魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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今回はアリシュコンビのバトルシーン。
キーワードは『力』と『炎』です。


神器覚醒

聖龍と紫電を司る魔女(アリシア)闇氷の女皇(ディアーチェ)の戦闘は、奇しくも同じ攻撃……【デバイス】を用いた斬撃のぶつかり合いによって幕を開いた。

白銀のハルバートと化した【魔女の箒(ヴィントブルーム)】が残光を煌めかせながら幾閃もの刺突を繰り出せば、悠久氷河を纏った【闇の十字架(エルシニアクロイツ)】が演舞の如き華麗な軌跡を描いて振るわれ、全てを防ぎきる。

突きの豪雨が降り止めば、息切れした魔女へお返しとばかりに繰り出されていく氷の礫。

決して溶けることの無い悠久氷河と同じ特性を持つソレは、空気中で周囲の水分を吸収して巨大な氷柱へと姿を変える。

雪崩を思わせる怒濤の勢いで迫り来る氷柱の軍勢を前にして、されどもアリシアの顔に悲壮は微塵も存在しなかった。

カツン、とレガースの踵が床を蹴り……雷光が昇る。

数十にも上る氷柱に対し、アリシアの選択は回避でなく迎撃。雷で構成された翼を羽ばたかせて宙に浮かび上がると、鋼鉄の装甲に包まれた両足が鞭のように振るわれ、迫り来る脅威を無慈悲に蹴り砕いていく。

雷を纏った蹴撃は、鋭さ、破壊力共に迅雷と呼ぶにふさわしいものだった。右、左、右――重力を感じさせない優美な舞を踊りながら、レガースに記された龍の眼が輝く度に僅かな残滓を残して放たれる一撃が氷柱の事如くを粉砕して見せた。

 

「今度はコッチからいくよっ!」

 

着地すると同時に膝を折り曲げ、体勢を低くしながら溜め込んだエネルギーを一気に解放。

反発力と魔力強化の恩恵を受けた脚力で疾風の如き勢いで距離を詰めべく駆け出す。

初手の交叉でディアーチェの近接能力は大体把握できた。故の接近戦。

近接戦闘能力は自分の方が圧倒的に勝っていることを確信したが故の判断だった。

 

――そもそも、当人たちの魔法資質から遠距離攻撃を得意とするアリシアとディアーチェ。

 

差異と言えば、アリシアが高火力・高機動を伸ばしたが故に護りが薄く、ディアーチェは【紫天の魔導書】に記された強力な魔導を行使しする故に演算時間を確保しやすい遠距離戦を主体とする魔導師だ。

特にディアーチェは、近接戦闘を護衛役(レヴィ)に一任し、戦闘時の役割分担を明確にすることで能力を発揮するタイプ。

最低限の自衛は出来るようだが、反撃に氷の刃の斬撃でなく氷柱による射撃(・・)を選択した時点で、近接戦闘を望まない事は明白。

管理局の室内型訓練領域に匹敵する広さを誇る閉鎖空間(ここ)ではあるが、【ゆりかご】という建築物の中である事実は変わらない。

つまり、下手に遠距離戦に持ち込めば攻撃の余波で【ゆりかご】にダメージを与えてしまうかもしれない。

ヴィヴィオが先の部屋にいる以上、それは最悪の展開だ。

リスクは向こうも同じはずだが、それを承知の上で戦場を此処に選んでいる以上、何らかの対策はとっていると考えるのが自然。

つまり、無意味に時間をかけすぎること、相手の得意とする距離での戦闘は手痛いしっぺ返しを受ける可能性が高いと考えられる。

故の短期決戦。だからこその近接戦闘。

一歩ごとに足の裏で魔力を爆発させることで瞬間加速を重ね、一条の閃光となったアリシアが、裂帛の気合いを込めた斬撃を繰り出す。

彼我の距離はもはやゼロ。空間制圧力はともかく機動力はさほど強化されていないディアーチェを此処で斃すべく、紫電の雷光を纏わせた戦斧が彫刻のように美しい氷の女王(・・・・)へ食い込み――、

 

ニタリ

 

心底愉快だと言わんばかりの狂笑を浮かべて爆散した。

 

「っあ!?」

 

飛散する氷の結晶が刃の如き鋭さをもってアリシアに襲いかかる。咄嗟に両腕を交叉させて顔への直撃を防ぐものの、薄い氷の膜が幾重にも重なって構築された美しくも恐ろしい刃が魔女の肌を容赦なく切り刻んでいく。

腕に突き刺さり、鮮血が舞う。だが、耳に届くのは鮮血が床に零れ落ちる水音ではなく、硬質な何かが落下し、砕け散る音だった。

両腕に走る鋭い痛みに表情を歪ませたアリシアの視線が下げられる。彼女の足元には、砕け散ったガラス細工のように細かい真紅の欠片が散乱していた。「何だろ、アレ?」 と疑問符を浮かべる彼女の双眸が、直後に両腕へ襲いかかった痛みによって、驚愕で見開かれることとなった。

 

「腕が……凍る!? っく、そう言う事なんだねっ」

 

両腕を包むウェディンググローブのような手袋が凍りついていくのを見て察したアリシアの雷翼が彼女を包み込んだ。

彼女の一部でもある雷翼が本人を傷つけることはなく、雷が内包する熱エネルギーによって凍結寸前だった両腕を氷の呪縛から解き放つ。

だが、息を抜く暇など与えないと言わんばかりに、アリシアの直感が警告を発する。

本能の叫びに従う様に、翼へ魔力を注ぎ込んで硬度を増し、頭上を覆う天蓋のように勢いよく広げた。

瞬間、上空から怒濤の勢いで降り注ぐ魔力波動。

その正体は、氷雪系付与術式によって氷の属性を加算された砲撃魔法【アロンダイト】。

ディアーチェが得意とする中遠距離魔法の一つだ。

オリジナルとも言える八神 はやてと同クラスの魔道師が放った一撃は並みの魔道師の数倍もの強度を誇る障壁すら容易く打ち破る破壊力を秘めていた。しかしそれでも、アリシアの護りを貫くには至らない。閉じられていた翼を勢いよく開き、雷まじりの豪風を巻き起こして魔導砲を消滅させる。一見するとレオタードのように見える扇情的なバリアジャケットに傷ひとつなく、悠然と立ち上がりながら飛翔するディアーチェを睨み付ける。

 

「ていや!」

 

アリシアが気合いと共に白金のハルバートを一閃。瞬間、弧を描く魔力刃が天に座す氷の女皇目掛けて撃ち放たれた。

 

「はっ! そんな直線的な攻撃が我に通じるとでも思っておるのかっ」

 

侮蔑を隠そうともせず、万物を睥睨するかのごとき笑みを浮かべて迎え撃つディアーチェ。

余裕の表れか、やおら懐から取り出した飴玉を口の中へ放り込み、バリバリと噛み砕きながら片腕を突き出して魔力を注ぎ込む。

展開された魔法陣は三角形と十字架を組み合わせたベルカ式魔法陣。魔法陣の最外周にある三つの魔法陣の回転が加速すると共に魔力を集束、魔導砲の発射体勢を整えていく。

だが、これから発動するのはただの砲撃なのではない。本命の攻撃に先立つように、中心の十字架から蛇を思わせる魔力鎖の群れが射出され、迫り来る紫光の刃を絡み取った。ギチギチギチと耳触りな音を鳴らせながら締め上げていく闇色の鎖に呑み込まれるかのように、魔力刃は粉微塵に粉砕されてしまう。

氷の矢じりを持つ蛇は更なる獲物を求めるかのようにアリシアへ狙いを定め、怒濤の勢いで襲いかかる。対象を捕縛した上で無慈悲な砲撃を打ち込む魔法なのだと理解したアリシアは、即座に移動を開始。

縦横無尽に襲いかかる蛇の如き鎖が触れることも叶わない卓越した回避能力を以て悉くを捌ききる。

 

「チッ! 意外と素早い……! だが、逃げ道は塞いだぞ!」

 

直接捉えることは困難とみたディアーチェが舌打ちを放つ共に術式を操作。捕縛から包囲へと切り替える。

アリシアの周囲を旋回させるように鎖で覆い、彼女のスピードを殺す。蛇の竜巻の中心部にいるような錯覚を覚えるアリシアの頭上をとったディアーチェが、引き絞った氷の槍を魔法陣に突き刺し、叫ぶ。

 

「【バルムンク】!」

「っ!? あれはマズ……!」

 

撃ち放たれる三つの集束砲撃が鎖の竜巻と言うライフリングを通過することで貫通力を増幅させながら、アリシアへ襲いかかる。

流石に正面から受け止めるのは不利と判断したアリシアの顔に焦りの色が浮かび上がる。

 

「ちいっ! 五連多重魔導障壁、発動ッ!」

 

両手で握り締めたハルバートの切っ先を流星と化して迫り来る砲撃に向け、ラウンドシールドを連結させたような多重魔力障壁が発動。

防御の有効範囲が狭い故に、機動力を売りにするアリシアには使いどころの難しい術式だが、逃げ道を塞がれたこの状況下ではやむなしと判断したのだ。

ぶつかり合う砲撃と盾が軋みをあげながらせめぎ合い、激しいスパークをほとばらせる。

障壁が次々に破壊されていくのを自覚し、【デバイス】を握るアリシアの手に力が籠る。

永遠にも思えるせめぎ合い。だが、終わりは唐突に訪れた。

ふっ、と霧散するかのように障壁にかかっていた負荷が消失。

思わず「え?」 と気を弛めてしまったアリシアの耳に、鋼鉄の蛇が地を這う音が届く。

それの正体に気づき、慌てて白金のハルバートを振るうものの、紙一重の差で手遅れだった。

 

「――ぁ」

 

鮮血が、飛ぶ。

ぐらりと倒れこんでいく身体。視線の先で宙を舞う、自分の――『脚』。

現実を脳が理解した瞬間、文字通り身体を引き裂かれた激痛がアリシアを襲う。

下唇を噛み締め、込み上げてきた悲鳴をかみ殺す。

流れ出しそうになる涙を理性で押し殺し、己が片足を奪い去った【氷の鎖】ごと床にハルバートの石突を突き刺すことで支えにして、無様に倒れることを拒絶する。

 

「むぐむぐ……っくん。存外にしぶとい奴め。諦めればそこで永久の眠りに落ちることができると言うものを。我が舞台、【氷結呪圏】に足を踏み入れた者が無事でいられるはずがないと言うのに」

 

新しく取り出した飴玉を噛み砕き、呑み込みながら呟くディアーチェ。

【氷結呪圏】とは自身から放出された魔力を周囲の空間に浸透させることで大気中の水分を即座に氷結させることが可能となる特殊なフィールドだ。結果魔法との違いは、あくまで術式兵装の付随効果であり、他者からは感知されにくい陣地作成とも呼べるスキルであること。

事実、電磁波を周囲に張り巡らせることで感知レーダーを形成していたアリシアに気づかれずに氷の鎖を生成、地面を這うように死角から忍ばせて片足を切り落とすことに成功している。

身体欠損すれば心折れるかと甘く見ていたディアーチェだったが、アリシアのメンタルは予想以上に屈強なシロモノだったらしい。

 

「しかたない。片足で止められると言うのならば――総てを氷結させるまでよ」

 

視線の先に映る、未だ心折れていないアリシアを睨めつけながら片腕を振り上げ、術式を起動させる。

 

「【フリューゲルリニアー】!」

 

腕を振り下ろした瞬間、大気中の水分を氷結させた氷の矢が生み出され、満身創痍のアリシア目掛けて射出される。

フェイトの【フォトンランサー】に匹敵する速度で迫り来る氷の矢を前に、アリシアの翼が刃のように硬質化してこれを迎撃する。

氷の矢と翼が接触した瞬間、その部分が雷というエネルギー体である翼が凍結し、砕け散っていく。

非物理存在である雷すら凍らせる異能を秘めている氷の矢に当たるわけにいかない。

迎撃を翼のみで賄いつつ、白金のハルバートを杖代わりにしてどうにか攻撃を捌いでいく。しかし、片足を失ったダメージから回復しきれていない状態で、しかも視界を埋め尽くすほどの魔矢の軍勢を前にすれば、流石のアリシアも意識をそちら側へ集中さえざるを得ない。

そう、ディアーチェの狙い通りの展開に(・・・・・・・・)

 

「くっくっく……! 天よ怯えろ! 地よ恐れ戦くがよい! これぞ、我が修練の証! 何気に我よりおっぱいデカくなりくさったシュテル(あんちくしょう)の鼻を明かすために生み出した最恐無敵! 空前絶後の大魔導なり!」

 

背後でどばーん! と幻影の魔力爆発を自作自演しながら、ディアーチェが高笑いする。

“残念な、できない娘”扱いされた悔しさと切なさと心苦しさを晴らすべく、【紫天の書】の能力を最大限に利用して産み出した最強の魔法。

敵う事ならば、シュテルにぶちかましてやりたかったが仕方ない。

両手を広げ、天井に開けられた大穴から覗く天を見上げながら意識を集中させ、術式を構築していく。

詠唱は必要ない。この魔法に、余計な装飾など不要。ただ一言、その名を告げるのみで良い。

氷の矢を捌ききり、ディアーチェへと向き直ったアリシアが怪訝そうな表情を見せることも気に留めず、ただ、心の内より湧き上がってきたコトバを綴る。

 

「【永劫悠久なる(エターナル)】」

 

それは、避けること敵わぬ『死』の言霊。それは、世界を壊す禁断の魔法。

 

「【覚めること無き(フォース)】」

 

決して覚めること無き悠久の凍土の深遠へと誘い、存在を、魂すらも氷砕する究極絶対最強なる超技。

それが今――真なる使い手(現役中二病患者)の手によって発動される!

 

「【白亜の世界(ブリザード)】ォ!!」

 

その瞬間、アリシアと周辺の空間が凍結した。

 

たった一言。

たったそれだけで、部屋が、大気が、生命の営みが――……凍結したのだ。

 

「ぁ――――」

 

驚愕も、悲鳴も、困惑すら顕わにすること敵わぬまま、アリシアの全身が、魂が氷結されていく。

抵抗(レジスト)することもできない。なぜなら、コレはそう言うものだから。

発動すれば最後、『相手は死ぬ』。異なる異世界であろうとも、絶対不変の真理を覆すことは誰にも出来ないのだ。

禁断にして回避不可能なる大魔術。人は戦慄と敬意を以てこのように呼ぶ。

 

氷結系(わたしのかんがえた)絶対究極魔法(さいきょ~のひっさつわざ)】――で、あると!

 

「フゥワァハハハハハハーーっ! 見よ、これこそ我が最強の切り札っ! 恐れ戦き、崇め奉るがよいわぁあーーっ!」

 

ハイテンションで高笑いするディアーチェ。

精神安定剤入りの飴玉が切れた反動か、普段の三割増し位の残念ぶりを顕わにしている。

高貴な血脈を継ぎし姫君といった格好とのギャップが果てしない。

唯一ツッコミを入れられるはずのアリシアは、氷の監獄に囚われて意識を今まさに奪い去られようとしていた。

 

「ごめ、ん……ダー、く……」

 

朦朧とする意識中に浮かび上がる愛する人の幻影に手を伸ばしながら、アリシアの意識は闇に堕ちていった。

 

 

――◇◆◇――

 

 

【システムU-D】

 

砕け得ぬ闇、アンリテッドダークネスと呼称される無限魔力生成機構。

その名が示す通り、次元世界を滅ぼして余りある膨大な魔力を産み出す永久機関の一つ。

 

【ECウイルス】

 

魔力粒子の結合を分断・分解することで魔導科学の総てを無に還せるほどの危険性を秘めた戦略兵器。

その正体は、魔導殺す猛毒とも呼ばれる超危険指定の人工ウイルス。

性能や効果にこそ違いはあれど、両者とも一般的な魔導師では抗う事も出来ない絶対的な死の具現であることは言うまでもない。

もし、そんな危険物を兼ね揃えた規格外が存在するとしたならば――相乗効果で跳ね上がった危険度は如何ほどのレベルなのであろうか。

 

肌で感じる圧倒的威圧感。

感知魔法を発動せずとも理解させられる強大過ぎる魔力波動の濁流に抗いながら、シュテルは【ルシフェリオン】を握る腕に力を込めていく。

睨み合う輝焔の天女と猛毒を振り撒く破壊兵器。

彼女たちが相対するのは【ゆりかご】の外、クラナガンの遥か上空。

ここじゃおもいっきり戦えないですねと軽い口調で呟いたユーリが、砲撃型【ディバイド・ゼロ】によって天井に大穴を開け、戦いの舞台を替えたのだ。

高まる闘気が大気を震わせ、炎の燐光と鮮血の如き禍々しき魔力の残滓が空を闇色に染めていく。

阻む者のいない天空の闘技場で、袂を分けた両者がぶつかり合う!

 

「……行きます」

 

先手を取ったのはシュテル。誘導系射撃魔法【パイロシューター】を発動、三十二の炎熱属性を付与した魔力弾がユーリに襲いかかる。

【システムU-D】との戦闘時に注意すべき点は、無尽蔵に放出される魔力が彼女自身を覆う全方位障壁を形成していると言う点だ。

魔力攻撃はもちろん、魔力を込めた【デバイス】による打撃すら無効化されてしまう。

突破口は、障壁を貫通できる魔法を行使するか、障壁を無効化できるまで攻撃を叩き込み続けるかの二点が上げられる。

一定のダメージを蓄積させられれば全魔力を攻撃に転用する別形態に変身するため、魔力障壁が解除されるのだ。

故にシュテルは、障壁を削り取るために放った魔力弾に、障壁では防ぎきれない属性変換術式を組み込んだ。

システムそのものをスペックダウンさせる抗体プログラムを用意できれば一番よかったのだが、あの天災が何の対策も用意していないとは考えにくく、中途半端な策を講じても無駄骨に終わる可能性が高かったのだ。

だからこそ、正面からの戦闘で打ち倒す覚悟を以て【ゆりかご】に乗り込んできたわけなのだが、彼女の計算を狂わせる新たな因子の登場に歯噛みせずにいられない。

シュテルのざわめく内心を知ってか知らずか、防ぐそぶりも見せずに魔力弾の直撃を受けたユーリ。魔法の残滓が彼女の小柄な体躯を隠す。

しかし、片腕を振るって魔力煙を霧散させたユーリはやはり無傷であった。

彼女の身体に触れた瞬間、【パイロシューター】は悉く霧散・消滅させられたのだ。

先程の魔力煙も、消滅させられた魔法の残留物でしかなく、攻撃が届いたわけではない。

だが、先の攻撃は障壁で無効化したのではない。

ユーリの体内に存在するECウイルスによって、着弾した魔力弾に纏わせていた炎ごと総てを分解したのだ。

 

「予想以上の厄介さ。これは一筋縄ではいきそうにありませんね」

 

EC感染者は接触するだけで魔力結合を分断できる。

つまり、【デバイス】だろうとバリアジャケットだろうと、魔導科学の産物は彼女に触れた瞬間、粉微塵に破壊されてしまうのだ。

おまけに、実体を持たない柔軟性を有する魄翼は極めて高い近接戦闘能力を宿す。

彼女に接近戦を挑むのは無謀。いかに強化された【ルシフェリオン】であろうと、数合切り結ぶのが関の山だろう。

ならば、取れる手段はたった一つ……。

【デバイス】を遠距離砲撃形態に変形させながら距離を開けていくシュテルを見て、ユーリは彼女の狙いに気づく。

 

「徹底した遠距離砲撃の打ち合いを御所望ですか? 確かに悪くない作戦ですけれど、私たちには通用しませんよ? ――銀十字、【ハンドレッド】発動」

【ゼロ因子適合者からの発動承認を受領。攻撃態勢に移行】

 

左手の楯に納められた【銀十字の書】の表紙が捲れ、数十もの頁が舞い上がる蝶の群れのように飛散し、ディバイダー996の銃口を覆う球体を形成する。

 

「【Silver Stars “Hundred Million”《 シルバー・スターズ・ハンドレッドミリオン》】」

 

魔法を発動させているディバイダー996のトリガーを引くと、銃口から白銀の閃光が迸り、宙に舞う頁に突き刺さる。

撃ちこまれた魔力砲は頁を介して破壊力と弾数を増やし、瞬く間にすぺての頁から数千にも昇る魔力弾が撃ち放たれた。

それはまさしく天をも覆う白銀の流星群。

迫り来る弾幕の嵐に舌打ちを零すものの、シュテルの顔に悲嘆の色は無い。

圧倒的火力による飽和攻撃に対し、シュテルはカートリッジの強化を受けた砲撃による正面突破を図る。

襲いくる光の嵐を冷静な眼で見据え、術式を起動させていた魔法を発動させる。

 

「【フレアバースト】!」

 

放たれたのは巨大な火炎弾。

小型の隕石の如き威圧感を放つ紅蓮の弾丸が流星群の中へ撃ち込まれ――炸裂。

拡散された炎の濁流に呑み込まれ、白銀の流星の一部に風穴を開けてみせた。それはまさしく、この状況を打破する勝利へと道筋。

瞬間、焔翼を羽ばたかせ、突破口を塞がれる前に自ら飛び込んでいく。

削り取られた空白を埋める様に旋回して襲い来る弾幕の隙間をすり抜ける様に捌ききってみせたシュテル。その刹那、空薬莢が宙を舞う音をユーリの耳が捕えた。

 

「【ディザスターヒート】!」

 

抜き打ちの炎熱系集束砲撃三連撃。

白銀の弾幕を強引にぶち破ってきた真紅の砲撃。一撃目が防御に構えたディバイダー996の横腹を叩いて弾き、二撃目をユーリに直撃させることで魔力分断のために費やしている演算領域(リソース)を障壁維持に集中させる。

その状況こそがシュテルの狙い。ECウイルス制御中枢装置であるリリィは未だ幼い故に魔力分断の演算に若干のタイムラグが発生している。

【パイロシューター】の牽制の際、ほんの僅かにだが鉄壁の障壁が揺らいだことをシュテルは見抜いていたのだ。

そう、二撃目まではあくまでも囮。本命の三撃目を叩き込むために繰り出した、道を開くための布石。

しかし、【ディザスターヒート】が三連撃であることを知るユーリが、ただでやられるはずもない。

 

「ルビーさん直伝! 砲撃白羽取りっ!」

「はい!?」

 

なんと、本命の集束砲に対して魄翼を左右から挟み込む様に叩きつけ、砲撃を受けとめてみせたではないか。

魔力を弾く魄翼の特性を活かした奇策だったが、状況にうまく噛みあった事で最大限の効果を発揮する妙手に至ったらしい。

得意気に鼻を鳴らし、せっかくのチャンスを生かせず悔しがっているであろうシュテルの表情を見てやろうと顔を上げて――すぐ目の前まで迫り来ていた四撃目(・・・)の存在にようやく気づく。

だが、回避も防御も執行できる余裕は存在しなかった。

非殺傷設定を解除し、容赦なく殺意を乗せた一撃がユーリに突き刺さり、大爆発を引き起こす。

手ごたえはあった。

だが、これで終わるとも思えない。

静かに息を吐いて気配を探――るよりも速く、シュテルの脇腹に鮮血の如き赤きラインの奔る刃が突き刺さった。

 

「が……!?」

「【クリムゾンスマッシュ】……からの【シルバーハンマー】!」

 

斬られたとシュテルが理解するより先に、ユーリの人差し指がトリガーを引く。

白銀の砲撃に呑み込まれて吹き飛ばされるシュテル。【バリアジャケット】を容易く切り裂かれ、鮮血を舞い散らせながら砲撃から逃れて体勢を立て直すものの、振り向いた彼女の視界には逃げ道を塞ぐように展開された銀十字の頁片が舞い踊っていた。

 

――不味い!?

 

ソレが何を意味するのか瞬時に理解し、反射的に回避を試みる。だが、彼女の努力をあざ笑うかのように、シュテルの胸部へ臓器を抉る様な貫手が突き刺さる。

 

「っ!?」

 

痛みはない。だが、胸の前に展開された異空間転移門から引きずり出されていく歪な剣を目の当たりにして、シュテルの血の気が引く。

これは、ユーリの保有する攻撃手段の中で最大の攻撃力を誇る技の前兆。

心の闇を引きずり出し、武器として具現化させて対象を殲滅する恐るべき殲滅魔法。

その名は、

 

「【エンシェントマトリクス】……!?」

「残念。半分ハズレ、です」

 

左手で具現化した剣を引きずり出そうとしていたユーリの双眸が妖しく光る。

一瞬とは言え意識の外へ追いやってしまったユーリの行動にシュテルが気づいた時には、すでに彼女はディバイダー996を振り上げた後の事だった。

【エンシェントマトリクス】で具現化された剣はシュテルの心そのもの。故に、それを攻撃として放つのではなく、ディバイダー996で叩き割ったとしたら……どうなるだろうか?

 

「あっ……ぐ、うぅぅうう!?」

 

バキン! と甲高い音を立てて半ばから砕け散る心の剣。

それの残骸が光の粒子となって霧散していくと同時に、魂を切り裂かれるに等しい激痛がシュテルを襲う。

苦悶に満ちた表情で胸元を押さえ、込み上げてきた鮮血が吐き出される。

肉体へのダメージでも魔力ダメ―ジによる虚脱感とも違う、身体の奥にある大切な部分を引き裂かれたかのごとき筆舌しがたい痛みがシュテルの全身を蹂躙していく。

理性が激痛で埋め尽くされ、戦場にありながら動きを止めてしまったシュテルに生まれた致命的な隙。

そんな状態で、宙に舞い踊る頁片の中を突撃してきたユーリを迎撃など出来るはずも無かった。

 

「貴方との縁、ルビーさんとファーストさんの因縁。その総てを断ち切る刃となりて、万物悉くを虚無(ゼロ)へと還しますっ!」

 

一閃、二閃と振るわれる禍々しき大剣の残光がシュテルを切り裂いていく。

鮮血と悲鳴を上げて吹き飛ばされる彼女を逃すまいと、肥大化させた魄翼を羽ばたかせて刹那の間も空けずに彼女の後方へまわり込むと、両手持ちで構えたディバイダー996を逆袈裟に切り上げ、上空へと吹き飛ばす。

天高々と打ち上げられたシュテルを射抜く様にディバイダー996を掲げ、その刀身を囲う様に配置された頁片から注ぎ込まれた魔力が銃口に集束される。

 

「【ディバイド・ゼロ・エクリプス】!」

 

放たれる白亜の極光。森羅万象を両断する極限なる破壊魔導砲が天へと昇り、シュテルという存在全てを呑み込んだ。

 

 

――◇◆◇――

 

 

勇者とは救いを求める者の想いを繋ぎ止める者。

奇跡とは強き想いが現実の事象を上書きすることで発生する概念。

しかし、そんな理など『彼』からしてみればどうでもいい事でしかない。

光と闇をその身に宿し、希望溢れる未来を創造することも絶望に染まった破壊の力で万物を蹂躙することもできる存在は、実のところ身内に甘々な性格をしている。

そう、例えば……愛する家族が危機に陥った場合、己の魂の一部となった『武具』を躊躇なく貸し与えることも厭わないほどに。

天へと昇る光の柱。

事切れた鬼械の戦士の亡骸の上で、瞼を閉じて己が内にある『ソレ』へ願った『彼』は、死の危機に瀕している愛しき彼女らを想い、呟く。

 

「まったく、何勝手に居なくなろうとしているんだ……うっかりさんどもめ」

 

見上げる先には天空に座す【聖王のゆりかご】。

ずっと一緒にいると約束を交わした彼女たちの背信に、『彼』は見る者がドン引きする程見事な“いじめっこ”な笑みを零す。

 

「俺は独占欲が強いんだ。だから死んでも逃がしてやらない。だから、さっさと勝って戻ってこい――俺のところに」

 

かつて黄金の神へと至るきっかけをくれた少女たちへの借りを返すべく、黄金神の魂の欠片が天へと駆け上った――。

 

 

――◇◆◇――

 

 

闇に閉ざされた暗いセカイで、彼女は……彼女たちは『彼』の声を聞いた。

それは誰よりも愛しい『彼』の声。

いじわるで、性格が悪くて、意外と子供っぽくて……そして、時々すごく可愛い一面を見せてくれる。

始めは恩義を感じていただけだった。母を、仲間を救い、束縛から解放してくれた無二の恩人。

受けた恩を返すため、生死を掛けた儀式に挑む彼の手助けがしたくて杖を取った。

それが総ての始まり。

 

……いつからだっただろう。

彼への想いが恩義から恋へと変わったのは。

恋は程なくして愛へと変わり、心を重ねて身体を委ねる関係に至った。

後悔はない。むしろ幸せだった。大好きなヒトがいて、大切な親友がいて、愛くるしい愛娘が出来た。

そう……家族が出来たのだ。

幸せとはああいったものを指すのだろう。どんな言葉を重ねてもうまく言い表せられない。

それほどまでに――幸せだった(・・・)

 

――――まて、何かがおかしい。

 

閉じようとした意識が違和感を感じた。

奈落の闇へと堕ちていくだけの思考を繋ぎ止め、彼女たちは違和感の正体を探る。

凍えそうな寒さに全身を支配されながら、焼ける様に熱い激痛に全身を苛まれながら、奇跡とも呼べる時間を注ぎ込んで思考を巡らせていく。

 

「幸せ――」

「――だった(・・・)

 

そして二人は思い出す。

ダークネスの信念……総てを敵に回してでも貫くと決めた不退転の『決断(コトバ)』。

 

『生きる』

 

単純にして明確。過去を背負い、現実(イマ)を駆け抜け、未来を掴み取る。

故に彼は、立ち止まらない。

思い出に浸ることもある。悩み、立ち止まることもある。それでも進むことを、歩みを止めることはない。

それは彼自身が己の魂に刻んだ誓約。

他の想いを降し、未来を喰らい、己が我欲を貫くためのチカラと成した彼が消滅(きえ)ていった参加者(どうほう)にできる最後の手向けだからと、彼は寂しそうに笑っていた。

あの時、自分たちは誓い合ったではないか。

誰よりも強く、それ故に誰よりも孤独な世界を往く彼を独りにしないと。

彼と言う存在が終焉(おわり)を迎えるまで、ずっと傍らに存在()り続けようと。

彼を想い浮かべるだけで闘志が再燃する。折れていた筈の心に光が生まれ、戦意がとめどなく溢れ出してきた。

 

「なさけない、なぁ……私」

 

零れ落ちるのは自分自身への罵倒の言葉。

たった一度の敗北で心を折られ、全ては終わった事だと諦めそうになっていた。

あまりの情けなさに失笑すら浮かぶ。

どうして《新世黄金神(カレ)》の双翼たる自分たちが、生きることを諦めようとしている――!?

 

「こふっ……! あは、痛い……痛いって感じられるんだ……そっか、私まだ生きてるんだね」

 

込み上げてきた血を吐きだし、自分がまだ『生きている』ことを改めて自覚する。

 

「ぁは……はは……なんて、無様……!」

 

折れそうになっていた心に炎が灯る。

死んでいない、それはつまり、まだ消滅(まけ)けていないということ。

《新生黄金神》の眷属たる彼女たちは生命力が途切れた程度で終わりを迎えない。

スペリオルダークネスから流れ込む膨大な『魔法力(マナ)』を己の生命力へと変換する彼女ら自身の想いのチカラが尽きぬ限り、何度でも立ち上がることができるのだ。

それは“絆”。永遠(とわ)に在り続けると願い、求め合った彼らの間に結ばれた完全無欠の(アイ)……!。

震える心が強き想いを産み出し、『魔法力(マナ)』が生命力へと還元されて肉体を満たしていく。

傷は癒えきらない。けれど、そんな事は問題じゃない。

自分たちはもう立ち上がれる。勝利を掴み取るために戦うことができる。

ならば何故……いつまでも暗闇の世界でたゆたっている?

それはきっと――

 

「来た」

 

甘々な彼の優しさを頼りたくなったから……だろう。

暗い暗黒の海を切り裂く様に飛来した光の球。

光に照らされる世界に色が戻り、すぐ傍らにいた親友の存在を感じ、視線を交わしながら苦笑する。

考えることは同じだったと言う事。やっぱり気があうなぁと表情を弛めそうになった彼女たちを叱咤するかのように、脈動を繰り返す光がその姿を変えていく。

現れたのは光輝く石版。見慣れない文字らしき祝詞が刻み込まれている古ぼけた石版だった。

しかし、アリシアとシュテルはソレの正体を感じとり、手を伸ばす。

己の魂の欠片となったソレすらも託してくれる、彼の想いに応えたくて。

石板に浮かぶ文字、ミッドチルダの言語ではないソレの意味を当たり前のように理解した少女たちは声を揃えて唱える。

石板に秘められし『神器』を解放する祝詞を!

 

OONOHO(オーノホ)――」

 

解放するは破邪の炎。

 

「――TIMUSAKO(ティムサコ)――」

 

顕現するは聖なる(シズク)

 

「「――TARAKIT(タラーキー)!!」」

 

呼び覚ますは力在る心!

 

闇は払われ、光が世界を染め上げる。

黄金のココロを宿す双翼の乙女たちの想いに応え、《神》なる武具が、ここに降誕する――!

 

 

――◇◆◇――

 

 

「な――っ!?」

 

困惑の声を上げたのは果たしてユーリとディアーチェのどちらだったのか。

万物を消滅させる必滅奥義【ディバイド・ゼロ・エクリプス】を受けて絶命していた筈のシュテルが。

絶対零度すら超える極限凍結魔導によって原子レベルで空間ごと氷砕されたはずのアリシアが。

眩い輝きを放ちながら立ち上がる姿を理解できなくて、ユーリとディアーチェは揃って驚愕の表情を浮かべた。

実際の現実として、彼女たちは確かに死んでいたはずだ。

だと言うのに、どうして――……!

 

「なん、ですか……その力は……ッ!」

 

戦慄し、驚愕に表情を歪め――恐怖する。

天へと掲げた【ディバイダー996】の刃の先、太陽を背負ってユーリへ向けて輝く炎を纏ったシュテルが襲い掛かる。

 

【ひっ――!?】

 

迫り来るシュテルの背後に黄金の三つ首龍の影を幻視して、ユーリと一身合一しているリリィが悲鳴を上げた。

何故、突如としてシュテルが復活を果たしたのか、ユーリには見当もつかない。

だが、

 

「なるほど、よくわからない奇跡を起こしたと言う訳ですね。さすがはデタラメ一家と称賛すべきでしょうが――甘いです」

 

瞠目し、心を落ち着かせたユーリの眼が開かれ、獲物を握る手に活力が戻る。

死に体の敵が奇跡のチカラで復活を果たした。

なるほど、物語の展開としては鉄板だ。

しかし、現実は空想と大きく異なる点がある。

それはご都合主義など存在しないという非常なる事実。

ECウィルスに感染することで鋭敏化したユーリの魔力感知能力が、シュテルに蓄積されたダメージの大半がいまだ残っていることを感じとる。

そう、復活した事実に目を取られていたが、彼女は未だに半死半生の死にぞこないでしかないのだ。

ならば、恐れる必要がどこにある?

 

「貴方が『死』という現実を乗り越えたと言うのなら、私は新たな『死』という未来を送ってあげましょう!」

 

肥大化する魄翼が巨大な鉤爪へと姿を変え、上空から強襲を仕掛けてきているシュテル目掛けて振り下ろされる。

触れただけでも致命傷を与えて余りある暴虐の具現が、炎の流星と化したシュテルを捉え――陽炎のように霧散した幻影を貫通する。

 

「なっ!?」

 

驚愕の声と同時、ユーリの傍らに焔のように揺らめく魔力の粒子が集まり、形を作り上げて――不敵に笑う天女を顕現させた。

 

「私は焔を司る存在。大気の熱を操作して幻影を産み出すことも出来るんですよ」

 

復活直後に焔を纏ったのは、総てこのための布石。

ユーリの認識を誤魔化せる程度の魔力スフィアを核に己の幻姿を纏わせ、意識を逸らす。

同時に、周囲の風景に模した幻影の衣を纏ってまわり込み、懐に飛び込む。

戦闘開始から今に至るまで、シュテルが遠距離戦に執着していたのはユーリに『シュテルが近接戦闘を避けている』と思い込ませるための布石。

そう、全ては起死回生(この時)のために。

すり替わっていた幻影に意識を奪われていた事実に見開かれるユーリの眼。

【銀十字の書】が自立防衛機能を発動させてページを散布しようとするが、

 

「遅いですよ! ここは私の間合いです!」

 

【ルシフェリオン】を銀十字のページの隙間を射抜くように繰り出してユーリの脇腹へ叩きつけ、カートリッジをフルロード。

瞬間、爆発的に高まった魔力が環状魔法陣を形成し、聖剣と融合したことでより高純度の焔へ至った魔導を解き放つ!

 

「疾れ、明星。すべてを焼き消す炎と変われ!」

 

突き刺さった杖先から怒濤の勢いで撃ち出された極大の魔導砲。灼熱の奔流に曝されながらも足掻くユーリの努力をあざ笑うかのように、片手でカートリッジをリロードしたシュテルの口元が嗜虐に吊りあがった。

 

「逃がさない……! 【真・ルシフェリオンブレイカ―】!!」

 

追撃の二射目は初撃を凌駕する極大の魔導砲。焔を纏った二連集束砲撃が、EC感染者の特性すら凌駕してユーリの全身を焼き焦がしていく。

 

「ぐっ、ぎぃ……! こ、この程度の魔力で私を倒せるとでも――」

【ゆ、ユーリさんっ!】

 

魔導殺しの力を解放し、浄化の炎に抗うユーリに届く悲鳴じみたリリィの叫び。

彼女の意志が流れ込み、その理由を悟ったユーリの双眸が、今度こそ限界まで見開かれた。

 

「な――!?」

 

絶句する彼女の視線の先、砲撃を終えたシュテルの周囲を覆う様に展開されているのは曼荼羅のように空中を埋め尽くす多重魔法陣。

魔法力(マナ)』流れ込むと炎へと変換させた己が魔力を合一させ、より高次元のチカラへと昇華させていく。

おびただしい魔法陣の制御を行うのは彼女の半身たる【ルシフェリオン】。

されど、その姿は本来のモノと大きく異なったカタチでそこに在った。

巨大槍という形態こそ大きな違いはない。目を惹くのは燃える焔を形どった歪な刀身。

デバイスコアを覆う金色の十字架から伸びる燃え上がる炎をそのまま刃としたかのようなソレは、まさしくダークネスより授けられた破邪の聖剣『炎の剣』。

 

【ルシフェリオン】進化形態 【ルシフェリオン・火之迦具土神(ホノカグツチ)

 

真なる継承者である《新世黄金神》にしか振るうことが出来ない筈の聖剣を、眷属とはいえ【デバイス】との融合すら果たせた理由。

なんと言う事はない。所有者であるダークネス本人が、家族に力を貸してほしいと『神器』たちへ頼んだからだ。

魂の一部といえど、聖なる武具である『神器』には意志が宿っている。

彼らは、ダークネスの揺るがぬ想い……家族を助けて欲しいと言う、普段は恥ずかしがって絶対に口に出さない真っ直ぐな願いを聞き入れ、自らの意志で彼女たちに力を貸しているのだ。

『聖剣』を通して彼の想いを感じとり、胸の中が暖かくなってくる。

この戦いが終わったら思う存分に甘えよう。

生き残る理由がまた出来たことに不敵な笑みを浮かべ、瞑想していたシュテルの眼が見開かれた。

 

「術式構築開始。破邪顕正、万魔覆滅、汲々如律令!」

 

祝詞によって集束・増幅された魔力が魔方陣ごと刃を包み込み、圧縮されていく。

神の武具だからこそ耐えられる膨大過ぎる魔力は空間を歪め、世界の理すら捻じ曲げる圧倒的すぎる暴虐を産み出す。

顕現せしは天地開闢にも匹敵する極限のチカラ。

創造と破壊。《新世黄金神》を象徴する相反した概念を具現化させた、究極にして極大なる魔導の極み。

惑星への被害を抑えるために上空へ吹き飛ばしたユーリの魔力を感じとり、捕捉する。

【ルシフェリオン】を囲う様に展開させた魔方陣を共鳴させることで、距離という概念を無視した回避不可能という無慈悲な一撃が今……解き放たれる!

 

「撃ち抜きなさい! 『梵天極光・天照(ブラフマストラ・リグヴェーダ)』――ッ!」

 

放たれたのは燃え盛る焔の飛翔槍。

無慈悲なる破壊と邪悪を浄化する破邪の概念を編み込んだ、輝焔の天翼全霊の一撃。

回避を試みるユーリの想いをあざ笑うかのように、物理法則を無視した鋭角な軌道を描いて着弾した焔は、内に秘められた破壊の暴威を余すところなく解放して総てを消滅させていく。

遥かな天空で、輝く炎が世界を燃やした――!

 

空間すら焼き尽くすほどの猛威を振るうソレは、通常空間であれば間違いなく星の軌道を歪ませるほどの威力が籠められていた。

 

「……そっか。これで終わりなんですね」

【ユーリさん……ごめんなさい。私がもっと上手く出来ていたら――】

「ストップですよ、リリィちゃん。貴方は精一杯戦ってくれました……もちろん私もね。私たち二人で負けちゃったんです」

 

痛みすら感じない焔に包まれながら、消えていく相棒に優しい言葉を贈るユーリ。

破壊衝動は完全に消え、どこか清々しさすら感じてしまう。

 

「ルビーさんも逝っちゃったみたいですね。なら、私もお供してあげないと……あの人、意外とさみしんぼさんですから」

【あの、えっと……じゃあ、私もご一緒します。あの、その、パートナー、ですから】

 

おずおずと『我儘』を口にしたリリィに、ユーリは天使を思わせる優しい笑顔を浮かべて頷く。

 

「もちろんです。それじゃあ、今日からリリィちゃんは私の後輩さんですよ」

【……! はいっ!】

 

兵器として、リアクターとしての自分だけじゃなく、リリィとしての役目を貰えた。

そんな当たり前のことが嬉しくて、消滅への恐怖が何処かへ吹き飛んでしまう。

初めてかもしれない笑顔を浮かべているであろうリリィを抱きしめる様に自分の二の腕を抱きしめ、眠る様に瞼を閉じる。

 

――ディアーチェ、レヴィ、ごめんなさい。先に逝ってます。

 

仲間への謝罪を口の中で呟きながら、心のどこかでまた会えるような予感を感じるユーリに涙は無い。

 

――シュテル、どうかあなたの望むままに生きてくださいね。

 

勝者への手向けを最後に、ユーリ・スカリエッティとリリィ・シュトロゼックの存在は、この世界から完全に消滅した。

 

 

――◇◆◇――

 

 

「ふん、どうやって復活したのかわからんが……所詮は無駄な足掻きと言うものよ! 我の超絶無敵な闇と氷を組み合わせる秘奥義の前に、貴様如きが贖えるはずもないのだからなっ!」

 

腰に手を当て、反対の手でアリシアを指差しながら宣言するディアーチェ。

四肢の欠損を含めたすべてのダメージから完全に回復した理屈は皆目見当もつかないけれど、それでも自分の優位は揺るがないと言う自負が、強気な態度を崩さない。

ディアーチェの兆発に、自分の周囲を浮遊する『力の楯』を小型化させたような自立機動兵装(ビット)の能力を読み取っていたアリシアが閉じていた眼を開き、もう二度と負けないと言う強き覚悟を秘めた視線が傲慢に浸る女皇を射抜く。

 

「その言い回し……レヴィ(おバカ)っぽいよ?」

「げふああっ!?」

 

ディア、吐血。

胸元を押さえて苦悶に表情を歪め、数歩後ずさりする様が妙にかっこよく見えるのが救いが残されていると言うべきか。

明らかに隙だらけの体を晒すディアーチェに、容赦を捨て去ったアリシアが躊躇なく襲いかかる。

広範囲の遠距離攻撃を得意とするディアーチェに接近戦を仕掛ける戦法は先程までと同じ。

だが、前回とは明らかに異なる点が存在した。

 

「なっ……速い!? これはレヴィ並みかっ!?」

 

全身雷化したレヴィと同等の速度。文字通り金色の閃光となったアリシアは大気を切り裂き、煌めく残光すら見えぬ超神速の速力を以て、ディアーチェへ迫る。

眼を剥き、慌てて武器を構えようとするが、その時にはすでにアリシアがディアーチェ目掛けて白金のハルバートを振り下ろした後だった。

紫電を纏った白銀の一閃は、氷と闇を統べる女皇の左肩から右脇腹にかけて袈裟切りに両断。

さらに軸足を起点に身体を回転させて遠心力を上乗せした横薙ぎの追撃で計四つの肉塊に切り裂かれた。

だが、この程度で終わるならば女皇など名乗れない。

切り離された肉体を即座に氷の粒子へと変換させ、魔力風に乗せて集束・再結合させて身体を再生させるディアーチェ。

だが、痛みは感じていたらしく、青白い美貌に苦悶の色が浮かぶ。

 

「おのれぇ……! 近寄るな小娘ッ!」

 

激昂に駆られ、速射砲の如き勢いで魔力弾をバラ撒く。

一発がAランク魔導師の砲撃魔法に匹敵する破壊力を秘めた弾幕の嵐を前にして、アリシアの心は凪を迎えた海原のように落ち着いていた。自分を護る様に追随する『力の楯』。

そこから流れ込む優しい“癒しの力”を感じて口端が緩む。ダークネスからの贈り物である神器の秘めたるチカラ、それは“癒し”。

いかなる傷をも瞬時に回復させるチカラによって、今のアリシアは常時回復魔法がかけられている状態なのだ。

それ故、全身を雷のフィールドで覆い感知能力を向上、雷翼による変則的高速機動の実現に加えて、自らの肉体に電気を流すことで肉体の反射速度を限界以上に高めることも可能となったのだ。

普段の彼女であれば、いくらかのダメージを受けてしまいここぞと言うときに限って使用する奥の手だった。

しかし、『力の楯』の加護を受けた現在のアリシアならば、ダメージを蓄積させること無く能力を発動し続けることができる。

おまけに痛みを軽減する効果まであるらしく、筋肉の疲労や神経を焼き焦がされる痛みもほとんど感じないでいられる。

 

――ホント、私にぴったりな神器なんだよ。ひょっとして『剣』と『鎧』もそう(・・)なのかな?

 

自分と同様に神器を受け取った親友と愛娘の姿を思い浮かべつつ、今自分のやるべき事に集中するべきかと意識を切り替える。

氷の弾丸と紫の雷が交差し、火花を散らす。

氷の礫と闇色の魔弾が飛翔し、紫の雷と白銀の斬閃がこれを切り裂く。

攻守が幾度となく入れ替わり、互いを喰い破らんと激しさを増していく応酬を制したのは、魔女の刃だった。

それまで宙を舞っていたアリシアが突如弾幕の隙間をすり抜けながら高度を落として着地するや、強化された脚力にものを言わせた踏み込みで弾幕の下をくぐり抜けるように疾走。

視線の上方に意識を集められていたディアーチェは一瞬だけアリシアの姿を見失い、攻撃の手を緩めてしまう。

焦り、魔力感知の感覚を頼りに反射的に射出された魔力弾を悉く叩き落とし、弧を描くように薙ぎ払われた斬撃がディアーチェの【デバイス】を弾き飛ばす。

 

「な……!?」

 

それは戦局を決めるにはあまりにも致命的な……隙。

斬撃を放った体勢のまま身体ごとぶつかる様に突撃、小柄なディアーチェを吹き飛ばす。

 

「かは……!?」

 

魔力融合を果たしている筈の己にダメージを与えたという事実に驚愕する間も与えず、白金のハルバートの切っ先を標的に向けて術式を起動させる。

 

「闇祓う浄化の光よ 悪しき魂を滅す神なる雷よ 我が黄金色の想いを糧に 虚無へと誘う標となれ!」

 

神器の全能力を解放させる祝詞を唱え、進化した【ヴィントブルーム】……【ヴィントブルーム・ヴァルプルギス】に限界を超えた魔力を注ぎ込む。

本来のスペックでは到底耐えきれない程の莫大すぎる魔力。

しかし、『力の楯』の加護を受けることで崩壊寸前に損傷部分を修復され、原子レベルでより強く、より強固なモノへと昇華されていく。

白銀から黄金へ。

輝く光がプラズマと化し、具現化した雷の龍が主の想いに応えんと咆哮をあげる。

神の力を降臨させる標へと至った相棒を上段に構え、裂帛の気合いと神速の踏み込みから繰り出される斬撃を振り抜く。

 

「これが私の覚悟っ! 総てを切り裂け! 『光統べる十神の創世者(ヴィシュヌ・アバターラ)』!」

 

黄金の閃光が弧を描き、ディアーチェの肉体に一条の斬閃が刻まれる。

距離という概念すら超越した一撃は、魔力兵装という最高位の強化魔法が齎す絶対防御をことごとく無視して――万物総てを切り裂く。

閃光から溢れ出す輝きがディアーチェを呑み込み、眩いまでの光の奔流が闇と氷の女皇を跡形もなく消し飛ばした。




・作中に登場した魔法解説

○【永劫悠久なる(エターナル)覚めること無き(フォース)白亜の世界(ブリザード)
使用者:ディアーチェ
女皇サマが生み出した究極なる超絶凍結魔法。
相手は死ぬ! 以上。

○『梵天極光・天照(ブラフマストラ・リグヴェーダ)
使用者:シュテル
最終形態マキシマムブレイクモード【ルシフェリオン・火之迦具土神(ホノカグツチ)】に紅蓮の魔力を注ぎ込み極大の魔力槍を形成・撃ち放つ『神代魔法』。

○『光統べる十神の創世者(ヴィシュヌ・アバターラ)
使用者:アリシア
最終形態【ヴィントブルーム・ヴァルプルギス】と『力の楯』を模した自立機動兵装間で魔力を循環・増幅させた神おも切り裂く究極の斬撃系『神代魔法』。

○【OONOHO TIMUSAKO TARAKIT】
使用者:アリシア&シュテル
石版に秘められた神器の力を解放させる呪文。逆向きに続けて読むと……?
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