という訳で、こんな感じになりました。
【――ですから! 世界の改変などおこがましい行為でしかないのです! ありのまま、今ある世界をそのまま存続させることこそ、自然の心理というものでしょう!】
【何を言っているんですか! それじゃあ貴方は、大切な人を失った方々に面と向かって言えるのですか。「“儀式”に巻き込まれて亡くなられた彼らは必要な犠牲だったと。だから、彼らを生き返らせてほしいと黄金の龍神や星詠みの戦乙女に懇願することは間違っている」と!】
【そんなこと言ってないでしょう!? 私はあくまで、ありのままを受け入れることが重要だと言っているんです!】
【言ってるじゃないですか! 大体ねェ……貴方、管理局高官に繋がりがあるから便宜を払ってもらえるとか思ってるんじゃないでしょうね! 口先だけで、自分は神々の恩恵にあやかろうなんて恥ずかしくないんですか!】
【なっ……!? 言うに事欠いてふざけたことを! 身の程を弁えろ、俗物! 低俗な民衆上がりの記者如きが、私に意見するな!】
【お二人とも落ち着いて!】
連日、題目を変えて放送されている討論会でお約束に成りつつあるコメンテーター同士の口論をTVのスピーカー越しに聞き流しつつ、洗い物を済ませていく。
一児の母として、食を取り扱う喫茶店の店長として、こういう平凡な日常の一コマを過ごせる時にこそ、一番の満足感を感じられる。
乾燥機に洗い終わったお椀を仕舞い終わり、エプロンで手の濡れを拭いていた花梨は何気なく視線を壁に取り付けられたカレンダーに向けた。
新暦76年4月20日
それが今日の日付。
あの戦い……〈最終神話戦争〉と呼称された邪神との死闘を乗り越えてから、早数か月。
翠屋 ミッド支店で、喫茶店内の掃除を始めた花梨が手の甲で額の汗をぬぐいながら、誰に聞かせるでもなくポツリと零す。
「約束の刻まであと八日……か」
その日を迎えた時、かけがいの無い日常が終わりを迎えるのだと思うと、感傷深くなってしまう。
『新暦76年4月28日』
それは、『Strikers』という舞台の終わり。
“原作”という物語がハッピーエンドを迎えた日にち。
と、同時に、花梨たちが巻き込まれ、参加させられた『
“儀式”の終焉、それ即ち、世界の終わりを意味する。
だが、今の彼女には……『彼女たち』には、滅びの運命から逃れる手段がある。
左手の掌を見下ろす。
そこには、古代エジプト文字にも見える複雑怪奇な文様によって構成された魔法陣が刻み込まれている。
ダークネスの右手の掌に刻まれている、対となる魔法陣と重ねあわせることで発動する『創世魔法』。
あの日、《邪神》を討滅した直後に邂逅を果たした《極神》の一柱から授けられた、『世界を創造する神代魔法』の発動
――◇◆◇――
~五ヶ月前~
狭間の世界《ユグドラシル》
地平線の見えぬ白き世界と、そこに唯一存在する巨大な世界樹。
次元と次元の狭間に存在するこの場所は、“参加者”が幾度となく引き込まれ、邂逅を果たした始まりの世界。
《邪神》消滅直後、毎度のように前触れも無く引きずり込まれた二人は、無重力状態から突然重力に引っ張られる感覚に体勢を崩してしまい、世界樹の頂に一つだけ存在していた台座に落下した。
「きゃん!?」
「ぐぇ!?」
可愛らしい悲鳴を上げた花梨が、仰向けに落ちたダークネスの腹に着地する。
丁度、尻餅をついた彼女が、ダークネスの腹部に馬乗りになった状態だ。
何故かお互いに【バリアジャケット】が解除されてしまったので、捲り上がったスカートから覗く花梨の健康的な太股が、下敷きにされたダークネスの腰を挟み込んでいる。
ダークネスが打ち付けたらしい後頭部を擦りながら身体を起こそうと上体を持ち上げてみると、狙ったようにお互いの顔の位置が同じ高さになった。
至近距離から見つめ合う形になった両者は、しばし思考停止に陥り……ボヒュッ! と蒸気を立てながら花梨の顔が真っ赤に染まる。
慌てて飛び退ろうと身体を揺らすのだが、戦いの疲労のせいか足腰に力が入らず、馬乗りになったままモジモジと身体を揺らすだけに留まってしまう。
《……ふむ。仲睦まじいものだな》
《ん~、こーゆーのは、よく分かんないね。青春って言うんだっけ?》
《いや、普通に混乱してるだけだと思うけれど》
お互いから眼を離すことも身体を離す事も出来ず、無言で見つめ合うという実に青春なやり取りを交わしていた『新しい同胞』に呆れる者たちのあんまりな感想。
ようやく再起動を果たした二人がはじけ飛ぶように立ち上がる。
さりげなく捲り上がっていた上着の裾とかスカートのシワなど身だしなみをチェックしつつ辺りを見渡すと、彼らを囲う様に光の球体が浮遊しているのに気づく。
数は十二。
しかし、輝きを放っているのはその内の僅か五つ。
水晶のようになめらかな光沢を放つソレは映像装置の役割を持つらしく、人の顔らしきものが映し出されていた。
その内の一つに、見覚えのある人物が映し出されている事に気づいたダークネスは、思わずといった風に叫ぶ。
「
「え!?」
ダークネスの正面に浮かぶ光には、彼に黄金の心得を授けた恩師である《黄金神》 スペリオルドラゴンが。
MS族と呼ばれる独特の姿をした彼は、慈愛に満ちた空気を纏って“後継者”を見つめていた。
他の光の映る者たちも、人間とはかけ離れた者が大半を占めていた。
子どものような純粋さを感じさせる深紫の猫人
太陽が神格化したかのように神々しい光の女神
神聖さを宿した銀色の輝きを放つ巨人
熱き友情を胸に宿した蒼き機械猫
光のヴェール越しにでも感じとれる超越者たちの気配に圧倒されるダークネスと花梨を微笑ましそうに見つめていた光の女神が気を取り直すように両手をパン、と合わせて本題に入る。
《さて、そろそろ本題に入りましょうか》
女神の宣言を受けて、緩んでいた空気が緊張で張りつめたソレへと変わる。
言葉一つに威厳と神性を感じさせ、瞬き程度の身振りにすら、圧倒されるほどの圧倒的存在感。
おそらく、彼女がこの一団の……おそらくは『そう』であろう者たちの長なのだろう。
その予想を裏付ける様に、話は軽い自己紹介から始まった。
《はじめまして、若き龍神と戦乙女よ。妾は《創造神》 ホルアクティ。『創世』と『絆』を司る《極神》十二柱の長を担う者です》
太陽の化身と称された偉大なる女神。
数多なる幻想の獣とそれを統べる《神》を創造した、最高位の創世神である。
《そして、ここにいる彼らは妾と同じ《極神》……神々を統べる者。《希望》、《破壊》、《奇跡》、《友情》……司る物は違えども、共に世界を護る立場にある者たちです》
「……あの、質問いいですか?」
《どうしました? 若き龍神よ》
「そこの紫猫がものすごい好戦的な眼差しを向けてきてるんですが……なにゆえに?」
「オラ、ワクワクすっぞ!」 とでも言いたげな笑顔とウズウズ身体を震わせる紫の猫から視線を逸らしながら問いかける。
何というか、視線を合わした瞬間、すごく面倒な奴に目を付けられそうな予感がするのだ。
何かにつけて模擬戦をかまそうとするどっかのバトルジャンキー共的な意味で。
《ふふっ。彼も貴方同様、年若い《神》ですからね。対等に渡り合える好敵手の存在に飢えているんですよ。若き龍神よ、貴方なら彼の渇きを満たせるやもしれませんね》
「本人無視して話進めないで貰いたいですな」
「いや、アンタが言うな」
もっとも過ぎるツッコミ&拳骨を後頭部に喰らって恨めしげに睨んでくるダークネスを押しのけた花梨が、女神の視線を正面から受け止める。
「ホルアクティ様?」
《なんでしょうか? 気高き戦乙女よ》
「アイツ……アザトースの言葉を信じるなら、私とダークがこの世界に召喚されたってことは“儀式”が終わったと捉えてもよろしいんですか?」
《ええ、もちろんです。貴方たちは、それぞれ相応しい神化を果たしました。彼……《黄金神》の後継者として覚醒した若き龍神、英雄の願いを叶える戦乙女。甲乙つけがたい高みへ至った貴方たちが存在している時点で、“儀式”の役目は終わりました》
アザトースに捻じ曲げられた“儀式”本来の目的は、《神》を造り出す事。
スペリオルダークネスSRという完成体と、高町 花梨という新たな《神》に仕え、英雄の魂を天へと導く
「じゃあ、私とダークが最後の決戦的なコトする必要は……」
《ありませんね。まあ、やりたいなら死なない程度で済ませなさい》
「……じゃあ、もうひとつだけ。私たちが生きてきた世界は……どうなるんですか? “儀式”のために生み出されて、戦場という役目を課せられる存在として在ることを許されていたあの場所は、いったい……?」
《……》
無言の静寂が白き世界を包み込む。
花梨とて、理解している。この世界に召喚された瞬間、人間としての自己を形づくっていた認識が大きく肥大化した。
人というの器の根幹が変容をきたし、人智を超えた高次存在のソレへと作り変えられたのだ。
故に、神々であっても代えられない理に関する知識が内なる“
役目を終えた世界は消滅する。
《神》の加護を受けられない世界は、生命の循環、誕生と再誕を織り成す輪廻システムが正常に機能せず、緩やかな消滅へと向かうのだ。
それは、何があっても代えられない残酷な真実。
《創造神》ら《極神》に懇願しても無意味。何故なら、彼女たちには見守るべき別次元宇宙が存在しているから。
異なる次元の宇宙を見守り、加護を与えることで世界を存続させることは、不可能だ。
だからこそ、最高位の《神》が、次元の数に等しい十二柱必要とされているのだから。
《気高き戦乙女よ。大切な者を護り抜きたいという貴方の想いは尊いものです。ですが、これは“概念”という理すらも超越した真理。例え貴方たちがあの世界に《神》として座し、加護を与えたとしても……それはもう貴方たちの知る世界ではありません。何故ならば、貴方たちがこの狭間に召喚された時点で――役目を終えたかの世界は、崩壊が始まっているのですから》
「っ……!」
「そんな……! 戻して! 今すぐ私を、あの場所に――!」
告げられたのは残酷なまでの現実。
愛する家族が、大切な仲間が消えようとしているのだと告げられた瞬間、ダークネスの双眸が限界まで見開かれ、花梨は涙を流しながら帰還を望む。
……しかし。
《時を静止させることで一時的に崩壊を食い止めることは可能です。ですが、所詮はその場しのぎ。《神》の加護を受けられない世界の未来は消滅以外ありません》
「でも……っ、そうだ! ダーク、《神》になったアンタがあの世界に加護を与えれば――」
《無駄だ。彼には我の後任として第十二次元宇宙……《純白の神》サンボーンに託した“スダ・ドアカワールド”とは異なる、次元宇宙の一つの守護神となって貰うことが決定している。だが、次元宇宙の外側……どこの世界にも属さない次元の狭間に存在する君たちの世界は管轄外だ》
“儀式”の舞台として生み出された“あの世界”は、次元宇宙の狭間……どこでもない虚数空間に創造された。
公平を期すため、次元宇宙に属しない場所に用意された故の弊害。
“儀式”という強力な概念魔法によって崩壊を阻止されていただけで、術式が解除されれば即座に消滅してしまう砂上の楼閣。
それが、あの世界の正体だ。
役目を終え、世界を構築する理が綻び始めた現状、例え花梨の言うように加護を与えたとしても、その瞬間に《神》の心象心理が世界の在り様を改変させてしまう――《神》となったものの望むカタチに。
それはもう、元の世界とは呼べないだろう。
つまり、今ある世界をそのまま維持し続けることは、何者であっても不可能なのだ。
思いつく限りの手段を無意味と断じられ、口惜しげに俯いた花梨の肩を優しく叩くダークネス。
彼女の目尻に浮かんだ涙を指で拭ってやりながら、胸に引っ掛かっていた疑問を問い質す。
「――《創造神》、さっき先代の後継者に俺が選ばれたと言ったが、それはつまり、現存する次元世界のひとつを
《その通りです。とは言え、現在の宇宙は《
差しだされた《創造神》の掌から光の球が浮かび上がり、ダークネスの元へ飛んできた。
小さくも凄まじいエネルギーの結晶体であることを悟り、それを構築する複雑怪奇な術式の構成に驚愕を顕わにする。
《それは、世界を改変する果実。《
「やはり存在したのか……創世の魔法が!」
「え、ちょ、ダーク? 何が何だかわかんないんだけどっ」
「ああ、要するに、だ」
手の中に納まった創世魔法を見せつける様に掲げながら、彼らしい不敵な笑みを浮かべた。
「
「創世の魔法……っ! そうか、そういうことなの!? これを使えば――」
「ああ……。俺たちの世界を、第十二次元宇宙とやらの一つとして再構築できるかもしれない」
かの世界に愛着を持ち合わせていないと思っていたダークネスが喜色を顕わにした様に驚いた様子の《破壊神》や《機械猫》には目もくれず、《黄金神》と《創造神》を真っ直ぐ睨みつける。
導き出した希望が、
口を噤み、静かに返答を待つ。
繋いだ掌を通じて感じる相方の不安を打ち消すように、強く、強く握る力を強める。
頬を伝う汗が雫となって台座に落ちていく……と、優しげな微笑みを浮かべながら《創造神》が頷いた。
――コクリ。
「ぁ――」
「っし!」
《試すような真似をして申し訳ないと思います。ですが、最後に確かめたかったのです。貴方たちが生まれ育ったもうひとつの故郷を大切に思える心根の持ち主であるかを》
かつて、『神造遊戯』で生み出されたアザトースは故郷を想うと言う当たり前の感情すら忘却し、虚栄心を満たすためだけに悪意を振り撒く邪神と化した。
同じ誤りを繰り返さないためにも、《創造神》は確かめなければならなかったのだ。
愛する家族、親愛なる友人、宝石のように輝く思い出……かけがいの無い宝を愛する想いを持ち続けられる者かということを。
世界を守護する《神》と成る者に必要不可欠な慈しみの心を持たぬ者に、世界に加護を与えることなど出来るはずも無いのだから。
――大丈夫。彼らならきっと素晴らしい同胞となってくれるでしょうね。
花梨は溢れる嗚咽を堪える様に口元を両手で覆い、ダークネスは満願の想いを乗せて拳を固く握りしめた。
両者共、故郷を愛する心を持っているのは間違いないと確信し、《創造神》の口元にも微笑みが浮かぶ。
《それほどまでに仲間を想う慈愛なる心はとても尊いもの……。だからこそ、
意識が遠のく。
見えない何かに腕を引かれるように、自分たちの世界へと舞い戻っていくのがわかる。
《忘れないでください。どのように世界を新生させるのか……如何なる
《創造神》の優しい言葉を心に刻み、勝者となった二人は世界への帰還を果たす――。
繋いだ手で、希望の果実を握りしめながら。
――◇◆◇――
未来への希望を手にして帰還を果たし、仲間たちと再会を果たしたあの時。
死闘を終えた安堵から精神的油断があった花梨は、周囲に六課以外の管理局員や一般市民、TVリポーターたちがいることに気づいていなかった。
ダークネスの方も家族に抱き着かれて身動きが取れなくなっており、ついでに言えば犯罪者にカテゴライズされる彼らに駆け寄ろうとする勇者は皆無。
そのため、周囲の視線と意識は、花梨一人に集められていた。
そんなある意味異様な空気の中、誰からだったか、何気なくこれからの事について問われた花梨は、つい口走ってしまったのだ。
――人々が認識できない異空間で《極神》と呼ばれる超越者たちと邂逅を果たしたこと。
――“儀式”の終焉を迎え、これ以上、理不尽な戦いを続ける必要が無くなったこと。
――消滅するしかなかった未来を変える希望を手に入れたこと。
そして……、
――世界新生の儀式によって、術者であるダークネスと花梨が望むカタチで世界を改変することが出来ると言うことを。
歴史の改変、死者の蘇生、人々の存在という根幹部分を書き換えることが――例えば、魔導資質を持たずに生まれてきた人間を、新生世界ではリンカーコアのある魔導師として転生させることも――可能。
それはまさに、ありとあらゆる欲望を叶える事が可能となる聖杯の如き魅力と驚愕が人々に知れ渡ってしまい……結果、我先にと願望器たる二人に詰め寄ろうとする群衆が誕生してしまった。
ダークネスはめんどくさそうに暴力で薙ぎ払ったが、いろんな意味でしがらみがある花梨は彼らを無下にすることも、かといって願いを総て受け入れることも出来ず……事態は混迷を極めた。
最終的に、世界改変の期日ギリギリまで直接的介入を禁じることで有耶無耶にしては見たものの、こうやって映像というわかりやすい方法で自分の主張を受け入れさせようと何かと手を打ってくる者が増えてしまった。
この番組だって、連日放送を繰り返すことで花梨やダークネスの目に少しでも出演者が留まるよう狙っているのかもしれないとはやてがぼやいていた。
彼女たち機動六課も、本来は古代遺産関係の事件対応を継続していた筈なのに、花梨たちの関係者だからと懇願書や会見依頼の連絡ばかり寄せられてしまう窓口のような形になりつつあるらしい。
慣れない電話対応に脳筋の気質がある前線部隊や隊長陣がてんやわんやの大騒ぎなのだそうだ。
「ま、そのお蔭で私に直接アポ取ろうとする輩がいなくなったのは助かってるけどね~。妹を防波堤にするのは、ちょっぴり気が引けるけど……」
それもあと少しの辛抱だろう。
期限は刻々と迫ってきている。
自分も答えを出さなくてはならない日が近い。
「ダーク……アンタはこの世界――どうしたいの?」
「ん? なる様になれじゃダメか?」
「ダメに決まってんでしょが」
リビングのソファーで愛娘とカードゲームに勤しんでいた龍神さんによる、ものすごい投げっぱなし発言に、花梨は襲いきた頭痛にこめかみを押さえる。
「罠仕掛けるよ~」
「了解、追い込みます。まずは片翼の部位破壊からということで」
「おっけぇ~」
ハムスターのようにせんべいをポリポリ齧りながらモンハンをピコピコやっているアリシュコンビといい、
「俺のターン、ドロー。……ふ、来たぞ、我が切り札。喰らえ、俺は俺……じゃない、“黄金龍神 だーくさん”を“黄金龍神2 だーくさんEX”に進化させ――」
「この瞬間、トラップ発動! 【おなかぽっこり、にゃのはさん】! “だーくさん”と名のつくキャラは、責任をとるためにヴィヴィオへコントロールが移ります♪」
「なん、だと……?」
とか、いろんな意味で生々しいネタ罠を喰らって、ガチで娘にへこまされているダークネスといい、そもそもコイツらなんで我が家でくつろいでんだと説教したい。
小一時間程度。
「てか、いつもいつも、どうやって入り込んでくるのよ。鍵締めてたわよ、私」
「ちょっと瞬間移動してみた。龍球リスペクト……と言えば良かったか?」
「無詠唱の空間転移を創ってみたんだよ~」
「吸血鬼的、霧変身を試したら何故かできたので。便利ですね概念魔法」
「気合いなのです!」
「こらこらこらこら。てか、最後の幼女! 気合いって何よ、気合いって!?」
「え? ん~……こう、『ちぇりおー!』 って空間殴ったら虚数空間への孔が開いちゃいまして。その中を泳いできましたっ!」
「……物理法則って言葉、知ってる?」
「常識は概念ごと書き換えるものだってダークパパが言ってましたっ」
「ダァクぅぅうううっ!」
「ちょ、フライパン振り回すな。てか、熱ッ!? 油! 油飛び散ってるから! なんで洗物終わったのに、こんなん残っている!? お前、さりげなく概念魔法使って創っただろ!?」
「非常識には非常識で対抗すればいいと悟ったのよ! てか、真面目に悩んでる空気を壊すなぁあああっ!?」
「「「「だが断る!」」」」
「ハモってんじゃないわよ、常識知らずのバカドラゴン一家ぁ!」
最近、自分も非常識の仲間入りを果たしている事に花梨だけは気づいていない。
ついでに、ご近所の奥様方の間に、「高町さん家の若奥様、妻嫁娘持ちの龍神さんをNTR?」 的噂話が広まっていることにも、当人は気づいていないのだった。
喫茶 翠屋ミッドチルダ支店。
新世の龍神や神に仕える守護天使候補が入り浸る喫茶店は、次元世界中の注目を詰める名店として名が広まっているそうな。
――◇◆◇――
新暦76年4月28日
あたたかな春の息吹が、復興を果たしたミッドチルダを吹き抜けていく。
この日、レリックを巡るスカリエッティ一派の起こした事件を発端とする騒乱を解決に導いた立役者、機動六課が一年間の試験運用期間を円満して解散する。
修復された六課隊舎の集合所では、前線・後衛メンバー全員が揃い、花梨や宗助と言った外部協力者も参加する解散会が行われていた。
「本日をもって、任務を終えた機動六課は解散となります。皆、ホンマにありがとう! スカさんのアホがヒャッハー! したのを発端にする
はやて一世一代の演説を遮る携帯端末の着信音が鳴り響いた。
訝しみ、眉根を寄せながらも無視するわけにもいかず、受信ボタンを押す。
「もしもし? 非通知設定でかけられた空気読めてないさんは、どこのどちらさんですか?」
『やあ、元気そうだね、八神 はやて君。管理局の留置所で拘束中な、スカリエッティさん
予想外すぎる人物からの直通に、はやての顔が大層愉快なコトになってしまった。
やたらとフレンドリーな犯罪者さんは、聞き手であるはずのはやてが硬直したことなど知った事じゃないと言う風に、スピーカー機能がONになった端末越しに、語り掛けてくる。
『久しぶりだね、機動六課諸君。ああ、どうして拘束されている筈の私が外部に連絡できるのか? と疑問に思うかもしれないが、それは私が無限の欲望だからと答えておこうか。所謂一つの、“スカリエッティの技術は次元世界一ィィイイイイイイイ!” という奴だね』
どんな表情をしているかわからないが、きっとものすごくイイ笑顔を浮かべている事だろう。
もしくは、腹が立つ程のドヤ顔であろうか。
輝く笑顔でサムズアップを決めるスカリエッティを脳裏にイメージしてしまった一同が、幻想を振り払うように激しく頭部をシェイクする。
「――は!? ジェ、ジェイル・スカリエッティ!? なんでアンタが私の連絡先をっ」
『ククク……甘い! スゥイートだよ、八神 はやて君! その程度の推理も出来ないようでは、昇進など夢のまた夢だね。そんな様だから、『機動六課は綺麗どころの集まりだけど、実際は脳筋の集まり。執務官あたりの成績がいいのは、調査力に優れている訳でなく、肉体言語でオハナシする時、たわわに揺れるデカメロンの誘惑に屈伏して投降する連中が多いからだ』などとゴシップ雑誌で突っ込まれてしまうのだよ。ああ、ちなみに君の連絡先も、雑誌にデカデカと掲載されていたよ? 囚人の精神を病まさないよう娯楽を提供してくれる看守の気配りは素晴らしいね』
――フェイト? 貴方まさか、そんなはしたない真似をしでかしたなんて言うつもりじゃありませんよね?
――り、リニス? 目が怖いよ? ハイライト的な光が消えちゃってるよ?
――ねえ、どうなんですか? ちょっと宿舎の裏で説明してもらいましょうか?
――目がっ!? 目が据わってるよ、リニスッ!? 虹彩が無くなってて、すごく怖いっ!?
未だ現界し続けているリニスの追及を受けて“あうあう”しているフェイトから視線を外したはやては、こめかみを揉みほぐしつつ、視線を端末に落とす。
とりあえず、いますぐ出版社に殴り込みかけそうな部下をバインドで押さえることから始めるべきか。
「……プライバシーっちゅう言葉を理解しとらん出版社への抗議はきっちりするとして――」
『ちなみに、袋とじのおまけは管理局美人魔導師のバリアジャケット展開シーン映像
「落ち着くんだ、はやてっ! 端末に罪は無いから! てか、100tハンマーとか、どっから取り出したんだよ!?」
「駄目ですよ、なのはさんっ!? 集束砲は! 室内で集束砲はシャレにならないですから!?」
「フェイトさ――うわぁああっ!? フェイトさんの顔が黄土色に!?」
「テスタロッサ式精神安定魔法です」
「それ唯のチョークスリーパーですよね!? 泡吹いてビクンビクン痙攣してるんですけど!?」
「大丈夫、問題ありません。この子の母親も時々暴走してしまいますが、こうやって『きゅっ』とオトせば大人しくなりますから。だからこの子も平気ですよ?」
「疑問符つけないでくださいっ!? 本当に大丈夫なんですかぁ!?」
「もちろん大じょ――おや? ひょっとして呼吸止まっちゃいましたか? ……てい、
「あぶはあっ!?」
秘義“リニスチョークスリーパー”で締め落されたり、掌底込みの電気ショック受けたりと忙しいフェイトさん。
愛される弄られ系ヒロイン街道を突っ走っている友人の姿に気が削がれたのか、はやてとなのはの動きが止まる。
人間、自分よりも不幸な他人を目の当りにしたら、冷静になれるものなのだ。
乱れた制服の裾を正したはやては、誤魔化すように咳払いしてから床に叩きつけていた端末を拾い上げる。
『ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ――おや? ようやく落ち着いたのかね?』
「やかましいわ。……で?」
『ふむ? で、とは?』
「誤魔化すなや。このタイミングで連絡してきた目的を言えっちゅうとるんや。まさか嫌がらせのためだけにこんな真似しでかしたとは言わんよな?」
『もちろんだよ。最終戦争から昨日まで、世界は存在し続けられた……だが、平穏な日々も今日で終幕を迎えるのだろう? だったら、この世界に生きる一人の人間として、世界の行く末を知っておきたいと思ってね。――高町 花梨君。君と『彼』がどのような『決断』をくだすのか……叶う事ならこの目で確かめさせてくれまいか』
端末に写り込んだ拘束服を纏ったスカリエッティの表情は真剣そのもの。
決戦の際、総ての人々が“儀式”と“参加者”のことを知ってしまったことで、改竄されていた筈の消滅した“参加者”の記憶が蘇った。
ルビーの事を覚えているスカリエッティは、科学者として、彼女の兄として、“儀式”が行きつく先を見届けたいと願い、このような手段に興じたのだ。
スカリエッティの視線をなぞる様に、はやての、なのはの、フェイトの、六課メンバーやモニター越しに参加していたクロノやリンディたちの視線までもが壁に背を預けているウェイトレス姿の女性……高町 花梨に向けられた。
「まあ、私がやらなきゃいけないことではあるんだけどねソレ」
呆れを多分に含んだ口調の花梨は、なにも無い筈の真横の空間に視線を向けながら一言。
「けど、アンタの協力も必要なワケで。この娘たちをからかうのも大概にしときなさいよ、
「ふむ。結局、全員が気づけないというのはどうなんだ? 現役の魔導師的な意味で」
「未熟者ってたたっ斬る訳にもいかないでしょーが。《神》の魔力とか戦闘力は、一般人に感じとれないんじゃなかった?」
六課メンバーが愕然と眼を剥く中、花梨が視線を向けていた先の空間が揺らめき、たゆたい、幻影のように大気が揺らめいてソレが出現した。
大人数用の特性ビーチチェアとパラソル。
足の長いおしゃれな円形テーブルには南国産の鮮やかな花が活けられた花瓶が置かれ、携帯端末からは耳を擽るさざ波の音が流れている。
ビーチチェアに寝そべるのは南国風の衣装に身を包んだ、ご存じ、”さいきょ~ドラゴン一家”。
チェアの真ん中に寝転がっているのは、アロハシャツにサーフパンツという季節感を先取りし過ぎた格好のダークネス。
愛用の眼帯を着け、額にサングラスを引っかけているという珍妙なファッションの癖に、思わず平伏したくなるような存在感を醸し出している。
まさに、《神》サマオーラの無駄遣いである。
彼の両脇で寄り添うように寝転がっているのは、アリシアとシュテル。
ノースリーブのシャツとホットパンツという健康的なアリシアに、チュニックとスリットの入ったカットスカートというコーディネイトのシュテル。
ダークネスへしな垂れる様に抱き着いているものだから、無防備な魔女の脇下とか、スリットから覗く天女の脚線美などが顕わになってしまっている。
おまけに、ダークネスの腹部にはうつ伏せになったヴィヴィオが乗っかり、無邪気に足をパタパタさせていた。
フリルとリボンがあしらわれたサマーワンピースという格好なので、脚の動きに煽られてスカートかふわりと舞い上がる。
可愛らしさと美しさのコントラストは、芸術にも匹敵する魅力を立ち昇らせていた。
さりげない風を装っているものの、男衆の視線が釘付けだ。
例外は、アギトに頭を噛みつかれながらそっぽを向いたザフィーラくらいだろうか。
その他男連中へ向ける女性陣の視線が凄く冷たくなっている。
「…………ダーク? いい加減、真面目にやるつもりないの?」
と、いい感じに混沌と化した空気を祓うように、平然といちゃつくダークネスへ花梨の雷が落ちた。
「む。そんなつもりは無かったんだが……」
「頭大丈夫?」
即答で頭の心配をする花梨。強大な敵に協力して立ち向かったことで、遠慮が無くなったようだ。
「失敬な。これは、部隊の解散当日という油断があるにせよ、立場的に敵対関係にある者が堂々と侵入しているのに気づかないマヌケに警告の意味も兼ねたドッキリを仕組んでやろうという遊び心だ。そもそも、これだけ雁首揃えておきながら、気づいたのが花梨だけというのはどうなんだ? 後は、契約のラインを逆探知して違和感を感じていた様子の
言外に「気づかなかったお前らが未熟だったんだ」という指摘を受けて、バツが悪そうに顔を伏せる一同。
やってる事はアレだが、言ってる事はあながち間違っていないので強く言えない様子。
ダークネスは、はやてたちをからかって満足したらしく、肩の凝りを解すようにストレッチしながら腰を上げた。
先程までの緩い空気とはうって変わり、重力の牢獄に叩き落されたかのような圧倒的威圧感を放ちつつ、左の掌に右の拳を叩きつける。
「さて、からかうのも満足した。それじゃあ、そろそろ……
「……そうね。場所は外の訓練場でいいかしら?」
「ああ。ルールは初撃決着の決闘方式で良かったな?」
「ええ。それじゃ、白黒きっちりつけましょうか」
これこそ、ダークネスがこの場に現れた理由。
『創世魔法』の発動によって、“儀式”は真の意味で終わりを迎える。
ならば、そうなる前に、決着をつけようと約束を交わしていたのだ。
以前のように、生命を奪い合う殺し合いではない。
互いの力量と想いの強さに優劣を決める、純粋な競い合いを。
完全に置いてきぼりな周囲に見向きもせず、外へ向かっていった二人の後を慌てて追いかけるはやてたち。
事情を知っているらしいアリシアたちに説明を求める声が上がるものの、当人たちは微笑みながら「行けばわかる」の一点ばり。
話すつもりが皆無なのを悟り、状況に流されているのを自覚しながらも、駆け足で二人の後を追う。
普段は森や市街地という実践的な戦闘空間が展開されている筈の訓練場は、日本の春を連想させる桜の咲き誇る景観なる風景へと変貌を遂げていた。
本来ならば、選別として隊長陣VSフォワード陣の模擬戦を行う予定だったこの場所は、現在、世界の命運を決める最終決戦の武闘場と化していた。
数メートルの距離を開けて相対する『勝者』の『二人』。
“儀式”を勝ち残り、【ルール】を改変していた元凶を討滅したことで《神》に属する者として真なる覚醒を果たした者たち。
世界を新生させる手段は手に入れた。もう、世界消滅の心配はない……。
だが、幾度となくぶつけ合ってきた想いと信念を未決着のまま流すつもりも毛頭ない。
どちらが正しいかとか、人々の願いを叶えるにはどんな選択をすべきかとか、細かい理由はこの際置いておく。
ただ――決着を望む。
故に、花梨はダークネスと相談して、世界新生を行う日時を今日に定めた。
そう……総てに決着をつける刻は、機動六課が解散し、成長した雛鳥たちが新たな未来に向かって巣立っていく今日こそが相応しいと考えたから。
「準備は万端、と……いつでもいいぞ」
《新世黄金神》に神化し、『
「私も準備OKよ」
気負いを感じさせない余裕ある態度で応える花梨。
その身には最終決戦で纏った《フォートレス・ゼロ》を装備し、改良によって自立機動兵装を単独で運用できるようになった武装を展開している。
武装のスキャンを終えた【ルミナスハート】にねぎらいの言葉を送りながら、拳を作った右の指の間に挟む様に顕現させた蒼炎の剣と、左に構えた魔槍の特性を得て変容した【デバイス】を交叉させるように構え、前傾に身体を倒す。
そして――、
お互い視線を外さない両者の間でぶつかり合う闘気が風を呼び、空間を軋ませるような威圧感が広がっていく。
ホログラムを生成している器具が怯える様に軋みをあげ、絢爛な風景にノイズが奔る。
臨界まで高まった戦意に圧倒された周囲が息を呑んだことすら意識の外へ追いやり、獰猛な笑みを浮かべたダークネスが言い放つ。
「往くぞ、花梨! お前を倒して、完全勝利の華を添えさせてもらおうか!」
「それは無理な相談ね! 私に一生、頭が上がらなくなるくらいボコにしてやるから、覚悟しなさい!」
幻想的な桜の舞う舞台で、楽しそうに笑う龍神と戦乙女による最終決戦の火ぶたが切り落とされた。
という訳で、ラストバトルは『ダークネスvs花梨』となりました。
ルールはSAOの決闘ルールと同じ、有効打を一発入れた方の勝ちという試合形式。
ただし、世界をぶっ壊すような大技は封印してという安全使用。
次回は決着とそれぞれのエピローグで〆……かな?