ユウが姿を消してから、二度目のループが始まった。
起きた瞬間、俺はまたしても“同じ月曜日”に戻っていることを確認する。だけど、微かに違う。
目覚ましの秒針が、なぜか動いていなかった。
それでも時間は流れていた。台所から聞こえる母親の声、いつもより少しだけ高いテンションの朝のニュースキャスター。そのすべてが、薄皮一枚ずつ“変わっている”気がした。
学校に着いた瞬間、俺の背筋は凍った。
教室の黒板には、こう書かれていた。
『正解は、どこにもない。』
それはユウの字ではなかった。癖のある丸文字。少し力の抜けたタッチ。
俺以外に、記憶を持った第三の存在が現れたのか?
記録ノートの余白にその文字を写し取りながら、俺はふと視線を上げた。
視線の先、教室の一番後ろの席。誰もいないはずのそこに、見知らぬ女子生徒が座っていた。
いや──“初めて見る”はずなのに、妙な既視感がある。
「……転校生?」
そう呟いた俺の声は、誰にも届かなかった。いや、誰も反応しなかった。まるでその生徒が“存在していない”かのように。
放課後、俺はそっと後をつけた。女子は誰とも言葉を交わさず、旧校舎の階段を上っていく。
──あの図書準備室へ。
扉の前に立つ彼女に、俺は声をかけようとして──やめた。
彼女は、ドアに手をかけたまま、呟いたのだ。
「見ているんでしょ、アキラくん」
凍りついた。
心臓が跳ね、全身の血が逆流するような感覚。
「……誰だ、あんた」
扉が開き、微かな風が吹き抜けた。
中には誰もいなかった。
そして彼女も、影のようにふっと消えていた。
その夜、俺は記録ノートに震える手でこう書いた。
『存在の揺らぎが、実体化しつつある』
誰かが、確実に“この世界”に干渉している。俺やユウのように記憶を持ち、観測し、選ぼうとしている。
そして、その存在は俺に対して“問い”を投げかけてきた。
正解は、どこにもない。
ならば、俺は何を選べばいい?
何を信じ、何を守ればいい?
翌朝、ノートのページをめくると、書いた覚えのない文章があった。
『選べ、アキラ。間違ってもいい。止まるな』
誰が書いた? 彼女か? ユウか? それとも俺自身か?
分からない。
けれど、次のループが始まる前に、何かを選ばなければならない。
“崩壊”は始まっている。
この世界の基盤は、今、ゆっくりと音もなく傾いている。
——俺が、止めなきゃならない。
……
翌日も、また月曜日だった。
だが、廊下の掲示板の一枚が破れていた。焼却炉の前に落ちていたプリントには、明らかに俺の筆跡で“未来の出来事”がメモされていた。しかも、その内容が──現実の出来事と一致している。
このループの中で、俺はすでに“未来を書き換えている”……?
いや、もしかすると誰かが俺の記録をコピーして、それを現実に影響させている。
影は、確実に近づいてきていた。
その夜、またノートに文字が現れる。
『正解を選ぶな。選んで進め』
言葉の主は、俺の中のもうひとりの“俺”なのか。それとも、まだ見ぬ第3の目覚めた者か。
黒板にあった“丸文字”の主──あの女子生徒。
彼女が何者なのかはわからない。
だけど、彼女がユウとは違う種類の“観測者”であるのは間違いない。
記録ノートの表紙に、俺はひとこと書いた。
『観測される俺から、選ぶ俺へ』
ループは止まらない。
でも、止まらないからこそ、俺は“進める”。
いつか、終わらせるために。