魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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おひさしぶりな土曜更新。
ダークさんvsせっちゃん&カエデ君+αの後半戦でございます。

最近、『神造遊戯』よりも『えっち』の執筆を優先してたので遅くなっちゃいました。
……ま、あっちもネタ詰め込みすぎてまとめきれてないから投稿できないんですがねっ! ← オイ



戦慄

五十人ほどの信者を招き入れる事を想定されて建てられた礼拝堂。

普段は崇め奉る神である聖王への祈りを信者たちが捧げるために存在する清廉な場所。

だがしかし、今、穢れ無き白の領域たるその場所は、鮮血の赤と憤怒の激情が生み出す黒という似つかわしくない色彩で染まりきっていた。

行われるのは演舞。

それも、観客を沸かせるために演じられるものではなく、ただ“敵”の命を奪い去るためだけに存在する殺人演舞だった。

主役は返り血に染まってさらに深みを増した黒を纏いし黄金の龍神。

蒼炎を纏いし英雄と忠節を誓った“影”、復讐と使命感に駆られる騎士に囲まれ、刃と敵意を向けられながら暴れ回っていた。

その身を包む金色の鎧を無効化され、“魔法力(マナ)”という無尽蔵のエネルギーを取り込むことを封じられた。

まさに今のダークネスは手負いの獅子。人外じみた身体能力にさえ注意を払えば、保有魔力量が平均的な魔導師程度でしかない彼を打ち取ることは、この場にいる手練れたちにしてみればさほど難しくない……はずだった。

 

「くっそ! どうして、こんな……! 当たれえっ!」

 

激情を込めて正眼の構えから放たれる突きが、最短距離で標的の心臓を狙う。

左右からの挟撃を両手で撃墜した直後故に無防備に晒された胴体への一撃は、完全なタイミングでダークネスへ迫る。

 

「焦りすぎだ」

 

だが、攻撃の気配……剣気とでも呼ぶべき気配を察知していたダークネスに焦りなど存在しない。

切っ先が到着するよりも早く足を振り上げ、剣を掴む指ごと粉砕し、迎撃する。

グチャリ、と生々しい音が粉砕音と共に辺りに響き、僅かに遅れて騎士の絶叫が木霊する。

背を反らし、天を仰ぎながら砕かれた腕を抑える隙だらけの騎士に、追撃として放たれる回し蹴り。

靴の爪先が片目の上に直撃し、頬骨を押し潰す。視界を遮る程の鮮血を撒き散らすその姿からして、即死したのは間違いないだろう。

 

「テンッメェえええええっ!!」

 

顔半分を潰されて崩れ落ちる仲間の姿に理性が吹き飛んだのだろう。シスター服の上から軽量鎧風のバリアジャケットを装着した女性が咆哮を上げながら片腕をダークネスへと突きつける。瞬間、彼女の指先に緑色に発光する明る過ぎる光が集束し、光の閃光となって射出された。

音速に匹敵するのではないかと言う速度を叩き出す一条の光。眉間を狙って放たれたそれを首を捻ることで紙一重の回避を成功させたダークネスが、身体を戻す勢いを利用して、近くの騎士から奪い取った剣を投擲。

大気を斬り裂きながら迫る鋼鉄の塊を前に、シスターは歪に口端を吊り上げ、まるであざ笑うかのような狂笑を上げた。

 

「ギャハハハハァ! そんなモン、アタシに効くわきゃぁ……ねぇだろォが!」

 

両腕を翼のように左右へ開き、先ほどと同じ光球を複数個生成、腕を振り下ろすと同時に一斉射出して飛翔するデバイスを一気に消滅して見せた。

さらに今度は一発限りで終わりなどではなく、生成させた光球を維持したまま、速射砲のような勢いで閃光を放ち続ける。

視界を埋め尽くすほどの明る過ぎる光を体捌きだけで平然と(・・・)回避しつつ分析していたダークネスが、ふと巻き添えを受ける騎士の傷跡に目を止めた。

 

(揺らぎの無い綺麗に整った円形の攻撃痕。外周部には高温の焼き鏝を押し当てられたような焦げ跡……超高温の熱線を集束している? それとも光学レーザーの類か?)

 

分析を続けながら、戦功の合間を縫って襲いかかってくる手練れを捌いていくが遠距離攻撃を使えるのはやたらと態度の悪いシスターだけではない。

先程から。建物の外でダークネスの動きが止まる瞬間を待ち続けている狙撃主(スナイパー)もいる以上、さっさとかたずけるのが善。

ならば……、

 

「久々に試してみるか……よっ、と」

「なっ!? き、貴様なにを――」

 

懐まで踏み込んできた熟練の騎士らしき男――先ほど部隊を鼓舞していた指揮官らしき人物――の首を掴み上げ、閃光の直撃コースに入るようにワザと足を止める。

すると、目論見通り隙を見つけたとばかりに笑みを深くしたシスターから、怒濤の勢いで閃光が迸った。

迫りくる光の大軍を正面から迎え撃つように体勢を立て直し、拘束した騎士団長を光の前に突きだす。

ダークネスの行動に既視感を覚えた雪菜とカエデが彼の狙いに気づいて顔色が一気に青ざめる。

騎士団長を盾にしてワザと攻撃を受けることで、彼女の攻撃の正体と威力を間近で観察しようというダークネスの目論見を看破したからだ。

これに慌てたのは盾……いや、生贄にされた騎士団長だ。

だが、頭では理解できてもそれを実行できるほど時間は残されていなかった。

「やめろ!」 と彼が叫ぶよりも早く、眩い閃光が幾重にも重なって騎士団長自慢の甲冑へと突き刺さった。

背中側を光に曝される形になった騎士団長は、甲冑の防御限界を軽く超える威力を内包された閃光に耐えることが出来るはずも無く、瞬く間に蜂の巣にされていく。

悲鳴を上げることも出来ないまま、初劇の着弾からコンマ数秒後に放たれた光で頭部を消滅させられ、事切れることとなった。

間近で直視した人の死に顔になど一切気を止めないダークネスは、熱したバターでチーズを斬り裂くかのように人体を消滅させていく光の正体を察し、納得の笑みを浮かべる。

公開意見討論会の会場でスバルとティアナを圧倒するほどの力を見せたシスターが持つ異能、その正体とは……

 

(【原子崩し(メルトダウナー)】か。なるほど、それでこの破壊力と言う訳だな)

 

物質を構築する原子を崩壊させることで対象を細胞レベルで分解・消滅させる能力。

なるほど、破壊力と殺傷能力の高さという観点で見れば確かに極めて有能な能力者のようだ。彼女の傲慢で荒々しい気質も、実力が何よりものを言う戦闘部隊の中で大きな権限を与えられた事だろう。だが……、

 

「“力”は所詮“力”、それを最強にするか最弱にするかは使い手の腕次第。与えられた力を振り回すだけの小娘が相手なら、どうとでもやり様はあるか」

「ああん? テメ、今なんつった?」

「聴こえなかったか? それとも理解できる知能が備わっていないのか……。やれやれ、ならもう一度言ってやる。――ドラクエで言うところの○ラキー程度の小物がデカい顔晒すな」

 

ビキリ、とシスターのコメカミに血管が浮かぶ。

奥歯が砕け散らんほどに噛みしめた口元から溢れ出す激怒の呟き。

言葉にすることもはばかられる単語を羅列する彼女から、周囲の仲間である騎士たちが一斉に距離を開ける。

仲間殺し(フレンドリーファイア)を行ったと言うのに後悔の素振りを微塵も見せず、自分(・・)が侮辱されたことにだけ(・・)激情を顕わにする姿に、『焔き薙いて彩る蒼き勝利の剣(エンブレイズレーヴァテイン)』の発動で消耗した魔力の回復に努めていた雪菜が舌打ちを零す。

仲間を大切に想わない彼女の在り様は、どうにも納得できないらしい。

 

「死・ネ!」

 

指先に集束させた【原子崩し(メルトダウナー)】の光に魔力を注ぎ込み、先ほどまでとは比べ物にならないほど巨大な光球を形成する。

ビリビリと周囲を圧倒する威圧感を放つソレの狙いをダークネスに定め、彼の後方にいる仲間たちのことなど微塵も考慮せず、感情そのままに力を解き放つ。

撃ち出された閃光は極太のレーザーの如き威容を見せ、周囲に存在するあらゆる原子を崩壊させながら標的に向かって突き進む。

 

「ほぉ、これはすごいもんだ。極めればどれほどの兵器になったんだろうな」

 

襲いかかる死の恐怖を前にしても尚、ダークネスに動揺は見られない。

龍神の力を封じられている以上、今までのように強引な力技で防ぐことなど出来はしない。そんなことは他ならぬ本人が一番理解できている筈だ。だというのに、

 

――なんであんな落ち着いていられる!? 死ぬつもりか!?

 

敵である雪菜が思わず叫びそうになってしまうほどに、今のダークネスは絶体絶命。

どれほど強力な肉体を有していたとしても、あの閃光を正面から受け止めることなど出来るはずがない……!

 

「――『雷光天承(ライトニングクラウド)』」

 

だが、

 

「魔力粒子を電気へと変換。続いて肉体表層部に流動電磁帯を形成」

 

規格外の怪物は、

 

「曲がって吹っ飛べ」

 

英雄の予測を容易く超えてみせた……!

 

「な……っ!?」

 

絶句。必殺を疑わなかったシスターは、己が全力の一撃を片手で防いで見せた怪物にようやく恐怖を抱いた。

触れただけであらゆる原子を崩壊させる彼女の能力は、それが魔力障壁であっても容易く分解・消滅させることが出来たはずだ。

しかし、ダークネスが何事か呟いた瞬間、突如として彼の全身が雷のオーラを纏ったかと思えば、無造作に腕を振るって【原子崩し(メルトダウナー)】を横から殴り飛ばしたのだ。

 

「ありえねぇ……! アタシの能力は完璧の筈だろォ!?」

「この世に完璧なんてものは存在しない。最強(オレ)だって隙をつかれてこのザマなんだからな」

 

整った美貌を驚愕で歪ませるシスターに持ち直す暇など与えないとばかりに、ダークネスが攻勢に移る。

地を蹴り、かなりの強度を誇るはずの床板を粉砕しながら一気に加速、瞬きの間に距離を詰めると、雷光を纏った拳を引き絞り、風穴を開けんばかりの勢いで撃ち放つ。

 

「舐めてんじゃね――」

「貴様がな」

 

慌てて【原子崩し(メルトダウナー)】を再構築させ――今度は先程よりも小さいテニスボールサイズの光球に留めることで数を増やし、それらを並べることで盾のように展開した――、迫りくる拳を迎え打たんとする。

だが、拳を振り抜く最中、ダークネスの全身に稲光が奔り拳が一気に加速、構築が不十分だった【原子崩し(メルトダウナー)】の壁を正面から貫通・粉砕して見せた。

使い手であるシスターが【原子崩し(メルトダウナー)】の性質をもっと詳しく知ろうとすれば、また別の可能性もあったかもしれない。

原子を操作する彼女の能力、それは電子操作能力を有する存在ならば電子の動きを操作することで干渉することが可能なのだ。

自らを雷と半同化させる『雷光天承(ライトニングクラウド)』を発動時のダークネスはまさに雷の化身。つまり、彼女能力に外部から干渉し、軌道を変えることも容易いことなのだ。

打ち砕かれ、霧散していく光の燐光を呆然と眺めながら、力に溺れてしまったシスターはその短い生涯を終えることとなった。

雷を纏った拳撃によって肉体の大半を消し飛ばされたシスターの亡骸を視界の端に留めながら、ダークネスは自分の推論の証明が出来た事に満足げな笑みを浮かべる。ぶっつけ本番で試してみたが、存外うまくいくものらしい。

ダークネスが発動した“能力”『雷光天承(ライトニングクラウド)』、これは彼が倒し、“因子《ジーン》”を吸収した“Ⅴ”固有の“能力”だった。

しかし、深層世界で体内に吸収した“因子(ジーン)”と同化していた魂の欠片……即ち、バサラ・ストレイターの記憶を吸収することで“能力”の詳細を理解することができるようになった。

因子(ジーン)”を奪うだけでは自身の戦闘能力を強化するにとどまる。しかし、倒れていった彼らの事をより深く知ろうとすることで、彼らが生み出し、磨き上げた“能力”を自身の力として扱うことも可能となるのだ。

なまじ、強すぎる自己の力を持っていたが故に、気づかなかった盲点だった。

 

「……っ!」

「おっと」

 

鼓膜に届く風切り音。ひょい、と飛び退いた瞬間、首のあった空間を薙ぎ払うように振るわれた刃が煌めく。

視線を向ければ、魔力を回復させた雪菜と、圧倒的な暴力に曝されて完全に尻込みしてしまっている騎士たちを庇うように立つカエデの姿があった。

敵同士になったんじゃなかったか? と疑問に思うも一瞬のこと、ダークネスの視界から二人の姿が掻き消える。

 

――姿隠しの宝具……? いや、これは!

 

迫る剣気を感じとり、回避行動に移る。瞬間、蒼炎を纏った刀身が鼻先をかすめるように振り抜かれた。

雪菜の本当の宝具であるらしい炎剣は重量武器に属する“大剣”だ。日本刀のように対象を『斬り裂く』事よりも、その重量を以て骨肉ごと『叩き斬る』事を念頭に置かれているといってよいだろう。

一対多数の戦場を生き抜いた雪菜が、一振りで複数の敵を屠れるこの武器を相棒に選んだことは不思議ではない。

だが、普段の彼の戦闘スタイルは素早い身のこなしと正確な剣戟を最大限に利用した舞踏のように華麗なもの。

あのような重量兵器では、その長所を殺してしまうのではないかと疑問を浮かべたダークネスであったが、それは要らぬお世話であったと今まさに痛感させられた。

変わらないのだ。

いや、それどころかむしろ、かつて相対した時にくらべても数段剣閃の速さが増しているといってもいい。

かつての仲間との決着をつけられた事による精神的な作用かとも考えたが、それだけでは説明がつかない。なにせ武器を振るうに必要な筋肉はそう簡単に増加しないのだから。しかし、

 

「この威圧感(プレッシャー)、“魔法力(マナ)”による身体強化だけではない……!?」

 

まともに打ち合えばただでは済まない斬撃を紙一重で避わし、疑問に答えを出すための探り手として足元に転がっていた槍型デバイスを爪先で蹴り上げると、石突きの部分に掌底を叩き込む。

人外の斥力で撃ち放たれた投槍は人の身体を容易く打ち貫く魔弾となって雪菜へと迫る。

剣を振り抜き、身体が泳いだ瞬間を狙って放たれた返して手は、しかし雪菜に触れることも無く塵芥へと成り下がった。

まるで映像の巻き戻しのような勢いで返された刃が、一刀のもとに切り捨てたからだ。

 

「刀身を包み込む炎に方向性を与えることで噴射機のような役割を果たさせたのか。なるほど、確かにその方法なら振り抜いた刃を強引に逆方向へ跳ね上げることも可能と言う訳だ」

 

重力や慣性の法則を捻じ曲げたかのような動きを観察することで絡繰りを見抜いたダークネスが感嘆の声を零す。

斬撃の速度で揺らめいた火の粉が舞い散った先、蒼い衣で隠されていた剣の長さは、デバイス出会った頃のそれとほぼ同じもの。

つまり、あの目に見える大剣の刀身部分の大半が、練り上げられた炎を物質化させて構築した魔力刃だということだ。

本体が片手剣サイズの質量しか持たないのであれば、あのように軽やかな斬撃を実現できるのも頷ける。

しかも雪菜は、あの巨大な魔力刃を斬撃を繰り出す際に速度と威力を向上させる加速装置としても利用しているようだ。

斬撃を放つ際に刀身の物質化を峰の部分限定でひも解き、噴射装置として剣速を上乗せしている。逆に刃を返す時は、両刃剣の特性を生かして刃の部分に炎を炸裂、切り返し速度の向上を図っている。

その技術はまさに慣性制御。運動している物体がそれを維持しようとする現象を、炎が生み出す爆発力を変幻自在に操作することで軌道を完璧に制御し、ダークネス一瞬が姿を見失ってしまう無拍子のように突発的な動きや、常識を超えた反応を行うことができるということか。

見かけはあんなにも巨大な武器を振り回すのだから相当の負担が本人にも課せられている筈だが、見た感じでは平常そのものだ。

魔力で構成されているとは言えど、物質化している以上、相当レベルの重量を感じている筈なのだが……。

ダークネスは知らない事だが、雪菜はリンカーコアが生成する魔力、“魔法力(マナ)”、そして魔術回路の生成する第三のエネルギーを内包している。魔導師であり魔術師でもある雪菜だからこそ可能な個別の強化魔法……魔術回路が生成した魔力で肉体を極限まで強化し、“魔法力(マナ)”で英雄騎として顕現した肉体の維持に努め、リンカーコアの魔力で炎の魔法を行使する。これが雪菜がこの世界で産み出した新たな戦闘スタイル、その完成系の正体だ。

 

「炎で加速した斬撃。わかってても止められねぇだろ!」

「ああ、たいしたものだ。単純な発想が故に対処が難しい。しかも――」

 

会話の合間にも攻撃の応酬を続けていく最中、ジャララッ! と金属が擦れる様な音と共に無数の鎖がダークネスを絡め取ろうと襲いかかってきた。

これこそ、かつて雪菜を苦しめた拘束捕縛宝具『束縛せし天逆の縛鎖(ウトガルデロック)』。

神縛りの天鎖とも呼ばれるそれは、神性を有する存在であればあるほどその効力を増す性質を持っていた。それを悟っているのだろう、雪菜の猛撃に曝されながらも、鎖を操るカエデへ最大限の警戒を抱いている。

故に、反撃らしい反撃も繰り出せないダークネスが防戦一投になるのはある意味当然の結果だった。

しかし、戦局的に優位であるはずの雪菜とカエデの顔に余裕は微塵も存在しない。それどころかむしろ、追いつめられているのは自分たちの方だと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「くそっ! 当たれば決まるんだ……! だってのに」

「ちょこまかちょこまかと逃げ回りやがって……っ!」

「ほれほれ、どうした小僧共。動きが単調になってきていないか?」

「黙れ!」

 

激情が籠められた斬撃を容易く交わされ、雪菜たちの胸に込み上げてきた焦りの感情がどんどんどの色を濃い物へと変えていく。

 

(この野郎……回避しながら俺たちの動きを観察してやがる!?)

 

バリアジャケットも纏っていない、『神成るモノ』としての力も封じられている。

現に、僅かに放たれる反撃はどれも物理攻撃……足元や身近に転がっている瓦礫やデバイスの欠片を投げつけるばかりで魔力を用いた攻撃は一切含まれていない。先ほどのシスターとの戦いで見せた雷を操る“能力”の発動で魔力を使い果たしたのかもしれない。

だというのに、この背筋に走る悪寒はいったいどういうことなのか!?

二人は気付いてない。復讐に滾る騎士たちの心をわざと(・・・)暴力で砕き、退場させたことの意味を。ダークネスの本当の目的が、カリムの命などではなく(・・・・・・)、雪菜との戦いの中で自分の限界を超えることなどとは。

そもそも、今回の戦争におけるダークネスの本当の標的はルビーであり、雪菜やカリム、宗助などはオマケに過ぎない。もちろん、“因子(ジーン)”を多く所有しておくのは後々の事を考えると非常に魅力的だ。しかし、力を上乗せしなくても強くなれることを知った。これまでに倒してきた敵の“能力”を再現することが可能となった今、強敵が持つ技術を学び取る方が、有意義だと察したのだ。

きちんと剣体術を学び、達人レベルへと昇華させた雪菜の『戦闘術』。

他人の力(・・・・)である宝具を自在に操るカエデの『応用力』。

戦闘技法は学び取って都合が悪くなることはない。

故に今は、見に徹しつつ、自分に足りない『技術』を学び取っている。

怪物が更なる進化を果たそうと目論んでいる。雪菜の本能が警笛を鳴らし、眼前の脅威を全力で排除せよと訴える。

突きだした手のひらの中で膨れ上がった炎を破裂させた反動で後方へと跳躍し、静かに呼吸を整える。

横を見やれば、両腕に鎖を絡みつかせたカエデが並び立っているのが見えた。

次がこの戦いの分岐点となることを誰もが理解し、己が全力を注ぎこまんと力を、魔力を練り上げていく。

両腕に炎のように揺らめく魔力を纏わせたダークネスを見据えつつ、雪菜は両手で握っていた炎剣から片手を離して、拳を軽く握る。

魔術回路が生成した魔力の大半を左腕に集中させ、これから放つ奥義の準備を整える。手のひらに集束するのはうっすらと霞む様な淡い輝きを放つ不可思議なエネルギー。まじかでそれを確認することが出来たカエデでは、それが何なのか全くわからない不思議な現象が、手のひらと言う小さな領域で生まれつつあった。

 

「……いくぞ」

 

宣言と共に、ダークネスが駆ける。

いや、それはもはや『駆ける』などと言う生易しい物ではなかった。

一足ごとに床石を粉砕し、空間ごと斬り裂くような勢いで黄金(・・)の影が疾走する。

雪菜とカエデの目には、迫りくるダークネスの姿がノイズが奔ったかのようにブレて見えていた。

重なり合っては消える幻のような姿は、《神世黄金神》そのもの……だが、細部が異なっているように思える。

鎧は重厚さを増し、両肩の装甲は一回り大きく変容している。真紅に輝いていた竜頭型の肩甲は丸みを帯びて蒼く煌めいているように見える。巨大な竜翼は先鋭化し、部分的に展開された装甲から淡い燐光を舞い散らしている。

煌めく紅の輝きと相まって、まるで燃え盛る紅蓮の炎が顕現したかのよう。

間違いない。あれは彼が新たな進化、新たなカタチとして顕現しようとしている証。希少能力【幻想殺し(イマジンブレイカ―)】によって施された一時的な封印を喰い破り、覚醒しようとしているのに他ならない。

完全な顕現を果たせていないのは【幻想殺し(イマジンブレイカ―)】で受けたダメージと言うよりも、ダークネス自身が覚醒手前で足踏みしているためだろう。

だが、力の大半を封じられた状態で雪菜やカエデ、教会の騎士と死闘を繰り広げることで、自らの限界を超えようとしているのは間違いない。あと一歩、ほんの些細な切っ掛けがあれば、ダークネスはさらなる高みへ至ってしまうのだと、雪菜は本能で察する。

一方で、奇妙な感覚だとカエデは訝しんでいた。黄金の存在とダークネスが重なるたびに、現在曝されている圧倒されるかのような威圧感が消え去っているように感じたからだ。代わりに感じたのは、そこに在るのが当然とも思える清廉としたオーラ。

穢れの無い清流の如きそれは、まるで怖さを感じない。意味が解らず、つい首を傾げてしまいそうになるカエデとはうって変わり、その(・・)意味を知る雪菜は驚愕と戦慄で目を見開いていた。恐ろしいまでに清浄なオーラ。

それが何を意味するのかを知識として知っているから。ソレを纏う存在と邂逅した記憶はない。だが、世界と契約した際に与えられた知識の中に、それはあった。“世界”と言う枠組みを超えた先に存在する超常を超えた者たち。

このバケモノは、人間では決してたどり着くことのできない領域に在る『彼ら』と肩を並べようと言うのか。

 

「……それがどうした!」

 

雪菜が吼えた。

そんなこと知ったことか。

コイツはここで、俺たち(・・・)が倒して見せると、闘志を奮い立たせて。

雪菜の間合いへと踏み込んで、ダークネスの両腕が交差する様に振るわれる。

深遠なる黒と煌めく蒼を内包した黄金の魔剣(ほのお)が、英雄騎を屠らんと迫り来る。

それを防ごうとしたカエデの放った鎖が、黄金の魔剣を縛り上げようとする。

だが、足りない。圧倒的に……力が足りなかった。

両腕を正確に縛り上げた神縛りの鎖は瞬きも終わらぬ内に蒸発、光沢を放つ水滴へとなり果てた。

神を縛ろうとしたカエデの狙いを、人間として生成した魔力のみで具現した魔剣を以て一蹴したダークネスの義眼が、愚かな“影”を射抜く。

そこに移る光は、まるで彼の事を憐れんでいるかのよう。蝋燭のように儚い光に映し落とされた小さな“影”が最強たる己へ牙を剝いたことを、憐れんでいるとでも言うのだろうか。

それがダークネス自身の意志なのか、それとも彼と同化しているはずの義眼(デバイス)に備わっていたAI人格によるものなのかはわからない。だが、どちらにせよ結果は変わらなかっただろう。何故ならば……

 

「死ね」

 

こんなに容易く刈り取られてしまう位、カエデ・リンドウという存在は儚いものでしかなかったのだから――。

ワンステップをとって進路を変化させたダークネスの片腕が、カエデの胴体へ突き刺さる。

数多の敵の血肉を啜って鍛え上げられた魔剣は、耐熱機能の向上と共に防御力を強化していた筈のバリアジャケットを紙のように貫通してみせた。

カエデの口から鮮血が吹き出し、聖堂に充満する鉄の匂いをさらに濃い物へと変えていく。

腹に深々と突き刺さる腕を見下ろしながら、カエデは半ば予感していた己の末路に事情じみた笑いを零す。

仲間を裏切り、“影”として与えられた役割も果たすことが出来なかった。

こんな中途半端な自分には相応しい末路だと、自分で自分を嘲笑う。

だが、唯で終わってやるような殊勝な精神などしていない!

己の命はくれてやる。

その代わりに――

 

「テメェの命は貰ってくぞ! やれ! セツナァアアアアアアッ!!」

 

残されたすべての力を注ぎ込んで、腹を貫通したダークネスの腕を掴んで拘束する。ダークネスが腕を引き抜こうと動く度に内臓を抉られ、肉骨をグタグチャにされるかのような激痛がカエデに襲いかかる。だが、諦めない。血泡を吐き出し、全身の筋肉が痙攣を起こしても尚、カエデは足掻き続ける。

失われていく血と体温に比例するかのように、近づいてくる死神の気配がハッキリと自覚できてしまう。このまま足掻いたところで、死は免れない。それは変えようのない絶対的な現実だ。だが、それでも……希望を託す事は出来る!

 

「ッ! ああ……! あばよ、悪友! ッ雄ォオオオオオオオオ!!」

 

剣を交叉することでやっと理解できた友の本心……『なにがあってもカリム(あるじ)を護りたい』という願いを託された英雄騎神の剣が宙を薙ぐ。

一閃される断罪の炎剣。轟々と燃え盛る神炎がカタチを成した一撃が、ダークネスへ迫る。

だが、命の炎を燃やすカエデの(かくご)をへし折ることは容易い事でないと即断したダークネスの無事な方の……未だ健在している魔剣のもうひと振りがそれを迎え撃つ。

炎剣を構築していた蒼炎と黄金の炎がせめぎ合い、互いの放出する熱量に耐えきれずに相殺していく。

均衡は一瞬、はじけ飛ぶように爆散する二つの炎。爆風と衝撃に吹き飛ばされそうになる雪菜がたたらを踏むのと同時に、炎を突き破って伸ばされたダークネスの手が本来の姿を露わにした刀身を掴み上げた。

 

「砕け散れ……!」

 

軋む剣の意志たちが上げる悲鳴に、回線(パス)の通っている雪菜の魔術回路が激痛を生み出す。

鋭い痛みに込み合えてきた悲鳴を呑み込んで、雪菜の腕がダークネスのむき出しとなった腹部へ突き刺さる。

だが、軽い。蒼炎の大剣の顕現と維持にほとんどの魔力を注ぎ込んでいた雪菜。

いかに卓越した才能を持つ彼の拳であっても、半ば実体化しつつあるノイズまじりの黄金の鎧を撃ち砕くことは叶わなかった。

それでも。雪菜の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

 

「……? 何を笑――ッ、グ……がぁっ!?」

 

驚愕の声と鮮血が吐き出される。腕から力が抜け、垂れ下がる。事切れたらしいカエデと雪菜の剣が指の先をすり抜けていく。

膝が折れそうになるのを奥歯を噛み締めて堪えながら、ダークネスは己に起こった現象の解析に思考を回転させる。痛みの中心は雪菜の拳を受けた腹……の内側(・・)

身体の内部を掻き回されたかのような激痛は、通常の打撃による症状ではない。

 

「貴様……! いったい何を……ッ!?」

 

拘束が緩んだ隙にカエデの亡骸を抱え上げて飛びさがった雪菜を睨む。奇跡的に原型をとどめていた長椅子に悪友を寝かせると、剣を背中に納めながらゆっくりと立ち上がり、構えを取る雪菜が不敵に笑う。

 

「人呼んで……咸卦浸透掌!」

 

『咸卦浸透掌』

 

外部から魔力素を取り込み変換することで生み出される“魔力”と肉体の内側で生成するエネルギー“気”。

似て非なる二つのエネルギーは似通った性質を持つが故に水と油のように相反する特製がある。互いの長所を損なわぬまま両立させることが秘奥のひとつであると言われるくらい、そのコントロールには暴発と言う危険が伴う。雪菜はこの点に着目した。

もし相手へ気と魔力を同時に打ち込む事が出来たとしたら?

もし、相手が力の制御が出来なかったとしたら、体内に打ち込まれた二つのエネルギーは一体どうなってしまうのだろうか。

答えは明確……暴発だ。発頸の要領で気と魔力を相手に浸透させることによって、敵内部で強制的に反作用を起こさせ、内部から肉体を破壊する。直撃さえすればいかなる防御も意味を成さない、対処不可能の完殺奥義。

いかに強靭な肉体を持つダークネスであろうとも、内臓の強度までが屈強と言う訳ではなかった。ほぼ完全な状態で打ち込まれた一撃は、ダークネスの体内を蹂躙し、体内器官の幾つかを再起不能直前になるまで傷つけるに至っていた。鮮血を吐き出し、とうとう片膝が床に着く。呼吸のたびに血潮が溢れ出し、激痛で意識が遠のきそうになる。

なのに――

 

「直撃したはずだ……! なのに、なんで倒れやがらない!?」

 

倒れない。唯人であれば……否、生物であるのなら間違いなく意識を飛ばしてしまうほどの痛みに襲われていると言うのに、瞳に宿る戦意は静まるどころか轟々と一層熱く燃え盛り、真紅に染まった口元は弧を描く。胸中に渦巻くのは愉悦まじりの歓喜。

肩が震える。命を失うかもしれないと言う恐怖のため……ではない。命をかけた闘争の中で、己と言う存在が成長しているという実感を感じたが故の喜びによるものだった。

 

「くっ、くくく……」

「何を笑ってやがる?」

「いや、なに……うまく言葉に出来ない不思議な気分なんだ。『あいつら』と一緒にいる時と近い感覚……これはそう、満足……満足というやつか」

 

殺気をぶつけてくる相手との死闘を楽しむ様な精神を、以前のダークネスは理解できなかった。

『生きたい』という願いを精神の支柱として定めた彼にとって、闘争とは即ち、脅威へ至るかもしれない害虫を駆除する行為でしかなかったのだから。

だが、今ならばそれは違うと言える。『生きる』と言う行為は、今を楽しむと言う事。

湧き上がる愉悦の感情、その理由に思いたり納得がいった。己は……ダークネスは今、雪菜との戦いを、絶体絶命の危機を楽しんでいるのだ。かつて戦ったNo.“0”(白夜)の時には感じなかったふが、どうやら己と言う存在は……命がけの死闘を心のどこかで望んでいたらしい。

 

「戦いを楽しみ、それでいて勝利を渇望する、これもまた生きようとする意志のひとつ。……ようやく分かった。自分に足りない者が何なのかを」

 

他者を排除してかけがいの無い宝を護る。

世界の大半を有象無象と断じ、認識の外側へと追いやる。そんな今までの思考はとても閉鎖的な考え方、変化を望めない停滞的な思想だ。

しかし、かつてない生命の危機に直面しながらもワクワクとした高揚感を抱くことを知った。

己の命を失うかもしれないという禁忌の中で見出した新たな感情。

それはかつて、黙示録の龍帝と相対した時にも感じたモノ。

自ら危険に飛び込まず、事務的に脅威を排除するような生き方では足りなかったのだ。

死中に飛び込む勇気と(しょうり)を掴み取る気概(かくご)を抱く『決断』を降す。そ

れこそが己に欠けていた最後の欠片。次の領域へ進化するために必要だった、最後の鍵。

己自身を知ったことによる認識の拡大が、自己で完結していたダークネスの在り様を変えていく。

ノイズのように現れては消えていたもうひとつの姿……新たなる黄金神の影がダークネスと重なり合っていく。

あと少し、あと少しで封印がはじけ飛ぶ。

その時こそが、《新世黄金神》再世の刻――……!

 

「何が何だかわからねぇが、黙って待っていてやるほどお人よしじゃねぇんだよ、俺は!」

 

剣士として、ひとりの武人として、圧倒的強者に挑むのは苦でなく、むしろ誉れだ。

だが、そんな感情はこの際、脇に置いておく。個人的な趣向の優先を許される状況でもない。

ここで奴を仕留められなかったら、最愛の彼女(ティア)にまで危害が及ぶ可能性も否定できないのだ。

 

「その意見には賛同する。ま、たかが腹の中をぐちゃぐちゃにかき回されて時々息が出来なくなる程度の傷で止まる程、柔な作りはしてないんだが」

 

言葉通り、ダメージは抜けきっていないのだろう。ダークネスの動きにキレが無いように思える。

だが、それでもようやく達人レベル(・・・・・・・・・)にまでバケモノぶりが収まっただけにすぎず、少しでも気を弛めれば、頬を掠っていく剛腕によって頭部を瞑れたトマトにされることだろう。

 

「呆れるほどの規格外にもいい加減慣れたもんだな」

 

幾度目かの交叉を経て、ぶつかり合う拳。衝撃でノイズが奔るかのように輪郭がぼやける。

幻影のようにダークネスと重なる《新世黄金神》の姿が、だんだんと明確になっていく。

(俺との戦いでレベルアップしているってワケね……。まったく、嫌になるぜ)

溜息を吐き、燃え盛る闘志を鎮めていく。時間をかけることは逆効果、敵を成長させる要素にしかならないらしい。

ならば……、

 

「“Ⅰ”! 次の一撃で決着(ケリ)をつけようぜ!」

 

成長する要因を排除して、全力を以て存在ごと葬り去るのみ!

再び剣を引き抜いた雪菜が身体を捻り、魔力を練り上げていく。

全身から湧き立つ気迫。瞳に映り込む覚悟の炎を感じとり、ダークネスもまた闘気を高めていく。

溢れ出すのは膨大なる“魔法力(マナ)”。使い手の魂の震えに呼応して、最もふさわしい姿へと変化していく。

雪菜の身を包むの、信念を賭した覚悟に応えるかのように輝く蒼炎。溢れる魔力と混ざり合い、必勝の想いを乗せた刃に蒼き“魔法力(マナ)”が収束していく。集束された魔力が刀身に絡みつき、先ほどと同じ……いや、それ以上に巨大な蒼炎の剣を顕現させた。

それは破邪を司る蒼炎の極致。七つの世界を焼き尽くす原初にして最強の魔法!

 

「はぁあああああああっ!!」

 

吹き荒れる魔力粒子(エーテル)が雪菜を中心に渦を巻き、聖堂の天井を突き破って天空へと立ち昇る。

暴風もかくやという魔力の奔流に、僅かに残っていた騎士の生き残りが我先に逃げ出すのを余所に、ダークネスの双眸が雪菜を捉えた。

 

「神代魔法の打ち合いか……。ふ、面白い(・・・)

 

らしくないと思いつつも堪えきれない笑みを浮かべたダークネスが身体を捻る。

足を開いて重心を下げ、大切な人たちと共に生きるという光り輝く想い(おうごん)と、そのためならば全てを灰燼と化すことも厭わぬ破壊衝動(しっこく)を映しだした“魔法力(マナ)”が手のひらに集束される。

守護と破壊、相反する想いが具現化した魔力を束ね、腰だめに構えた手の中で万物を打ち砕く破壊の激流へと練り上げていく。

雪菜に支配されるかのように燦然と輝く蒼炎の空間にあって、炎とは異なった、宝石のように煌めく粒子が新たなステージへと至った龍神の呼びかけに答え、世界を呑み干す神蛇を降誕させる!

紅蓮を超えた蒼き神炎をひとつに束ねて顕現せしは英雄騎神の分身。遍く悪を断罪し、信じる正義を愚直に貫き通した男が至った究極なる魔法(つるぎ)。心と想いを重ね合わせる極地……心意合一を果たした彼ら(・・)が見据えるのは、ただ――勝利のみ!

迎え撃つは、神と成った英雄すらも喰らい、破界せんとする蒼金の神蛇。光を放つ蒼き鱗に身を包み、我こそが真なる蒼、想いの結晶を司りし存在だと宣言するかのように牙を剝く。想いを共にする宝石の種たちの鼓動を宿した神の蛇が、主の()を屠って見せるとばかりに咆哮を上げる……!

 

「『焔き薙いで彩る(エンブレイズ)――」

「『世界蛇が願いし(オーバーロード)――」

 

最早両者の間に世界を気に掛ける余裕など、完全に失われていた。

暁の結界は未発動。ならば、世界を灰燼と化す程の神代魔法のぶつかり合いが世界にどれほどの影響を与えるのか、言わずとも理解できるだろう。

かつてない“死”に直面した『世界』が悲鳴をあげる中、眼前の敵を打倒することにのみ意識を集中させた神の雛たちが、極大なる破壊のチカラを解き放たんとした――……瞬間、

 

「――ァ、……■ァ■■■■■ァ■■■アア■■■■■■■ッ!」

 

龍神と英雄騎神の決闘へ『黒』が割り込んだ。

 

 

 

 

「なんっ……だと!?」

 

攻撃をキャンセルし、カエデを抱き抱えながら飛び退った雪菜の耳に届くダークネスの声かつてない焦りに満ちていた。

視線の先で、床を突き破りながら飛び出してきた何者かがダークネスへと襲い掛かり、闇の如き漆黒の体躯え包み込んでいく。

泥のようでもあり、鎖のようでもあり、蛇のようでもあるソレを振り払おうと暴れるダークネスだったが……

 

「っぐあ!?」

 

『黒』に振れた瞬間、骨の髄まで届く衝撃と共に、触れた腕が焼きただれたかのような傷を刻み込まれてしまう。攻撃の意志云々の問題ではない。ダークネスにとって、『黒』という存在そのものが猛毒になっているのだ。

 

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)……いや、違う! まさか龍喰者(ドラゴンイーター)か!?」

 

あまりの衝撃に、雪菜は驚愕の声を上げてしまう。かつて一度だけ見たことがある、始まりにして最強の龍殺し。

堕天使の上半身と東洋の龍の下半身を持つ異形の怪物。龍という種族にとっての天敵であり、幻想の王たるドラゴンが恐れる最恐のバケモン。かの者の名は『サマエル』。人類の始祖を禁断の果実へと誘い、堕落させたとされる忌むべき存在。

神話で語り継がれる異形は、自らの誕生を祝うかのような咆哮を上げながら、久しぶりにお目にかかれたダークネス(ごちそう)を逃がすまいと、彼の全身を龍尾を幾円も重ねるように包みこんでいく。

漆黒の繭のような天敵の拘束具に黄金の龍神は抵抗することも出来ないまま呑み込まれていった。

後に残されたのは呆然とした雪菜とサマエルのみ。

歓喜に沸く雄叫びを上げるバケモノの姿を、英雄騎神はただ見つめることしか出来なかった。

 

 

――◇◆◇――

 

 

「やった……!」

 

ダークネスがサマエルに“喰われる”のを見届け、カリムの口元にこの上ない笑みが浮かぶ。

作戦通りに事が進んだ事に満足げな表情を見せつつ、手元で操作していた封印指定の魔導書を閉じる。

礼拝堂の様子を映し出していたモニターが消え、静寂が教会の一室に舞い戻ってくる。

 

「戦争における最も厄介な敵は大軍に非ず。真に脅威と言えるのは行動の予測が出来ない第三者。組織の一員となっている彼女ら(かりんたち)はともかく、自由そのものな“Ⅰ”を放置することはあまりにも危険ですからね」

 

一人で戦局をひっくり返すことも可能な異常性を持つダークネスを確実に仕留めるために、カリムは復讐を抱く騎士たちで構成された守護部隊をここに残したのだ。

私怨に駆られた者たちで迎え撃つそぶりを見せれば、後顧の憂いを断つために、あえて正面から襲撃を仕掛けてくると踏んだ上で。

雪菜という嬉しい誤算もあり、ほぼ完全な状態で不意打ちを成功することが出来た。

いかに強大な力を有していようと、“ドラゴン”という存在にカテゴライズされる者にアレから逃れることは不可能だ。

何しろ、“死竜王”という危険な存在を練習台にするほどの多大な犠牲の末に召喚と制御に成功したアレは、文字通り最強の龍殺しなのだから。

 

「さようなら“Ⅰ”。原初の龍喰者に抱かれてお眠りなさい……永遠(とわ)に、ね」

 




タグにSdガンダムとハイスクールD×Dも追加しました。
理由はまあ、ダークさんとヴィヴィっ娘の自重しない父娘コンビのせいなんですが。
はてさて、サマエルにぱっくんちょされたダークさんはどうなるのでしょうね? ←めっちゃ他人事

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