主演は、アリシュヴィのチートリオ&なのフェイコンビです。
《黄金龍皇神》が顕現し、『鬼械竜戦士』と激闘を繰り広げていたのと同時刻、対空砲の弾幕を力技で突破して【ゆりかご】に突入を果たしたアリシアとシュテルのコンビが通路の床に着地しながら振り向いた。
「この大きくて包み込んでくれそうな感じ……ダークちゃんだよね?」
「ですね。まず間違いなく。これほどのオーラとなると……成功されたのでしょう」
嬉しそうに笑ったアリシアに同意するように、シュテルの口元が優しげに綻ぶ。
ダークネスを信じていると言っても、彼女もまた愛しい男性を想う少女なのだ。
強敵との一騎打ちに臨む彼を想って不安になるし、心配もする。
けれど、もう大丈夫だ。繋がり合った
だから確信する。彼は絶対に勝利をもぎ取り、自分たちを待っていてくれると。
「行きましょうアリシア。手早くヴィヴィオと合流して、標的を撃破するのです。ダーク様に『おかえり』って言って貰うために」
「おお~! それはとてもナイスな提案なんだよ~。理想は両手を広げて待ち構え、抱きついた私たちを優しく受け止めてくれながら愛を囁いてくれるシチュだね!」
「それはそれはとてもやる気が出る未来絵図ですね。ならば、幻想を現実とするために全力でぶっ飛ばしてやりましょうか」
「おっけぇ~! なんだよっ」
突き合わせた拳をぶつけ合い、不敵な笑みを浮かべた『黄金神の双翼』の背から光が溢れ出す。
バリアジャケットの一部が魔力へ帰還し、リンカーコアを活性化させていく。
肉体に収まりきらない過剰魔力が肩甲骨あたりから質量を持つ程の密度を以て放出、輝く翼を生成した。
「いきますか~」
「はい……GO!」
「いえっさー!」
緊張感を感じさせないやり取り。
されど、その身に纏うは人外の領域へ足を踏み入れた
軽く膝を曲げて床を蹴り、ふわりと浮かび上がった身体を背中に生えた魔力翼の羽ばたきが砲弾のように射出する。
天空を舞う鳥のように魔力翼を羽ばたかせ、決して広くない通路に次々と湧き出てくる防衛兵器の弾幕をすり抜けるように飛ぶ。
障害物にすらなりえないソレと交叉した瞬間、大鎌と突撃槍へと変形した愛機を振るい、刹那の間も与えずにガラクタと化していく。
もはや阻むものなどなにも無し。通路を埋め尽くすようにAMFを全開にしたガジェットの壁を、表層を炎でコーティングした赤熱砲撃で打ち貫き、ステルスシステムを搭載して天井や壁の影から仕掛けてきた蜘蛛みたいな新型ガジェットの奇襲、兵器が駆動する際に発生した微弱な電気信号を感知することで未来予知レベルに至った予測能力で回避。奇襲を避けられて隙を見せた新型をなます切りにして散乱する鉄屑に仲間入りさせた。
ただの一瞬も立ち止まらずにひたすら前へ、前へと突き進む。半透明の犬みたいな魔力の群れを雷を纏ったアリシアが蹴り飛ばし、飛散するガジェットの残骸を視線を感じる方向――そこらじゅうに設置されている監視カメラ類――へ向けてシュテルの誘導弾が弾き飛ばし、破壊する。
まさしく蹂躙としか呼べない所業。手当たり次第に暴れまわるように見せかけて、その実は自分たちの障害となる“全て”を排除しながら進軍する魔女と天使。今の彼女たちは、もはや通常兵器や魔法で押さえられる存在ではないという事実をありありと見せつけられ、管制室でガジェットの制御を行っていたウーノとヴェロッサの表情が大変愉快なモノに変わっていく。
「……彼女たちは本当に“人間”なのでしょうか」
「う~ん、ある意味、《神》サマの身内……眷属って立場だからねえ。レディに対して失礼な言い方だけど、もう人外設定しちゃっていいんじゃないかな」
頬を伝った汗が床に落ちたまさにその時、二人が見上げていた中央モニターには侵入者を迎撃すべく奇襲を仕掛けた
背後には火花と部品の欠片を飛び散らせながら激しくスパークを起こして爆散する最後の防衛用ガジェットの姿もあった。
侵入開始から五分足らず。動力部破壊へ向かったヴィータへ向けた分を除けば【ゆりかご】内部の兵器全てを迎撃に向かわせた結果がこれだ。
モニター越しの姉妹たちが苦悶の表情を浮かべつつ立ち上がる様に、何もしてやれない自分の不甲斐なさなに歯噛みするウーノ。
身体を震わせるウーノの肩に手を添えるヴェロッサの視線の先では、立ち上がったディードとオットーがバケモノコンビと相対していた。
『ぐっ、は……ほ、砲術魔導師が殴りかかってくるなんて……非常識な!』
『ディード、常識に捕らわれたら駄目だ。彼女たちはマイスター・ルビーが好敵手と呼ぶ龍神の伴侶で王女様の母親たち。異常なのが普通なんだよ、きっと』
『失礼な小娘共ですね。消し炭にされたいのですかそうですかじゃあ死になさい』
『
通路を呑み込むほどの炎熱系砲撃魔法の連打をオットーの“IS”【レイストーム】で発動させた結界に潜む事でやり過ごしたナンバーズの双子。
しかし、鋭敏な感知能力と緻密な術式制御を可能とするアリシアによって動きを止めた瞬間を狙いすまして発動させた遅延型電撃捕縛魔法【ディレイ・エレクトロバインド】で結界内部に居ながら拘束されたオットーが驚愕を顕わにする。
『ばっ……バカな!? 結界特化型の能力じゃないとは言え、【レイストーム】をすり抜けるなんて!?』
『チッチッチ……さっき投げ飛ばした時に身体に直接
『くっ……オットー! 能力を解除してください! 私が仕掛けます』
『駄目だ、ディード!? 完成度はともかく、戦闘練度の低い君じゃあ!』
『無謀は承知の上……ですが!』
立ち上がり、エネルギーを実体化させた双剣を構えたディードが、覚悟を決めた眼でシュテルを睨む。
魔法も使わず吹き飛ばされた先の屈辱を果たすために。そして……、
『仲間を……大切な姉妹であるアナタを守るために、やらねばならないのですッ!』
『いい覚悟だね~。そんじゃあ、手伝ってあげるよ』
言うや否や、パチンと指を弾くアリシア。
瞬間、オットーを拘束する捕縛魔法に刻まれた雷撃術式が発動する!
『オットー!? こ、この……腐れ魔女めがぁあああああああっ!』
肉を、骨を、神経を焼き焦がすほどの雷に身動きが取れないまま蹂躙されたオットーの絶叫が【ゆりかご】に木霊した。
数秒もかけずに意識を刈り取られたことで“IS”が解除されると同時に、鬼の形相でアリシアを睨み付けるディードが己の“IS”と同じ名を持つ双剣【ツインブレイズ】を振りかざし、突撃する。
最終生産組であるため肉体面で最も完成度の高い彼女は、人間の限界を超えた脚力にものを言わせて疾走し、数呼吸の間にアリシアの懐へ踏み込んだ。
『へぇ?』 と感心気な微笑を見せるアリシアへの怒りを乗せた真紅の刃が、万物ごと魔女を切り裂くべく唸りを上げる。
だが、冷徹なる天女は親友の魔女が傷つくことを良しとしなかった。
『はい、ご苦労様』
アリシアしか視界に入れていなかったディードの真横から伸ばされたシュテルの腕。
しなやかで細い指先が頭皮を突き破り、頭蓋に罅を刻み付けた。真横からの衝撃で脳を揺さぶられ一瞬だけ意識が途切れた彼女が浮遊感を感じた時には、すでに戦いは終焉を迎えていた。
壁にめり込むほどの威力で頭部を叩きつけられ、沈黙してしまうディード。
脱力した四肢が力無く垂れ下がり、引き抜かれていくシュテルの指先から赤い血煙が立ち昇る。
一矢報いることも出来ないまま鎮圧されたディードの頭部から流れ出す鮮血を踏みつけながら、とり出したハンカチで指先に付着した汚れをふき取るシュテル。エゲツない相棒に、アリシアは自分の事を棚に上げて苦笑を浮かべずにいられない。
もしここにいたのがなのはやフェイトであれば、無力化したディードへ捕縛魔法による拘束に移行していた筈だ。
管理局の魔道師の信条は『不殺』。故に、昏倒させた敵が意識を取り戻し、再び敵対行動をとる可能性も残されているからだ。
しかし悲しいかな。敵であろうと手を差し伸べる気高き信条は、龍神と同じ価値観を持つ彼女たちにとって、取るに足らない戯言でしかない。
『敵で無い者は
彼女たちにとっての敵とは信念、覚悟、魔導……己を構成する“総て”を賭して打ち倒さなければならない宿敵を指す。
無益な殺生は好まないが、『障害』として立ち塞がるのなら容赦なく叩き潰す。
その結果が、常人なら眼も背けたくなるような惨状。
頭蓋に突き刺した指先に生成・炸裂させた極小の魔力弾によって脳髄に直接ダメージを打ちこまれたディード。
四肢を起点に全身の関節部を荒縄で締め上げる様に展開させたバインドから放出された電撃の蹂躙を受け、肉の焦げる臭いが混じった血煙を立ち昇らせているオットー。
それでも弱弱しい呼吸音が聞こえるあたり、ギリギリのところで加減を受けていたと言うことなのだろう。
『さて、障害物も片付いたことですし、さっさと先にいきましょうか』
容易く無力化した双子を一瞥すらせず、閉じていた魔力翼を再び広げたシュテルが進軍を再開する。
僅かに遅れてアリシアも追随するが、彼女もまた、双子に応急手当てをすることすらしなかった。
何故なら、二人にとって彼女たち戦闘機人は“敵”ではないから。
ガジェットや電磁シールドなどと同じ、目障りな“障害物”でしかなかったのだ。
だから敬意を払わないし、抵当の“敵”とも認めない。
だから、
足止めが精々の、障害にすらならないモノに構ってやる暇がないから。
龍神に寄り添う魔女と天女にとって、機械仕掛けの
容赦なく姉妹を
女性に優しい紳士を自称する彼と言えども、少し前に侵入を果たしてスカリエッティたちと交戦を開始した六課隊長コンビを超えるデタラメスペックを見せつけられては、もはや笑うしかないのだろう。
内部通信機の一つ……動力制御を行っているクアットロからと思われるエマージェンシーコールに応えてあげる余裕も無いほどに。
きっと二人と同じ映像を見せられ、下手をすれば自分が相手をしなければならないかもしれない化け物コンビの接近に狂乱しているのだろう。
瞬く間に自軍側頭脳担当者のSAN値を削り取っていく魔女と天女を破壊を免れたカメラで追跡しつつ、彼女たちの行く先を予測するためキーボードにに指を走らせる。
「侵入者迎撃用として迷路のように複雑な通路をものともせず突き進んでいる。ということはマップ情報をどこかで入手したのか? もしや、連絡がつかないドゥーエさんが……いや、それは無いな。彼女のドクター・スカリエッティへの忠誠心は本物だ。きっと彼個人の願いだった最高評議会の始末をつけにいってるんだろう」
自分に言い聞かせるように呟きながら、演算と予測起算を続ける。ネガティブな思考を否定し、最善の解を得るため頭の回転を上げていく。
「落ち着け……彼女たちの目的は何だ? 普通に考えれば、聖王閣下の願いで玉座の間へ通された王女様の援護と考えるのが自然……だが、それだけか? 彼女たちの向かう先にドクターが高町くんたちと一戦交えている戦場があるのは偶然か?」
「……もしや、残留魔力を感知しているのではありませんか?」
動揺の渦から何とか回復を果たしたウーノが呟きを零していたヴェロッサに意見した。
顔色はまだ真っ青だったが、機材運搬用のロボットに妹たちの回収を指示する程度には冷静さを取り戻したらしい。
「残留魔力? ――ッそうか! 高町君たちが突入した際に残された魔力! それを辿っているのか!」
「おそらく、ですけれど。彼女たちほどの魔力保有者なら、戦闘を行わずとも飛翔魔法の残滓だけでいくらかの魔力が通路に残されるはず。それに、彼女たちの優秀さを考えれば相当内部まで進軍していると考えたのですよ。それを利用したのでしょう」
「まいったな……。外で死竜王の相手をしていたのは、露払いが済むのを見計らっていたからかもしれないね」
“敵の敵は味方”
妹分であり、今は敵同士となってしまった少女の故郷にある諺の一つ。
互いに手を取り合い、協力するような和気藹々とした関係ではない。しかし、教会&スカリエッティ陣営を倒すために互いを利用し合う六課と龍神一家の関係は、まさにこの言葉がぴったり当てはまるのではないか?
――いざとなったら、
人知れず覚悟を決め、握り締めた拳が汗ばんでいる事に気づかないヴェロッサとウーノが見つめる先で、魔女と天女が次なる戦場へ飛び込んていった。
――◇◆◇――
双子を始末したアリシアとシュテルがたどり着いたのは、訓練場にも使えるほど広い部屋……いや、空間だった。
四方の壁は強固な鋼鉄で覆われており、奥の方には【ゆりかご】中枢へ通じると思われる通路らしきものが確認できる。
明らかに侵入者を待ち構え、撃退するための迎撃場所。現に、現在進行形でピンクの砲撃や金色の雷が飛び交い、色鮮やかな閃光で視界が埋め尽くされる。
「バ火力のごり押ししか知らない砲撃魔はここで倒れるべき……。“IS”【イノーメスカノン】」
「ぶっ飛びやがれっス、露出狂! “IS”発動……【エリアルキャノン】!」
丁度、アリシアたちから見れば左右の壁際に膝立ちの体勢で巨大な大砲と盾に内蔵された砲口を構えていたナンバーズ……
狙いは部屋の中央で
背中合わせの体勢でフォローしていた二人は、迫る砲撃の気配を察し、各々の相手の腹部を蹴り飛ばして飛び上がる。
瞬間、彼女たちの足元でぶつかり合った砲撃が爆発。狭い空間を蹂躙するような豪風が吹き荒れ、舞い上がる魔力煙が視界を閉ざす。
「なのは、大丈夫?」
「うん、平気だよ。けど、厄介だね。部屋の隅でニヤついてるスカリエッティも不気味だし……」
「……」
「フェイトちゃん?」
「……ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく。何なのあのニヤケ顔。犯罪行為にセクハラも追加してやる。――てか、最初の台詞からありえないし。両手を広げながら満面の笑み浮かべて何が『私はプロジェクトFATEの生みの親! すなわち、私こそが君の父親ということさ! さあ、フェイト・T・ハラオウン、私の事を〈パパリン♡〉と呼んでくれてもいいのだよ? デレてくれても構わないのだよ!? さあ、Welcome!』――だ。私が! 奴を! 父親と呼ぶなんて! ありえないッ!!」
敵に囲まれた状況にもかかわらず、まるで過去を振り払うかのように頭を掻き毟って錯乱するフェイト。
腰に手を当てて仲良く高笑いするプレシアとスカリエッティに挟まれる自分の姿を幻視して、フェイトさんのお怒りゲージが有頂天。
「フェイトちゃん!? お願いだから落ち着いて!? ツインテールが解けてすごいことになってるよ!? 具体的にはプレシアさんにそっくりな感じに!」
「えっ? か、母さんとそっくりだなんて……」
「あれっ、意外と嬉しそう!? しまった、マザコンにとってご褒美だったんだねっ」
おふざけが許されない状況の中で、あえてくだらないやり取りを交わすことで精神的余裕を見せつけ、戦いの流れを引き寄せる。
さいきょ~一家が得意とするシリアスブレイカ―スキルを『何故か』如何なく発揮する管理局のエースコンビ。
砲撃をかましたディエチやウェンディも困惑を隠せないようで、ニヤニヤといやらしい笑みを張り付けた創造主へ指示を仰ごうと視線を逸らした――瞬間。
「押し通るよ~♪」
のほほんと気の緩む笑顔を浮かべて箒に二人乗りしたアリシアとシュテルが部屋中央を突っ切り、途中、無防備に突っ立っていたスカリエッティを跳ね飛ばしても速度を落とさないまま奥の通路へ駆け抜けていった。
「のぎゅらばっ!?」 と奇声を上げながら脳天から着地して昏倒する羽目になったスカリエッティにナンバーズたちが慌てて駆け寄っていくのを余所に、まさかの乱入者たちを呆然と見送る事しか出来ないなのはとフェイト。
敵の連携を崩すために心理戦を仕掛けていた筈が、姉と友人が色々と台無しにしてくれてどう反応すればいいのかわからない。
まさにそんな表情の二人に向かって箒に乗った魔女と天女が仲良く振り返り……、
「「ザマァ」」
とっても小馬鹿にした風に鼻で笑ってくださった。
特にシュテルさんに至っては「見せ場を取っちゃってごめんなさいねぇ~」とでも言いたげなドヤ顔付きで。
違う意味でブチ切れたフェイトと彼女を羽交い絞めにして落ち着かせようとするなのはの奮闘を嘲笑うように、アリシアたちを乗せた箒はさらに速度を増して回廊と呼べるほど文明を感じさせる装飾が施された通路を駆けていく。
背後の喧騒を遥か彼方に置き去りにして到達したのは荘厳さを具現化したかのように重苦しい威圧感を感じさせる扉。
箒から飛び降り、軽やかに着地を決めてから互いに顔を見合わせ、真剣な表情で頷く。
扉越しに感じるプレッシャー。かつて、共に在るモノとして深く繋がっていた『彼女たち』の気配を感じとり、自然と二人の顔も真剣みを増していく。
ガジェットやナンバーズ、それにスカリエッティなど最初から眼中になかったのだ。
そう、彼女たちの目的はヴィヴィオの援護でもなければ【ゆりかご】内部からの破壊でもない。
決着をつけるべき好敵手たちと雌雄を決する。ダークネスがルビーと死闘を繰り広げているように、アリシアとシュテルもまた、因縁ある好敵手と雌雄を決するためにここにいるのだ。
其々が左右の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開いていく。
軋みながら開かれていく扉。奥から眩い光が漏れてきたので目を細めながら足を踏み入れ――そこで待ち構えていた好敵手たちの姿を見た。
さきほどなのはたちがいた部屋よりもはるかに広い空間。魔法によるものか、天井には星々の煌めきが映し出されており、まるで宇宙の海へ飛び出したかのような錯覚を覚える。
前方に視線をやれば、部屋の最奥に今までとは意匠の異なる扉が据えられているのが確認できた。
古代ベルカ文字が刻まれた厳かな雰囲気を感じさせるソレを見据えたアリシアがポツリと呟く。
「“玉座の間”、かぁ……どうやらヴィヴィオはあの扉の奥にいるようだね」
ドアノブらしきリングに結ばれた桜色のリボン。間違いなくヴィヴィオのものだ。
おそらく、ヴィレオに招き入れられた彼女が自分の居場所をアリシアたちに知らせるために施した目印なのだろう。
「つまり、あの扉の向こうが【ゆりかご】を起動させる鍵……『聖王』とやらの玉座がある訳ですね。――で、そこに行くためには貴方たちを倒さなければならないと」
シュテルの推測を肯定するように、部屋の中央で待ち構えていた“紫天の一派”が歩み寄ってきた。
一回り大きいサイズの修道服を纏った少女の手を引くユーリ。
彼女らの傍らに【デバイス】とバリアジャケットを起動させたディアーチェとレヴィの姿もあった。
「さて、一応聞いておきますが……武器を捨てて道を開けるつもりはございますか?」
「まさか、ある訳ないですよ。だって――」
見惚れるような笑みを浮かべたユーリの腕が振り上げられ、伸ばされた人さし指がシュテルの眉間を指し――
「貴方たちは私たちが始末するのですから♪」
指先に集束させた禍々しくも膨大な魔力の閃光が迸った。
虚空を切り裂く閃刃となった魔力光が光りの刃と化し、シュテルの脳天を打ち貫かんと迫り来る。
「おや、面白い冗談ですね。貴方たち如きに私とアリシアを止められると本気で思っているのですか……なんて憐れな」
文字通り光の速さで襲いかかってきた閃光を素手で叩き落とすように打ち払い、シュテルが笑う。
同じ存在として同列であったのは過去の話。今の自分は“紫天の盟主”たるユーリすら凌駕する存在であると自負するが故に、己の有利を疑っていない。
事実、
「ほら……お返しです。【パイロシューター・ディモリション】」
振り下ろした杖先から射出した誘導型炎熱射撃魔法のスフィアがお返しとばかりにユーリたちへ襲いかかり、蹂躙していく。
スフィア一発で床を
更に、魔力弾の表層を覆う魔力を乱回転させることで着弾と同時に対象をねじ切り、肉を喰い破り、内部から破壊するエゲツナイ攻撃能力までもを備えている。
花梨やルビーのように特異能力保有者でもない限り、保有魔力が多いだけの彼女たちにコレを防ぐ手立てなどありはしない。
――だが。
「――【ディバイド・ゼロ】」
散開ではなく一点に集まることで飽和攻撃を防ごうとしたユーリたちにとどめを刺すべく、彼女らの逃げ場を塞ぐように襲いかかった緋色の火焔総てが何事か呟いたユーリの手前数メートルで溶ける様に拡散、分解された。
「なに……?」
輝きを失い、魔力粒子へと帰還していく魔力弾の残滓を見つめながら、シュテルの肩眉が吊り上る。魔力を打ち消された……AMFの効果に近い現状。しかし、魔力そのものを打ち消すっことが出来ても、事象として具現化した炎までも霧散させることは出来ないはず。
ならばいったいアレは何だと言うのか……。
疑念を抱くシュテルに生まれてしまった僅かな隙。超一流の魔導師にとって致命的なまでの油断と呼べるソレを見過ごしてくれるほど、盟主たる少女は甘くなかった。手を繋いでいた修道服の少女を護る様に抱き寄せ、腕を身体の前で真横に振るう。瞬間、少女の身体が淡く発光し、胸元に抱いた魔導書らしき書物のページがひとりでに開かれて、何枚ものページが木の葉のように飛び散った。
パラパラと少女を守る様に舞い踊ったページたちは開かれたユーリの手の平に集まり、繋がり、重なり合って――白銀に輝く一振りの銃剣と化す。
リボルバー式の拳銃に大ぶりのナイフを思わせる剣が融合したかのような獲物の調子を確かめる様に振り上げ、袈裟切りに振り下ろした。
刃の軌跡に沿って白銀と真紅の魔力粒子を舞い散らせ、ピタリと止めた剣先が警戒を強めていくシュテルを指す。
「【シルバーハンマー】」
瞬間、発動した連環型魔法陣に包まれた銃剣の切っ先から白銀に輝く魔導砲が打ち放たれた。
構えから発射までがほぼノータイムで撃ち出された一撃に僅かに驚くものの、誘導性の無い直線砲撃を回避するていど造作も無い。
シュテルは障壁で受け止める事もせず、冷静に攻撃の流れを見抜いて射線軸から離脱することでユーリ本来の魔力光とは違う色彩の砲撃を回避する。
「なるほど。強気の理由はその少女にあるようですね」
真横を通り過ぎていく魔力を観察し、魔法を構築する魔力の流れを辿り、確信を得たシュテルの双眸がユーリに抱きしめられた少女へ向けられた。
目元まで隠れる一回り大きなサイズのベールに隠された少女の瞳に恐れが浮かぶ。びくりと肩を震わせ、ユーリにしがみ付く姿は弱弱しい小動物を彷彿させる。だが、行動や見た点で軽んじる真似は許されない。
推理は未だ不完全なれど、シュテルの魔力弾を消滅させた能力の一端を彼女が担っているのは間違いないのだから。
「ふむ。よろしければ彼女の紹介をお願いできますか? これから滅ぼす相手と言え、名も知らないまま
「ハッ! どの口がほざくか……ぬおおおっ!? ちょ、タンマタンマタンマじゃ! コラ、魔女! 少しは空気読んで手加減せぬか!」
「え~。別に私は興味ないんだけど」
部屋中央に陣取った紫天一派の対角線上にまわり込んだアリシアが、大鎌を振るいながら唇を尖らせる。
十文字杖で鍔迫り合いを交わしていたディアーチェが割と切羽詰まった叫び声を上げているのは、レヴィと二人ががかりで対処していると言うのに捉えきれない戦闘能力を見せるアリシアを警戒するが故だ。
このままでは折角用意した『奥の手』を見せる前に押し切られてしまう。
どうにかして間合いを開けるべく拡散型の魔力弾をばら撒き、紫光の死神を強引に引き剥がす。
「とりゃー!」
「うわわっ!?」
ダメージを受けたと言うよりも我が身を省みない飽和攻撃を仕掛けたディアーチェの判断に驚いて飛び退るアリシア。
追撃を仕掛けてきたレヴィの斬撃を飛び越えるようにいなしつつ、冷静に自分の相手であるディアーチェとレヴィの戦力を分析していく。
「なるほどね……うん、
肩に担いだ愛機を撫で上げつつ、身構える二人を見てから呟く。
不敵な笑みを覗かせるアリシアの姿に恐ろしい予感を感じとり、レヴィの頬を汗の雫が流れ落ちていく。
「うわー、ありしあの顔が怖いよ王様。あれ絶対に狩人の目だよ」
「ぬう……二人掛かりだと言うのに一歩も引かぬ胆力と言い、実力と言い……人外呼ばわりされる理由がようやくわかったな」
「とか言いながら余裕が隠せてないよ~? まだまだ引き出しがあるってコトだよね?」
コテン、と首を傾げながら昂揚を隠せない笑みを浮かべ、アリシアが問う。
攻撃を仕掛けた時に切羽詰まった様子を見せていたのは事実。
だが、追いつめられていたのかと言えばそうではないのあと、アリシアの本能が告げている。彼女たちはまだ底を曝け出していないのだと言うことを。
「で、ユーリ? 話の続きをしても?」
「……ええ。いいですよ」
戦闘が均衡状態に陥ったことをこれ幸いとばかりに情報収取を仕掛けるシュテル。
彼女の狙いに気づかないはずがない。だが、ユーリは敢えて中断していた会話を再開させる。
まるで、これから訪れる『別れ』への手向けだとばかりに。
右手に携えた銃剣を下ろし、左手で抱き寄せていた少女の背中を軽く押して一歩前に踏み出させる。困惑した表情で見上げてくる少女の頭を撫でながら、彼女を安心させるように優しく微笑む。信頼する
「……こんにちは」
「おやまあ」
歳はヴィヴィオと同じか少し下くらいだろう。
強い心と包み込む様な優しさを感じさせる瞳が目を惹く少女だ。
だが、シュテルの視線を釘付けにしたのは少女自身の容姿ではなく、彼女が胸に抱きしめた魔導書らしき【デバイス】と、左手首に装着された銀色の腕輪だ。
ユーリの右手に装着されている物と同じソレを起点に痣のような文様が浮かび上がり、魔力の放出に呼応するかのように脈動を繰り返している。
今まで感じたことの無い魔力の波動、そして見慣れない魔導書。
おそらく、あれこそがユーリの新たな能力を紐解く鍵。
思考を深めるシュテルに礼儀正しくお辞儀してから、少女が名乗りを上げた。
「はじめまして。ユーリお姉さんの【リアクター】『リリィ・シュトロゼック』。この子は私の半身【銀十字の書】です」
「【リアクター】? 聞き慣れない単語ですね……魔力を打ち消す特殊兵装のようなものですか?」
口籠る様にユーリを見上げ、了承の頷きを確認してから言葉を続けていく。
「えっと……違います。私と【
『世界を殺す猛毒』。
文字通り、魔力至上主義に染まった世界の在り様を根本から破壊しかねない凶悪にして最悪の兵器……ECウイルス。
ひとたび感染すれば、他者を殺し続けないと自我を保てずに何れ肉体が崩壊してしまうほどの破壊衝動を芽生えさせることを代価として、人智を超えた“化け物”を産み出す最悪の兵器。
とある次元世界でルビーが発見・回収した『原初の種』と呼ばれるウイルスの種母体を分析して産み出されたソレを制御するために誕生し、武器管制システムである【銀十字の書】を制御する生態型自立装置。それこそがリリィの正体だ。
「それはまた……とんでもないシロモノをとんでもないヒトに感染させたものですね……。破壊衝動とか大丈夫なんですか、ユーリ?」
「平気ですよ~♪ 元々、システムUDの破壊衝動を制御出来ていたんですから、この程度なんてことないです。……とは言え――」
ざわり。
ウエーブのかかったユーリの長髪が意志を持つかのように揺らめき、妖しく蠢き始めた。
可憐な唇は血に飢えた獣の如き兇笑へ。
活性化していく永遠結晶エグザミアが生成した凶悪な魔力が大気を震わせる勢いで放出し、無表情だったシュテルに戦慄の表情を浮かべさせる。
「因子を活性化させると流石に抑えきれなくなっちゃんですよ……だからね、シュテル」
【砕け得ぬ闇】たる彼女のバリアジャケットは真紅に染まり、禍々しい魄翼から放出された魔力の波動と威圧感が物理衝撃となって全方位に放射された。
「うおわ!? ユーリめ、とうとう本気になりおったな! 離れるぞレヴィ! 巻き込まれたら笑い話にもならん」
「いえっさー!」
アリシアは、敬礼しつつ離脱を図る二人と睨み合うシュテルたちの間で視線を彷徨わせるも、振り向いたシュテルの視線が交差した瞬間、彼女の意志を感じて決断を下す。
――武運を、だよ!
――ええ、貴方も。
アイコンタクトで鼓舞を交わし、アリシアがディアーチェたちを追撃していく。
彼女たちが十分な距離をとれたことを確認したシュテルが視線を前方へ戻すと、リリィと手を繋いだユーリの視線と交叉した。
「行きますよ、リリィ」
「はい」
――リアクト・オン! ――
瞬間、眩い閃光が迸り、世界を白銀で染め上げた。
肌に纏わりつくような殺意を振り払うように照らされる銀の輝き。
愛する
やがて視界を埋め尽くす光が納まると、室内が撒き散らされた魔力煙の残滓で満たされていた。
密度の高すぎる魔力を解放させたことで壁や床の表層が削り取られ、粉塵として舞い上がったのだ。
白煙の中、シュテルは白いヴェールの向こう側に映る人影を睨む。
その視線の先には――赤いラインの刻まれた漆黒の外装を纏い、白銀に染まった髪を靡かせるせる魔人の姿があった。
肥大化し、より凶悪な形状へと進化した漆黒の銃剣。
左腕には刃を繋ぎ合わせたかのような形状の楯が備わり、中央には手帳サイズに縮小した【銀十字の書】が納まっている。
瞳は白目部分が鮮血のような真紅に、瞳孔が深い翠色に染まっており、破壊衝動を内包しつつも理性を保てている事を物語る。
膝下まで覆うブーツや肩当、腰裏のマントが追加されたバリアジャケットの表面にはEC感染者の証である禍々しき刻印が刻み付けられ、【砕け得ぬ闇】固有の痣と合わさって、世界総ての闇を内包する邪神の如き威圧感を見るものに感じさせる。
融合したリリィの気配を感じつつ、ユーリが銃剣……【ディバイダー996】を振るう。
「っ……!」
それだけで僅かに残された白煙は跡形もなく霧散しただけでなく、射線上にあった壁に直接切りつけたかのような斬撃痕を刻み付けた。
剣圧だけで人体を容易く両断する程の圧倒的剛力。
ユーリが禍々しい見た目通りの戦闘力を手に入れた事実に、シュテルは全力を出す機会を与えてしまった己の律儀さに舌打ちを零す。
「ダーク様なら、間違いなく初撃で神代魔法をぶちかましていた所ですね。私もまだまだ甘いです」
「あれれ? ずいぶんと余裕があるみたいですけど……まさか今の私たちに勝てると思っているんですか?」
次元世界最強クラスの実力を誇るユーリがECウイルスで狂化されたのだ。
いかにシュテルやアリシアがオーバーSランクの極致に至っていようとも、人間の
「もちろん思ってますよ。だって……『私たちはもう人間を止めているんです』から」
やれやれと肩を竦めながら片手を頭上に振り上げていく。
リアクトの調子を確かめていたユーリが見上げる先、シュテルの手の平に展開されるのはミッドチルダの文明で生み出されたものではない複雑怪奇な文様で構成された《神成るチカラを行使するための魔法陣》。
発動された魔法陣より降り注ぐのは、魂の繋がりを通してスペリオルダークネスから流れ込む超然たるエネルギー……『
天上の世界から降り注ぐ『
『黄金神の双翼』。彼女たちを指して管理局が名づけた呼び名は実に的を射ている。
《神》へと至りつつある彼の翼が、ヒトであるはずがないのだ。
そう……彼女は
親友たる
「《神意召喚》……
天へと捧げる祝詞と共に権限せしは地上に落ちた太陽の輝き。
天を貫き、地上へと降り注いだ太陽の輝きをその身に纏い、
巨大な戦槍へと進化した【デバイス】を突きつけ、破壊の具現へと名乗りを上げる。
「改めて名乗りを上げましょう……我が名はシュテル・スペリオル。黄金神の片翼にして愛しき者と共に神々の頂へと飛翔するモノ。――破壊に染まりし紫天の盟主よ。貴方の魂を我が輝焔にて浄化します」
「……面白いです。世界を滅ぼす破壊の猛毒、屠れるものならやってみなさい!」
より凶悪に進化した魄翼を展開し、漆黒の魔力を解き放つユーリ。
輝く焔を身に纏い、紅蓮の翼を羽ばたかせたシュテルが紫天の頂へ駆ける。
次の瞬間、輝く焔と黒銀の嵐が互いを喰らいあう様にぶつかり、【ゆりかご】そのものを震え上がらせるほどの衝撃が解き放たれた。
――◇◆◇――
ぶつかり合う焔と嵐へ向けていた視線を戻して、不敵に笑うアリシア。
彼女もまた《神意召喚》を発動させ、《神成るモノ》へと進化を果たしていた。
龍の意匠が施された白銀のハルバートに変形した【デバイス】で自分の肩を叩きながら、威風堂々と自然体で敵を見据えている。
「ふん。随分と余裕を見せるなあ雷の魔女よ。だが、我らの力を見てもその余裕が続くかな? ――レヴィ、アレをやるぞ」
「おお! 遂にお披露目だね! 僕たちの切り札ァ~……パート・ワンッ!」
鏡写しのようにゆっくりと片腕を持ち上げていく。
ディアーチェは右手、レヴィは左手。
【デバイス】を持たない無手の掌が何かを掴み取る様に握り締められていく。
拳に固定されるのは各々が得意とする魔道の極致。
「術式掌握――【
「術式掌握――【
腕を包み込む環状魔法陣。
氷雪と轟雷、魔法で生み出される事象の頂にある極大なる魔導が発動し……掌握されて、術者に取り込まれていく。
自ら外部に放出した“魔力”を“魔法”という事象に変換し、その性質をそのまま吸収することで完成する外道の業。
ヒトならざる者にしか扱えぬ禁断の奥義。
「術式装填……【悠久氷華】!」
「術式装填……【雷轟極天】ッ!」
紫天の一派は人間ではない。かつてNo.“0”と呼ばれた男の“特典”により産み出され、ダークネスの特殊能力とルビーの疑似魔導コアによって存在を確立させた魔導生命体だ。
ダークネスの手によって人間となり、彼の眷属として高次生命体へ進化しつつあるシュテルと違い、彼女たちは特殊な魔導生命体として在る。
故に、その肉体は魔力に反応して変異を起こす特質性を持ち、精神情報の集合体……所謂『霊魂』も魔力との感受性が極めて高い。
だからこそ、魔法の性質をそのまま吸収することで霊魂と完全な融合を果たすことが可能なのだ。
光が納まった瞬間、アリシアの両頬を冷気と電熱が撫でる。
細められていく双眸が見据えるのは氷と雷、自然の具現とも称せる存在へと至ったディアーチェとレヴィの姿。
純白に透き通るドレスを纏った闇氷の王。美しさの中に魂を凍りつかせるほどの恐ろしさを秘めた闇を統べる王と呼ばれし者。
彼女と並び立つのは人の形を保つ雷とも呼べるモノとなった剣士。身の丈を超える蒼い大剣を軽々と振り回して戦意を顕わにする雷刃の襲撃者。
「魔導術式兵装『闇氷の女皇』――さあ、神に仕えし魔女よ。塵芥となるがよい!」
「完成ッ! 魔導術式兵装『
迸る稲光が星空と化した天蓋を焼き焦がしていく。
文字通りの意味で雷の化身と化したレヴィの咆哮は、それだけで数万ボルトにも達する電撃を発生させ周囲に撒き散らすのだ。魔力の暴走と言う訳でもなく、ただ気合いを入れただけで人間を容易く感電死させるほどの電撃を振り撒くレヴィ。
すぐ隣にいるディアーチェのことはいいのかと思い視線を向けてみると、彼女に飛び火した稲光が純白のドレスを貫き――刹那に修復を施していた。どうやら雷そのものと化したレヴィ同様、ディーアチェもまた氷そのものと化しているらしい。
肉体を砕かれようと魔力を削り取られようと、大気中に存在する水分を吸収・凍結させることで自らの存在の一部と化し、超速自動修復を施しているのだ。予想以上に面倒な敵の能力の分析を終えたアリシアは、当初の予定を切り替えて『彼女』を呼び出すことを決断する。
魔力を滾らせ、今にも跳びかかろうとするレヴィから視線を外さないまま、無造作に手をかざしたアリシアが今の状態だからこそ使用できる“能力”を発動させた。
「――『
瞬間、柔らかくも暖かい『優しい光』によって描かれた魔法陣が展開し、それを構築する幾何学模様一文字一文字から魔力によって構成された輝く炎が浮かび上がっていった。
それはまるで現世に現れ出た人魂のよう。
揺らめきながら立ち上るソレが魔法陣の中央に集束していく。
そこから形成されるのは幾重にも重なり合った立体型魔法陣。光の球体に集った魔力がアリシアの意志に応えて姿を変え、彼女のが望む者の器として相応しい形に再構成されていく。
それはスペリオルダークネスの術式に彼女なりの改良を加えた新たなる奇跡。
現実の理を覆し、遥か遠い地より望む存在を呼び寄せる禁忌の業。
「おいで――『リニス』」
祝詞の
放たれる紫の魔力は、常の破壊の具現たる雷を産み出すソレとは違い、まるで心の中に柔らかく染み込んでくるような……不思議な温かさを感じさせた。
イメージするのは母より受け継いだ記憶に記された『彼女』。
アリシアに知識という形で受け継がれた大魔導師プレシア・テスタロッサの叡智……【魔女の釜】。
清濁併せ呑み、
何かと口うるさいお節介な使い魔。娘のためにすべてを投げ出す覚悟を決めた自分を引き戻そうとする恩知らず。
道具を使えるレベルに仕上げるためだけに用意した手駒。
……けれど、どんなに邪険にしようとも、どんなに冷然とした態度をとり続けても、悲しげに眉を眉を顰めながら主であるプレシアの事を想い続けたバカな娘。
嫌いだった。
うっとおしかった。
目障りだった。
でも、忘れることが出来なかった。
だって彼女は――
まあ要するに、『使い魔』のイメージを条件に叡智の検索をかけたら、いの一番に『彼女』がヒットするということ。
なんだかんだ言って彼女を忘れない様に記憶を保存していた素直じゃない母に小さく吹き出し、頭上で回転させた【ヴィントブルーム】の石突で地面を穿つ。瞬間、足元に展開していた幾何学模様の魔法陣が激しい閃光をほとばらせながら高速回転し――光が弾けた。
――トンッ……。
紫の閃光に照らされた世界に、軽やかな着地音が響き渡る。
魔力光が霧散して視界が回復すると、アリシアの傍らには一人の女性が佇んでいた。
肩まで届く薄茶色の髪を靡かせ、頭頂にはピロードがきいてピンッと立つ三角形の猫耳。
どこか教師を思わせる服の上に
金色の宝珠が備え付けられたステッキを腰裏に納め、魔力で再構成された身体の調子を確かめる様に自身を見下ろし、次いでにこにこ笑顔を浮かべながら自分を見上げてくる“家族”をどうしてやろうかと深い溜息をひとつ。
真面目な教え子である“妹”の方ならまだしも、妙なところで主にそっくりな破天荒さを持つ“姉”の方が相手では正論をぶつけても柳に風でしかないことを知っている。
なにせここに来るまでの間、
「真面目さんなリニスでも炬燵の魔力には抗えなかったか~」
「ええ、まったくもってその通り――ってアリシア? なんで貴方がそのこと知ってるんです?」
「お母さんから受け継いだ【
「ああ~……それで○ョイで洗われたかの様な綺麗なプレシアに変身してた訳ですか。娘のために費やした努力が無駄にならなかった事が嬉しくて」
憑きものが落ちたかのように爽やかな微笑みを浮かべながら、「あら、リニスじゃない。久しぶりね、うふふ」と笑い掛けられた時は全身の毛が逆立ったものだ。
思わず、「私の主がこんなに綺麗な訳がない!」 と悲鳴を上げてしまって醜い大喧嘩を繰り広げてしまったのも、今では懐かしい。
ちゃっかり死後の世界から愛娘とTELしていたとは……てか、そんな方法があるなら教えてくれても良かったのに! とちょっぴりイラッ。
あの時は、止めに入ってくれた管理局の提督さんっぽい童顔男性とシスコンの気がありそうな幸薄い顔の青年がいなければ、
……主に、巻き添え喰らって雷に撃ち落とされていた羽人間さんたちのお仕事停滞的な意味で。
「さてさて~、再開を喜ぶのもいいけどいい加減あちらさんも待ちくたびれてるみたいだからね。しっかり頼むよ、リニスっ」
「ハァ~。テスタロッサの血を引く女はどうしてこう問題児ばかりなんでしょうか。お婿さんや親友、可愛らしい義娘さんまでも常識を置き去りにしてるみたいですし……」
「それを言うならフェイトだって露出狂の気質があるよ? ついでにショタコンの疑いもあるって週刊誌に載ってた」
「……わかりました。この一件が終わったら貴方たち全員お説教です! テスタロッサ一家の教師役として、常識と言うものの尊さを骨の髄まで叩き込んであげます! ――手始めにそこのはしたない格好の貴方!」
「うえあ!? ボク!?」
「そうです貴方です! なんですかその恰好は! 膝上までしか丈のないチャイナ服ってどういうことですか! そもそも、貴方は男でしょうに! せめて中華風の格闘着を着なさい!」
ズビシッ! と指名されたレヴィがマジギレモードなリニスの思わぬ剣幕に気圧され、思わず言い訳し始めた。
「えぇ~、似合ってると思うんだけど……。てか、女装癖あるしねっ!」
「威張るんじゃありませんっ! そんなわがまま言う子はオシオキです! 72時間連続お説教乱舞の後、お尻千叩きの刑に処します!」
反射的に尻部を抑えて後ずさるレヴィ。
じりじりと距離をとりながら後ずさるレヴィへにじり寄っていくリニスの手には、いつの間にか引き抜いた杖が。
宝珠が輝き、半透明の魔力刃が形成される。美しさと荘厳さを併せ持つ姫騎士の聖剣を正眼に構え、レヴィ目掛けて跳びかかった。
「もぉ、リニスまで勝手に始めちゃったよ。……それじゃあ、私たちも始めようか」
「ふん、まあ良い。あ奴が何者であろうと、死者如きに遅れをとるレヴィではない。それに――」
愉悦と確信をない混ぜにした光を宿す瞳をアリシアへ向け、告げる。
「貴様程度、五分もあれば仕留められるしな。その後で、ゆっくりあ奴の援護に向かえば問題ないわ」
自らの優位性を微塵も疑わぬ女王の宣告。
あまりにも尊大な発言にしばし呆然とした魔女は、不機嫌そうに鼻を鳴らしてから己の敵を睨み据え――
「人形如きが大層な戯言をほざくなよ。……口を慎め、消し炭にするぞ」
怒気を孕んだ挑戦状を叩きつけ、闇氷を統べる女王へ白銀の槍刃を突き入れた。
”紫天一派”も例のごとく魔改造。
というか、ユーリ in ECウイルスはやりすぎたカモ?
でも、これくらいしないと釣り合わないからなぁ……。
そして、リクエストのあったリニスさん限定復活!
戦うヒロインの決着はやはりタイマンかな? てな理由でご登場してもらいました。
・おまけ(パワーアップした女性陣+αのバリアジャケットデザインイメージ)
アリシア:”らきすた”アンソロジーに登場した魔法少女柊かがみ(フェイト風味)
シュテル:”戦国恋姫”の織田『久遠』信長
ヴィヴィオ(聖王姫モード):fortissimoの桜(ちなみに聖王モードはミニスカマフラーVer.)
花梨:”戦国恋姫”の足利『一葉』義輝
ユーリ:へそ出し袴のデフォ姿 + Forceのトーマ(第二形態)
ディアーチェ:”UQ HOLDER!”の雪姫ことエヴァンジェリンの氷の女王
リニス:教師服っぽいバリアジャケット + Fateのセイバー・リリィ
・こっからが存命の野郎共
レヴィ:”ネギま”の古 菲(チャイナ) + ネギ(雷天大壮)
スペリオルダークネス:スぺドラSR
雪菜:”SAO”のキリト(袖なしVer.)
宗助:Fate Prototypeのランサー