一週間ぶりだから、一応、「数日」以内の更新は果たせた――カナ?
クラナガンを起点とする全次元世界同時のリアルタイム映像。
電波ジャックと呼ぶのもおこがましい最悪の事態に、“儀式”に〈巻き込まれたと思い込んでいる〉人々のざわめきが留まる兆しも見せずに蔓延していた。
映像機器のモニターを、空を埋め尽くすように展開された巨大な空間モニターを注視する人々が目の当たりにするのは神話の再現たる超越者の繰り広げる
星の海を飛翔し、星々を砕き、世界の理すらも捻じ曲げる。
人間という種が積み重ね、構築した
別世界へ迷い込んだかのような空虚感と恐怖が、
それでも暴動が起こっていないのは、そんなものなど何の意味もなさないのだということを、理不尽なまでの無力感と共に突き付けられているからだ。
星々を砕き、銀河を消滅させる破滅光の奔流に対し、龍神は生成した複数のマイクロブラックホールを融合させた巨大ブラックホールをぶつけることで防御する。
宇宙を震撼させる超エネルギーを呑み込んでいく漆黒の孔は地上からも目視できるほど巨大でありながら、ミッドに一切の影響を与えないという矛盾を体現した。
科学者たちが正気を失いかねない理不尽な現象を当たり前のように具現化させた者共は、小さな人々の葛藤など気にも留めずに戦いを継続する。
暗黒級の有効範囲から逃れる様に旋回して《邪神》の背後にまわり込んだ戦乙女が“消滅”の概念を乗せた魔力砲撃を放つが、破滅の光をキャンセルした《邪神》の肉体が空間に溶ける様に消えていった。
標的を見失って焦る彼女の背後に転移した《邪神》。人型のソレへと変化した右腕を縦に、左の拳を右肘に叩きつけてL字に構え、眩い閃光波動が撃ち放たれる。
至近距離から放たれた亜光速にも匹敵する閃光が、デブリを蒸発させながら戦乙女に迫る。
だが、迫り来る脅威の気配を感じとった戦乙女の魔力と蒼炎によって構築された翼が彼女を守る様に閉じ、悪邪を祓う聖盾となって、これを防ぐ。
速度という“概念”を置き去りにした《邪神》。
光をも超えた速度で動ける龍神。
未来予知とも言える超速演算思考によって、人間の範疇に収まる程度の反応速度でありながら、人外の超速戦闘に追随する戦乙女。
幾度もぶつかり合いながら激しい火花を散らす神々の戦いを繰り広げる光景が、そこに広がっていた。
「なん、だよ……これ……」
呆然と天空に映し出された映像を仰ぎ見る者。
「あは、あはは……夢だ。そう、これは全部夢なんだ……」
頭部を抱え、現実の理解を拒絶する者。
「ふざけんなよ……! なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ!?」
胸から湧き上がる恐怖を誤魔化す様に、ヒステリックな叫びを上げる者。
差異はあれど、皆が現実を受け入れたくないのだということだけは理解できた。
幼馴染に支えられた宗助は、ひどく冷めた表情で慌てふためく人々を撫で見ていた。
戦い……否、《最終戦争》が開始されてから間もなくして、ちらほらと集まり出した民衆によって、彼らのいる公園の広場はごった返していた。
宗助たちが事態の中心に最も近い存在であることは彼らも理解しているらしく、遠巻きに人垣を作って無遠慮な視線を投げつけてくる。
短気なヴィータや合流したアギトなどが思わず怒鳴り散らそうとする一幕もあったものの、詰め寄られるような事態が起こる前に戦闘が開始されたことで、どうにか未遂で済ませられた。
しかし、彼らの気持ちもわからない訳ではない。
何しろ、集まった人々はシェルターから抜け出してきた一般市民が大部分を占めている。
管理局と聖王教会の戦いが収束に向かったと安堵した瞬間、入れ替わる様に神々の戦いへと事態が移行したのだ。
おまけに、情報規制がされていた先の戦いと異なり、人々の恐怖を煽るように展開された映像によって、所詮は与太話、他人事だと傍観していた民衆は理不尽な真実を突きつけられ……混乱を期した。
護衛についていた管理局員も状況を説明してくれない――実際は、彼らも混乱して状況が読み込めていなかったのだが――事実に言い知れぬ恐怖と困惑が湧き上がり、誰でもいいので説明を……自分たちが安心できる説明をしてくれる人物を探して群れを成し、シェルターを飛び出した。
破壊された市街地を彷徨い、やっと見つけた六課メンバーの姿に引き寄せられるように集まって――神話の戦いを見せつけられた。
夢でも幻でもない、理不尽なまでに残酷な『現実』を否応なしに突きつけられた彼らは呆然と言葉を失い――今に至る。
「今更騒いだってどうしようもないだろーに」
「落ち着いてるわね、そーすけ……。花梨さんが心配じゃないの?」
仔狼モードで何とか実体化を果たしたフェンリルを膝に乗せ、節々に呆れを滲ませながら独りごちる宗助にルーテシアが問う。
返答は無言の笑み。
心配などする必要が無いのだという無言の返答。
「そ……。じゃあ、私たちも花梨さんたちの勝利を待っていましょっか」
「うん……ねえ、そーくん。質問いいかな?」
不安を誤魔化す様に宗助の左腕へしがみ付いたリヒトが、困惑を表しながらずっと気になっていたことを聞いてみる。
「あのね? 花梨さんと“かみさま”が勝って戻ってきた時……そーくんは“かみさま”のことなんて呼ぶつもりなの?」
「え? ん? ……ああ、そーゆーこと。それ、私も聞きたいわ。どうすんの? リヒトみたいに“かみさま”って呼ぶのか、TVで報道されてる
「うえっ!? そ、そんなこと言われても……てか、なんで叔父さん?」
「そんなの、お相手が花梨さんじゃなくてなのはさんになる可能性もあるからでしょーが。見なさいあの横顔。祈りをささげる様に腕を組んで熱い眼差しを向ける姿は、間違いなく戦場に向かった恋人の無事を祈る恋する乙女のリアクションよ!」
「な、なんだってー!? じゃ、じゃあやっぱりなのは叔母さんともフラグを立てていたのかっ!? な、なんて人だ……スゲエ、スゲエよ! 桃子
「ちょっと待って!? イロイロとツッコミどころが多すぎて対処しきれないんですけどっ!?」
甥っ子のトンデモ発言に、最近磨きがかかってきた叔母さんの裏手ツッコミが炸裂する。
しかし、愛され系上司街道を突っ走る『にゃのは』隊長に向けられる生暖か~い視線。
「え、今更でしょ」と無言の言霊を乗せた優しい眼差しを受け、幼児退行したエースの「にゃーっ!?」 が炸裂する。
頭上でどっかんどっかんと世界オワタ的大決戦が繰り広げられているとは思えないほっこりとした空気が六課メンバー+αに浸透していく。
「あなた方はいつもこんな感じなのですか?」
「まあなぁ~。でも、こんくらいがちょうどええのかもしれんな。無力感に苛まれるとか、これからの事に頭を悩ませすぎるとか……わざわざネガティブになる必要も無いやろ」
呆れ半分、微笑ましさ半分といった表情のウーノの質問に答えるはやても苦笑を禁じえない。
だが、叱咤するつもりも無い。
いつも通り、普段通りのやり取りを交わせる。
それが、すごく尊いものだと思えるから。
「大体ここまで来たら、そー坊が言うみたいに信じて待つ、これに限るわ。これからの事は、《神》サマになったあの二人も交えて決めたらええ」
問題の丸投げにも聞こえる台詞だが、はやての表情は彼らなら信じられるという確かな確信を感じさせる凛々しいもの。
ポジティブな発言と堂々とした態度に感化されて、無力感に打ちひしがれていた戦闘員たちがリカバリーを果たしていく。
「……ふふっ。強いですね、八神部隊長」
「あーんなデタラメ見せつけられたら、人間同士の小競り合いなんて小事に見えてまうから不思議やな」
《邪神》が召喚した巨大隕石召喚魔法【メテオ】を、背びれのように鋭角な背面装甲を発光させた龍神が身体を一回転させて放った“バーニングGスパーク熱線”で粉砕し、戦乙女が召喚した十個の中性子星による殲滅魔法【アイン・ソフ・オウル】が超高速回転しながら《邪神》の存在を抹消せんと襲い掛かる。
「人智を超えた戦いとはまさにアレだねぇ……。いいなあ……くうっ! せめて! せめて間近で観察出来ていればっ!」
「ブレませんねドクター……。というか、護衛として付きあわせられる私たちのことも考えてください」
「あはは……。スカリエッティさんって、どこまでも欲望に忠実なんだねぇ」
「わかってくれるか、ギンガ・ナカジマ。そうなんだ。ドクターはいつもいつも欲望に駆られて突っ走って……まったく、今まで私たち姉妹がどれだけ苦労させられてきた事かっ!」
小さな身体を揺らしながらプンスカ膨れるチンクを、よしよしと撫でるギンガ。
拳を交えて友情を築いたらしく、えらくフレンドリーだ。
ごく一人だけ、某お姉ちゃん大好きっ娘がまな板の上のクルマエビの如くびったんびったんと跳ねていたが、敬愛するちっさなお姉ちゃんとお揃いでなでなでされると、たちまち子猫のようにおとなしくなった。
どうやら、姉とお揃いであること、強力な『姉力』を有するギンガの撫でスキルに敵愾心を砕かれてしまったらしい。
あきれ果てた親友に押さえつけられていなければ嫉妬のオラオララッシュを仕掛けていたであろう青い方の妹を見て、渾身のドヤ顔を決めている。
「ふふん。うらやましーだろー?」 とでも言いたげに。
「むきゃー! ギン姉は私だけのお姉ちゃんだー!」
「落ち着け、バカスバル! 簀巻き相手に【IS】発動とか大人げないにも程があるわよっ」
「身体は大人、心は子どもだから問題ナッシングだよ!」
「いや、意味わかんないし!」
「ちょ、喧嘩しないでくださいぃいいいいいい!?」
フォワードの騒ぎを押さえる役目は苦労人担当ポジで確定しているエリオに一任し、その他メンバーの視線は空中に投影された映像へ戻る。
「“Ⅰ”の吐いたレーザーは妙な光を放っていたな。奴の魔力光とは異なる色ということは……もしや魔法ではないのか?」
「あの輝きは核反応で発生するチェレンコフ光だろうね。つまり、彼は体内で核融合を起こしたということか。腹の中に原子炉でも搭載しているのかね?」
「いや、流石にそれはない……と思いたいですね。まあ、多分ご本人の“能力”で魔力を核エネルギーに変換させたってトコロじゃないでしょうか? ……科学者として、とてもじゃないけど認められませんが。――何なんですかあの理不尽極まる謎生物は」
「《神》サマだからと流したくは無いものだね。我々科学者の積み重ねた叡智と歴史が投げっぱなしジャーマンされたような気分だよ」
何故か仲良く分析している欲望&六課メカニック眼鏡~ズ。
考察と相槌、分析を繰り返しながら、少しでも神々の戦いを科学的に解明して見せようと言う野心が見え隠れしている。
しかし現実として、理不尽な戦いはさらに苛烈さを増していく。
光球が命中するたびに存在が虚空の彼方へと消されていく《邪神》。
だが、原型を留めていた両手が柏手すると、消失した肉体を錬金術で再構築させながら術式から脱出。
お返しとばかりに突き出された右腕が形状変化を起こす。
巨大なマスケット銃に変形し、大砲もかくやと言う最終必殺魔法弾【ティロ・フィナーレ】が放たれる。
第三宇宙速度で迫り来る砲弾に対し、戦乙女は自立機動兵装を組み合わせて防御フィールドを展開し、これに対処する。
一撃目を防がれたために次段を装填しようとする《邪神》だが、上方へまわり込んでいた龍神の強襲によって阻まれた。
左腕で刀身を再構築させた光の剣を逆手に構え、【ヴィントブルーム】からカートリッジで供給された電撃変換魔力を
竜騎士から託された“
爆散する重火器を霧に戻して再び異形の腕に再構築していく《邪神》に迫る龍神。
《邪神》が背後の空間の揺らめきから円柱形の刀身が目を惹く異彩の剣を引き抜いたのと、龍神が順手に剣を握り直したのはほぼ同時。
邪剣を消し去った左腕で柄を握った《邪神》が、異形な構えをとる。
まるで飛槍を投擲するかのように背中を見せるように異形の剣を引き絞る構え。
三つの円柱で構成された刀身が螺旋回転を始め……世界が崩れていく。
世界を織り成す“概念”が呑み込まれ、静寂なる虚無から生まれ出でるのは――天地を開闢するよりも古の世界。
無限に広がる静寂なる宇宙。
星々の煌めきを螺旋に乗せ、邪悪なる《神》が嗤う。
《宇宙創造の煌めき……防げるのかなァ? ――【
龍神が背負った
謳われるのは世界へ呼びかける守護龍の祝詞。気高き
光の粒子となった宇宙の想いが、掲げられ刀身に集束し、新たな創世の宇宙を織り成していく。
集った想いは異なる三つの銀河を形成し、渦を巻きながら刀身を包み込む。
万物を終わらせる禍々しき滅びの銀河に相対するのは、今を生きる生命の輝きを紡いだ希望の銀河。
「【
宇宙の想いを乗せた刃が振り下ろされ、紡がれた銀河の輝きが虚無へと誘う暴虐の螺旋と激突する。
対極に在る開闢の光が次元を軋ませ、唸りをあげながらせめぎ合う。
逆巻く銀河の激突は宇宙の創造と終焉を連鎖的に引き起こし、万象を等しく虚無の奈落へ叩き落していく。
原型を留めていた二つも月が灰燼と化し、輝く星空が奈落の闇に侵されていく。
それでもミッドチルダが存在し続けられているのは、創世の光のぶつかり合う直前に戦乙女が星ごと覆い尽くす巨大防御フィールで守ってくれたからだ。
ひび割れた次元断相にすべての光が吸いこまれた後に残るのは、果てしなく続く漆黒の宇宙に浮かぶ、
天地開闢に匹敵する神話の一撃同士のぶつかり合いが、ミッドチルダが所属していた星系の星々を須らく破壊し尽くしたのだ。
防御フィールドを解除した戦乙女の口元が悔しげに歪む。
ミッドチルダという護るべきものを庇いながらの戦いでは自分たちが不利だということをまざまざと見せつけられたからだ。
だが、無力感に襲われる彼女の傍らまで下がってきた龍神が何やら小声で耳打ち。
音声は拾えなかったものの、何やら無茶な事を言い出したらしい。
話を聞いた戦乙女は、明らかな困惑を隠せていない。
「ダークちゃんってば、何かやらかすつもりみたいだね~」
「私たちの常識を超えた無茶を見せてくれるはずですよ、きっと」
「最強なダークパパに出来ない事なんかないですもんね~」
龍神の家族はいつもの事だと平静を保っている。
しかし、どこかワクワクしているように見えるのは果たして気のせいか。
とは言え、どうこう言ったところで始まらない。
そもそも、今の状況事態が常識を超えたモノなのだ。
地殻が爆散したにもかかわらず、発生したであろう衝撃や振動が未だ感じられないという異常。
星をも砕く攻撃が幾重にも交叉していると言うのに、自分たち地上に生きる人間にはなんら影響が及んでいないという不可解。
そして、繰り広げられる《最終戦争》の勝者が世界の命運を定める権利を得るという、受け入れがたい
暴動が起こってもおかしくない状況下でありながら、混乱を鎮圧するための要請が皆無。
これが表す事実……それは、自分たちには観客として傍観する以外の役割が存在していないということ。
熾烈を極める聖戦の舞台に上がったと思い込んでしたがしかし、実際にはスクリーン越しに観戦するか、自分の目で直接観戦するかどうかの違いしかない。
そう……自分たちにできることは、あの二人の勝利を信じて見守る事しかできないのだ。
――とは言えども。
何事にも限度と言うものはあってしかるべきなのであって……!
「巨大化とか、流石にないわー。あの人、どこまで往くつもりなんや。ホンマ……勘弁してーや」
腹を抱えて大笑いする三人娘を除いた全員が呆然と空を見上げる中、恒星よりも巨大になっていく龍神に向かって呟かれた言葉はひどく弱々しいものだった。
――◇◆◇――
【“闇在れ”と賢者は云った】
超龍皇形態に変身したダークネスの詠唱と共に空間に亀裂が生じ、彼が創造した虚数空間へとアザトースを引きずり込む。
自身は虚数空間に満ちる無限力を吸収することで惑星サイズにまで巨大化した巨腕を叩きつけ、滅多打ちにしながら
虚数空間に浮かぶ生命無き惑星の残滓を撃ち砕く破壊の奔流の突き進む先に展開される漆黒の門。
暗黒の大穴、ブラックホールの如き異様な転移門にアザトースが呑み込まれたのを確認し、巨大化したダークネスも後を追う様に門をくぐり抜ける。
帰還を果たした現実宇宙。だが、そこにミッドチルダは存在していなかった。
何故か? それは〈暗黒の叡智〉の秘奥を繰り出したダークネスの狙いが、戦場を変える事であったことに他ならない。
巨大な肉体を形成していた『
「ここは第一次元世界ミッドチルダの銀河中心部、さっきまでの場所とは数億光年もの距離がある銀河の果て。ここなら、思う存分に殺り合えるだろ」
「いきなり変身して巨大化するとか何考えてんだって思ったけど……無茶苦茶やるわね、ホント」
「お前もその気になれば似たようなこと出来ると思うぞ? 自分を個として確立させている“概念”を弄れば意外と簡単――」
「うん。そろそろ、自分の台詞がいろいろとおかしいことに気づいてね」
肩を竦めるだけで反省の色を見せないダークネス。
馬耳東風、言うだけ無駄かと矯正をすっぱりと諦める花梨。
視界の端に哄笑を上げながら迫り来るアザトースの姿を捉え、自立機動兵装の砲塔を向けた。
収束していく魔力光。突き出された右手を起点にして扇状に展開された魔導砲が唸りをあげ、色鮮やかな集束砲撃を開始する。
黒き海原を切り裂いて飛翔する閃光はしかし、輝く黄金の光球を両腕に生成したアザトースより放出されたエネルギーの奔流に打ち消された。
《メ~イ~オ~ウ~♪》
輝く光で覆われた両拳を合わせた瞬間、別時空の宇宙より抽出した次元エネルギーが物質を完全消滅させる破壊の光を解き放つ。
アザトースを中心に全方向に向けて拡散していく破壊エネルギーから逃れる様に後方へ飛び退がる。
幸い、有効射程はそれほど長くないらしい。目算で6378km……地球型惑星の半径ほどと思われる。
惑星軌道上で使われていたら、ミッドチルダにも途轍もない影響が及んでいたことだろう。
ソレを鑑みれば、銀河中心部に戦場を移したダークネスの判断は英断と呼べるかもしれない。
とは言え、手放しに褒めるのは癪に障るので釘を刺しておくことにする。
「無茶がうまくいったからといって、調子にのらないよーに」
「む、小言が多いぞ。大体、今頃ミッドでは、宇宙開発が地球に比べて後塵を期してるクラナガンの宇宙開発員共あたりが歓喜のあまり泣き叫んでるはずだぞ。映像越しとはいえ、宇宙の中心部を目視出来ているんだからな」
「いや、時と場合によるでしょ……あ。でも研究者って基本的に頭のネジがぶっ飛んだ思考の持ち主ばっかりなのよね……。やだ、ありえそうな気がしてきた」
「ふむ。これは戻ったら謝礼を貰わざるをえないな」
「アンタは……」
《仲良いねェ~。でも、無視されるのは嫌いなのサ♪》
メイオウ攻撃を解除させたアザトースは、再び右腕の形状を変化させながら距離を詰めてくる。
右腕が触手のようにうねりながら二つに裂け、先端が白と黒の両刃剣に変形した。
ひと目で名刀、魔剣の類であると理解させられる剣から繰り出されるのは、“二刀流”の極みに位置する眼も眩む閃光の乱舞。
《『
交互に襲いかかる剣戟の嵐に対して、前衛を任されたダークネスが両腕を肩越しの背面へ回す。
翼の根元の空間が揺らめき、真紅の鍔が目を惹く直刀。歴代の黄金神に受け継がれてきた光の剣が召喚された。
十字架が印された護拳に護られた柄を握り締め、二振りの剣をそれぞれ片手で抜刀する。
次いで、左右の腰当に炎の揺らめきが生じ、火龍の尾の如き反り返った鞘に納められた剣が更に二振り召喚された。
ソレに背面より引き抜いた剣を勢いよく叩き付け、二刀の柄頭を連結させる。
双刃の薙刀による二刀流。
嵐の如き剣舞に対し、旋風を巻き起こす刃の螺旋が対抗する。
斬り落とし、突き、切り上げ、薙ぎ払い、交叉……幾重にも変化する剣閃の猛攻に抗う光の螺旋。しかし、剣士の極技たる乱舞に付け焼刃の小細工が通用するはずも無く、神鉄で鍛え上げられたはずの光の剣は、瞬く間に刀身を砕かれ、切り捨てられていく。
だが、それこそが狙い。
四刃を砕き、張りついた笑みを深くさせたアザトースがトドメを差すべく左の邪剣を振りかぶる。
袈裟切りに振り下ろされた闇色に侵された聖剣の斬閃と平行になる様に身体を泳がせ、剣の腹に掌を添えて受け流す。
刃から拡散する邪悪な波動に切り裂かれながら大ぶりの一撃を捌き、無防備な左の脇腹に膝を叩き込んで、アザトースの身体をくの字に折る。
小柄な体躯そのままの軽さで吹き飛びそうになるアザトースの髪を掴んで引き寄せ、膝をめり込ませたまま折り曲げていた脚を振り上げ、密着状態からの蹴り上げに繋げる。
「花梨!」
「わかってるわよっ。――ヴァリアブル・シュート!」
縦回転を起こして上方へ飛ばされたアザトース。
そこには、ダークネスの求めに応えた花梨によって展開された移動砲台の包囲陣が展開されていた。
魔導砲から撃ち放たれる色鮮やかな閃光が邪神を穿ち、レーザーのように貫通する。
さらに、アザトースを挟んだ対面、射線軸にまわり込んだ銅鏡に閃光が反射され、“消滅”の概念を付与された破滅の光が再び邪神を蹂躙する。
貫通力に特化させる術式を組み込んだレーザー反射包囲網。
高速の並列演算思考によって統率された自立稼動魔力砲台と銅鏡からなるオールレンジ攻撃が、憎悪を産む守りの加護を失った邪神に襲いかかる。
しかし、鮮やかな閃光の演舞は、空間の隙間からにじみ出る様に溢れ出した闇よりも昏い漆黒に呑み込まれることとなった。
アザトースの背後の空間に描かれた一条の線。
まるで閉じられていた目蓋が開かれるかのように解き放たれた空間の裂け目……それは、無数の目を思わせる悍ましき光を内包した“スキマ”。
境界へと繋がる門が開き、魔導の光を須らく呑み込んでいく。
「はい?」
光を呑み込み続ける“スキマ”の脇で、ふてぶてしく胸を張るアザトースに呆気にとられた花梨が間の抜けた声を上げた。
「バカ! 敵の目の前で放心する奴がいるか!」
怒号に肩を跳ねさせた花梨の視界を遮る大型の『多目的盾』。
事態を把握するよりも速く、盾越しに襲いかかってきた衝撃で吹き飛ばされる。
錐揉み状に回転しながら、第三者的立場で状況を把握しているであろう愛機に説明を要求する。
「何が起こったの!?」
【不可視の衝撃波らしきものを放ってきたのです! ですが、こんなのありえないです。真空であるはずの宇宙空間で、圧縮空気砲など撃てるはずが――!?】
「常識なんてモン、今は置いときなさい。そもそも、地表の十分の一が吹っ飛ばされたのに自転動作に何事も無く
「今更すぎるツッコミだと言わせて貰おうか! ――っ、止まるな! また来るぞっ」
咄嗟に展開させた障壁で衝撃波を受けとめる。
しかし、圧縮された空気の塊はなのはの【ディバインバスター】すら上回る破壊力を内包していたらしく、抜き打ちで発動させた障壁に亀裂が奔り、花梨の身体を後方へ吹き飛ばした。
《あははははは! さっすが【空気砲】! そ~れそれそれぇ、『ドカン』! 『ドカン』! 『ドカン』!》
左腕に嵌めた砲口部を模した筒状のひみつ道具 『空気砲』の威力に満足しつつ、逃げ回る獲物二匹を追い詰める様に連射し続ける。
直撃コースの数発を弾き返そうとするダークネスだが、圧縮空気に込められた概念……オリジナルたる機械猫が集める極大の信仰にブーストされているのか、両腕を交叉させても耐える事が出来ずにダメージを受けてしまう。
「くそっ、流石は未来永劫、ありとあらゆる並行世界で語り継げられる未来的機械猫の道具というべきか!」
《まあねぇ~。あんなんでも、ボクと同格の《極神》の一角だからさァ~。ハンパないよぉ?》
「……なんかもう、驚くのに疲れた」
「その言葉、そっくりそのまま返したいんだけど」
目の前の《邪神》が、恩義のある先代や機械猫と肩を組み、何故かタップダンスを踊っている仲睦まじい(?) 姿を幻視してしまい、ダークネスの肩が、がくっと下がる。
妙な幻想を振り払うように頭を振るダークネスに冷たくツッコむ花梨に向けて、アザトースは乾いた笑いをあげながら容赦なく追撃を仕掛けていく。
《ボクの右腕を生贄にィ~……クトゥルーをアドバンス召喚ン!》
――ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん
異界にして古き世界の風が舞う。グルグル、グルグルと渦を巻き、風が雨を呼び、水の化生たるソレを呼ぶ。
――いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!
悍ましき水の神性を讃える言霊が《邪神》の長より放たれる混沌を喰らい、実体を得ていく。
顕現……否、誕生するのは蛸のような頭部と蝙蝠の翼、無数の触腕と鉤爪で構成された四肢を持つ異形なる古き者。
旧時代の地球に存在したとされる旧支配者が一柱。
《水の旧支配者》 クトゥルフ
《ルぅいレェェエエエエエエエエ!!》
奇声? それとも咆哮だろうか?
言語に変換できない悍ましき産声を上げた古き者の爛然と輝く双眸が、戦乙女を捉える。
淫靡な響きを感じさせる触手をうねらせながら、這いよる様に近づいてくる怪物は生理的に受け入れられないのか、「ぴぎっ!?」 と可愛らしい奇声をあげてダークネスの背中にしがみつく。
「こらこら……。ったくしょうがない奴だな。――【クライシスエンド】」
《ぴぃぎゅぁああああああああ! いあ! いあ! ふぬぐん!》
「うっさい。何言っとるかわからんし、わかるつもりも無い。さっさと消えろ」
怒濤の奔流となって襲い来る鉤爪付きの触手の群れを一刀の元に斬り捨てながら、花梨を落ち着かせるように頭の上に乗せていた左腕を勢いよく振るい、【ヴィントブルーム】の砲口を展開させる。
砲身を魔力が駆け昇り、砲口に収束した魔力に絡みつくのは、指先から放たれた深紫の鋼糸。
ルビーから継承した『
「花梨、お前も手伝え」
「ううぅ~、わかったわよぅ……。【レイジングハート】、ブラスターシステム発動」
【了解】
ガシュッ! と空薬莢が飛び出し、カートリッジに内包されていた魔力を注入。
自己魔力増幅機構 ブラスターシステムによって過剰倍化された魔力の奔流が体内を駆け巡るのを感じとる。
しかし、強化の反動による負担は花梨に見受けられない。
宗助と雪菜の“
迫り来るクトゥルフを包囲する様に自立機動兵装を配置させると、術式を起動。
ブースターのある機体後方にここではない並行世界へ通じる境界門を生成、そこから抽出した魔力を吸収し、砲口に集束させていく。
周辺の残留魔力を再利用することが一般的な集束魔法のシステムだ。
しかし、花梨の肥大化した思考領域は並び立てども触れることが出来ない程に遠い並行世界への
ありとあらゆる世界に性質を変えて存在する“
これこそが、《新世黄金神》の加護を受けた高町 なのはが目覚め、【デバイス】を通して姉へと受け継がれた魔導の極み。
「【スターライト・エターナル・ブレイカー】――――ッ!!」
《るるるぅえぃいえいぇぇぇえええええええ!?》
全方位から撃ち放たれる巨大集束砲撃魔法。
破壊の閃光が旧支配者という一点に集い、相乗効果を起こして――神をも滅する神滅魔法へと昇華する!
「容赦ナシか……ま。気持ちはわかるが――なっ!」
【
“神滅”の概念を付与した砲撃魔法が五重の魔法陣を貫いて増幅しつつ、破壊の光に蹂躙される旧支配者へ着弾する。
臨界まで圧縮されていた破壊エネルギーは、龍神の咆哮が
捨て駒同然に生み出された旧支配者は、己が領域である水の無い宇宙空間に呼び出されたことが原因となって、瞬く間に消滅へと向かう。
無限熱量へと至った魔力によって魂までもが滅却され、その悉くを昇華させられていく。
光の結界に捕らわれたまま終焉へと向かうクトゥルフが、ダークネスの背中に隠れたままの花梨へ縋る様に触腕を伸ばす。
母親を求める幼子のように弱々しく伸ばされたソレにどのような想いが籠められていたのかはわからない。
しかし、それは結局彼女に届くことなく、哀れなる魂は輪廻の輪へと戻っていった。
《ありゃりゃ? あっさり負けちゃったな~。流石にこんなトコで戦わせるのは無理があったか~。……ま、別にいいけどねェ》
「ずいぶんとあっさり見捨てるんだな。奴は貴様の眷属ではなかったのか? クトゥルフ神話の主なのだろう?」
《ん? いやいや、さっきのアレは即興で生み出した現身? クローン? まあそんなトコ。使い捨ての下僕にもなれない小道具のような物さ。それが壊れたからって、どうして悲しむ必要があるのかな? かなかな~ァ?》
「……なあ、花梨。いい加減、俺も我慢の限界が近いんだが――そろそろ、いけるか?」
瞳孔を獣のように細め、展開した装甲から憤怒を表す真紅のオーラを立ち昇らせ始めたダークネスより放たれる殺意がより凄惨な物へと変化していく。
眷属でもある家族を愛し、大切にする彼だからこそ、下僕を捨て駒にするアザトースに激しい嫌悪感を覚えたのだ。
このまま激情に駆られるままに跳びかかろうとするダークネスの肩に手を添え、優しさと覚悟を秘めた戦乙女の声が囁かれ、耳朶を擽った。
「落ち着きなさい。もう
「――応」
激情を沈め、冷静さを取り戻して辺りを見渡せば、蒼穹の如き輝く光が彼らを包み込んでいた。
優しくも気高い、邪悪を浄化する清浄なる神風。
莫大なる神代のエネルギーが輝く粒子となって、若き龍神と戦乙女の元へ集っていく。
訝しげに眉根を潜ませるアザトース。
だが、己が発する
《バカな……!? ボクの邪気を浄化して吸収してる!? そんな事が出来るはずがない! 虚無と邪悪の根源であるボクの邪気は、光を拒絶する絶対不変の理で守られているんだぞ!》
「ええ、随分と面倒な“概念”を重ね掛けしてくれたもんね。おかげで
花梨が積極的に攻撃に参加していなかった理由。
それは、アザトースという存在を確立させている“概念”の解析に、思考演算の一部を費やしていたからだ。
邪神という存在を理解し、真実という本体を幾重にも重ねた
それこそが花梨の狙い。混沌なる黒に塗り潰されたアザトースの
「ハッ! なんだ、そういうこと……お笑いね。自分の事を最高位の《神》だの、人間を玩具に出来る上位存在だの偉そうなことぬかしといて、実はアンタも私たちと同じ存在だったなんてね。ねぇ、先輩?」
《小娘ェ……! よくもボクを暴いたなァ!?》
激昂するアザトースから叩き付けられる殺意の波動を鼻で笑いながら受け流し、花梨は《邪神》の本性を……本当の彼を暴き続ける。
「一番最初に行われた『神造遊戯』……いいえ、《神》を造る“儀式”で生み出された
《黙れ……! 黙れ黙れダマレぇぇぇえええええっ! ボクは《神》だ! すべての命を弄ぶ資格と権利を持つ、究極の《邪神》! 人間を止めたばかりのひよっこ如きが、幾星霜もの時を生きたボクを知ったような口をきくなぁああああ!》
――かつて、《神》と呼ばれる超越者に憧れた少年がいた。
彼は憧れの存在へと進化することを望み、神々は彼の願いを組んで試練と儀式を授けた。
同胞を屠り、積み重なった屍の階段を踏みしめながら頂に昇り、《神》へと至った。
しかし、絶対なる超越者などという存在は幻想でしかなかった。
人間から進化を果たした少年は、最下級の人神と呼ばれる小さな者。
下界に住まう人々の信仰を得られなければたちまち忘れ去られてしまう脆弱で、儚い存在でしかなかったのだ。
少年は足掻いた。
家族を、友を、想い人を――人間としての幸せの総てを代価に昇りつめた頂が砂上の楼閣である事実を否定し、拒絶した。
弱者は淘汰されるのならば、強者に成れば済む話。
とある物書きに干渉し、自らを頂きに据えた新しい神話体系の物語を
クトゥルフ神話と呼ばれたソレが人々の間を伝え広がるごとに信仰が集まり、少年を高みへと押し上げていった。
その中で、少年は悟った。
信仰とは敬意や尊敬によるものだけでなく……憎悪や恐れという負の感情によるものでも代用できると言う事実を。
故に、彼は《邪神》となったのだ。効率よく、負の感情エネルギーを収集し、進化の糧とするために。
「くっだらない。それもこれも、自分が《極神》へと至ったのは、それだけの才を秘めていた選ばれし者であったからだと思い込みたいからじゃないの」
「……違ったのか?」
「そ。違うのよ、コレがね。アイツが《神》の候補者に選ばれたのは、人間を超えたナニカに成りたいって強く渇望していたから。
「えーと……つまりこう言うことか? 奴は努力して今の地位を手に入れたのに、いきなり同格になろうっていう俺たちが気に入らないから邪魔してきたと。それと、奴が人間を玩具のように扱うのは、元同胞である人間をいたぶることで、自分は《神》に成った、連中とは違う特別な存在だと言う愉悦に浸りたかったから……で、あってるか?」
「うん」
「なるほど、な」
何故無関係であるはずの人々を“儀式”に巻き込んだのかという疑問にようやく答えが出せた。
つまりは、見せつけたかったということだ。
《極神》という自分のチカラを大衆に見せつけ、強大な力というわかりやすい威容を知らしめるために。
総ては、アザトースの深層心理に根付いていた虚栄心を満たすためだけに。
自分の内なる想いすら思い出せなくなるほど混沌の泥を被っても尚、ソレに執着し続けた――おそらくは無意識の内に。
それこそがアザトースという存在の本質。傲慢の極みとも呼べる嫉妬の権化。《原初邪悪神》を名乗る愚神の根幹を成す神性……。
《――もういい。どうやらゆっくり遊ぶのは終わりにした方が良さそうだね。……《神》の神性を暴く異能、お前たちの成長速度は異常だ。これ以上の進化を赦すわけにはいかない》
口調が変わった。否、纏う空気の質そのものが変異したと言うべきか。
傲慢と嘲りで濁っていた双眸は明確な敵意と殺意を宿して、己の根幹に触れた『敵』を睨みつける。
ここにきて、ようやく二人を“玩具”ではなく“滅ぼすべき敵”と認識したらしい。
天を掴もうとするかのように両腕を掲げる。轟々と渦を巻いて集束していく暗黒に染まった『
アザトースという触媒を通して具現化しようとしているのは、人智を超えた負の極致。
《これで、すべてが終わる。これより、虚数空間の更に奥、混沌なる玉座に君臨する我が真なる肉体を顕現させる。――故に、貴様らは死ぬ》
この世界に降臨した人間型のアザトースは仮の姿、現身でしかない。
本体は、言葉で表現できない異形にして異常なる存在。それは、降臨するだけで宇宙を、世界を滅ぼすとされる事象そのもの。
負の無限力……闇に染まった『
自らの現身を生贄に捧げることで本体を呼び寄せようとするアザトース。
もはや彼の頭には、本人すら忘却していた忘れたい記憶を掘り起こしてくれた花梨とダークネスへの敵意しか存在していない。
……故に、気づくのが遅れた。
花梨が先ほど、準備を終えたと零した台詞の真意に。
アザトースの邪気を分析することに成功したと言うことは、どうすれば彼を滅ぼせるのか見抜いたと言うことであると言うことに。
「ダーク、簡潔にいきましょ。奴の本体が虚数空間の底で眠ってるのは事実よ。でも、意思総体っていうか……魂的なものは目の前にいる人型に宿ってるの。だからこそ、本体を召喚しようっていう隙が最大の好機ってわけ」
「要するに、実体化した肉体を消滅させた上で、魂そのものを消滅させればいいんだな?」
「そう。つまり――」
「いつもの様に――」
「「力ずくでぶっ飛ばす!」」
両手で構えた【デバイス】を覆う様に自立機動兵装と『多目的盾』が飛来し、核となる【ルミナスハート】に連結する様に融合を果たして、身の丈を超える巨大魔導砲となった。
【デバイスコア】リンクが形成され、蓄積された数多の術式が紡がれて、《邪神》を穿つ新たな『神代魔法』を創造する。
そう……それは極なる《神》を滅する事が出来る、究極なる超絶魔導砲!
「俺の《権能》で“神滅”の概念を付与させる。――
「わかってる。だから――トドメは任せたわよ?」
「ああ……任された」
短いやり取りで互いの心の内を十全に理解できた龍神と戦乙女は、神殺しの
《は――そんな小細工が今更通用するとでも思うのかァ?》
「ああ、もちろんだとも。俺と花梨が紡ぎ、描き、歩いてきた
《戯言を――! くだらん幻想に縋りつく俗物が! 我が本体が降臨した暁には、魂の一欠片に至るまで原初の塵に還してやる……!》
魂の激情に呼応するように次元に開いた転移門から溢れ出す混沌が密度を増す。
這いよる終焉の気配が宇宙に溢れ出し、命を侵食される悍ましさに襲われていく。
だが……!
「――――」
黄金の輝きを放つ気高き魂は、何人にも侵すことは叶わない。
超重量兵器を構えた花梨を支える様に抱き締め、【ルミナスハート】を握る彼女の手に自分の手を優しく重ねると、ダークネスは瞳を閉じて己が総てを彼女に委ねる。
託された想いと信頼を肌身に感じ、なんでも出来る万能感が花梨の胸に湧き上がってきた。
そうだ、疑う必要などありはしない。
砲身に込めるのは、護るべき人たちへの穢れ無き想い。あらゆるものを撃ち穿つ、絶対無敵の魔法。
光と闇がせめぎ合い、宇宙が、世界が震えあがる。まるで、世界の行く末がこれで決まるのだと理解しているかのように。
「術式装填……オーバー・ラストスペル【
言霊に導かれた真紅の『
輝く祝詞で紡がれた魔法術式が花梨の想いに応え、《邪神》を穿つ弾丸へと昇華させていく。
邪悪を祓い、絶望を
「「【
それは銀河をも穿つ機械神の一撃。
たとえ標的が宇宙そのものという存在であろうとも関係なく、存在する総てを滅する究極なる『神代魔法』が、降誕しかけた《這いよるもの》の本体を虚数の深遠へ押し返し、魂を宿した
《神》という“概念”すらも消滅させ、あらゆる次元ごと対象を破壊する“能力”――それこそが、『
驚愕を貼りつけた表情のまま、アザトースの肉体が塵となって弾け飛ぶ。
霧散した粒子は世界に溶ける様に抹消し、虚無へと還っていく。
だが、原初へ還ったはずの《邪神》と入れ替わる様に、漆黒の輝きを放つ球体が悍ましき脈動を繰り返しながらそこに在った。
これこそが《邪神》の魂。現身たる肉体を滅ぼされようとも、虚数の深遠に存在し続けている本体がある限り消滅を迎えることは無い不死たる魂だ。
それは、肉体を失った事を悟ったように浮遊を始め、上空に展開されたままの転移門へと向かう。
不利を悟り、この場から逃れようしているのだろうか。
全力の『神代魔法』の反動からくる疲労感で身動きが取れない花梨に、それを阻む事は出来ない。
肩を激しく上下させ、呼吸を整えようとするのでやっとな彼女をあざ笑うかのように表面を震わせ、膨張する様に体積を増していく《邪神》の魂。
おそらくは、これを見ているミッドの人々が抱いている負の感情を吸収し、再生しようとしているのだ。
――お前たちに、
醜悪なる混沌が咆哮と共に転移門から現れてく。顕現するだけで宇宙の命を無に還す根源的破滅を招来する《極神》が、ついに降臨を果たそうとしていた。
声なき嘲りが虚空に響き、俯いた花梨が身体を震わせる。
……しかし、
「ぷっ、くくく……」
それは悲壮から来る絶望などではなく、
「あははははっ! ばーか!」
勝利を確信したが故の、高揚から来るものだった。
「やっちゃえ――ダークっ!」
「――おうさ」
《邪神》の魂が転移門へ到達する――寸前、眩いばかりの黄金の煌めきが宇宙を照らした。
文字通り尻尾を巻いて逃げようとするアザトースに迫るのは、黄金の龍神。
【龍槍剣 エクスレイカー】と一体化した右腕に集うのは、“神滅”の極致にして失われた原初の魔法。
世界創世の時代に生み出され、それを恐れた神々によって神話から抹消された【
究極なる絶望を穿つ黄金の槍を装填させた拳を構える龍神の接近に、《邪神》の魂は怯えにも似た奇声をあげた。
「無幻と無限をも超えし、新たなる創世の神話を紡ぐ我が一撃に穿てぬもの無し。……貴様の負けだ、《原初邪悪神》アザトースッ!!」
【龍槍剣 エクスレイカー】の傍らに顕現した光の槍が無限の魔力を取り込むことで幾重にも別れ、三十九の光槍が出現する。
それは、過去・現在・未来における“総て”を滅ぼす破壊の具現。
《新世黄金神》の奥の手にして、最終戦争を終結させる禁断なる魔法……!
「『
裂帛の咆哮と共に放たれた神滅の槍が、おぞましき本体と繋がろうとする《邪神》に向けて放たれた。
――だが、着弾よりもわずかに速く、《邪神》は本来の肉体との接続を果たして滅びの化身たる“能力”を解放させる。
『そこに在るだけで万物を滅ぼすチカラ』
己へ迫る三十九の閃光を滅ぼし、世界の希望を乗せた輝きの尽くを無力化した《邪神》は己の勝利を確信する――!
……しかし。
「無駄だ」
構えを解き、静かな宣告を告げるダークネスの瞳を睨み返しながら、アザトースは崩壊を始めた自身の異常に混乱する。
《神》を殺す『神代魔法』は完全に防いだはずだ。
なのに、何故――我が身は“消滅”という永劫なる闇へ堕ちているのだ……!?
「確かにお前は“
――『
この『神代魔法』には、並行する根源世界と接続・同調する“能力”が秘められている。
覚醒を果たした《新世黄金神》のみが揮うことのできる、最強にして究極なる『極滅神代魔法』。
彼らがいるこの世界の源流は十二の極神がそれぞれ統治する十二個の根源世界とされており、現在、数多存在する多様な世界群はいずれも十二の根源世界いずれかから派生した下位世界である。
偉大なる神々と肩を並べるに至った《新生黄金神》は、現存する十二の根源世界と術者が存在する“今の世界”の、計十三世界の理へと
この一撃の真髄は、有効範囲が並行世界に限定されていないと言うことに尽きるだろう。
何故ならば、世界は無限に等しい広がりを見せ、数多の可能性と言う名の歴史を歩んでいる。
確かに、中には『この世界』と酷似した運命を進んでいる世界……例えば、攻撃を防いだという世界も、可能性として存在しているだろう。
だがそれはあくまでも世界群の一部、ほんの数個の可能性でしかない。
数多の世界群には、そもそも“参加者”たちが儀式に参加することも無く平凡な
幾つか存在するであろう並行世界では、『この世界』の住人たちが違う姿、違うカタチで今を生きている。
その中には当然、《邪神》に成らなかったアザトースが存在している世界も在る。
チカラを持つ者、持たない者に関わらず、標的という存在が“あったかもしれない”可能性すべてを対象として、同時に『
さらに、『神代魔法』を発動した瞬間、全ての対象の過去・現在・未来の三つを有効対象とすることで、現在で避けられたとしても、避けたという未来と過去……《邪神》となる前のアザトースが、その時間軸で具現化した神槍に撃ち抜かれる。
仮に全てを防いだとしても、並行世界には必ず『アザトースという存在が攻撃を受けた』という世界が必ず存在しており、それを手繰り寄せることで、対象が『
つまり、『神代魔法』を発動すると同時に、あらゆる並行世界のあらゆる時間軸に存在する対象者に、神滅魔法が放たれたのだ。
現在は無敵に近い《原初邪悪神》ですら、嘗ては超常者に憧れる無力な少年だったと言う過去が存在している。
ダークネスの一撃は、無力な人間の子どもであったアザトースを撃ち抜いたという
《――――――――》
怨嗟の言葉か存命を求める懇願か。
声なき絶叫とおぞましい悪意を撒き散らしながら、原初の《邪神》という存在が消滅していく。
これが、“ヒト”故の歪みを正すことも出来ぬまま悪意を呑み込み続けた《邪神》の
「終わったわね……」
次元の狭間で消滅していく《邪神》を見送りながら、死闘を終えた花梨は感慨に耽っていた。
十年にも昇る戦いの連鎖が終幕したと言う事実に、喜びとも悲しみとも取れる複雑な感情で胸が満ちる。
しかし、未だ戦意を沈めないダークネスは、僅かに逡巡してから口を開く。
「いや……これは……?」
「え?」
どうしたの? と問い返すよりも速く。
突然の浮遊感に包まれた二人は、何かに引っぱられるようにこの世界から消失した。
対邪神戦、終結ッ!
後はエピローグと行きたいとこなんですが……またまた、1話でまとまらないかもです。
書きたいことが多すぎなので後2話くらいかな?
本編完結後は日常編に移行予定。合わせてR版2つの更新も考えないといけませんな!
・作中登場した魔法解説
●『
総ての歴史と可能性、叡智と武が示されているという
具現化された事象は物質を持つ兵器であり、魔法であり、宝具であり、生物でもある。
即ち、この“能力”を用いれば、森羅万象総てに干渉し、そこに在るモノを召喚することができるということである。
●『
使用者:スペリオルダークネス
龍喰者の時は不完全だった奥の手の完全版。
要するに、現行世界とすべての平行世界の過去・現在・未来の時間軸に存在する標的へ向けて同時に『神代魔法』を叩き込む荒業。
『魔法を放つ』ことが発動条件になっているので、『撃った瞬間に相手は死ぬ』を体現する。