何度目の   作:水瀬りんご

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プロローグ

目を覚ますと、天井が見えた。

 

白くて、無機質な、見慣れた天井。カーテンの隙間から差し込む朝の光が、規則正しく揺れている。

 

「……また、月曜日か」

 

呟いた声が、静かに空気を振るわせた。

 

スマホの画面には、日付と時刻がしっかりと表示されている。4月24日(月)午前6時45分。何度も見た日付。何度も目覚めた朝。

 

俺はこの一週間を、もう何十回も繰り返している。

 

最初はただの悪夢だと思った。

次に、何かの冗談かと思った。

そして今は、それが“現実”であることを、認めざるを得なくなっている。

 

繰り返される一週間。月曜日の朝に始まり、日曜日の夜に終わる。そして、気づけばまたベッドの上で目を覚ましている。あの天井を見上げながら。

 

最初の頃は、怖かった。なぜこんなことが起こるのか分からず、世界から取り残された気がして、毎朝が恐怖だった。

 

けれど、もう慣れた。慣れてしまった。

 

この世界で変わるのは俺だけだ。俺の記憶だけが蓄積され、俺の感情だけが生き残る。

 

他のみんなは、毎週“初対面”のように俺に接する。

 

家族も、友人も、教師も。

 

何かを変えようとしても、それは泡のように消えていく。努力も、言葉も、すべてが“なかったこと”になる。

 

一度だけ、本気で誰かに打ち明けようとしたことがあった。けれど翌週には、その人は何も覚えていなかった。

 

期待は裏切られる。信頼は裏切られる。だから、俺は人と深く関わるのをやめた。

 

この世界は、俺だけの独白でできている。誰にも届かないモノローグ。

 

こんなにも静かなのに、こんなにも騒がしい。

 

それでも、俺は繰り返す。

 

──何の意味もなく。

 

まるで、神に試されているかのような、永遠の教室劇。

 

繰り返す日々に飽きたわけではない。

絶望したわけでもない。

 

ただ、俺は“その先”を知らないだけだった。

 

ある日、図書室の窓際で陽の光を浴びながら、ふと思った。

 

「この繰り返しが、永遠だったらどうする?」

 

問いかける相手はいない。

 

だが、その問いは自分の心を貫いた。

 

永遠に終わらない、たった一週間。

何を積み上げても消えていく、空白の記録。

 

誰かと仲良くなっても、次の月曜日にはすべて消える。

 

好意も、信頼も、微笑みも、何一つ届かない。

 

それでも、俺は諦めきれなかった。

 

……この世界のどこかに、“自分の言葉”が残せる場所はないのか。

 

もしも、誰か一人だけでも、この現実を共有できるなら。

 

そんな奇跡を──ほんの少しだけ信じていた。

 

だから俺は、次の月曜日を迎えるたび、目を凝らして探すのだ。

 

この世界に、“誰かの気配”を。

 

それが幻想でも、偶然でも、錯覚でも構わない。

 

たとえ、それが一瞬の奇跡でも。

 

──これは、そんな俺の“青春”の話だ。

 

そして、どこにも逃げ場のない“俺の現実”の話だ。

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