感想返しだと、どうしてもネタバレっぽい発言になりそうだったので自制してました……。
それと、オリジナルのほうが手間取ってるのでこっちを先に投稿。
いやー、書きたいことが多すぎてうまく纏まりませんわ(苦笑)。
今回は六課襲撃の概要説明と各陣営の切り札がご登場。
後に引っ張ろうかと思いましたが、さわり程度なのでまあ大丈夫かなと。
一応、裏設定みたいなものは残しているのでいい……デスヨネ?
それから、ゲスト出演として彼らに久しぶりのご登場をお願いしました。
「や、具合はどう――って、聞くまでも無いか」
「わかってんなら聞くなよ」
反論する元気が出る程度には回復した様子に、入院服姿の花梨が僅かに弛緩する。
野戦病院を彷彿させる慌ただしい空気の中、生死の境をさまようほどの重傷を負って担ぎ込まれてきた刹那を見たときはさすがに言葉を失ったが、石たちの懸命の処置のお蔭もあって順調に回復しているようだ。
ベッドに寝転がり、窓の外に広がる空をぼんやり見上げていた刹那の隣に椅子を動かして座る。
先の動乱の中、軽傷で済んだ仲間たちからのお見舞い品であるリンゴに果物ナイフを刺し入れながら、花梨は確認するかのような口ぶりで切り出す。
「それで? 君を殺しかけたのはカエデ君でいいのよね?」
疑問形ではあるが、確信じみた断定の意志が込められていることに刹那も気づいていた。気づいていたからこそ、無言を貫く。
わかりきったことを……親友であり悪友であった彼が、敵の先兵であったことを、自分の口から告げることをしたくなかったから。
大きな被害を生みだす一翼を担った悪友への怒り、取り返しのつかない状況に至るまで彼の内情に気づいてやれなかった自分自身への苛立ち、こうして怪我人としての惰眠を貪っている(と、本人は考えている)自分の分まで働いているであろう恋人たちへの申し訳なさ。ぐるぐると思考が渦を巻き、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
管理局員としての自分が悪の道に走った犯罪者を捕えろと叫ぶ。
いかなる理由があったとしても、それが無関係の力無き人々を傷つけて良い理由にはならない。
どんなお題目を掲げようとも、誰かを泣かせることは悪い事なのだから。
その反面、悪友を暗い復讐の呪縛から解放してやりたい、助け出してやりたいと言う想いも、胸の中で燻っているのだ。
「もう知ってると思うけど、ダークのバカがベルカ地方を消し飛ばしてくれやがったの。おかげで聖王教会を支持しようとしていた他の次元世界は手のひらを返す様に無関係を主張し始めてるわ。聖王教会と強力なんかしていないし支持もしていないから襲わないで……ってね。まったく、恐怖で動きを縛るとか、完璧に悪役街道突っ走ってるわよね。ま、お蔭で私たちは余計な横槍を気にせずカリムたちの相手に専念できるわけなんだけど」
戦力の天秤を釣り合わせて、潰し合わせるというダークネスの策は大体うまくいっている。
彼の思惑は、当然花梨や管理局サイドにも気づかれている。それでも、この状況を最大限に利用することでしか起死回生のチャンスとなりえないとして、環菜と理解しつつも敢えて飛び込もうとしているのが現状だ。
儀式や転生云々については、三提督主導による管理局の内部に対しての公言令が敷かれたかいもあり、表面上は鎮静している。
しかし、下手に時間をかけてしまったら、民衆を中心とする管理局の方針に対する反対運動が活性化するかもしれない。
それを防ぐためにも、此度の事件は早期解決が必須となっている。
大きな被害を受けた地上本部や六課の隊舎の確認に隊長陣だけでなく、手当てを受けて復帰したスバルやティアナも借り出されているのは、一刻も早く反抗戦力を結集させるために調査をさっさと済ませようという意図があったからだ。
さすがに瀕死の重傷を負った刹那や六課の防衛で深手を受けたシャマル、隊舎防衛に限界以上の魔力を振りしぼった末に非戦闘員を庇って負傷したヴァイス、アリシュコンビにボコられたゼスト隊のメンバーなどは、医師から絶対安静を命じられているので未だベッドのお世話になっているのだが。
「本局との連絡はいまだにつかないから、地上にいる戦力でどうにかするしかないみたいね。教会側も戦力に数えてた信者たちをダークにやられちゃったから戦力の再編にてんやわんやでしょうし。多分、後一週間くらいで始まると思うわ――……『戦争』が」
脳裏に浮かぶのは、純粋に世界の行く末を愁いていた少女を旗印に掲げ、機械の軍勢と肩を並べる白き騎士たちの姿。
その時、敵の先陣をきっているのはカエデかもしれない――
花梨の言いたいことに気づき、刹那の拳が血色を失うくらい強く握りしめられる。
反射的に花梨を睨み付けてしまった刹那の視線を正面から受け止めながら、自分自身に言い聞かせるような口調で、告げる。
「時間の猶予はまだあるから、もうちょっと悩んでくれても構わないわ。でも……、覚悟だけは決めておいてね」
「……何をだよ」
「決まってるでしょう? ――友達と刃を交える覚悟を、よ」
果たして、感情を押し殺したかのような無機質な声に込められていた想いはいかほどのものであったのだろうか。
未だ言えぬ深き傷を抱いた彼らに、安らぐ猶予などありはしない。
そう宣告するかのように、眩い輝きを放つ太陽の光が瓦礫が散乱するミッドチルダの大地を燦々と照らし続けていた。
病室の窓の向こうには暗雲立ちこめる人の心とはうって変わった、どこまでも蒼い空が広がっていた。
――◇◆◇――
「フェイトさん、私とスバルの担当エリアの調査、終わりました」
頭に包帯を巻いたティアナから調査データが打ち込まれたタブレットを受けとるフェイトの表情は暗い。
負傷した部下たちを借り出している事に対する罪悪感……によるものだけではない。それに気づいたティアナは、あえてフェイトが心を沈ませる原因になっている少年の話題を口にする。
「あの、エリオは相変わらずなんですか?」
「えっ……あ、うん。安静にしとかないと駄目って言ってるのにね。やっぱり男の子なんだね。『僕はもう大丈夫です!』 って、槍の稽古を再開したみたいなんだ」
で、お医者さんに見つかってはお説教されてるんだよと、くすくす笑うフェイト。
ティアナもつられるようにクスリと笑う。
脳裏に浮かび上がるのは、彼の病室で花梨から聞かされたあの日に六課で起こった事件の顛末。
ガジェットの軍勢に襲撃を受けた彼女らは、警戒していたこともあって、さしたる被害も出さずに対処することが出来ていた。
しかし、カリムが暴露した儀式や参加者についての情報や世界消滅の危機などの件で、非参加者……事情を知らなかった六課の職員たちが疑心暗鬼に駆られてしまった。その隙をついて現れたのが、異形の竜……『
……ついでに、何時ぞやの赤いガジェット三
量だけでなく質も投入してきた敵の用意周到さに呆れつつも徹底抗戦を取ろうとした花梨たちだが、予想外の事態によってその思惑は根本から覆されてしまう。
『Full Divide!』
背中から聞こえてきた機械音と共に言い表せない虚脱感に襲いかられ、地面に崩れ落ちてしまったからだ。
花梨だけでなく、六課に残っていたほぼすべての人間が、力無く地面に突っ伏す中、唯一人悠然と六課の廊下を歩く少女が存在した。
「ヴィレオ……アンタ……!」
「……ごめんなさい。でも仕方がないんです。やっぱり私は、ベルカの導き手としての役目を果たさないといけないって思うから」
一対に煌めく虹色の光翼を背中に携え、両脇に気絶したリヒトとルーテシアを抱き抱えたヴィレオが、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
デス=レックス相手に単独で奮起していた花梨に背後からの奇襲という不意打ちを仕掛けたヴィレオ。
予期せぬ裏切りに深手を負って倒れ込む花梨を見る彼女の瞳に申し訳なさが浮かぶ。
本意ではない。でも、仕方がないのだと。言外に、そう告げていた。
「待ち、やがれ……! 二人をどうするつもりだ!」
愛槍を杖代わりにして立ち上がろうともがく宗助を一瞥し、語る。
「リヒトちゃんはベルカの遺産たる“夜天の書”の管制人格の生まれ変わり。ルーテシアちゃんは古きベルカの血脈に連なる召喚術師の末裔。彼女たちの居場所は、私と同じベルカの元にこそあると思うんです」
「ふっざ……けんな! リヒトも、ルシアも! 家族はコッチ側にいるんだよ! 勝手な言いがかりで誘拐しようとしてる野郎が、なに正論ぶってや――ぐああっ!?」
「宗助っ!?」
怒りに吼える宗助の鳩尾に固いブーツの爪先が突き刺さる。
鮮血を吐き出しながら壁に叩きつけられた宗助が崩れ落ちるのを冷たく見下ろすのは、ダークブルーのボディスーツに身を包んだスカリエッティの産み子、機械の強靭さと人間のしなやかさを兼ね揃えた人型兵器“戦闘機人”の十一番目。
感情を映さない無機質な瞳で崩れ落ちた宗助を冷ややかに一瞥し、近づいてきたヴィレオに首を垂れる様は、王に忠義を尽くす騎士を彷彿させた。
「お迎えに参りました、我が王。戦闘機人No.7、名称:セッテ。 創造主ジェイル・スカリエッティと同士カリムの命により、現時刻を以てあなた様の指揮下に入ります。叶うならば、王に仕えし従者として仕えさせていただけることを願います」
己が刃である【ブーメランブレード】を足元に置き、無機質でありつつもどこか昂揚した印象を受ける声色で懇願するセッテ。
完全な戦闘タイプとして調整された彼女えはあるが、感情が皆無と言う訳ではない。
むしろ、伝説から蘇った王に仕える騎士になれるかもという期待を抱く程度には、武人としての心を秘めているのだろう。
ヴィレオもまた、誠意を向けてくれる彼女へ真剣に向き合うことを決断する。
セッテは兵器として『使われる』のではなく、武人として『仕えたい』と願っている。ならば、王たる己の役割は臣下の願いを受け止め、導くこと。
遺伝子に刻み込まれた魂の記憶にあるかつての己がそうしたように、ヴィレオもまた誠意を以て応える。
「顔を上げてください」
「はっ」
「『聖王』ヴィレオ・
「……承知! 自分の総ては王のために」
「ならば参りましょう。我々には、立ち止まっている時間は無いのですから」
悠然と、唯人には抗えない覇気を放ちながらヴィレオが進む。
崩壊した隊舎から昇る燃え盛る劫火すら彼女の歩みを止めることはできない。
それどころか、光翼を一凪しただけで火の粉すら残さずかき消されていく。
半減・減衰の究極足る“消滅”。
これこそ、ヴィレオが手に入れた異界の力。
アグスタで採取した『聖王姫』のデータを基に天災が産み落とした禁断の武具、その極みのひとつ。
“
天を超えた頂の光を纏った“聖王”が“臣下”を引きつれて悠然と立ち去っていく様を、花梨たちは呆然と見送ることしか出来なかった。
「結局、エリオも敵の圧倒的な物量差になすすべも無く押し込まれちゃったからね。またキャロを止められなかった、自分に力が無かったからって、自分で自分が許せないみたい」
元々、一騎打ちで真価を発揮する戦闘スタイルのエリオに、一対多数の戦場――拠点防衛と言う条件付き――を捌ききることは不可能なのだ。
広域攻撃を有していない彼がどれほど奮起しようとも、面で迫る相手を点でどうにかできるわけないのだから。
「宗助君も自分がリヒトやルーテシアちゃんを助けるんだって、一緒に訓練をしてるみたい。まあ、すぐに見つかって花梨のお説教を食らっちゃうみたいだけど」
「まあ、ふさぎ込まれるよりはマシですよ」
一瞬だけベッドで眠る恋人の姿が脳裏に浮かびあがったが、今やるべきは別にあると意識を切り替える。
ティアナには確信があったからだ。
刹那は必ず立ち上がってくれると。
信じているからこそ、その時を万全の状態で迎えられるように、やるべきことを済ませておかなければならない。
(初戦は完全敗北……でも、ここで終わる様なタマじゃないのよ、私たちは)
蒼い空を見上げながら、静かな闘志を燃やすティアナ。彼女につられるように、フェイトもまた空を見上げる。
悠然と広がる蒼穹の向こうに敵を見据えながら、彼女たちは迫る決戦の予感を感じとっていた。
――スカリエッティによるミッド全域に向けた宣戦布告のメッセージが発せられたのは、この十分後のことだった。
――◇◆◇――
「くふ……、くふふ……!」
堪えようのない歓喜に全身をわななかせ、天災の如き叡智を宿した少女が笑う。
今頃は兄による管理局への宣戦布告がなされている頃だろうか。
王にして生体コアでもある少女によって機動を果たした古代兵器【聖王のゆりかご】。
スカリエッティ陣営の拠点としても利用されていたソレの格納庫にいるルビーは、世の動きなど興味は無いとばかりに作業に没頭していた。
その甲斐もあって、彼女の眼前に“最高の玩具”が用意できたのだから、自分の選択は正しかったと自画自賛するのも当然なのかもしれない。
頭部に装着した情報処理・蒐集特化型ヘアバンドデバイスが、スカリエッティの演説を拾う。
聖王教会の要望を受け入れて、民衆の避難が完了すると予測される一週間後に決戦を挑むと宣言する兄の声には、堪えようのない愉悦が籠められていた。
混沌と絶望へと染まりゆく世界の在り様、それに己が関わっているという実感に歓喜を抱いているのだろう。
だが、正直なところを言えば、『そんな事はどうでもいい』。
現在のルビーにとって大切な事は、戦争の中で相対出来るであろう彼との
それを思えば、一週間の余裕が確保できたことはありがたい。最後の仕上げにかかれる猶予があるのだから。
「やっぱり万全の状態で
ダークネスの襲撃と言うアクシデントがあったものの、あくまで
元より、自分たちだけで戦争を仕掛けようとしていたのだ。
ゆりかごの主として用意したヴィレオの戦闘能力も折り紙つきだし、本局もルビー自身の手で身動きが取れないように対処済みだ。
聖王教会の方も、予め戦争へ向けて訓練をさせていた騎士たち以外の者たち……所謂、信者を戦力に数えるつもりはなかった。
いかに強力な力を与えられたとしても、戦闘訓練を積んでいない者がどれほどの役に立つと言うのか。
少なくとも、今回の戦争では、末端の兵士の動きを牽制する囮のような役割を果たすために、ベルカ地方で待機させておくつもりだったのだ。
とは言え、圧倒的な暴力を見せつける事で戦いに恐怖を抱き、逃げ出そうとする騎士が少なくないのは聞いているが……
「ま、どうでもいいことだよね。戦争の結果がどうなろうと、ボクの知ったこっちゃないんだし」
世界の情勢など完全に無関心。ルビーはもはや、完成した最高傑作でダークネスと殺し合う以外は考えられない状態にあった。
「ほ、凄まじいものよな。創造主よ、妾を生み出しのはこのためだったのかや?」
肩の部分が剥き出しになってしまうほどに着物を着崩したリインフォース・ドライが煙管を片手に姿を現した。
ルビーの仕事の成果を見上げ、感嘆したようでいて、どこか恐怖するかのような表情を見せる。
「そだよ~。キミを用意したのは、始めっからこの子を動かすために使うためだったのさ」
「くくく……何とも剛毅なものよ。悪名名高き“闇の書”の管制人格たる妾を動力扱いするかよ。それでこそ我が創造主よな。――して、主よ。これらの名はなんと申すのか?」
二十の眼光を煌めかせる巨人を見上げ、畏怖を帯びた声色でドライが問う。
ソレから発せられるプレッシャーに気圧されるかのように、着物に包まれた背中に凍える様な冷や汗が流れ落ちる。
「この子の名前? そうだねぇ……ヤッパリあれしかないっしょ」
悪戯っぽく笑いながら、ルビーがソレに名を与える。
《神》の頂へと手をかけた龍神と雌雄を決するに相応しい、最強の神殺しの鎧。人の叡智によって産み落とされた
かの者には、この名こそが相応しい!
「『
母にして創造主たる少女へ応える様に、神を殺すために生み出された機械仕掛けのドラゴンの唸り声が静かに響き渡った。
――◇◆◇――
ベルカ地方を文字通り消し飛ばし、気絶したゼスト隊メンバーを地上本部前に転移させたダークネスたち。
彼らもまた、拠点のひとつで決戦への最終調整を行っていた。
キーボードを指が叩く音だけが響く研究室。
真剣な表情でモニターの表示されるデータを分析するアリシアの後ろで、もう一人の聖王であるヴィヴィオが父たちに修行の成果を開帳していた。
「いっきますよー……“
両手を頭上で交叉させるように掲げた瞬間、両の拳から眩い輝きが放たれ、ヴィヴィオの腕を包み込んでいく。
光が納まると、ヴィヴィオの両腕に肘まで覆う真紅の籠手が装着されていた。
かつてエクスワイバリオンとの融合時に顕現していた仮初のモノではない、オークションで競り落とした“異界から流れ着いた黙示録の龍の一部”を雛型にアリシアの持てる技術の粋を注ぎ込んで完成させた珠玉の【デバイス】。
【クリス】に内蔵された
“
好敵手の力を宿すに至った娘の成長に満足感を感じつつ、ダークネスは傍らに浮かぶ空間モニターに映る
「感謝する。留守番させた娘の面倒を見てくれたばかりか、修行までつけてくれたそうだな。この礼はまたいずれ」
『ん、問題ない。我もヴィヴィオと遊ぶの楽しかった』
『ふっ、俺としては《黄金神》たる君と手合せを願いたい所だったが次の機会のお楽しみとさせてもらうよ。君の娘さんの稽古をつけるのも、なかなかに面白かった』
無表情でありながらもどこか楽しげな様子の少女と、美男子と呼ぶにふさわしい銀髪の青年が好戦的な視線を投げつけてくる。
もし並行世界の空間越しでなければ速攻で仕掛けてきてもおかしくないレベルの戦意に滾っている白い龍を落ち着くように宥めている猿妖怪が不憫でならない。
『ったく、ウチの王様もこれが無けりゃもうちっとマシなんだがねぇ。ま、だからこそつるんでておもしれーんだけど。……ってか、最強って遺伝するもんだなってつくづく思い知らされた今日この頃。なんなのあの娘、“禁手”未使用、地上戦のみって条件付きとはいえ、一時間で白龍皇とガチでやり合えるレベルに成長するとか。しかも神滅具クラスの神器持ちって、何そのチート』
「ちなみにアイツはまだ変身を残しているぞ」
修行の間は生身での基礎能力向上を主体にするように指示していたから、“
一応、【クリス】にバリアジャケットの発動こそ命じていたが、それだけ。
エクスワイバリオンと融合せずとも、【クリス】だけで発動できるようになった『聖王姫』に変身すれば、禁手の白龍皇ともいい勝負を演じられるだろう。
まあ、あくまでいい勝負止まりになってしまう可能性が高いが。
ついでに“禁手”の上にある“覇龍”まで出されれば、どうしようもなくなってしまうだろうが、ヴィヴィオの成長速度を鑑みると、もしかしてと思わなくも無い。
『え、なにそれこわい』
気配りも出来る意外と常識人な猿妖怪の頬が引き攣っているのは見間違いじゃない筈だ。
「じゃあな
「オーちゃん、また遊ぼうねっ。ヴァーさんっ、今度は負けませんよっ」
『ん、楽しみにしてる。ヴィヴィオ、
『ふっ、天龍の壁を易々と乗り越えさせはしないさ。また会おう、赤龍神帝の力を宿せし《黄金神》の娘よ』
新しい友と別れを惜しむ娘を後ろから抱きしめながら、シュテルは振り向いたアリシアと視線を交わす。
「それでアリシア。どんな感じですか?」
「うん、【クリス】から吸い上げたデータを見るかぎり、ヴィヴィオの力は安定しているみたいだね。これなら、戦力として計算しても問題ないと思うよ」
「そうですか……ヴィヴィオ。いけますか?」
「うんっ! 修行の成果、お見せしますっ!」
ふんぬ、と力こぶを作る娘を優しく撫でながら、シュテルが満足げにほほ笑む。
管理局と聖王教会の全面戦争。
そこに介入し、目標を仕留める上で戦力は一人でも多い方がいい。
「よし、これで大体の準備は整ったな。――まあ、俺がいまだに次の段階へ進化出来ていないのは問題なんだが」
「焦らないの。大丈夫、ダークちゃんならきっと出来るって」
「そうですよ。それに少しは私たちも頼ってください」
「もちろんわかっているさ。俺は単独で動く予定だから、別件をお前たちに任せたい……頼むぞ」
三人が頷くのを確認してから、ダークネスは告げる。
「戦争開始直後、俺はNo.“ⅩⅢ”の首を狙う。お前たちは桃髪娘が召喚する厄介なドラゴンを始末して欲しい」
「ダークパパ、私は“お姉ちゃん”をブッ飛ばした方がいいのかな?」
「死竜王とやらを殺った後でな。因果を喰らう奴は厄介だ。能力的に見て、管理局側からは花梨が出てくるだろうし、共闘でもして確実に仕留めてくれ」
はーいと返事を返しながら、不意にアリシアが疑問を投げる。
「そう言えばさー、あんな不気味なドラゴンがどうしてこの世界に現れたんだろ?」
「確かに、言われてみればそうだな……。能力スペックは二天龍に匹敵してもおかしくないレベルなのに、小娘に使役されているのはどういうことだ?」
ダークネスも答えがわからず、首を傾げる。
「あ、それなんですが、どうやらカリム・グラシアが行った実験が原因だったみたいですよ。聖王教会の司祭を締め上げて吐かせときました。他人に異能の力を顕現させる“能力”がどこまで有効なのかを確かめる実験を行った事があるらしく、召喚魔法の応用で並行世界に存在する存在をそのまま呼び出そうとしたらしいんです。でも、結局失敗して魂だけしか召喚できなかったらしく、同時刻に竜召喚の儀式を行っていたアルザスの守護竜に憑依する形でこの世界に留まったらしいです」
「真龍を喰い、存在を上書きすることで消滅を免れたという訳か」
『死竜王を召喚する力』を生み出そうとして失敗したカリム。
彼女が呼び込んでしまった死竜王の魂は行き場を求めて世界を飛び、たまたま召喚された直後で無防備だった真龍に憑依する形で乗り移った。
その結果誕生したのが、守り神を殺してしまった巫女と言う烙印を押され、追放された幼い少女。
彼女もまた、参加者によって運命を狂わされた被害者と呼べるのかもしれない。
だが同情はしても遠慮はしない。
如何なる事情があったとしても、今の立ち位置を選択したのは間違いなく彼女自身なのだから。
「ま、その辺のフォローはお人よし集団に丸投げしとけばいいですよ。どうせ、勝手に救済だのなんだのやらかすんですから、彼女たちは」
「だね。フェイトたちは優しいから」
「道を誤った輩の更生役は連中の仕事。ある意味でアウトローな俺たちは、漁夫の利獲得目指して暗躍するとしようか。……お前の方はどうだ?」
振り返り、問いを投げる。
彼らがいる巨大な地下シェルターを彷彿させる格納庫。モニターやキーボード以外の照明が一切存在しない空間を眩く照らす存在へと。
問われたソレがゆっくりと鎌首をもたげてダークネスを見る。
ソレはあまりにも巨大な“龍”だった。
金色に輝く龍麟甲で全身を覆われた、三つ首の飛龍。
折りたたまれた翼は真紅の輝きを放ち、全身の各部を蒼く光る追加装甲が覆っている。
其々の頭部は主の大切な存在を思わせる出で立ちをしていた。
左の頭部は、悪魔じみた凶悪な風体をしていながら、瞳は純真さを感じさせる真紅に煌めく。
右の頭部は、ややエッジが抑えられていて、どこか理性的さを感じさせる。
そして中央の頭部は王冠のようにも見える角を携え、左右で色彩の異なる双眸を以て、主を真摯に見つめていた。
三つの口から発せられる重低な唸り声が三重奏となって響く中、心に直接響く念話で言葉を交わす。
『“変幻”のほうは問題ないかと。ただ、戦闘にどれほど姿を維持できるかと言われれば、少々心許無いと言わざるを得ませんな』
「“合身”はどうだ? どれぐらい
『……正直なところ、現在のお館様では失敗のリスクが高すぎるかと。せめて、もう一ランク上の段階へ進化出来れば、あるいは――……。それでも、長時間の維持は難しいでしょうな』
「そうか」
少しだけ落胆したように肩を落とす。
先代……否、
現状を嘆くよりも、やるべきことを果たす方が先決だ。
それに、あくまでも『今の自分』には不可能なのであって、『未来の自分』も同じであるとは限らないのだから。
「修練だけじゃあ、やっぱり限界があるか。やっぱり、実戦しかないな」
あの日から鍛錬は欠かさず続けている。
その甲斐あって、あと少しで壁を突破できるところまで来ているのが自分でもわかる。
けれど、その最後の壁が中々に強固。コレを打ち破るためには、かつてのように戦いの中で成長するしかないのかもしれない。
「具体的にはどうされるんです?」
「まずは手筈通り聖王教会へ仕掛ける。実力を鑑みるに、あちらは
燃え盛る炎を携えた剣士の姿を幻視して、ダークネスの口端が不敵に攣り上がる。
「花梨は最後に取っとくとして……まずはルビーと決着をつけるのが先決。そのためにも、まずは英雄殿を打ち倒して限界を超えさせてもらうとしよう」
「それでこそ我が愛しの旦那様。例え行きつく先が煉獄の奥地であろうと、どこまでもお供させていただきます」
「違うよシュテル。ダークちゃんと私たちが目指すのは、奈落の底じゃなくて天上の頂のほうなんだよ」
天を指差しながら、アリシアが笑う。つられるように、シュテルも、ヴィヴィオも、そしてダークネスも笑みを溢す。
【……!(ぴこぴこ)】
『ウム、我らも全力を以て親方様のサポートを務めますぞ』
【……!!(コクコク)】
やってやるぜ! とふわふわの拳をぐぐっと突き上げる【クリス】。
混乱が未だ収まらないミッドにあって、この場所だけは和気藹々とした朗らかな空気で満たされていた。
花梨さん、刹那君への叱咤が少々きついですけど、早く立ち直ってほしいと願っているからです。
そして露わになったリヒト嬢&ルーちゃんが保有していた桃姫的属性。
本作では数少ない浚われヒロインとして盛り上げてくれることを期待します。 ← コラ
恒例の用語紹介はさわりだけで済ませときます。
とりあえず、今公開できる情報はこんな感じで。
・三つ首の黄金龍
ダークネスにつき従う守護龍。
エクスワイバリオンが『変幻』したもう一つの姿にして、最後の切り札。
真の力を発動するためには、現在のダークネスですら力不足なほど。
・『
ルビーが生み出した”プロトA”シリーズの最終形にして完成体。その名が示す通り、人型のドラゴンといった外見をしており、ルビーが直接乗り込んで機動させる。
動力源に”闇の書”であるリインフォース・ドライを利用することで、無限に等しい魔力を動力にする。正式名称:対《新生黄金神》最終決戦用機械神兵装
・”
ヴィヴィオのデバイス【クリス】こと【セイクリッドハート】に搭載されている武具。
両腕を覆う深紅の手甲で、赤き竜のソレに類似した特殊能力を内包しており、異世界の白き竜との修行で真の能力を開花させた。
・”
ヴィレオ用にルビーが開発した人造神滅具とも呼べるデバイス。
色々とかき集めていた古代ベルカの遺産やヴィヴィオの戦闘データを解析して作りだした『聖王』の翼。六課の戦いでは相手の全体力を消失させる『Full Divide』を使用したように、半減の精度を自在にコントロールでき、抵抗していた花梨たちを一瞬で無効化して見せた。