マシュより先に合流したけどマシュより弱いセイバーさん(実質嫁) 作:セイバーさん
「よし、日本史の授業を始めて行こう。今日は……ふむ、中世日本、それも平安時代後期の移り変わりについて、だな」
○○先生の声が響いている。
「じゃあまずは、その時の有名人についてだが……○○、どんな奴がいる?」
「平氏とか源氏じゃないっすか?」
「まあそうだ、ざっくりと言うならその分類になる」
「平安時代の終わりってのは、丸々そのまま、大きな争いの時代、その一つの終わりを意味してる。この後鎌倉幕府が創建されて、一応ちょっとは平和な時代が続くんだからな」
俺は……すごく、ぼんやりとした気持ちで聞いている。
なんだろう、すごく既視感がある。
「その時の著名な人物をおおまかに挙げていくと……ほい、○○○、源氏の有名人は?」
「えーっ!? ……頼朝とか義経じゃね?」
「そうそう、すっごく知られてるってなると他にも木曽義仲とかいるんだが……まぁその辺だよな」
「じゃあ○○、平氏の有名人は誰か知ってるか?」
「……」
平氏。
清盛って人とか、怨霊の人の一族だったかな?
「清盛と……あ、将門!」
「清盛は正解だが将門はちょっと違うな。平将門は平安時代中期に活躍した平氏一族だ、三大怨霊としても有名か」
「他には?」
「えぇー……あっ、アツモリィ!」
「絶対違う方思い浮かべてるがまぁその通り、ありがとな」
平敦盛といえば……あれ、何だっけ。
「実は、今挙げられた6人の武士達には1人だけ仲間外れがいるんだが」
「……藤丸、答えられるか?」
「えっ」
先生に当てられてしまった。
な、仲間外れ……えっ誰?
「流石に意地の悪い質問だった、すまんな」
「いえ」
「正解は、平敦盛だ。彼にだけ明確な情報がない」
「えっでもセンセー、誰かが踊ったっての聞いたことありますよー」
「ああ、織田信長が出陣前に舞ったとされる幸若舞のことだな」
「んー、明確な情報がない、というのも正解じゃないな。正しくは『中身がほとんどない』だ」
「中身が、ない?」
それって、どう言う。
「彼自身の情報として、笛の名手だったことなんかがあるんだが。ま、それだけでな」
「どんな人柄だったのか、どういう人生を送ったのかがわからない。初陣にして死に際だけが有名となった薄命の少年……それが、平敦盛だ」
「……そりゃあ他の武将もどんな人だったかわからないってのは当てはまるんだが、それなりの人生の積み重ねや残した言葉なんかからある程度予測ができる」
「それって、敦盛って人にも言えますよね?」
そうだ。
セイバーさんにだって死に際から読み取れることが……。
「たった1回から、か?」
「え?」
「平敦盛は実はすっごい臆病だったかもしれない、でも初陣だからと頑張った結果、気丈に振る舞う美少年として語り継がれたのかもしれない」
「だから、別に他の人にも言えるじゃん!」
「そうだ。彼のイタリアのナポレオン・ボナパルトにすら、本当は背が小さいんじゃないかという噂話が立っているからな」
「でも、そう言う噂が出る暇がなかったんだよ、この無官大夫には」
「……」
「これが歴史の面白さの1つでもあるんだ」
「たった1回で、後世に伝わるその人のイメージが激変する。それが、事実でなかったとしても」
「お前らの知ってる武将やら偉人も、最近じゃ女の子になってたりするんだろ?」
「織田信長って聞いてそっちの方が浮かぶ現代っ子だって少なくねぇ筈だ」
「それは日本が特殊なだけでーす」
「はっはっは! ぶっちゃけたなぁ! ……ま、そう言うことさ」
「織田信長みたいな偉人が、現代で女の子にされるだけでそのイメージが定着する様に」
「平敦盛は死に際は有名でそれなりに名前が知られる武将でありながら、その実態はほとんど何も知られていない。中身の空っぽさなら足軽と変わらん」
「知名度の高さの由来のほとんどは、彼をモチーフにして描かれた創作物が元になってるな、偉人のこう言う例は他にも 」
「空っぽ……」
じゃあ、今いるセイバーさんって。
……本当に、
オベロンみたいに猫被ってる? ナポレオンみたいにイメージが具現化した?
……いや、セイバーさんはセイバーさんだ。
それよりも、気になるのは……。
「どうして、今さらこんな夢を見たんだろう」
カルデアに来る前の、授業の風景。
確かに俺は、先生からこんな風に解説された覚えがある。
……これは日本史の授業というか、ただ先生が話したいことを話してるってだけだったけど。
「はてさて、どうしたものでしょうか」
主に嫌われていないというのには、私も悪い気はしていないのですが。
好かれ過ぎると言うのには、些か困らされると言うもの。
「痴情がもつれたとしても良いことがないと言うのもそうなのですが」
受けた好意を、私では返すことが叶わないというのも、その。
いえ、私も生娘という程ではないのですが、はい。
「え、敦盛ちゃんって奥さんいなかったっけ」
「玉織様とは、清盛おじさまの計らいによって出会った仲でして」
何故こんな話をしているのかと言えば、
まあ、そこからは容易なもので主との関係を問われまして。
「ははぁ、あんまりやきもきとかしなかった訳だ」
「まあ、夫婦と申しましても私は便宜上、性別を偽った上でしたから、通常の関係とは似ても似つかないものであったと記憶しておりますよ」
「ほーん、そっかー」
……恋バナとはこれで正解なのでしょうか。
生前からその様な関係には恵まれなかった故、むず痒いというのが本音ですけれど。
「とにかく、私にはそういう思惑はございません」
「私には?」
「……主はお優しい方ですから」
「ほうほう」
私としてはマシュ殿と良い仲になって欲しいところなのですが。
今を生きる者こそ宝ですよ、真っ白な世の中ですし。
「んー、敦盛ちゃんてば良い子過ぎねー?」
「はい?」
「そんなんでよくあの時代生き延びたのーう。清盛っちの教育の賜物かね?」
「おじさまには良くして頂きましたが……」
「まあそういうのはさ、敦盛ちゃんの後悔がない様にするべきなんよ」
「後悔ですか」
「うん、あたしちゃんはー……ま、燃え尽きるくらいにはやり切ったかんね! 敦盛ちゃんも後であたしちゃんみたいに振る舞える様に生きるべきじゃーん!」
「後悔、先に立たずって言うからね」
「……成程」