い局員があわてて直立の姿勢をとりつつ、唇を恐怖で震わせながら、告げる。
「聖王教会の動向を監視されていたゼスト隊から緊急連絡がありました。それによりますと、――……」
自分自身でも信じられないのだろう。蒼白な顔を恐怖で歪ませ、それでも己の役目を果たすべく勇気を振り絞る。
「ベルカ地方が……壊滅しました」
搾り出すように告げられた現実に、会議室の空気が凍りついた。
――◇◆◇――
《人間の力は絆だ。一人一人では小さな存在でしかないが、数がそろえば世界を動かすほどの力を生む。異なる主義・主張・理念・思想を抱く者たちを纏め上げた手腕、集った力の総量は、なるほど《神》の候補者が持つ力と遜色ないと言わざるを得ない。まさに、天晴れ。ゆえに、人間であるNo.”ⅩⅢ”にも儀式へ参加する資格を、改めて与えることとしよう。信徒たちの願いをかなえること、それもまた《神》たるこの身がなすべきことであるゆえな》
唐突に脳内に響いた声に苛立ちが募る。
言葉だけを見れば人々の想いに胸打たれ、温情を図るようにも思える。
しかし、声が明らかな愉悦のソレであるのならば話は別だ。声の主は間違いなくこの状況を愉しんでいる。
儀式を取り仕切る元締めなのか、それとも傍観者の一人なのかはわからない。
けれど、自らの存在をかけた戦いを繰り広げている自分たちを肴にしているのは、どうにも癇に障る。
「明らかに”ⅩⅢ”にとって都合の良いルール改変だな。……彼らが警告していた儀式に潜む悪意とはこれのことだったりするのか?」
そこまで考え、今は目的を果たす方が先決かと意識を切り替える。
眼下に広がるのは広大な自然が目を見張るベルカ地方。
永きに渡って積み重ねられた歴史と風習が色濃く残る大地だ。
討論会の映像はこちらにも放送されていた。
他の地域に比べて教会が崇める聖王への信仰心が強い民衆は、再臨した『かの王』に使える司祭であるカリムの言葉を全面的に信用し、受け入れた。
故に、誰もがベルカの遺産――ヴィヴィオや夜天の書など――すら手中に収めようとしたという管理局や、彼らと協力体制を敷いている(と思い込まされた)ダークネスへの怒りに燃え、打倒すべきと声高々に叫んでいる。
熱を帯びすぎた信仰心による熱気で包まれたベルカの地をはるか上空から見下ろす一人の男。言わずもがな、《新世黄金神》へと変身したダークネスだった。彼の正面に展開されたモニターには、今まさに彼の眼下に存在する聖王教会の本拠地で行われている演説の様子が映し出されていた。
モニターの向こうでは、聖堂と思しき大広間を埋め尽くす人々、そして祭壇のように一段高くなっている場所から『ありがたいお言葉』と言う名の扇動を述べている司祭らしき男。元来ならば静粛であるべき信徒たちによる賑やかな歓声に包まれた何とも派手な演説で語られるのは、聖王様の教え……などではなく、いかに自分たち聖王教会の行動が正しいかというもの。
曰く、偉大なる聖王閣下が舞い戻られた今、かつての古の戦乱に終止符を打ち、世界に平和と秩序を齎した大いなる祖より続く血脈たる自分たちこそが次元世界で最も優れた存在であり、運命と言う名の神の呪いに抗うべく、今こそ立ち上がろうではないか! というモノだった。
歴史こそあれども、ミッドの片田舎な勢力に収まっていたことに苛立ちを感じていた者は少なくなかったようで、聖王と言う旗印の元、かつての栄光を取り戻すべし! と言う雰囲気が形成されている。
何時の時代でも、富と権力を得られるかも知れないからと野心を燃やす輩はいるもんだなと、ダークネスは完全な他人事の姿勢を崩さない。
「とはいえ、俺の反応もある程度予測はしていたようだな。次の行動をとりやすいように拠点をミッドにある教会のひとつに移したか。
強力な希少能力を後天的に授けることができるカリムの”能力”は、単独では役に立たないものの、己が手足となる『軍勢』を用意できた瞬間、とてつもなく強力な力に変わる。
彼女の力は、かつてダークネスが相対した森羅 白夜と同種のものだ。
”能力”の種、あるいは雛形を複数所持し、己の望むタイミングで願った”能力”へと変換・習得することが出来るのが、彼の”能力”だった。
カリムの場合は、自分ではなく他者を対象として異能の力を譲渡、もしくは生成して与えることが出来るのだろう。
ただし、使い手が普通の人間であるために、希少能力という『人知の及ぶレベルのもの』までしか生み出すことが出来ない。
彼女自身もこの世界の人間に憑依する形になっているため、身体能力や資質は他の参加者より格段に劣っている。
一人の力では、星を砕き、世界の理を書き換えるほどの”能力”を持つライバルたちを打倒することは適わないと見て、このように周囲を巻き込むような大掛かりの戦法をとったのだろう。
とはいえ、希少能力を与えられた者が、即戦力になれるかといえば首を傾げざるを得ない。
彼女の言葉には、非魔導師にも希少能力を与えるような節が含まれていたが、戦いの中に身を置いてこなかった者たちがどれほどの戦力になれるというのか。
訓練の時間を確保できればまだわかるが、現在の打撃を受けている管理局を打倒するのに、相手が立て直すだけの時間を与えるほうが悪手。
勝利を望むのならば、世論の勢いに便乗して決戦を仕掛けることが正解だ。
「あるいは、戦いを膠着状態に陥らせることで管理局の動きをけん制しつつ、後方で民衆を戦力へ仕上げるという手もあるが。ま……詮無きことか。どうせすぐに――消えるんだからな」
両腕を組み、冷ややかな視線で眼下を見渡していたダークネスは、やがて腕を解いて瞠目する。
「お前たち……力を借りるぞ」
静かに語りかけるのは、己が内に宿る二十一の宝石たち。求めるのは、彼らが宿す次元干渉のチカラ。
蒼き宝石から溢れ出す閃光の如き魔力が激しくスパークを起こし、穏やかな晴天であった大気に悲鳴を上げさせる。
「次元エネルギーに空間干渉力を付与……相転移力場を形成」
冷静に、針に糸を通すような集中力で唸りを上げる魔力へ志向性を持たせるための術式を構築していく。
これから試すのは、星系すら滅ぼすほどの破壊の力を秘めた兵器の再現。
強大にして無慈悲なる、絶対的破壊攻撃。
ひとたび制御を誤れば、己自身にも途轍もない被害が及ぶであろうほどの、強大なチカラ。
純然たるエネルギーを、己がイメージに沿った形へと変質、変換していく。
「相転移エネルギー最大増幅」
吹き荒れる魔力が巨大な竜巻を形成し、大空を漆黒に染め上げていく。
絶望を齎す終焉の具現が産声を上げる。
「縮退圧限界……重力崩壊臨界点、突破」
二十一のジュエルシードから生れ落ちたテニスボールほどの大きさの光球。それら一つ一つが超重力の塊……すなわち、マイクロブラックホール。
ダークネスの意思に従い、舞い踊るように宙を舞っていた超重力球が、かざした彼の手の中でひとつに混ざり合っていく。
集約されていくのは空間を崩壊させるほどのエネルギー。青白い雷光となって吹き荒れるそれを束ね、収束し、脳裏にイメージする”とある兵器”を再現する。
「生成、完了」
呟く彼の手のひらに生み出されたのは、紫電が奔る漆黒の球体。
縮退恒星の終焉時に発生するとされる極大なる破壊のチカラ、それを再現した禁断の魔法。
この時になってようやく異変に気付いたらしく、教会内部から騎士とおもしき人影があわてて飛び出してくるのが見て取れる。
天を、ダークネスを仰ぎ見た彼らが次々に絶望の表情を浮かべる様を見ても、彼の胸中に同情の念が浮かぶことは無い。
なぜなら、彼らベルカの民は
No.”ⅩⅢ”を信じ、彼女の手足となって
「貴様らの存在を、この世界から抹消してやろう……」
ダークネスは儀式に無関係の人間を殺めることは良しとしない。
しかし、あからさまな敵対意思を表明した者たちまで見逃してやる道理は無い。
世界を壊さぬように細心の注意を払いながら、敵の尖兵と化した愚か者どもを抹消するために生み出したチカラを今――開放する!
「さあ、堕ちるがいい……永劫に果て無き無限獄へと」
放たれたのは、内部で無数の重力球が交差しあう漆黒の魔力球。
まるで、手渡すかのように軽く放り投げられたソレは重力に引かれるように遥か下方の大地へと落ちていき――着弾。
「【
刹那、球体の表面を食い破るかのように内包された二十一の重力球が荒れ狂いながら外へと飛び出し……超重圧エネルギーが一気に解放された。
人々が最初に感じたのは浮遊感だった。
星が生み出す重力という不変のチカラ。その楔から解き放たれたかのように、人が、路上に転がる石が、木の枝に留まっていた小鳥が空へと浮かび上がり……僅かな間を空けて襲い掛かってきた吹き荒れる重力嵐のうねりに飲み込まれていく。
拳を振り上げ、司祭の檄に雄たけびを上げていた信徒たちが悲鳴や絶叫を上げる権利すら与えられず、全てが等しく
波紋のように広がっていく重力の檻は、森羅万物を吸い寄せ、飲み込み……原始レベルで崩壊させる。
悲鳴も、怒号も、祈りも、等しく無へと帰す。
爆音とも大嵐とも取れる重力嵐が巻き起こす轟音の中に混じる悲鳴に耳を傾けるダークネスの脳裏に浮かぶのは、自身が未来を奪った人々へ向けた謝罪の言葉……などではなく。
「自分でやっておいてなんだが凄まじいな……。しかもオリジナルはジュエルシードに”権能”というインチキで再現したコレより数段上というのだから」
己の未熟を恥じるように零す嘆息であった。
「っと、まあそれはいいか。今はまだ未熟。ならば更なる力を身につければ済む話だ。それよりも――」
ダークネスは頭を振って意識を切り替えると、土煙が昇る大地へと視線を落とす。
――故郷であるベルカと信徒という戦力を大地ごと消し飛ばされたカリム・グラシアがとる次の行動は、まず間違いなく早急なミッドへの進行だろう。
聖王を盟主に掲げながら、彼女の故郷であるベルカそのものを消失してしまったのだ。
運命を取り戻すなどと大層なお題目を掲げていたようだが、これほど凄惨な惨状を見せ付けられてもまだ革命とやらを続けることが出来るだろうか?
暴れ狂っていた重力波と魔力が霧散し、少しずつ大地の様子があらわになっていく。
大気が泣き止み、静寂を取り戻すと、荒廃した大地が遥か彼方まで広がっていた。
美しい自然も、歴史ある建築物も、人や動物、ありとあらゆるモノがその存在を抹消され、跡形も無く消え去っている。
残されたのは地表が大きく抉り取られた土の塊のみ。
命の息吹は微塵も感じられず、まさしく死の大地と呼ぶ以外に表現の仕様が無い光景がそこにあった。
「さて、これで奴らは急激な戦力増強が不可能となったわけだ」
次元世界各地に存在する聖王協会の信者たち。
彼らの内、自分も共に戦いたいという考えを持つ者の大多数がこの世界の聖堂へ押し掛けていた。
こちらに残した司祭や騎士の演説で鼓舞させ、戦闘への恐怖を薄れさせたところでミッドへ転移、希少能力を授けようとしていたカリムの狙いは、彼女の予測を上回るダークネスの反撃によって、朝露のように霧散したと言ってよいだろう。
「管理局と聖王教会、お互いに後が無くなったわけだ。さて、カリム・グラシア……手下どもへ刻み込んてやった俺への恐怖を払拭できるかな?」
圧倒的な暴力を見せることで、心の奥底へ恐怖を刻み込む。
ダークネスが自分たちの命を狙っているのだと思い込ませることで聖王教会に組する者たちの焦りを誘発させ、管理局との早急な決着をせざるを得ない状況へと追い込む。
化け物を倒すには、少しでも多くの戦力がいる。
管理局を打倒し、彼らに所属していた戦力を自分たちのものに出来なければ、ダークネスを倒すことが出来ない。
恐怖を振り払うように戦局が開けばこちらのものだ。
少数戦力の強み、機動力を生かしてカリム、ルビー、刹那、宗助を各個撃破していけばいい。
面倒な有象無象は互いに潰し合わせれば、今度こそ狙い通りに事が運べるだろう。
そして最後に決着をつけるのはもちろんアイツ――……だが、そのためにも、
「勝てよ、アリシア、シュテル。管理局と聖王教会を潰しあわせるためには、戦力を均等にする必要がある。……そのためには、お前たちに倒してもらわなければならないんだ。――地上の守護者と呼ばれる連中を、な」
――◇◆◇――
不毛の大地へと生まれ変わったベルカの地に、ダークネスの攻撃射程から運良く逃れる事ができていた一団が存在した。
地上部隊所属を証明する腕章を装備した彼らの名はゼスト隊。
地上のエース、ゼスト・グランガイツを隊長とする地上本部の切り札だ。
彼らは現在、見目美しい少女二人と相対していた。
「はいは~い、管理局の皆さ~ん。君たちはそこでストップなんだよ」
宙に浮かぶ箒型【デバイス】に腰掛けた雷の少女……アリシア。
「おとなしく引き下がっていただきたいのですが、どうでしょう? お互い、悪い取引ではないと思うのですが?」
【デバイス】を起動させて臨戦状態を維持している炎の少女……シュテル。
百戦錬磨の
それどころか、彼らが偵察していたベルカの人々を救う必要はないと諭し始めるほどだ。
ベルカに住む人民は協会側の人間、つまりは管理局にとっても敵だと言える。
ならば今回の件、対岸の火事だからと見過ごすという選択肢もあるはずだ。
しかし、
「愚問だな。相手が何であれ、傷つき、涙を流しているものがいる以上、手を差し伸べるのが我ら時空管理局の役目だ」
レジアスの指示を受けてベルカ地方の調査と監視任務に従事していたゼスト隊は、突如すさまじい爆音と共に大地が粉砕される光景を目の当たりにした。
状況はさっぱり理解できなくとも、骨の髄まで染み付いた”法の守護者”としての本能に背を押されるまま救援に駆けつけようとし――
「アリシア・テスタロッサにシュテル・ザ・デストラクターだな? お前たちが立ちふさがるということは、この惨劇を引き起こした元凶はあの男ということか」
「ちっちっち……駄目だよ、おじさん。人の名前はちゃんと覚えとかなきゃ。私の名前はアリシア・
「同じく、シュテル・スペリオルと申します。以後お見知りおきを……ま、次がある可能性は低いですけれど」
無垢な笑顔を浮かべ、丁寧なお辞儀をする少女たちに、地上部隊最強と呼ばれるゼスト隊のメンバーが緊張をあらわにして【デバイス】を構える。気付いてるからだ。目の前で自然体を崩さない二人の少女、彼女たちの浮かべる笑顔の向こう側に隠された強大な力を。
「やはりこうなりましたか。ま、ちょうどいいですけど」
「だよね~。私たちの本気……試し相手に申し分ないよ。じゃ、いこっか」
軽いやり取りを交わした次の瞬間、二人の姿がゼストたちの視界から消失する。
ざわめく部下たちの存在を意識から切り離し、瞼を閉じたゼストが全身へ魔力を浸透させていく。
それは身体能力を強化する基礎的な魔法。されど、彼ほどの強者ともなれば、基本的な技術が必殺の奥義へと昇華される。
念入りに強化するのは五感の内の触覚だ。
全身の肌を高性能なレーダーのように鋭敏化させ、空気の動きすら細かく感知できるほどに意識を沈めていく。
「むっ!」
首の後ろに感じたチリッ、とした感覚。
それは脅威の接近を告げる、戦士の本能が鳴らす警告音。
己の本能を信じて愛槍を振り上げる。瞬間、甲高い金属音と共に斥力によって振るわれた大鎌の一撃と打ち合い、両腕にしびれるような衝撃が襲い掛かってきた。
――重い!?
「うわぁお、初見で止められたのは久しぶりなんだよ~、っと!」
大鎌へと変形した【デバイス】による奇襲を容易く防がれたことに驚きの声を上げつつ、武具が交叉した箇所を起点に身体を流し、ゼストの身体をすり抜けるようにその場から離脱。直後、彼女の頭部があった位置を、大気が破裂するかのような炸裂音を伴った拳が撃ち抜く。
軽業師のように宙を舞って着地するアリシアを視界の端に捕えた拳の主……クイントは、娘に受け継がせたものと同型【デバイス】リボルバーナックル弐式のカートリッジをロード、爆発的な高まりを見せた魔力を脚部に集約させることで排出された薬莢が地面に落ちるよりも早く瞬発し、アリシアの懐へと潜り込む。
「リボルバー……キャノンッ!」
「おわっと」
余裕に満ちた表情のまま、ダンスを踊るようにアリシアが舞う。
轟音を伴った胴体を狙った一撃から軽々と逃れ、お返しとばかりに遠心力を加算した薙ぎ払いを放つ。
身の丈を超える巨大な獲物の長所である破壊力と射程を最大限に生かす一撃は、攻撃直後で身体が硬直したクイントの首を刈り取らんと唸りを上げる。
だが、
「おりょ? 鎖?」
あと数センチで首を刈り取ると言う一撃は、地面に展開された魔法陣から放たれた魔法の鎖に絡め取られることで不発に終わる。
魔力の源へと視線を向ければ、漆黒の外甲に覆われた人型の魔蟲……ガリューを従えたメガーヌの姿が。
「ガリュー、お願い!」
「……!」
召喚主の求めに応えるかのように胸の前で拳を打ち合わせたガリューは、真紅のマフラーを靡かせながら鋭利な爪を生やした拳を振り上げて突進してきた。
「甘いですよ」
しかし、相手はアリシアのみにあらず。
シュテルが後方から燃え盛る炎の魔力弾【パイロシューター】を撃ち放ち、アリシアの援護を開始。
誘導性を持つ魔力弾は戦場を舞う木の葉を吐き焦がしながらガリュー、そしてアリシアを拘束する鎖へと殺到する。
強固な防御力としなやかさを兼ね揃えたガリューの外甲であっても、炎熱系への耐性はそれほどのものではない。
攻撃をキャンセルし、ひときわ高い高度を誇る爪で、迫る魔力弾を斬り裂き、相殺する。だが、ガリューが足止めを受けている間に鎖は軒並み破壊されてしまい、結果としてアリシアが自由を取り戻してしまう。逃がすものかと突貫を仕掛けてきたゼストとクイントの蹴りを容易く捌き、後方へと跳躍して間合いを取るアリシアが、相方であるシュテルの傍らに降り立って大鎌を肩に担ぐ。
一撃も与えることが出来なかったことに歯噛みするクイントをメガーヌが宥め、静かな闘志を燃やすセズトとガリューが前衛に立って、仕切り直しだと己が獲物を構える。
ここまでがほんの数秒の間に起こった出来事。
戦いに加わらなかった……、否、戦いに加われなかったゼスト隊のメンバーは、隊長たちと御託にやり合う少女たちの技量に戦慄を覚える。
助力は逆効果になると、技量の足りぬ者が足を踏み入れてはならない戦いのだと、彼らの積み重ねた経験が解を導き出していた。
「『黄金神の双翼』、噂に違わぬ実力ということか」
任務において寡黙な男であるゼストがポツリとつぶやく。
それは見紛うことなき称賛の声。犯罪者である前に一人の武人として、己と同じストライカー級の高みへと上り詰めた彼女らへの純粋な敬意からくるものだった。
「うーん、なんて言いますか、やりにくいですよねー。才能があって経験もある。そのくせ、天災特有の驕りは見られないって反則でしょ」
「まるで六課にいる子たちの長所をひとつにしたような子たちね……。なんというか、自信無くしちゃいそうよ」
クイントとメガーヌからも、呆れた様な苦笑が零れ落ちる。
模擬戦という形で六課隊長陣と手合せしたこともある彼女たちの目に、アリシアとシュテルの姿が彼女らのソレとダブって見えたのだ。
例えばアリシア。
加速力はフェイト、攻撃の鋭さはシグナムに比類する。
そのくせ、一撃に込められた重さは鉄槌と称されるヴィータに勝るとも劣らない。
防御力はそれほどのモノではないようだが、捉えきれぬ速さと一撃で戦局を決める破壊力を両立するなど反則もいいトコロだ。
シュテルの場合は、なのはとはやてのいいとこ取りと言ったところか。
正確無比な射撃精度、一撃に宿った破壊力もさることながら、冷静に戦場を把握し、味方を的確にサポートできる視野の広さは指揮官としての才を有していることの証明だ。
もし彼女たちが味方になってくれればこの状況下でも希望が見えてくるのだが……、と、そう思わずにはいられない。
「だが、今は詮無きこと。我らはやるべきことを果たすのみ! ナカジマ! アルピーノ!」
「「はい!」」
だが、今自分たちがやるべき任務を思い返し、脳裏に浮かんだ『~たら、~れば』を打ち払う。
いかに魅力的な能力を秘めていようとも、彼女たちは、遥か彼方に広がる凄惨な惨状を引き起こした生ける災厄の身内にして眷属なのだ。
人命を救うため、己自身へ誓った誇りある正義を貫くために、今はただ彼女たちを打倒し、あの場所で死に瀕しているであろう人々を救い出す。
裂帛の気合いと共に吹き荒れるのは、雌雄を決せんという覚悟を秘めた魔力の奔流。
己の果たすべき役目を貫くために、地上の守護神たちが『黄金神の双翼』へと挑む。
「あまり時間は掛けられん。ここで決める……【フルドライブ】!」
吹き荒れていた魔力が地面に触れるほど下げられた切っ先へと集約される。
自身の魔力を限界以上に引き出し、最強を超えた一撃をもってあらゆる敵を葬りさる。これがゼストの切り札。
あらゆる犯罪者を打ち倒し、人々を護り続けてきた守護者の奥の手。
戦闘を長引かせては救える命も救えなくなる。いかに絶望的な結果が確定していたとしても、最後まであきらめずに足掻き続ける。
そのためにも、これで決着をつけなければならない。この先で遭遇するであろう
雄叫びを上げながら地面を蹴り、大地を穿ちながら全速力で駆け抜ける。
副隊長二人もゼストの覚悟を理解し、各々のやるべき役目を果たす。
クイントは両腕のリボルバーナックル弐式のカートリッジをフルロード、凄まじい反動と荒れ狂う魔力を奥歯を噛み締めて抑え込み、ゼストの後へ続く。
その隣にはメガーヌの支援を受けて身体能力を限界まで強化させたガリューが併走する。
そしてメガーヌ自身も、二人と一匹の援護としてアリシアたちの左右、上、後方に魔力の鎖と障壁を同時展開、逃げ場のない牢獄を作りだす。
前方からの三連攻撃を叩き込み、逃げ場を封じた鎖の結界によって拡散する破壊力を内側へ集約、いかなる防御も叶わない必殺の連携を生み出した。
後方に待機しているゼスト隊のメンバーは、隊長たちの勝利を確信した。それだけの威力があることを、彼らは日ごろの訓練で否応なしに理解させられているからだ。
しかし、それでも不安を抱かずにいられないのは、偏に――
「おぉ~! まさに必殺のコンボって奴だね~」
「ふむふむ、念話での意思疎通を図ったそぶりも見せないとは……素晴らしい以心伝心っぷりです。流石は地上部隊のエース集団と言ったところでしょうか」
迫る脅威と相対しながら呑気に会話するアリシアとシュテル。
迫る攻撃を防ごうと動く素振りも見せず、余裕約尺といった雰囲気を醸し出している。
その様子は、攻撃を仕掛けているゼストたちの目も捉えていた。
胸中に浮かぶのは戦場を知らない素人の能天気さに対する呆れ――などではなく、背筋が凍りつくかのような寒気であった。
危険信号が脳内で鳴り響き、今すぐこの場から離脱しろと全力で叫び続けている。
しかし、ひとたび繰り出した切り札のモーションは今さら変えられない。
己の全てを注ぎ込んだ切り札であるが故に、攻撃途中でのキャンセルは不可能なのだ。
もはや残された道は、この一撃にすべてを賭けて、あらゆる障害を打ち破る事のみ。
「オォオオオオオオオオオッ!!」
自らを鼓舞するかのように、喉が張り裂けるほどの叫びを上げて大地を駆ける。
「覚悟はご立派ですね。ですが……残念です。あなた方ほどの勇士を打ち倒さねばならないとは」
「ま、ここで私たちと出会った不幸を病院のベッドの上で嘆いててほしいかも。あ、大丈夫だよ。ちゃ~んと、殺さないように手加減してあげるから♪」
そう言うなり、二人は瞳を閉じ、告げる。己が切り札である――とある言葉を。
「「《神意召喚》」」
瞬間、光が爆ぜた。
メガーヌの生み出した牢獄を内側から強引に破る程の莫大な魔力の奔流。
逆流してきた魔力ショックによってメガーヌが吹き飛ばされる中、一条の閃光と化したゼストは恐れることなく光へと突き進む。
今更なにをしようと関係ない。ただ、この切っ先を届かせることにのみ集中する。
覚悟を決めた守護者の槍先は、彼と彼の部下たちの想いを乗せて光を穿つ。だが――、
「――ッ!?」
全てを賭けた切っ先は彼女らへ届くことは無かった。獲物を通じて感じるのは、強固な壁に弾き返されたかのような鈍い衝撃だった。
ゼストが、クイントが、メガーヌが、そしてガリューが、少女たちの身体を吹き飛ばす覚悟と威力を込めた切り札を阻んだもの。
それは……
「ひか、り……?」
太陽のごとき輝きを放つ、光の障壁であった。
それも、唯の魔力障壁などではない。純粋な魔力を全く別次元のナニカへと変容させることで誕生した、異質にして超常なるエネルギー……“
「――そういえば」
吹き荒れる光の
常人には立ち入る事すら許されぬ領域に立つ超越者の声が響く。
「ダーク様とヴィヴィオ以外の誰かにこの姿を見せるのは初めてですね」
「そう言えば……うん、そうかも。なにしろとっておきだからね~」
眩いまでに輝く恒星の如き輝きを斬り裂きながら、超越者が戦場へと降り立つ。
ゼストの耳に届くのは、透き通る清水を思わせる穢れ無き声。
先程まで相対していた少女たちと同じものであるはずなのに――まるで、天より降誕した天の使者のモノではないかと錯覚してしまう。
「貴方たち……だれ……?」
光の中から現れた少女たちに、地面に座り込んだクイントが思わずそう問いかけてしまう。
問われた本人たちは一瞬、きょとんと首を傾げ、すぐにくすくすと含み笑いを零してしまう。
「あはは、誰って言われてもねぇ。私は私、アリシア・T・スペリオルだって答えるしか出来ないよ?」
「そして私がシュテル・スペリオル。痴呆にはまだ早いですよ?」
軽口を交わす二人に対して、ゼスト隊のメンバーは口を閉ざす。
否――閉ざさざるをえなかった。
肌を刺す圧力、大気を、空間を押し潰すかのような圧倒的な存在感。先ほどまでの彼女たちとは、明らかに“違う”ことを、生物としての本能が悟ってしまったからだ。
「この、圧力――……高町 花梨と同等だと!?」
かつて一度だけ相対したことがある花梨が見せた『
それはつまり、人の身でありながら人智を超えた領域に手をかけた証拠に他ならない。
事実、彼女らの姿は大きく変容を遂げていた。
先程までの彼女らは黒を基準としたバリアジャケットを纏っていた。
だが、現在の二人を表すならば眩いばかりの“白”の一言に尽きる。
アリシアは母譲りのドレス風バリアジャケットが肌に吸い付くようなレオタードへと変わっている。
肩からおなじみのケープを羽織り、腰の裏側には足元に届くほど裾が長い腰コートが装着されて下半身を包む。
太ももの中ほどまである機械的な
背中からは紫電の雷光を撒き散らす魔力で天使を彷彿される双翼が形成され、王冠のような転輪が頭上に浮かぶ。
【ヴィントブルーム】の杖身も銀色に輝く硬質的なものへと変わり、鎌刃分は斧と槍を組み合わせたような形状……ハルバート。
『鎧闘神 龍機装』
これこそがアリシアの全力戦闘形態にしてフルドライブ。
限定的にではあるが『神成るモノ』と同等以上の戦闘能力を実現できる、“紫電の魔女”が最強の戦装束。
一方のシュテル。彼女の姿も漆黒のバリアジャケットから大きく変容を遂げていた。
ノースリーブしかなかった上半身に腰まで届くジャケットが装着され、ロングスカートが丈が縮んで動きやすさを主体とするミニスカートへと変わる。
ストールが武将を思わせる黒い陣羽織へと変化し、肩や腰横に甲冑を思わせる装甲が追加される。
膝下を蔽うのはアリシアと同じ機械的な
長い袖から覗く手には青い手甲を思わせる手袋。背には太陽の炎を彷彿させる輝焔の双翼が羽ばたく。
頭上には翼と同じ輝焔色の天輪が浮かび、まさに炎の天使と呼べる出で立ちとなった。
杖は先端を鋭利な槍を彷彿させる形状となり、杖そのものの長さも身の丈を超えるほどに伸びる。
更に、刃に埋め込まれるデバイスコアを太陽を模した装甲が覆い、魔道師の杖と言うよりも戦国槍と称した方が正しいものへと生まれ変わる。
『鎧闘神 太陽装』
アリシアの龍機装と対を成す、太陽の輝きを宿した“輝焔の天女”の全力全開形態。
《黄金神》と縁ある、聖竜騎士と太陽騎士の力を宿した戦巫女の力が、ここに顕現した。
「さて」
身体の調子を確かめていた二人の視線がゼストたちを射抜く。
ぎくりと肩を震わせる一同を見わたし、いまだ戦意が尽きぬ様子の隊長陣に素直な称賛を抱く。
「ま、だからといって見逃してあげるつもりは毛頭ないんですがね」
巨大な槍を軽々と振り回し、切っ先をゼストらへ突きつける。
羽ばたく炎翼が“
それを槍先へと集束させれば、瞬きもしない内に極大の魔力球が形成されていく。その輝きはまさに大地へ落ちた太陽そのもの。
「それじゃあね、おじさんたち。ばいば~い」
天へと掲げた白金のハルバート。その刀身へ堕ちるのは紫電の魔力で構成された翼から放たれる魔力雷だ。
バチバチバチ、と空気を焦がす音を打ち鳴らしながら集束されていく魔力はやがて形を無し、まるで自らの意志があるかのように鎌首をもたげる。
それは紫電で構成された龍の姿をしていた。ハルバートに絡みつく様に顕現した雷龍の双眸が、主の敵を噛み千切らんと唸り声を上げる。
極限まで集約された暴力の具現。それが今――解放される!
「『
「『
瞬間、この地に僅かに残されていた自然の緑が完全に消滅することとなった。
しばらくの後、駆けつけた特殊救護チームが目の当たりにしたものは、まるで超高温にさらされたかのように全身の皮膚が焼け爛れ、生死の境をさまようゼスト隊のメンバーの悲惨な姿。そして、生命の息吹を感じられないほどに破壊され尽くした大地の亡骸。
その日、ミッドチルダ北部に位置するベルカ地方が消滅するというニュースが全世界を駆け巡り、前日の騒動で浮足立つ人々の心を驚愕と恐怖で塗り潰した。
詳細こそ公開されなかったものの、聡いものたちは気付いていた。
カリムによって公開された情報に含まれていた妄言じみたデータの一端に記されたものの仕業だということに。
たった一人で世界を滅ぼす事が出来る人外の存在を。
彼に付き従う魔女と天使のチカラを。
人々は、否応なしに理解させられることとなった。
ラスボス臭がどんどん濃くなる主人公(笑)。
縮退砲発射時のBGMは「ダークプリズン」で決定ですな。
んでもって、妻嫁コンビもパワーアップ。
ゼスト隊には申し訳ないですが、最終決戦前に離脱していただくことになりました。
ついでに主要キャラのBGM(スパロボ風)イメージはこんな感じです。
ダークさん ⇒ ARMAGEDDON
花梨嬢 ⇒ 流星、夜を切り裂いて Ver.H
ルビー嬢 ⇒ MARIONETTE MESSIAH
刹那君 ⇒ DARK KNIGHT
宗助君 ⇒ WILD FLUG
作中に登場した魔法解説
・【
使用者:ダークネス
とある異世界にて邪神の僕と言う運命を振り切った天才科学者、彼が生み出した青き魔人の代名詞たる広域殲滅兵装を再現したもの。あちらが重力因子を操作して恒星の終末時における超新星爆発に等しい結果を齎すというトンデモ兵器に対して、こちらは次元干渉エネルギーを集束させることで疑似的な重力崩壊を引き起こすというもの。精細が違うせいか、あちらほどの破壊力(太陽系を一撃で破壊するレベル)までは有していない。
・『鎧闘神 龍機装』
使用者:アリシア・T・スペリオル
アリシアのフルドライブ形態。ダークネスの”権能”によって雷と正義を司る聖龍騎士の力を再現したもので、背中の魔力翼によって魔法力を吸収することが可能となる。
元ネタはSDガンダム外伝『ナイトガンダム物語』に登場するゼロガンダム&龍機ドラグーン。
鎧戦神とは神に仕える戦天使のことを指し、『がいとうしん』と読む。
・『鎧闘神 太陽装』
使用者:シュテル・スペリオル
シュテルのフルドライブ形態。ダークネスの”権能”で、《黄金神》と同格とも呼ばれる太陽騎士の力を再現した。背中の魔力翼は純粋な速力として利用する意外に、魔法力を吸収する変換機としての役割も持つ。
元ネタはSDガンダム外伝『黄金神話』の太陽騎士ゴッドガンダム